科研費 - 豊國 伸哉
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長時間心保存を期待したトレハロースの虚血再潅流障害防止作用に関する研究
研究課題/研究課題番号:13671383 2001年 - 2002年
植山 浩二
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
1 トレハロースの指摘濃度の検討と再灌流障害の免疫病理学的検討。
[方法]SDラット摘出心にたいして灌流法は20分の準備灌流後に上記の液用いて心停止。以後30分に一回追加しながら90虚血とし再灌流する。再灌流後の左心機能を収縮末期圧容積関係(ESPVR)と拡張末期圧容積関係(EDPVR)にて評価した。この際灌流液または灌流血液を肺動脈より採取し生化学的検査(CK・MBなど)を行うとともに心筋標本採取。8-0HdG免疫染色と高速液体クロマトグラフィーにて定量した。
[結果]1心筋保護効果の検討;グループA:セントトーマス液、グループB:3%トレハロース付加セントトーマス液の2群で比較検討した。(心収縮能の検討)再灌流後5分における収縮末期圧容量関係にて評価した。その結果トレハロース3%入りのセントトーマス液の方が収縮能をより保つことが示された。(心筋浮腫の程度に関する検討)心筋の浮腫を還流後の心筋重量増加率で比較した。結果トレハロース付加群で有為に浮腫を軽減した。また病理学的な細胞浮腫の検討でもトレハロース付加群で細胞浮腫の軽減される傾向を示した。以上のことからトレハロースは心筋保護液に付加する物質として有用である。
2 至適濃度の検討
4%の溶液においてその浸透圧は420前後と高く3%で380前後2%で340前後となる。この点から濃度は2%?3%が至適と考えられた。
3 保護にかんする作用機序の検討
1で得たサンプルにTUNEL法を用いてapoptosisを検討した。トレハロース群で有為にapoptosisが軽減した。
4 他の添加薬剤の検討
PARS inhibitorである3ABについて同様に検討。心収縮能に関して有効な結果を得た。 -
呼吸器外科手術における再灌流障害の予防と治療
1999年4月 - 2002年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B) 研究種目コード:310 11470270
和田 洋巳
担当区分:研究分担者
これまでのラットex vivo実験により、selectin blocker(KB-R9188改めOJ-R9188)が肺温虚血再潅流傷害を軽減することが明らかになったが、本年度はその作用機序を明らかにすべく、検討を行った。
1、Myeloperoxidase(MPO)活性の測定
ラットex vivo実験から得られた再潅流後肺の一部を用い、白血球組織浸潤の指標となるMPO活性を測定した。しかしその結果は、selectin blocker投与群、非投与群間に有意差を認めなかった。
2、抗酸化作用機序の検討
(1)直接的抗酸化作用
Electron Spin Resonance(ESR)法を用い、OJ-R9188がhydroxyl radicalやsuperoxideに対するradical scavengerとして作用するか否かを検討した。実際には、種々の濃度のOJ-R9188にspin trapping試薬を添加し、ESR spectrometerで抗酸化作用を測定した。
その結果、OJ-R9188に直接的抗酸化作用は認められなかった。
(2)一酸化窒素(NO)を介した抗酸化作用
ラットex vivo実験から得られた再潅流後肺の一部を摘出し、ピクリン酸で固定後スライド標本を作製した。ABC法に準じて3-nitro-L-tyrosine(3-NT)に対するポリクロナル抗体を用い、免疫染色を行い、評価した。その結果、selectin blocker投与群では非投与群に比し、NOを介した酸化傷害を軽減することが示された。 -
呼吸器外科手術における再灌流傷害の予防と治療
研究課題/研究課題番号:11470270 1999年 - 2001年
和田 洋巳
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
1、温虚血再潅流傷害に対するselectin blocker (OJ-R9188)の検討 (1)ラットの心肺ブロックを摘出し、37℃90分間の温虚血後ex vivo再潅流モデルにて再潅流を60分間行った。OJ-R9188投与群は、非投与郡に比べ、酸素化能などにおいて良好な肺機能がみられた。
(2)再潅流後肺を用い、白血球組織浸潤の指標となるMyeloperoxidase(MPO)活性を測定したが、両群間に有意さを認めなかった。
(3)再潅流後肺を用い、酸化ストレスにより産生されるDNA塩基産物8-hydroxy-2'-deoxyguanosineに対するモノクロナル抗体で免疫染色を行い、コンピューターにて定量解析したところ、OJ-R9188投与群は、非投与群に比べ、DNA酸化傷害を軽減することが示された。また、一酸化窒素(NO)を介した酸化ストレスにより産生されるタンパク修飾産物3-nitro-L-tyrosineに対するポリクロナル抗体で免疫染色したところ、OJ-R9188投与群は、非投与群に比べ、NOを介した酸化傷害を軽減することが示された。
(4)Electron Spin Resonance法を用いた解析では、OJ-R9188に直接的抗酸化作用は認められなかった。
以上のことから、OJ-R9188により肺温虚血再潅流傷害が軽減され、その機序の一つとして酸化ストレスの抑制が示された。
2、温虚血再潅流傷害に対するselectin blocker (OJ-R9545)の検討 ウサギin vivo再潅流モデル(37℃、110分間虚血、90分間再潅流)においてOJ-R9545の効果を評価した。OJ-R9545投与群は、非投与群に比べ良好な酸素化能を示し、MPO活性は低値を示した。すなわち、OJ-R9545じゃ白血球の組織浸潤を抑制し、温虚血再潅流傷害を抑制した。 -
ABO血液型不適合移植における移植肝障害の病理学
1998年4月 - 2000年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究種目コード:320 10670157
山邉 博彦
担当区分:研究分担者
本研究はABO血液型不適合移植後に発生する肝機能障害の病理学的特徴を解明することを目的とする。京大病院において平成2年6月から平成8年3月の5年9カ月間にタクロリムス免疫抑制下に行った血縁者間生体部分肝移植移植213例中ABO血液型不適合移植症例29例の結果は昨年報告した。
本年はその後平成8年4月から平成10年末までの2年9ヶ月間に移植された210例のうちのABO血液型不適合移植症例24例について、移植後の肝機能障害時の病理組織学的検討を行い以下の結果を得た。(1)超急性拒絶反応は見られなかった。(2)急性細胞性拒絶反応は54%の症例(13症例)に見られた。(3)慢性拒絶反応の症例はなかった。(4)胆管炎は42%の症例(10例)に見られた。(5)死亡例9例のうち剖検を行った3例ではいずれも循環障害による肝障害が見られた。また、再移植例2例の摘出肝では1例で肝動脈血栓症が、他の1例では肝動脈血栓症を原因とすると考えられる慢性胆管障害が見られた。(6)移植前後の抗血液型抗体価と胆管障害および死亡・再移植との関連が見られた。
この両年度の結果を総合すると、ABO血液型不適合肝移植においては液性拒絶反応に特有とされる超急性拒絶反応は見られなかったが、特に抗血液型抗体価の高い症例において剖検肝、再移植時摘出肝および肝生検において刊循環障害あるいは胆管障害(慢性胆管炎)がしばしば見られ、また生検で胆管炎がABO血液型適合または一致症例にくらべて高頻度に見られた。
これらの所見からこの肝循環障害と胆管障害がABO血液型不適合肝移植に特有な障害と考えられ、その組織発生としては、まず血管内皮を標的とする抗原抗体反応性の血管障害が起こり、その結果胆管に虚血を生じて虚血性胆管炎を招来すると推測された。なお、急性拒絶反応もABO血液型適合または一致症例にくらべて高頻度に見られた。 -
ABO血液型不適合移植における移植肝障害の病理学
研究課題/研究課題番号:10670157 1998年 - 1999年
山邉 博彦
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
平成2年6月から平成10年12月末までの8年7ヶ月間にタクロリムス免疫抑制下に行った血縁者間の生体部分肝移植423例(412患者)のうちのABO血液型不適合移植症例53例(51患者)について、移植後の肝機能障害時の病理組織学的検討を行い以下の結果を得た。
(1)超急性拒絶反応は見られなかったが、症例の7%に肝動脈血栓症が、38%に急性/慢性胆管炎が、59%に急性細胞拒絶反応が、2%に慢性拒絶反応が、2%に臓器保存・再灌流障害が、25%に急性肝炎が、8%に慢性肝炎が、6%に移植後リンパ増殖性疾患がそれぞれ見られた。(2)肝動脈血栓症、急性/慢性胆管炎および急性細胞性拒絶反応の頻度はABO血液型一致または適合移植症例に比較して高かった。(3)肝動脈血栓症および急性/慢性胆管炎は移植前後の抗血液型抗体価の高い症例に高頻度に発生したが、急性細胞性拒絶反応では抗血液型抗体価との関連は見られなかった。(4)移植後41.5%(22例)において患者が死亡し、あるいは移植肝の機能廃絶して再移植を受けた。この頻度はABO血液型一致または適合移植症例に比較して高かった。主な原因は、肝動脈血栓症と急性/慢性胆管炎であった。(5)移植後肝機能廃絶摘出肝の病理組織学的解析にて、これらに見られる急性/慢性胆管炎は肝動脈血栓を背景として生ずる二次的な虚血性胆管炎であると考えられた。
以上のデータから、ABO血液型不適合血縁間生体部分肝移植においては、血管内皮と標的とする抗血液型抗体による抗原抗体反応によって肝動脈血栓症がしばしば発生し、そのため二次的に肝動脈の血流に支配されている胆管に虚血性胆管傷害をきたして急性/慢性胆管炎を高頻度に合併し、移植肝の機能廃絶の原因となることが示された。急性拒絶反応も高頻度にみられたが、これは液性反応と無関係であると考えられた。 -
活性酸素のエフェクター分子の固定とその生物学的意義の追求
1997年4月 - 2000年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究種目コード:320 09670223
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者
鉄ニトリロ三酢酸による腎尿細管傷害・腎発がんのモデルは1982年に当教室で開発されたモデルであり、腎近位尿細管でFenton-like reactionを引き起こす。酸化ストレスの形態学的評価のためには、フリーラジカル反応によるcovalentな修飾を受けた分子に対する抗体を作製するというストラテジーが適切と考え、まず、生体内においてはどのような修飾分子の増加率が高いかを検討した。上記モデルにおいては、DNA修飾塩基として8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)、アルデヒド化合物として4-hydroxy-2-nonenal(HNE)の増加率が最も高いことを見いだした。アルデヒド化合物はフリーの状態でいると、疎水性でありパラフィン包埋の過程で流出し失われてしまう。アルデヒド化合物が蛋白のアミノ酸残基と反応しマイケル反応産物を形成するという化学反応の解明が、抗体作成の過程で重要であった。名古屋大学大学院生命農学研究科、日本老化制御研究所と共同で、上記のエピトープに対するポリクローナル・モノクローナル抗体を作製あるいは評価を行った。そして、幸運にもこれらの抗体は通常のパラフィン包埋の病理標本で使用可能であることが判明した。
上記鉄ニトリロ三酢酸のモデルだけではなく、糖尿病(Goto-Kakizakiラット)、虚血・再灌流モデル(肺、肝、皮弁)、砒素中毒症、大腸癌、C型肝炎、アルコール性肝炎などにおいて酸化ストレスが関与していることを証明した。特に、糖尿病の膵ランゲルハンス島における酸化ストレスの評価は本手法により初めて可能となったものであり意義深い。 -
多因子遺伝病の研究・宿主モディファイヤー遺伝子の探求
1997年4月 - 2000年3月
科学研究費補助金 基盤研究(A) 研究種目コード:300 豊國 伸哉 (トヨクニ シンヤ) 京都大学・大学
日合 弘
担当区分:研究分担者
これまで取り組んできた仕事の多くで著明な進展がみられた。(1)リンパ腫好発系SL/Khマウスの骨髄Pre-B細胞の一過性増殖は第3染色体上のQTLであるBomb1(Lef1)によることが示された。(2)リンパ腫DNAへのウイルス組込みホットスポットの多くがクローニングされ、Bomb1によるリンパ球分化異常とリンパ腫発生機構の関連に大きな手がかりが得られた。(3)4NQO誘発ラット舌癌については感受性に関与する5つの宿主遺伝子座をマップし遺伝様式を解明した。(4)化学発癌剤抵抗性DRHラットの肝発癌モデルで前癌病変であるGST-P陽性フォーカスの遺伝支配を研究し第1、第4染色体に高度に有意な座位をマップした。(5)遺伝的カタラクトRLCについては責任遺伝子マップ位置からPYK2が候補遺伝子で、RLCレンズで正常マウスを免疫するとPYK2のN端異常ペプチドに対する抗体が作られた。cDNA,genomic DNAについて、遺伝子構造を解析中。(6)NCTカタラクトはNa/Kpumpに対する内因性抑制ペプチドの形成により発生する。1000頭の戻し交配系を解析し、マップ位置からBAC contingを作製中である。カタラクトのタイプ(pin head or diffuse)を決めるmodifier geneを第10染色体にマップした。この位置にNa/K pumpの一部がマップされていた。(7)PNUによるラット白血病の病型決定機構を解析するためF344とLE/Stmの間で育成されたRl系について、白血病を誘発して遺伝解析を行い、数個のQTLが関与している可能性を示した。これら一連の研究から内在性レトロウイルス、化学発癌剤、遺伝的変異による疾患も多くは多因子の宿主修飾遺伝子の影響を受け、発病の有無、重篤度、病型などが決定されることを示した。一部のものについては分子生物学的な理解に肉迫している。
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多因子遺伝病の研究・宿主モディファイヤー遺伝子の探求
研究課題/研究課題番号:09307004 1997年 - 1999年
日合 弘
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
本助成金を受けて、計画の大部分を達成するとともに、著明な進展がみられた。(1)リンパ腫好発系 SL/Khマウスの骨髄Pre-B細胞の一過性増殖は第3染色体上のQTLであるBomb1(Lef1)によることが示された。(2)リンパ腫DNAへのウイルス組込みホットスポットの多くがクローニングされ、Bomb1によるリンパ球分化異常とリンパ腫発生機構の関連に大きな手がかりが得られた。(3)4NQO誘発ラット舌癌については感受性に関与する5つの宿主遺伝子座をマップし遺伝様式を解明した。(4)化学発癌剤抵抗性DRHラットの肝発癌モデルで前癌病変であるGST-P陽性フォーカスの遺伝支配を研究し第1、第4染色体に高度に有意な座位をマップした。(5)遺伝的カタラクトRLCについては責任遺伝子マップ位置からPYK2が候補遺伝子で、RLCレンズで正常マウスを免疫するとPYK2のN端異常ペプチドに対する抗体が作られた。cDNA、genomicDNAについて、遺伝子構造を解析中。(6)NCTカタラクトはNa/K pumpに対する内因性抑制ペプチドの形成により発生する。1000頭の戻し交配系を解析し、マップ位置からBAC contigを作製中である。カタラクトのタイプ(pin head or diffuse)を決めるmodifier geneを第10染色体にマップした。この位置にNa/K pumpの一部がマップされていた。(7)PNUによるラット白血病の病型決定機構を解析するためF344とLE/Stmの間で育成されたRI系について、白血病を誘発して遺伝解析を行い、数個のQTLが関与している可能性を示した。これら一連の研究から内在性レトロウイルス、化学発癌剤、遺伝的変異による疾患も多くは多因子の宿主修飾遺伝子の影響を受け、発病の有無、重篤度、病型などが決定されることを示した。一部のものについては分子生物学的な理解に肉迫している。
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活性酸素のエフェクター分子の同定とその生物学的意義の追究
研究課題/研究課題番号:09670223 1997年 - 1999年
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:3800000円 ( 直接経費:3800000円 )
酸化ストレスの形態学的評価にはフリーラジカル反応によるcovalentな修復を受けた分子に対する抗体を作製するストラテジーが適切と考え、生体内においてどのような修飾分子の増加率が高いかを検討した。鉄ニトリロ三酢酸による腎尿細管傷害・腎発がんのモデルでは、腎近位尿細管でFenton-like reactionが発生する。上記モデルにおいて、DNA修飾塩基として8-hydroxy-2^'-deoxyguanosine(8-OHdG)、アルデヒド化合物として4-hydroxy-2-nanenal(HNE)の増加率が最も高いことを見いだした。アルデヒド化合物はフリーの状態では疎水性があり、パラフィン包埋の過程で流出し失われる。アルデヒド化合物が蛋白のアミノ酸残基と反応しマイケル反応産物を形成するという化学反応の解明が、抗体作成の過程で重要であった。上記のエピトープに対するポリクロナール。モノクロナール抗体を作製・評価を行った。これらの抗体を通常のパラフィン包埋に適応する方法を開発した。この方法により、糖尿病、虚血、再灌流モデル(肺、肝、皮弁)、砒素中毒症、大腸癌、C型肝炎、アルコール性肝炎などにおいて酸化ストレスが関与していることを証明した。
酸化ストレス発がんに標的となる遺伝子が存在するかどうかという問題に対して、candidate gene apprach、活性酸素代謝に関与する遺伝子の探索を行ってきたが、大きな成果は上がらなかった。しかし、F_1純系動物を使用したLOH解析により糸口をつかみ、p15/p16癌抑制遺伝子の異常が半数近い腫瘍で認められることを見いだした。少なくとも最終的なゲノムの異常に関しては標的となる遺伝子が存在することを初めて明らかにした。 -
高発がん性ラットを用いた発がん過程の主要因の解析
1996年4月 - 2000年3月
科学研究費補助金 特定領域研究(A) 研究種目コード:031 08264108
樋野 興夫
担当区分:研究分担者
1.遺伝性腎癌ラット(Eker rat)の腎癌発生過程に見られる多段階的な病理組織像に対応する遺伝子変化の同定をsubtraction法を用いて試みた。癌抑制遺伝子であるTsc2の不活化とその結果として発現が亢進してくる癌関連遺伝子群を単離を試みた。さらに、本ラットの腎癌細胞の転移系を確立し、転移に関与する遺伝子群の単離をcDNA subtraction法を用いて試みた(樋野)。
2.ラットゲノムマップの統合を行った。この統合ゲノムマップは、ラットモデルにおける発癌感受性などを含む量的遺伝形質の解析において求められる全ゲノムスキャンを容易にするものである(芹川)。
3.発がん物質投与後形成される8-hydroxydeoxy-guanosine(8-OHdG)はLECラットがBNラットに比べ有為に高いことを確認した。8-OHdG形成メカニズムには銅の蓄積が関与していることが考えられた。(榎本)。
4.ラット前立腺に特異的に発現するprobasin遺伝子のプロモ-タ-領域にSV40T抗原遺伝子を連結したtransgenic ratを作製し、生後早期に腹葉に異型過形成を起こす系を確立した(白井)。
5.BUF/Mna系ラットにおける胸腺腫発生感受性遺伝子Tsr1は第7染色体上のマ-カ-、D7Rat21の近傍に局在することを明らかにした(松山)。
6.新しいwilms腫瘍遺伝子の探索の為に経胎盤N-ethyl-N-nitrosourea(ENU)発癌とラット腎移植手術を組み合わせたラットモデルの開発を行った(横森)。
7.(1)コリン欠乏アミノ酸(CDAA)食で誘発した肝発がんでc-myc遺伝子のプロモ-タ-及びexon1の領域におけるメチル化を検討した。(2)ジエチルニトロサミン(DEN)及びCDAA食で誘発した肝細胞癌におけるβ-カテニン遺伝子の異常を検索した(小西)。
8.鉄を介した活性酸素・フリ-ラジカルによるラット腎癌モデルにおいて(1)グルタチオンSトランスフェラ-ゼが腎癌で高発現しており、中でもπアイソザイムが著明に増加していた。(2)F1動物の腎癌を用いた遺伝解析により、染色体5番に高頻度のLOHを見出し、p15/p16癌抑制遺伝子が主な標的のひとつである(豊國)。 -
生体肝移植後の移植肝に発生する慢性肝機能障害の病理学
研究課題/研究課題番号:08670201 1996年
山邊 博彦
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
目的:生体部分肝移植は小児の非可逆性肝疾患末期の肝不全症の唯一の治療法として定着してきている。その移植不成功の最大の原因となる移植肝に発生する慢性の進行性肝機能障害を臨床病理学的に解析した。
方法:1990年6月から1996年5月の6年間に224例(5再移植例を含む)に生体部分肝移植が行われた。このうち移植後2ヵ月以降に進行性肝機能障害を来した33例の生検材料、手術材料、剖検材料について、免疫組織化学、in situ hybridization法を含む病理組織学的検索を行い、臨床病理学的に解析した。
結果及び考察:進行性肝機能障害を示した33例中、21例が移植後64日から5年11カ月の間(中央値174日)に移植不成功(死亡16例、再移植5例)となった。そのうち慢性拒絶反応は7例(死亡4例、再移植3例)にみられた。3例が主として血管性、4例が主として胆管消失性拒絶反応であった。また、上記33例中、慢性胆管炎が15例(うち死亡9例、再移植1例)に見られた。うち7例はABO血液型不適合移植例であり、その2例は抗血液型抗体価が高く、胆管吻合部分に問題がないにも拘わらず胆管炎が発生した。また他の1例はリンパ球クロスマッチ試験陽性例であった。これらのことから胆管炎とhumoral mechanismの関連が注目された。移植後リンパ増殖性疾患は4例(うち1例は胆管炎に、1例は慢性拒絶反応に合併、全例死亡)に見られ、Epstein-Barrウイルスの関与が組織学的に証明された。慢性肝炎・肝硬変は8例(うち死亡1例)に見られ、5例はB型、1例はC型の慢性肝炎、他の2例は原因が不明であった。
結論:生体部分肝移植後の慢性進行性肝機能障害の原因として、慢性拒絶反応、慢性胆管炎、移植後リンパ増殖性疾患及び慢性肝炎・肝硬変が重要であることが判明した。 -
レドックス制御とシグナル伝達機構
1995年4月 - 1997年3月
科学研究費補助金 国際学術研究 研究種目コード:160 07041160
淀井 淳司
担当区分:研究分担者
淀井らが報告したATL-derived factor(ADF)は、チオ-ル基を介して強い還元活性を示すthioredoxin(TRX)のヒトホモロ-グであり、レドックス制御に関わる抗酸化ストレス因子である。今年度の成果として以下のことが明らかとなった。1)TRX遺伝子のknock outマウスは胎生致死であり、TRX遺伝子はマウス胎仔の早期分化および形態形成に重要な役割を果たしていたこと。2)TRX遺伝子のプロモ-タ-部位に酸化ストレスに応答する遺伝子配列を同定したこと。3)NF-κBおよびAP1などの転写因子活性化に、TRXやRef-1などのレドックス蛋白が、重要な制御的働きをするが、さらにRef-1がTRXに結合し、AP-1転写活性への役割を果たすこと。3)ステロイドホルモンレセプタ-、PEBP-2の活性化にも、レドックス制御機構の役割が重要であること(田中、重定との共同研究)。また、Chae,Paakによりペルオキシダ-ゼ活性を有するTRX依存性peroxidase(peroxiredoxin)も報告され、抗酸化ストレス機構の解明が進んでいる。一方、酸化ストレスに対する防御因子が生体内レドックスセンサ-機構としての役割も積極的に担うことが明らかにされつつある。淀井などが、酸化ストレスによるtyrosine kinaseの活性化を示したが、MAP kinaseのレドックス制御機構は、Karinらによって進展している。また、山本によりp53の酸化ストレスによる活性化機構の解析がなされた。豊國らは鉄による酸化ストレス下のレドックス制御不全状態で過酸化脂質蛋白複合体が生体内で生じていることを明らかにし、鉄による発癌に関する研究を展開した。今後さらにレドックス関連分子の解析およびその情報伝達における役割、酸化ストレスに対するレドックスセンサ-機構、レドックス制御異常による不可逆的酸化ストレスの病態形成への関与を解析することが必要と思われる。
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Tリンパ腫病型決定の遺伝機構
1995年4月 - 1997年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B) 研究種目コード:310 07457059
日合 弘
担当区分:研究分担者
本研究はリンパ腫病型決定の遺伝機構を解明することを目的とし、研究を進めた結果、次の結果を得た。(1)SL/Khマウスとその4系の亜系間の遺伝的相互関係を詳細に解明した。(2)正常の骨髄Pre-B細胞はLECAM-1,LFA-1等の接着因子を発現していないが、SL/Khの自然発生Pre-Bリンパ腫は表現型から正常Pre-B細胞によく似ているにも関わらず、LECAM-1,LFA-1の明瞭な発現があることを示し、変異Pre-B細胞のマ-カ-とみなせることを示した。(3)Tlsm-1の機能を調べるため、胸腺を摘出した(SL/Kh x AKR)F1の腎被膜下にSL/Kh,F1,AKRの胸腺を移植し、発生するリンパ腫の病型、組織由来を検討した。(SL/Kh X AKR/Ms)F1ではDual T and B phenotype lymphomaが多発し、このタイプの腫瘍の発生は胸腺に依存しないが、pure T lymphomはTlms-1陽性の胸腺の存在に依存していることを示した。(4)これまで発見したリンパ腫関連宿主遺伝子のcongenic系を作出した。(5)Tlsm-1の詳細なマッピングのため、AKXD11とAKXD21の間の退交配系を観察中。(6)野生由来近交系MSM/Msマウスの2つの優性リンパ腫抵抗性遺伝子を同定しChr.17,19にマップした。(7)ポリゲニックな癌感受性を解析するマウス(SMXA)、ラット(LEXF)の組み替え近交系を作出し遺伝解析を行った。
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フリ-ラジカルによるDNA・蛋白の損傷・装飾が発癌過程で果たす意義
1995年4月 - 1997年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究種目コード:320 07670241
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者
活性酸素(フリ-ラジカル)は変異、発癌、虚血・再灌流障害、放射線・紫外線障害など種々の生命現象に深く関与することが認識されるようになっている。私たちはいままで、鉄キレ-ト剤である鉄ニトリロ三酢酸反復投与によるラット腎発癌モデルにおいて、活性酸素がその発癌過程に深く関与することを報告してきた。本研究の最終目標は、上記「活性酸素による発癌モデル」において、rate-limitingとなりうる遺伝子を同定し、その変異や発現機構を解析することおよび活性酸素をひとつの切り口として発癌機構を追及することである。
発癌の標的遺伝子の同定に関して、私たちは以下のアプロ-チを取った。1)活性酸素の代謝に関与する蛋白・酵素遺伝子の発現の評価、2)p53、rasなど既知遺伝子の変異の解析である。1)では、発癌過程初期よりGSH S-transferase piの特異的な誘導を見いだした。2)では、低頻度のp53遺伝子の変異を認めた。従って、本発癌モデルの主要な標的遺伝子はいまだ同定されていない。
更に、フリ-ラジカルの攻撃により生成する産物の検討を詳細に行った。フリ-ラジカルの標的は脂質・核酸・蛋白質など多岐に渡り、フリ-ラジカル反応により生成する化合物の報告数は年々増加している。しかしながら、活性酸素のエフェクタ-として実際、要となり働くのはかなり限られた分子であることが予想される。私たちはこのモデルにおいて膜脂質の損傷(過酸化脂質)において炭素鎖が2から12の全飽和・不飽和アルデヒドをガスクロマトグラフィ-と質量検出器を使用する分析法で定量し、4-hydroxy-2-nonenal(HNE)の増加率が最も高いことを見いだし、更にHNE修飾蛋白に対するモノクロ-ナル抗体を作成し、免疫化学的応用を行った。 -
Bリンパ腫病型決定遺伝子の同定とその作用機序の研究
1995年4月 - 1996年3月
科学研究費補助金 重点領域研究 研究種目コード:030 07272222
日合 弘
担当区分:研究分担者
本研究はPre-Bリンパ腫好発近交系マウスSL/Khのリンパ腫の発生、病型、潜伏期間の長さなどを支配している宿主遺伝子を同定し、その作用機序を解析することを目的としている。今回はSL/Khと野生マウス由来の近交系MSM/Msの交配系のリンパ腫発生を観察し、遺伝解析を加えた。F1ではリンパ腫の発生はなく、SL/Khへの退交配世代60頭のうち14頭が1年6ケ月の観察期間中にリンパ腫を発生した。この頻度から、MSM/Msは2つの優性抵抗性遺伝子を持つという仮説をたてた。退交配世代をマイクロサテライト法により遺伝解析した結果、第17染色体MHC領域と第14染色体上に優性抵抗性遺伝子がマップされ、それぞれMsmr-1,Msmr-2と命令された。SL/KhのMHC haplotypeはqで、MHC classll分子に欠損がある。SL/Kh系マウスはウイルス、あるいはリンパ腫細胞に対する免疫学的抵抗性を欠如していると考えられる。またMsmr-2はヒトの5q23-31とシンテニックであり、この部位ではヒト造血系腫瘍でしばしば転座、LOHなどが報告されている。
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Tリンパ腫病型決定の遺伝機構
研究課題/研究課題番号:07457059 1995年 - 1996年
日合 弘
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
本研究はリンパ腫病型決定の遺伝機構を解明することを目的とし、研究を進めた結果、次の結果を得た。(1)SL/Khマウスとその4系の亜系間の遺伝的相互関係を詳細に解明した。(2)正常の骨髄Pre-B細胞はLECAM-1,LFA-1等の接着因子を発現していないが、SL/Khの自然発生Pre-Bリンパ腫は表現型から正常Pre-B細胞によく似ているにも関わらず、LECAM-1,LFA-1の明瞭な発現があることを示し、変異pre-B細胞のマーカーとみなせることを示した。(3)Tlsm-1の機能を調べるため、胸腺を摘出した(SL/Kh×AKR) F1の腎被膜下にSL/Kh, F1, AKRの胸腺を移植し、発生するリンパ腫の病型、組織由来を検討した。(SL/Kh×AKR/Ms) F1ではDual T and B phenotype lymphomaが多発し、このタイプの腫瘍の発生は胸腺に依存しないが、pure T lymphomはTlsm-1陽性の胸腺の存在に依存していることを示した。(4)これまで発見したリンパ腫関連宿主遺伝子のcongenic系を作出した。(5)Tlsm-1の詳細なマッピングのため、AKXD11とAKXD21の間の退交配系を観察中。(6)野生由来近交系MSM/Msマウスの2つの優性リンパ腫抵抗性遺伝子を同定しChr. 17,19にマップした。(7)ポリゲニックな癌感受性を解析するマウス(SMXA)、ラット(LEXF)の組み替え近交系を作出し遺伝解析を行った。
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レドックス制御とシグナル伝達機構
研究課題/研究課題番号:07041160 1995年 - 1996年
国際学術研究
淀井 清
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
文部省科学研究費・国際学術研究調査(平成3〜4年・ウイルス疾患でのADF/チオール依存性細胞活性化機構に関する学術調査研究;淀井淳司 代表者)は、レドックス研究の交流の基礎となった。本国際学術研究調査は、その研究調査を更に発展させてHo Zoon Chae(KOREA)、Michael Karin(USA)らを研究分担者として加え、レドックス制御とシグナル伝達機構に関する研究交流を行った。
生体におけるレドックス制御とは、酸化還元に基づく蛋白質システイン残基上のチオール基の可逆的構造変化により、種々の細胞機能を制御することと説明できる。淀井らが報告したHTLV-I感染細胞の産生するATL-derived factor(ADF)は、システイン(Cys)のSH基を介して強い還元活性を示すthioredoxin(TRX)のヒトホモローグである。このADF/TRXは、グルタチオン系と共に細胞内のレドックス制御に関わる抗酸化ストレス因子である。今年度の交流の成果として1)TRX遺伝子のTargetingを行った結果、TRX遺伝子をヘテロに欠損している個体は正常であったが、ホモに欠損している個体は着床後すぐに死亡した。TRX遺伝子はマウス胎仔の早期分化および形態形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。2)TRX遺伝子のプロモーター部位の解析を行い、新たに、酸化ストレスに応答する遺伝子配列を同定した。3)遺伝子転写のレドックス制御については、淀井、山本らによるNFκBおよびAP1などの転写因子活性化に、TRXやRef-1/APEX蛋白などのレドックス制御蛋白が、重要な制御的働きをすることが明らかになっている。さらにRef-1がTRXに結合し、AP-1転写活性への役割を新たに明らかとした。ステロイドホルモンなどの核内レセプター群の細胞質・核内移行と遺伝子活性化調節にも、TRXの関与するレドックス制御機構の役割が重要と考えられた(田中らとの共同研究)。転写制御因子PEBP-2の活性化にもレドックス制御が関与することが明らかになった(重定らとの共同研究、投稿準備中)。4)抗酸化機能をもつペルオキシダーゼ活性をもつ新しいタンパク質ファミリーが近年見い出されてきた。Chae,PaakによりTRX依存性peroxidase(peroxiredoxin)や、一部のGSH peroxidaseがTRXによって活性化されることも報告され、抗酸化ストレス機構の解明が進んでいる。今後さらにレドックス関連分子の分子機構および情報伝達における役割を解析する必要がある。
レドックス制御は、分子の酸化(酸化ストレス)を契機とするストレス応答反応とも捉えることができるため、レドックス制御と酸化ストレスは表裏一体の関係にある。酸化ストレスに対する防御分子が生体内レドックスセンサー機構としての役割も積極的に担うことが現在明らかにされつつある。酸化ストレスは細胞のレドックスセンサー機構によって認知され、その一部は生体にとって有用なシグナル応答へと変換される。既知のリン酸化によるシグナル伝達経路とクロストークを行っていることなどが相次いで報告された。わが国では淀井などが、リンパ球への酸化ストレスが細胞膜のチロシンキナーゼの活性化につながり、それぞれ正・負のシグナル伝達に関わることを明らかにしたが、海外ではMAP kinaseやtyrosine kinaseのレドックス制御機構は、Karin,らによって進展している。また、山本によりp53の酸化ストレスによる活性化機構の解析がなされた。今後レドックスセンサー機構をさらに解析することが必要である。レドックス制御異常は、エイズ・ATL・肝炎ウイルス感染症など、種々のウイルス感染での細胞死・異常増殖に関係している。豊國らは鉄による酸化ストレス下のレドックス制御不全状態で過酸化脂質蛋白複合体が生体内で生じていることを明らかにし、鉄による発癌に関する研究を展開した。レドックス制御異常による不可逆的酸化ストレスは病態形成に関与することが考えられ、今後様々な病態での解析が必要と思われる。 -
フリーラジカルによるDNA・蛋白の損傷・修飾が発癌過程で果たす意義
研究課題/研究課題番号:07670241 1995年 - 1996年
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:2600000円 ( 直接経費:2600000円 )
活性酸素(フリーラジカル)は変異、発癌、虚血、再灌流障害、放射線・紫外線障害など種々の生命減少に深く関与することが認識されるようになっている。私たちはいままで、鉄キレート-剤である鉄ニトリト三酢酸反復投与によるラット腎発癌モデルにおいて、活性酸素がその発癌過程に深く関与することを報告してきた。本研究の最終目標は、上記「活性酸素による発癌モデル」において、rate-limitingとなりうる遺伝子を同定し、その変異や発現機構を解析することおよび活性酸素をひとつの切り口として発癌機構を追究することである。
発癌の標的遺伝子の同定に関して、私たちは以下のアプローチを取った。1)活性酸素の代謝に関与する蛋白・酵素遺伝子の発現の評価、2)p53、rasなど既知遺伝子の変異の解析である。1)では、発癌過程初期よりGSH-S-transferase piの特異的な誘導を見いだした。2)では、低頻度のp53遺伝子の変異を認めた。従って、本発癌モデルの主要な標的遺伝子はいまだ同定されていない。
更に、フリーラジカルの攻撃により生成する産物の検討を詳細に行った。フリーラジカルの標的は脂質・核酸・蛋白質など多岐に渡り、フリーラジカル反応により生成する化合物の報告数は年々増加している。しかしながら、活性酸素のエフェクターとして実際、要となり働くのはかなり限られた分子であることが予想される。私たちはこのモデルにおいて膜脂質の損傷(過酸化脂質)において炭素が2から12の全飽和・不飽和アルテヒドをガスクロマトグラフィーと質量検出器を使用する分析法で定量し、4-hydroxy-2-nonenal(HNE)の増加率が最も高いことを見いだし、更にHNE修飾蛋白に対するモノクローナル抗体を作成し、免疫化学的応用を行った。 -
Bリンパ腫病型決定遺伝子の同定とその作用機序の研究
研究課題/研究課題番号:07272222 1995年
日合 弘
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
本研究はPre-Bリンパ腫好発近交系マウスSL/Khのリンパ腫の発生、病型、潜伏期間の長さなどを支配している宿主遺伝子を同定し、その作用機序を解析することを目的としている。今回はSL/Khと野生マウス由来の近交系MSM/Msの交配系のリンパ腫発生を観察し、遺伝解析を加えた。F1ではリンパ腫の発生はなく、SL/Khへの退交配世代60頭のうち14頭が1年6ケ月の観察期間中にリンパ腫を発生した。この頻度から、MSM/Msは2つの優性抵抗性遺伝子を持つという仮説をたてた。退交配世代をマイクロサテライト法により遺伝解析した結果、第17染色体MHC領域と第14染色体上に優性抵抗性遺伝子がマップされ、それぞれMsmr-1,Msmr-2と命令された。SL/KhのMHC haplotypeはqで、MHC classll分子に欠損がある。SL/Kh系マウスはウイルス、あるいはリンパ腫細胞に対する免疫学的抵抗性を欠如していると考えられる。またMsmr-2はヒトの5q23-31とシンテニックであり、この部位ではヒト造血系腫瘍でしばしば転座、LOHなどが報告されている。
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腎がんの進展と予後に関与する宿主側要因の研究
1994年4月 - 1996年3月
科学研究費補助金 一般研究(C) 研究種目コード:090 06671587
寺地 敏郎
本年度の主な実績は以下の通りである。
1)85例の腎細胞癌および212例の他の泌尿器癌について、PCR-RFLP法を用いてp53遺伝子コドン75の多型(CGC(Arg)またはCCC(Pro))を解析し、ノ-マルコントロ-ル群と比較した。統計学的には有意差を認めなかったが、腎細胞癌ではArg/Argの頻度は比較的低く、Pro/Proの頻度が高くなる傾向が認められた。
2)97例の腎細胞癌罹患者について、PCRを用いてHLA class II DRB1のアレル頻度を解析し、1216例の日本人ノ-マルコントロ-ル群と比較することにより、臨床パラメ-タ-との相関について検討した。腎細胞癌罹患者ではHLA class II DRB 0101,0405アレル頻度が有意に低く、またこれらのアレルを有する例では他の群に比べlow grade, low stageのが有意に多かった。
3)25例の腎細胞癌について、ウエスタンブロッティングおよびカイネ-スアッセイを用いてMAP、MEK、Raf-1の活性化について検討した。約半数の症例でMAPの恒常的活性化を認めた。
4)55例の腎細胞癌についてマイクロサテライトを用いた9p21-22のLOH、サザンブロッティング、SSCP、ダイレクトシ-クエンスを用い、p16の欠失、変異について解析した。p16の欠失、mutationの頻度は極めてひくかったが、55例を手術時の転移の有無により2群に分けた場合、9p21-22のLOHは転移を有する群で有意に高かった。
以上より、P53コドン75の多型、HLAクラスII抗原の違いは、宿主側の要因であるが、腎癌の発生に大きく関与し、健常人の腎癌罹患の危険因子とみなしうる可能性が示唆された。MAPは腎癌の発生、進展を生物学的に解析する上で極めて意義のある蛋白であると考えられた。さらに、HLAクラスII抗原、染色体9p21-22の欠失は腎癌罹患者の予後を予測するマ-カ-となりうることが示された。以上の分子生物学的なパラメ-タ-のさらに詳細な解析は臨床上の治療指針の確立に大きく寄与するものと思われる。