科研費 - 豊國 伸哉
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研究課題/研究課題番号:22H04922 2022年4月 - 2028年3月
科学研究費助成事業 学術変革領域研究(学術研究支援基盤形成)
武川 睦寛, 井上 純一郎, 中村 卓郎, 高田 昌彦, 清宮 啓之, 八尾 良司, 山崎 聡, 荒木 喜美, 阿部 学, 山田 泰広, 伊川 正人, 高橋 智, 真下 知士, 小林 和人, 小林 憲太, 井上 謙一, 豊國 伸哉, 二口 充, 神田 浩明, 上野 正樹, 宮崎 龍彦, 高松 学, 宮川 剛, 高雄 啓三, 池田 和隆, 井手 聡一郎, 新田 淳美, 尾藤 晴彦, 虫明 元, 小山内 実, 旦 慎吾, 馬島 哲夫, 田代 悦, 堂前 直, 松本 健, 川田 学, 田原 栄俊, 掛谷 秀昭, 澤崎 達也, 松浦 正明
担当区分:研究分担者
モデル動物を用いた研究は、ヒトへの応用の前段階として、細胞レベルの研究で得られた成果を高度に組織化された個体において実証するためや、遺伝子改変動物においては個体としてどのような表現型を示すかを検証する上で極めて重要である。本プラットフォームは、遺伝子改変動物を初めとする先進的なモデル動物を作製し、その病理形態解析や生理機能解析を支援する。さらに、これまでに構築した先進的な分子プロファイリング技術・資源を利用し、個体レベルの研究の端緒となる分子・細胞レベルの研究支援を行う。
1, 総括支援活動:ホームページを随時更新して情報発信し、成果シンポジウム、学会展示会、ランチョンセミナーなど積極的広報活動を行った。若手支援技術講習会(9/8-10、名古屋、132名参加)を開催して若手の修練・交流を支援し、成果発表会(2/8-9、大津、122名参加)では支援成果を把握・総括した。
2, モデル動物作成支援活動:年2回の公募に対し合計122件の応募があり、うち69件についてはプレコンサルテーションを行った。モデル動物作製支援79件、ウイルス作製支援14件の計93件が採択された。担当支援拠点との個別協議が行われ、カスタム化された遺伝子改変動物とウイルスベクターが作製され、依頼者に提供された。
3, 病理形態解析支援活動:マウスやラットなど動物個体に認める病的所見やその治療効果を、H&E染色や免疫染色など主に光学顕微鏡を使用する解析技術を駆使して表現型を解釈する支援を実施した。26件の申請に対し25件を採択し、解剖、標本作製、免疫染色、その定量化など多彩な解析を行い、論文の投稿・改訂も支援した。
4, 生理機能解析支援活動:行動学的解析21件、薬理学的解析26件、光技術による操作解析7件、多機能電極・計測データ解析13件、計67件全てについてプレコンサルテーションを行い、計画的支援を実施した。支援は、動物モデルにおける病態・生理学的基盤の解明推進などに寄与し、J Clin Invest誌などに成果が発表された。
5, 分子プロファイリング支援活動:のべ274件の申請に対し、化合物評価143件(細胞パネル41、細胞表現型72、トランスクリプトーム13、プロテオーム10、ゼブラフィッシュ表現型7)、分子探索86件(標準阻害剤キット56、小分子RNA標的遺伝子3、バーコードshRNAシーケンス24、化合物標的タンパク質2、網羅的タンパク質相互作用1)の計229件を採択し、順次実施した。
1, 総括支援活動:事務局体制が確立し、プラットフォーム(PF)内の連携が前年度以上に円滑化すると共に、被支援者向けのワンストップ窓口としても迅速かつ適切な対応で利用促進に貢献することが出来た。新型コロナウイルスの5類移行に伴い、若手支援技術講習会および成果発表会における学術交流・情報交換を例年以上に活発化することが出来た。
2, モデル動物作成支援活動:PF第二期から始まった遺伝子改変マウス・ラット作製およびウイルスベクター作製という支援項目を広く周知することにより多くの課題応募があり、学術的意義の高い研究を採択し、支援することができている。また、ニーズを詳細に把握することにより依頼者の要望に対して的確な対応が可能な体制が構築されている。
3, 病理形態解析支援活動:2年目であったが、十分な数の申請が集まり、25件の支援を実施することができた。外部委員2名を含む審査はウェブで実施しているが、円滑に業務を果たすことができている。班員の専門性に応じて支援の振り分けも問題なく実施できた。2月の成果発表会においても、本支援による興味ある成果が複数披露された。
4, 生理機能解析支援活動:支援対象者のモデルマウスを対象にした行動解析支援を21課題、依存性薬物や治療薬の感受性に関連する行動解析および規制薬物作用ゲノム関連解析支援を26課題、光遺伝学に関する最新技術を活用した研究支援を7課題、多機能集積化電極による最先端の技術提供を行う多元的生理機能計測操作支援を13課題で実施した。
5, 分子プロファイリング支援活動:前期から継承した細胞パネルなどの化合物評価支援4系、および標準阻害剤キットなどの分子探索支援2系は安定した支援実績を残した。また、第2期から加わった分子探索支援、アドホック支援(ゼブラフィッシュ表現型)に関しても、支援の周知が功を奏し、順調に支援実績を伸ばすことができた。
1, 総括支援活動:前年度の活動を継続し、アドホックも含めた支援内容の周知拡大、利用促進を図る。各担当者と緊密な連絡を保ち、ワンストップ窓口の機能をさらに強化することでサービスの向上を図る。若手支援技術講習会および成果発表会については学術的内容に加え、過去のアンケート結果等も分析しながら企画・運営に当たる。
2, モデル動物作成支援活動:引き続き広報活動と被支援者との対話を通してニーズを把握し、要望に的確に対応する。また、先端的な遺伝子改変技術やウイルスベクター開発を行い、支援に活用することにより、国内のモデル動物研究の発展を推進する。作製された遺伝子改変動物を公共リソースバンクに供出することにより、学術基盤としての研究リソース整備に貢献する。
3, 病理形態解析支援活動:諸学会や若手支援技術講習会等を通じて本制度の周知を強化する。特に、アドホック支援の内容の見える化を図る。また、AI技術を取り入れた定量化などの解析に関して、新たに技術提供できるようにしたいと考えている。
4, 生理機能解析支援活動:6つの拠点への支援申請が何れも安定して多数であることから、引き続きニーズに応えられるように拠点数を8つ増やし、技術力を維持・向上させ、プレコンサルテーションで有意義な計画を立案し、公正に支援課題を選考し、支援実施体制をハイレベルに保つ。また、支援該当部の論文分担執筆を積極的に進め、成果の公表にも貢献する。
5, 分子プロファイリング支援活動:被支援者の要望に応じたカスタマイズ対応・支援実施後のフォロー(フィードバックミーティングによる科学的助言・技術指導、高次支援の勧奨など)に努めるとともに、効果的な共同研究の提案・斡旋を進める。また、オープンサイエンスに向けた取り組みとして、得られた研究成果の公的データベースへの登録を奨励するとともに、支援の基盤となる独自データベースの公開を進める。 -
老化研究推進・支援拠点
2017年4月
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 健康・医療戦略の推進に必要となる研究開発 老化メカニズムの解明・制御プロジェクト
豊國伸哉
担当区分:研究分担者
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発がんにおけるDNA損傷・修復ダイナミクスの実像解明
研究課題/研究課題番号:20K07588 2020年4月 - 2023年3月
文部科学省 科学研究費 基盤研究C
赤塚 慎也
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:4290000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:990000円 )
本研究は、DNA損傷のゲノム内分布動態を確定するための方法として次世代シークエンサーを用いた新たな解析法を確立し、発がん刺激によるDNA損傷分布の変化とその意義を明らかにすることを目的とする。DNA損傷は遺伝子変異の原因となるため、そのゲノム内での分布動態を知ることは、がんの発生経路を確定し、予防の方策を講ずるうえで重要となる。本研究では、損傷DNAに対する免疫沈降産物の網羅的解析を次世代シークエンサーの新たな応用技術として確立し、発がん過程におけるDNA損傷のゲノム分布動態を解明する。さらに、その際の変異の発生頻度を評価することにより、DNA損傷分布変化の発がんにおける意義を明らかにする。
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フェロトーシスにおける細胞内鉄制御機構の破綻
研究課題/研究課題番号:20H05502 2020年4月 - 2022年3月
文部科学省 科学研究費 新学術領域研究(研究領域提案型)
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:6370000円 ( 直接経費:4900000円 、 間接経費:1470000円 )
鉄は私たちのからだに最も多く含まれる重金属であり、酸素の運搬や種々の酵素の活性中心などの重要な役割を果たしている。一方、過剰鉄は種々の発がんリスクとなることも明らかにされてきた。このような状況において、新たな細胞死としてフェロトーシスが提唱された。フェロトーシスは、二価鉄依存性に脂質過酸化を伴う新たな制御性壊死である。私たちは、これまでに過剰鉄が活性酸素産生を触媒し、がんを引き起こすメカニズムを明らかにしてきた。これまでの知見と技術を応用することにより、フェロトーシスが引き起こされるメカニズムならびにがん細胞がフェロトーシス抵抗性を示す機構を鉄代謝の観点より明らかにする。
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プラズマ誘起生体活性物質による超バイオ機能の展開
研究課題/研究課題番号:19H05462 2019年4月 - 2024年3月
文部科学省 科学研究費 特別推進研究
堀 勝
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:603330000円 ( 直接経費:464100000円 、 間接経費:139230000円 )
プラズマによって誘起された生体活性物質の分子構造と物性を突き止め、各物質と生体との相互作用を解明することによって、超バイオ機能発現の本質を明らかにする。また、活性物質による細胞死、増殖、分化などの真核生物に普遍的な現象の分子機構を解明する。その成果を基盤にして、プラズマ医療、農業という未来産業を拓く羅針盤となる、学術基盤『プラズマ生命科学』を切り拓き、地球規模の課題である、難病治療や食糧不足などを解決するイノベーションを産み出す。
プラズマ活性乳酸リンゲル液(PAL)の成分解析の結果、脳腫瘍培養細胞とアストロサイト正常細胞に選択的殺傷効果を示す有力な候補物質として2,3-ジメチル酒石酸を同定していたが、今年度、有機合成した2,3-ジメチル酒石酸を入手し、脳腫瘍培養細胞に対する抗腫瘍効果について、乳酸リンゲル溶液中における2,3-ジメチル酒石酸の濃度依存性を明らかにした。分担研究者の吉川らは反応性ガスを制御することが可能なプラズマ発生装置により生成したプラズマ活性溶液を用い、卵巣癌細胞に対する死滅効果を検討した結果、反応性ガスの種類や混合比の違いにより、プラズマ活性溶液の抗腫瘍効果が異なることを明らかにした。分担研究者の豊國らは臨床応用により近づけるためにPAL溶液を使用して、中皮細胞と悪性中皮腫細胞への効果を評価し、腫瘍細胞ではフェロトーシスを誘導することが明らかになった。分担研究者の片岡らは、大気圧プラズマを体外からラットの大脳皮質組織へ頭蓋骨を通して照射し、照射組織全体を組織超微細構造の変化まで明らかにできる広域電子顕微鏡撮像をおこなった。幹細胞や免疫細胞が大脳皮質組織中へ誘導される様子を電子顕微鏡レベルで明らかにした。分担研究者の榊原らは、低温プラズマ照射がイネ幼苗の成長促進を引き起こす原因究明のために照射水の化学組成の変化を解析し、硝酸イオン濃度、過酸化水素濃度、pHなどの変化を定量的に明らかにした。また、栽培イチゴクラウン部位への低温プラズマ直接照射によりABA依存的に果実着色が促進することを示唆した。分担研究者の伊藤らは、酸素ラジカル処理したフェニルアラニンとトリプトファン溶液に殺菌能と植物の成長促進能があることを確認し、殺菌因子はフェニルアラニンの誘導物質であることを明らかにした。分担研究者の古閑らは、植物に対するPALの効果検討について、植物の成長段階に合わせた検証を行った。
2019年4月1日には名古屋大学低温プラズマ科学研究センターが設立され、共同利用・共同研究拠点として、我が国の低温プラズマ科学の拠点として整備され、多くの人材や情報が集結した。研究代表者の堀勝教授はセンター長、分担研究者の吉川史隆教授は、副センター長、分担研究者の豊國伸哉教授はプラズマバイオシステム科学部門の部門長に就任し、強固な連携体制のもと、特別推進研究において世界を先導する成果を挙げ続けた。具体的には、52報の論文公表、32件の招待講演の成果を挙げた。また、分担研究者の榊原均教授主導の元、分担研究者片岡洋祐チームリーダーと名大理研科学技術連携センター共同研究を開始し、名古屋大学と理研が地域ハブとしての役割を担いながら研究を共同で行う体制が構築された。以上の状況を鑑みて、現在までの進捗状況を当初の計画以上に進展していると自己評価した。
完全密封型プラズマ活性溶液作製装置を設置し、発光分光によるプラズマのキャラクタライズ、LC/MSによるプラズマ誘起活性物質の探索、in vitroの細胞実験に基づく細胞内分子機構の統一的な解明などを進める。分担研究者の梶山らは反応性ガスの制御により生成された卵巣がん細胞を強力に死滅させるプラズマ活性溶液が、生体内における癌の播種・進展を抑制するかどうかを、マウス卵巣癌腹膜播種モデルを用いて検討を行い、その制御機構について明らかにしていく。分担研究者の豊國らは、PALの腫瘍細胞への効果に関してメタボローム解析を実施し、鍵となっている代謝系を明らかにする。分担研究者の片岡らは、大気圧プラズマ照射によって大脳皮質中に誘導された幹細胞、免疫細胞等について、同一対象組織について光学顕微鏡と電子顕微鏡の両技術で観察するCLEM(光‐電子相関顕微鏡)法を用いて発現分子と微細構造を同時に明らかにし、組織再生メカニズムの解明に迫る。分担研究者の榊原らは、プラズマ照射による硝酸イオン濃度、過酸化水素濃度の変化で成長促進効果が説明できるか否かについて、各要因の再構成液でその効果を検証する。また低温プラズマ処理区と非処理イチゴのRNA-seq解析により果実着色に関わる機構を明らかにする。分担研究者の伊藤らは、HPLC、LC/MS、NMR、次世代シーケンサー等を用いて酸素ラジカル処理したフェニルアラニンとトリプトファン溶液の殺菌因子の構造特定、生長促進因子の特定及び脂質二重膜や細胞との相互作用の解明を推進する。分担研究者の古閑らは、PALを用いた発芽以降の生長特性および収穫特性を明らかにするとともに、得られた種子の発芽・生長特性を明らかにする。 -
鉄ダイナミクスと多層オミクス解析による酸化ストレス発がん克服のための基盤形成
研究課題/研究課題番号:17H04064 2017年4月 - 2020年3月
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:17810000円 ( 直接経費:13700000円 、 間接経費:4110000円 )
本研究は生体における鉄ダイナミクスを多面的に理解することにより、がん克服の基盤を築くことを目的とした。細胞レベルで鉄依存性制御性壊死として新たな細胞死フェロトーシスの概念形成を行った。ラットモデルで中皮腫予防に瀉血が有効であった。鉄誘発腎がんはMutyh欠損マウスで発生増加傾向を、アスベスト誘発中皮腫はDmt1トランスジェニックマウスで発生遅延、Mth1欠損マウスで発生低下を認めた。炭酸脱水酵素9は中皮腫にフェロトーシス抵抗性を賦与していることが判明した。
新たな細胞死である2価鉄依存性制御性壊死フェロトーシスはがん細胞死のみならず、種々の病的・生理的状態にも関与していることが判明し、今後の研究の新たな切り口となった。瀉血による中皮腫予防効果がラットで確認され、種々の鉄代謝・酸化的DNA傷害修復遺伝子の鉄発がんへの作用が明らかとなった。炭酸脱水酵素9はフェロトーシス抵抗性を賦与しており、新たな治療標的となる。 -
カーボンナノチューブと低温プラズマの融合による新規治療法の開発
研究課題/研究課題番号:16K15257 2016年4月 - 2018年3月
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:3640000円 ( 直接経費:2800000円 、 間接経費:840000円 )
カーボンナノチューブと低温プラズマを融合させた治療法の開発のため基盤データを取得した。多層カーボンナノチューブが特異的に吸着するタンパク質を網羅的に同定し、ヘモグロビン、ヒストン、トランスフェリンを得た。低温プラズマの作用は、鉄を付加した処理で感受性が増加し、鉄除去性キレート剤の処理により感受性が減少することが判明し、細胞内鉄濃度が低温プラズマへの細胞の感受性を決定する因子であることを見いだした。その過程でエンドサイトーシス活発化とオートファジーの関与ならびに細胞内の触媒性Fe(II)が増加することがわかり、中皮腫細胞では低温プラズマ処理はフェロトーシスを起こすことを明らかにした。
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先端モデル動物支援プラットフォーム
研究課題/研究課題番号:16H06276 2016年 - 2021年
文部科学省 科学研究費 新学術領域研究(研究領域提案型)『学術研究支援基盤形成』
豊國伸哉
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:25818000円 ( 直接経費:19860000円 、 間接経費:5958000円 )
①総括支援活動 : ホームページ(HP)に改良を加えながら公募の円滑化をさらに進めた。モデル動物作製解析の講習や若手研究者の交流促進を推進する技術講習会を開催した。また成果発表会を開催、全国から127名の参加があり一般口演ならびにポスター発表など、本活動の支援成果を、より幅広い研究分野にアピールした。
②モデル動物作製支援活動 : 利用者の様々な要望に個別に対応し、相同組換えやゲノム編集など先進的な遺伝子改変技術を用いて、遺伝子改変マウスおよびラットを合計83件、迅速に作製し、学術研究を推進するための研究リソースを提供した。
③病理形態解析支援活動 : 昨年より多い52件の申請を受け、2回の審査の結果、42件に関して病理形態解析を実施した。研究の方向性を裏付ける多くの成果が得られた。論文の図の作成にもかかわり、論文が受理されるまで支援を実施した。
④生理機能解析支援活動 : 行動学的解析では23課題、薬理学的解析では9課題、光技術による操作解析では10課題、多機能電極・計測データ解析では16課題をそれぞれ支援し、動物モデルにおける病態・生理学的基盤の解明推進に関する支援を展開した。
⑤分子プロファイリング支援活動 : 依頼化合物の分子プロファイリング308件、阻害剤キット配付102枚、RNA干渉キット配付・siRNAデザイン合成92件、バーコードshRNAライブラリーによる化合物の標的経路探索24件、を実施した。
①総括支援活動 : 公募申請と選考作業の効率化が促進された。技術講習会と成果発表会で多くの参加者を得た。参加者対象のアンケートから若手の研究意欲を促進する効果が明らかとなった。参加希望者が前年度よりも増え、参加者の研究分野の多様性が一層顕著になった。
②モデル動物作製支援活動 : 研究実施計画に沿った支援を行うことができている。増加傾向にある応募課題に対し、最新技術を導入することにより効率化を図り、予算が許す範囲で可能な課題数を採択し、支援を行なった。遺伝子改変が複雑あるいは技術的に難しいケースは、必要な技術を導入・開発することにより対応している。
③病理形態解析支援活動 : 年々申請数が増加しており、審査をより厳格に行っている。現在の予算ならびに班員のエフォートにおいてできる最大限の支援活動を実施しており、成果は確実に上がっている。
④生理機能解析支援活動 : 支援対象者のモデルマウスを対象にした感覚・運動・認知機能に関わる「網羅的行動テストバッテリー」を用いた行動解析支援を23課題、依存性薬物等の感受性に関連する行動解析および臨床データと遺伝子多型との関連解析を行う規制薬物作用解析支援を9課題、進展著しい光遺伝学に関する最新技術を活用した研究支援を10課題、多機能集積化電極による最先端の技術提供を行う多元的生理機能計測操作支援を16課題で実施した。
⑤分子プロファイリング支援活動 : 応募課題の審査体制が軌道に乗り、採否決定までの所要日数が前年度と比較して最大10日程度短縮された。応募前の技術相談を積極的に受け付けたことで、幅広い分野から新規ユーザーを獲得することができた。前年度までの支援成果を受けて高次評価に進んだ課題については、複数の支援担当者間での連携が功を奏した。shRNAライブラリー探索支援では実験条件をカスタマイズし、被支援者の特殊なニーズにも応えた。
①総括支援活動 : 支援により得られた成果の広報にも力を入れるとともに、被支援者にも本支援活動の重要性をアピールしてもらうよう働きかける。技術講習会では4プラットフォームとの連携を推進し、H31年度は先進ゲノム解析研究支援プラットフォームから講師と参加者を受け入れる。
②モデル動物作製支援活動 : 先端的なゲノム編集技術や研究リソース等を用いて、支援活動の拡充を図るとともに、革新的な遺伝子改変技術および周辺技術の導入・開発を進めることにより、学術研究の推進に貢献するとともに、学術基盤としての研究リソースを整備する。
③病理形態解析支援活動 : 現状で予算ならびに支援を担当する班員の対応状況に関して厳しい状態となっていることから、今後は審査をより厳格に行い、成果につながる可能性が高い申請を選択する。基本姿勢として、一旦開始した病理形態支援は論文が受理されるまでサポートするという方針に変化はない。
④生理機能解析支援活動 : 5つの拠点への支援申請が何れも安定して多数あることから、引き続きニーズに応えられるように拠点における技術力を維持・向上させ、支援実施体制をハイレベルに保つ。また、研究者コミュニティーにおける支援事業の認知度を向上させるため、学会等での広報活動を行う。技術支援にとどまらず、支援該当部の論文分担執筆を積極的に進め、成果の公表にも貢献する。
⑤分子プロファイリング支援活動 : H30年度に引き続き、広報活動の強化・解析条件のカスタマイズ対応・支援実施後のフォロー(科学的助言、共同究の斡旋、高次支援の勧奨)に努めるとともに、年2回の定例班会議で問題点を洗い出し、常に最善の運用体制で支援を実施する。支援内容の性質上、個体レベルの研究を行わない研究者層が主要な被支援者層と一致しているが、共同研究や他の支援活動班との連絡を通じて、個体レベルの研究にも展開させたい。 -
マウス体系的遺伝解析系を用いたウレタン誘発肺腫瘍感受性の遺伝的解析
研究課題/研究課題番号:26430088 2014年4月 - 2018年3月
大野 民生
担当区分:連携研究者 資金種別:競争的資金
SMXA・RI系統群の解析でマップされた2つの肺腫瘍感受性遺伝子座Par1(Chr.11)とPar3(Chr.12)の存在は、マップ領域を導入したコンジェニック系統では確認できなかった。そのため、Chr.11コンジェニック系統群で肺腫瘍感受性遺伝子座を再解析した結果、先のマップ領域とは異なりChr.11の27.7~36.4Mb内に目的の遺伝子座の存在が示唆された。ここにはヒトの肺腫瘍発症への関与が報告されているMpg遺伝子が存在しており、A/J系統のMpg遺伝子内の5つのアミノ酸置換を伴う変異のうち特にp.Ala132Ser変異がウレタン誘発肺腫瘍感受性の有力な原因であると考えられた。
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オフセット印刷工程で多発した胆管癌の原因解明と動物モデルの確立
研究課題/研究課題番号:26670329 2014年4月 - 2017年3月
市原 学
担当区分:連携研究者 資金種別:競争的資金
オフセット印刷工場で多発した胆管がんの原因候補物質として1,2-ジクロロプロパン(DCP)が挙げられているが、過去の同物質を用いた動物実験は胆管がんの発生を示していない。本研究は同物質への感受性の種差がグルタチオンS-トランスフェラーゼの分布で説明できないことを示した。さらに本研究は、マウスにおいてDCPが胆管上皮細胞増殖と細胞死を誘導し、それら作用に肝臓代謝酵素P450が貢献していることを世界で初めて示した。本研究結果は、DCPが胆管がんの原因物質であることを強く示唆するものである。
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酸化ストレスとMet遺伝子の増幅をターゲットとした卵巣明細胞腺癌の治療戦略
研究課題/研究課題番号:26460423 2014年4月 - 2017年3月
山下 依子
担当区分:連携研究者 資金種別:競争的資金
卵巣明細胞腺癌の移植モデルにおけるMet阻害剤の効果について、現時点で著効するという実験結果を得ることができていない。その理由としてさまざまな要因が考えられるが、卵巣明細胞癌の細胞株の増殖速度が遅いため、ヌードマウスへの移植実験の実験結果が安定しないことが挙げられる。卵巣明細胞腺癌以外の腫瘍についてMet増幅の有無を検討したところ、内膜癌の一部では増幅があることが確認された。一方で乳癌ではほとんど増幅がないことが判明した。
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病態モデルを用いた脳梗塞ならびに認知症の予防介入効果とその作用機序に関する研究
研究課題/研究課題番号:26350610 2014年4月 - 2017年3月
石田 和人
担当区分:連携研究者 資金種別:競争的資金
「健康寿命」延長の具体的な方策を確立することは急務であり,特に,QOLを著しく制約する脳梗塞や認知症の予防方策を確立する必要がある.
脳梗塞動物作成前に、3週間の運動を行うことで脳梗塞の障害予防効果と脳内の抗酸化酵素発現増加を確認した.また,脳梗塞前の運動が,梗塞部周辺領域におけるアストロサイト活性と低酸素誘導因子-1αの発現増加をもたらすことで神経保護作用が高まる可能性を示した.さらに,加齢とともに認知症様の症状を漏らすとされている認知症マウス(アポリポ蛋白E4ノックインマウス)に対して,6週間の自発的運動を実施したところ,空間記憶に関する認知機能の低下を防ぐ効果を齎すことを示した. -
新領域「プラズマ医療科学創成」
2012年10月 - 2017年3月
科学研究費補助金 新領域研究
堀 勝
担当区分:研究分担者
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プラズマ医療科学の臨床応用論的学術基盤の構築と体系化
研究課題/研究課題番号:24108008 2012年6月 - 2017年3月
新学術領域研究(研究領域提案型)
吉川 史隆
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
非平衡大気圧プラズマの医療応用への研究が世界中で進められており、中でもがん治療への有用性が次々と報告されている。我々は現行の治療法では完治が困難な進行性難治癌である、グリオーマ、並びに卵巣癌をターゲットとしたプラズマ癌治療の有用性を明らかにし、中皮腫をモデルにその科学的基盤を構築した。特に、プラズマを照射した溶液にも抗腫瘍効果を見出し、髄腔内或は腹腔内播種を伴う癌腫への効果的なプラズマ治療法としての可能性を示した。一方、細胞活性化において、我々の研究グループで開発した脂肪幹細胞へのプラズマ刺激により高品質の幹細胞が生成され、再生医療分野においてもその有用性が示唆された。
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中皮細胞の発がん機構解析による予防基盤の形成
2012年4月 - 2015年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
豊國伸哉
担当区分:研究代表者
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中皮細胞の発がん機構解析による予防基盤の形成
研究課題/研究課題番号:24390094 2012年4月 - 2015年3月
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:18720000円 ( 直接経費:14400000円 、 間接経費:4320000円 )
中皮腫の発生機構をラット腹腔内にアスベストを投与するモデルを使用して解析し、ヒト中皮腫に酷似した遺伝子変化をきたすこと、局所の鉄過剰が主要な病態であることを明らかにした。鉄キレート剤デフェラシロクスの予防投与により、予後の比較的よい上皮型中皮腫の割合が有意に増加することを明らかにした。さらに、肉腫型中皮腫を規定し、中皮腫細胞の増殖に重要な遺伝子として、結合組織成長因子を同定した。
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子宮内膜症による鉄過剰に起因する卵巣癌発症の分子メカニズムの解明とその予後予測
研究課題/研究課題番号:23590394 2011年 - 2013年
山下 依子
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
卵巣の内膜症性嚢胞内への繰り返す出血に伴う鉄の過剰沈着によって起こる酸化ストレスによって類内膜腺癌と明細胞腺癌が発症することが近年報告された。本研究期間において、我々が卵巣明細胞腺癌の遺伝子変化についてアレイCGH法を用いて解析すると、Met遺伝子の増幅が高頻度に起こっており、予後不良因子であることを報告した。また、子宮内膜症患者との関連が報告されたANRIL遺伝子と共同して作用するCBX7の発現が卵巣明細胞腺癌の予後不良因子であることについても報告した。さらに、内膜症の間質細胞の役割についても検討し、報告した。
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がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動
2010年4月 - 2016年3月
科学研究費補助金 新領域研究
中村 祐輔
担当区分:研究分担者
個体レベルでのがん研究支援活動の中で、病変の組織学的解析を担当する。
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がん研究分野の特性等を踏まえた支援活動
研究課題/研究課題番号:221S0001 2010年4月 - 2016年3月
新学術領域研究(研究領域提案型)
今井 浩三, 中村 祐輔
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
がんの克服を目指す研究への支援から始まり、平成26 年度からは広く生命科学研究に携わる研究者も対象として支援を展開した。その結果、総括支援活動では若手研究者の育成ならびに今後研究支援に携わる可能性のある人材を育成し、国際学術交流を展開した。遺伝子改変マウスの供給支援、がん組織をはじめバイオリソースの提供支援等により、多くの世界的・先端的研究が展開された。日本を代表する疫学・ATL 研究では、得られた貴重な試料は11万検体を超え、多くの研究者を支援し貴重な成果を生み出した。化学療法基盤支援、ゲノム・エピゲノム支援は当初の目標を上回る成果を上げた。さらに市民講演会等により国民に支援の重要性を広報した。
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フロン代替物質による中枢神経脱髄を説明する酸化ストレス、グリア活性化に関する研究
研究課題/研究課題番号:22390120 2010年 - 2012年
市原 学
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
1-ブロモプロパン(1BP)曝露はラット小脳においてアストロサイト、ミクログリアを活性化するとともに、酸化ストレスを増大させた。さらに1BP曝露は海馬においてトリオースフォスフェイトイソメラーゼ(TPI)を含む様々な蛋白のカルボニル化を促進するとともに、TPI活性低下、Advacnced Glycation End-product上昇を引き起こした。本研究は蛋白のカルボニル化が1BPの中枢神経毒性と関わっていることを示唆した。
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発がん過程におけるDNA損傷・修復のゲノム内分布動態の解明
研究課題/研究課題番号:22500997 2010年 - 2012年
赤塚 慎也
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
免疫沈降の原理に基づき、DNA損傷の存在部位をゲノム全体にわたって検出する方法を新たに開発し、実用性を評価した。鉄ニトリロ三酢酸誘発げっ歯類腎発がんモデルの標的細胞より抽出したゲノムDNAについて、代表的な酸化修飾塩基である8-OHdGおよびacrolein-dAに対する抗体を用いて免疫沈降を施行し、それらの酸化的DNA損傷のゲノム内分布をアレイCGHにより解析した
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転写と染色体領域の視点から見たゲノムDNA損傷位置情報の解析
2008年4月 - 2010年3月
科学研究費補助金 特定領域研究 研究種目コード:034 20012026
担当区分:研究代表者
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転写と染色体領域の視点から見たゲノムDNA損傷位置情報の解析
研究課題/研究課題番号:20012026 2008年 - 2009年
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:11200000円 ( 直接経費:11200000円 )
ゲノム情報の変化は発がん過程で重要な役割を果たしている。本研究においては、培養細胞や個体各臓器の細胞のゲノム配列において、紫外線・放射線あるいは鉄を介した酸化ストレスによってDNA塩基への傷害が起こりやすい部位をアレイ技術の応用により網羅的に同定し、その法則性を見いだすことを目的とした。これまでに、私たちは鉄ニトリロ三酢酸(Fe-NTA)腹腔内投与による腎発がんモデルを開発し、その病態に酸化ストレスが関与すること、主要な標的遺伝子にCDKN2Aがん抑制遺伝子やptprz1遺伝子などがあることを示し、ゲノムに酸化ストレスに対して欠損・増幅しやすい領域があることを報告した。今年度は遺伝解析より新たにalninoacylase-1にがん抑制遺伝子としての作用があることを見いだした。昨年度に引き続き、モノクローナル抗体で修飾塩基を含むDNA断片を免疫沈降する技術とマイクロアレイ技術を組み合わせることにより、ゲノム内の酸化ストレスに対する脆弱部位を網羅的に解析した。Fe-NTA腹腔内投与による腎癌モデル初期において代表的な酸化修飾塩基である8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)に対するモノクローナル抗体を使用した実験を反復した。対照のラット腎臓ならびにFe-NTA投与3時間後の腎臓からゲノムDNAを抽出し、制限酵素BmgT120Iで切断後,DNA断片の免疫沈降を行い,8-OHdGを含むDNA断片を回収した。DNA断片を蛍光色素でラベルした後CCGHのアレイにハイブリダイゼーションし解析を行った。すると、8-OHdGは非遺伝子領域に高密度に分布し、遺伝子領域には相対的に低密度に分布することが判明した。ゲノムの遺伝子密度と8-OHdGの存在頻度に有意な負の相関を認めた。分布のパターンそのものは対照と酸化ストレスのかかった状態でほとんど差が見られなかった。CDKN2A部位では酸化ストレス時に8-OHdGの増加を認めた。
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臓器の酸化ストレスを予知する血清検査法の開発
2006年4月 - 2008年3月
科学研究費補助金
担当区分:研究代表者
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転写と染色体領域の視点から見たゲノムDNA損傷位置情報の解析
2006年4月 - 2008年3月
科学研究費補助金 特定領域研究 研究種目コード:034 18012023
担当区分:研究代表者
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臓器の酸化ストレスを予知する血清検査法の開発
研究課題/研究課題番号:18659160 2006年 - 2007年
萌芽研究
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:3300000円 ( 直接経費:3300000円 )
制限酵素で断片化したゲノムDNAを用いて、特定の修飾塩基を含む断片を特異的に免疫沈降する方法の開発を行った。酸化ストレスにより生成する修飾塩基として、8-hydroxy(oxo)guanine, acrolein-modified adenine, thymine glycolを選出し、それぞれ特異性を確認したモノクローナル抗体を使用した。二本鎖オリゴDNAで修飾塩基をひとつ含む断片を作成し、システムが稼働することを確認した。次に制限酵素で切断したゲノムDNAを使用し、負荷DNA量・修飾塩基の含量と正の量依存性があることを確認した。マウスに鉄キレート化合物を投与し、酸化ストレス傷害を起こした腎臓を使用して以下の実験を行った。対照として、未処置動物腎臓を使用し、ゲノムに存在する8-hydroxyguanineの除去修復を行う酵素OGG1のノックアウト動物も使用した。酸化ストレスを与えると、免疫沈降されたDNA断片量は8-hydroxyguanine, acrolein-modified adenineに関して有意に増加した。回収DNA断片をライブラリーとみなしてクローニングし、未処置コントロール群と酸化ストレス群の両修飾塩基について、各群約300クローンの塩基配列決定を行い、データベースで染色体上の位置を確認し、マッピングを行った。染色体分布に関して検討すると、各群において有意に高頻度・低頻度を示す染色体が存在した。特に、8-hydroxyguanine/controlで多い16番染色体とacrolein-modifiedadenine/oxidative stressで多い15番染色体に注目した。ペインティング・プローブを使用してFISH解析を行うと、15番は核膜の近傍に、16番は核中心部に存在する確率の高いことが判明した。また、ヒト線維芽細胞を使用し紫外線を照射する系においても、thymine glycolに関して同様の方法論の有効性を確認した。また、本法の応用として、免疫沈降したDNA断片を増幅し、注目するゲノム領域でPCR解析ができるプロトコールも開発した。結論として、今回検討したDNA修飾塩基のゲノム内分布はランダムではないことが判明し、新たな血清検査法への基礎となるデータを得ることが出来た。
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転写と染色体領域の視点から見たゲノムDNA損傷位置情報の解析
研究課題/研究課題番号:18012023 2006年 - 2007年
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:10900000円 ( 直接経費:10900000円 )
新たに開発したDNA断片の免疫沈降法により、酸化ストレスによるゲノムDNA傷害部位がランダムではないことを、ラット鉄ニトリロ三酢酸誘発腎癌モデルを使用して初めて明らかにした。その片寄りを決定する要素は、当該ゲノム部位が遺伝子か否か、その発現量、核内位置(染色体領域)、反応化学種などが想定された。gpt delta transgenic mouseを使用して、酸化ストレス発がんにおける変異スペクトラムを評価した。点突然変異はG:Cを標的とするもの(特にG:C to C:G)が多いことが判明し、1kb以上の欠損を比較的高頻度に認めた。この傾向は放射線や紫外線と異なり、正常の大腸粘膜に類似していた。鉄ニトリロ三酢酸誘発腎癌においてCGH解析を行い、動物モデルとしては初めて、共通した領域で高頻度のアレル損失や、染色体領域の増幅を認めた。ほとんどアレル増減のないEkerラット腎癌や他の発癌モデルと対照を呈した。この結果は染色体レベルの異常が高頻度に見られるヒトの発がんにおいても酸化ストレスが関与していることを示唆する。ヒトの染色体座標ヘデータを変換し種々のヒト癌のデータと比較検討も試みた。更に、アレイCGHと発現マイクロアレイの データから、本発癌モデルにおいて増幅する癌遺伝子を同定した。染色体全領域の中で、ラット染色体4番短腕(ヒト染色体7番)で高頻度の遺伝子増幅を認め、その部位に存在するptprzlに着目し た。これまで、phosphataseは癌抑制遺伝子とみなされる場合が多かったが、今回は転写因子であるβカテニンが分解されないよう核への移行を促進する癌遺伝子としての新たなメカニズムを解明した。
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遺伝的負荷の高い脳血管疾患の遺伝疫学と高リスク者戦略による2次予防
2005年4月 - 2009年3月
科学研究費補助金 基盤研究(S) 研究種目コード:330 17109007
小泉昭夫
担当区分:研究分担者
我々は、遺伝的負荷のとして家族性脳動脈瘤、家族性もやもや病および家族性の脳動静脈奇形(AVM)について昨年に引き続き検討した。
1)家族性脳動脈瘤に関する研究:3世代にわたり罹患の証明できる9家系に常染色体優性遺伝形式を仮定し連鎖解析を行なった。その結果19q13.3-19q13.4に、LOD=4.10(HLOD=4.10)連鎖領域を確認した。この領域は、我々が既に報告した領域と一致する。今後、この領域を候補とし候補遺伝子の解析を進める。また、平成18年度には、平成13年に登録した69名の追跡を行い、そのうちSAH発症者を除く46名(未破裂脳動脈瘤5名、前回に脳動脈瘤なし41名)に呼びかけたところ、新規参加者7名と、不参加の6名を除く40名がMRAに参加した。前回なしの36名のうち2名に新たに脳動脈瘤が見出された。今後も引き続き追跡を続ける予定である。
2)家族性もやもや病:15家系を用いて、affected-member-onlyによるパラメトリック解析を行ったところ、有意な連鎖領域は1領域(LOD>3.6)のみであり、17q25に、LOD Score8.08の強い連鎖領域を認めた。この領域には90遺伝子が存在し、pseudogeneおよびhypothetical geneを除いた62の遺伝子について解析を進めている。
3)家族性AVM:家族性AVM6家系およびAVMの高発性地域である岐阜県内のT市で症例26例および対照30例の協力を得て行なった。またこの地域から、2組のdiscordant identical twinsが参加した。家系を用いた連鎖の候補領域(p<0.05)と多発地域での相関研究での候補領域(p<5X10-6)の重なりは認められなかった。また、discordant identical twinsの2組を50Kの高密度SNPsでタイピングしたところ、配列の欠失、重複などは認められなかった。 -
遺伝的負荷の高い脳血管疾患の遺伝疫学と高リスク者戦略による2次予防
研究課題/研究課題番号:17109007 2005年 - 2009年
小泉 昭夫
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
本研究は、脳動脈瘤およびMoyamoya病、脳動静脈奇形の感受性遺伝子の同定を目指した。脳動脈瘤に関しては、17qcentの解析でTNFRSF13Bを感受性遺伝子として同定した。また、脳動静脈奇形については、遺伝要因の関与は小さいものと結論された。もやもや病については新規遺伝子mysterinを感受性遺伝子として同定した。もやもや病に関する以上の知見を用いて、治療および早期診断の導入が可能となった。
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酸化ストレス発がんモデル動物の遺伝学的・分子生物学的解析
2004年11月 - 2006年10月
科学研究費補助金 特別研究員奨励費 研究種目コード:500 04F04494
担当区分:研究代表者
鉄ニトリロ三酢酸(Fe-NTA)腹腔内投与によるラット腎発がんは、転移が高頻度におこること,発がん過程でフリーラジカルによる組織傷害を伴うことに特徴を有する酸化ストレス発がんモデルである。ヒトの発がん過程においても酸化ストレスが炎症,放射線,紫外線など多面的に関わっていると考えられることから、この発がんモデルの詳細な解析を施行した。まず、Fischer344系統とBrown-Norway系統のラットをかけあわせ,F1動物を作成した。そのF1動物の雄にFe-NTAを腹腔内に3ヶ月に渡り投与し、その後1年以上経過観察することにより、50例以上の腎臓癌サンプルを収集した。これまでのマイクロサテライト解析により、ラット染色体5番と8番にアレル揖失が高頻度に発生することが判明していたため、染色体8番について解析を進めた。2系統でpolymorphicな34のマイクロサテライトマーカーを使用して、22の腫瘍についてアレル損失の解析を行った。染色体8番全体に高いアレル損失を認めたが、その中でも70%を越える高率の部位に関して、腎癌のcDNAマイクロアレイ解析による発現が有意に減少する遺伝子を検索した。今回,aminoacylase-1を新たながん抑制遺伝子の候補として見出した。これをRNA,蛋白レベルで確認した。細胞内画分を用意し,この蛋白が細胞のどの部分に存在するのかを検索した。核画分のみにおいてこの蛋白と結合する低分子蛋白の4本の強いバンドが出現した。これを切り抜きマススペクトロメトリーで同定すると、すべてヒストン蛋白であった。また,gpt deltaトランスジェニックマウスを使用して腎臓におけるFe-NTAの変異パタンの解析を行った。G : Cへの点突然変異ならびに1kb以上の欠損が高頻度に起こることが判明した。
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ゲノムレベルにおける酸化ストレス病態解析法の開発とその応用
2004年4月 - 2005年3月
科学研究費補助金 特定領域研究 研究種目コード:034 16012234
担当区分:研究代表者
酸化ストレスは動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病の発症に関与していると考えられる。これまで私たちはラジカル発がんモデルにおいて、変異の標的となる遺伝子が存在することを報告した。酸化ストレス病態のゲノムへの影響を調べるため、ゲノムDNAで酸化傷害が生じた部位を網羅的に検出する方法を開発した。修飾塩基を含む8-hydroxy-2'-deoxyguanosine (8-OHdG)に対するモノクローナル抗体で免疫沈降することにより、その修飾塩基を含むDNA断片をクローニングする技術を確立した。無処置あるいは鉄ニトリロ三酢酸を投与したマウス腎から抽出したゲノムDNAを材料として、各動物について100個以上の8-OHdGを含有する断片をクローニング、塩基配列を決定し、その断片の染色体上における位置情報・意義をインタネット上のデータベースで検索し、解析した。1)N45.1は8-OHdGを含有する断片を特異的に免疫沈降した。2)このシステムでDNA負荷量と8-OHdG含有量に関して量依存性を認めた。3)「ランダム」という現象を「各染色体の塩基長に比例した断片の分布」と仮定すると、カイ2乗統計量による適合度検定でp=0.07程度の危険率でランダムではない。特に16番はどちらの群でも頻度が高い。5)遺伝子領域からの距離という観点で8-OHdG含有断片を解析すると、遺伝子領域の比率がやや高い。遺伝子領域ならびに遺伝子から数百kb離れた領域の断片の割合が鉄ニトリロ三酢酸投与で増加した。6)遺伝子領域断片のうち、その発現の認められる割合も鉄ニトリロ三酢酸投与で増加した。ゲノムDNAにおける8-OHdGの生成部位はランダムではない。少なくとも、どの染色体上にあるか、遺伝子領域かどうか、遺伝子領域なら発現しているかどうかなどの多因子が関係していることが示唆される。
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ゲノムレベルにおける酸化ストレス病態解析法の開発とその応用
研究課題/研究課題番号:16012234 2004年
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:4000000円 ( 直接経費:4000000円 )
酸化ストレスは動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病の発症に関与していると考えられる。これまで私たちはラジカル発がんモデルにおいて、変異の標的となる遺伝子が存在することを報告した。酸化ストレス病態のゲノムへの影響を調べるため、ゲノムDNAで酸化傷害が生じた部位を網羅的に検出する方法を開発した。修飾塩基を含む8-hydroxy-2'-deoxyguanosine (8-OHdG)に対するモノクローナル抗体で免疫沈降することにより、その修飾塩基を含むDNA断片をクローニングする技術を確立した。無処置あるいは鉄ニトリロ三酢酸を投与したマウス腎から抽出したゲノムDNAを材料として、各動物について100個以上の8-OHdGを含有する断片をクローニング、塩基配列を決定し、その断片の染色体上における位置情報・意義をインタネット上のデータベースで検索し、解析した。1)N45.1は8-OHdGを含有する断片を特異的に免疫沈降した。2)このシステムでDNA負荷量と8-OHdG含有量に関して量依存性を認めた。3)「ランダム」という現象を「各染色体の塩基長に比例した断片の分布」と仮定すると、カイ2乗統計量による適合度検定でp=0.07程度の危険率でランダムではない。特に16番はどちらの群でも頻度が高い。5)遺伝子領域からの距離という観点で8-OHdG含有断片を解析すると、遺伝子領域の比率がやや高い。遺伝子領域ならびに遺伝子から数百kb離れた領域の断片の割合が鉄ニトリロ三酢酸投与で増加した。6)遺伝子領域断片のうち、その発現の認められる割合も鉄ニトリロ三酢酸投与で増加した。ゲノムDNAにおける8-OHdGの生成部位はランダムではない。少なくとも、どの染色体上にあるか、遺伝子領域かどうか、遺伝子領域なら発現しているかどうかなどの多因子が関係していることが示唆される。
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酸化ストレス下における細胞内ゲノム環境の可塑性と破綻
2003年10月 - 2005年9月
科学研究費補助金 特別研究員奨励費 研究種目コード:500 03F03342
担当区分:研究代表者
哺乳類を含む高等動物は酸素をエネルギーに変換して生命活動を行っている。その変換効率は100%ではないため、ミトコンドリアなどで活性酸素が常時発生し、ゲノムに傷害を与えていると考えられる。これまで代表的なDNA修飾塩基である8-oxoguanineに関して、その量の多寡ならびに修復酵素の研究が行われてきた。本研究においては、脂質過酸化物のひとつであるアクロレインと2'-deoxyadenosineの付加体について、ゲノムのどのような部位でできるのかを解析するのを目指して、今年度の6ヶ月に間に方法の確立を図った。これまで、私たちはアクロレインと2'-deoxyadenosineの付加体に対するマウスモノクローナル抗体を共同で開発し、酸化ストレスによる発癌モデルである鉄ニトリロ三酢酸誘発ラット腎発癌モデルに置いて、この付加体が増加していることを確認した。この結果をもとに、ゲノムDNAの免疫沈降の実用化を検討した。ラット腎臓より、ゲノムDNAはよう化ナトリウム法で抽出し、制限酵素処理により平均的1000bpの断片とした。添加DNA量、抗体量、反応時間、洗浄バッファー組成、プロテインAセファロースあるいは2次抗体付加磁気ビーズ量などに関して詳細な検討を行い、最適な条件を見出した。この条件で、免疫沈降を行うと鉄ニトリロ三酢酸投与6時間の腎臓のゲノムDNAにおいて、免疫沈降されるDNA量が有意義に高いことが判明した。
平成15年度の6ヶ月間において、DNAの免疫沈降の条件の最適化を行うことが出来た。平成16年度においては、この条件を使用してデータの収集を推進した。動物モデルとして、酸化ストレス発がんモデルとして確立された鉄ニトリロ三酢酸をマウスの腹腔内に投与する方法を使用した。コントロールおよび投与後6時間のサンプルを採取し、酸化を起こさない条件でゲノムDNAを抽出後、制限酵素処理で断片として、抗アクロレインデオキシアデノシン付加体(ADA)モノクローナル抗体を使用して免疫沈降を行った。各条件について動物3匹、動物1匹に関して100クローン以上をそれぞれシークエンスし、セレラあるいは公共のデータベースと照合することにより、当該クローンの染色体位置、最も近い遺伝子からの距離などに関して詳細に解析した。鉄ニトリロ三酢酸の投与によりADAは有意に増加した。ADAの生成した各染色体の頻度はほぼ染色体のゲノムの長さに比例したものの、全染色体に予想される頻度に関して、カイ2乗検定を行うと、コント -
マウス遺伝的カタラクトの分子生物学的解析
2003年4月 - 2005年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B) 研究種目コード:310 15300142
鶴山 竜昭
担当区分:研究分担者
レンズは解剖学的に簡素な構造ながら、多数の遺伝子群が働いてその発達、光学的特性を維持している。遺伝的カタラクトはレンズの分子解剖を行う上で有力なツールである。松島らが発見したRupture of lens cataract (RLC)はマウスの劣性単一変異遺伝子による遺伝的カタラクトで、生後35日ころからレンズ後縫合のレンズ線維末端部の変性により、線維相互間あるいは線維・カプセル間の結合が失われる結果、レンズの破綻がおこるものである。我々はRLCと野生マウス由来近交系MOMの交配系を遺伝解析し第14染色体の約28.5cMの位置に遺伝子座rlcをマップした。当研究室では理化学研究所林崎研究室と協力し、この遺伝子の本体の検索を行い、これが細胞内シグナル伝達分子DOCK180の9アミノ酸の欠損によるものであることを確定した。ミュータント形質はcrystallin promoterをつないだDock1 cDNAを導入したトランスジェニックマウスを作成することによりレスキューされることを確認した。この欠損はDOCK180下流のRac1の活性化を低下させることにより、細胞接着シグナル細胞骨格系に伝える経路に機能不全をおこす。この結果、発達しつつあるレンズの内部応力に耐えることができず、レンズの破綻をきたすものと考えられた。RLCにみられる分子構造の異常はこれまで全く記載がなく、レンズの生理機能を明らかにするのみならず、DOCK180の生理的機能についても新しい光をあてるものである。
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マウス遺伝的カタラクトの分子生物学的解析
研究課題/研究課題番号:15300142 2003年 - 2004年
鶴山 竜昭, 日合 弘
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
レンズはレンズ上皮細胞が分化したレンズ線維が複雑に編み上げられた構造体で、単純な構造ながら、レンズの発達、光学的特性に適応した動的な分子生物学的特性を持っている。この機能を維持するため多数の遺伝子が関与しているが、その変異は多くはレンズの混濁、つまり遺伝的カタラクトの表現型をとる。レンズ線維間、あるいは線維とカプセルとの接着にも多くの分子が関係していることが知られているが、その全貌は明らかではない。松島らが発見したRupture of lens cataract(RLC)はマウスの劣性単一変異遺伝子による遺伝的カタラクトで、生後35日ころからレンズ後縫合のレンズ線維末端部の変性により、線維相互間あるいは線維・カプセル間の結合が失われる結果、レンズの破綻がおこるものである。我々はRLCと野生マウス由来近交系MOMの交配系を遺伝解析し第14染色体の約28.5cMの位置に遺伝子座rlcをマップした。当研究室では理化学研究所林崎研究室と協力し、この遺伝子の本体の探索を行い、これが細胞内シグナル伝達分子DOCK180の9アミノ酸の欠損によるものであることを確定した。ミュータント形質はcrystallin promoterをつないだDock1 cDNAを導入したトランスジェニックマウスを作成することによりレスキューされることを確認した。この欠損はDOCK180下流のRac1の活性化を低下させることにより、細胞接着シグナルを細胞骨格系に伝える経路に機能不全をおこす。この結果、発達しつつあるレンズの内部応力に耐えることができず、レンズの破綻をきたすものと考えられた。RLCにみられる分子機構の異常はこれまで全く記載がなく、レンズの分子解剖を明らかにするのみならず、DOCK180の生理的機能についても新しい光をあてるものである。
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酸化ストレスの病理的意義の追究とその病理診断への応用
2002年4月 - 2004年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究種目コード:320 14570140
担当区分:研究代表者
鉄ニトリロ三酢酸(Fe-NTA)をラットに腹腔内に反復投与すると、高率に腎癌が発生する。この発癌過程では鉄を介したフェントン反応が関与していること、癌の悪性度が高いことが特徴である。このモデルでDifferential Displayによるスクリーニングで得られたAnnexin 2(Anx2)の役割について動物モデル・試験管内の実験で詳細な検討を行い、次にヒトの癌の予後判定に役立つかどうかを手術標本を使用して検討した。ラット腎正常近位尿細管でAnx2蛋白を検出しなかったが、Fe-NTA投与6時間より、残存尿細管で高い発現を検出した。Fe-NTA反復投与後3週間ではkaryomegalic cellの胞体・核に集積を認め、腫瘍では主に細胞表面に陽性像を認めた。Anx2はSerとTyr残基がリン酸化され、リン酸化されたactinと共沈した。転移例の原発巣において高発現を認めた。高発現性Fe-NTA誘発腎がん由来細胞株にanti-sense投与するとapoptosisを起した。LLC-PK1ブタ尿細管細胞に過酸化水素により酸化ストレスをかけると発現が増加し、この誘導は抗酸化剤で抑制された。Anx2はがん遺伝子srcの基質として発見されたが、各種kinaseの基質でもあり、さらに線溶系分子の細胞表面受容体などの役割を担う。今回の実験でAnx2がレドックス制御を受けることを初めて示した。Anx2は、レドックス制御・キナーゼ系・線溶系の要となり、promotion, progressionの過程で重要な役割を果たすと考えられた。更にこの結果を踏まえて、ヒト肺癌の予後の検討を行った。Anx2の発現の高い肺癌は予後の悪いことが判明した。
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酸化ストレスの病理的意義の追究とその病理診断への応用
研究課題/研究課題番号:14570140 2002年 - 2003年
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:3500000円 ( 直接経費:3500000円 )
鉄発癌モデルである鉄ニトリロ三酢酸(Fe-NTA)誘発ラット腎発癌でDifferential Displayによるスクリーニングで得られたAnnexin 2(Anx2)の役割について検討を行った。ラット腎正常近位尿細管でAnx2蛋白を検出しなかったが、Fe-NTA投与6時間より、残存尿細管で検出した。Fe-NTA反復投与後3週間ではkaryomegalic cellの胞体・核に集積を認め、腫瘍では主に細胞表面に陽性像を認めた。Anx2はSerとTyr残基においてリン酸化され、actinと共沈した。転移例の原発巣においては高発現を認めた。高発現性Fe-NTA誘発腎がん由来細胞株にanti-sense投与するとapoptosisを起した。LLC-PK1細胞に過酸化水素により酸化ストレスをかけると発現が増加し、この誘導は抗酸化剤で抑制された。Anx2はRous sarcoma virusのがん遺伝子srcの基質として発見されたが、各種kinaseの基質でもあり、さらに線溶系分子の細胞表面受容体などの役割を担う。今回の実験でAnx2がredox制御を受けることを初めて示した。Anx2は、レドックス制御・キナーゼ系・線溶系の要となり、promotion, progressionの過程で重要な役割を果たすと考えられた。更にこの結果を踏まえて、ヒト肺癌の予後の検討を行った。Anx2がひとつの予後因子となることが示された。また、PNAプローブで50年前に包埋されたパラフィン標本でmRNAを検出できることが明かにした。さらに、微量マイクロウェーブ照射装置を使用した方法で、ブロッキング後1時間以内に結果のでるウェスタンブロット法を開発した。生体肝移植に置いてもフリーラジカルによる肝傷害は重要である。今回、ABO血液型不適合輸血に置ける病理診断基準を症例解析により決定した。
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心臓の虚血再灌流障害とフリーラジカルによる酸化障害についての研究
2001年4月 - 2003年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究種目コード:320 13671414
野島 武久
心筋梗塞後の心不全に関して再灌流障害の関与が指摘されておりその際の酸化ストレスの影響が考えられるがその詳細は報告されていない。とくに時間的、空間的な変移については未だ明らかではない。本研究は心筋虚血再灌流時の酸化障害の免疫病理的・定量的評価を行っている。
平成13年度は心筋梗塞およびそれに引き続いておこるリモデリング、虚血性心筋症において酸化ストレスの時間空間的変化を明らかにした。ランゲンドルフモデルにおいて、再灌流後の酸化傷害は再灌流直後より上昇し、20分灌流後も持続した。灌流後3分ですでに上昇していること、無血下の条件で上昇している事から、細胞内の酸化物質の活性化による障害が示唆された。
平成14年度は、SDラット66匹に対して心筋梗塞を作成し、この心筋を梗塞後0、3、6、12、24、48時間1、2、4、6週間後に採取。免疫染色にて心筋酸化障害の局在を評価している。さらに高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって核DNA中の8-OHdGを定量し、アポトーシスの程度をTUNEL法にて評価した。免疫染色およびdG/8-OhdG比にて心筋梗塞部の8-OHdGは梗塞後6時間までは梗塞部に高く発現し、健常部は上昇しなかった。しかし12時間以後は梗塞部・周囲部で一度低下するが1週目を過ぎる頃から周囲部・健常部で上昇し、4週後でも周囲部には酸化障害が残存した。アポトーシスの程度は1週間程度まではあまり上昇しないが2週目から上昇しこの変化は心筋梗塞後の心機能の低下と相関があった。心筋梗塞後の酸化ストレスは2峰性の変化を示し1つ目が虚血による心壊死、2つ目がアポトーシスと関連した心機能不全を示していると考えられた。またこの手法は種々の心不全時の心筋細胞の評価に応用できる可能性が示唆された。 -
長時間心保存を期待したトレハロースの虚血再灌流障害防止作用に関する研究
2001年4月 - 2003年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究種目コード:320 13671383
植山 浩二
担当区分:研究分担者
1 トレハロースの指摘濃度の検討と再灌流障害の免疫病理学的検討。
[方法]SDラット摘出心にたいして灌流法は20分の準備灌流後に上記の液用いて心停止。以後30分に一回追加しながら90虚血とし再灌流する。再灌流後の左心機能を収縮末期圧容積関係(ESPVR)と拡張末期圧容積関係(EDPVR)にて評価した。この際灌流液または灌流血液を肺動脈より採取し生化学的検査(CK・MBなど)を行うとともに心筋標本採取。8-0HdG免疫染色と高速液体クロマトグラフィーにて定量した。
[結果]1 心筋保護効果の検討;グループA:セントトーマス液、グループB:3%トレハロース付加セントトーマス液の2群で比較検討した。(心収縮能の検討)再灌流後5分における収縮末期圧容量関係にて評価した。その結果トレハロース3%入りのセントトーマス液の方が収縮能をより保つことが示された。(心筋浮腫の程度に関する検討)心筋の浮腫を還流後の心筋重量増加率で比較した。結果トレハロース付加群で有為に浮腫を軽減した。また病理学的な細胞浮腫の検討でもトレハロース付加群で細胞浮腫の軽減される傾向を示した。以上のことからトレハロースは心筋保護液に付加する物質として有用である。
2 至適濃度の検討
4%の溶液においてその浸透圧は420前後と高く3%で380前後2%で340前後となる。この点から濃度は2%?3%が至適と考えられた。
3 保護にかんする作用機序の検討
1で得たサンプルにTUNEL法を用いてapoptosisを検討した。トレハロース群で有為にapoptosisが軽減した。
4 他の添加薬剤の検討
PARS inhibitorである3ABについて同様に検討。心収縮能に関して有効な結果を得た。 -
心臓の虚血再灌流障害とフリーラジカルによる酸化傷害についての研究
研究課題/研究課題番号:13671414 2001年 - 2002年
野島 武久
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
心筋梗塞後の心不全に関して再灌流障害の関与が指摘されておりその際の酸化ストレスの影響が考えられるがその詳細は報告されていない。とくに時間的、空間的な変移については未だ明らかではない。本研究は心筋虚血再灌流時の酸化障害の免疫病理的・定量的評価を行っている。
平成13年度は心筋梗塞およびそれに引き続いておこるリモデリング、虚血性心筋症において酸化ストレスの時間空間的変化を明らかにした。ランゲンドルフモデルにおいて、再灌流後の酸化傷害は再灌流直後より上昇し、20分灌流後も持続した。灌流後3分ですでに上昇していること、無血下の条件で上昇している事から、細胞内の酸化物質の活性化による障害が示唆された。
平成14年度は、SDラット66匹に対して心筋梗塞を作成し、この心筋を梗塞後0、3、6、12、24、48時間1、2、4、6週間後に採取。免疫染色にて心筋酸化障害の局在を評価している。さらに高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって核DM中の8-OHdGを定量し、アポトーシスの程度をTUNEL法にて評価した。免疫染色およびdG/8-OhdG比にて心筋梗塞部の8-OHdGは梗塞後6時間までは梗塞部に高く発現し、健常部は上昇しなかった。しかし12時間以後は梗塞部・周囲部で一度低下するが1週目を過ぎる頃から周囲部・健常部で上昇し、4週後でも周囲部には酸化障害が残存した。アポトーシスの程度は1週間程度まではあまり上昇しないが2週目から上昇しこの変化は心筋梗塞後の心機能の低下と相関があった。心筋梗塞後の酸化ストレスは2峰性の変化を示し1つ目が虚血による心壊死、2つ目がアポトーシスと関連した心機能不全を示していると考えられた。またこの手法は種々の心不全時の心筋細胞の評価に応用できる可能性が示唆された。 -
長時間心保存を期待したトレハロースの虚血再潅流障害防止作用に関する研究
研究課題/研究課題番号:13671383 2001年 - 2002年
植山 浩二
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
1 トレハロースの指摘濃度の検討と再灌流障害の免疫病理学的検討。
[方法]SDラット摘出心にたいして灌流法は20分の準備灌流後に上記の液用いて心停止。以後30分に一回追加しながら90虚血とし再灌流する。再灌流後の左心機能を収縮末期圧容積関係(ESPVR)と拡張末期圧容積関係(EDPVR)にて評価した。この際灌流液または灌流血液を肺動脈より採取し生化学的検査(CK・MBなど)を行うとともに心筋標本採取。8-0HdG免疫染色と高速液体クロマトグラフィーにて定量した。
[結果]1心筋保護効果の検討;グループA:セントトーマス液、グループB:3%トレハロース付加セントトーマス液の2群で比較検討した。(心収縮能の検討)再灌流後5分における収縮末期圧容量関係にて評価した。その結果トレハロース3%入りのセントトーマス液の方が収縮能をより保つことが示された。(心筋浮腫の程度に関する検討)心筋の浮腫を還流後の心筋重量増加率で比較した。結果トレハロース付加群で有為に浮腫を軽減した。また病理学的な細胞浮腫の検討でもトレハロース付加群で細胞浮腫の軽減される傾向を示した。以上のことからトレハロースは心筋保護液に付加する物質として有用である。
2 至適濃度の検討
4%の溶液においてその浸透圧は420前後と高く3%で380前後2%で340前後となる。この点から濃度は2%?3%が至適と考えられた。
3 保護にかんする作用機序の検討
1で得たサンプルにTUNEL法を用いてapoptosisを検討した。トレハロース群で有為にapoptosisが軽減した。
4 他の添加薬剤の検討
PARS inhibitorである3ABについて同様に検討。心収縮能に関して有効な結果を得た。 -
呼吸器外科手術における再灌流障害の予防と治療
1999年4月 - 2002年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B) 研究種目コード:310 11470270
和田 洋巳
担当区分:研究分担者
これまでのラットex vivo実験により、selectin blocker(KB-R9188改めOJ-R9188)が肺温虚血再潅流傷害を軽減することが明らかになったが、本年度はその作用機序を明らかにすべく、検討を行った。
1、Myeloperoxidase(MPO)活性の測定
ラットex vivo実験から得られた再潅流後肺の一部を用い、白血球組織浸潤の指標となるMPO活性を測定した。しかしその結果は、selectin blocker投与群、非投与群間に有意差を認めなかった。
2、抗酸化作用機序の検討
(1)直接的抗酸化作用
Electron Spin Resonance(ESR)法を用い、OJ-R9188がhydroxyl radicalやsuperoxideに対するradical scavengerとして作用するか否かを検討した。実際には、種々の濃度のOJ-R9188にspin trapping試薬を添加し、ESR spectrometerで抗酸化作用を測定した。
その結果、OJ-R9188に直接的抗酸化作用は認められなかった。
(2)一酸化窒素(NO)を介した抗酸化作用
ラットex vivo実験から得られた再潅流後肺の一部を摘出し、ピクリン酸で固定後スライド標本を作製した。ABC法に準じて3-nitro-L-tyrosine(3-NT)に対するポリクロナル抗体を用い、免疫染色を行い、評価した。その結果、selectin blocker投与群では非投与群に比し、NOを介した酸化傷害を軽減することが示された。 -
呼吸器外科手術における再灌流傷害の予防と治療
研究課題/研究課題番号:11470270 1999年 - 2001年
和田 洋巳
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
1、温虚血再潅流傷害に対するselectin blocker (OJ-R9188)の検討 (1)ラットの心肺ブロックを摘出し、37℃90分間の温虚血後ex vivo再潅流モデルにて再潅流を60分間行った。OJ-R9188投与群は、非投与郡に比べ、酸素化能などにおいて良好な肺機能がみられた。
(2)再潅流後肺を用い、白血球組織浸潤の指標となるMyeloperoxidase(MPO)活性を測定したが、両群間に有意さを認めなかった。
(3)再潅流後肺を用い、酸化ストレスにより産生されるDNA塩基産物8-hydroxy-2'-deoxyguanosineに対するモノクロナル抗体で免疫染色を行い、コンピューターにて定量解析したところ、OJ-R9188投与群は、非投与群に比べ、DNA酸化傷害を軽減することが示された。また、一酸化窒素(NO)を介した酸化ストレスにより産生されるタンパク修飾産物3-nitro-L-tyrosineに対するポリクロナル抗体で免疫染色したところ、OJ-R9188投与群は、非投与群に比べ、NOを介した酸化傷害を軽減することが示された。
(4)Electron Spin Resonance法を用いた解析では、OJ-R9188に直接的抗酸化作用は認められなかった。
以上のことから、OJ-R9188により肺温虚血再潅流傷害が軽減され、その機序の一つとして酸化ストレスの抑制が示された。
2、温虚血再潅流傷害に対するselectin blocker (OJ-R9545)の検討 ウサギin vivo再潅流モデル(37℃、110分間虚血、90分間再潅流)においてOJ-R9545の効果を評価した。OJ-R9545投与群は、非投与群に比べ良好な酸素化能を示し、MPO活性は低値を示した。すなわち、OJ-R9545じゃ白血球の組織浸潤を抑制し、温虚血再潅流傷害を抑制した。 -
ABO血液型不適合移植における移植肝障害の病理学
1998年4月 - 2000年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究種目コード:320 10670157
山邉 博彦
担当区分:研究分担者
本研究はABO血液型不適合移植後に発生する肝機能障害の病理学的特徴を解明することを目的とする。京大病院において平成2年6月から平成8年3月の5年9カ月間にタクロリムス免疫抑制下に行った血縁者間生体部分肝移植移植213例中ABO血液型不適合移植症例29例の結果は昨年報告した。
本年はその後平成8年4月から平成10年末までの2年9ヶ月間に移植された210例のうちのABO血液型不適合移植症例24例について、移植後の肝機能障害時の病理組織学的検討を行い以下の結果を得た。(1)超急性拒絶反応は見られなかった。(2)急性細胞性拒絶反応は54%の症例(13症例)に見られた。(3)慢性拒絶反応の症例はなかった。(4)胆管炎は42%の症例(10例)に見られた。(5)死亡例9例のうち剖検を行った3例ではいずれも循環障害による肝障害が見られた。また、再移植例2例の摘出肝では1例で肝動脈血栓症が、他の1例では肝動脈血栓症を原因とすると考えられる慢性胆管障害が見られた。(6)移植前後の抗血液型抗体価と胆管障害および死亡・再移植との関連が見られた。
この両年度の結果を総合すると、ABO血液型不適合肝移植においては液性拒絶反応に特有とされる超急性拒絶反応は見られなかったが、特に抗血液型抗体価の高い症例において剖検肝、再移植時摘出肝および肝生検において刊循環障害あるいは胆管障害(慢性胆管炎)がしばしば見られ、また生検で胆管炎がABO血液型適合または一致症例にくらべて高頻度に見られた。
これらの所見からこの肝循環障害と胆管障害がABO血液型不適合肝移植に特有な障害と考えられ、その組織発生としては、まず血管内皮を標的とする抗原抗体反応性の血管障害が起こり、その結果胆管に虚血を生じて虚血性胆管炎を招来すると推測された。なお、急性拒絶反応もABO血液型適合または一致症例にくらべて高頻度に見られた。 -
ABO血液型不適合移植における移植肝障害の病理学
研究課題/研究課題番号:10670157 1998年 - 1999年
山邉 博彦
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
平成2年6月から平成10年12月末までの8年7ヶ月間にタクロリムス免疫抑制下に行った血縁者間の生体部分肝移植423例(412患者)のうちのABO血液型不適合移植症例53例(51患者)について、移植後の肝機能障害時の病理組織学的検討を行い以下の結果を得た。
(1)超急性拒絶反応は見られなかったが、症例の7%に肝動脈血栓症が、38%に急性/慢性胆管炎が、59%に急性細胞拒絶反応が、2%に慢性拒絶反応が、2%に臓器保存・再灌流障害が、25%に急性肝炎が、8%に慢性肝炎が、6%に移植後リンパ増殖性疾患がそれぞれ見られた。(2)肝動脈血栓症、急性/慢性胆管炎および急性細胞性拒絶反応の頻度はABO血液型一致または適合移植症例に比較して高かった。(3)肝動脈血栓症および急性/慢性胆管炎は移植前後の抗血液型抗体価の高い症例に高頻度に発生したが、急性細胞性拒絶反応では抗血液型抗体価との関連は見られなかった。(4)移植後41.5%(22例)において患者が死亡し、あるいは移植肝の機能廃絶して再移植を受けた。この頻度はABO血液型一致または適合移植症例に比較して高かった。主な原因は、肝動脈血栓症と急性/慢性胆管炎であった。(5)移植後肝機能廃絶摘出肝の病理組織学的解析にて、これらに見られる急性/慢性胆管炎は肝動脈血栓を背景として生ずる二次的な虚血性胆管炎であると考えられた。
以上のデータから、ABO血液型不適合血縁間生体部分肝移植においては、血管内皮と標的とする抗血液型抗体による抗原抗体反応によって肝動脈血栓症がしばしば発生し、そのため二次的に肝動脈の血流に支配されている胆管に虚血性胆管傷害をきたして急性/慢性胆管炎を高頻度に合併し、移植肝の機能廃絶の原因となることが示された。急性拒絶反応も高頻度にみられたが、これは液性反応と無関係であると考えられた。 -
活性酸素のエフェクター分子の固定とその生物学的意義の追求
1997年4月 - 2000年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究種目コード:320 09670223
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者
鉄ニトリロ三酢酸による腎尿細管傷害・腎発がんのモデルは1982年に当教室で開発されたモデルであり、腎近位尿細管でFenton-like reactionを引き起こす。酸化ストレスの形態学的評価のためには、フリーラジカル反応によるcovalentな修飾を受けた分子に対する抗体を作製するというストラテジーが適切と考え、まず、生体内においてはどのような修飾分子の増加率が高いかを検討した。上記モデルにおいては、DNA修飾塩基として8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)、アルデヒド化合物として4-hydroxy-2-nonenal(HNE)の増加率が最も高いことを見いだした。アルデヒド化合物はフリーの状態でいると、疎水性でありパラフィン包埋の過程で流出し失われてしまう。アルデヒド化合物が蛋白のアミノ酸残基と反応しマイケル反応産物を形成するという化学反応の解明が、抗体作成の過程で重要であった。名古屋大学大学院生命農学研究科、日本老化制御研究所と共同で、上記のエピトープに対するポリクローナル・モノクローナル抗体を作製あるいは評価を行った。そして、幸運にもこれらの抗体は通常のパラフィン包埋の病理標本で使用可能であることが判明した。
上記鉄ニトリロ三酢酸のモデルだけではなく、糖尿病(Goto-Kakizakiラット)、虚血・再灌流モデル(肺、肝、皮弁)、砒素中毒症、大腸癌、C型肝炎、アルコール性肝炎などにおいて酸化ストレスが関与していることを証明した。特に、糖尿病の膵ランゲルハンス島における酸化ストレスの評価は本手法により初めて可能となったものであり意義深い。 -
多因子遺伝病の研究・宿主モディファイヤー遺伝子の探求
1997年4月 - 2000年3月
科学研究費補助金 基盤研究(A) 研究種目コード:300 豊國 伸哉 (トヨクニ シンヤ) 京都大学・大学
日合 弘
担当区分:研究分担者
これまで取り組んできた仕事の多くで著明な進展がみられた。(1)リンパ腫好発系SL/Khマウスの骨髄Pre-B細胞の一過性増殖は第3染色体上のQTLであるBomb1(Lef1)によることが示された。(2)リンパ腫DNAへのウイルス組込みホットスポットの多くがクローニングされ、Bomb1によるリンパ球分化異常とリンパ腫発生機構の関連に大きな手がかりが得られた。(3)4NQO誘発ラット舌癌については感受性に関与する5つの宿主遺伝子座をマップし遺伝様式を解明した。(4)化学発癌剤抵抗性DRHラットの肝発癌モデルで前癌病変であるGST-P陽性フォーカスの遺伝支配を研究し第1、第4染色体に高度に有意な座位をマップした。(5)遺伝的カタラクトRLCについては責任遺伝子マップ位置からPYK2が候補遺伝子で、RLCレンズで正常マウスを免疫するとPYK2のN端異常ペプチドに対する抗体が作られた。cDNA,genomic DNAについて、遺伝子構造を解析中。(6)NCTカタラクトはNa/Kpumpに対する内因性抑制ペプチドの形成により発生する。1000頭の戻し交配系を解析し、マップ位置からBAC contingを作製中である。カタラクトのタイプ(pin head or diffuse)を決めるmodifier geneを第10染色体にマップした。この位置にNa/K pumpの一部がマップされていた。(7)PNUによるラット白血病の病型決定機構を解析するためF344とLE/Stmの間で育成されたRl系について、白血病を誘発して遺伝解析を行い、数個のQTLが関与している可能性を示した。これら一連の研究から内在性レトロウイルス、化学発癌剤、遺伝的変異による疾患も多くは多因子の宿主修飾遺伝子の影響を受け、発病の有無、重篤度、病型などが決定されることを示した。一部のものについては分子生物学的な理解に肉迫している。
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多因子遺伝病の研究・宿主モディファイヤー遺伝子の探求
研究課題/研究課題番号:09307004 1997年 - 1999年
日合 弘
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
本助成金を受けて、計画の大部分を達成するとともに、著明な進展がみられた。(1)リンパ腫好発系 SL/Khマウスの骨髄Pre-B細胞の一過性増殖は第3染色体上のQTLであるBomb1(Lef1)によることが示された。(2)リンパ腫DNAへのウイルス組込みホットスポットの多くがクローニングされ、Bomb1によるリンパ球分化異常とリンパ腫発生機構の関連に大きな手がかりが得られた。(3)4NQO誘発ラット舌癌については感受性に関与する5つの宿主遺伝子座をマップし遺伝様式を解明した。(4)化学発癌剤抵抗性DRHラットの肝発癌モデルで前癌病変であるGST-P陽性フォーカスの遺伝支配を研究し第1、第4染色体に高度に有意な座位をマップした。(5)遺伝的カタラクトRLCについては責任遺伝子マップ位置からPYK2が候補遺伝子で、RLCレンズで正常マウスを免疫するとPYK2のN端異常ペプチドに対する抗体が作られた。cDNA、genomicDNAについて、遺伝子構造を解析中。(6)NCTカタラクトはNa/K pumpに対する内因性抑制ペプチドの形成により発生する。1000頭の戻し交配系を解析し、マップ位置からBAC contigを作製中である。カタラクトのタイプ(pin head or diffuse)を決めるmodifier geneを第10染色体にマップした。この位置にNa/K pumpの一部がマップされていた。(7)PNUによるラット白血病の病型決定機構を解析するためF344とLE/Stmの間で育成されたRI系について、白血病を誘発して遺伝解析を行い、数個のQTLが関与している可能性を示した。これら一連の研究から内在性レトロウイルス、化学発癌剤、遺伝的変異による疾患も多くは多因子の宿主修飾遺伝子の影響を受け、発病の有無、重篤度、病型などが決定されることを示した。一部のものについては分子生物学的な理解に肉迫している。
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活性酸素のエフェクター分子の同定とその生物学的意義の追究
研究課題/研究課題番号:09670223 1997年 - 1999年
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:3800000円 ( 直接経費:3800000円 )
酸化ストレスの形態学的評価にはフリーラジカル反応によるcovalentな修復を受けた分子に対する抗体を作製するストラテジーが適切と考え、生体内においてどのような修飾分子の増加率が高いかを検討した。鉄ニトリロ三酢酸による腎尿細管傷害・腎発がんのモデルでは、腎近位尿細管でFenton-like reactionが発生する。上記モデルにおいて、DNA修飾塩基として8-hydroxy-2^'-deoxyguanosine(8-OHdG)、アルデヒド化合物として4-hydroxy-2-nanenal(HNE)の増加率が最も高いことを見いだした。アルデヒド化合物はフリーの状態では疎水性があり、パラフィン包埋の過程で流出し失われる。アルデヒド化合物が蛋白のアミノ酸残基と反応しマイケル反応産物を形成するという化学反応の解明が、抗体作成の過程で重要であった。上記のエピトープに対するポリクロナール。モノクロナール抗体を作製・評価を行った。これらの抗体を通常のパラフィン包埋に適応する方法を開発した。この方法により、糖尿病、虚血、再灌流モデル(肺、肝、皮弁)、砒素中毒症、大腸癌、C型肝炎、アルコール性肝炎などにおいて酸化ストレスが関与していることを証明した。
酸化ストレス発がんに標的となる遺伝子が存在するかどうかという問題に対して、candidate gene apprach、活性酸素代謝に関与する遺伝子の探索を行ってきたが、大きな成果は上がらなかった。しかし、F_1純系動物を使用したLOH解析により糸口をつかみ、p15/p16癌抑制遺伝子の異常が半数近い腫瘍で認められることを見いだした。少なくとも最終的なゲノムの異常に関しては標的となる遺伝子が存在することを初めて明らかにした。 -
高発がん性ラットを用いた発がん過程の主要因の解析
1996年4月 - 2000年3月
科学研究費補助金 特定領域研究(A) 研究種目コード:031 08264108
樋野 興夫
担当区分:研究分担者
1.遺伝性腎癌ラット(Eker rat)の腎癌発生過程に見られる多段階的な病理組織像に対応する遺伝子変化の同定をsubtraction法を用いて試みた。癌抑制遺伝子であるTsc2の不活化とその結果として発現が亢進してくる癌関連遺伝子群を単離を試みた。さらに、本ラットの腎癌細胞の転移系を確立し、転移に関与する遺伝子群の単離をcDNA subtraction法を用いて試みた(樋野)。
2.ラットゲノムマップの統合を行った。この統合ゲノムマップは、ラットモデルにおける発癌感受性などを含む量的遺伝形質の解析において求められる全ゲノムスキャンを容易にするものである(芹川)。
3.発がん物質投与後形成される8-hydroxydeoxy-guanosine(8-OHdG)はLECラットがBNラットに比べ有為に高いことを確認した。8-OHdG形成メカニズムには銅の蓄積が関与していることが考えられた。(榎本)。
4.ラット前立腺に特異的に発現するprobasin遺伝子のプロモ-タ-領域にSV40T抗原遺伝子を連結したtransgenic ratを作製し、生後早期に腹葉に異型過形成を起こす系を確立した(白井)。
5.BUF/Mna系ラットにおける胸腺腫発生感受性遺伝子Tsr1は第7染色体上のマ-カ-、D7Rat21の近傍に局在することを明らかにした(松山)。
6.新しいwilms腫瘍遺伝子の探索の為に経胎盤N-ethyl-N-nitrosourea(ENU)発癌とラット腎移植手術を組み合わせたラットモデルの開発を行った(横森)。
7.(1)コリン欠乏アミノ酸(CDAA)食で誘発した肝発がんでc-myc遺伝子のプロモ-タ-及びexon1の領域におけるメチル化を検討した。(2)ジエチルニトロサミン(DEN)及びCDAA食で誘発した肝細胞癌におけるβ-カテニン遺伝子の異常を検索した(小西)。
8.鉄を介した活性酸素・フリ-ラジカルによるラット腎癌モデルにおいて(1)グルタチオンSトランスフェラ-ゼが腎癌で高発現しており、中でもπアイソザイムが著明に増加していた。(2)F1動物の腎癌を用いた遺伝解析により、染色体5番に高頻度のLOHを見出し、p15/p16癌抑制遺伝子が主な標的のひとつである(豊國)。 -
生体肝移植後の移植肝に発生する慢性肝機能障害の病理学
研究課題/研究課題番号:08670201 1996年
山邊 博彦
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
目的:生体部分肝移植は小児の非可逆性肝疾患末期の肝不全症の唯一の治療法として定着してきている。その移植不成功の最大の原因となる移植肝に発生する慢性の進行性肝機能障害を臨床病理学的に解析した。
方法:1990年6月から1996年5月の6年間に224例(5再移植例を含む)に生体部分肝移植が行われた。このうち移植後2ヵ月以降に進行性肝機能障害を来した33例の生検材料、手術材料、剖検材料について、免疫組織化学、in situ hybridization法を含む病理組織学的検索を行い、臨床病理学的に解析した。
結果及び考察:進行性肝機能障害を示した33例中、21例が移植後64日から5年11カ月の間(中央値174日)に移植不成功(死亡16例、再移植5例)となった。そのうち慢性拒絶反応は7例(死亡4例、再移植3例)にみられた。3例が主として血管性、4例が主として胆管消失性拒絶反応であった。また、上記33例中、慢性胆管炎が15例(うち死亡9例、再移植1例)に見られた。うち7例はABO血液型不適合移植例であり、その2例は抗血液型抗体価が高く、胆管吻合部分に問題がないにも拘わらず胆管炎が発生した。また他の1例はリンパ球クロスマッチ試験陽性例であった。これらのことから胆管炎とhumoral mechanismの関連が注目された。移植後リンパ増殖性疾患は4例(うち1例は胆管炎に、1例は慢性拒絶反応に合併、全例死亡)に見られ、Epstein-Barrウイルスの関与が組織学的に証明された。慢性肝炎・肝硬変は8例(うち死亡1例)に見られ、5例はB型、1例はC型の慢性肝炎、他の2例は原因が不明であった。
結論:生体部分肝移植後の慢性進行性肝機能障害の原因として、慢性拒絶反応、慢性胆管炎、移植後リンパ増殖性疾患及び慢性肝炎・肝硬変が重要であることが判明した。 -
レドックス制御とシグナル伝達機構
1995年4月 - 1997年3月
科学研究費補助金 国際学術研究 研究種目コード:160 07041160
淀井 淳司
担当区分:研究分担者
淀井らが報告したATL-derived factor(ADF)は、チオ-ル基を介して強い還元活性を示すthioredoxin(TRX)のヒトホモロ-グであり、レドックス制御に関わる抗酸化ストレス因子である。今年度の成果として以下のことが明らかとなった。1)TRX遺伝子のknock outマウスは胎生致死であり、TRX遺伝子はマウス胎仔の早期分化および形態形成に重要な役割を果たしていたこと。2)TRX遺伝子のプロモ-タ-部位に酸化ストレスに応答する遺伝子配列を同定したこと。3)NF-κBおよびAP1などの転写因子活性化に、TRXやRef-1などのレドックス蛋白が、重要な制御的働きをするが、さらにRef-1がTRXに結合し、AP-1転写活性への役割を果たすこと。3)ステロイドホルモンレセプタ-、PEBP-2の活性化にも、レドックス制御機構の役割が重要であること(田中、重定との共同研究)。また、Chae,Paakによりペルオキシダ-ゼ活性を有するTRX依存性peroxidase(peroxiredoxin)も報告され、抗酸化ストレス機構の解明が進んでいる。一方、酸化ストレスに対する防御因子が生体内レドックスセンサ-機構としての役割も積極的に担うことが明らかにされつつある。淀井などが、酸化ストレスによるtyrosine kinaseの活性化を示したが、MAP kinaseのレドックス制御機構は、Karinらによって進展している。また、山本によりp53の酸化ストレスによる活性化機構の解析がなされた。豊國らは鉄による酸化ストレス下のレドックス制御不全状態で過酸化脂質蛋白複合体が生体内で生じていることを明らかにし、鉄による発癌に関する研究を展開した。今後さらにレドックス関連分子の解析およびその情報伝達における役割、酸化ストレスに対するレドックスセンサ-機構、レドックス制御異常による不可逆的酸化ストレスの病態形成への関与を解析することが必要と思われる。
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Tリンパ腫病型決定の遺伝機構
1995年4月 - 1997年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B) 研究種目コード:310 07457059
日合 弘
担当区分:研究分担者
本研究はリンパ腫病型決定の遺伝機構を解明することを目的とし、研究を進めた結果、次の結果を得た。(1)SL/Khマウスとその4系の亜系間の遺伝的相互関係を詳細に解明した。(2)正常の骨髄Pre-B細胞はLECAM-1,LFA-1等の接着因子を発現していないが、SL/Khの自然発生Pre-Bリンパ腫は表現型から正常Pre-B細胞によく似ているにも関わらず、LECAM-1,LFA-1の明瞭な発現があることを示し、変異Pre-B細胞のマ-カ-とみなせることを示した。(3)Tlsm-1の機能を調べるため、胸腺を摘出した(SL/Kh x AKR)F1の腎被膜下にSL/Kh,F1,AKRの胸腺を移植し、発生するリンパ腫の病型、組織由来を検討した。(SL/Kh X AKR/Ms)F1ではDual T and B phenotype lymphomaが多発し、このタイプの腫瘍の発生は胸腺に依存しないが、pure T lymphomはTlms-1陽性の胸腺の存在に依存していることを示した。(4)これまで発見したリンパ腫関連宿主遺伝子のcongenic系を作出した。(5)Tlsm-1の詳細なマッピングのため、AKXD11とAKXD21の間の退交配系を観察中。(6)野生由来近交系MSM/Msマウスの2つの優性リンパ腫抵抗性遺伝子を同定しChr.17,19にマップした。(7)ポリゲニックな癌感受性を解析するマウス(SMXA)、ラット(LEXF)の組み替え近交系を作出し遺伝解析を行った。
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フリ-ラジカルによるDNA・蛋白の損傷・装飾が発癌過程で果たす意義
1995年4月 - 1997年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C) 研究種目コード:320 07670241
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者
活性酸素(フリ-ラジカル)は変異、発癌、虚血・再灌流障害、放射線・紫外線障害など種々の生命現象に深く関与することが認識されるようになっている。私たちはいままで、鉄キレ-ト剤である鉄ニトリロ三酢酸反復投与によるラット腎発癌モデルにおいて、活性酸素がその発癌過程に深く関与することを報告してきた。本研究の最終目標は、上記「活性酸素による発癌モデル」において、rate-limitingとなりうる遺伝子を同定し、その変異や発現機構を解析することおよび活性酸素をひとつの切り口として発癌機構を追及することである。
発癌の標的遺伝子の同定に関して、私たちは以下のアプロ-チを取った。1)活性酸素の代謝に関与する蛋白・酵素遺伝子の発現の評価、2)p53、rasなど既知遺伝子の変異の解析である。1)では、発癌過程初期よりGSH S-transferase piの特異的な誘導を見いだした。2)では、低頻度のp53遺伝子の変異を認めた。従って、本発癌モデルの主要な標的遺伝子はいまだ同定されていない。
更に、フリ-ラジカルの攻撃により生成する産物の検討を詳細に行った。フリ-ラジカルの標的は脂質・核酸・蛋白質など多岐に渡り、フリ-ラジカル反応により生成する化合物の報告数は年々増加している。しかしながら、活性酸素のエフェクタ-として実際、要となり働くのはかなり限られた分子であることが予想される。私たちはこのモデルにおいて膜脂質の損傷(過酸化脂質)において炭素鎖が2から12の全飽和・不飽和アルデヒドをガスクロマトグラフィ-と質量検出器を使用する分析法で定量し、4-hydroxy-2-nonenal(HNE)の増加率が最も高いことを見いだし、更にHNE修飾蛋白に対するモノクロ-ナル抗体を作成し、免疫化学的応用を行った。 -
Bリンパ腫病型決定遺伝子の同定とその作用機序の研究
1995年4月 - 1996年3月
科学研究費補助金 重点領域研究 研究種目コード:030 07272222
日合 弘
担当区分:研究分担者
本研究はPre-Bリンパ腫好発近交系マウスSL/Khのリンパ腫の発生、病型、潜伏期間の長さなどを支配している宿主遺伝子を同定し、その作用機序を解析することを目的としている。今回はSL/Khと野生マウス由来の近交系MSM/Msの交配系のリンパ腫発生を観察し、遺伝解析を加えた。F1ではリンパ腫の発生はなく、SL/Khへの退交配世代60頭のうち14頭が1年6ケ月の観察期間中にリンパ腫を発生した。この頻度から、MSM/Msは2つの優性抵抗性遺伝子を持つという仮説をたてた。退交配世代をマイクロサテライト法により遺伝解析した結果、第17染色体MHC領域と第14染色体上に優性抵抗性遺伝子がマップされ、それぞれMsmr-1,Msmr-2と命令された。SL/KhのMHC haplotypeはqで、MHC classll分子に欠損がある。SL/Kh系マウスはウイルス、あるいはリンパ腫細胞に対する免疫学的抵抗性を欠如していると考えられる。またMsmr-2はヒトの5q23-31とシンテニックであり、この部位ではヒト造血系腫瘍でしばしば転座、LOHなどが報告されている。
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Tリンパ腫病型決定の遺伝機構
研究課題/研究課題番号:07457059 1995年 - 1996年
日合 弘
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
本研究はリンパ腫病型決定の遺伝機構を解明することを目的とし、研究を進めた結果、次の結果を得た。(1)SL/Khマウスとその4系の亜系間の遺伝的相互関係を詳細に解明した。(2)正常の骨髄Pre-B細胞はLECAM-1,LFA-1等の接着因子を発現していないが、SL/Khの自然発生Pre-Bリンパ腫は表現型から正常Pre-B細胞によく似ているにも関わらず、LECAM-1,LFA-1の明瞭な発現があることを示し、変異pre-B細胞のマーカーとみなせることを示した。(3)Tlsm-1の機能を調べるため、胸腺を摘出した(SL/Kh×AKR) F1の腎被膜下にSL/Kh, F1, AKRの胸腺を移植し、発生するリンパ腫の病型、組織由来を検討した。(SL/Kh×AKR/Ms) F1ではDual T and B phenotype lymphomaが多発し、このタイプの腫瘍の発生は胸腺に依存しないが、pure T lymphomはTlsm-1陽性の胸腺の存在に依存していることを示した。(4)これまで発見したリンパ腫関連宿主遺伝子のcongenic系を作出した。(5)Tlsm-1の詳細なマッピングのため、AKXD11とAKXD21の間の退交配系を観察中。(6)野生由来近交系MSM/Msマウスの2つの優性リンパ腫抵抗性遺伝子を同定しChr. 17,19にマップした。(7)ポリゲニックな癌感受性を解析するマウス(SMXA)、ラット(LEXF)の組み替え近交系を作出し遺伝解析を行った。
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レドックス制御とシグナル伝達機構
研究課題/研究課題番号:07041160 1995年 - 1996年
国際学術研究
淀井 清
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
文部省科学研究費・国際学術研究調査(平成3〜4年・ウイルス疾患でのADF/チオール依存性細胞活性化機構に関する学術調査研究;淀井淳司 代表者)は、レドックス研究の交流の基礎となった。本国際学術研究調査は、その研究調査を更に発展させてHo Zoon Chae(KOREA)、Michael Karin(USA)らを研究分担者として加え、レドックス制御とシグナル伝達機構に関する研究交流を行った。
生体におけるレドックス制御とは、酸化還元に基づく蛋白質システイン残基上のチオール基の可逆的構造変化により、種々の細胞機能を制御することと説明できる。淀井らが報告したHTLV-I感染細胞の産生するATL-derived factor(ADF)は、システイン(Cys)のSH基を介して強い還元活性を示すthioredoxin(TRX)のヒトホモローグである。このADF/TRXは、グルタチオン系と共に細胞内のレドックス制御に関わる抗酸化ストレス因子である。今年度の交流の成果として1)TRX遺伝子のTargetingを行った結果、TRX遺伝子をヘテロに欠損している個体は正常であったが、ホモに欠損している個体は着床後すぐに死亡した。TRX遺伝子はマウス胎仔の早期分化および形態形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。2)TRX遺伝子のプロモーター部位の解析を行い、新たに、酸化ストレスに応答する遺伝子配列を同定した。3)遺伝子転写のレドックス制御については、淀井、山本らによるNFκBおよびAP1などの転写因子活性化に、TRXやRef-1/APEX蛋白などのレドックス制御蛋白が、重要な制御的働きをすることが明らかになっている。さらにRef-1がTRXに結合し、AP-1転写活性への役割を新たに明らかとした。ステロイドホルモンなどの核内レセプター群の細胞質・核内移行と遺伝子活性化調節にも、TRXの関与するレドックス制御機構の役割が重要と考えられた(田中らとの共同研究)。転写制御因子PEBP-2の活性化にもレドックス制御が関与することが明らかになった(重定らとの共同研究、投稿準備中)。4)抗酸化機能をもつペルオキシダーゼ活性をもつ新しいタンパク質ファミリーが近年見い出されてきた。Chae,PaakによりTRX依存性peroxidase(peroxiredoxin)や、一部のGSH peroxidaseがTRXによって活性化されることも報告され、抗酸化ストレス機構の解明が進んでいる。今後さらにレドックス関連分子の分子機構および情報伝達における役割を解析する必要がある。
レドックス制御は、分子の酸化(酸化ストレス)を契機とするストレス応答反応とも捉えることができるため、レドックス制御と酸化ストレスは表裏一体の関係にある。酸化ストレスに対する防御分子が生体内レドックスセンサー機構としての役割も積極的に担うことが現在明らかにされつつある。酸化ストレスは細胞のレドックスセンサー機構によって認知され、その一部は生体にとって有用なシグナル応答へと変換される。既知のリン酸化によるシグナル伝達経路とクロストークを行っていることなどが相次いで報告された。わが国では淀井などが、リンパ球への酸化ストレスが細胞膜のチロシンキナーゼの活性化につながり、それぞれ正・負のシグナル伝達に関わることを明らかにしたが、海外ではMAP kinaseやtyrosine kinaseのレドックス制御機構は、Karin,らによって進展している。また、山本によりp53の酸化ストレスによる活性化機構の解析がなされた。今後レドックスセンサー機構をさらに解析することが必要である。レドックス制御異常は、エイズ・ATL・肝炎ウイルス感染症など、種々のウイルス感染での細胞死・異常増殖に関係している。豊國らは鉄による酸化ストレス下のレドックス制御不全状態で過酸化脂質蛋白複合体が生体内で生じていることを明らかにし、鉄による発癌に関する研究を展開した。レドックス制御異常による不可逆的酸化ストレスは病態形成に関与することが考えられ、今後様々な病態での解析が必要と思われる。 -
フリーラジカルによるDNA・蛋白の損傷・修飾が発癌過程で果たす意義
研究課題/研究課題番号:07670241 1995年 - 1996年
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:2600000円 ( 直接経費:2600000円 )
活性酸素(フリーラジカル)は変異、発癌、虚血、再灌流障害、放射線・紫外線障害など種々の生命減少に深く関与することが認識されるようになっている。私たちはいままで、鉄キレート-剤である鉄ニトリト三酢酸反復投与によるラット腎発癌モデルにおいて、活性酸素がその発癌過程に深く関与することを報告してきた。本研究の最終目標は、上記「活性酸素による発癌モデル」において、rate-limitingとなりうる遺伝子を同定し、その変異や発現機構を解析することおよび活性酸素をひとつの切り口として発癌機構を追究することである。
発癌の標的遺伝子の同定に関して、私たちは以下のアプローチを取った。1)活性酸素の代謝に関与する蛋白・酵素遺伝子の発現の評価、2)p53、rasなど既知遺伝子の変異の解析である。1)では、発癌過程初期よりGSH-S-transferase piの特異的な誘導を見いだした。2)では、低頻度のp53遺伝子の変異を認めた。従って、本発癌モデルの主要な標的遺伝子はいまだ同定されていない。
更に、フリーラジカルの攻撃により生成する産物の検討を詳細に行った。フリーラジカルの標的は脂質・核酸・蛋白質など多岐に渡り、フリーラジカル反応により生成する化合物の報告数は年々増加している。しかしながら、活性酸素のエフェクターとして実際、要となり働くのはかなり限られた分子であることが予想される。私たちはこのモデルにおいて膜脂質の損傷(過酸化脂質)において炭素が2から12の全飽和・不飽和アルテヒドをガスクロマトグラフィーと質量検出器を使用する分析法で定量し、4-hydroxy-2-nonenal(HNE)の増加率が最も高いことを見いだし、更にHNE修飾蛋白に対するモノクローナル抗体を作成し、免疫化学的応用を行った。 -
Bリンパ腫病型決定遺伝子の同定とその作用機序の研究
研究課題/研究課題番号:07272222 1995年
日合 弘
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
本研究はPre-Bリンパ腫好発近交系マウスSL/Khのリンパ腫の発生、病型、潜伏期間の長さなどを支配している宿主遺伝子を同定し、その作用機序を解析することを目的としている。今回はSL/Khと野生マウス由来の近交系MSM/Msの交配系のリンパ腫発生を観察し、遺伝解析を加えた。F1ではリンパ腫の発生はなく、SL/Khへの退交配世代60頭のうち14頭が1年6ケ月の観察期間中にリンパ腫を発生した。この頻度から、MSM/Msは2つの優性抵抗性遺伝子を持つという仮説をたてた。退交配世代をマイクロサテライト法により遺伝解析した結果、第17染色体MHC領域と第14染色体上に優性抵抗性遺伝子がマップされ、それぞれMsmr-1,Msmr-2と命令された。SL/KhのMHC haplotypeはqで、MHC classll分子に欠損がある。SL/Kh系マウスはウイルス、あるいはリンパ腫細胞に対する免疫学的抵抗性を欠如していると考えられる。またMsmr-2はヒトの5q23-31とシンテニックであり、この部位ではヒト造血系腫瘍でしばしば転座、LOHなどが報告されている。
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腎がんの進展と予後に関与する宿主側要因の研究
1994年4月 - 1996年3月
科学研究費補助金 一般研究(C) 研究種目コード:090 06671587
寺地 敏郎
本年度の主な実績は以下の通りである。
1)85例の腎細胞癌および212例の他の泌尿器癌について、PCR-RFLP法を用いてp53遺伝子コドン75の多型(CGC(Arg)またはCCC(Pro))を解析し、ノ-マルコントロ-ル群と比較した。統計学的には有意差を認めなかったが、腎細胞癌ではArg/Argの頻度は比較的低く、Pro/Proの頻度が高くなる傾向が認められた。
2)97例の腎細胞癌罹患者について、PCRを用いてHLA class II DRB1のアレル頻度を解析し、1216例の日本人ノ-マルコントロ-ル群と比較することにより、臨床パラメ-タ-との相関について検討した。腎細胞癌罹患者ではHLA class II DRB 0101,0405アレル頻度が有意に低く、またこれらのアレルを有する例では他の群に比べlow grade, low stageのが有意に多かった。
3)25例の腎細胞癌について、ウエスタンブロッティングおよびカイネ-スアッセイを用いてMAP、MEK、Raf-1の活性化について検討した。約半数の症例でMAPの恒常的活性化を認めた。
4)55例の腎細胞癌についてマイクロサテライトを用いた9p21-22のLOH、サザンブロッティング、SSCP、ダイレクトシ-クエンスを用い、p16の欠失、変異について解析した。p16の欠失、mutationの頻度は極めてひくかったが、55例を手術時の転移の有無により2群に分けた場合、9p21-22のLOHは転移を有する群で有意に高かった。
以上より、P53コドン75の多型、HLAクラスII抗原の違いは、宿主側の要因であるが、腎癌の発生に大きく関与し、健常人の腎癌罹患の危険因子とみなしうる可能性が示唆された。MAPは腎癌の発生、進展を生物学的に解析する上で極めて意義のある蛋白であると考えられた。さらに、HLAクラスII抗原、染色体9p21-22の欠失は腎癌罹患者の予後を予測するマ-カ-となりうることが示された。以上の分子生物学的なパラメ-タ-のさらに詳細な解析は臨床上の治療指針の確立に大きく寄与するものと思われる。 -
鉄ニトリロ三酢酸によるrasおよびp53遺伝子の突然変異と腎発癌
1994年4月 - 1995年3月
科学研究費補助金 奨励研究(A) 研究種目コード:210 06770151
担当区分:研究代表者
フリ-ラジカルによる生体高分子損傷は変異、発癌、老化、放射線効果、坑癌剤活性等の種々の生物学的過程で重要な役割を果たす。低分子鉄キレ-ト化合物である鉄ニトリロ三酢酸の投与はラットやマウスに高率に腎癌を誘発する。本研究代表者はこれまでに脂質過酸化物の測定等により、この発癌系でフリ-ラジカルが深く関与することを示してきた。今回新たに腎クロマチンにおいてヒドロキシラジカルに特徴的なDNA修飾塩基の生成をガスクロマトグラフィ-・マススペクトロメトリ-による測定で証明し、また変異原性の確立された過酸化脂質である4-hydroxy-2-nonenal修飾蛋白に対する抗体を使用しその存在を証明した。更に誘発された腎原発腫瘍12例において癌遺伝子であるrasおよび癌抑制遺伝子であるp53の突然変異の検索を行った。rasについてはH-ras,K-ras,n-rasいずれにおいてもcodon12,13,61において変異を認めなかった。p53は1例においてcodon246で変異を認め(CGC to CTC;Arg to Leu)、蛋白レベルでその異常蛋白の発現が高いことを確認した。この変異パタ-ンはヒドロキシラジカルに特徴的な修飾塩基である8-hydroxyguanineにより引き起こされたものとして矛盾しない。本研究では、この腎発癌モデルにおいてはras,p53はフリ-ラジカルによる変異の主要な標的となっていないことが明らかとなった。これはヒト腎癌の報告とも一致し、臓器特異的な事実である可能性もあり、現在新たな標的遺伝子を検索している。
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腎がんの進展と予後に関与する宿主側要因の研究
研究課題/研究課題番号:06671587 1994年 - 1995年
一般研究(C)
寺地 敏郎
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
本研究課題による研究成果は以下の通りである。
1:腎細胞癌の生物学的特性。1)腎細胞癌では内因性活性酵素の被爆程度が正常部よりも大きく、発生に関与することが示唆された。2)腎細胞癌は抗癌剤に対して耐性を持つものが多いが、mdr1、MRP、トポイソメレースII、の発現パターンのについてRT-PCRを用いて検討したところ、papillaryタイプの腎細胞癌ではMRPの発現が有意に低かった。3)シスプラチン耐性の腎細胞癌癌細胞に対し、Interleukin6またはその受容体に対する抗体を投与した場合、癌細胞のシスプラチンに対する感受性が上昇することが明らかになった。4)腎細胞癌の組織型、によりE-カドヘリンの発現に差が認められた。papillaryタイプ、chromophobeタイプではE-カドヘリンの発現が保たれているものが多かった。5)約80%の腎細胞癌でo-met遺伝子の過剰発現を認めた。悪性度の高いもの、papillaryタイプの腎細胞癌で高い発現を示すものが多かった。6)腎細胞癌において、MAPカイネースおよびその上流にあるMEK、Raf-1の活性化について検討したところ、約半数の症例でMAPの恒常的活性化を認めた。7)腎細胞癌を手術時の転移の有無により2群に分けた場合、9p21-22のLOHは転移を有する群で有意に高かった。
2:宿主側の因子。8)p53遺伝子にはwild typeにおいてもコドン75に多型が存在するが、腎細胞癌罹患者ではArg/Argの頻度は比較的低く、Pro/Proの頻度が高っくなる傾向が認められた。9)腎細胞癌の発生、進展とHLAタイプとの相関関係を検討したところ、腎細胞癌罹患者ではHLA class II DRB 1の0404,0120アレル頻度が有意に低かった。
以上、腎細胞癌に対する広範かつ多角的なデータを得ることができた。 -
鉄ニトリロ三酢酸によるrasおよびp53遺伝子の突然変異と腎発癌
研究課題/研究課題番号:06770151 1994年
奨励研究(A)
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:900000円 ( 直接経費:900000円 )
フリーラジカルによる生体高分子損傷は変異、発癌、老化、放射線効果、坑癌剤活性等の種々の生物学的過程で重要な役割を果たす。低分子鉄キレート化合物である鉄ニトリロ三酢酸の投与はラットやマウスに高率に腎癌を誘発する。本研究代表者はこれまでに脂質過酸化物の測定等により、この発癌系でフリーラジカルが深く関与することを示してきた。今回新たに腎クロマチンにおいてヒドロキシラジカルに特徴的なDNA修飾塩基の生成をガスクロマトグラフィー・マススペクトロメトリーによる測定で証明し、また変異原性の確立された過酸化脂質である4-hydroxy-2-nonenal修飾蛋白に対する抗体を使用しその存在を証明した。更に誘発された腎原発腫瘍12例において癌遺伝子であるrasおよび癌抑制遺伝子であるp53の突然変異の検索を行った。rasについてはH-ras,K-ras,n-rasいずれにおいてもcodon12,13,61において変異を認めなかった。p53は1例においてcodon246で変異を認め(CGC to CTC;Arg to Leu)、蛋白レベルでその異常蛋白の発現が高いことを確認した。この変異パターンはヒドロキシラジカルに特徴的な修飾塩基である8-hydroxyguanineにより引き起こされたものとして矛盾しない。本研究では、この腎発癌モデルにおいてはras,p53はフリーラジカルによる変異の主要な標的となっていないことが明らかとなった。これはヒト腎癌の報告とも一致し、臓器特異的な事実である可能性もあり、現在新たな標的遺伝子を検索している。
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食品因子による生体防御を目的としたDNA障害マ-カ-の開発と応用
1993年4月 - 1996年3月
科学研究費補助金 試験研究(B) 研究種目コード:122 05556021
大澤 俊彦
担当区分:研究分担者
最近、がんの発生におけるフリ-ラジカルの役割については多くの注目を集めてきているが科学的な根拠については未知の点も多い。特に、防御機構が正常に機能しない状態に陥ったときに生体内では過剰な活性酸素が生成し、フリ-ラジカル連鎖反応が誘発される。その結果、生体膜での障害や生体重要物質での損傷にもとずく機能障害の蓄積と共に遺伝子レベルにおける障害が「遺伝毒性」を発現し、「がんの発生」を誘発したり「がん化の促進」に大きな役割をはたしているのではないかと考えられてきている。このような遺伝子レベルにおける酸化的障害を抑制すること、特に食品成分が抑制因子となりうるかについてを評価するために、老化に関連した疾病のマ-カ-として酸化修飾塩基の代表である8-デオキシグアノシンのモノクロ-ナル抗体よる検出法の応用を日本老化制御研究所(越智)との共同研究で開発することができた。そこで本年度は、まず、ゴマ種子中に大量に含まれている新規な抗酸化前駆体であるリグナン配糖体の持つ酸化障害予防効果の検討を行った。方法は、ゴマ脱脂粕をビタミンE欠乏飼料中に10%加えてラットに2ヵ月間投与し、四塩化炭素で過酸化障害を与えた。その結果、ビタミンE欠乏食だけの場合に較べてゴマ脱脂粕の場合は肝臓や血液中の過酸化度と共に尿中での過酸化度、さらに8-デオキシクアノシン量を有意に低下させた。これらの結果より、セサミノ-ル配糖体が腸内細菌により加水分解を受けた後に生体内に吸収され抗酸化的な防御効果を示すという新しい機構を提出することができた。また、本年は、生体膜の酸化的障害物質として代表的な4-ヒドロキシノネナ-ルのモノクロ-ナル抗体の作製に成功し、さらに最近マロンジアルデヒドにより修飾されたタンパク質に対するポリクロ-ナル抗体の作製にも成功している。これらの抗体による組織染色、特に酸化障害により生じた腎臓がん部位での検出への応用にも成功している。さらに、培養細胞系、特に、チャイニ-ズハムスタ-や大腸由来の細胞で過酸化水素を中心とした酸化的障害の保護効果についても、新しい機構を提出することができた。また、ゴマ油中の抗酸化成分として抗酸化的な防御効果の検討を行ったセサミノ-ルについては、ビタミンEに対して強い相乗的な効果が見られるという新しいメカニズムを明らかにすることができたので、これらのリグナンを食品因子として代謝も含めた新しい研究へのアプロ-
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鉄によるDNA損傷とその癌遺伝子、癌抑制遺伝子への影響
1993年4月 - 1994年3月
科学研究費補助金 奨励研究(A) 研究種目コード:210 05770149
担当区分:研究代表者
ヒトにおいて体内の鉄貯蔵量増加は発癌のリスクとなることが明らかとなったため、鉄による発癌機構の分子病理学的解明をめざした。この際、中性で自由鉄でありうる鉄キレ-ト化合物が重要となる。鉄ニトリロ三酢酸の反復投与はラット、マウスで高率に胃癌を発生させる。また、鉄クエン酸はヒトのヘモクロマト-シスにおける血中の自由鉄である。両鉄キレ-ト化合物は本研究者らの開発したsupercoiled plasmidを使用したin vitroの系でDNAを切断し修飾塩基を生成した。この反応は、温度、還元剤、pH、鉄とキレ-ト剤の比率に依存した。次に、鉄ニトリロ三酢酸を投与したラット腎において、ガスクロマトグラフィ-/マススぺクトロメトリ-によりDNA修飾塩基を検討し、癌遺伝子であるc-fos、c-junの蛋白について酵素抗体法により解析を加えた。投与後1-3hrsをピ-クとして、8-hydroxyguanine(8-OH-Gua)をはじめとする7種のDNA修飾塩基の増加を認めた。8-OH-GuaはG:C to T:A transversionの原因として注目されるが、生成修飾塩基の中には変異原性に関するデ-タがいまだ報告のないものもある。近位尿細管の変性壊死再生に伴い、修飾塩基が存在することは変異を誘発し固定するという意味において発癌過程で重要な役割を果たしていると考えられる。投与後16hrs以後再生上皮にc-fos、c-jun蛋白の増加がみられ、これらの蛋白の発癌過程への関与が示唆された。
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リンパ腫発生に先立つ骨髄内pre-B細胞の異常分化
1993年4月 - 1994年3月
科学研究費補助金 がん特別研究 研究種目コード:021 05152060
日合 弘
担当区分:研究分担者
リンパ腫好発系近交系マウスSL/Kh系の前リンパ腫期骨髄におけるB細胞分化を検討した。BP-1抗原陽性前B細胞が生後4-6週を中心に著明にポリクロ-ナルに増殖し15-18週令ころより急速にモノクロ-ナル増殖に転化した。他の大部分の近交系マウスでは前B細胞のレベルははるかに低かった。SL/KhとのF1では前B細胞の増殖がみられこの形質は遺伝的に優性とみなされた。SL/Khのリンパ腫発生には内在性レトロウイルスが必要であるが、前リンパ腫期の前B細胞の増殖にはウイルスは関与していないことがウイルス抵抗性遺伝子FV-4^Rcongenic C4WとのF1においても前B細胞の増殖があること、母系抵抗因子の投与によっても減少しないことから証明された。一方、放射線キメラを作成したところ、骨髄細胞ドナ-によって前B細胞のレベルは決定されており、SL/Kh系の幹細胞の性質に基づくものと思われた。これらの所見から、SL/Kh系の前Bリンパ腫の発生は多段階過程を経て発生することが示された。
自然発生リンパ腫をみないNFS/N系とのF1、退交配系についてリンパ腫の発生、病型を観察し、プロウイルスとその発現、生化学的遺伝子マ-カ-、マイクロサテライトマ-カ-を全個体について解析した。すべてのリンパ腫の発生には内在性ウイルスのうちAkv-1(第7染色体)の存在と発現が必要であった。リンパ腫の発生は遺伝的に優性であるが、MHCと連関したEsl-1座位がSL/Kh由来のアレルを持つ場合には急性の前Bリンパ腫が発生し、第4染色体上のfoc-1座位がNFS/N由来の劣性アレルのホモの場合にはより成熟したB細胞腫瘍であるろ胞中心細胞リンパ腫が発生した。これらの所見はウイルスによる腫瘍の病型は宿主の遺伝的感受性により決定されていることを示すものである。 -
食品因子による生体防御を目的としたDNA傷害マーカーの開発と応用
研究課題/研究課題番号:05556021 1993年 - 1995年
試験研究(B)
大澤 俊彦
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
最近、がんの発生におけるフリーラジカルの役割については多くの注目を集めてきているが科学的な根拠については未知の点も多い。特に、防御機構が正常に機能しない状態に陥ったときに生体内では過剰な活性酸素が生成し、フリーラジカル連鎖反応が誘発される。その結果、生体膜での傷害や生体重要物質での損傷にもとずく機能傷害の蓄積と共に遺伝子レベルにおける傷害が「遺伝毒性」を発現し、「がんの発生」を誘発したり「がん化の促進」に大きな役割をはたしているのではないかと考えられてきている。このような遺伝子レベルにおける酸化的傷害を抑制すること、特に食品成分が抑制因子となりうるかについてを評価するために、老化に関連した疾病のマーカーとして酸化修飾塩基の代表である8-デオキシグアノシンのモノクローナル抗体による検出法の応用を日本老化制御研究所(越智)との共同研究で開発することができた。そこで本年度は、まず、ゴマ種子中に大量に含まれている新規な抗酸化前駆体であるリグナン配糖体の持つ酸化傷害予防効果の検討を行った。方法は、ゴマ脱脂粕をビタミンE欠乏飼料中に10%加えてラットに2ケ月間投与し、四塩化炭素で過酸化傷害を与えた。その結果、ビタミンE欠乏食だけの場合に較べてゴマ脱脂粕の場合は肝臓や血液中の過酸化度と共に尿中での過酸化度、さらに8-デオキシグアノシン量を有意に低下させた。これらの結果より、セサミノール配糖体が腸内細菌により加水分解を受けた後に生体内に吸収され抗酸化的な防御効果を示すという新しい機構を提出することができた。また、本年は、生体膜の酸化的傷害物質として代表的な4-ヒドロキシノネナ-ルのモノクロナール抗体の作製に成功し、さらに最近マロンジアルデヒドにより修飾されたタンパク質に対するポリクローナル抗体の作製にも成功している。これらの抗体による組織染色、特に酸化傷害により生じた腎臓がん部位での検出への応用にも成功している。さらに、培養細胞系、特に、チャイニーズハムスターや大腸由来の細胞で過酸化水素を中心とした酸化的傷害の保護効果についても、新しい機構を提出することができた。また、ゴマ油中の抗酸化成分として抗酸化的な防御効果の検討を行ったセサミノールについては、ビタミンEに対して強い相乗的な効果が見られるという新しいメカニズムを明らかにすることができたので、これらのリグナンを食品因子として代謝も含めた新しい研究へのアプローチが期待される。
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リンパ腫発生に先立つ骨髄内pre-B細胞の異常分化
研究課題/研究課題番号:05152060 1993年
がん特別研究
日合 弘
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
リンパ腫好発系近交系マウスSL/Kh系の前リンパ腫期骨髄におけるB細胞分化を検討した。BP-1抗原陽性前B細胞が生後4-6週を中心に著明にポリクローナルに増殖し15-18週令ころより急速にモノクローナル増殖に転化した。他の大部分の近交系マウスでは前B細胞のレベルははるかに低かった。SL/KhとのF1では前B細胞の増殖がみられこの形質は遺伝的に優性とみなされた。SL/Khのリンパ腫発生には内在性レトロウイルスが必要であるが、前リンパ腫期の前B細胞の増殖にはウイルスは関与していないことがウイルス抵抗性遺伝子FV-4^Rcongenic C4WとのF1においても前B細胞の増殖があること、母系抵抗因子の投与によっても減少しないことから証明された。一方、放射線キメラを作成したところ、骨髄細胞ドナーによって前B細胞のレベルは決定されており、SL/Kh系の幹細胞の性質に基づくものと思われた。これらの所見から、SL/Kh系の前Bリンパ腫の発生は多段階過程を経て発生することが示された。
自然発生リンパ腫をみないNFS/N系とのF1、退交配系についてリンパ腫の発生、病型を観察し、プロウイルスとその発現、生化学的遺伝子マーカー、マイクロサテライトマーカーを全個体について解析した。すべてのリンパ腫の発生には内在性ウイルスのうちAkv-1(第7染色体)の存在と発現が必要であった。リンパ腫の発生は遺伝的に優性であるが、MHCと連関したEsl-1座位がSL/Kh由来のアレルを持つ場合には急性の前Bリンパ腫が発生し、第4染色体上のfoc-1座位がNFS/N由来の劣性アレルのホモの場合にはより成熟したB細胞腫瘍であるろ胞中心細胞リンパ腫が発生した。これらの所見はウイルスによる腫瘍の病型は宿主の遺伝的感受性により決定されていることを示すものである。 -
鉄によるDNA損傷とその癌遺伝子、癌抑制遺伝子への影響
研究課題/研究課題番号:05770149 1993年
奨励研究(A)
豊國 伸哉
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:900000円 ( 直接経費:900000円 )
ヒトにおいて体内の鉄貯蔵量増加は発癌のリスクとなることが明らかとなったため、鉄による発癌機構の分子病理学的解明をめざした。この際、中性で自由鉄でありうる鉄キレート化合物が重要となる。鉄ニトリロ三酢酸の反復投与はラット、マウスで高率に胃癌を発生させる。また、鉄クエン酸はヒトのヘモクロマトーシスにおける血中の自由鉄である。両鉄キレート化合物は本研究者らの開発したsupercoiled plasmidを使用したin vitroの系でDNAを切断し修飾塩基を生成した。この反応は、温度、還元剤、pH、鉄とキレート剤の比率に依存した。次に、鉄ニトリロ三酢酸を投与したラット腎において、ガスクロマトグラフィー/マススぺクトロメトリーによりDNA修飾塩基を検討し、癌遺伝子であるc-fos、c-junの蛋白について酵素抗体法により解析を加えた。投与後1-3hrsをピークとして、8-hydroxyguanine(8-OH-Gua)をはじめとする7種のDNA修飾塩基の増加を認めた。8-OH-GuaはG:C to T:A transversionの原因として注目されるが、生成修飾塩基の中には変異原性に関するデータがいまだ報告のないものもある。近位尿細管の変性壊死再生に伴い、修飾塩基が存在することは変異を誘発し固定するという意味において発癌過程で重要な役割を果たしていると考えられる。投与後16hrs以後再生上皮にc-fos、c-jun蛋白の増加がみられ、これらの蛋白の発癌過程への関与が示唆された。
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非胸腺リンパ腫実験モデル系によるウイルス-宿主相互関係の解析
1992年4月 - 1995年3月
科学研究費補助金 一般研究(B) 研究種目コード:080 04454187
日合 弘
担当区分:研究分担者
リンパ腫の発生はマウスでは内在性レトロウイルスによるが、多くの宿主要因の関与する多段階過程で、いわば多因子遺伝病のモデルともみなされる。当研究室で樹立したPre-Bリンパ腫好発系SL/Khを材料として詳細な宿主遺伝要因の解析を行ってきた。まず、ウイルスゲノムを持たずリンパ腫の自然発生のないNFS/N系との交配実験から、SL/KhマウスのPre-Bリンパ腫に対する遺伝的感受性はプロウイルスEmv-11の存在に依存し、SL/Kh由来MHCをもつ場合はPre-Bリンパ腫を、これをもたず第4染色体上のfoc-1座位がNFS/N由来アレルのホモである場合には濾胞中心細胞リンパ腫を発生することを発見し報告した。本年度は、標的細胞の異なるTリンパ腫好発系AKR/Msとの交配実験を行い、SL/Khへの退交配、F2世代ではTリンパ腫の発生は常染色体単一優性遺伝子Tlsm-1 により決定されていること、同遺伝子はマイクロサテライト法による解析から第7染色体のセントロメアより62cMにマップされることを明らかにした。AKRとDBA/2との組み替え近交系AKXDの第7染色体を精査し、Tリンパ腫発生はこの系でもTlsm-1と相同な遺伝子によって決定されていることを示した。この部位にはラットの化学発癌剤誘発Tリンパ腫の感受性遺伝子も我々の手でマップされている。これらの一連の知見はリンパ腫病型は宿主遺伝子型の組み合わせにより決定されることを示唆し、ヒトのリンパ腫についても相同遺伝子を中心にこの考えを拡大適用できる可能性を示すものである。
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非胸腺リンパ腫実験モデル系によるウイルス-宿主相互関係の解析
研究課題/研究課題番号:04454187 1992年 - 1994年
一般研究(B)
日合 弘
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
リンパ腫の発生はマウスでは内在性レトロウイルスによるが、多くの宿主要因の関与する多段階過程で、いわば多因子遺伝病のモデルともみなされる。当研究室で樹立したPre-Bリンパ腫好発系SL/Khを材料として詳細な宿主遺伝要因の解析を行ってきた。まず、ウイルスゲノムをもたずリンパ腫の自然発生のないNFS/N系との交配実験から、SL/KhマウスのPre-Bリンパ腫に対する遺伝的感受性はプロウイルスEmv-11の存在に依存し、SL/Kh由来MHCをもつ場合はPre-Bリンパ腫を、これをもたず第4染色体上のfoc-1座位がNFS/N由来アレルのホモである場合には濾胞中心細胞リンパ腫を発生することを発見し報告した。本年度は、標的細胞の異なるTリンパ腫好発系AKR/Msとの交配実験を行い、SL/Khへの退交配、F2世代ではTリンパ腫の発生は常染色体単一優性遺伝子Tlsm-1により決定されていること、同遺伝子はマイクロサテライト法による解析から第7染色体のセントロメアより62cMにマップされることを明らかにした。AKRとDBA/2との組み替え近交系AKXDの第7染色体を精査し、Tリンパ腫発生はこの系でもTlsm-1と相同な遺伝子によって決定されていることを示した。この部位にはラットの化学発癌剤誘発Tリンパ腫の感受性遺伝子も我々の手でマップさている。これらの一連の知見はリンパ腫病型は宿主遺伝子型の組合せにより決定されることを示唆し、ヒトのリンパ腫についても相同遺伝子を中心にこの考えを拡大適用できる可能性を示すものである。