科研費 - 丸山 彰一
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難治性腎疾患におけるCaMK4を介した新規ポドサイト特異的治療法の開発
2019年4月 - 2022年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
前田 佳哉輔
担当区分:研究分担者
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マイクロRNAと脂肪幹細胞由来エクソソームを用いた、敗血症性AKI治療開発
2019年4月 - 2022年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
加藤 規利
担当区分:研究分担者
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難治性腎疾患におけるCaMK4を介した新規ポドサイト特異的治療法の開発
研究課題/研究課題番号:19K08723 2019年4月 - 2022年3月
前田 佳哉輔
担当区分:研究分担者
ポドサイトの機能不全は慢性腎臓病の進展に中心的な役割を担う。我々は、カルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼIV(CaMK4)の活性化が、①ループス腎炎におけるポドサイト障害の原因の一つであること、②細胞骨格の制御を介したポドサイト障害と免疫複合体沈着・半月体形成に関与する知見を得た。
また、本研究では難治性腎疾患(進行性半月体形成性腎炎、治療抵抗性ネフローゼ症候群)への治療応用を見据え、①ポドサイト内のCaMK4シグナルを介した半月体形成・糸球体硬化の分子機構の解明、②CaMK4をターゲットとした半月体形成性腎炎・難治性ネフローゼ症候群のポドサイト特異的新規治療法の開発をめざす。
カルシウム/カルモヂュリン依存性キナーゼ(CaMK)シグナルに対するポドサイト特異的治療の確立のため、難治性腎疾患の一つである、難治性ネフローゼ症候群におけるCaMKシグナルの解析を行った。難治性ネフローゼ症候群の一つである巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)においては、一部でCaMK4がポドサイト上に発現上昇が認められたが、CaMK2に関しては糸球体内での発現が見られなかった。同じカルシウム/カルモジュリン誘導性のキナーゼであるのにも関わらず、両者に違いが見られたことから、上流のCaMKキナーゼ(CaMKK)に着目した。なぜなら、CaMKKは、CaMKの中でCaMK1と4の活性化に必須のキナーゼで、CaMK2の活性化には関与しないためである。CaMKKは2種類のアイソフォームを持つが、両者を阻害する低分子化合物を使用して、その役割を検討した。FSGSモデルマウスに阻害薬を投与し、尿蛋白の推移を検討した。CaMK4阻害を行った場合と同様の結果が予想されたが、CaMKKの阻害により、蛋白尿の誘導に関しては有意な差は認められなかった。長期の経過では、野生型はある時点でピークを迎え尿蛋白は改善傾向に転じるが、阻害薬投与群においては改善の遅延がみられ、有意に障害が遷延する結果となった。CaMKKはポドサイト障害の可逆性に関与している可能性があり、今後CaMKKの2種類のアイソフォームの役割の違いも含めて、各々の遺伝子欠損マウスを使用し検証していく予定である。
CaMKファミリーの発現の違いにより上流のCaMKKの調節機構の解析を要した。当初CaMK4を活性化する役割をもつCaMKKは、同様にポドサイト障害を軽減すると想定されたが、予想に反し悪化傾向を呈した。予定していたCaMK4の機能解析のみならず、上流のCaMKKの解析も行う必要があるため、やや遅れる結果となっている。
今後は、CaMKK-CaMK4経路の解析のため、CaMKKのアイソフォーム毎の機能解析を行う。そのための各欠損マウスは取得済みである。 -
致死性血栓症における補体3型受容体の機能解明
研究課題/研究課題番号:19K07232 2019年4月 - 2022年3月
水野 智博
担当区分:研究分担者
活性化好中球が放出するヒストンにより惹起される線溶系有意の致死性血栓症は,凝固系有意の敗血症由来のものとは異なる。この致死性血栓症の発症メカニズムの解明研究は,凝固系有意の致死性血栓症治療薬とは作用機序の異なる新規治療薬開発の重要な基盤研究となる。本研究では,これまでの研究成果を踏まえ,新たに血小板凝集および組織への接着,白血球-血小板複合体に関与する補体3型受容体との関わりの重要性に着目し,Mac-1欠損およびPILRα欠損マウスへヒストンを投与して致死性血栓症モデル動物を作製し,Mac-1がヒストン誘発性致死性血栓症に関与するかどうか,を解明する。
補体3型受容体(Mac-1:CD11b/CD18)は、血小板凝集および組織への接着や白血球-血小板複合体の生成促進に関与することが知られている。我々は、ヒストン誘導性致死性血栓症モデルマウスにおいて、白血球におけるMac-1発現が亢進することを確認しているが、出血と血栓形成の双方が関与する同疾患にて、Mac-1がどのように発症へ関与するのか、詳細は不明であった。致死性血栓症におけるMac-1の関与を明らかにするため、C57BL6/J(野生型)マウスおよび同系統のMac-1欠損マウスへ細胞外ヒストンを投与し、致死性血栓症モデル動物の作製を行った。ヒストン投与後の生存期間、肺、肝・腎障害の程度,プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を評価および測定した。Mac-1欠損マウスでは、野生型マウスに比して、ヒストン投与後の生存期間が延長し、組織障害についても、軽度であった。PT、APTTについてはMac-1欠損および野生型マウス間で差が認められなかった。上記結果を踏まえ、Leukoladherin-1(LA-1)を用い、Mac-1を一時的に活性化させることで、上記遺伝子改変マウスと比較して、ヒストンによる反応性が異なるかどうかを検討した。野生型マウスにLA-1(LA-1群)およびコントロールとしてDMSO(コントロール群)を前投与し、その後ヒストンを投与することで致死性血栓症を惹起させたところ、LA-1群およびコントロール群間でヒストン投与後の生存期間、臓器障害に差は認められなかった。
2019年度の研究実施計画は、C57BL6/J(野生型)マウスおよび同系統のMac-1欠損マウスへ細胞外ヒストンを投与し、ヒストン投与後の生存期間、肺、肝・腎障害の程度、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を評価および測定することであった。上記研究を完了し、次年度前半に予定していたLeukoladherin-1(LA-1)投与実験も完了することができた。以上の結果を踏まえ、当初の計画以上に進展していると考える。
Leukoladherin-1(LA-1)前投与による致死性血栓症への影響が認められなかった要因として、ヒストン自身のMac-1活性化作用が考えられる。そのため、LA-1とは異なる方法を用い、好中球の関与を検討する必要がある。次年度は抗Ly-6G抗体を用い、好中球をdepleteさせることにより、ヒストンによる致死性血栓症に与える影響を検討する。さらに、野生型およびMac-1欠損マウスの両個体から好中球を単離し、ヒストンがNETosisへ与える影響についても、検討する。 -
補体活性と糖鎖異常に着目した二次性血栓性微小血管症(TMA)の病態解明
研究課題/研究課題番号:19K08692 2019年4月 - 2022年3月
勝野 敬之
担当区分:研究分担者
血栓性微小血管症(TMA)は腎予後、生命予後ともに不良な難治性病態であるが、早期診断法や治療法は確立されていない。申請者らは腎障害モデルにおいて、補体活性化が腎障害を増悪させることを見出してきた。近年、Glycocalyxによる血管内皮の恒常性維持作用が注目されている。本研究では、「二次性TMAでは糸球体内皮細胞上のGlycocalyxの発現が低下し、それにより補体活性化が惹起され腎障害が増悪する」という仮説を検証する。本研究を通して、TMAの早期診断や治療標的の同定につながる新たな知見を見出すことを最終目標とする。
近年、血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy : TMA)と診断される症例は増加傾向にありその原因も多様である。
わが国のTMAの実態を調査するため、日本腎臓学会による腎生検レジストリー(J-RBR)のデータを活用した横断研究を実施した。2007年から2017年の10年間で38,495例の腎生検症例が登録されており、そのなかでTMAと診断された症例は152症例(0.39%)であった。TMAの基礎疾患としては、溶血性尿毒症症候群(HUS)/血栓性血小板減少性紫斑病(TTP) 16.4%, 膠原病 17.1% 薬剤性16.4 %が多い結果であった。このほかにも臓器移植関連、高血圧、妊娠、悪性腫瘍などTMAの原因は多彩であった。疫学的には小児から高齢者まで幅広くTMAを発症していた。小児はHUS/TTPが有意に多いが、成人期以降では二次性TMAの頻度が増加する傾向が認められた。小児・成人・高齢者の比較では、高齢者で有意に腎機能が低下しており、糖尿病や高血圧などによる潜在的な内皮障害がTMA病態を促進させて可能性が示唆された。この結果はClin Exp Nephrol. 2020 May 15. doi: 10.1007/s10157-020-01896-7にて報告した。二次性TMAのなかでも頻度の高い膠原病関連TMAに関しては、抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome : APS)に着目し、APSにおける腎障害を報告した (J Clin Rheumatol. 2019 Nov 8. doi: 10.1097/RHU.0000000000001173)。
現在は強皮症に関連したTMA病態である強皮症腎クリーゼの予後と治療効果に関する臨床研究を実施している。二次性TMAにおける補体活性系および制御系の関与については検体収集中であり、集まり次第C5b-9などの因子を測定していく予定である。二次性TMAの動物モデルの作成は確立しておらず進歩状況としてはやや遅れている。抗悪性腫瘍薬関連TMAに関してはレジストリーに該当する症例が予想を下回っており遅れが生じている。
全身性強皮症を中心とした膠原病に関連したTMA病態の予後改善のため、臨床予後調査と治療効果に関する臨床研究を進める。薬剤性TMAに関しては、抗悪性腫瘍薬関連TMA発症の実態調査のため症例のレジストリーを進めていく。二次性TMAの動物モデルの作成についてはさらなる検討が必要である。 -
間葉系幹細胞治療における現在の問題点を解決する新たな細胞治療用カラムの開発
研究課題/研究課題番号:19K08722 2019年4月 - 2022年3月
古橋 和拡
担当区分:研究分担者
間葉系幹細胞(MSC)を用いた臨床試験はこの数年で著しく増加している。しかし、MSCを静脈内投与された患者が肺塞栓のため死亡した事例が報告されており、さらなる安全な幹細胞療法の開発が急務である。本研究では、MSCがもつ優れた成長因子・免疫制御因子の産生能力に着目し、細胞を直接体内に投与せず、これらの液性因子を体内に投与できる治療法としてMSC治療用中空糸膜カラムを開発する。これにより細胞による肺塞栓をゼロにできる。その際に、MSCの静脈内投与と遜色ない治療効果をカラムによって得るためには、MSCの活性化が必要であり、MSCを活性化する全く新しい細胞カラムを開発する。
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慢性腎臓病患者における腸内細菌叢の変化とその改善による新規治療戦略の開発
研究課題/研究課題番号:19K08700 2019年4月 - 2022年3月
加藤 佐和子
担当区分:研究分担者
慢性腎臓病(CKD)患者の表現系は老化に見られる諸変化に酷似し、「腎不全は老化を促進する」という仮説を立案し、尿毒症による免疫学的変調と慢性炎症による老化促進を、基礎的・臨床的両面より実証し報告してきた。その中で慢性腎臓病(CKD)患者(新規維持透析患者)の循環白血球に取り込まれた細菌由来のDNA断片析から、透析導入時に比べて1年後の菌種構成が変化していることを世界で初めて見出した。今回の研究では、尿毒症下での体内の細菌叢の変調が、老化指標であるテロメア消耗やDNAメチル化促進に関与するか、腎不全特有の環境因子を含む詳細な臨床データと合わせて検討し「腎不全は老化を促進するか否か」検証する。
我々は、日本人の新規透析導入患者(CKD stage5D)のコホート研究NICE-GENE study を遂行中である。現在211例の登録、血液サンプル収集が得られている。そのうち約50症例の血液検体より、循環白血球よりDNAの抽出を行った。グラスゴー大学グラスゴーポリオミクスDr. David McGuinnessの指導の下細菌由来のDNAを測定した。合わせて、患者背景・臨床情報(腎機能、炎症、栄養状態、心不全、および動脈硬化指標等)を収集し、データベース作成を進めた。以上の結果、診療情報を合わせて予備解析を行った。
循環白血球に取り込まれた細菌由来のDNAは、透析導入時、透析一年後の比較において、細菌のthe clade level 、the order level において、菌株、多様性、割合について大きく変化が認められた。臨床情報との比較で、これらの変化に寄与した要因について解析を行ってきたが、今までのところ有意に変化をきたす因子を見出せなかった。
しかしながら、循環白血球に取り込まれた細菌の菌株、多様性、割合は、腎不全の原疾患において、透析導入時にそもそも大きく異なっていることが示された。過去の論文より糖尿病、非糖尿病で大きくことなるとが予想されたが、糖尿病の有無ではあまり変化がなかった。多発のう胞腎や腎硬化症で予想と異なる結果であった。これは、透析導入時の年齢やそれまでの感染症の既往に関与している可能性が考えられた。また、すでに、心血管合併症を経験した患者かどうかによっては、あまり変化が認められなかった。
これは、ストックホルムの透析患者、腎移植患者の予備解析とは異なる結果であった。
登録患者数が予想より伸びず、検体収集が進んでいない。血清中のTMAOの測定が日本国内では難しいことがわかり、方法を再検討している。また、さらに腎不全患者の国際比較をするにあたり、日本の新規透析患者ととスウェーデン移植患者のデータについて、クラスゴー大学より、そもそもの背景の違いが大きすぎるため直接比較は難しいのではとの意見をいただき、検討中である。
慢性腎臓病治療の向上などで、透析導入患者の高齢化がすすみ、本研究登録基準である75歳以下を満たす患者が年々減少しているため、予想より登録が進まない現状にある。また、通院透析施設から施設入所転院がふえ、患者予後などの重要な情報の収集も追い難くデータベースの構築が難しくなったのは事実である。また、そもそもの背景の違いを検討するために、同年齢の日本人コントロールサンプル(腎不全患者でない)の収集を検討している。
また、実際に感染症や心血管合併症を経験した患者のサンプルの比較検討もすすめたい。
今後は、国際比較のための現地データ回収も早期に実現したい。 -
白血球・血管内皮細胞発現タンパクに着目した腎糸球体血管内皮障害特異的診断法開発
研究課題/研究課題番号:19K08739 2019年4月 - 2022年3月
坪井 直毅
担当区分:研究分担者
急激な腎機能低下を示す好中球細胞質抗体(ANCA)関連腎炎、血栓性微小血管症(TMA)に対する組織診断は、血管障害を背景とする大量出血のリスクを伴う。本研究は、腎糸球体毛細血管障害を対象に腎生検の代替となる新規非観血的診断法開発を目的とし、尿中白血球発現タンパクCD11b、CD163および血管内皮細胞発現タンパクCD106レベルの国内複数の腎疾患患者コホート患者試料を用いたバリデーション、臨床的疾患活動性指標・腎組織所見との関連分析 (臨床観察研究)と、疾患モデル動物を用いた基礎医学研究両面から、尿中候補分子のANCA関連腎炎、TMA診断・病勢判定指標としての有用性を検討する。
『患者検体尿中CD11b、CD163、CD106の臨床的意義検討と国内外コホート比較によるバリデーション』
①腎炎患者尿中のCD11b、CD163、CD106測定:名古屋大学医学部附属病院とその関連病院(88例)、および厚生労働省難治性疾患克服研究事業(Remit-JAV-RPGN,138例)で組織診断時に収集された合計226例のANCA関連腎炎患者尿検体で、CD11b、CD163、CD106値をELISA法で測定したところ、いずれもANCA関連血管炎患者で有意な上昇を認めた。
②尿中CD11b、CD163、CD106と腎疾患病理組織学的活動性との相関評価:腎糸球体組織学的分類との関連性を検討した。その結果、CD11b、CD163の両分子は、Berden分類における半月体型に分類される患者群で有意に増加していた。また両分子はともに、尿蛋白とは正の、腎機能とは負の相関を示したが、それらはCD163でより強固であった。次に、CD11b陽性、CD163陽性の各白血球分画の糸球体での分布に注目したところ、CD163陽性白血球数は糸球体全領域に均等に観察されたのに対し、CD11b陽性白血球数は半月体内よりも糸球体の未破壊領域に多く分布していた。また尿中の両分子の値は、半月体形成率や、半月体内のCD11b陽性、CD163陽性白血球分画集積数とも、それぞれ有意に相関していた。
『糸球体腎炎・腎微小血管障害動物モデルを用いたCD11b、CD106動体解析による基礎医学的検証』
ウサギIgGで前免疫を施したC57BL/6系マウスに、ウサギ抗マウス腎糸球体基底膜血清を投与することにより、抗糸球体基底膜抗体型腎炎の動物実験モデルを樹立した。
ANCA関連腎炎患者尿検体におけるCD11b、CD163、CD106の測定、組織学的所見との関連分析は概ね終了している。現在Remit-JAV-RPGNコホートの臨床情報との関連性について多変量解析など統計学的手法を用いた解析に着手している。
動物実験については、研究代表者所属施設での抗糸球体基底膜抗体型腎炎の動物実験モデル樹立に成功した。
『患者検体尿中CD11b、CD163、CD106の臨床的意義検討と国内外コホート比較によるバリデーション』
尿中CD11b、CD163と患者の腎予後(治療後6ヶ月の寛解導入、腎機能低下)について解析を進め、それらの臨床的意義を明らかとする。尿中CD11b、CD163のANCA関連腎炎における臨床的意義に関しては、解析結果が揃い次第論文化を行う。また、希少疾患である血栓性微小血管症(Thrombotic microangiopathy: TMA)に関しても、今後研究分担施設からも検体収集を進め、上記バイオマーカーの測定を行う。
『糸球体腎炎・腎微小血管障害動物モデルを用いたCD11b、CD106動体解析による基礎医学的検証』
研究代表者所属施設で樹立した抗糸球体基底膜抗体型腎炎モデルを用い、経時的尿中CD11b、CD106動態と腎機能、組織障害との関連を検討する。腸管出血性大腸菌由来Verotoxin(Stx2)による溶血性尿毒症症候群(HUS)モデルは、Stx2の入手が可能となり次第着手する。2020年4月現在COVID-19感染拡大による非常事態宣言により、新規の動物実験が困難な状況になっているため、細胞実験への移行も検討している。 -
マイクロRNAと脂肪幹細胞由来エクソソームを用いた、敗血症性AKI治療開発
研究課題/研究課題番号:19K08676 2019年4月 - 2022年3月
加藤 規利
担当区分:研究分担者
敗血症は、全世界的にみても死亡率が高い重篤な疾患である。また新たな治療法の開発は遅れ、生存率の改善は停滞している。我々はToll like receptorシグナルをmiRNAによって制御するといった、新しいアプローチによる治療を報告してきた。一方で幹細胞由来のエクソソームには、炎症性疾患における治療効果が報告されており、今回は低血清培地型脂肪由来幹細胞のエクソソームを用いて、我々が見つけ出したmiRNAを敗血症モデルマウスに投与して、治療効果の上乗せが可能かどうか、検証を行う。
核酸医薬は、昨今開発が進む抗体医薬や細胞医薬に比して安価に安定的に生合成され、一度定めたプラットフォームを用いることによって、様々な疾患に応用可能な治療薬として注目を集めている。我々は、生体内に存在する自然のRNAi機構であるmicroRNA(miRNA)の治療的応用を目指し、過去においてPolyethylenimine (PEI)をドラッグデリバリーシステムとして用い、NF-κBを負に制御するmiR-146aを投与することで、敗血症モデルマウスの高サイトカイン血症を抑制し、生存率を高める事に成功してきた。
一方細胞治療は、一部すでに実用化も進んでおり、様々な臨床的効果が期待されているが、核を含む細胞を体内に投与する事で、拒絶や癌化といったリスクが危惧されている。そこで細胞自身を投与するのではなく、細胞の放出する細胞外小胞、とくにエクソソームに着目し、エクソソームを投与することで細胞投与と同等の効果を認めたとする報告が多く見られるようになってきている。
本研究は、当科で細胞治療研究として取り組んできた脂肪由来幹細胞(ASC)由来エクソソームを、それだけで投与するのではなく、治療効果をすでに確認しているmiRNAと組み合わせることで、治療の相乗効果を狙った新しい治療プラットホームの開発を目的としている。
動物実験の解析により、投与したmiR-146a 発現プラスミドの作用点は脾臓であることが判明している。本年度においては、先行研究で用いたmiR-146a発現プラスミドは生体応用し難いため、成熟miRNAおよび人工核酸においても同等に脾臓がターゲットとして治療効果を得られるかを中心に検証すべく研究を行った。
脾臓は二次リンパ節としては最大で、敗血症の発症において抗原提示、免疫の増幅、全身性へのサイトカイン産生の主たる臓器として役割を持っている。先行研究においてはmiR-146a発現プラスミドを用いており、発現に時間がかかるとともに生体の核内に遺伝子が導入されてしまうことになるため、一過性発現かつ即効性のある成熟miRNAを用いて、脾臓での取り込みを確認した。
まず成熟miRNAを、PEIをドラッグデリバリーシステムとして脾臓への直接注射を行い、脾臓に投与後24時間をピークに48時間まで検出可能であることを確認した。脾臓に直接投与した場合、ごく一部合流した門脈を介して肝臓においても検出されたが、腎臓、肺には影響を及ぼさなかったため、他臓器への影響は限局的であることが示唆された。また同様に先行研究で明らかになったmiR-146aの脾臓マクロファージへの取り込みに関しても、F4/80による脾臓細胞のセレクションにより証明した。
次に盲腸結紮穿孔モデルによりマウスに敗血症を起こし、同様にmiR-146aを投与した所、対照群(スクランブル配列)と比較して、Cr, BUN, AST, ALT, LDHを低下させることが可能であった。ただし、死亡率はmiR-146a投与群でむしろ悪化しており、治療により死亡を増やすが、生存した群においては治療効果を示すという結果となった。
さらによりエクソソームに近いと考えられる、リポソームをドラッグデリバリーシステムとして用いた治療実験において、現時点で治療効果は確認できていない。
マウス盲腸結紮穿孔モデルに置いて、miR-146a脾臓注射が治療効果を示す一方で死亡率を高めた理由の考察として、miR-146aが脾臓のマクロファージに取り込まれるところは確認されており、そのNF-κB抑制作用によりサイトカイン産生を抑制することから、(1)腹腔内の感染、菌血症に対する炎症の初期反応が抑制されてしまった可能性、(2)より晩期の免疫抑制によりsecondary infectionを引き起こした可能性の両面が考えられる。
そもそも先行研究において効果が見られた原因としては、敗血症晩期の過剰な免疫反応としてのサイトカインストームを抑制するところにあり、感染成立初期の特に自然免疫の反応を抑制してしまった場合は最近の増殖を抑えきれず、そのまま死に至ると考えられるし、晩期の免疫力が正常に戻った後過剰な免疫抑制を起こした際は、二次感染で死亡する。つまり投与するタイミングが非常に重要であり、我々の先行研究においては、敗血症を起こす前に事前投与していたが、miR-146a発現プラスミドであったことから、効果の発現に時間がかかり、時期としてちょうど首尾よくサイトカインストームを抑制した可能性がある。
臨床応用に関しては、事前投与は困難であることから、今後は(1)の可能性を考慮して、敗血症モデル作成直後に投与すするのではなく、数時間空けて投与することで反応を確認していく予定である。
また、投与方法として脾臓直接注射は多臓器への影響が少なくより選択的に治療対象とする脾臓マクロファージに取り込まれるが、生体に与える侵襲も高い。よって今後は静注、腹腔内投与と言った別経路による治療を検討し、条件を確定していく予定である。 -
蛋白尿可視化透明モデル動物による特発性巣状分節性糸球体硬化症の液性病因の解明
2019年4月 - 2021年3月
科学研究費補助金 研究成果公開促進費 (研究成果公開発表)
担当区分:研究代表者
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日本の一次性膜性腎症における責任抗原ごとの病態理解と新規診断法の確立
2019年4月 - 2021年
科学研究費補助金 基盤研究(C)
秋山 真一
担当区分:研究分担者
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糖尿病性腎臓病における2つのフルクトース代謝酵素の役割の解明とその治療応用
2018年4月 - 2021年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
石本 卓嗣
担当区分:研究分担者
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臨床応用を指向した腎疾患病型スクリーニング法の開発
2018年4月 - 2021年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
平山 明由
担当区分:研究分担者
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臨床応用を指向した腎疾患病型スクリーニング法の開発
研究課題/研究課題番号:18K08219 2018年4月 - 2021年3月
平山 明由
担当区分:研究分担者
本年度は、前年度に同定したループス腎炎のバイオマーカー候補について、液体クロマトグラフィー―質量分析計を用いた高速分析法の開発を行った。これにより、従来キャピラリー電気泳動―質量分析計を用いて30分かかっていた測定時間を約10分に短縮することが可能になった。
また、バイオマーカー候補については異なる時期に採取されたバリデーション用検体を用いて、マーカーとしての感度・特異性の検討を実施した。7つの異なるネフローゼ疾患患者尿120検体を用いてバリデーション試験を実施した結果、独立した検体群においてもループス腎炎を他の6種のネフローゼから高精度に判別できることが証明された。
また、検体の臨床情報との相関についても検討を実施した。検体のベースラインデータとの相関を検討した所、BMIと体重には弱い相関がみられたが、その他は相関が見られなかった。さらに、ループス腎炎に関しては病理型との関連も検討したが、顕著な関連は見られなかった。本マーカーは、濃度が低い方が完全寛解が遅く、腎機能悪化も多い傾向が見られ、濃度の高い方が予後が良い傾向が認められた。
さらに、ループス腎炎患者血漿中のマーカー濃度についても検討を行った。10名のループス腎炎患者の血漿中のマーカー濃度を健常者と比較した所、尿同様に患者血症中でも高い傾向が認められた。
マーカー代謝物の化学合成に少し時間を要しているが、おおむね計画通り進んでいる。
共同研究先への結果のフィードバックを速やかに行い、必要に応じて追加検体を受け取れる体制を整えていく。 -
糖尿病性腎臓病における2つのフルクトース代謝酵素の役割の解明とその治療応用
研究課題/研究課題番号:18K08238 2018年4月 - 2021年3月
石本 卓嗣
担当区分:研究分担者
糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease, DKD)の進展における2つのフルクトース代謝酵素ケトヘキソキナーゼAとC(KHK-A・KHK-C)の役割を解析する。
1) KHK-A KO・KHK-C KO・KHK-A/C KOマウスを用いた検討
既にKHK-A KO・KHK-A/C KOマウスは保有しており、KHK-C KOマウスの作成をCRISPR/Cas9システムを用いて作成中である。KHK-Cに特異的であるexon3cを標的とした1本のgRNAおよび2本のgRNAを用いて、マウスKHK-Cを欠損する遺伝子改変マウスを作成し、それぞれから複数のlineを取得した。Offspringsを用いて、それぞれ10ヶ所のoff targetについての解析を行い、off targetが無いことを確認できた。現在、実験を行うためのコロニーの拡大を行っている。また、平常状態でのKHKの各種splicing variantの発現系の確認を行った。
2) マウスKHK-C antisense oligo(ASO)を作成し、DKDに対する治療効果を検討する。
KHK-A・KHK-Cはexon3のsplicing variantであり、それぞれexon3a・exon3cを有することから、exon3cを標的としたマウスKHK-C antisenseの候補配列を複数決定した。KHK-Cは生体内においては腎の近位尿細管に高発現するが、不死化細胞および初代培養細胞においてはその発現が低下することから、マウスKHK-C antisenseのKHK-C発現抑制効果の確認のため、マウスKHK-C・マウスKHK-Aを強制発現するHK-2細胞株を樹立し、作成したKHK-C ASOの発現抑制効果を検討している。
CRISPR/Cas9システムを用いたKHK-Cを欠損する遺伝子改変マウスは、複数のlineが樹立できて、そのoffspringを用いたoff targetの解析も完了できた。現在、マウスコロニーを拡大中である。また、平常状態での発現系の確認を行い、KHK-Cの選択的なノックダウンを確認した。
また、マウスKHK-C・マウスKHK-Aを強制発現するHK-2細胞株の樹立、マウスKHK-Cを標的とするantisenseの候補配列も決定・合成も終了し、発現抑制効果を検討してるが、十分な発現抑制効果を得られおらず、引き続き検討中である。
1) CRISPR/Cas9システムを用いたKHK-Cを欠損する遺伝子改変マウスを用い、ストレプトゾトシンを用いたI型糖尿病モデルを作成し、KHK-C KOマウスにおけるDKDの進展抑制作用について解析する。
2) KHKーC強制発現培養細胞を用い、antisenseによるKHK-C発現抑制効果を検討し、抑制効果の高い配列を選択する。その後、安定化修飾したKHK-C antisenseを用いてin vivoにて検討する。 -
日本の一次性膜性腎症における責任抗原ごとの病態理解と新規診断法の確立
研究課題/研究課題番号:18K08239 2018年4月 - 2021年3月
秋山 真一
担当区分:研究分担者
本研究では、膜性腎症の中でも責任抗原が不明な特発性膜性腎症について未知の責任抗原の解明を目指すと共に、Phospholipase A2 receptor(PLA2R)やThrombospondin 7A(THSD7A)を含む各責任抗原に対する自己抗体を指標にした病態理解および新規診断法の開発に取り組んでいる。
研究2年目の進捗は以下の通りである。未知の責任抗原の同定では、研究1年目に開発した患者血清を用いた免疫沈降法を用いて抗原検索を継続した。また、昨年度の実験で得られた新規抗原候補となるタンパク質の同定作業にも取り組んだ。質量分析により得られた新規抗原候補群からポドサイトに発現する膜タンパク質を抽出して、各候補抗原のcDNA断片を組み込んだ発現ベクターを作成し、各種組換えタンパク質を取得した。得られた抗原タンパク質を用いて患者血清に対する結合試験を開始した。一方、既知責任抗原であるPLA2Rのエピトープ解析では、海外の先行論文にて一次性膜性腎症患者がもつ自己抗体のエピトープとして報告されているシステインリッチドメイン(CysR)、Cタイプレクチンドメイン1番(CTLD1)、Cタイプレクチンドメイン5番(CTLD5)、Cタイプレクチンドメイン7番(CTLD7)、Cタイプレクチンドメイン8番(CTLD8)に対するエピトープ分布解析に取り組んだ。各ドメインの組換えタンパク質を調製して、抗PLA2R陽性一次性膜性腎症患者の診断時血清を用いて解析を実施した。その結果、日本人患者ではエピトープ分布と病勢・予後との間に海外症例で報告されたような明瞭な相関は認められず、日本人患者では診断時の抗PLA2R抗体濃度の方がより予後との相関が強いことが示された。
未知抗原の同定では候補抗原の発現と患者自己抗体に対する結合性確認を繰り返す作業に移行できている。自己抗体濃度やエピトープ分布による病勢・予後解析では計画通りに推進できてデータの蓄積が進んでいる。
順調に進展しているため今後も当初の研究計画に沿って進める。具体的には、未知抗原同定とPLA2R関連膜性腎症患者およびTHSD7A関連膜性腎症患者の血清を用いた自己抗体濃度およびエピトープ分布による病勢・予後診断法の検討を進める。 -
間葉系幹細胞特異的マーカーを利用した糸球体腎炎の病態解明と新規細胞治療法の開発
2017年4月 - 2020年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
担当区分:研究代表者
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間葉系幹細胞に着目した腎間質線維化の機序解明と新規治療法の開発
2017年4月 - 2020年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
齋藤 尚二
担当区分:研究分担者
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間葉系幹細胞に着目した腎間質線維化の機序解明と新規治療法の開発
研究課題/研究課題番号:17K09696 2017年4月 - 2020年3月
齋藤 尚二
担当区分:研究分担者
腎線維化に深く関与する細胞の一つとして間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell; 以下MSC)があるが、私達は最近MSC特異的マーカーMeflinを同定した。本研究ではMeflinと腎線維化の関係に着目し、①腎線維化におけるMeflinの発現部位の確認、②腎線維化におけるMeflinの細胞系譜解析を検証した。
正常腎や腎炎をおこした病気腎におけるMeflinの発現量と局在を検討した。正常腎でもMeflinの発現は間質に見られるが、炎症をおこした後には間質の線維化部位にもMeflinの発現が上昇していることを確認した。更に間質線維化におけるMeflin陽性細胞の挙動を観察した。
MSCは近年、細胞治療や再生医療の分野で注目される細胞である。MSCは炎症集積性を有する細胞であり、さらには筋線維芽細胞のソースであることから、線維化疾患の理解においてMSCの理解は必須である。Meflinは私達が知る限り未分化MSCの最も特異的なマーカーであり、MSCの研究において今後非常に有用なマーカーとなると推察される。
Meflinの機能解析を基軸にして、腎線維化の機序解明をする研究である。線維化は慢性腎臓病のみならず、心不全、肝硬変、肺線維症、癌と多様な疾患の病態理解に必須であることから、その医学への貢献は高く評価されるものと期待している。 -
間葉系幹細胞特異的マーカーを利用した糸球体腎炎の病態解明と新規細胞治療法の開発
研究課題/研究課題番号:17H04186 2017年4月 - 2020年3月
丸山 彰一
担当区分:研究代表者
配分額:16900000円 ( 直接経費:13000000円 、 間接経費:3900000円 )
私たちはMesenchymal stem cell;MSCを未分化な状態に保つ働きがある分子Meflinに着目し、MeflinがMSCに特異的に発現することを見出した。本課題ではMeflinに着目し糸球体腎炎発症時のMSCの病態を解明し新規治療開発につなげることを目的とした。
正常腎や腎炎をおこした病気腎におけるMeflinの発現量と局在を検討した。正常腎でもMeflinの発現は間質や糸球体門部に見られるが、炎症をおこした後は糸球体周囲にもMeflinの発現が上昇していることを確認した。
またMeflinレポーターマウスを用いて糸球体腎炎の発症過程におけるMeflin陽性細胞の挙動を観察した。
本研究は特異的マーカー分子を用いてMSCの体内動態を解明する点に学術的な意義があると考える。また、未分化状態を保つはたらきがある分子Meflinに着目して検討を進める点に独創性もある。本研究では糸球体腎炎における各種MSCの動態および作用について検討するが、将来的には他の臓器障害にも一般化できる可能性が高い。
本研究で得られたMeflinの糸球体腎炎発症時の挙動は非常にユニークであり、今後の腎炎発症メカニズムの解明のみならず、腎炎治療ひいては炎症性疾患全般における治療戦略の足掛かりとなる可能性がある。