科研費 - 塩川 和夫
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日本で観測された低緯度オーロラの発生メカニズムの研究
研究課題/研究課題番号:05740308 1993年
奨励研究(A)
塩川 和夫
担当区分:研究代表者
配分額:800000円 ( 直接経費:800000円 )
平成5年度における低緯度オーロラ研究の実績は以下の通り
1.平成5年4月より北海道足寄郡陸別町において、分光測光器による低緯度オーロラの定常観測を開始した。また平成5年9月に、名古屋大学太陽地球環境研究所付属の北海道母子里観測所にある掃天分光測光器のメンテナンスを行った。両者は現在(平成6年3月)に至るまで定常観測を続けている。これらの定常観測から、平成5年9月13日の磁気嵐時に、陸別町において低緯度オーロラ観測に成功した。この観測は、通常の大きさの磁気嵐においても低緯度オーロラが発生するという平成4年度の発見を裏付ける重要な結果となった(平成5年9月13日の低緯度オーロラ観測については、現在論文として執筆中)。
2.平成4年5月10日の低緯度オーロラについて、EXOS-D衛星で同時に得られた電場データの解析から、この低緯度オーロラの発生直前には、磁気緯度50度以下の低緯度まで、磁気圏対流電場が侵入していたことが分かった。このことは磁気圏サブストームにともなった低緯度オーロラの発生メカニズムを知る上で、非常に重要な観測事実である。
3.平成4年に観測された4例の低緯度オーロラについて、オーロラの出現にともなって電離層に局所的な渦電流が発生し、さらにそれが時間とともに経度方向に移動していく構造が、地上多点磁場データの解析から新たに発見された。 -
GEOTAIL衛星による磁気圏尾部の研究
研究課題/研究課題番号:04044168 1992年 - 1994年
国際学術研究
西田 篤弘
担当区分:研究分担者
1.磁気圏尾部の大局的構造 GEOTAIL衛星は地球から100Re(Reは地球の半径)から200Reにいたる磁気圏尾部の遠隔領域の精密な探査を初めて行い、さまざまな新しい知見をもたらした。尾部は約20Reの半径を持ち、その軸は東西南北に半径と同程度の幅で大きく揺らいでいるが、フィラメント状ではなく一体の構造をなしている。尾部内では磁気中性面をはさんで地球向きと反対向きの磁力線が接しており、ローブ領域での磁場強度は±10nT程度である。磁気中性面を貫く磁場の平均は強度が0.5nT程度で方向は北向きである。ルラズマシートには高温(イオンの場合1keV程度)低密度(0.1/ccのオーダー)のプラズマが存在し、殆どの場合100km/sのオーダーの高い速度で地球と反対の方向に流れている。尾部の内部構造は惑星間空間磁場(IMF)の方向に支配されており、磁気圏境界面でのIMFと地球磁場のリコネクションが磁気圏の構造を決定していることを示している。
2.南向きのIMFのもとでの構造 IMFが南向きの時には、尾部の磁力線はローブからプラズマシートに向かって運ばれ、磁気中性面上のX型磁気中性線においてふたたびリコネクトする。殆どの場合、X型中性線の位置は地球から150Re以内である。ローブとプラズマシートの境界には「遅いモード」の電磁流体衝撃波が定常的に存在する。衝撃波の内部とその上流におけるイオンの速度分布関数の変化から、エネルギー変換と散逸の機構を読み取ることができる。加速されたイオンのビームが上流側に流出していることも無衝突プラズマ衝撃波の特徴的な性質である。尾部内でのリコネクション過程は磁気圏嵐の際に活発になり、1000km/sにおよぶ高速の磁力線ループ(プラズモイド)が反地球向きに放出される。プラズモイド内のイオンや電子の速度分布関数は、一方向ビーム、双方向ビーム、温度非等方性など加速機構を直接に反映するさまざまな非平衡性を示す。
3.北向きのIMFのもとでの構造 IMFが北向きの時には、磁気中性面は赤道からIMFの方向に大きく傾いており、磁力線はこの傾いた中性面にそって流れる。中性面の北側と南側の速度は正反対の方向を持つため、中性面には100km/sのオーダーの速度シア-がある。流れを駆動しているのは昼間側高緯度カスプ領域におけるリコネクションであると解釈できる。このリコネクションによってできた開いた磁力線は境界面の一方の側から尾部に入り、中性面に沿う流れによって他方の側に運ばれた後、IMFの磁力線に戻って外に出る。しかし、中性面をはさんでプラズマシートの高温イオン・電子が存在する理由はまだ説明できない。また、リコネクションとは別に太陽風からの粘性によって磁気圏境界層に流れが作られているが、この流れは遠尾部には達しておらず、地球から数十Reのあたりで磁場の張力によって地球側に引き戻されているようである。
4.ローブのプラズマ 尾部のローブはプラズマ・ベータ値の低い領域であるが、プラズマ密度がかならずしも低いわけではなく、低温だがプラズマシートより密度の高いイオンのビームがしばしば存在する。イオン組成にはプロトンだけでなく電離層起源を示唆する酸素イオンも見られる場合があるが、一方、磁気圏の境界層で観測される場合には太陽風起源を示唆する性質を見せることもある。ローブ・イオンの起源解明は尾部のプラズマの供給機構を理解する上で重要な課題である。ローブとプラズマシートの境界ではそれぞれのプラズマが共存するためイオンや電子は速度分布関数がしばしば非平衡の状態にあり、多様な波動が発生する。GEOTAIL衛星の観測によってこれらの波動の励起や非線形成長の機構についても理解を深めることができた。
5.昼間側の磁気圏境界域 IMFが南向きの時は低緯度の昼間側磁気圏境界域でリコネクションによって加熱・加速されたイオンや電子が観測され、また開いた磁力線にそって太陽風と磁気圏のプラズマが相互に流出・流入している。境界面の速度シア-によって表面波が発生しており、その非線形成長がプラズマの混合に寄与している。IMFが北向きの時には複雑な鋸歯状構造が見られることがあり、その成因を研究中である。 -
アラスカ-シベリア域におけるオーロラ嵐の及ぼす電磁気環境変化の共同観測研究
研究課題/研究課題番号:04044077 1992年 - 1993年
国際学術研究
湯元 清文
担当区分:研究分担者
地球磁気圏内に発生する最も基本的な擾乱であるオーロラ嵐に伴って様々な擾乱現象が発生している。このオーロラ嵐の及ぼす電磁環境の変動と様々な擾乱エネルギーの中・低緯度までの輸送・伝播過程を解明するために、オーロラ帯に位置するアラスカ・カナダ・シベリアの高緯度域において、地磁気・大気電場・プラズマ波動並びに光学観測機器を用いた総合の国際共同観測を実施することが本研究の目的であった。また、最近の北海道にある附属母子里観測所における光学観測から、並の大きさの磁気嵐中に低緯度固有のオーロラが頻発していることが示され、太陽エネルギー変動が予想以上に深部まで侵入し、電磁気並びに高エネルギー粒子変動を引き起こしているそのメカニズムを解明することも緊急の課題であった。さらに、アラスカ大学地球物理研究所や東京大学理学部が計画している北米大陸での地上多点観測網と名古屋大学太陽地球環境研究所がSTEP国際協同特別事業期間に実施している210度磁気子午面観測網とを組織的に組み合わせた同時観測を行う事により、日本を含む極東域の高緯度から赤道域までのグローバルな領域における、オーロラ嵐の及ぼすグローバルな電磁環境変動を究明することが本調査研究の目的であった。
平成5年度の調査研究は以下の様に計画的に実施された。
(1)シベリア地域での電磁気変動の観測研究については、低緯度オーロラの発生域に近いカムチャッカのパラツンカ観測点に地磁気観測機を設置するとともに、大気電場の予備観測実験を行った。
(2)又、オーロラ嵐の発生に関係する太陽風変動データ、惑星間空間擾乱データ、地磁気・オーロラデータの収集の為、ロシア共和国のモスクワにある研究所に赴いた。そこで、共同研究の為のデータベース化や研究方法について打ち合せを行った。
(3)アメリカゾーンにおける南北両半球の比較研究調査のために、南アメリカ地域のブエノスアイレスで地磁気・大気電場の予備調査を行った。
(4)引き続き、アラスカ大学地球物理研究所に赴き、カツビュー観測点に地磁気観測装置の設置と大気電場計の予備観測実験を行った。又、アラスカ大学のポ-カフラットで定常観測されているオーロラデータの収集を行った。
(5)シベリア地域のオーロラ観測の為の観測機材を設置する為に、ヤク-ツクの宇宙空間研究所に赴き、ティキシ-観測点に設置する為の観測研究打ち合せを行った。又、低緯度オーロラが発生した期間のオーロラの光学観測データを収集し、比較研究を行った。さらに、プラズマポ-ズ付近の変動を観測する為の磁力計を設置する準備を行った。
(6)以上の調査研究により収集・取得されたオーロラの光学観測データと地磁気変動データを主に共同解析研究する為に、アラスカ大学の共同研究者を名古屋大学太陽地球環境研究所に招へいし、オーロラ嵐に伴う擾乱の高緯から中・低緯度までの輸送・伝搬過程と低緯度オーロラの発生機構についての研究小集会を開催した。
以上の観測・データ収集、比較研究から、オーロラ嵐に伴う擾乱の輸送過程と低緯度オーロラの発生に関する結論が次の様に導き出された。
〔I〕オーロラ嵐に伴う地磁気変動には、高緯度に形成される3次元電流系の強度変動が、中・低緯度に指数関数的に減少して観測される成分と、プラズマ圏もしくはプラズマシートの内側での空洞共鳴振動として伝搬している成分が存在している事が明らかになった。
〔II〕又、磁気嵐中に発生する低緯度オーロラは、従来のサルアークが磁気嵐の回復期に環電流ホットプラズマとプラズマ圏のコールドプラズマの相互作用により発生しているのに対して、環電流ホットプラズマがオーロラ嵐に伴う電場によってプラズマ圏の内部にさらに侵入し、コールドプラズマと相互作用した結果生じている可能性を示唆する貴重な観測データが得られた。 -
極域多点観測によるグローバルオーロラダイナミックスの研究
研究課題/研究課題番号:03041025 1991年 - 1992年
国際学術研究
國分 征, 国分 征
担当区分:研究分担者
オーロラ現象は太陽風・惑星間空間場の変動を源として起こる磁気圏現象の代表格であり,視覚的に際だっているばかりではなく,磁気圏の構造,エネルギー輸送に関わる固有の物理現象である。 この研究は,強いオーロラが出現する緯度60^°〜70^°のオーロラ帯のみならず,微弱ではあるが大陽風(惑星間)磁場の影響を直接受けた特徴的なオーロラの出現する極冠帯もカバーする地上観測網をグローバルに展開することにより,オーロラ領域の時間・空間発達と付随する一連の磁場擾乱域の動態に関する観測データを取得し,得られたオーロラ像の2次元動パターンをもとに,磁気圏におけるエネルギーの変換・流れ,粒子の加速,電磁擾乱の発生機構に関する制約条件を明かにすることを目的とした。また,この研究は,国際共同研究STEP(太陽地球系エネルギー研究)の一環として各国の地上観測・衛星観測(あけぼの衛星,Geotail衛星,Freja衛星)諸計画との連携の下の実施された。
2回の夏期調査により,ディジタル記録による磁場観測機器の設置を進めた(交・直流磁力計,17地点,交流磁力計,7地点,1992年9月)。新たに開発した大容量(140MB)のデータロガーの導入により高サンプリング密度(直流磁場1Hz,交流磁場10Hz)のデータを小型カセットテープに連続1カ月の記録が可能となった。高さ100Km以上に流れる電離層電流分布の投影される磁気圏ダイナミックスの研究を進める上に画期的な高時間分解能極域グローバル磁場観測網が実現した。最北端のほぼ地磁気極に位置するユーレカなど半数以上の観測地点には磁場観測の空白域を埋める意義もある。各地点よりの観測データは現地協力者より月々順調に郵送され,順次ファイル化され国際通信ネットワーク(Inter Net,hpgrl.grl.su-tokyo.ac.jp,東京大学理学部)を通して研究分担者ばかりではなく各国のスペース研究者が利用出来るよう公開されている。
上記広域磁場観測網を土台に,冬期(1992年12月〜1993年1月)1カ月の極域オーロラ多点観測を実施した。オーロラ観測のための全天視野超高感度TVカメラをカナダ(ユーレカ,レゾルートベイ,ケンブリッジベイ,フォートシンプソン,フォートネルソン,フォートマクマレー,フォートスミス,ラビットレイク,ラロンジュ,サスカツーン)とグリーンランド(ゴッドハブン,ウペルナビク),スピッベルゲン(ニイオルソン)に設置して日本側と現地研究者が各地点において滞在観測を行なった。ユーレカ,レゾルートベイ,ラビットレイクでは光電測光によるスペクトル観測も実施された。幸運にも晴天率が高く比較的短い観測期間であったにもかかわらず大量のビデオテープ記録が得られた。観測終了後,現地サスカチュワン大学において観測結果の評価・研究計画ワークショップを開催した。カナダのカノープス観測事業,衛星観測(Geotail,あけぼの,Freja)との連携研究計画も討議された。
資料の解析は始まったばかりであるが,今回のオーロラ観測調査の特徴は,晴天率が高かったこと,磁気圏活動は静穏ないし中ぐらいであったこと,極冠オーロラが多数例観測できたこと,オーロラ帯の高密度全天カメラ網による中規模オーロラブレイクアップ,オーロラの高速伝搬性波動,様々な脈動性オーロラなどの好例が観測・記録できたこと,更にSTEP国際共同観測期間であり他の観測グループによる多数の同時観測が行なわれたことである。
各観測地点のオーロラ活動状況は毎時概況データベース(H_synop.92-93)としてInter-Net上に既に公開されている(host:hpgrlgrl.s.u-tokyo.ac.jp,login:anonymous,password:users′s mailing address,directiry:,pub/aurora)。磁場観測網の1分値データフィイルも同じ様に公開されており(directory:pub/magnet/″station name″/″92m″or″93m″),1992年12月と1993年1月の期間について(2月下旬の時点で)8ないし13地点のデータを利用できる。 -
磁気圈の電磁環境及び粒子環境の変動に関する研究
研究課題/研究課題番号:02402015 1990年 - 1991年
一般研究(A)
小口 高
担当区分:研究分担者
太陽風と地球磁気圏との相互作用の結果、磁気圏尾部に蓄えられた電磁エネルギ-が、磁気圏サブスト-ムの時に解放され、極域で様々な擾乱を引き起こしている。極域オ-ロラ帯の電磁エネルギ-や高エネルギ-荷電粒子が、いかにして内部磁気圏まで流入し、電磁気環境や粒子環境の変動をもたらしているかを解明する為に、極域カスプ領域・中低緯度及びその磁気共役点のオ-ストラリア中央部での汎世界規模の同時観測研究を行い、以下の研究成果が得られた。
1)光学観測:極域カスプ領域のスピッツベルゲン島やカナダで高緯度オ-ロラのダイナミックの観測研究する、一方、低緯度に位置する母子里観測所でオ-ロラ全天並びに4波長揮天分光器と磁力計による低緯度オ-ロラの観測から、通常の大きさの磁気嵐でも低緯度オ-ロラが検出できることが検証された。従って、太陽風中のエネルギ-が深部磁気圏まで侵入し、低緯度電離圏・大気圏の粒子及び電磁環境を変動させていることが世界で初めて定量的に明らかにされた。
2)粒子観測:イメ-シングリオメ-タによる電離層吸収の2次元画面観測からオ-ロラの発生領域と深い関係にあり、オ-ロラの動きに同期して空間・時間変動することが検証された。従って、天候に左右されないオ-ロラダイナミックスの研究で重要な観測装置であることが判った。
3)グロ-バル地磁気観測:210度磁気子午面多点観測からL=1.6の内部磁気圏に外部からの電磁エネルギ-が補足され易い特別な領域が存在していることが世界的に初めて発見された。又、サブスト-ムに伴う電磁場変動に南北両半球の非対称性が見い出され、磁気圏深部でも複雑な機構になっていることが明らかにされた。
4)プラズマ波動観測:母子里とバ-ズビルでの共役観測から磁気嵐中の高エネルギ-粒子の侵入と波動の発生の因果関係が明らかにされた。