科研費 - 森吉 仁志
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同変ホモトピー論とゲージ理論
研究課題/研究課題番号:16540079 2004年 - 2005年
亀谷 幸生
担当区分:研究分担者
低次元トポロジーにおいて極めて大きな役割を果たしているSeiberg-Witten方程式は,古田幹雄氏(東大数理科学)による「有限次元近似」によって(同変)安定ホモトピー論の枠組みの中で捉えられ,Seiberg-Witten不変量を精密化した安定ホモトピー論的Seiberg-Witten不変量,スピン4次元閉多様体に対する「10/8-不等式」などが得られている.本研究において,まず10/8-不等式の1次元コホモロジー群上の積構造を加味した場合の改良が得られた.より正確には,スピン4次元閉多様体に対するある種のKO-特性類が定義され,10/8-不等式の改良はそれを使って述べられその特別な場合として上記の結果が得られた.また,この結果を導くために計算したあるK-群の計算がシンプレクティック4次元閉多様体のSeiberg-Witten不変量への応用が得られることを分担者から報告を受けた.
更に,この結果とSeiberg-Witten方程式の解空間の幾何学とのより直接的関係を調べた.それにより,スピン4次元閉多様体上のSeiberg-Witten方程式の解空間のスピン構造と解空間のある対称性から10/8-不等式が自然に導くことができることを示した.このような考察は解空間の次元が低い場合はすでにKronheimerによって行われているが,それを次元が高い場合に拡張するときに,KO-群がある役割を果たしていることを考察した.これらの手法はある一般的な枠組みの中で行われており,Seiberg-Witten方程式以外でも利用可能かどうかを検討してみたいと考えている. -
ポアソン幾何学・接触幾何学と量子化問題
研究課題/研究課題番号:15204005 2003年 - 2005年
前田 吉昭
担当区分:研究分担者
本研究は、急速に発展してきたポアソン幾何学と接触幾何学での問題を取り扱うとともに、量子化問題へ発展させることが大きな狙いである。特に、ポアソン幾何学と接触幾何学をもとに、非可換微分幾何学を構築し、新たな幾何学への貢献をめざしている。変形量子化は、ポアソン環(ポアソン多様体から作られる関数環)の変形によって得られる非可換環である。本研究課題においては、特に収束する変形量子化とそれに付随する新しい幾何学的な対象の研究を行った。複素シンプレクティク群の2重被覆まがい群やMaslov-Weinstein Gerbeをこの立場から解析を行なった。フレッシェ環に定義される変形量子化の例およびその具体的構成、トレースのある変形量子化問題を扱っている。Sp(n,C)の場合にこの具体的構成を行うことで、flat bundle Gerbeの例を構成することが出来た。この構造を詳しく調べると、Gerbe以上のもっと詳細な性質が得られる成果を得た。第二は、群不変性を持った変形量子化のより適切な関数環を探す問題について研究である。非可換群の作用で不変な変形量子化へ拡張した。特に、$ax+b$一群についての詳細な変形量子化の構成とそれを一般にしたSolvable群への成果を得た。第三は、トレースを持つような非可換環の構成である。純代数的なアプローチからどのような性質が閉変形量子化を構成するか、また指数定理をいかに再現するかを研究した。これらの成果を一般のポアソン代数の変形量子化に考察することを行っている。ループ空間の変形量子化を目的とするために、ループ空間の幾何学的性質特にリッチ曲率について研究を進め、成果の見通しがついてきた。これらの研究成果は、多くの研究集会、研究代表者や分担者を中心とした討論、共同研究によって生まれている。特に、ポアソン幾何学における日本では唯一の研究プロジェクトとして、国内および世界をリードする研究成果を多く得た。さらには研究者ネットワークの確立も成果である。これらを次年度以降の研究として推進する。
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非可換解析を基礎とする非可換微分幾何学の構築と超弦理論への展開
研究課題/研究課題番号:15654027 2003年 - 2005年
萌芽研究
前田 吉昭
担当区分:研究分担者
本研究を主導する研究代表者は、収束する変形量子化の構成から新しい幾何学的概念を展開した。特に、ジャーブ理論との深い関係が解明され、これを詳しく調べた。第二には、Lie環を基本とする1次ポアソン構造、2次ポアソン構造に対する変形量子化を応用できるような具体的体系を整え、その応用へ発展させている。保形形式で注目されているCohen-Rankin積は、不変量子化として考えられているが、この研究を研究分担者である宮崎(琢)の協力を求めて解明をはじめている。森吉は、トポロジーの立場から非可換多様体の不変量の構成、特に指数定理の研究を行なう。特に、非可換トーラス上のDirac作用素による指数定理の構成をめざし、佐々木多様体の指数定理を得ている。亀谷は4次元多様体の不変量として研究が進んでいるザイバーグ・ウィッテン不変量の研究、特に11/8予想についての研究を行って、成果を挙げている。これらの研究の展開のために、国外外研究者との討議等を行ない、海外研究者と研究交流のために、直接海外に赴き、以下の研究者と共同研究や研究討論を行ってきた。
Alan Weinstein : University of California Berkley, Prof., Poisson Geometry
Albert Cattaneo : ETH, Zurich, Prof., Theoretical physics
Alain Connes : IHES, Paris, Prof., Noncommutative geometry
その成果をまとめるために、A.WeinsteinとA.Cattaneoが来年来日する。 -
3次元多様体の組合せ的、構成的研究
研究課題/研究課題番号:15540091 2003年 - 2004年
石井 一平
担当区分:研究分担者
3次元多様体に対し、そのスパインによって定義される新たな不変量「ブロック数」を導入した。この不変量は、3次元多様体に対してはヘゴード種数と等しい値を与えるものであるが、より精密に「枠付多様体」に対して定義される。また、この不変量は、与えられたヘゴード種数を持つ多様体の集合をさらに詳しいクラスに分類する能力を持っている。このブロック数を用いることによって、3次元多様体を組合せ的に分類する研究を行い、以下のような成果が得られた。
1.ブロック数がnの3次元多様体を組合せ的に有限個の(組合せ的)クラスに分類し、それぞれのクラスの多様体を有限個の自然数パラメタによって表示する方法を確立した。
2.フロック数が2の多様体に対する上に述べたいくつかのクラスについてパラメタによる表示を求め、異なるパラメタが実際に異なる多様体(あるいは、枠付多様体)に対応することを、様々な不変量(Reidemeister torsion, Turaev-Viro不変量など)を用いることによって検証した。
3.ブロック数2の多様体について、上述の組合せ的なクラス分けが幾何構造による3次元多様体の分類とよく適合していることを多くの例で示した。この研究結果は、未だ完全とは言い難く、今後の大きな研究課題でもある。
この他の研究成果として、シンプレクティック閉多様体についての次が得られた。
4.シンプレクティック閉多様体の普遍被覆空間が可縮ならば,そ多様体は正スカラー曲率をもつリーマン計量を許容しないことが示された.この結果は,「任意のclosed aspberial manifoldは正スカラー曲率をもつリーマン計量を許容しないだろう」というGromov-Lawson予想の部分的解決になっている. -
アノソフ葉層の量子化と非可換幾何学
研究課題/研究課題番号:15540203 2003年 - 2004年
夏目 利一
担当区分:研究分担者
本研究の目的は研究分担者・森吉仁志との論文「The Godbillon-Vey cyclic cocycle and longitudinal Dirac operators」およびコペンハーゲン大学のR.Nestとの論文「Topological approach to quantum surfaces」で得られた結果の量子化版を得ることである。非可換リーマン面の「単位接バンドル」上に非可換アノソフ葉層を構成する。非可換アノソフ葉層はリーマン面の単位接束の測地流に付随したアノソフ葉層の厳密量子化と考えられる。非可換アノソフ葉層に対して葉層指数定理を示すことが研究目標である。
R.Nestとの共同研究において種数2以上の閉リーマン面の単位円束の厳密量子化として非可換3次元多様体を構成した。この非可換3次元多様体は、閉リーマン面とその単位円束の間に適当な群作用を通して成立する性質を保つ形で構成した。さらに葉層構造という多様体の上部構造をA.Connesの非可換幾何学の精神に則り点集合としての幾何学的対象ではなく、その双対であるC*環として構成した。このC*環は通常のアノソフ葉層のC*環の厳密量子化として得られる。これらの結果を論文「Noncommutative Anosov foliations」としてまとめ最終チェックをしているところである。可換な場合から予測されるように、非可換葉層の「葉」に相当するC*環は上記Nestとの論文で得た量子化された曲面の「被覆空間」であり、量子曲面上のDirac作用素を持ち上げ葉に沿った楕円型作用素を構成できる見通しがたった。
本研究の最終目標そのものを得るまでには至らなかったが、見通しは立っており今後も研究を継続する予定である。 -
指数定理を中心とする非可換幾何学の研究と低次元多様体論
研究課題/研究課題番号:14540089 2002年 - 2004年
森吉 仁志
担当区分:研究代表者
配分額:3300000円 ( 直接経費:3300000円 )
本研究では,低次元多様体論の多大な発展を背景としつつ,従来の(可換)微分幾何の枠組を超えてAtiyah-Singer指数定理の一般化を目標とした.本研究における主要な結果は次のとおりである.
被覆空間上の被覆変換群作用に関してTwisted Γ-index theoremを証明した.詳しくは次のとおりである:変換群Γをもつ正規被覆空間M→M/ΓとU(1)に値をもつΓの2-コサイクルσをとり,σで捻ったΓのC^*群環C^*(Γ,σ)を考える.ここでσが実数値の2-コサイクルcに持ち上がっていると仮定する.即ちexp(√<-1>c)=σである.このとき微分型式Ω^q(M)を係数加群とする群Γの二重チェイン複体C^P(Γ,Ω^q(M))において,cはΓ不変なM上の2型式ωとコホモローグになる.さらにσが定める中心拡大Γ^^^に関して,積束L=M×C上にΓ作用と両立するΓ^^^作用が定義され,この作用に関して不変な接続∇が存在する.ここで次の定理が成り立つ.:上記の直線束Lに係数をもつDirac作用素をD^∇とするとき,IndD^∇∈K_0(C^*(Γ,σ))であり;γをC^*(r,σ)のトレイスとしR=∇^2=√<-1>ωとすると,_T(IndD^∇)をA^^^(M/Γ)およびRで表す指数公式が存在する.
この定理の応用として次の結果が成り立つ:シンプレクティック閉多様体Mがaspherical,即ちその普遍被覆空間が可縮ならば,Mは正スカラー曲率をもつリーマン計量を許容しない.ここでMはスピン多様体でなくともよい点を注意しておく.この結果は,任意のclosed aspherial manifoldは正スカラー曲率をもつリーマン計量を許容しないだろうというGromov-Larwson予想の部分的解決になっている. -
非可換幾何学に関連した数理物理に関する日英共同プロジェクトの立案企画
研究課題/研究課題番号:14604004 2002年
前田 吉昭
担当区分:研究分担者
本研究は、非可換幾何学を中心として数理物理学への応用を図るために、特に国外研究者や国外研究機関との連携を強くする目的で行われた。その理由は、本研究およびその関連分野は国内において残念ながらあまり大きな進展が行われていないにもかかわらず、国際的には、数学の重点研究領域になっているからである。一方、数理物理学、素粒子論への深い関わりがあり、それらの関係と大きな接点を求め研究を展開した。第一には、変形量子化問題の収束性に精力を注いだ。形式的な変形量子化問題については、ある程度の結果が得られているが、収束性については、さまざまな現象が起こりその解明を行うことが優先であった。本研究の討論を通して、新しい幾何学的概念として、Blured manifoldsを提唱することが今後の課題であるという評価を得ることができた。本研究に関連した研究は欧州が主力となっており、英国を中心とした研究交流を盛んに行った。特に、日英ウインタースクールを開催し、日本から若手研究者を中心とした参加者を募り、英国、フランスおよび周辺各国からの関連研究者を集めたシリーズレクチャーと一般講演を行った。これには、総勢60名以上の参加を得た。そのほか、2002年11月には東北大学にて、超弦理論と非可換幾何学に関する国際ワークショップを開催し、これも国内外総勢60名以上の参加者を集め、研究討論が行われた。以上、本研究は、外国人招聘、国外研究機関での討論および国際ワークショップを中心とした、国内外の研究者交流を行い、将来的に2004年に国際会議の開催を目指すための準備が整えた。
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3・4次元多様体上の接触構造と葉層構造の研究
研究課題/研究課題番号:13440026 2001年 - 2003年
三松 佳彦
担当区分:研究分担者
研究代表者はasymptotic linkingという概念を経由して、3次元多様体上の接触構造の研究と葉層構造の研究を結びつける枠組みを提唱し、研究を開始した。余次元1葉層構造の側からは、異種特性類、1次の葉層コホモロジーが直接にこれに関わることが分かり、葉層構造論のサイドの枠組みが定式化された。接触構造においてはtorsion不変量がこの枠組みに強く関連することが見いだされた。又、代数的Anosov葉層の葉層コホモロジーの計算も得られ、local orbit rigidityとの関連も発見された。
三好・三松を中心とする葉層研究班では、コンパクトなStein曲面の境界に付随する3次元接触構造のfillabilityに着目し、更にこれに付随する葉層構造のThurstonの不等式を位相的に証明する研究を開始し、特殊な場合に、絶対的不等式が示された。相対的versionはこれからの課題である。又、坪井、三松を中心として、幾何構造を保つ微分同相の群の単純性の研究が押し進められ、坪井は、接触微分同相及び解析的微分同相の多くの場合に完全性を証明した。坪井は、更に、正則な双接触構造の研究も進め、Seifert多様体上で特徴付けを完成した。
小野・太田を中心とする接触構造・symplectic構造研究班では、主に二つのテーマに取り組んでいる。第一は、単純特異点や超楕円特異点のリンクとして得られる接触構造のsymplectic fillingの特徴付けである。これは上の三好・三松らの研究、及び冒頭の三松の研究に直接に関わるもので、Brieskornの仕事をsymplectic幾何の立場で見直している。Seiberg-Witten理論を使ってfillingのsymplectic構造の特徴付けにまで至った。又、symplectic topology全般の大きな基盤となる研究として、Lagrangian Floer homology論に於ける障害理論の建設を始めた。
佐藤・水谷を中心とした研究班では、より微分式系・微分方程式に近づき、接触構造・葉層構造を含めて非可積分性自体を接分布の微分幾何として研究した。 -
曲面の写像類群とモジュライ空間の幾何学
研究課題/研究課題番号:13440017 2001年 - 2003年
森田 茂之
担当区分:研究分担者
本研究では,曲面の写像類群とリーマン面のモジュライ空間の構造の解明を中心課題とし,それに密接に関連する種々の問題についての研究を行った.
具体的には,写像類群のコホモロジー群の研究,Floerホモトピー型の理論の展開,3次元多様体のゲージ理論に基づく位相不変量の研究,写像類群の調和的Magnus展開の理論の建設,Grothendieck-Teichm\"uller群の構造の研究,3次元多様体論における体積予想の研究,3・4次元における非可換幾何学の展開,写像類群の有限部分群と特性類の関係に関する研究,写像類群のJohes表現の研究,写像類群と4次元多様体論との関連,等である.
このように代表者および各分担者はそれぞれのテーマを追究する一方で,相互啓発により一段高い観点からの研究を目指した.その中から,例えば写像類群の幾何学とシンプレティック幾何学との結びつきや,写像類群と自由群の外部自己同型群の構造の類似点および相違点の解明等の新しい研究の方向も見えてきた. -
ポアソン多様体の解析的変形と非可換幾何学
研究課題/研究課題番号:13640208 2001年 - 2002年
夏目 利一
担当区分:研究分担者
本研究の目的はシンプレクティック多様体を一般化するポアソン多様体に対して解析的変形が存在することを構成的に示すことである。ポアソン多様体は代数的変形である変形量子化の存在は長い間の懸案であったが、最終的に1997年M. Kontsevichにより肯定的に証明された。代数的変形と解析的変形の関係は、形式的べき級数とそれを実現する無限回連続微分可能関数の関係に類似している。
シンプレクティック多様体はポアソン多様体の特別な場合であり構造が比較的よく分かっている。本計画の当初、先ずシンプレクティック多様体に対して解析的変形の存在を考察し、コペンハーゲン大学のR. Nest、ミュンスター大学のI. Peterとの共同研究において、与えられたシンプレクティック多様体の第2ホモトピー群が自明である場合、解析的変形が存在することを示し、その結果を論文「Strict quantization of symplectic manifolds (Letters in Mathematical Physics掲載予定)」としてまとめた。
第2ホモトピー群が自明でない閉シンプレクティック多様体の例が2次元球面である。2次元球面に対して解析的変形の存在をニューヨーク州立大学バファロー校のC. L. Olsenとの共同研究において考察した。2次元球面は回転で不変なシンプレクティック構造から定まるポアソン構造以外にも多くの重要なポアソン構造を持つ。南北両極で退化するポアソン構造に対して解析的変形の存在を示し、論文「A new family of noncommutative 2-spheres (Journal of Functional Analysis掲載予定)」としてまとめた。
上記Nest、Peterとの共著論文で用いられた手法をさらに精密化することにより、Nestとの共同研究において任意の閉シンプレクティック多様体は解析的変形を持つことを示すことができ、その結果を現在論文としてまとめつつある。 -
ポアソン幾何学の研究とその数理物理への応用
研究課題/研究課題番号:12440022 2000年 - 2002年
前田 吉昭
担当区分:研究分担者
ポアソン幾何学は、シンプレクティク幾何学を拡張した概念として、この数年間多くの問題が提出され、国際的に研究が推進されている。しかしながら、この研究分野は国内ではあまり多くの研究者や研究が活発ではないことが否めない。本研究では、ポアソン幾何学が国内での研究を促進すること、国際的な研究連携を行う立場から、積極的な研究を行ってきた。研究の第一は、変形量子化問題の収束性においた。形式的な変形量子化の収束性については、ある程度の結果が出来ているが、収束性については、今後重点的に行うべき課題である。本研究では、その困難さ、考察すべき現象について研究を行い、新しい幾何学概念として、Blurred manifoldsの構成と幾何学的定式化を行っている。これは、本件急を出発点としてこれから継続される研究である。非可換幾何学と超弦理論との関連から、素粒子物理学との共同研究を行った。本研究により、2001年、2002年に超弦理論と非可換幾何学に関する国際会議を行い、多くの外国人招聘により、研究討議が行えた。その結果は、2001年度に行われた国際会議についてはプロシーディングスまとめられた。2002年の国際会議については、現在出版準備中である。本研究代表者は、国外、特に、欧米の関連研究者との共同研究を多く実施した。2002年には、ポアソン幾何学国際会議(リスボン)の組織委員となり、本研究の中心問題の討議を行った。また、共同研究者は、シュレディンガー研究所での国際ワークショップ参加、他多くの海外研究機関での研究討論、研究打ち合わせを行い、将来の研究実施の基盤を作った。北京大学、中国科学アカデミーでのワークショップも大きな成果である。
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非可換幾何学とスペクトル流の指数定理
研究課題/研究課題番号:12640086 2000年 - 2001年
森吉 仁志
担当区分:研究代表者
配分額:3400000円 ( 直接経費:3400000円 )
本研究では従来の(可換)微分幾何の枠組を超えてAtiyah-Singer指数定理の一般化を行うために、低次元多様体論の多大な発展を背景としつつ:1.K理論や巡回コホモロジー理論を主要な表現手段とし、非可換微分幾何学の枠組を用いて、スペクトル流やEta不変量に関連した指数定理の精密・一般化を行う;2.精密・一般化された指数定理とMaslov類などの位相的二次特性類との関連を明確にする;ことを主要な研究目的とした。本年度における具体的な結果としては、2000年7月に全日本トポロジーシンポジウムにおいて、「解析的K理論と指数定理」という招待講演を行った。また非可換幾何学におけるAtiyah-Patodi-Singer指数定理およびエータ不変量とII型von Neumann環のスペクトル流の関連性についての研究も進展中である。この結果に関しては、Eta invariants, the Godbillon-Vey classes and the index therem,という題目で、2001年3月に慶応大学で開催された国際研究集会Workshop on Noncommutative Geometry and String Theoryで発表した。また非可換ホップ不変量に関する研究を行い、2001年12月に名古屋工業大学で行われた研究集会で、「スペクトル流、テープリッツ指数とホップ不変量」、として、2002年2月に鹿児島大学談話会で「ベクトル場の指数定理とHopf不変量」として発表した。
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ポアソン多様体の量子化と非可換幾何学
研究課題/研究課題番号:11640198 1999年 - 2000年
夏目 利一
担当区分:研究分担者
研究代表者はコペンハーゲン大学のR.Nest氏、ミュンスター大学のI.Peter氏との共同研究において閉シンプレクティック多様体はある位相的条件下で必ず厳密量子化を持つこと示した。厳密量子化は解析的変形理論であり、代数的変形理論である変形量子化の存在は80年代以降知られていた。本研究の目標はシンプレクティック多様体を一般化したポアソン多様体に対して厳密量子化の存在を示すことである。ポアソン多様体に対する変形量子化の存在は長い間の懸案であったが、97年M.Kontsevichにより示された。研究計画は3つの段階から成る。第1段階ではシンプレクティック多様体の厳密量子化の証明を再検討し、存在のメカニズムをより深く理解することである。特に存在証明の鍵となったB.Fedosovによる変形量子化の存在証明の見直しが重要である。第2段階ではポアソン多様体の変形量子化の理解とFedosovの方法を睨みながらの書き直しである。最終段階では実際に厳密量子化を構成する。
Nest氏との度々のディスカッションを通してシンプレクティック多様体に対する存在のメカニズムがより明らかになり、我々の結果を精密化することができた。Kontsevichの証明より簡明な証明が最近現れたこともあり、第2段階の達成もほぼ見通しがたった。
本研究の本来の目標と平行して、ニューヨーク州立大学のC.L.Olsen氏との共同研究において、上記Nest、Peter両氏との共同研究ではカバーされていない場合を考察した。特に2次元球面の或ポアソン構造に対して、厳密量子化を構成することに成功した。構成の過程において、新しい「非可換球面」を得た。これは非可換ポアソン多様体の新しい例である。
計画年度内に最終的な目的であるポアソン多様体に対する厳密量子化の存在証明を得るには至らなかったが、今後も研究を継続する予定であり、近い将来の目標達成が期待される。 -
II_∞,III型エルゴード変換の分類問題とその応用
研究課題/研究課題番号:10440060 1998年 - 2000年
仲田 均, 伊藤 雄二
担当区分:研究分担者
1.II_∞型エルゴード的変換の多重再帰性については特にマルコフシフトの場合についてKakutani-Parry Indexとの関係も含めてreturn sequenceとの関係で完全に分類することに成功した。この結果はJ.Aaronson and H.Nakadaによる論文の中で公表されている(Israel J.of Math.)。また、II_∞型エルゴード的変換の多重再帰性が群拡大により保存される性質であるかどうかが浜地を中心に研究され、肯定的な結果がほぼ確認されつつある。
2.cylinder flowのlocally finite invariant measureは基本変換の回転数がbounded typeの場合、ergodicなものが非可算個あることが従来知られていたが、今回の研究により従来知られていたものがそのすべてであることが証明された。さらにunbouded typeの場合でもほとんどすべてのflowについて成立することが証明された。また、von Neumann-Kakutani adding machineから作られるマハラム変換で従来知られていた結果を一般にマルコフシフトで証明することができた。特にヘルダー連続な関数をポテンシャル関数とする平衡測度の特徴付けとしてこの問題を捉えることに成功している。仲田他の論文としてまとめられている。
3.形式的べき級数の作る関数体上の連分数の基本的性質をまず調べ、それをとりまとめている(Berthe and Nakada,Expo.Math.)。これを発展させて、ディオファンタス近似の測度論的性質の研究をとりおこなった。古典的な定理のいくつかがこの場合でも成り立つことが示されている。従来この問題のディオファンタス近似の評価関数は分母多項式の次数にのみ依存している場合しか扱われていなかったが、本研究では次数に依存しない場合も扱っている。特に0-1法則、および、Duffine-Schaeffer型定理が証明されたことが重要な成果である。 -
写像類群の構造とリーマン面のモジュライ空間の幾何学
研究課題/研究課題番号:10440016 1998年 - 2000年
森田 茂之
担当区分:研究分担者
本研究では,曲面の写像類群とリーマン面のモジュライ空間の幾何学について,研究期間の3年間にわたって,主として位相幾何学の観点からの研究を行った.得られた結果を具体的に記すと,つぎのようになる.
1.曲面の写像類群の有理係数のコホモロジー代数において,Mumford-Morita類達の生成する部分代数をtautological代数と呼ぶ.このtautological代数の位相的研究には,大きく言って三つのアプローチがある.第一は,分担者の河澄響矢氏の導入したねじれMumford-Morita類によるもの,第二はtrivalentグラフの不変量によるもの,そして第三はシンプレクティック群の表現論によるものである.本研究において,これまでの成果を集大成する形で,これらの三つのアプローチが,互いに完全に関連していることを証明した.
2.曲面の写像類群,あるいはリーマン面のモジュライ空間の二次特性類の理論は,創始されたばかりで,未知のことが多い.しかし本研究において,第一のものを除く二次特性類はすべてトレリ群のべき零完備化では捉えられない深い構造をもつことが証明できた.これにより,今後はトレリ群のsemi-simpleな構造を反映する研究が極めて重要になることが示された.
3.リーマン面の族について,位相幾何学および代数幾何学の観点からの研究,さらにはそれらの間の関連の研究が進んだ.とくに,シンプレクティック・ファイバー空間の特異ファイバーの回りのモノドロミーについて興味深い結果が得られた. -
3次元多様体の組み合わせ構造の研究
研究課題/研究課題番号:10640089 1998年 - 1999年
石井 一平
担当区分:研究分担者
1.3次元多様体のDS-diagramによる表示の一意性について
本研究において、標準スパインの一つの表現方法と考えられていたDS-diagramが、実は標準スパインよりも多くの情報を含むことが明らかにされ、この結果を用いて基本変形問題をDS-diagramのレベルで完成することに成功した。これらの結果は、DS-diagramによる3次元多様体の組合せ的表示を代数的に取り扱えることを保証するものであり、不変量との関連においても、今後の研究に大きく寄与するものであると考えられる。
2.Heegaard分解の可約性およびホモトピー3-球面内の枠付絡み目(framed link)について
本研究において、"Heegaard分解のd-peudo core"という概念が導入され、このd-pseudo coreによるHeegaard分解の可約条件が得られた。ここに得られた条件は、従来のHeegaard図式による可約条件に比べてかなり緩やかな条件である。
また、任意のホモトピー3-球面の中に、"very special framed link"と名付けた特殊な性質を持つ枠付絡み目が構成出来ることを示した。この枠付絡み目は、Heegaard分解と深く結びつき、上に述べた可約条件と合わせてポアンカレ予想の証明に新たな有効な方法を与えるものとして期待される。
3.2次元ポアンカレ予想について
上にのべた2.,3.の結果を用いて3次元ポアンカレ予想の証明を試みたが、この問題が重大でかつ微妙であることを顧みれば、この試みの成功を軽々に主張することはできないが、「HAKONE SEMINAR 15」にセミナの記録として書き留めることにした。この証明を詳しく検討することは、今後の課題としたい。 -
シンプレクティック幾何学の展開
研究課題/研究課題番号:10894006 1998年
高倉 樹
担当区分:研究分担者
シンプレクティック幾何学の今後の方向性・展望を、他の分野との関連を含めて明らかにすることを意図し、シンプレクティック幾何学全般、接触幾何学、代数幾何学、ケーラー幾何学、大域解析学、非可換微分幾何学、ゲージ理論、場の量子論の諸立場から、企画・調査・検討を行なった。「企画調査」ということなので、オリジナルな結果を探るという形ではなく、この分野に対する新たな基礎づけや、位置づけ・動機づけを与えることを考えた。これに関して、分担者のうちの数人がグループを組んで、あるいは個々別々に、とさまざまな分野の専門家たちと各地で交わる機会を持ったことは有意義だったと考える。シンプレクティック幾何学およびシンプレクティック・トポロジーをテーマとする研究集会・セミナー等が来年度以降多く催されるが、その後を引き継ぐテーマをいくつか得ることができた。具体的には、小野氏・太田氏からは特異点理論との接点を、三松氏・森吉氏からは変形量子化と低次元多様体の不変量の関連が、それぞれ提案され、詳細な報告と吟味がなされた。これからのシンポジウム等の企画に直結させることができると信じる。同時に、森吉氏のSurveys in Geometryにおける講演等、本研究組織のメンバーが各地の集会において総合報告をする機会を多く持つことができたことも実績の一つとして挙げたい。
一方、海外の研究者との研究連絡・打ち合わせを小野・太田両氏が行ない、今後の国際交流の推進を計るとともに、国内では、三松佳彦氏が研究代表者を務める“Encounter with Mathematics(数学との遭遇)"と連携することを通して、学部生・大学院生等に接する機会を多く持ったことも、本研究組織の活動として評価したい。 -
シンプレクティック幾何における指数定理と解析的二次不変量
研究課題/研究課題番号:09640081 1997年 - 1999年
森吉 仁志
担当区分:研究代表者
配分額:3100000円 ( 直接経費:3100000円 )
本研究の目標は:1)解析的二次不変量に関連する指数定理を、非可換微分幾何学の枠組みで構築すること;(2))指数定理とMaslov類との関連性を二次特性類の視点から明確にすること、;である。
これらの目標に対して得られた結果を以下に述べる。第一に、ユニタリー群の中心拡大とMaslov類およびスペクトル流との関連性を明確にした。これは1997年4月の日本数学会特別講演で発表した結果の発展である。またPacific Journal誌上の森吉・夏目の共著論文で述べられた指数定理をII型フォン・ノイマン環のスペクトル流として解釈し直し、非可換トーラスに対して具体的な解析を行った。その結果は、研究集会'葉層構造と関連分野'(1997年10月)、'Symplectic Geometryとその周辺'(同年11月)、'量子化をめぐって'(同年12月)において発表された。
第二に、非可換幾何学の視点からAtiyeh-Patodi-Singer指数定理の再定式化を行った。そのために群の偽作用という概念を導入し、付随するC^*-代数の短完全列を用いてディラック作用素の指数を相対K群の元として定義した。そしてえーた不変量に結びつく相対巡回コサイクルを構成し、これによりディラック作用素の指数を測る。その値はエータ不変量と多様体の曲率による局所不変量の差となりAtiyeh-Patodi-Singer指数定理の別証明が得られる。この結果は、アメリカ数学会(1998年10月)、名古屋大学談話会、東京工業大学幾何セミナー、東京大学火曜トポロジーセミナーにおいて発表された。
第三に、エータ不変量とII型フォン・ノイマン環のスペクトル流に関する研究を行った。この結果は、東京大学火曜トポロジー・解析学セミナー(1999年12月)において発表された。 -
可積分測地流の古典論と量子化
研究課題/研究課題番号:09640082 1997年 - 1998年
清原 一吉
担当区分:研究分担者
予定していた研究(古典論と量子化)のうち,古典論については2つの主な成果があった。その一つは次の通りである:Mを球面に同相な2次元リーマン多様体,Fをその側地流の第一積分で,ファイバーごとにk次の斉次多項式であるようなものとする。このような(M、F)はk=1,2については完全に分かっており,一方k23の場合にはわずかにk=3,4で1-パラメタ族が知られているにすぎなかった。我々はこの研究で,すべてのK23に対してこのような(M,F)の(関数パラメタ)族を構成した。しかもそれらはすべてC_<2π>-多様体(測地線がすべて閉じていて長さ2πであるような多様体)になっている。もう一つの成果は,Hopf曲面上に「エルミート・リウヴィル構造」が入ることを示したことである。これはケーラー・リウヴィル構造の類似物であり,ケーラーという条件が後者において果した深い役割を考えれば,「リウヴィル多様体の複素化(エルミート版)は何か?」という問題に複雑な疑問を投げかける結果となった。
量子化については予定通り,球面に同相なリウヴィル曲面について,そのラプラシアンの固有関数の定義方程式を2つの円上の常微分方程式の組に分解し,それらに半古典近似を適用して,固有値の近似値を得た。特に対応する不変トーラスがcriticalなものに十分近いとき,かえって近似の度合いが良くなるという面白い現象を見出した。この結果は未だ改良の余地があると考えており,口頭発表のみで,論文にはまとめていない。 -
非可換微分幾何学の構築
研究課題/研究課題番号:09874024 1997年 - 1998年
萌芽的研究
前田 吉昭
担当区分:研究分担者
1997年から1998年にかけては,次の研究テーマを主題に行なった.
(1) 4次元空間のYang-Mills gradient flowと3次元空間のYang-Mills-Higgs gradient flowの研究.
(2) 変形量子化問題と非可環幾何学
(3) 無限次元空間における無限次元リー群の作用によるオービットの幾何学的性質
(1)については,4次元コンパクト多様体の
Yang-Mills qradient flowについて,チャーン数に近い初期データを与えることでその滑らかな解が大域的に存在することを示した.また,3次元空間のYang-Mills-Higgs qradient flowについては,その弱大域解の存在を与えられることがわかった.
(2)については,特に接触多様体の変形量子化問題とそのレダクションの方法について研究を行なった.
(3)についてはコンパクト多様体のリーマン計量の空間に作用する微分同型群(無限次元リー群)のオービットに対する平均曲率の定式化とその応用について研究を行なった.
これらの研究は萌芽研究として申請した,非可換微分幾何学の構築において基礎となる成果をあげることができた.そして,その成果はこの2年間の間に行なわれた,国内の研究集会,国際研究集会で発表や討議を行ない,これから先に非可換微分幾何学の展開に向けて,大きな成果をあげた.さらなる成果は,近い将来に出版される予定である.