科研費 - 森吉 仁志
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研究課題/研究課題番号:20K03580 2020年4月 - 2025年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
森吉 仁志
担当区分:研究代表者
配分額:4290000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:990000円 )
「非可換幾何学の枠組による指数定理の拡張」と「微分同相群の不変量が関与する指数定理の展開」を主要目標に掲げ,以下のような状況において指数定理を導出する:
① 葉層多様体あるいは微分同相群の離散部分群作用があるとき,K 群と巡回コホモロジー群のペアリングを用いて,葉層特性類や微分同相群の不変量が関与する指数定理を記述する;
② 上記ペアリングを相対K 群と相対巡回コホモロジー群へ拡張して新たな指数定理を導く;
③ 一般の葉層束における族指数の二次特性類と葉層特性類あるいは微分同相群の不変量との関連を解明する.
本研究は「非可換幾何学の枠組による指数定理の拡張」と「微分同相群の不変量が関与する指数定理の展開」を目標としており,2023年度においては以下の成果を得た:1)カントール集合をコロナ空間とした指数定理(夏目利一との共同研究);2)等質中心アファイン平面曲線のなす空間の研究(黒瀬俊および藤岡敦との共同研究).
1)では,コース幾何学の指数定理を適用して,カントール集合をコロナ空間とした指数定理を確立した.この構成をさらに一般化して,コロナ空間がカントール集合とは限らない完備リーマン多様体上の指数定理への拡張も考察した.指数定理の観点からは多様体の位相が重要であることは言うまでもないが,多様体の無限遠境界として自然に出現するコロナ空間の挙動をも統制する指数定理を導入することに成功した点に大きな意義が認められる.2)では,漸近的等質中心アファイン曲線を精査して,半整数として定まる回転数を実現する指数定理の研究を進展させた.散乱理論における Levinson 定理では,シュレディンガー作用素に関する束縛状態の個数が正則関数の対数積分で与えられている.この対数積分と上記回転数を結びつける指数定理を確立し,その指数公式を得た.
1) の成果については,千里山幾何学研究会,関西大学(6月24日,2023年)および葉層構造の幾何学とその応用(12月10日,2023年)にて招待講演を行い,2)の成果については,国際研究集会 BΓ School; Homotopy theory of Foliations, Chuo University (Sept. 7, 2023)および国際研究集会 8th China-Japan Geometry Conference, Guilin, China (Sept. 11, 2023) において招待講演を行った.
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により,2022年度や2023年度においても研究集会の開催中止や開催規模の縮小の傾向が続いており,予定していた講演や研究連絡を延期せざるを得ない.例えば2024年3月にマドリードで開催された国際研究集会 Foliated Spaces, Tilings and Group Actions 2024 への招待講演については,対面参加が困難となり,オンライン講演にせざるを得なかった.このように,計画遂行のための科研費使用に関して未だに困難が継続している.また2023年度に予定していた海外渡航は中国訪問1件以外は中止とせざるを得ず,海外渡航滞在費の高騰も相俟って,研究の進展への障害が続いている.国内の研究者と行っている等質中心アファイン平面曲線のなす空間の研究(黒瀬俊および藤岡敦との共同研究)に関しては,オンラインを通じての研究連絡を重ねており,順調な進展を見込んでいる.
先に述べたように,新型コロナウイルス感染症拡大の影響により研究の進展が大幅に遅れている.2024年度には,1)カントール集合をコロナ空間とした指数定理(夏目利一との共同研究);2)等質中心アファイン平面曲線のなす空間の研究(黒瀬俊および藤岡敦との共同研究).;をさらに進展させて,研究を完成水準にまで到達させ,成果報告を行うことを目標とする.夏目利一との共同研究についてはプレプリントを執筆中である.さらに黒瀬俊および藤岡敦との共同研究については,2024年度前半中に取りまとめの研究連絡を予定している. -
研究課題/研究課題番号:17K05247 2017年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
森吉 仁志
担当区分:研究代表者
配分額:4420000円 ( 直接経費:3400000円 、 間接経費:1020000円 )
「指数定理を離散化する」という方針の下に,作用素を離散化あるいは有限次元近似したときに定義される Ginsparg-Wilson 指数が関与する指数定理を定式化した.さらに完備リーマン多様体から定まる Roe algebra と Callias 指数定理との関連性を明らかにした.加えて,葉層二次特性類の一つである Bott-Virasoro 類と,等積中心アファイン平面曲線全体のなす空間のシンプレクティック構造との関係,特に円周の微分同相群が与えるシンプレクティック作用に対するモーメント写像の存在を証明した.
離散化された対象とは,現実の社会では最初に現れる研究客体である.そのような対象では具体的計算やPCを用いたシミュレーションなどによる細かい研究が可能であり,従って研究の応用範囲も広い.本研究では,現代数学の精華の一つと認められる指数定理を離散化することを目標とした.そして研究成果の一つとして,物理学の格子ゲージ理論で研究されている Ginsparg-Wilson 作用素に対する指数定理の定式化に成功した. -
L-類, コボルディズム理論と双変理論およびその周辺に関する位相幾何学的総合研究
研究課題/研究課題番号:16H03936 2016年4月 - 2019年3月
與倉 昭治
担当区分:研究分担者
Levine-Morelの代数的コボルディズム理論をSースキームの場合に拡張した.双変代数的コボルディズム理論の完成を目指していたが,Toni Annala氏(British Columbia大)が2018年11月に完成させた.今はAnnala氏と共同で束の代数的コボルディズム理論を研究している.双変Lー類を模索中,Hirzebruch chi-y種数がファイバー束についてmod 4で乗法的であることを発見した.この予想外の発見を切掛に,chi-y種数のmod 8乗法性やモチヴィック特性類のホモロジー的合同式等を得た.また,双変理論的発想から写像のホモトピー集合についても興味ある成果等を得た。
我々が目指していた双変代数的コボルディズム理論はToni Annala氏が最新の分野である導来代数幾何の理論と代表者與倉の先行結果を用いて完成したが,我々の先行研究および目指す結果が最新の研究分野と繋がったという意味で学術的意義がある.L-類の研究中発見したHirzebruch chi-y種数のmod 4乗法性が,良く知られた指数のmod 4乗法性の拡張であることは評価に値する.当初予定になかった,写像のホモトピー集合を双変理論の視点で考察した結果が,フィールズ賞受賞者であるA.Connes等の最新の研究と関連しているという指摘を査読者から受けた事から,我々の研究成果は評価に値すると考えたい. -
葉層構造における指数定理の展開
研究課題/研究課題番号:25400085 2013年4月 - 2016年3月
森吉 仁志
担当区分:研究代表者
配分額:4940000円 ( 直接経費:3800000円 、 間接経費:1140000円 )
第一に,カントール集合やシェルピンスキーガスケットなどのフラクタル集合上へ指数定理を拡張した.第二に,非可換幾何の枠組を用いてAtiyah-Patodi-Singer 指数定理を境界付多様体の正規被覆空間上に拡張し,一般の巡回コサイクルとK群のペアリングを与える指数定理を証明した.第三に,Gerbe の特性類である Dixmier-Douady 類と葉層の特性類である Godbillon-Vey 類が,Cheeger-Chern-Simons 不変量を通じて結びつくことを明らかにし,円周の微分同相群の中心拡大をCalabi 不変量を用いて記述することに成功した.
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無限群と幾何学の新展開
研究課題/研究課題番号:24224002 2012年5月 - 2017年3月
坪井 俊
担当区分:連携研究者
興味深い無限群の理解が深まり、無限群をあつかう研究の手法が整えられてきたことを踏まえ、無限群と幾何学の研究を総合的に進めた。関係する分野の研究者の共同研究により、無限群作用のトポロジー的、幾何的、力学系的な性質と様々な不変量の関係を明らかにした。無限群の共役類、交換子にかかわる新たな不変量を創出するとともに、それらをトポロジーおよび幾何学の諸問題へ応用し、クライン群、写像類群、不定値計量空間形の大域解析など、多くの分野で成果を得た。
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量子微分幾何学の構築
研究課題/研究課題番号:23340018 2011年4月 - 2016年3月
前田 吉昭
担当区分:研究分担者
数論、代数幾何学、微分幾何学、トポロジー、それに数理物理、素粒子論を中心として、非可換な対象物を扱い、新しい幾何学の流れを構築することを目標に置いている。本研究の特徴は、基軸となる研究である変形量子化問題と非可換幾何学を推進し、これによる微分幾何学の非可換化(量子化)手法を確立させ、それを発展させるというまったく新しい立場からの研究を行うことにある。特に、Non-formal deformation quantizationの手法を用いて、数学および素粒子物理学との融合研究を進め、この分野の国際的なネットワークを構築することを目的としている。
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葉層構造・接触構造の微分トポロジー的研究
研究課題/研究課題番号:22340015 2010年10月 - 2014年3月
三松 佳彦
担当区分:連携研究者
3,4,5次元の空間上の葉層構造と接触構造を中心に、重要な例の構成および、それらの相互関係を研究した。特異点のミルナー・ファイブレーションと呼ばれる構造や、流体力学、古典力学を洗練したシンプレクティック幾何学や多変数複素関数論などの、周辺の色々な数学理論がこれらの対象において交錯する様子を研究した。
曲面の測地線を総合的に調べることのできる測地流は、Anosov 流と呼ばれる特殊な流れを定めるが、それらを中心に上記の色々な数学が交錯し、構造の無駄のなさを表現する様を研究したとも解釈できる。 -
非可換多様体上の指数定理
研究課題/研究課題番号:22540077 2010年 - 2012年
森吉 仁志
担当区分:研究代表者
配分額:4160000円 ( 直接経費:3200000円 、 間接経費:960000円 )
本研究の目的は
1)非可換(:) 幾何学の枠組に合致するような指数定理の拡張と
2)非可換化された指数定理を用いて幾何学や弦理論の具体的研究に資すること;にある.これらに関して以下のような結果を得た.
第1に Atiyah-Patodi-Singer定理を高次元の葉を持つ境界付葉層多様体に拡張し,葉層の二次特性類である Godbillon-Vey類が関与する指数定理を導いた(P. Piazzaとの共同研究).
第2に非可換幾何学の枠組を用いて Godbillon-Vey類の定義域(葉層構造の微分可能性)を拡張し,坪井俊(東京大学)による Area cocycleとの関連性を新たに見出した.
第3に奇数次元の族指数定理と Gerbeの特性類である Dixmier-Douady類との関連性を導き,さらに Godbillon-Vey類との結びつきを明らかにすることができた. -
多様体の微分同相群の研究
研究課題/研究課題番号:20244003 2008年 - 2012年
坪井 俊
担当区分:連携研究者
空間の多様体構造の自己同型の群である微分同相群を様々な面から研究した。研究代表者は、実解析的微分同相群の単位元成分の完全性、微分同相群の単位元成分の一様完全性、一様単純性などについて、結果を得て出版した。研究分担者は、曲面の写像類群、横断的複素正則葉層、力学系における連結補題などについて、結果を得て出版した。また、毎年研究集会を開催し、共同研究と研究情報の交流を行った。
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捩れた群作用に関する同変指数定理と非可換幾何学
研究課題/研究課題番号:19540099 2007年 - 2009年
森吉 仁志
担当区分:研究代表者
配分額:4550000円 ( 直接経費:3500000円 、 間接経費:1050000円 )
非可換幾何の枠組の下に、葉層構造が関与する指数定理と境界付多様体上での指数定理の一般化を行った.とくに「捩れK理論」や「コサイクルで捩ったC*群環」をとりあげ,この概念が関与する指数定理の導出を探った.とくに「K-aspherical」という条件の下で捩ったC*群環のK群に値をとる指数定理を確立し、複素多様体の算術種数に関するいくつかの不等式評価を導いた.またAtiyah-Patodi-Singer指数定理を非可換幾何の枠組で定式化し、無限次被覆空間や境界付多様体上の葉層構造に対する拡張を行った.これよりエータ不変量のみならず高次エータ不変量も相対巡回コホモロジーと相対K群のペアリングとして解釈することが可能となり、エータ不変量の幾何学的意義がより明確になった.
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量子曲面の非可換幾何学
研究課題/研究課題番号:19540213 2007年 - 2008年
夏目 利一
担当区分:研究分担者
量子曲面上で構成したディラック作用素がスペクトラル・トリプルを定める。スピノール・ラプラシアンの量子化版との差としてスカラー曲率の量子化版が得られる。2次元の特殊性により上記スカラー曲率の量子化版は断面曲率の量子化版である。
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幾何学と物理学の統合によるポアソン幾何学から非可換微分幾何学への展開
研究課題/研究課題番号:18204006 2006年 - 2009年
前田 吉昭
担当区分:研究分担者
本研究では、非可換幾何学と物理学との連携研究を通して、多くの成果を挙げてきた。非可換多様体の非可換ゲージ理論の提案を中心として、非可換岩沢理論、量子戸田格子の代数的可積分性、ベルンシュタイン測度、超弦理論とGeneralized complex geometry、ループ空間のChern-Simons不変量の導出、量子コホモロジーとフロベニウス多様体、シンプレクティックトポロジーおよび接触トポロジー等についての成果を、学会発表や学術書「Noncommutative Geometry and Physics」, Advanced Studies in Pure Mathematics 55」、「Translations of Mathematical Monographs, 237」および各研究者による学術論文として発表した。
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変形量子化とジャーブ理論
研究課題/研究課題番号:18654036 2006年 - 2008年
萌芽研究
前田 吉昭
担当区分:研究分担者
本研究課題では、変形量子化の収束問題について考察することから幾何学として新しい空間概念であるジャーブが自然に現れることを示し、その性質について研究を行うことを目的としてきた。変形量子化の収束問題を取り扱った研究のなかで、今までにはない新しい解析学の問題や幾何学的として扱う新しい概念が生まれる期待ができてきた。量子的な現象を説明する際に、多様体論の中では説明できない現象が現れてくるように思えることが本研究を行なうための出発点である。実際、変形量子化の収束問題を取り扱うなかで、多様体としては捉えられない空間概念が必要となってくることを示すことができた。このような対象は、積分可能系(特に量子積分可能系)の問題や複素領域での常微分方程式の「動く分岐点」をもつ解空間の問題とも関連することを示すことができた。このなかで、ジャーブ理論を土台に独自の展開を行なうことおこなった。具体的には、1)量子化と非可換解析の整備、2)複素ワイル代数の表現とインタートワイナーの性質、3)非可換指数関数とメタプレクティック群の複素化に対応する幾何学的対象の構成、4)ジャーブカテゴリーでの非線形接続理論と無限小幾何学の設定、5)複素ワイル代数の表現とインターとワイナーの性質、6)非可換指数関数とメタプレクティック群の複素化に対応する幾何学的対象の構成を行ったことである。今までの研究成果をもとにして、幾何学的空間概念の一般化が期待できる。
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葉層構造と接触構造の微分位相的研究
研究課題/研究課題番号:18340020 2006年 - 2008年
三松 佳彦
担当区分:連携研究者
open book分解に基づく3次元多様体上の葉層構造と接触構造の強い意味で凸性を破るクラスの構成、open book分解などの場合の接触構造の葉層構造への収束の良いことの証明、収束と(強擬)凸性の伝播の関連、3次元多様体上の接触構造とその4次元シンプレクティック充填の重要な例の構成、4次元多様に埋め込まれた曲面の2次元葉層のコンパクト葉としての実現問題の解決と応用、など、3, 4次元多様体上の葉層構造、接触構造、シンプレクティック構造を中心とした幾何学的な結果を得た。
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ゲージ理論におけるモジュライ空間の幾何構造とその応用
研究課題/研究課題番号:18540094 2006年 - 2007年
亀谷 幸生
担当区分:研究分担者
本研究は主に三つの立場で安定ホモトピーSeiberg-Witten不変量とその周辺問題を考察している.第一は安定ホモトピー論の立場による不変量の性質の考察,第二はこの不変量の幾何的な解釈,第三はゲージ理論を離れて指数定理に関連する問題である.
第一については,南範彦氏(名古屋工業大学)などとの共同研究により,連結和に対する安定ホモトピーSeiberg-Witten不変量の消滅定理などを得た.これは既に共同研究で得ている連結和に対する非消滅定理と対照的であり,不変量としてのある種の限界点があることを示している.第二については,スピン4次元閉多様体上のSeiberg-Witten方程式の解空間には自然に同変スピン構造が入り,それから10/8-不等式を自然に導くことができることを示した.更に,既に得られていた10/8-不等式の1次元コホモロジー群上の積構造を加味した場合の改良についてもこの同変スピン構造を平坦接続のモジュライ空間上で考察することにより再証明できることを示した.第三については,研究分担者からGuillemin-Sternber予想を指数の局所化の観点から再証明を与えたという報告を受けた.これはゲージ理論と直接的に関連してはいないが,モジュライ空間におけるこのような考察がゲージ理論の展開へとつながることを期待している. -
双曲型空間上のアティヤー・シンガー型指数定理と非可換幾何学
研究課題/研究課題番号:17540192 2005年 - 2006年
夏目 利一
担当区分:研究分担者
本研究はトロント大学のG.A.Elliott、コペンハーゲン大学のR.Nest両氏との共著論文「The Atiyah-Singer index theorem as a passage to classical limit in quantum mechanics」(Communications in Mathematical Physics, Volume 182(1996), 505-533)で得られた結果を拡張することを目的とする。同論文で研究代表者は平坦な空間上である種の擬微分作用素の族に対して非可換幾何学的手法を用いてアティヤー・シンガー型指数定理を証明した。本研究ではこの結果を幾何学的により興味深い双曲型空間上で証明することを目的とする。証明の背後にある平坦な空間の最も重要な性質は、任意の2点を結ぶ線分(測地線)がただ一つ存在するということである。この性質は平坦な空間特有のものではなく単連結双曲型空間、例えばポアンカレ計量を持った単位円盤、で成立する。非可換幾何学的手法は双曲型空間上でも構成される。
本研究の最も重要な部分は数値的指数を持つ擬微分作用素の族を特定し、それに対して実際に指数定理を示すことにある。
初年度の成果として重要なステップとしてポアンカレ円盤上でラプラシアンを低位の項で摂動した調和振動子がコンパクトなレゾルベントを持っ事を証明したことを報告したが、論文に纏める段階で証明のギャップが発見され、そのギャップを埋めることに時間を取られ、この点は克服したが、残念ながら研究の目的は達成されなかった。 -
非可換幾何学と指数定理に対する捩れK理論の応用
研究課題/研究課題番号:17540093 2005年 - 2006年
森吉 仁志
担当区分:研究代表者
配分額:3400000円 ( 直接経費:3400000円 )
本研究では「捩れK理論」や「コサイクルで捩ったC^*群環」をとりあげ,この概念が関与する指数定理の導出を探った.捩れK理論やコサイクルで捩ったC^*群環などは,基本群の大きい多様体に対して興味深い振舞いをするので,とくに双曲多様体に対して上記の指数定理を検証することも関心ある目標となる.具体的には以下を目的とした:
1)Marcolli-Mathai指数定理を発展させ,「捩れK理論」や「コサイクルで捩ったC^*群環」が関与する指数定理を導出し,その位相幾何公式を見出す;
2)双曲多様体に対して上述の指数定理を検証し,さらにChern-Simons類・R-torsion等の基本群の性質をよく反映する「幾何的二次不変量」との関連性を探る.
そしてCarey, Mathai, Murray等により,
1)に関してはU(1)に値をもつCech 2-コサイクルで捩った亜群C^*環のK群と捩れ$K$理論との密接な関係や,Gerbeとの関連性を明らかにした.またMarcolli-Mathaiによる2-コサイクルで捩ったC^*群環を対象とする指数定理を葉層多様体上で展開し,対応する位相幾何公式を得た.これによりホロノミー群の大きい葉層束に対して非常に興味深い結果が導かれる:例えば,「葉層多様体において,各葉がシンプレクティック構造を許容するとする.さらに各葉がK(π,1)多様体であるとき,この葉層多様体は各葉が正のスカラー曲率を有するような葉に沿うリーマン計量を許容しないことがわかる,これは葉層多様体に対してもGromov-Lawson予想の一般化が成り立つことを示している。さらに複素多様体への応用を求め、「K-asphericalな複素多様体のケーラー閉部分多様体は、次元の偶奇をかけると必ず非負のTodd種数をもつ」ことを証明した.
2)に関しては,概接触多様体に対してMorita-Hirzebruch不変量を定め,これを用いて3次元多様体に関するエータ不変量を表す微分幾何的公式を得た.加えて、Reeb流に関する葉層上の指数定理、Bootによる局所化公式、葉層多様体の二次特性類およびRuelleによるベクトル場の回転数との明確な関連を見出した. -
Poisson幾何学国際会議2006年開催のための準備および調査企画
研究課題/研究課題番号:17634003 2005年
前田 吉昭
担当区分:研究分担者
2006年6月に東京にてPoisson幾何学国際会議が開催されるための準備と調査企画を行った。この国際会議は、1996年ポーランドにて第一回の会議を始めて以来、隔年主に欧米にて開催されてきた。今回、Poisson幾何学の国際的な進展にあわせ、欧米だけではなく日本を中心としたアジア諸国の研究者との融合および討議を目的として開催されるものである。今までの討議の中心が、シンプレクティック幾何学が中心テーマであったものを、その強化とともに、積分可能系、量子化問題、数理物理、特に超弦理論、場の量子論等への拡大を狙った企画が検討されている。欧米が格段に進歩しているシンプレクティック幾何学やポアソン幾何学研究分野の日本を含めたアジア各国の学生および若手研究者の育成にある。国際会議を開催するのにあたり、2005年度に日本およびアジア地域の学生や若手研究者およびその指導者による、研究分野の研究交流を重ねた。このために、欧米への調査派遣、国内において講義、討議を定期的に重ねた。2005年7月にユネスコ、トリエステ(イタリア)で開催されるポアソン幾何学夏の学校は、本国際会議とも連携している。この夏の学校への学生および若手研究者の派遣を行なうことにより、2006年の本国際会議のために若手育成を行なった。このワークショップにおいて、中国、ベトナム、東ヨーロッパ、南米等の若手研究者の教育および来年度に国際会議に招聘する候補者の検討を行った。コロンビアを訪問し、夏の学校での講師、コロンビアにおける若手研究者との交流により、来年度若手研究者を招聘する準備もできた。この国際会議の後援として日本数学会、アメリカ数学会、およびヨーロッパ数学会からスポンサーシップを得ることもできた。ローザンヌ自由工科大学ベルヌーイ研究所等の研究所からの国際連携も行えた。組織委員会、講演者の決定、国際会議のための教育スクールおよび若手研究者の招聘等すべてが整えた。
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3・4次元多様体上の葉層・接触・シンプレクティック構造の研究
研究課題/研究課題番号:16540080 2004年 - 2005年
三松 佳彦
担当区分:研究分担者
代表者の三松は分担者三好他との共同研究により、3次元接触構造が葉層構造に収束する典型的なクラスの一つとして回転可能構造に付随する接触構造(所謂Thurston-Winkelnkemper接触構造)及び葉層構造に注目し、ある種のモノドロミーに対してそのeuler類の(非)消滅とThurstonの不等式(またはBennequinの不等式)の破れを研究した。これらをモノドロミーの位相的な考察から調べることにより、境界つき曲面のある種の写像類について、それが右Dehn捻りのみの積でも、左Dehn捻りだけの積でも表せないことを示した。これらは幾つかの研究集会で発表され、特に2006年3月の日本数学会では分担者三好がトポロジー分科会での特別講演として発表した。論文は投稿中である。
分担者の小野はSeiberg-Witten理論とFloer理論の両方からシンプレクティックトポロジーを研究し、単純特異点のリンクのシンプレクティック・フィリングの決定や、Flux予想の解決などこの分野に著しく寄与した。
接触微分同相群の立場から接触構造論と葉層構造論の関連の研究を展開したのは分担者の坪井である。葉層構造論の立場を更に推し進めた分担者松元のLie葉層のエンドの研究は論文として出版された。
代表者は更に大きく保積微分同相群の幾何として非圧縮流体力学をとらえ、無限次元Hamilton力学系としての理論展開を研究した。大域的な微分幾何学として捕らえることにより、流体力学の基礎に新たな光を当てるとともに、粘性のある散逸系の場合もこの考え方が有用であることを示している。幾つかの研究集会、及び2005年9月の日本数学会で企画特別講演、2006年3月の東北大「春の学校」でその成果を発表した。 -
共形幾何と群C^*環バンドルの大域解析的研究
研究課題/研究課題番号:16540059 2004年 - 2005年
芥川 一雄
担当区分:研究分担者
本科学研究課題の目標は,共形幾何および閉多様体上の群C^*環バンドルの,微分トポロジー・スピン幾何・大域解析・非線形解析および離散群・K理論等による総合的研究であった.
特に,共形幾何における山辺不変量の位相的および大域解析・非線形解析的研究であった.
具体的研究成果は,下記の通りである.
研究分担者間で定期的に研究連絡等を行なった.また,国内・国外へ出張,および海外共同研究等の招聘により,微分幾何,多様体上の大域解析・非線形解析の総合的研究を行なった.
(1)芥川は,海外研究者と3次元多様体および積多様体の山辺不変量に関する結果を得て,下記の論文にまとめており出版予定である.
・Kazuo Akutagawa and Andre Neves, 3-manifolds with Yamabe invariant greater than that of RP^3, to appear in Journal of Differential Geometry.
・Kazuo Akutagawa, Luis Florit and Jimmy Petean, On Yamabe constants of Riemannian products.
芥川はまた,海外共同研究者のA.Neves(Princeton大学)と,コンパクト多様体の無限被覆の山辺定数に関して,いくつかの興味深い結果を得ており,現在進行中である.
(2)小林は,Einstein計量から誘導される接続の変分学的特徴付け・正則曲線の射影構造等の,共形幾何および射影幾何における新しい展開を得た.
(3)久村は,完備多様体上のラプラス作用素の固有値の非存在に関して,最良の結果を得ており,下記の論文を投稿中である.
・Hironori Kumura, Geometry of an end and absence of eigenvalues in the essential spectrum.
(4)井関は,離散群,特にランダム群の非正曲率距離空間への固定点に関する研究成果を得た.
(5)利根川は,2相分離問題の幾何的測度論による研究成果を得た.
(6)森吉は,捩れK理論や亜群C^*環を扱い,一般化されたGromov-Lawson予想に関する結果を得た.
上記の研究において,研究費補助金による国内・国外の研究者の招聘等での直接的な研究連絡は,きわめて重要であった.