科研費 - 荻 朋男
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研究課題/研究課題番号:24K22234 2024年6月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
光武 範吏, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
放射線発癌は疫学的には明らかであるが、癌はありふれた疾患であり、ある一つの癌が放射線によって起きたものかどうかはわからない。これを克服する生物学的な発癌機序の解明が待たれている。本研究では、連続的な細胞のクローニングと全ゲノム解析手法の工夫によって、被ばく後のヒト正常細胞に継続したゲノムの不安定化は起きるのか、を明らかにする。これまでの放射線リスク研究は、疫学研究によって「集団」のリスクのみを明らかにしてきたが、本研究は「個々」の研究をスタートさせる基盤を作り、疫学研究から生物学的研究へと大きなシフトを起こすことを目指す。
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MYRF遺伝子による可逆性大脳白質障害と発熱時異常言動の病態解明
研究課題/研究課題番号:24K10941 2024年4月 - 2028年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
倉橋 宏和, 岡田 洋平, 林 深, 奥村 彰久, 荻 朋男, 岡田 洋平, 林 深, 奥村 彰久, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
発熱に伴ってけいれんしたり、うわごとを言ったりするなどの神経症状は稀ではなく、インフルエンザ感染に伴う異常言動のように社会問題となりえます。MERS(可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症)は、発熱に伴い異常言動を呈する急性脳症です。我々は、MERS家族例においてMYRF遺伝子変異を同定しました。この遺伝子は脳のミエリン化・髄鞘維持を制御しています。この研究は、MYRF遺伝子に着目して、その遺伝学的背景をあきらかにすること、患者由来の細胞から作成したiPS細胞を用いてその病態を解析すること、遺伝子改変マウスを作成して、その行動や脳病理の変化を解析することを目的としています。
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色素性乾皮症の新規責任遺伝子XPJによるDNA修復と転写制御機構の解明
研究課題/研究課題番号:24K02223 2024年4月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
中沢 由華, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
遺伝情報を格納するゲノムDNAは常に損傷を受けており、安定な遺伝情報の伝達と発現を担保するためには、DNA修復システムによる迅速な損傷の除去が必要である。本研究では、DNA修復システムの先天的な異常により発症する色素性乾皮症 (XP)の新規疾患原因変異を同定したXPJ遺伝子について、その詳細な分子機能を調査する。また、病態解析を合わせて実施することで、XPJによるDNA修復と転写制御機構の解明に取り組む。
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研究課題/研究課題番号:24K02471 2024年4月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
武市 拓也, 吉川 剛典, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
本研究は、自己炎症性角化症(autoinflammatory keratinization diseases: AiKDs)各疾患における病因遺伝子を明らかにして、発症メカニズムについての基礎的データを得ることを目的とする。
1.AiKDs患者の検体を用いたオミクス解析で病態メカニズムを解明する。
2.AiKDsモデルマウス・細胞を用いる治療実験で、薬剤の効果を検討する。
3.空間トランスクリプトーム解析で病変部における細胞間クロストーク、cell type specific contributionを調べ、発症のメカニズムに迫る。 -
甲状腺癌オルガノイドを用いた放射性ヨウ素治療抵抗性機序の解明
研究課題/研究課題番号:23K27551 2024年4月 - 2026年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
光武 範吏, 工藤 崇, 星野 大輔, 菅沼 伸康, 荻 朋男, 工藤 崇, 星野 大輔, 菅沼 伸康, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
放射性ヨウ素(RAI)内用療法は、若年者では著効例が見られる一方、高齢者ではしばしばRAI治療抵抗性(RAI-R)であり、RAI-Rは年齢が強い相関因子である。それに加え、研究担当者らはTERT遺伝子プロモーターの変異もRAI-Rに関連することを明らかにした。
本研究では、担当者らが独自に確立したオルガノイドライブラリーを用い、TERTプロモーター変異を始めとする遺伝子異常が、どのような仕組みでRAI-Rを誘導するのか、その分子機序の解明を行い、RAI-R克服の基盤とする。
放射性ヨウ素内用療法は、進行・再発甲状腺分化癌に対する手術後の標準治療である。これによって遠隔転移が消失・完治する著効例から、治療抵抗性を示す症例まで様々である。これまで、高齢者ではしばしば治療抵抗性が見られること、さらに我々はTERT遺伝子のプロモーター領域の変異が、治療抵抗性と関連することを明らかにしてきた。現在、利用可能な甲状腺癌培養細胞は、ヨウ素取り込み能が失われたものばかりで、治療抵抗性の分子機序を解明することは難しかった。そこで本研究の目的は、実際の症例から樹立した、甲状腺特有の機能を維持しているオルガノイドを用い、甲状腺分化癌における放射性ヨウ素内用療法抵抗の分子機序として、TERT分子の役割、また年齢や他の機序の関与を明らかにすることである。
2023年度は、数例のオルガノイド検体を長崎大学に輸送し、培養・増殖させる実験系を立ち上げた。マトリゲルから分離してオルガノイドの状態で凍結したものを輸送し、解凍後にマトリゲルに再包埋する手法を行なった。まだ提供施設での生育状態を達成できておらず、原因を探している。また、遺伝子の網羅的解析のため、甲状腺癌に特化したキャプチャー法を用いる遺伝子パネルを設計し、次世代シークエンシングを用いた検証を行なった。RNAは用いず、融合遺伝子についても、イントロンにベイトを設計して、全てDNAで検出する方法とした。少なくとも頻度の高いドライバー変異に関しては、ホルマリン固定パラフィン包埋された検体からでも十分な感度で検出可能であることを確認した。さらに、遺伝子変異と治療反応性の相関を調べる目的で、多数の放射性ヨウ素治療を行なった症例のホルマリン固定試料収集も開始した。
遺伝子パネルや固定試料収集は順調だが、オルガノイドの成育が遅く、輸送後の培養法が最適化されていない可能性がある。
オルガノイドの培養法を改良しつつ、放射性ヨウ素取り込み実験の立ち上げを行う。 -
甲状腺癌オルガノイドを用いた放射性ヨウ素治療抵抗性機序の解明
研究課題/研究課題番号:23H02860 2023年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
光武 範吏, 工藤 崇, 星野 大輔, 菅沼 伸康, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
放射性ヨウ素(RAI)内用療法は、若年者では著効例が見られる一方、高齢者ではしばしばRAI治療抵抗性(RAI-R)であり、RAI-Rは年齢が強い相関因子である。それに加え、研究担当者らはTERT遺伝子プロモーターの変異もRAI-Rに関連することを明らかにした。
本研究では、担当者らが独自に確立したオルガノイドライブラリーを用い、TERTプロモーター変異を始めとする遺伝子異常が、どのような仕組みでRAI-Rを誘導するのか、その分子機序の解明を行い、RAI-R克服の基盤とする。 -
人はなぜ老い・病(やまい)になるのか-環境ストレス病態相関の理解
研究課題/研究課題番号:23H00516 2023年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(A)
荻 朋男, 光武 範吏, 真下 知士
担当区分:研究代表者
配分額:47450000円 ( 直接経費:36500000円 、 間接経費:10950000円 )
本研究では、マルチオミクス解析技術を用いた横断的アプローチにより、老化やがんなどの疾患発症に関連する、環境ストレス因子を特定し、主要な環境因子と影響を受ける臓器や疾患との関係 「環境ストレス病態相関」を明らかにする。併せて、環境ストレスから生体を防御する 「環境ストレス応答・ゲノム修復機構」の作動原理を理解し、その破綻により発症する疾患の病態解明を目指す。
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研究課題/研究課題番号:22K19674 2022年6月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
光武 範吏, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
人体への放射線被ばくの晩発影響として最も重要なのは発癌であるが、癌は最もよく見られる疾患の一つであり、被ばくした「集団」の癌発症数の増加は観察可能でも、「あるひとつの癌」が放射線で引き起こされたものか、その他の原因で起きたものかを区別する方法は今のところない。本研究では、細胞腫によるクロマチン状態の違いに着目し、放射線による欠失を上手く修復できる部位があるという仮説を検証することによって、放射線リスク研究に、集団ではなく個々の癌における放射線影響の有無を調べる手段を提供する。
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薬剤耐性・変異株解析可能なリアルタイム次世代シークエンスによる重症感染症迅速診断
研究課題/研究課題番号:22K07818 2022年4月 - 2025年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
伊藤 嘉規, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
ロングリード法に使用するナノポアシークエンサーは、遺伝子配列の解析に同時平行して解析情報を見ることが可能なため、短時間で微生物を同定可能であり「リアルタイムシークエンス法」と表現できる。リアルタイムシークエンス法では、6時間程度で、薬剤耐性情報を含む網羅的な微生物診断が可能となる。ナノポアシークエンサーは、技術改良が進んでおり、本研究では、重症感染症の網羅的・迅速診断法としてのリアルタイムシークエンス法の基盤的検証を行う。
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転写共役修復 (TCR)の分子メカニズム解明とTCR欠損ヒト遺伝性疾患の分子病態
研究課題/研究課題番号:21H02399 2021年4月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
中沢 由華, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
転写と共役したDNA修復機構 (transcription coupled repair: TCR)は、転写が活発に行われている領域に生じたDNA損傷を効率良く修復するシステムであり、生体の恒常性維持に重要なメカニズムである。本研究では、DNA損傷箇所で停止したRNA合成酵素がユビキチン化修飾を受けてTCRを開始・制御する分子機構の詳細解明に取り組むとともに、TCRの破綻により発症するヒト疾患の病態を明らかにすることを目指す。
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研究課題/研究課題番号:20K21718 2020年7月 - 2023年3月
科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
光武 範吏, 鈴木 啓司, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
放射線被ばくによって癌が発生するのは明らかであるが、あるひとつの癌が放射線で引き起こされたものか、その他の原因で起きたものかを区別する方法は今のところない。放射線はクラスター損傷と呼ばれる複雑な異常をDNAに引き起こし、マイクロホモロジーを伴う欠失や逆位を生じさせるとされるが、これらを全ゲノムレベルで解析する手法は今までなかった。本研究では、様々な線量の放射線を照射し樹立したHPRT変異細胞クローンと、新規技術であるロングリードシークエンシングを用い、上記の欠失や逆位を全ゲノムレベルで解析し、放射線刻印とも呼べる放射線特異的なゲノム変化の有無を明らかにする。
本研究の目的は、最新のゲノム解析技術、特にロングリード次世代ゲノム解析を用い、放射線ゲノム刻印の存在を明らかにし、放射線リスク研究に、集団ではなく個々の癌における放射線影響の有無を調べる手段を提供することである。そのため、長年様々な研究で使用されている放射線照射HPRT変異クローンを用いた。
前年度に確立した上記クローンについて、無処理、ガンマ線照射(1, 3, 6 Gy)クローンをそれぞれ5クローン、N-ethyl-N-nitrosourea(ENU, 1 mM, 1 hr)処理クローンを4クローンを対象に、Oxford Nanopore Technologies社のロングリードシークエンサーによるゲノム解析を行った。
R3年度は、放射線で引き起こされやすいとされる欠失について解析を行った。シークエンサーから得られたリードデータをminimap2を用いてヒトゲノムレファレンス配列GRCh38にマッピングし、snifflesを用いて構造変異のコールを行った。十数キロベースの欠失までは、リード内に直接的に観察することができた。各クローンのvcfファイルはSURVIVORを用いてまとめ、全クローンにおいて見られる変異を除外し、変異アレル頻度と変異をサポートするリード数が一定以上の変異を抽出してクローン間の比較解析を行った。放射線照射クローンでユニークに見られた変異は、メガベース以上の大きな欠失が線量依存的に増加していた。これは前年度に行ったPCRベースの解析とも一致していた。ただ、無処理クローン間でも相当程度の変異の違いがあり、ウシ胎児血清添加下の通常の培養環境では、それなりに変異が入ることが示唆された。
全ゲノム解析に関しては順調に施行することができたが、通常の培養環境でも相当数の変異が入り、放射線に特徴的な配列等の付加情報の探索を行う必要性が考えられた。
全ゲノム解析を継続し、多角的な面より詳細な解析を行っていく。 -
研究課題/研究課題番号:20K08241 2020年4月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
倉橋 宏和, 岡田 洋平, 奥村 彰久, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
我が国において、発熱に伴ってうわごとを言うなどの意識障害は稀ではなく、重篤な場合はインフルエンザ感染に伴う異常言動のように社会問題となりえます。MERS(可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症)は、発熱に伴い異常言動を呈する代表的な急性脳症です。我々は、2家系のMERS家族例においてMYRF遺伝子変異を同定しました。この研究は、MYRF遺伝子に着目して、その遺伝学的背景をより明らかにすること、また、変異MYRFについてモデル動物やモデル細胞を作成し、その特徴を明らかにすることを目的としています。
MERS(可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症)は、発熱に伴い異常言動を呈する急性脳症である。急性期の頭部MRIで脳梁膨大部に異常信号を呈することが特徴で、大脳白質の主要な構成要素であるミエリンの障害が示唆されている。我々は、2家系のMERS-異常言動スペクトラム家族例においてMYRF遺伝子変異を同定し、発熱時の異常言動と深く関わっている可能性を見出した。MYRFはオリゴデンデンドロサイトに発現し、ミエリン化・髄鞘維持に必要なDNA転写調節因子である。本研究の目的は、MYRF遺伝子に着目してMERS-異常言動スペクトラムの病態を解明することである。この目的を達成するために以下の研究を行なっている。1)MERS-異常言動スペクトラム症例に対する次世代シークエンス解析: MYRFにより発現が制御される遺伝子のうちミエリンに発現するものは約700あると報告されている。我々はMERS反復例・家族例を収集し、MYRF遺伝子に加えて、これらのMYRF遺伝子により発現が制御されうる遺伝子に注目してバリアントの解析を行っている。また、MERS症例だけでなく、発熱に伴う言動異常を呈した症例についても、同様の解析を行う。2)iPS細胞用いた研究:MYRF遺伝子変異を伴うMERS患者由来のiPS細胞作成、および、iPS細胞からオリゴデンドロサイトへの分化をより効率的に行うための実験を行なっている。今後も条件を変えて分化誘導の効率向上を試みる。また同時に、患者検体からのiPS細胞樹立を進める。
MERS-異常言動スペクトラム症例に対する次世代シークエンス解析:MYRF遺伝子変異を認めた家系以外の症例を集積し、MERS反復例・家族例に対し次世代シークエンス解析を行った。MYRFが発現に関与している可能性のある遺伝子のバリアントに着目して解析を行った。その結果、遺伝子全体でのバリアントの数は対照群と差がなく、高頻度でバリアントを認める遺伝子も同定できなかったものの、低頻度ながらバリアントを認める遺伝子は対照群とは異なっていた。バリアントを認める遺伝子のうち、中枢神経系と関連の強いものに着目して解析を進める。
iPS細胞を用いた研究:オリゴデンドロサイトへの分化を短時間で効率的に行うために、我々は酸素条件に着目し、至適な酸素濃度について検討を行っている。また、MYRF遺伝子変異を伴うMERS患者由来のiPS細胞を作成中である。
次世代シークエンス解析については、今後も新規症例を集積し解析を継続する。低酸素状態など、さまざまな条件での分化効率の検討を継続している。その結果をもとに、患者由来のiPS細胞からも分化誘導を試みる。 -
環境ストレス応答・ゲノム修復システムの破綻により発症する疾患の病態解明
研究課題/研究課題番号:20H00629 2020年4月 - 2023年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(A)
荻 朋男, 光武 範吏, 真下 知士
担当区分:研究代表者
配分額:45370000円 ( 直接経費:34900000円 、 間接経費:10470000円 )
生体内外の環境に由来する様々なストレス (環境ストレス)に対して、生物が適切な遺伝子発現の制御と遺伝情報の恒常性を維持するために必要となる、「環境ストレス応答・ゲノム修復システム」の全体像を理解する。また、その破綻により発症するがん、老化、代謝異常などのヒト疾患の病態解明をおこなう。これにより、将来的な治療法・予防法開発に結びつく知識の蓄積を目指す。
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次世代シークエンスによる包括的な重症感染症リキッドバイオプシー
研究課題/研究課題番号:19K08298 2019年4月 - 2023年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
伊藤 嘉規, 川田 潤一, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
近年の分子生物学の進展を応用し、侵襲性の少ない、包括的(微生物と生体情報をともに含む)な重症診断法開発の基盤となる研究を行う。病原微生物である、細菌、ウイルス、真菌などは、培養や核酸検出など様々な方法で検出されるが、次世代シークエンスは網羅的な微生物検出が可能である。他方、血液などの体液中には、細胞から分泌されるエクソソーム、Cell-free DNA、マイクロRNAが存在する。これらの微小な細胞由来分子を分離・解析し、重症感染症患者の炎症反応、免疫応答や臓器障害に関する評価を行い、リキッドバイオプシー(体液による病態解析・診断)を可能とするアッセイシステムを構築する。
重症感染症では、早期診断と適切な抗微生物薬の選択が予後を左右する。次世代シークエンス法は、一度のアッセイで、1,000万~10億程度のリード(DNA・RNA断片のシークエンス数)を得ることができ、臨床検体中の核酸断片を網羅的・定量的に解析できる。さらに薬剤耐性も同時に解析可能である。重症感染症における病原微生物診断は現状では不十分であり、多くの症例で診断できれば、抗微生物薬の効率的な使用が可能になり、感染症診療に大きな進展が予想される。生体内の微生物分布(マイクロバイオーム)を調べる方法は臨床診断法にそのまま応用できない。次世代シークエンス法を臨床応用できる基盤的研究を推進し、重症感染症の病原を早期に網羅的に診断できる方法を開発する。
2021年度は、150bpの断片配列を読むショートリード法、網羅的な解析であるショットガン法の組み合わせにより、血液培養・核酸検出法に比べて、病原微生物検出における次世代シークエンスの優位性を引き続き検討した。シークエンスデータの解析は、2019年に独自に開発した解析パイプライン「PATHDET」をアップデートし、使用した。小児中枢神経感染症では、病原微生物が同定されない症例を多く経験する。そこで、中枢神経感染症を疑われた1歳未満の小児28例を後方視的に検討した。2名の患児では、病原微生物は診断されていた(Proteus mirabilisが1例、Human parvovirus B19が1例)。抽出したDNAおよびRNAの解析を行った結果、前述の2例では同一の微生物が検出され、さらに、Coxsackievirus B5が4例、Coxsackievirus B4が3例、Echovirus E7が1例、Human parechovirus 3が1例に検出された。全体で、原因不明であった患者26例中10例(38%)の病原微生物を明らかにした。
2021年度は、前年度に引き続き、病原微生物が同定しにくい重症疾患である小児中枢神経感染症の髄液検体を解析した結果を報告し、次世代シークエンス法の病原微生物診断における有用性が示された。重症感染症の血液中リンパ球の次世代シークエンス・シングルセル解析を、EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症で開始していたが、ウイルス感染細胞の性状や免疫反応、炎症反応の性質について、症例を増やしながら継続して解析を行った。
次世代シークエンスを用いた病原微生物診断に関しては、ショットガン・メタゲノム法と比較しながら、ロングリードシークエンス法の有用性の検討を進める。重症感染症の血液・髄液検体のcell-free DNAおよびmiRNAの分離・解析に関しては、先天性サイトメガロウイルス感染症の中枢神経障害に関するmiRNAの解析を予定している。 -
DNA損傷部位特異的に集積する転写共役修復因子群を同定・評価する新規技術の開発
研究課題/研究課題番号:19H04266 2019年4月 - 2022年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
橋本 悟, 寺林 健, 岡 泰由, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
RNA合成酵素が転写伸長中にDNA損傷と衝突した際に生じていると考えられている、バックトラッキング(DNA損傷部位から転写と逆方向にRNA合成酵素がスライドする現象)の観察が可能となる新しい実験系を開発する。この実験系を用いて、転写と共役したDNA修復異常を来す各種疾患群の病態メカニズム解明を目指す。
様々な環境要因によってDNAは損傷を受けており、複数の機構によってDNA損傷は修復されている。転写領域において、RNAポリメラーゼがDNA損傷と遭遇することが修復開始のシグナルになることがあるが、その詳細なメカニズムについては不明な点が多い。ここで、細胞内におけるDNA損傷とRNAポリメラーゼが遭遇しているゲノム上における部位特異的な現象を評価する実験系が無いことが研究上の大きな課題となっている。本研究計画では、RNAポリメラーゼによる損傷認識機構を解明すべくDNA損傷に衝突したRNAポリメラーゼを評価する新しい実験系の開発を目指す。
RNAポリメラーゼによる損傷認識に伴うDNA修復機構(TCR)の破綻は、コケイン症候群(CS)と紫外線高感受性症候群(UVSS)を来す。CSおよびUVSSともに光線過敏を示すが、CSでは光線過敏以外に認知機能の異常や運動機能障害等、様々な神経症状を有する。ここで、同じTCR機能の異常を原因とする疾患群で異なる臨床像を示すメカニズムについては未解明である。本研究によりTCR機能異常の詳細を明らかにすることが可能となり、CS並びにUVSSの治療法開発に貢献することが可能となる。 -
研究課題/研究課題番号:18K11639 2018年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
黒谷 賢一, 岡 泰由, 荻 朋男, 嶋田 繭子, 唐田 清伸
担当区分:研究分担者
DNA損傷応答 (DDR)はゲノムの安定化に極めて重要な反応である。DDR蛋白質の細胞内での機能を理解するためには、蛋白質-蛋白質間の相互作用ネットワークを詳細に知る必要がある。本研究では、精密質量分析装置を利用した、ヒト細胞におけるDDR蛋白質のインタラクトーム解析を実施する。本研究成果の一つとして、DNA損傷後に、RNAポリメラーゼIIの最大サブユニットであるPOLR2A/RPB1と相互作用する因子を複数個同定した。
DNA損傷応答 (DDR)はゲノムの安定化維持機構に極めて重要な役割を持っている。事実、DDR機構の破綻は、成長発達障害、高発がん性、神経変性、早期老化などの様々な疾患の発症に関係していることが知られている。本研究で実施した、DNA損傷誘導後の精密質量分析装置を利用したインタラクトーム解析は、未解明のDDR分子機序の一端を解明したという点において、学術的に優れた成果であったと言える。 -
プロテオーム解析によるDNA損傷応答システムの破綻により生じる疾患発症因子の同定
研究課題/研究課題番号:18H03372 2018年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
岡 泰由, 荻 朋男
担当区分:研究分担者
DNA損傷応答システムの破綻によって、様々な病態を示す遺伝性疾患を発症することが知られている。昨今の大規模ゲノム解析研究から、健常人のゲノムにも数多くの機能変化を生じうる遺伝子変異が多数存在することが明らかになってきた。全エキソーム解析を行ったとしても、疾患原因遺伝子変異の絞り込みが困難なため、確定診断に至るのは30%程度といわれており、疾患原因因子の同定のための新たな探索技術の開発が喫緊の課題である。本研究では、ゲノム解析結果とプロテオーム解析データを統合することで、全エキソーム解析のみでは同定に至らなかった症例から、イントロン深部の新規RNASEH2B変異を同定した。
本研究では、全エキソーム解析のみでは疾患発症因子の同定に至らなかった症例について、プロテオーム解析を実施することで、原因因子を特定することが可能となった。全エキソーム解析に加えて、全ゲノム解析、RNAシーケンス解析、本研究で実施したプロテオーム解析を組み合わせた、マルチオミクス解析を実施することにより、診断率の向上ならびに未診断遺伝性疾患の病態解明へと繋がることが期待される。 -
中部東海地区IRUDゲノム解析拠点-先端情報技術の融合による包括的遺伝子診断の提供
2018年3月 - 2021年3月
科学研究費補助金 その他
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DNA修復・損傷応答機構の異常により発症するゲノム不安定性疾患の分子病態解明研究
2017年4月 - 2020年3月
科学研究費補助金 基盤研究(A)
担当区分:研究代表者
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DNA修復・損傷応答機構の異常により発症するゲノム不安定性疾患の分子病態解明研究
2017年4月 - 2020年3月
科学研究費補助金 その他