科研費 - 上口 智治
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翻訳段階での遺伝子発現制御機構における大腸菌核様体タンパク質H-NSの機能解析
研究課題/研究課題番号:07680735 1995年
科学研究費助成事業 一般研究(C)
上口 智治
担当区分:研究代表者
配分額:2500000円 ( 直接経費:2500000円 )
I.核様体タンパク質H-NSの機能ドメイン解析
H-NSによってその転写が抑制されているpeoUオペロンの発現を指標にして、25種類のhns変異を分離した。このうち20種類のミスセンス変異はH-NS上で大きく3つの領域(N末端領域、C末端側2つの領域)に集中した。精製した変異タンパク質について生化学的解析を行ったところ、C末端側ドメインはDNAとの結合に、N末端側ドメインは転写抑制機能に必要な領域であることが示唆された。H-NSはホモダイマーを形成して機能することが知られているが、ダイマー形成にはN末端側2/3が必要十分であり、おそらくH-NSの中央部ドメインがそれに関与するのではないかと推測された。
II.栄養飢餓ストレス応答機構の解明
1)栄養飢餓ストレス応答の正の制御因子であるシグマ因子(シグマS)の発現制御にH-NSが負の調節因子として機能していることを見いだした。H-NSは栄養豊富な環境ではシグマSの翻訳を抑え、またシグマSタンパク質の不安定化を引き起こす。hns変異株中ではシグマSの脱抑制が起こり、細胞は対数増殖期においてもあたかも栄養飢餓状態にあるような生理状態にあることを見いだした。従ってH-NSは、利用可能な栄養環境に応答して細胞の生理的状態をスイッチする機構のキ-分子であると考えられる。
2)シグマSの発現に関わる他の因子を検索し、一つの候補遺伝子を得た。 -
大腸菌分子シャペロンDnaJの構造的/機能的アナログ:cbpA蛋白質の分子機能
研究課題/研究課題番号:06261217 1994年
科学研究費助成事業 重点領域研究
上口 智治, 水野 猛
担当区分:研究代表者
配分額:1800000円 ( 直接経費:1800000円 )
I.DnaJアナログであるCbpAの機能解析
1)cbpA欠失変異株を構築し、その表現型を調べた。cbpAの単独欠失変異は野生株とほとんど変わらない生育を見せるが、cbpA/dnaJ二重変異株は生育温度領域が著しく狭い、セプタム形成の異常に伴う細胞の伸長、炭素源枯渇に伴う生存率の低下等の表現型が観察された。従ってCbpAはDnaJと同様の生理的機能を保持していると考えられる。
2)cbpAの転写が増殖定常期やリン酸源の枯渇に誘導されることを見いだした。このことは抗CbpA抗体を用いた免疫ブロティング法でも確認された。この誘導は栄養飢餓ストレス特異的なシグマ因子であるσ^Sに依存する。このことから大腸菌は2種類のDnaJ様シャペロンをストレスの種類に応じて使い分けているのではないかと推測した。
II.栄養飢餓ストレス応答の分子機構
cbpAの発現調節を解析する中で、σ^Sの発現調節に大腸菌核様体タンパク質H-NSが深く関与していることを明らかにした。詳細な解析の結果、H-NSはσ^Sの翻訳と産物の安定性の両段階を負に調節することで、栄養飢餓に応答した発現を保証していることが分かった。栄養飢餓ストレス応答は、近年多くの研究者が関心を寄せている研究分野であり、σ^Sの発現制御機構の解明はその中でも中心的課題となっている。我々の研究結果は当該分野の進展に重要な寄与をなしたといえる。 -
環境応答機構における大腸菌湾曲DNA結合タンパク質の機能解析
研究課題/研究課題番号:06680665 1994年
科学研究費助成事業 一般研究(C)
上口 智治
担当区分:研究代表者
配分額:2100000円 ( 直接経費:2100000円 )
I. 湾曲DNA結合タンパク質H-NSの機能解析
1)H-NSによって負の転写制御を受けるproUオペロンの脱抑制を指標にして、hns遺伝子に起きた20種類のミスセンス変異と5種類のナンセンス変異を分離した。hns変異の示す多面的な表現型をもとにして、これらの変異が4つのクラスに分類できることを明らかにした。ミスセンス変異はhns遺伝子上で大きく3つの領域(N末端領域、C末端側2つの領域)にかたまって分離され、それぞれ表現系の示すクラスと相関が認められる。生化学的解析から、H-NSのDNAとの結合にはC末端側が関与していることが示唆された。共同研究(東京薬科大学;神藤助教授、)によって明らかにされたH-NSのC末端側の高次構造と照らしあわせることで、H-NSのDNAとの結合にはC末端側のループ構造が重要な役割を果すことが示唆された。
2)栄養飢餓ストレス応答の正の調節因子であるo^Sの発現をH-NSが負に制御するという新しい現象を明らかにした。これは転写段階ではなく、翻訳と翻訳産物の安定性制御の各段階をH-NSが負に制御することで行われている。
II DnaJアナログであるCbpAの機能解析
1)cbpA欠失変異株を構築し、その表現型を調べた。cbpAの単独欠失変異は野生株とほとんど変らない生育を見せるが、cbpA/dnaJ二重変異株は生育温度領域が著しく狭い、セプタム形成の異常に伴う細胞の伸長、炭素源枯渇に伴う生存率の低下等の表現型が観察された。従ってCbpAはDnaJと同様の生理的機能を保持していると考えられる。
2)CbpAの発現がo^S依存的に栄養飢餓ストレスに応答することを見いだした。このことから大腸菌は2種類のDnaJ様シャペロンをストレスの種類に応じて使い分けているのではないかと推測した。 -
研究課題/研究課題番号:05680590 1993年
科学研究費助成事業 一般研究(C)
上口 智治
担当区分:研究代表者
配分額:2100000円 ( 直接経費:2100000円 )
1.大腸菌湾曲DNA結合タンパク質H-NSの機能解析
(1)H-NSによって負の転写制御を受けるproUオペロンの脱抑制を指標にして、hns遺伝子に起きた20種類のミスセンス変異と5種類のナンセンス変異を分離した。hns変異の示す多面的な表現型をもとにして、これらの変異が5つのクラスに分類できることが分かった。代表的な変異については変異H-NSの精製を行い、生化学的解析を行いつつある。既に予備的な解析から、DNAへの結合にはN末端約2/3があればよいが、C末端側の変異によってDNA結合能の低下をきたすことが分かっている。また殆の変異はC末端側に集中していたが、β-グリコシドの資化性に変化をきたす変異のみはN末端側に起きるという興味深い結果を得ている。
(2)培地pHによって制御を受けるグルタミン酸デカルボキシラーゼの発現が、中性pH領域ではH-NSによって強く抑制されることを見いだした。
2.新たに見いだした大腸菌湾曲DNA結合タンパク質CbpAとCbpBの解析
(1)CbpAをコードする遺伝子cbpAをクローン化し、遺伝子構造を明かにした。CbpAの一次構造は大腸菌の分子シャペロンであるDnaJと高い相同性をもち、分子遺伝学的解析からDnaJと同じ機能をもつ、構造的/機能的アナログであると結論した。大腸菌において、同一機能をもつ複数の分子シャペロンが見いだされたのはこれがはじめてであり、当該分野の研究において重要な発見であるといえる。
(2)CbpBはKornbergらによって、大腸菌oriC領域に結合するタンパク質として見いだされたRobタンパク質と同一であることを証明した。更にcbpB遺伝子の発現を解析したところ、cbpBは定常期特異的なシグマ因子であるRpoSによって、生育定常期並びに炭素源やリン酸源の枯渇に伴ってその発現が誘導されることを見いだした。
3.分裂酵母における湾曲DNA結合タンパク質の解析
分裂酵母から湾曲DNAに対して優先的に結合する分子量43kDのタンパク質を精製し、遺伝子構造を明かにした。四分子解析を行ったところ、この遺伝子は生育には必須ではないことが分かった。現在欠失変異株の表現型解析を行っている。