科研費 - 上口 智治
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研究課題/研究課題番号:25440130 2013年4月 - 2017年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
上口 智治
担当区分:研究代表者
配分額:5200000円 ( 直接経費:4000000円 、 間接経費:1200000円 )
一回結実性の植物においては成熟種子の形成が植物個体全体の生長停止や器官の老化を引き起こすことが知られており、global proliferative arrest (GPA)と呼ばれる。本研究ではGPAに関わる遺伝子の同定を目指し、生殖生長のごく初期に植物個体全体の生長停止が早まって起きるシロイヌナズナ変異体の原因遺伝子の同定と表現型の解析を試みた。その結果、環状ヌクレオチド感受性陽イオンチャネルをコードする遺伝子がGPAに関与することを見出した。この事実は細胞内イオンホメオスタシスが老化現象に深く関わっていることを示す。
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植物における新規な配偶子品質管理機構の解析
2013年4月 - 2016年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
上口智治
担当区分:研究代表者
顕花植物の生殖過程では、親世代の胞子体の役割は、単に受精可能な配偶子の形成に限定されるものではなく、受精後の接合子の胚発生過程にも積極的に関与する。本申請では後者に関わる全く新しい生命現象の分子機構の解析を提案する。申請者はシロイヌナズナ新規変異体の遺伝学的解析の途上で、雌雄いずれの配偶子も受精後に胚発生可能な性質(胚発生能)を親世代の胞子体が決定しており、これがDNA障害応答の一環であることを発見した。この新規生命現象は種の継続性を担保する重要な機構であると共に、種内のゲノムの多様性をもたらす可能性がある点で、進化的観点からも興味深い。本提案は、この新規生命現象の分子機構解明ならびにゲノム多様化の観点からの生物学的意義の解明を目的とする。
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研究課題/研究課題番号:22570038 2010年 - 2012年
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
上口 智治
担当区分:研究代表者
配分額:4550000円 ( 直接経費:3500000円 、 間接経費:1050000円 )
細胞の分化状態を維持する機構は、植物の正常な生育に必須である。本研究では、植物の幹細胞の未分化性を維持するのに必要な新規遺伝子を同定し、幹細胞の維持には DNA障害レベルの低減が重要であることが示唆された。また、既知遺伝子の新たな機能として、分化しつつある細胞がその状態を維持する機能があることを見出した。これらの結果は、植物細胞の分化あるいは未分化状態を維持する新規なメカニズムを示唆する。
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サイトカイニンによる高等植物の生長・分化の制御
2002年4月 - 2007年3月
科学研究費補助金 特定領域研究(A)(2)(計画),課題番号:14036215
担当区分:研究代表者
科研費
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研究課題/研究課題番号:14036215 2002年 - 2006年
科学研究費助成事業 特定領域研究
上口 智治
担当区分:研究代表者
配分額:66700000円 ( 直接経費:66700000円 )
シロイヌナズナサイトカイニン受容体遺伝子群(AHK2,AHK3,AHK4)の多重変異株は構成細胞数の低下に起因する顕著な綾性表現型を示す。この表現型の原因をさらに詳しく調べるために、CUC1過剰発現による異所的SAM形成のAHK遺伝子依存性の検討、ならびにahk多重変異株のトランスクリプトーム解析を行った。CUC1の過剰発現は子葉の向軸側に異所的なSAMを形成する。この過剰発現は外植片からの不定芽誘導もサイトカイニン依存的に活性化させる。ahk三重変異株におけるCUC1過剰発現の影響を調べたところ、頻度は低下するものの、異所的なSAM形成は阻害されなかった。このことからin vivoとin vitroにおける異所的なSAM形成の機構が完全に同じではない可能性が考えられる。ahk2 ahk3二重変異株およびahk三重変異株を対象にしたトランスクリプトーム解析では、これら変異株で特異的に発現が減少・増加する遺伝子としてそれぞれ約100種・60種の遺伝子を同定した。発現減少を示す遺伝子にはAタイプARRなどのサイトカイニン初期誘導遺伝子が含まれる。サイトカイニン生合成遺伝子の発現上昇と分解・不活化酵素遺伝子の発現低下は、シグナル伝達による内性ホルモン量の調節機構を示唆する。また主要熱ショックタンパク質遺伝子の発現が顕著に上昇しており、多重変異株がタンパク質の変性を伴う何らかのストレス状態に置かれていることを示している。多数のレドックス関連遺伝子の発現も影響されることから、サイトカイニンシグナルと細胞内酸化還元バランスの調節の関連性が示唆された。実際、ahk多重変異体は強光ストレスに対して顕著な耐性を示し、レドックスストレス応答が恒常的に引き起こされていると考えればよく理解できる。
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植物の可塑的な生長・分化を支える分子機構
2001年4月 - 2006年3月
科学研究費補助金 特別推進研究
担当区分:研究分担者
科研費
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高等植物のサイトカイニン応答におけるセンサーキナーゼファミリーの機能解析
2001年4月 - 2003年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)(2)(一般)
担当区分:研究代表者
科研費
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研究課題/研究課題番号:13CE2005 2001年 - 2005年
科学研究費助成事業 特別推進研究(COE)
松岡 信, 服部 束穂, 坂神 洋次, 前島 正義, 魚住 信之, 水野 猛, 上口 智治, 近藤 孝男
担当区分:研究分担者
○植物生長機構の解明と制御
植物の生長に必須な物質の探索・機能解明およびその制御を通して、植物の生産性向上を目指した。植物成長ホルモンであるジベレリンに関しては、その受容体を単離しその生化学的性質を明らかにした。さらに、サイトカイニンの受容体遺伝子を同定するとともに、花芽におけるサイトカイニン量がイネの収量決定に重要な役割を果たすことを明らかにした。また、この機構を利用して、コシヒカリの収量を増加させることに成功した。植物の開花・結実を制御する重要な因子である概日リズムを生み出す植物時計の新奇な構成因子を発見し、シロシヌナズナに関する新しい時計機構モデルを提唱した。新規の植物ペプチドホルモン,ファイトスルフォカイン(PSK)を同定しその受容体を明らかにした。さらに、気孔開口を制御する物質として,植物ホルモンジャスモン酸の生合成前駆体であるOPDAを同定した。
○植物の外環境応答機構の解明と制御
植物による栄養無機イオンの集積機能にCa^<2+>/H^+交換輸送体が重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに液胞膜亜鉛輸送体が存在し、過剰亜鉛による毒作用を回避する機能を担っていることを発見した。また、塩害や高浸透圧等の環境ストレス耐性にはNa/K輸送系が重要な役割を担っていることを示した。本輸送系は、Naを取り込んで塩ストレスに適応する輸送系であり、これまで他の生物において提唱されていた概念とは異なるものであった。硝酸イオンの吸収・同化に関しては、硝酸イオン・亜硝酸イオンを介した複雑な正の制御と、グルタミンを介した負の制御が存在することを明らかにした。さらに、水ストレス防御応答は、リン酸リレーを介した制御系の下流に位置するSAPKがABA応答エレメント結合因子をリン酸化・活性化することを明らかにした。 -
高等植物のサイトカイニン応答におけるセンサーキナーゼファミリーの機能解析
研究課題/研究課題番号:13640644 2001年 - 2002年
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
上口 智治
担当区分:研究代表者
配分額:3500000円 ( 直接経費:3500000円 )
サイトカイニンレセプターをコードしていることが遺伝学的に明らかになったAHK4の発現は根組織特異的であり、シュート部位での発現はきわめて低い。それゆえシュートにおけるサイトカイニンの生理学的役割はいまだ不明である。この点を明らかにする目的で、本年度はシュートで発現が認められるAHK4相同遺伝子であるAHK2と3に焦点を当てて研究を行った。
1)AHK2,3の発現解析
AHK2,3がいかなる部位で発現しているのかを組織及び細胞レベルで解析するために、AHK2,3とGUSならびにGFPの融合タンパク質を構築した。構築に当たってはプロモーターと予測される領域に加えて膜貫通及び細胞外ドメインの下流にレポーターを接続し、形質転換植物体を作製した。
AHK3-GFP融合体の観察では、GFP活性は根・胚軸・子葉や本葉で認められる。根や胚軸においてはコルメラ細胞群や維管束で、若い本葉では特に葉縁部で、成熟葉では葉脈で発現しているものと考えられる。またGFPの蛍光は細胞の外縁を取り巻くように認められ、AHK3が細胞質膜に局在するという予測と一致する。AHK2の融合体やAHK3-GUS融合体については形質転換植物の構築ができたところである。
2)AHK2,3遺伝子のノックアウト変異体の検索
両遺伝子のT-DNA挿入変異体の検索を、かずさDNA研究所およびWisconsin大学のラインを対象に行った。その結果、AHK2遺伝子については1ラインが、AHK3遺伝子については2ラインの挿入変異体を同定できた。AHK3変異体の二つのラインについてはホモ接合体を確立できた。予備的な解析の段階であるが、これらは通常の生育条件下では特に目立った表現型は示さない。しかし胚軸から調整したカルスにおいてはサイトカイニンに対する感受性が低下している。おそらくAHK2の活性によってシュートの生育に関しては顕著な表現型を示さないものと考えられる。今後AHK2とAHK3の二重変異株を作製することでシュートにおけるサイトカイニンの生物学的役割が判明するものと思われる。 -
高等植物の分化成長における二成分制御系シグナル伝達因子の機能解析
研究課題/研究課題番号:13017208 2001年
科学研究費助成事業 特定領域研究(A)
上口 智治
担当区分:研究代表者
配分額:3000000円 ( 直接経費:3000000円 )
1.サイトカイニン受容体遺伝子群の機能解析 シュート部位で発現しているサイトカイニンレセプターの候補であるAHK2,3がいかなる部位で発現しているのかを組織及び細胞レベルで解析するために、AHK2,3とGUSならびにGFPの融合タンパク質を構築したしAHK3-GFP融合体の観察では、GFP活性は根・胚軸・子葉や本葉で認められる。根や胚軸においてはコルメラ細胞群や維管束で、若い本葉では特に葉縁部で、成熟葉では葉脈で発現しているものと考えられる。またGFPの蛍光は細胞の外縁を取り巻くように認められ、AHK3が細胞質膜に局在するという予測と一致する。
AHK2,3両遺伝子のT-DNA挿入変異体の検索を行い、AHK2遺伝子については1ラインの、AHK3遺伝子については2ラインの挿入変異体を同定できた。AHK3変異体の二つのラインについてはホモ接合体を確立でき、胚軸から調整したカルスはサイトカイニンに対する感受性が低下していることを見出した。
2.TCP遺伝子群の機能解析 サイトカイニンシグナル伝達に関与することが想定されているAHP遺伝子群(二成分制御系の信号仲介因子であるHPt因子をコードする)と物理的相互作用が可能な因子として、TCPドメインを持つ新規転写関連因子を見出し、TCP10と名付けた。この遺伝子のT-DNA挿入変異体は植物体のシュート部位において顕著な矮性を示すことを見出した。TCP10遺伝子の過剰生産体はそれとは逆に葉柄や胚軸が伸長する。さらにTCP10プロモーターとGUSの融合体を用いて発現部位の詳細な解析を行い、TCP10の発現は胚軸・本葉・花の花柱で認められ、花茎を除くと表現型が現れる部位との間には相関があることが判明した。 -
高等植物の分化成長における二成分制御系シグナル伝達因子の機能解析
研究課題/研究課題番号:12037207 2000年
科学研究費助成事業 特定領域研究(A)
上口 智治
担当区分:研究代表者
配分額:2800000円 ( 直接経費:2800000円 )
1)シロイヌナズナから3種類の新規センサーキナーゼ遺伝子を分離して一次構造を確定し、これら遺伝子をAHK2,3,4(AHK=Arabidopsis histidine kinase)と名付けた。AHK遺伝子群は相互に高い相同性を示す遺伝子ファミリーを形成している。またAHK遺伝子群の発現を調べたところ、AHK4が根組織で特異的に発現していることがわかった。
2)AHK4遺伝子にT-DNAが挿入された変異株を同定した。AHK4の発現が根組織特異的であることに注目した解析から、この変異株が植物ホルモンの一つであるサイトカイニンに対して非感受性を示すことを明らかにした。AHK4遺伝子を出芽酵母のセンサーキナーゼ変異株に導入したところ、各種サイトカイニン(BA,Kinetin,t-Zeatin)に依存的な生育を示し、AHK4がサイトカイニンの直接の受容体であり、リガンドとの結合がヒスチジンキナーゼ活性を正に制御することを明らかにした。。
3)TCP10はTCP1などと同様に、側生器官の分化成長に直接関与すると考えられているトウモロコシのT〓1やキンギョソウのCYCと同じ構造を持つサブファミリーに属しており、機能的に重要であると考えられる。このサブファミリーに属するTCP遺伝子をシロイヌナズナのゲノムからさらに3種見出し、TCP11〜13と名付け、当サブファミリーに属する遺伝子群(TCP1,2,3,5,10,11,12,13)すべてのクローン化を終了でた。 -
高等植物の分化生長における二成分制御系シグナル伝達因子の機能解析
1999年1月 - 2001年12月
科学研究費補助金 特定領域研究(A)(2)(公募)
担当区分:研究代表者
科研費
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高等植物の分化成長における二成分制御系シグナル伝達因子の機能解析
研究課題/研究課題番号:11163210 1999年
科学研究費助成事業 特定領域研究(A)
上口 智治, 水野 猛
担当区分:研究代表者
配分額:3000000円 ( 直接経費:3000000円 )
1.二成分制御系遺伝子の検索と構造決定
シロイヌナズナESTクローンバンクとゲノム情報の検索から、現在14種類のレスポンスレギュレーター遺伝子(ARR)、5種類のHPtメディエーター遺伝子(AHP)と3種類の新規センサーキナーゼ遺伝子(AHK)を確認し、cDNAレベルでの一次構造を確定した。ARRならびにAHP遺伝子群の発現解析を行い、いずれも根器官での発現が顕著であること、AタイプのARR遺伝子の発現は植物ホルモンのうち、サイトカイニンでのみ一過的に誘導されるがBタイプはそうではないことを見出した。
2.ARR・AHPの分子機能
1)Aタイプに属するARRタンパク質を精製し、大腸菌のHPt因子からリン酸基を受容できることを確認した。AHPタンパク質についても同様に、大腸菌のハイブリッドセンサーキナーゼからリン酸基を受容できること、ならびにそのリン酸基をARRタンパク質に転移できることを確認した。
2)出芽酵母のHPt因子をコードするYPD1遺伝子の変異をAHP1が相補できることを証明した。この相補活性にはリン酸化部位であるヒスチジン残基が必須である。また出芽酵母のセンサーキナーゼをコードするSLN1遺伝子の変異はAHK3遺伝子によって相補されることも示した。この相補活性にも自己リン酸化部位のヒスチジン残基が必須である。以上の結果はARR,AHP,AHK各分子が二成分制御系の因子として機能しうることを示している。
3.植物における機能解析
1)酵母Two-hybrid法を用いてAHPと相互作用する植物の因子を検索した。その結果、AHP1〜3はBタイプのARR(ARR1,2,10)と、AHP2,3はそれらに加えてTCPドメインを持つ新規タンパク質と相互作用しうることを明らかにした。前者については酵母の系のみならず精製タンパク質のレベルで相互作用を確認し、相互作用がHPtドメインとARR1のレシーバードメイン間でなされることを明らかにした。さらにHPtからARR1へのリン酸基転移を証明した。後者のTCPドメインは最近注目されはじめた機能ドメインで、側芽の成長や花器官の対象性に関与する遺伝子の例が知られている。
2)かずさDNA研究所との共同研究により、AHP、AHKおよびTCP遺伝子のノックアウト変異株の検索に着手した。 -
大腸菌核様体タンパク質H-NSによる新規な遺伝子発現調節機構の解析
1997年1月 - 1998年12月
科学研究費補助金 基盤研究(C)(2)(一般)
担当区分:研究代表者
科研費
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大腸菌核様体タンパク質H-NSによる新規な遺伝子発現調節機構の解析
研究課題/研究課題番号:09680671 1997年 - 1998年
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
上口 智治
担当区分:研究代表者
配分額:3200000円 ( 直接経費:3200000円 )
本研究においてはまずH-NSによる転写制御の分子機構を探る目的で、H-NSの構造と機能の相関に焦点を当てて解析を行った。hns遺伝子の変異株を系統的に取得し、分子遺伝学的・生化学的解析を加えることで各変異の表現型を整理し、H-NSが少なくとも三つの機能ドメインから成ることを明らかにした。N末端側には転写抑制に直接関わるドメインが、C末端側約1/3にはDNA結合に関与するドメインが存在し、中央部はダイマー形成に関与する。これらの機能的重要性も同時に証明した。また共同研究によって明らかにされたC末端側ドメインの三次元構造と変異解析の結果を対照することで、DNA結合ドメイン内のループ構造がDNAの認識と結合に重要であることを明らかにした。またさらにH-NSが関与する複雑な遺伝子発現制御機構についての解析にも着手した。大腸菌bglオペロンは典型的なサイレント遺伝子であり、H-NS並びに真核生物におけるサイレンサー様のシスエレメントによって、通常条件下では転写されない遺伝子となっている。上記課題の遂行中に、この遺伝子サイレンシングが生じるためにはDNA結合能を失った変異H-NSタンパク質でも十分であることが判明し、サイレンシングにおけるH-NSの関わりについて興味深い側面が明らかにされた。また定常期特異的シグマ因子の発現制御にはH-NSが負の制御因子として機能するが、この関与は転写段階ではなく翻訳とシグマ因子の安定性の両段階であり、H-NSの機能がこれら転写以外の細胞機能にも密接な関わりを持つことを示唆している。本研究ではこれらの課題に対して予備的な結果しか得られなかったが、H-NSによる遺伝子発現の細胞レベルでの統御を知る上で重要な課題であるといえよう。
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大腸菌定常期特異的シグマ因子の発現/活性制御機構の解析
1996年1月 - 1996年12月
科学研究費補助金 基盤研究(C)(2)(一般)
担当区分:研究代表者
科研費
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研究課題/研究課題番号:08680738 1996年
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
上口 智治
担当区分:研究代表者
配分額:2600000円 ( 直接経費:2600000円 )
I.定常期特異的シグマ因子の発現制御機構の解析
1)δSの発現に関わる正の制御因子を検索する目的で、δSが脱抑制されるhns変異株中でもその発現が低下するような変異株を分離した。sirA(sigma S regulation)と名付けたこの変異株中では、δSの転写や翻訳効率には変化がないものの、産物が不安定化することでその発現量に異常が生じたものであることを明らかにした。変異のマッピングとクローン化により、sirA遺伝子をクローン化した。しかしhns変異を含まない野生型大腸菌にsirA変異を導入したところ、δSの発現には顕著な異常は観察されず、δS発現におけるsirA変異の影響はhns変異株という特殊な遺伝子型に限って現れる現象であると結論できる。ところでsirAの欠失変異を新たに構築したところ、その変異株はrich medium sensitivityと細胞の異常な伸長という表現型を示した。このことはSirAは本来細胞分裂に関係する機能を持つ蛋白質であることを示唆する。
2)エネルギー代謝における中間産物であるアセチルリン酸がδSの発現調節において負の制御因子であることを示唆するデータを得た。δS発現の負の制御因子として、最近二成分制御系のレギュレーターであるRssBが同定されている。アセチルリン酸は他のレギュレーター蛋白質をリン酸化しうる低分子であることを考慮すると、アセチルリン酸がRssBの制御因子として機能する可能性が考えられ、現在解析中である。
II.グローバルリプレッサーH-NSの機能ドメインの解析
グローバルな転写抑制因子であるH-NSの作用メカニズム解明のため、変異解析による機能ドメインの解析を行った。H-NS制御下にあるプロモーターの転写を指標として多数のhns変異株を取得し、遺伝学的・生化学的解析を行い、H-NSのN末端・中央部・C末端領域に転写抑制・オリゴマー化・DNA結合ドメインがそれぞれ局在することを立証した。 -
栄養飢餓ストレス応答における大腸菌DnaJシャペロンのアナログCbpAの分子機能
1995年1月 - 1995年12月
科学研究費補助金 特定領域研究(A)(2)(公募)
担当区分:研究代表者
科研費
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翻訳段階での遺伝子発現制御機構における大腸菌核様体タンパク質H-NSの機能解析
1995年1月 - 1995年12月
科学研究費補助金 基盤研究(C)(2)(一般)
担当区分:研究代表者
科研費
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栄養飢餓ストレスにおける大腸菌DnaJシャペロンのアナログCbpAの分子機能
研究課題/研究課題番号:07253209 1995年
科学研究費助成事業 重点領域研究
上口 智治, 水野 猛
担当区分:研究代表者
配分額:2000000円 ( 直接経費:2000000円 )
I.DnaJアナログであるCbpAの機能解析
1)cbpAの欠失変異を構築し、その表現型を解析した。cbpAの単独変異は野生株同様の良好な生育を見せるが、cbpA/dnaJ二重変異株は生育可能温度領域が著しく狭く、高温感受性に加えて低温感受性を示す。さらにこの二重変異株は、セプタム形成異常に伴う細胞の伸張や、栄養源枯渇(炭素源)における生存率の低下などの表現型を示した。こうした表現型はdnaK欠失変異に特徴的に観察されるものと一致しており、CbpAとDnaJはDnaKと協調的に働くことで機能することを示唆している。
2)cbpA/dnaJ二重変異株の低温感受性を抑制する多コピーサプレッサーを分離したところ、rpoD遺伝子を得た。これは二重変異の示す低温感受性が熱ショックタンパク質の過剰生産によるものであり、主要シグマ因子の増産によってそれが競争的に阻害されるためであると解釈できる。
II.栄養飢餓ストレス応答機構の解明
1)栄養飢餓ストレス応答の正の制御因子であるシグマ因子(シグマS)の発現制御にH-NSが負の調節因子として機能していることを見いだした。H-NSは栄養豊富な環境ではシグマSの翻訳を抑え、またシグマSタンパク質の不安定化を引き起こす。hns変異株中ではシグマSの脱抑制が起こり、細胞は対数増殖期においてもあたかも栄養飢餓状態にあるような生理状態にあることを見いだした。従ってH-NSは、利用可能な栄養環境に応答して細胞の生理的状態をスイッチする機能のキ-分子であると考えられる。
2)シグマSの発現に関わる他の因子を検索し、一つの候補遺伝子を得た。