科研費 - 井藤 彰
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細胞の磁気操作による三次元複合臓器構造体の構築
2008年4月 - 2010年3月
科学研究費補助金 特定領域研究
井藤 彰
担当区分:研究代表者
次世代の生体組織構築技術におけるキーテクノロジーになると考えられる細胞の操作技術について、磁性ナノ粒子を用いた磁気細胞操作の開発を行い、磁力を用いた再生医工学技術(Mag-TE法)を開発することを目的とした。主に以下の点に関して研究を行った。
1. 磁力を用いたVEGF遺伝子導入細胞シートの作製と機能評価
筋芽細胞株C2C12細胞に血管新生を誘導するサイトカインであるVEGFの遺伝子を導入し、さらに正電荷脂質包埋型磁性ナノ粒子(MCL)を用いてC2C12細胞を磁気標識し、磁力によって細胞を積層化することによってVEGF遺伝子導入細胞シートを作製した。作製した細胞シートは、VEGFが分泌されていることをウエスタンブロット法で確認し、さらに導入したVEGFが正常に機能することを、血管内皮細胞の遊走および増殖・毛細血管形成能で確認した。さらに本方法で作製した遺伝子導入細胞シートをヌードマウスの皮下に移植することで、VEGF遺伝子導入の効果について検証した。移植した組織は、VEGF遺伝子を導入しなかった対照群と比較して有意に厚い組織を形成し、また、血管内皮特異的マーカー抗体による染色によって、血管内皮細胞や毛細血管の組織内に占める割合が有意に増加していることが分かった。これらの結果から、VEGF遺伝子導入細胞シートは移植に有用である可能性が示された。
2. 磁力を用いた抗菌ペプチド遺伝子導入表皮細胞シートの作製と機能評価
表皮角化細胞株HaCaT細胞に抗菌ペプチドHBD-3の遺伝子を導入し、Mag-TE法で細胞を積層化することによってHBD-3遺伝子導入細胞シートを作製した。作製した細胞シートは大腸菌に対する抗菌活性を示したことから、本アプローチは再生医療に有用である可能性が示された。 -
ナノバイオ磁性ナノ粒子を用いたマルチスケールバイオマニピュレーション
2007年4月 - 2009年3月
科学研究費補助金 若手研究(A)
井藤 彰
担当区分:研究代表者
0nm程の直径の磁性ナノ粒子を、様々なバイオマテリアルで修飾することで、ナノバイオ磁性ナノ粒子を開発し、磁力を用いて細胞を操作する技術を開発した。具体的には、(1)レトロウイルスベクターを磁気操作する技術、(2)共培養後の標的細胞を磁気分離する技術、(3)細胞を磁力で配置するパターニング技術、(4)細胞を磁力で集積させて高度な三次元組織を構築する技術、といったナノからミリメーターに及ぶマルチスケールバイオマニピュレーションの開発を行った。
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細胞の磁気操作による毛細血管網を含む生体組織の構築
2006年4月 - 2008年3月
科学研究費補助金 特定領域研究
井藤 彰
1.磁力を用いた肝実質細胞一線維芽細胞からなる共培養細胞シートの構築
線維芽細胞(NIH3T3細胞)と肝癌細胞(HepG2細胞)に磁性ナノ粒子を取り込ませて磁気ラベルし、それぞれの細胞を、磁石を設置した超低接着性培養皿に播種した。播種された細胞は、培養皿底面に接着することができないために、細胞間で結合・接着をはじめて、NIH3丁3細胞とHepG2細胞からなる共培養三次元組織を形成した。この三次元共培養により、HepG2の肝機能の一つであるアルブミン分泌能が向上したことから、我々の開発した「磁力を用いる細胞の磁気操作法」により、機能する三次元組織の構築に成功した。
2.血管内皮細胞がパターン化された細胞シートの構築
磁力を用いた細胞のパターニング技術を基盤にして、血管内皮細胞を含む細胞シートの構簗法の検討を行った。具体的には、(1)磁力を用いて線維芽細胞シートおよび筋芽細胞シートを作製し、(2)磁石をマイクロパターン化磁石(幅200μm)に取り替えて、細胞シートの上に磁性ナノ粒子で磁気標識した血管内皮細胞を播種した。結果として、それぞれの細胞シート上に、磁石の形状と同様の200μm線状に血管内皮細胞をパターンすることに成功した。このことから、我々の開発した「磁力を用いる細胞の磁気操作法」により、パターン化された血管内皮細胞を含む三次元組織の構築に成功した。
以上の結果より、磁力を用いる細胞の磁気操作法は、ティッシュエンジニアリングにおける有用な技術であると考えられる。