科研費 - 南 雅代
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火葬骨の高確度炭素14年代測定と食性解析のための基礎研究・考古資料への展開
研究課題/研究課題番号:18H00756 2018年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
南 雅代, 若木 重行, 淺原 良浩, 高橋 浩
担当区分:研究代表者
配分額:16900000円 ( 直接経費:13000000円 、 間接経費:3900000円 )
有機成分のコラーゲンが残存していない火葬骨に対し、無機成分であるバイオアパタイトを用いて、信頼性の高い炭素14年代決定を行うとともに、ストロンチウムSr/カルシウムCaの量比、並びにSr同位体(放射起源同位体:Sr-87、安定同位体:Sr-84, -86, -88)の3同位体比を組み合わせて、生前の居住地域、食性の情報を得る手法を確立した。考古遺跡から出土したいくつかの火葬骨資料(奈良県持聖院出土蔵骨器内の貞慶の遺骨、滋賀県多賀町敏満寺遺跡石仏谷墓跡の火葬骨など)にこの手法を適用し、骨バイオアパタイトのマルチSr同位体分析が食性と居住地域復元の指標として非常に有効であることを明らかにした。
考古骨の年代測定や食性解析においては、従来、有機成分であるコラーゲンを抽出し、その主成分である炭素・窒素・酸素の同位体比が用いられてきた。しかし、高温の熱を被り、有機物が分解してしまっている火葬骨には、この従来法は適用不可能である。本研究は、このような火葬骨から直接、炭素14年代、ならびに生前の食性の情報を得る手法を確立したものである。火葬は、日本では古くから普及する埋葬法の一つであり、特に貴族や僧侶など、身分の高い人が遺跡や墓所に埋葬されていることも多い。本研究成果により、これまで分析できなかった火葬骨資料から貴重な情報が得られると考えられ、考古学・人類学分野に与える学術的意義は大きい。 -
研究課題/研究課題番号:19K21583 2019年6月 - 2022年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
南 雅代, 加藤 丈典
担当区分:研究代表者
配分額:6370000円 ( 直接経費:4900000円 、 間接経費:1470000円 )
日本は舎利信仰が深く、火葬後の収骨儀礼も敬いの念があり、世界的にも亡骸を深く尊重する国であると言える。一方で、すべての遺骨が永続的に崇め祀られることはなく、弔い手のいなくなった放置遺骨が増えつつある。超高齢化社会になり、その数はさらに増え、社会問題になる可能性もある。まさに今、葬儀・埋葬様式を変えていかなければいけない過渡期にある。本研究においては、日本の埋葬文化を尊重しながら、新たな埋葬方式を導入することを目指す。つまり、①火葬骨を、急激にではなく、自然の土壌中の分解に似せて徐々に分解する手法、かつ、②普通に手に入る毒性のない化学試薬・反応を用いて環境に優しい手法、を確立する。
骨は、バイオアパタイトを主とするリン酸カルシウム結晶とコラーゲン繊維を主とする有機分子からなる構造をしており、バイオアパタイトは、アパタイトのリン酸基あるいは水酸基が炭酸基に置換した形で存在している。骨は高温で加熱されとコラーゲンが損失するとともに、バイオアパタイトがヒドロキシアパタイト化し、アパタイト結晶のサイズがナノメートルサイズに抑制されることにより、土壌中で自然に分解されにくい状態となる。現在の火葬炉の温度は800~1200℃とされており、高温で加熱されているため、火葬骨は分解しにくく、年月が経ても残存する状態になっている。本研究では、このような火葬骨を、強力な酸・アルカリによって急激に分解するのではなく、徐々に分解する手法を開発することを目指している。
まず、骨の結晶構造に他の元素が入り込むことによって、アパタイト結晶のサイズが広がり、分解しやすくなる現象を明らかにするべく、骨への元素の取り込み実験を行なった。現生骨を450℃、600℃、750℃、900℃で加熱したもの、未加熱の骨、鉱物アパタイト試料を、質量数84のストロンチウム(Sr)同位体が濃縮したスパイクを含む炭酸ストロンチウム溶液に浸す実験を行い、1日後、3日後、1週間後、2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年、1年後に取り出して、骨への元素の取り込み過程を調べた。その結果、600℃以下で加熱した骨は、時間経過に伴い、炭素濃度・同位体比、Sr濃度・同位体比が変化する一方、750℃以上で加熱した骨は値の変化がほとんど認められなかった。アパタイトの結晶性と元素の取り込みに関しては明瞭な相関が認められ、高温加熱が、骨を分解しにくくすることが明らかになった。今後、酢酸あるいはクエン酸を用いて、骨を徐々に分解させる実験、ヒドロキシアパタイトの水酸基のサイトに炭酸基を置換させる実験を行っていく予定である。
本年度の前半は新型コロナ感染拡大がおさまらず、テレワークを要請されたために、大学で実験できる時間が限られ、計画していたいくつかの実験を進めることができなかった。年度後半になって、大学での実験遂行が可能になり、質量数84のストロンチウム(Sr)同位体が濃縮した炭酸ストロンチウムを溶かした液に浸した骨試料の化学分析を一部進めることができ、興味深い結果が得つつある。
ヒドロキシアパタイトの水酸基のサイトに炭酸基を置換させる促進剤として炭酸カルシウムを共存させる実験を計画し、炭酸カルシウムに弱酸を加えて密閉内で二酸化炭素を発生させるための反応容器を製作した。この容器を用いると、酢酸あるいはクエン酸(0.01-0.1 mol/L)を用いて、骨を徐々に分解させる実験、二酸化濃度10%の雰囲気下での骨分解実験も可能となる。これらの研究を実施するため、本研究課題の研究を来年度に繰越し、計画している実験を早急に行っていく予定である。
上述したように、骨への元素取り込み実験から、アパタイトの結晶性と元素の取り込みに関しては明瞭な関係が認められ、高温加熱が、骨を分解しにくくすることが改めて明らかになった。骨のアパタイトの結晶性を数値化し、元素の取り込み過程を結晶化学的に解明し、結果をまとめて短報として論文にする。
さらに、酢酸あるいはクエン酸(0.01-0.1 mol/L)を用いて、徐々に骨を分解させる実験、ヒドロキシアパタイトの水酸基のサイトに炭酸基を置換させる促進剤として炭酸カルシウムを共存させる実験、二酸化炭素濃度を10%にした雰囲気下での実験を、今年度開発した反応容器を用いて順次行なっていく。現在、再び新型コロナ感染が拡大しているため、どこまで、実験を進めていけるか不明な点はあるが、できる限り推進していきたいと思う。
以上の得られた結果をもとに、火葬骨を、急激にではなく、自然の土壌中の分解に似せて徐々に分解する手法、かつ、普通に手に入る毒性のない化学試薬・反応を用いて環境に優しい手法を確立するための基礎データを揃え、最終的に論文としてまとめる。今後、ますます高齢化社会となり、火葬骨の残存問題を解決することは、社会的に重要と考えられる。是非とも、得られた結果を社会へ還元してきたい。 -
イランの石筍・トラバーチンを用いた西アジアの古気候復元の試み
研究課題/研究課題番号:19H05035 2019年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
南 雅代
担当区分:研究代表者
配分額:5200000円 ( 直接経費:4000000円 、 間接経費:1200000円 )
西アジア(特にイラン・イラク)周辺の古気候データは、試料採取が困難であることもあって、大変少ない状況である。そこで、本研究においては、イランの鍾乳洞内の石筍を用いて過去数万年間の古気候復元が可能かどうかを見極め、西アジア地域の古気候復元を行うことを第1の目的とする。さらに、トラバーチンを用いて古気候復元を行うための手法を確立することを第2の目的とする。トラバーチン形成に関する地質学的研究はいくつか行われているものの地球化学的研究はほとんどない。本研究においては、イランの石筍・トラバーチンを用い、ダストの影響を加味したマルチプロキシ地球化学分析によって西アジア地域の古気候復元を行う。
近年、鍾乳石の化学分析から過去の降雨量の変化が復元され、気候変動に伴い降雨特性が大きく変化していたことが明らかになってきた。しかし、西アジア(特にイラン・イラク)を対象とした研究はほとんどなく、過去の気候変動において西アジア周辺の降雨特性がどのように変化してきたかについては十分に理解されていない。そこで、本研究においては、イランの石筍・トラバーチンの炭素14年代測定・同位体分析から西アジア地域の過去数千年~数万年間の長期的な古気候復元を目指している。
2019年度は、イラン北西部・西アゼルバイジャン州タフテ・ソレイマンの円錐状のトラバーチンの山から層序を確認しながら連続的にトラバーチン試料と、山麓から湧水を採取し、炭素14年代、安定炭素同位体比(δ13C)測定を行った。その結果、湧水の炭素14年代は3.1 kBP、δ13C値は+7から12‰であり、このトラバーチンが熱水由来の古い年代を持つ湧水から沈殿して生成したことが示唆された。トラバーチンは4.2 kBPから3.0 kBPの炭素14年代を示し、湧水が示す年代を考慮して、このトラバーチンの実際の形成年代、形成速度を求めた。
他方、2019年10月7-16日に、イラン・クルジスタン大学に出向き、ハイボリュームエアサンプラーをセットアップし、大気エアロゾルPM10の採取を開始した。試料の炭素14濃度は約50 pMC (percent Modern Carbon)の値であり、化石燃料炭素と生物起源炭素の寄与が半々であることがわかった。現在、クルディスタン大学の連携研究者の協力のもと、継続的に大気エアロゾル採集を実施中である。
その他、水試料から溶存炭素を効率的に抽出する手法を開発した。この手法は、マグネシウムや硫黄成分の濃度が高く、従来の手法だと炭素抽出の難しかった本研究のような水試料に対しても有効であることが明らかになった。
2019年の10月7-16日にイランに調査に行き、トラバーチン、湧水試料を予定通り採取することができた。また、イランへの持ち込みが可能か危惧していたハイボリュームエアサンプラーも、クルディスタン大学に無事設置することができ、エアロゾルの採取を開始することができた。日本に持ち帰った試料の分析も順調に終えることができ、これまでのところ、研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
2020年度は、タフテ・ソレイマンのトラバーチンの下層から上層までの詳細な時系列に基づき、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、希土類元素などの元素変動、炭素・酸素同位体比変動から、古環境復元を行う。またストロンチウム・ネオジム同位体変動に影響を与えるダスト成分を明らかにし、タフテ・ソレイマンのトラバーチンの起源・成因を探る。同様の手法をクリ・カレ洞窟から採取した石筍にも適用する。
一方、イラン・クルジスタン大学に設置したハイボリュームエアサンプラーにより、引き続き大気エアロゾルの採集を行ってもらい、その試料の分析を行うことにより、季節によるイランへのダストの飛来状況の違いを明らかにする。当初は、2020年度内にイランに出向き、自分でエアロゾル試料を持ち帰る計画にしていたが、新型コロナウィルス感染拡大により、イランに渡航できるかどうかわからないため、イランからエアロゾル試料を空輸で送ってもらうことを計画する予定である。
以上の結果を総括し、イランのトラバーチン・石筍を用い、ダストの影響を加味したマルチプロキシ地球化学分析によって西アジア地域の古気候復元を行う手法を確立し、論文にまとめる。 -
古代鉄試料の炭素14年代測定と無機元素・同位体分析を一度に可能にする新手法の開発
研究課題/研究課題番号:24K21374 2024年6月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
南 雅代, 高橋 浩
担当区分:研究代表者
配分額:6240000円 ( 直接経費:4800000円 、 間接経費:1440000円 )
人類の文化史の研究において、鉄利用の歴史の編年は、非常に重要な研究テーマである。鉄製品の製作年代は、製鉄や精錬に用いられた鉄中に残存する木炭の炭素14年代測定から推定可能である。本研究では、鉄試料からの炭素抽出方法として、従来の加熱燃焼ではなく、真空にした密閉容器中で鉄試料を酸溶解させる方法を試み、さらに炭素抽出後の溶液を用いて、無機元素の濃度・同位体分析を同時に行う手法を確立する。古代の鉄製品の鉄に含まれる元素濃度・同位体比は、製鉄の原材料や産地推定の指標となり、本手法を確立することにより、貴重な古代鉄試料の破壊を最小限に抑え、同一鉄試料から年代決定と来歴推定が可能になると期待される。
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コンクリーション化を応用した史跡・文化遺産等劣化抑制・修復技術開発研究
研究課題/研究課題番号:23K17275 2023年6月 - 2029年3月
科学研究費助成事業 挑戦的研究(開拓)
吉田 英一, 門脇 誠二, 南 雅代
担当区分:研究分担者
名古屋大学博物館では,これまで国内外の研究機関と共同で国内史跡の石材調査,軍艦島などの古いコンクリート分析の他,海外(ヨルダンなど)での古代遺跡の発掘調査を行なってきている.これらのこれまでの調査から,石材や古いコンクリートの劣化は酸性雨などによる炭酸カルシウムの溶出が主たる原因であり,また海外の石材や煉瓦は炭酸カルシウムが豊富に含まれているものが多く,乾燥地域でも長期間におけるこれらの溶出が劣化・崩壊の主な原因であることが分かってきた.本音件研究では,コンクリーション化剤によってこれらの影響を上記研究計画によって固定化させ劣化を抑制する手法を開発する.
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あらゆる水試料に適用できる溶存無機炭素分析用の試料保管にかかる殺菌処理手法の開発
研究課題/研究課題番号:23K03500 2023年4月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
高橋 浩, 南 雅代
担当区分:研究分担者
水の溶存無機炭素(DIC)分析では、試料採取から分析までの期間に生物活動によりDICが変化しないように、塩化第二水銀の添加が認知されているが、水銀の錯体形成等の影響や環境負荷が大きいことが問題である。そこで、水試料のDIC変化を防ぐ処理として、塩化ベンザルコニウム(BAC)の添加とろ過を併用した手法を確立する。具体的には、ろ過実施に関するブランク検証と最適なろ紙孔径の選択、BACの添加によるブランクの低減手順の検証、複数の天然試料を用いた処理の有効性の検証を行う。本研究により水銀を使用せずに正確なDIC分析が可能となることで、分析の効率化と安全性の向上を実現し、将来にわたって大きな貢献となる。
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火葬骨のヒドロキシアパタイトのマルチ同位体分析による食性解析
研究課題/研究課題番号:21H04359 2021年4月 - 2026年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
南 雅代, 佐藤 亜聖, 若木 重行, 高橋 浩
担当区分:研究代表者
配分額:42120000円 ( 直接経費:32400000円 、 間接経費:9720000円 )
有機成分のコラーゲンが残存していない火葬骨に対し、無機成分であるヒドロキシアパタイトを用いて、放射性炭素(14C)年代、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、炭素(C)の同位体比や元素比を組み合わせたマルチ分析により、これまで遺跡出土状況や骨の形態等から推定するしかなかった年代・生前の食性・移住に関する情報を、骨試料から直接得る手法を確立する。具体的には、①加熱した骨を用いて、骨試料へのSrやC取り込みとアパタイト結晶状態の関係の解明実験、②骨のCa同位体分析手法の確立、③現生骨を用いたSr/Ca、Sr-Ca-C同位体比の基礎データの蓄積、④いくつかの遺跡の考古骨試料の分析、を行う。
本研究の目的は、有機成分のコラーゲンが残存していない火葬骨に対し、無機成分であるヒドロキシアパタイトに着目し、放射性炭素年代測定に加え、ストロンチウム(Sr)同位体比、カルシウム(Ca)同位体比、炭素(C)同位体比の3つの同位体比、並びに3元素比から、これまで遺跡出土状況や骨の形態等から推定するしかなかった年代、生前の食性ならびに移住に関する情報を火葬骨から直接得ることである。2021年度に実施した内容は以下である。
①骨試料への元素取り込みとアパタイト結晶状態の関係の解明:現生の獣骨をいくつかに分け、異なる温度で加熱した骨片を、Srスパイク溶液に浸す実験を行い、1週間後、2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、1年後に骨片を取り出し、C・Sr濃度・同位体比の測定を順次進めた。現在、骨片を取り出した後の溶液に対しても化学処理を行っており、できるだけ早く測定結果を揃え、骨のアパタイトの結晶度と元素の取り込みの速度の関係を定量化し、論文化を目指す。
②骨のSr・Ca同位体分析手法の確立:Ca分離カラムを準備し、同位体分析手法を確定した。微量のSrに対する高精度Sr同位体分析に関する研究も推進した。
③地質のSr/Ca比、Sr・Ca・C同位体比の基礎データの蓄積:考古骨資料を分析した地域の植物、土壌の分析を行った。また、日本各地の農作物の入手を試みた。
④考古骨試料の分析:滋賀県多賀町の敏満寺遺跡石仏谷墓跡、大阪府松原市立部遺跡、京都市本壽寺などの遺跡から出土した火葬人骨の分析を行った。いずれも論文を準備中である。また、水の溶存炭素抽出用の容器を改良し、考古骨試料の前処理に適した反応容器を作製した。
⑤骨のBa分析:骨のBa濃度は周辺土壌から受けた汚染の影響を強く受けるため、骨が受けた変質の指標となり得る。本年度は、大阪府松原市立部遺跡の骨のBa分析を行い、指標の有効性を検討した。
2021年度は、コロナ禍で、国内出張が自由にできない状況が続いたため、研究分担者(名古屋、高知、つくば、彦根と所属が分散)が揃って対面で議論ということができず、また、実験の遂行に支障があったが、適宜、オンラインで打ち合わせを行い、分析試料を送付して各自の実験を進めることにより、研究をおおむね順調に進めることができた。
2021年度に進めた研究内容を踏まえ、2022年度は以下の研究を推進する。
①骨試料への元素取り込みとアパタイト結晶状態の関係の解明:これまでに得られた結果をまとめ、骨のアパタイトの結晶度とSr・Cの取り込みの速度の関係を定量化し、論文化を目指す。また、次はSrだけでなく、Ca・Ba混合スパイクも加えた溶液に浸す実験に取りかかる。1週間後、2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、1年後に骨片を取り出し、濃度・同位体比測定を行い、SrだけでなくCa、Baも含めた骨の元素取り込みを明らかにする。
②骨のCa同位体分析:標準試薬を入手し、昨年度確立したCa同位体比測定法を用い、既存骨試料の分析に取りかかる。これまでにSr同位体比・Sr/Ca比結果が得られている考古骨試料を選び、Ca同位体比測定を行い、Sr同位体比結果との関係を探る。
③地質・動植物のSr/Ca比、マルチ同位体比の基礎データの蓄積:現在、行っている植物、土壌のSr/Ca比、Sr・Ca同位体比測定を完了させるとともに、さまざまな地域のいろいろな栄養段階の動物骨のSr/Ca比、Sr・Ca・Cの同位体比を測定していく。
④考古骨試料の収集・考古学的解釈:滋賀県多賀町の敏満寺遺跡石仏谷墓跡、大阪府松原市立部遺跡、京都市本壽寺から出土した火葬人骨の分析結果を論文として公表する。また、さらに本研究課題の遂行に必要な考古骨試料の収集を行い、分析数を増やす。これまでの研究で、Ba濃度は骨が埋没土壌から受けた汚染によって高くなる傾向が見られ、骨がうけた変質の指標となり得ることがわかっている。本年度は、遺跡から出土した骨試料に対してBa分析も行い、Ba濃度・同位体比が骨の変質の指標として有効かどうかを明らかにする。
また、2021年度は、研究集会等を行い、論文公表に加え、得られた研究結果を広く公表していくことを目指す。 -
古代西アジアをめぐる水と土と都市の相生・相克と都市鉱山の起源
研究課題/研究課題番号:18H05447 2018年6月 - 2023年3月
科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
安間 了, 荒川 洋二, 横尾 頼子, 淺原 良浩, 下岡 順直, 中野 孝教, 鎌田 祥仁, 佐野 貴司, 若狭 幸, 堀川 恵司, 黒澤 正紀, 八木 勇治, 申 基チョル, 池端 慶, 丸岡 照幸, 昆 慶明, 齋藤 有, 南 雅代
担当区分:研究分担者
本計画研究の目的は、西アジアにおける都市文明勃興期から成熟期の都市を取り巻く環境変動や都市鉱山化の進行過程について、地球環境学的・地球化学的な観点から明らかにすることである。
本年度は徳島大学に走査電子顕微鏡を導入して研究環境を整備した。平成30年度に筑波大学に導入したマルチコレクター型ICP質量分析計システムの慣熟を行った。古代冶金に関する先行研究、古代の銅・銀・鉛鉱山と製錬法の概要をまとめた結果、自然銅や自然銀が枯渇するにつれて製錬法が複雑になる過程や、製錬廃棄物の頻出とその変化や地域差が把握された。古代の精錬技術の技術レベルを検討するために、イランの土器新石器時代の遺跡から出土した土器の焼成状態と銅製品の検討を行った結果、紀元前7千年紀には、孔雀石などの銅鉱石を充分製錬できる高温制御技術があることがわかった。
トルコ、イラク、イランで現地調査を行い、遺跡の発掘法面や未盗掘墓床面などで残留金属濃度のその場測定を行った。金属器の発掘された周囲の土壌で当該金属の濃度異常の分布を確認するとともに、Caなどの元素が土壌中で移動する様子を明らかにした。原産地推定のための基礎的データを集めるため、イラン地質調査所と覚書を取り交わして金・銀・銅・鉄鉱床の現地調査と共同研究を開始し、金鉱床中の黄鉄鉱の硫黄同位体組成、鉱床母岩の化学組成や年代などを明らかにした。
古環境復元のために、イラン国各地でトラバーチンおよびトラバーチン湧水を採取し、炭素・酸素同位体分析および14C年代・U/Th年代分析を進めるとともに、現在の環境動態を探るためにイラン国内10都市での毎月降水モニタリング網を整備した。メソポタミア下流域のAl-Aqarib遺跡を飲み込んだ砂丘堆積物の移動速度を求めるためOSL年代測定用の試料を採取した。上流域での地形の侵食速度を見積もるため、地形年代測定用試料の追加採取を行った。
冶金考古学上の新地平を切り拓くために筑波大学に導入したマルチコレクター型ICP質量分析計システムの慣熟を行い、徳島大学に多くの試料の観察・定量分析を迅速に行うことができるSEM-EDSを今年度設置したことで、研究環境はほぼ整備され、必要なデータを粛々と収集する段階に入ることができた。この間、イラン、イラク、トルコ各国で現地調査を行い、より詳細な分析に必要な試料を、各地の発掘現場や鉱床から得るとともに、その場測定・分析をとおして新たな知見や、より効率的なストラテジーを導出する知見を得た。イランでは地質調査所と研究協力に関する覚え書きを締結しながらイラン各地の鉱床やその母岩に関する基礎的な共同研究を開始するなど、連携が順調に進行している。また、当計画班は、領域全体の分析部門として性格を持っており、ほかの計画研究から依頼を受けて、文化財や考古試料の各種分析や物質科学的記載などで貢献することができた。
いっぽう、今年度の予算で計画していたメソポタミア下流域での30mボーリング調査は、現地研究協力者の積極的な関与があって準備が整ったものの、試料を輸出する方途について問題が生じ、継続課題となった。
今年度までの活動で研究環境は整備されたため、今後は系統的かつ集中的にデータを収集する段階に入る。今年度までの研究により、都市文明の発祥の地であるメソポタミア下流域で完新世の最下部まで到達するボーリングによる連続柱状試料の入手と、その中の金属元素濃集度の連続的な変化や堆積速度変化の精査が、本計画研究の大きな目標として再認識された。メソポタミア下流域での30mボーリング調査を完遂すべく、全力を尽くす所存である。
また、今後も現地における面的な調査とその場測定、採取試料の国内での詳細な分析をとおして、各地での地形や堆積速度、土壌中の各種元素濃集度などの面的な分布と深さ方向の変化を定量的に評価し、研究を推進していく所存である。また、西アジア各地の鉱床金属の組成や同位体のデータなどを系統的に収集・測定し、原産地推定のためのデータベースを構築する。
2020年3月現在、COVID-19の影響により西アジア諸国への海外調査隊の派遣は困難になりつつある。その場合でも、イラン国地質調査所との覚え書き締結をはじめ現地研究協力者との連携によって試料を継続的に入手する体制を本年度中に整えることができたこと、本年度までに今後2年程度かけて分析するに不足がない程度の多くの試料は入手できていることから、本計画研究は充分に遂行可能である。 -
天然炭酸塩コンクリーション化応用による透水性空隙の長期自己閉塞技術の確立
研究課題/研究課題番号:18H03893 2018年4月 - 2022年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
吉田 英一, 丸山 一平, 勝田 長貴, 南 雅代
担当区分:研究分担者
本研究では,これまでの基礎研究の成果を基に,天然炭酸塩球状コンクリーションの形成プロセスを応用し,地下備蓄・地下廃棄物処分・長距離大深度トンネル(例えばリニア新幹線 Superconducting Maglevや国際リニアコライダー)など,岩種を問わず大規模地下空間掘削・利用に伴う空洞内への流入地下水抑制のための,長期メンテナンスフリーを目指した岩盤内透水性空隙の長期自己閉塞(シーリング)技術の確立を目的として調査および実験研究を展開している.当該年度では,この目的のもと,すでに実施してきた野外での球状コンクリーションの調査研究に基づいて,コンクリーション化の実験研究を開始した.方法として次の2種類A,Bの充填・閉塞実験を行った.実験A:内部(内側)から浸出した腐食酸起源の重炭酸イオン(HCO3-)とカルシウムイオン(Ca2+)と反応実験.実験B:実験Aとは対称に,内部にカルシウムイオンが存在し周辺の重炭酸イオンとの反応・沈殿による空隙シーリング実験である.実験Aは,天然コンクリーションの再現実験であり,実験Bはコンクリートで覆われた地下空洞やトンネルの岩盤側に掘削等で生じた空隙のシーリングを目論む実験である(この現象は,地下研究所での共同調査で今回初めて明らかにした).両方の実験とも基本重炭酸イオンとカルシウムイオンの拡散移動に伴う反応・沈殿(閉塞)の実証を確認するものであり,これらの反応に伴う炭酸カルシウムの沈殿幅と速度を時系列で分析,確認し,それらから形成モデルの検証を行う予定である.
本研究の最終目的は,コンクリーション化による地下岩盤中の透水性割れ目や空隙のシーリング技術の確立である.その最終目的への道筋がほぼ見えてきたこともあり,概ね順調に進展していると判断できる.
今後の予定として,シーリングプロセスの地球化学的分析及び形成メカニズム解析を主体に実施する.特にコンクリーションの産状を明らかにした後,産状の特徴ごとに,炭酸カルシウムの空隙シーリング状態を詳細に解析するために,カルシウムや鉄・マンガンなどの遷移元素の元素濃集状態,炭素・酸素同位体の地球化学的分析を行う.遷移元素は,腐食酸との反応に伴うpH変化のインデックス元素として活用可能であり,炭素・酸素同位体は,生物有機体の腐食酸が起源であるかどうかの確認となる.これらの元素分布を正確に把握することで,最終的に実施するシーリング実証実験の条件設定を明確にする. -
大陸縫合帯イランの鉱床成因解析-新しい同位体地化学探査技術の実用化-
研究課題/研究課題番号:17H01671 2017年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(A)
淺原 良浩, 壷井 基裕, 南 雅代, 山本 鋼志, 堀江 憲路
担当区分:研究分担者
本調査研究では、Rb-Sr系、Sm-Nd系などの天然の放射壊変系同位体の分析を鉱石、鉱床母岩に適用し、得られた同位体初生値と年代値に基づいて鉱床成因解析を行った。具体的には、大陸縫合帯であるイラン国内における火成活動と鉱床生成の関連性を明らかにするため、ザグロス山脈北西部およびアルボルズ山脈西部を対象に現地調査を5回行い、現地調査の結果と、採取した鉱石、鉱床母岩、貫入火成岩などの同位体分析の結果から、鉱床母岩と鉱石のそれぞれの生成年代と起源物質の直接対比を行い、この地域の鉱床成因に関わるマグマ源・テクトニクスについて新たな知見を得た。
大陸縫合帯イランの国内に数多く分布する金属・非金属資源鉱床は、プレート衝突に伴う火成活動がその鉱床生成の重要な要因の1つである。本調査研究では、特にザグロス山脈北西部のサナンダジ-シルジャン帯の比較的古い基盤岩が分布する地域において、新生代を含む、比較的新しい時代の火成活動が広範な地域で見られることを確認し、そのマグマ源とテクトニクスについて従来のモデルの大幅に改変する、数多くの結果を得た。これは、この地域の鉱床の形成時期、生成環境にも密接に関連する結果である。このような火成活動と鉱床生成の時系列および成因の関係性の解明は、鉱床探査の候補地域の拡大や絞り込みの精度向上に資すると考えられる。 -
漆塗膜の多成分・多元素同位体分析による漆工芸品の製作地推定に向けた試み
研究課題/研究課題番号:21K18386 2021年7月 - 2024年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
若木 重行, 谷口 陽子, 岡田 文男, 大谷 育恵, 南 雅代
担当区分:研究分担者
本研究では、考古遺物としての漆工芸品の漆塗膜の理化学的分析より漆工芸品の製作地を推定するための方法論を提示することを目的とする。その実現のため、漆・下地・顔料などの漆塗膜の各成分の分離、ならびに分離した微少量の試料に対する多元素同位体分析を実現するための分析化学的手法開発を行う。漢代漆器・オホーツク文化期の直刀に対して、開発した手法による分析と蒔絵の種類・製作技術の解析などの情報を統合し、総合的に製作地の推定を試みる。
本課題は、遺跡より出土した歴史時代の漆工芸品の製作地を推定することを最終目的として、漆塗膜の原材料の金属元素同位体分析を正確に行うための手法を開発し、その同位体比から原材料の原産地に関連する情報を正確に抽出することを試みるものである。本年度は、主として漆塗膜の化学分解法の条件検討ならびに漆の原産地推定に利用する対照資料の基礎データ収集を行った。
R4年度に行った漆塗膜資料の予備分析では、塗膜の漆成分を化学的に分解する際に、漆工芸品の下地として用いられている珪酸塩鉱物粒子が同時に部分的に分解されてしまうことが明らかになった。そこで、本年度は漆塗膜の化学分解条件について、アナログ試料を用いた実験的方法によって検討を行った。さまざまな組成を持つ珪酸塩鉱物粒子の混合物を、漆工芸品の下地として用いられる珪酸塩鉱物粒子のアナログとして準備し、分解に用いる酸の強度・反応温度等を試験し、珪酸塩鉱物粒子からの元素抽出(特に同位体分析を想定しているSr・Nd・Pbの3元素の抽出)がもっとも少なくなる条件を探索した。
次に、漆原産地推定のための対照資料として、現代において生産・採取される漆樹液資料の収集をR4年度に引き続いておこなった。本年度は、各地の漆生産者ならびに漆保存活動関係者に協力いただき、国内15地域より28試料の漆樹液資料を収集した。また、国内外5地域7試料については市販品の購入によって収集を拡大した。また、和歌山県岩出市(根来)ならびに新潟県村上市では漆生産地周辺の現地調査を行い、植物試料に加えて土壌・河川水等の環境試料の採取を行った。
R4年度は、昨年度に引き続き総合的な漆塗膜の同位体分析手法の開発を行い、検討すべき条件はわずかにのこるものの、おおむね実際の出土資料の分析に移行する条件は整ったといえる。当初計画に追加して実施している走査型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線検出器による出土資料の漆塗膜切片の観察・分析については、R4年度も継続して実施しデータの蓄積を行った。現代漆資料の収集・分析については、収集開始が当初予定より2ヶ月ほど遅れたため、R4年度は資料の収集並びに整理にとどめ、R4年度に実施予定であった同位体分析はR5年度に実施することに変更した。
以上から、本研究は当初計画よりもやや遅れて進行していると判断する。
R5年度も、基本的には計画に従って研究を遂行する。特に、現代漆資料ならびに出土資料の同位体分析に注力する予定である。また、R4年度まではコロナ禍の影響によって出張を要する打ち合わせや実験が計画通り実施できないという問題があり、研究代表者・分担者間で十分に議論を尽くせなかったが、R5年度は対面の打ち合わせ等が十分に可能なことが期待されるため、主要データ取得後の総合的議論を十分に実施する予定である。 -
古代鉄の放射性炭素年代測定:金属鉄から錆びた鉄への適用拡張と測定の高精度化
研究課題/研究課題番号:17H02017 2017年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
中村 俊夫, 齋藤 努, 山田 哲也, 南 雅代
担当区分:研究分担者
これまで申請者らは,操作に手間がかかるが完全に鉄試料を溶融する温度まで加熱して含有炭素を抽出できる高周波加熱炉(RF加熱炉)から構成される調製装置を所持して使用してきた.本研究では,さらに別途に,簡便な炭素抽出法の開発を目指している.これまでの方法と,結果を比較しつつ,新しい簡便法を実用上問題ない段階まで完成させる.
具体的には石英管内に封入する鉄試料の重量と助燃剤の重量の相対比,また,鉄試料の加熱温度や加熱時間の設定,さらに,一連の試料調製において発生する可能性のある外来炭素による汚染の有無や,汚染がある場合にその除去方法の検討である.4年間の研究計画のうち,3カ年をかけて,これらの検討を実施し,特に,石英管内に封入する鉄試料の重量と助燃剤の重量の比や鉄試料の形状などを検討し,安定な収率が得られる条件を確認した.この方法を用いて,1g程度の金属鉄試料および錆びた鉄試料から,それらの資料に含まれる炭素をほぼ85%以上の収率で,さらに通常の14C年代測定に用いる試料と同程度の14Cブランクで,回収することができる.
また,日本刀の14C年代測定についての要望が多々寄せられており,日本刀の美術品としての価値を失わないようにして,1g程度の鉄試料を,日本刀の一部として分取する方法を,民間の日本刀研ぎ師との共同で開発研究を行ってきた.開発した鉄試料の分取法により,国内の日本刀およびオランダの博物館に保管されている日本刀から鉄試料を採取して14C年代測定を行い,日本刀の形式・文様などから推定される時代区分とほぼ調和的であることを確認している.
本研究で,第一に目指している,鉄試料の簡便な炭素抽出法の開発を推進した.昨年度も引き続き,鉄試料中に含まれている炭素を完全に燃焼して二酸化炭素として回収するために,石英管内に封入する鉄試料の重量と助燃剤の重量の相対比,また,鉄試料の加熱温度や加熱時間の設定,鉄試料の形状・状態,さらに回収された二酸化炭素についての現代炭素による汚染の有無などについて,吟味した.この結果,現有の器具を用いた操作方法で発生する14Cブランクは,他の14C年代測定試料の示す14Cブランクと同程度であることが確認できた.また,塊状の鉄試料の炭素回収率,鉄試料の重量と助燃剤の重量の相対比について,最適な設定を行った.さらに,さまざまな鉄製文化財・考古遺物についての14C年代測定の要望が多々寄せられており,それぞれの試料の美術品としての価値を失わないようにして,1g程度の鉄試料を,それぞれから分取する方法を開発した.この方法により,国内の日本刀資料およびオランダの博物館に保管されている日本刀から鉄試料を採取して14C年代測定を行い,日本刀の形式・文様などから推定される時代区分とほぼ調和的であることを確認した.一方,昨年度は,錆びた鉄資料の試料調製の方法について研究を進める予定であった.分析に供される資料が錆びていることから,切断・分割などが難しいなどの問題点も多く,研究は予定通りには進展していない.
本年度は最終年度であることから,本研究の目的である,鉄試料の14C年代測定のための試料調製法において,これまで有効に適用されてきた高周波加熱炉による鉄含有炭素の抽出法に換えて,より簡便で,さらに錆びた鉄にも適用できる石英管封管燃焼による炭素抽出法について,これまでの研究成果を踏まえ,それらの方法の完成を目指す.
これまでの研究により,石英管封管燃焼による炭素抽出の条件については,ほぼ確立した.すなわち,(1)助燃剤の酸化銅CuOを,金属鉄試料の4倍重量用いる.(2)鉄試料と酸化銅を入れて封じ切った石英管は1000℃で15時間加熱する.このような条件設定で,近代溶鉱炉で作られた14Cを含まない金属鉄試料の14C測定を行い,その鉄が示す14Cバックグラウンドレベルの値は,通常用いている14Cブランク試料(シュウ酸試薬)の示す値とほぼ同程度である事を確認した.そもそも鉄中に残留する炭素の起源は,たたら製鉄などの際に,製鉄の原材料である砂鉄などの酸化鉄を還元するために用いる木炭の一部である.そこで,木炭の作製に用いられる樹木の年輪数分の年代幅の変動幅(不確実性)を持つことになる.たたら製鉄の具体的な内容から,この変動幅は20~30年程度と推定される.この年代の変動幅は, 14C年代測定の誤差とほぼ等しいことから,作製年代が明確な鉄試料の測定を行うことで,鉄試料のAMS法による14C年代測定の正確度の検定をすることができる.そこで,最終年度は,日本刀などの作製年代が既知の金属鉄試料の14C年代測定を中心に,分析を進める.また,錆びた鉄試料では,既に手に入れている資料を中心に,試料調製方法の検討を含めて,錆びた鉄資料の精度の高い14C年代測定法を確立する.また,分担者の南は,鉄資料から炭素を抽出る新たな方法として,真空容器内でHNO3と反応させてCO2を回収する方法を検討している. -
炭酸塩天然コンクリーション形成に学ぶ透水性空隙・亀裂シーリングへの応用研究
研究課題/研究課題番号:15H04224 2015年4月 - 2019年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
吉田 英一, 南 雅代, 城野 信一, 丸山 一平
担当区分:研究分担者
本研究によって、球状コンクリーション形成についての以下のメカニズムおよび条件が明らかとなった。
1) 球状炭酸塩コンクリーションは、海性堆積物中にのみ確認される。2) 球状になるのは、拡散現象によって形成されることによる。3) 炭酸塩が濃集する理由は、生物の炭素と海水中のカルシウムイオンとの反応による。4) コンクリーション中の化石が保存良好な理由は、化石(生物)が急速に炭酸カルシウムの沈殿によりシーリングされることによる。5) 拡散と沈殿反応によるコンクリーションの形成速度は、数センチ程度のコンクリーションで、数ヶ月程度と非常に速いことが明らかとなった。
本研究の成果は、球状コンクリーションの形成メカニズムを明らかにしただけでなく、そのプロセスを土木工学などの分野に応用可能であることを示したことである。とくに炭酸カルシウムによる閉塞効果などはあまりこれまで考えてこられなかったものであり、今後の応用性が期待される。 -
研究課題/研究課題番号:15H02947 2015年4月 - 2018年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
南 雅代, 鍵 裕之, 三村 耕一, 冨山 慎二, 中村 俊夫
担当区分:研究代表者
配分額:18980000円 ( 直接経費:14600000円 、 間接経費:4380000円 )
炭化物の炭素14年代測定のための化学処理法として用いられるABA法(酸/アルカリ/酸処理法)とABOx-SC法(酸/アルカリ/酸化処理-段階加熱法)の外来炭素の除去効果を、化学処理後に残存する成分の炭素14年代だけでなく、化学組成・化学構造変化を調べることにより比較した。
その結果、ABOx処理のほうがABA処理に比べ、残存している外来炭素をより効率的に除き、化学的に安定で高分子量の多環芳香族化合物(炭化物試料の本質成分)を抽出する効果が高いことがわかった。一方、3万年より若い試料の場合は両者の化学処理法の違いによってあまり差が見られず、化学処理後の段階加熱が重要であることがわかった。 -
骨の炭酸ヒドロキシアパタイトを用いた炭素14年代測定の試み
2014年4月 - 現在
日本学術振興会 科学研究費助成事業 萌芽研究
加藤丈典
資金種別:競争的資金
骨の年代測定においては,化学的風化作用に比較的強い有機成分の骨コラーゲンを用いた14C年代測定の信頼性が高いとされているが,有機成分が損失してしまっているために,年代測定が不可能な骨試料は少なくない。本研究は,このような骨試料に対し,無機成分の炭酸ヒドロキシアパタイトを用いて信頼性のある14C年代測定を実現することを目的とする。
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水試料の放射性炭素濃度相互比較と前処理手法の検討:RICE-Wプロジェクト
2014年4月 - 現在
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
高橋 浩, 荒巻能史
資金種別:競争的資金
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一年輪単位の較正データを用いた暦年較正とウイグルマッチングの検討
研究課題/研究課題番号:26284120 2014年4月 - 2017年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
中村 俊夫, 箱崎 真隆, 増田 公明, 南 雅代, 奥野 充
担当区分:研究分担者
年輪年代が既知の日本産樹木試料について14C年代測定を行い,IntCalと比較してきた.日本産試料をIntCalで暦年較正すると平均的に20~30年古い較正年代が求まる.この較正暦年代のずれの問題を検討するために,(i)日本各地の樹木年輪,(ii)韓国産樹木年輪,について,ずれの有無を検討した.いずれも,有意なずれを持つことが確認された.また,14C年代測定の信頼性を調べるために,諸外国のラボとの比較を行ったところ,名古屋大学と他機関の年代測定結果はよく一致した.日本産試料について正確な較正年代を得るためには,日本産樹木について,精度,正確度の高い14C年代値を蓄積することが大切である.
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研究課題/研究課題番号:26560144 2014年4月 - 2017年3月
科学研究費助成事業 挑戦的萌芽研究
南 雅代, 椋本 ひかり, 加藤 丈典
担当区分:研究代表者
配分額:3770000円 ( 直接経費:2900000円 、 間接経費:870000円 )
有機成分のコラーゲンが残存していないために炭素14年代測定が不可能とされてきた火葬骨試料に対し、無機成分の炭酸ヒドロキシアパタイト(CHa)を用いて高確度な炭素14年代測定が可能かどうかを調べた。その結果、1)骨は高温(750℃以上)で加熱されるとアパタイトの結晶性が高くなり、続成作用や汚染の影響を受けにくくなること、2)真空下で0.1 mol/L酢酸と1時間反応させることにより、二次炭酸塩や汚染炭素を効率的に除去し,骨CHa中の炭素のみを抽出することが可能であること、3)アパタイトの結晶性が高い火葬骨においては、CHaを用いた信頼性ある炭素14年代測定が可能であること、が明らかになった。
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水試料の放射性炭素濃度の相互比較と前処理手法の検討:RICE-Wプロジェクト
研究課題/研究課題番号:26340017 2014年4月 - 2017年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
高橋 浩, 中村 俊夫, 荒巻 能史, 南 雅代
担当区分:研究分担者
水試料の放射性炭素濃度測定の分析機関相互の比較検証(RICE-W)を実施した結果を報告する.事前の検証のうち,相互比較の品質保証に重要な保管容器についての結果と微生物活動の影響による14C濃度変化についての報告とプロジェクトにおける対応を示した.実施した相互比較では,一部,現代炭素の混入が示される結果があったが,おおよそ良い一致を示している.また,相互比較を実施する上での品質は担保されていると考えている.
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研究課題/研究課題番号:25241007 2013年4月 - 2017年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(A)
北川 浩之, 中村 俊夫, 南 雅代, , , , , , , ,
担当区分:研究分担者
木材や材化石、化石サンゴや洞窟堆積物(鍾乳石)、年縞堆積物などの年代既知の試料の炭素14測定から過去5万年からの炭素14年代キャリブレーションデータセット(IntCal13)が得られてきた。本研究では、国際陸上学術掘削計画(ICDP)死海深層掘削計画(DSDDP)で死海最深部(ICDP 5017-1地点)から得られた堆積物コアに含まれる陸上起源の植物遺体化石の高精度の炭素14年代測定を行い、同堆積物試料のアラゴナイトのウラン系列年代を比較することでIntCal13の検証研究を行った。列年代を比較することでIntCal13の検証研究を行った。