科研費 - 服部 美奈
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カンボジアのムスリム集落の教育からみた多宗教間の共存関係の創出と調和
研究課題/研究課題番号:24K05673 2024年4月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
千田 沙也加, 服部 美奈, 内田 直義
担当区分:研究分担者
本研究では、ポル・ポト時代を除き、マジョリティと平和的に共存してきたといわれているカンボジアにおけるムスリムの教育に焦点をあてる。カンボジアのイスラームコミュニティにおける国民教育(国定カリキュラム)とイスラーム教育(クルアーンに基づく教育)のそれぞ
れの教育実践の工夫や関係を明らかにし、ムスリムの教育を総体的に捉える。そして、教育
からみたマジョリティとマイノリティとの共存関係の創出と調和について実証的に考察し、
宗教間理解のための教育観と新たな視座の析出を目指す。 -
研究課題/研究課題番号:23K17614 2023年6月 - 2026年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
服部 美奈, 松本 麻人, 中田 有紀, 李 正連
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:6110000円 ( 直接経費:4700000円 、 間接経費:1410000円 )
本研究は、インドネシア、韓国、日本の3つの島嶼国家を対象とし、遠隔教育環境が劇的に変化したポスト・コロナ時代における、ローカルな知を基盤とする島嶼地域教育の可能性を国際比較の観点から考察することを目的とする。最終的な到達点は島嶼地域を結ぶ新しい教育ネットワーク構築である。研究課題は、 [1] 島嶼地域の教育とローカルな知に関する史料考察、 [2] 島嶼地域の教育とローカルな知に関する現地調査:歴史、 [3] 島嶼地域の教育とローカルな知に関する現地調査:現在、 [4] 島嶼地域をメリットとするローカルな知の発信:未来から構成する。
本研究の目的は、約14,000島(有人島1,766)を有するインドネシア、約3,350島(有人島470)を有する韓国、約6,800島(有人島430)を有する日本の3つの島嶼国家を対象とし、ポスト・コロナ時代における、ローカルな知を基盤とする島嶼地域教育の可能性を国際比較の観点から考察することを目的とする。最終的な到達点は島嶼地域を結ぶ新しい教育ネットワーク構築である。また本研究は、本来中心に置かれるべき島嶼地域からのローカルな視点に着目し、島嶼地域の活性化を教育学の観点から問い直すものである。開発上困難な島嶼地域という従来の通説を覆し、島嶼地域であることが逆にポスト・コロナ時代ではメリットとなるという前提に立つ。
設定した研究課題は、1.島嶼地域の教育とローカルな知の史料考察(文化伝承と生業がいかに営まれ、教育のなかで伝えられてきたかを歴史的に考察)、2.島嶼地域の教育とローカルな知に関する現地調査:歴史(島嶼地域の教育を経験してきた高齢世代のライフストーリーの聴き取り、文化伝承と生業がいかに維持され、教育はいかに変容したかを考察)、3.島嶼地域の教育とローカルな知に関する現地調査:現在(地域内の小学校と中学校、島嶼地域・近隣の職業高校の調査、特に水産高校等の職業高校調査)、4.島嶼地域をメリットとするローカルな知の発信:未来(遠隔教育の活用により、学校がローカルな知を発信する拠点となるポスト・コロナ時代の仕組みの探究、教育プラットフォームの構築と運用)である。
初年度となる2023年度は、島嶼地域の教育とローカルな知の史料考察と同時に、韓国とインドネシアで現地調査を実施した。韓国では予備調査として調査候補地となる島嶼地域を訪問し、資料収集を行った。インドネシアでは主にリアウ諸島州ナトゥナ諸島において、資料収集とともに小中学校、職業学校を訪問し、基礎的情報を得た。
初年度となる2023年度は、島嶼地域の教育とローカルな知の史料考察と同時に、韓国とインドネシアで現地調査を実施した。韓国では予備調査として調査候補地となる島嶼地域を訪問し、資料収集を行った。インドネシアでは主にリアウ諸島州ナトゥナ諸島において、資料収集とともに小中学校、職業高校を訪問し、基礎的情報を得た。日本については主に島嶼地域の教育に関する文献調査を実施した。進捗状況は概ね順調である。
2年目となる2024年は文献調査とともに可能な限り現地調査を実施する。しかし、万が一、現地調査が困難な場合は文献資料を中心に研究を継続する。
2024年度は2023年度で行った文献研究を継続すると同時に、現地調査を実施する。具体的には、韓国の島嶼地域での現地調査の実施、インドネシアの島嶼地域での現地調査の実施(2023年度に調査を実施したリアウ諸島州ナトゥナ諸島の他、中部ジャワ州ジュパラ郡カリムン・ジャワ諸島の追加調査の実施)、日本の島嶼地域での現地調査(主に三重県伊勢志摩地域、長崎県五島列島地域)を実施する。
以上の分析を通して、1)ローカルな知と文化資源を生かした島嶼地域からの教育の発信(島嶼地域を周縁に位置づけるのではなく、地球面積の1割弱を占める島嶼地域の重要性と存在感を示す)、2)日本、インドネシア、韓国と同様、海洋に接する国々が海洋国家構想を打ち出すなかで、島嶼地域のローカルな知の重要性と可能性を学術的に解明することを目指す。 -
研究課題/研究課題番号:23H00931 2023年4月 - 2028年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
小川 佳万, 服部 美奈, 大和 洋子, 石田 憲一, 松本 麻人, 小野寺 香
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
本研究は、アジア各国が近年特に重視してきている総合学習に焦点を当て、そこで展開される活動内容や学力観に関して次の3つの角度、すなわち、1.教育行政機関レベルの政策動向分析、2.学校レベルの活動実態調査(授業目標や評価方法等)、3.教員レベルの実践調査(指導方法等)、から明らかにし、それらの多様性や共通性を検討する。それは各国の教育戦略においてどのような「市民」や「未来型人材」を育成しようとしているのかを実証的に明らかにすることでもある。
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研究課題/研究課題番号:23K25628 2023年4月 - 2028年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
小川 佳万, 服部 美奈, 大和 洋子, 石田 憲一, 松本 麻人, 小野寺 香
担当区分:研究分担者
本研究は、アジア各国が近年特に重視してきている総合学習に焦点を当て、そこで展開される活動内容や学力観に関して次の3つの角度、すなわち、1.教育行政機関レベルの政策動向分析、2.学校レベルの活動実態調査(授業目標や評価方法等)、3.教員レベルの実践調査(指導方法等)、から明らかにし、それらの多様性や共通性を検討する。それは各国の教育戦略においてどのような「市民」や「未来型人材」を育成しようとしているのかを実証的に明らかにすることでもある。
グローバル化と第4次産業革命が進展する社会において、アジア各国は主に初等・中等教育段階で「新しい学力」に基づいた「市民」や「未来型人材」の育成が重要な教育課題となってきている。その鍵として各国が共通して強調しているのが総合学習である。本研究は、この総合学習に焦点を当て、そこで展開される活動内容や学力観に関して次の3つの角度から明らかにすることを目的とする。すなわち、1.教育行政機関レベルの政策動向分析、2.学校レベルの活動実態調査、3.教員レベルの実践調査、の3つの角度から明らかにし、それらの多様性や共通性を検討する。
本年度は、初年度ということで、各自が関連する文献を検討するとともに、担当国の教育行政機関を訪問し、総合学習に関する政策動向を調査した。アジアでは教育政策文書はインターネットを通して得られるものは多くないため、地方教育局や教育委員会など現地訪問によって収集していくことを目指した。メンバーの都合、もしくは相手側の都合によって訪問が叶わなかったケースもあったが、その際はやむを得ずネットから収集した。可能な場合は、教育行政官から総合学習の目的や導入の経緯等について聞き取り調査も行った。分析方法としては、政府の政策文書の関連箇所や「学習指導要領」(国により名称は異なる)、聞き取り調査内容を質的、量的に分析し、その強調点や使用される語の頻度や関係から「学力」「市民」「人材」等の概念を検討した。来年度は特に今年度の調査内容をもとに学会発表や論文刊行を目指すことにする。
研究メンバー各自が、担当国の教育政策文書の検討と分析をほぼ終えたため。
今後も引き続き研究メンバー各自が担当国の分析を進めていく。来年度は、教育行政機関に加えて、中等教育学校訪問調査を開始するため、訪問の調整を早めに済ませて、なるべく早い時期に訪問できるように努める。また調査結果を持ち寄り、情報を共有するための研究会を複数回開催したいと考えている。さらに、各国の調査結果について、積極的に学会発表や論文刊行を目指すことにする。 -
多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知の創造と宗教教育の実践に関する国際比較研究
研究課題/研究課題番号:23K25623 2023年4月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
服部 美奈, 松本 麻人, 宮崎 元裕, 中田 有紀, 濱谷 佳奈, 高橋 春菜
担当区分:研究代表者
配分額:17940000円 ( 直接経費:13800000円 、 間接経費:4140000円 )
本研究は、多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知の創造と宗教教育の多様な実践を明らかにすることを目的とする。研究対象国は、インドネシア、トルコ、ドイツ、イタリア、韓国とする。主な研究課題は、第一に各国・各宗教の宗教指導者組織と宗教指導者養成機関では多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知がいかなる議論を経て創造されているか、第二に各国では学校や宗教施設において、宗教教育が次世代に対してどのように行われているかである。各国の特徴を明らかにするとともに、地域横断的、宗教横断的に考察することにより、立体的に宗教知の創造と宗教教育の実践の現代的特徴と課題を明らかにすることを最終的な到達点とする。
本研究の目的は、マレー世界のイスラーム教育研究に多宗教の観点と国際比較の観点とを加え、多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知の創造と宗教教育の実践を明らかにすることを目的とする。研究対象国は、インドネシア、トルコ、ドイツ、イタリア、韓国とする。各国の特徴を明らかにするとともに、これらを地域横断的、宗教横断的に考察することにより、立体的に宗教知の創造と宗教教育の実践の現代的特徴と課題を明らかにすることを最終的な到達点とする。
研究課題は、1.宗教指導者による多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知の創造(宗教指導者が、どのような①機関を通じ、②プロセスで、③宗教知を創造しているかを分析)、2.養成機関における多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知の創造(各宗教がどのような養成機関を有しているか、同機関で行われる教育の特徴を分析)、3.公教育および宗教施設で行われる宗教教育の多元的価値と宗教間融和への対応(各国の宗教教育が、どのような構造と形態で、多元的価値と宗教間融和にいかに対応しているかに関する現地調査)、4.総合的考察(宗教知の創造と宗教教育の実践の特徴を地域横断的・宗教横断的に考察し、その構造を立体的に考察)である。
初年度となる2023年度は、公教育で行われる宗教教育の多元的価値と宗教間融和への対応に関する資料収集と同時に、現地調査をイタリア、ドイツ、韓国で実施した。イタリアでは、政教関係の変遷、公立校における宗教科「カトリック教育」の概要と位置づけ、ローマカトリック教会立神学校における教員養成課程、カトリック教会による司牧活動の観察等を実施した。ドイツでは、カトリックにおける宗教間対話に関する調査、学校での宗教科および宗教施設での学習観察を実施した。韓国においても神学校に関する現地調査を実施した。トルコとインドネシアに関しては宗教教育関連の文献収集を実施した。
初年度となる2023年度は、公教育および宗教施設で行われる宗教教育における多元的価値と宗教間融和への対応に関して資料収集および文献研究を行うと同時に、イタリア、ドイツ、韓国で現地調査を実施した。イタリアでは予備調査として、政教関係の変遷、公立校における宗教科「カトリック教育」の概要と位置づけと教科書分析、ローマカトリック教会立神学校における教員養成課程、カトリック教会による司牧活動の観察等を実施した。ドイツでは、カトリックにおける宗教間対話に関する調査、学校での宗教科および宗教施設での学習観察を実施した。韓国においても神学校に関する現地調査を実施した。トルコとインドネシアに関しては宗教教育関連の文献収集を実施した。進捗状況は概ね順調である。
2024年は可能な限り現地調査を実施する。しかし、万が一、現地調査が困難な場合は文献資料を中心に研究を継続する。
2024年度は、2023年度で行った研究の継続と同時に、宗教指導者による多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知の創造、および宗教指導者養成機関における多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知の創造に関しても研究を進め、その特徴を地域横断的・宗教横断的に考察し、その構造を立体的に明らかにすることを試みる。
以上の分析を通して、宗教が公共宗教として積極的な役割をもつことが期待される市民社会において、多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知の創造と宗教教育の実践はいかなる形態のもとで実現できるかを明らかにすることを最終的な到達点とする。 -
多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知の創造と宗教教育の実践に関する国際比較研究
研究課題/研究課題番号:23H00926 2023年4月 - 2027年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
服部 美奈, 松本 麻人, 宮崎 元裕, 中田 有紀, 濱谷 佳奈, 高橋 春菜
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:17940000円 ( 直接経費:13800000円 、 間接経費:4140000円 )
本研究は、多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知の創造と宗教教育の多様な実践を明らかにすることを目的とする。研究対象国は、インドネシア、トルコ、ドイツ、イタリア、韓国とする。主な研究課題は、第一に各国・各宗教の宗教指導者組織と宗教指導者養成機関では多元的価値と宗教間融和に対応する宗教知がいかなる議論を経て創造されているか、第二に各国では学校や宗教施設において、宗教教育が次世代に対してどのように行われているかである。各国の特徴を明らかにするとともに、地域横断的、宗教横断的に考察することにより、立体的に宗教知の創造と宗教教育の実践の現代的特徴と課題を明らかにすることを最終的な到達点とする。
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高等教育における「リバース・ジェンダー・ギャップ」現象―東南アジアの国際比較
研究課題/研究課題番号:23K22246 2022年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
鴨川 明子, 服部 美奈, 久志本裕子, 市川 誠, 森下 稔, 羽谷 沙織
担当区分:研究分担者
継続課題のため、記入しない。
本研究は、高等教育段階において男性より女性の数が上回る「リバース・ジェンダー・ ギャップ」現象に着目し、その現象が見られる東南アジアの国々を主たる対象とする国際比較研究である。研究の目的は、リバース・ジェンダー・ギャップの現状及びその現象を生じさせる背景や要因を体系的に解明することにある。そのため、第1に、教育統計や教育・ジェンダー政策を精査し、国別の独自性と宗教・政治・経済などの要因ごとに見られる多国間の共通性をマクロレベルで、第2に、ミクロレベルで女性や男性が教育を選択することの複層的な意味を明らかにする。第3に、東南アジアのリバース・ジェンダー・ギャップ現象を総合的・多面的に解釈するものである。
令和4年8月、各種機関による文書・資料の収集の結果、研究課題であるリバースジェンダーギャップに関して、研究内容に更なる加速する可能性を秘めた新たな知見を見出した。そのため、研究遂行上、リバースジェンダーギャップ現象の現状と背景要因を解明するためには予備調査に先立ち、この知見について専門家の意見を集約することが不可欠であると考えた。シンポジウム開催準備の後、令和4年11月にWCCESシンポジウムを開催することとし、得られた意見を基に追加検証を行ったうえで、海外協力者の協力による予備調査以降の計画を延期する必要が生じた。
その結果、当初予定していた予備調査や現地語の最新文献資料や政策文書の収集を延長して行うことになった。本年度は、繰越した予算により、マレーシアのマラヤ大学を訪問し、現地のジェンダー研究者や教育研究者及び教育省の政策担当者とともに、リバース・ジェンダー・ギャップ現象の現状や課題に関する研究討議を行うとともに、今後の研究プロジェクトの可能性も探ることができた。
研究代表者はマレーシアのマラヤ大学を訪問し、現地のジェンダー研究者や教育研究者及び教育省の政策担当者とともに、リバース・ジェンダー・ギャップ現象に関する研究討議を行うとともに、今後の研究プロジェクトの可能性も探ることができたため。また、研究分担者も、着々と研究の成果を発表しているため。
研究代表者はマレーシアの研究者と討議を行い、研究の成果を公表する素地を築くことができた。今後は、それらを活用して、研究分担者や研究協力者と協議した上で、研究成果を公表するとともに、さらなる現地調査を実施する。 -
東南アジア・ムスリム社会における「学校化」の教育社会史:植民地期の教育言説と女性
研究課題/研究課題番号:22K02335 2022年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
久志本裕子, 服部 美奈, 鴨川 明子, 山口 元樹, 坪井 祐司
担当区分:研究分担者
この研究では、現在のマレーシア・インドネシアにあたる地域で20世紀初頭にムスリムによって発行された雑誌と新聞、あるいはイスラーム系ではない雑誌、新聞におけるムスリムによって書かれた記事を主な資料として教育に関する言説、特に女性の社会的地位と教育の必要性について論じた言説がどのような形で欧米と中東の言説の影響を受けながら成立し、変化したのかを分析する。東南アジアの教育社会史として研究成果を論文等の形で発表するのに加え、東南アジアのムスリムが「外来」の制度や思想を紆余曲折しながら受け止めた様子から得られた示唆を、「学校化」する現代社会をめぐるより一般的な知見としてシンポジウム等で発表する。
今年度の研究では植民地期の教育の展開についてより広い視点から考えるための資料を集めること、また女子教育の展開を考えるうえで、現在のマレーシア・インドネシアにおけるジェンダー観の特徴とその変化、現代までを含む学校や大学におけるジェンダー間関係の在り方など女子教育を取り巻く様々な条件を明らかにし、整理することを目的とした。
まず、歴史資料についてはマレーシア・オランダに出張し(渡航費には他の研究費を含む)、植民地期から独立に至る時期の資料収集を進めた。また、現代までを含む女子教育を取り巻く諸条件の調査については、久志本・鴨川がマレーシアにおける調査で大学における教員と学生にジェンダーによって異なる認識や態度があるのかについてインタビューと参与観察を行った。この結果、マレーシアの学校におけるジェンダー差の文化的特徴は、学校という制度とそこにおける教師の役割と密接につながっているのではないかという発想に至った。植民地期からのその形成を考えるには、「女子教育」という枠組みを超えて、そもそも「教師」の役割がどのように位置づけられてきたのか、学校教育普及の各段階において誰が「教師」としての役割を担い、そうした人々がどのような存在としてイメージされてきたのかを探る必要がある。そのうえで、そこに「女性教師」がどのように位置づけられ、またイメージされるようになったのかが、「女性には教育が必要である」という言説の形成と大きく関係していると考えられるのである。この点について来年度以降の研究で明らかにしていきたい。
各自の研究についてはおおむね順調に進展しているが、他の研究費との兼ね合いで予算が予定通り執行できていない部分がある。
2024年度は各自の海外出張による文献収集とその分析を引き続き行うとともに、研究会を2023年度よりも頻繁に行い、各自の成果をすり合わせる作業を進める予定である。研究組織はマレーシア班インドネシア班、あるいは教育学班と歴史学班という二つの分け方で分けることができるが、班の単位で共通の関心事項となる本を選んで読書会を行い、資料収集から得られた成果の解釈に役立てるといった活動を予定している。会合はオンラインを基本とするが、2024年度中に少なくとも1度は全員を対面で集めての研究会を実施したい。また、成果発信に向けて、年度末をめどに公開の研究会を行い、研究班以外の研究者からフィードバックを得て来年度の研究につなげる計画である。 -
高等教育における「リバース・ジェンダー・ギャップ」現象―東南アジアの国際比較
研究課題/研究課題番号:22H00975 2022年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
鴨川 明子, 服部 美奈, 久志本裕子, 市川 誠, 森下 稔, 羽谷 沙織
担当区分:研究分担者
本研究は、高等教育段階において男性より女性の数が上回る「リバース・ジェンダー・ ギャップ」現象に着目し、その現象が見られる東南アジアの国々を主たる対象とする国際比較研究である。研究の目的は、リバース・ジェンダー・ギャップの現状及びその現象を生じさせる背景や要因を体系的に解明することにある。そのため、第1に、教育統計や教育・ジェンダー政策を精査し、国別の独自性と宗教・政治・経済 などの要因ごとに見られる多国間の共通性をマクロレベルで、第2に、ミクロレベルで女性や男性が教育を選択することの複層的な意味を明らかにする。第3に、東南アジアのリバース・ジェンダー・ギャップ現象を総合的・多面的に解釈する。
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イスラーム教育によって創出されたムスリムネスの地域性と共鳴性
研究課題/研究課題番号:21H04413 2021年4月 - 2025年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(A)
日下部 達哉, 河野 明日香, 清水 貴夫, 服部 美奈, 中島 悠介, 見原 礼子, 久志本裕子
担当区分:研究分担者
本研究は、世界のイスラーム教育機関が日々創り出しているムスリムネス(イスラーム教徒らしさ)の地域性と共鳴性について研究するものである。多彩なあり方を許容するイスラームは、地域ごとに独自のムスリムネスを生み出している。その一方でそれらは、留学、機関紙、SNSなどを通じて、地域間で共鳴している。この想定のもと、「共鳴して生み出されている新しいムスリムネス」、「共鳴性を受けて変容するムスリムネスの地域性」等について、研究を遂行する。これにより、未だにデータ・情報に乏しいイスラームの現状を克服、イメージの偏りも打破していく。
本研究は、世界のムスリム居住地域における、多彩なイスラーム教育が創出した「ムスリムネス(ムスリムとしてのあるべき姿)」を分析、それらを地域間で比較することにより、世界におけるムスリムネスの多様性と共鳴性を明らかにする。研究を通じ、今世紀におけるイスラームへのイメージの歪みを是正するというものである。最終年度前年度であった2023年度は、バングラデシュ、インドネシア、オランダ・ベルギー、ブルキナファソ、ウズベキスタン、アラブ首長国連邦、マレーシア、エジプト、アメリカ(スーダン移民コミュニティ)そして日本におけるムスリムネスの共鳴性また、広い意味での宗教共鳴性について調査がなされ、データがほぼそろった。インドネシアとウズベキスタンでは、補足調査を行う余地は残されているが、それらは今後検討のうえ、最終年度である2024年度に決定される。収集されたデータを大まかに分析したところでは、ムスリムネスは、常に共鳴しており、宗教学校が出す機関紙、ウェブサイト、留学、移民、SNSなど多様な媒介要素がかかわっていることが分かった。そして各国のムスリムネスの地域性も、やはり「創られ」規範化していくものであることも新たに明らかになってきた。それらの成果は、主に、2023年、11月に広島国際会議場で開催された、第13回アジア比較教育学会において、また、日本の教育学系学会等で発表された。また、業績欄にある通り、論文、書籍となって発表された。
初年度から2年度目までは、コロナ禍の影響を受けたため、データを揃えることが困難であったが、2-3年度目にかけて、フィールドに渡航できる分担者、協力者らは積極的に渡航し、予定していたデータは、ほぼ揃えることができたといえる。補足調査が必要になっているところもあるが、今後は、揃えられたデータを分析するフェーズに入り、論文化、書籍化を進めていく。
上記実績、進捗に基づき、論文化、書籍化、また国内外の学会において発表を進めていくことになっている。とりわけ書籍化は、2025年に研究成果公開促進費の申請を目標として、進めてきており、出版社との打ち合わせ、また、本研究の構成メンバーと、内容面での打ち合わせを、これまで以上に進め、実質化していくこととしている。 -
インドネシア国立イスラーム大学における知の再編-一般諸学との融合形態に着目して-
研究課題/研究課題番号:20K02558 2020年4月 - 2025年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
服部 美奈
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:2730000円 ( 直接経費:2100000円 、 間接経費:630000円 )
本研究は、インドネシアにおける2000年以降のイスラーム高等教育改革に焦点をあて、新生の国立イスラーム大学が「宗教知」と「世俗知」の融合をどのように構想・実践しているのか、さらに「宗教知」と「世俗知」の融合によって、多宗教・多文化共存のための知の基盤をいかに創出しているかを明らかにする。その際、分析の参照枠として、マレーシア国際イスラーム大学、イスラーム教育科学文化機構(ISESCO)およびイスラーム世界大学連合(FUIW)が推進するイスラーム教育の世界的な動向をおく。
本研究の目的は、インドネシアにおいてイスラーム宗教専門大学から総合大学としてのイスラーム大学への再編がはじまる2000年以降のイスラーム高等教育改革に焦点をあて、「宗教知」と「世俗知」の融合がどのように構想・実践されているのか、さらに新生のイスラーム大学が、「宗教知」と「世俗知」の融合によって、多宗教・多文化共存のための「知の共通基盤」をいかに創出しているかを明らかにすることである。
考察では、新生イスラーム大学の理念と学部学科の構造、各学部の教育課程、そして国内外の大学とのネットワーク構築の分析を行う。なお、本研究は国を並列して考察する国際比較研究の形態はとらないものの、分析の参照枠として、1)マレーシア国際イスラーム大学が掲げる「知のイスラーム化」の実践を中心とする東南アジアの動向、2)イスラーム教育科学文化機構(ISESCO)およびイスラーム世界大学連合(FUIW)が推進するイスラーム教育の世界的な動向をおくことにより、インドネシアを東南アジアおよび世界潮流のなかに位置づけて現代イスラーム諸国の知の再編の俯瞰図を描くことを最終的な到達点とする。
コロナ禍の影響を受けて延長した4年目である2023年度は、前年度からの継続で2000 年以降のイスラーム高等教育改革の動向分析を実施した。具体的には9校ある新生の国立イスラーム大学に焦点をあて、各大学がめざす「宗教知」と「世俗知」の融合および「知の共通基盤」のあり方を分析した。2023年は可能であれば海外調査を予定していたが、2020年度~2022年度同様、コロナの感染拡大状況を鑑み、海外調査を中止し、文献調査に徹した。
コロナ禍の影響を受けて延長した4年目である2023年度は、前年度からの継続で2000 年以降のイスラーム高等教育改革の動向分析を実施した。具体的には第一に、新生の国立イスラーム大学を対象とし、各大学の改革動向の分析とともに、学部の構成やカリキュラム等にみられる「宗教知」と「世俗知」の融合および「知の共通基盤」のあり方を分析した。分析に当たっては各大学が発行している資料を収集し分析した。第二に、インドネシアで2019年に制定された「プサントレン法」を対象とし、イスラーム教育改革の方向性を分析した。同法は宗教省が管轄するプサントレン(専門的なイスラーム諸学を学ぶ教育機関として草の根的に発展してきたイスラーム寄宿塾)を規定する初めての法律である点で注目される。高等教育との関連でいえば、プサントレンに設置される高等教育段階のマアハド・アリーに関する規定が本研究との関連で重要である。本法第22条ではマアハド・アリーが学士課程、修士課程、博士課程の学術教育を行うことが規定されており、所定の学習を済ませて修了が認められたマアハド・アリーのサントリは、学位の称号を使用する権利、イジャザ(修了証)を取得する権利とともに、より上級の課程で教育を継続したり、就職したりする権利を有することが示されている。マアハド・アリーの改革は、イスラーム高等教育機関の地位向上や、プサントレンで学んだ学習者により広い活動の場を提供することを目指す点において本研究が対象とする国立イスラーム大学改革と類似性をもつことを明らかにした。
上述の研究については進捗があった一方で、コロナ禍の影響により、2020年度~2022年度に続き、2023年度も現地調査を実施することができなかった点でやや遅れが生じている。
2024年は可能な限り現地調査を実施する。しかし、万が一、現地調査が困難な場合は文献資料を中心に研究を継続する。
2024年度は2020年度~2023年度で行った研究を継続するとともに、分析の参照枠としてのイスラーム教育科学文化機構(ISESCO)およびイスラーム世界大学連合(FUIW)に関する調査についても継続する。渡航が見込まれた場合は、モロッコでの調査を実施するが、渡航困難な場合は文献調査の他、現地調査の代替措置として必要に応じてオンラインによるインタビュー等も行う。同時に、新生の国立イスラーム大学の現地調査についても渡航が見込まれた場合には実施する。その他、必要に応じてオンラインによるインタビューや国際ワークショップを企画する。
以上の分析を通して、本科研の最終年度の総括として、イスラーム世界で進行しているイスラーム教育の現代的傾向を明らかにするとともに、インドネシアの国立イスラーム大学で実践されている「宗教知」と「世俗知」の融合、さらに多宗教・多民族共存のための「知の共通基盤」の特徴を明らかにする。 -
イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究
研究課題/研究課題番号:20H00085 2020年4月 - 2024年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
長澤 榮治, 村上 薫, 森 千香子, 後藤 絵美, 鳥山 純子, 森田 豊子, 黒木 英充, 岩崎 えり奈, 小野 仁美, 服部 美奈, 岡 真理, 山崎 和美, 嶺崎 寛子, 鷹木 恵子, 高橋 圭, 細谷 幸子, 竹村 和朗, 幸加木 文, 岡戸 真幸
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:44850000円 ( 直接経費:34500000円 、 間接経費:10350000円 )
本研究は、2016年度以来実施してきた基盤研究(A)「イスラーム・ジェンダー学の構築のための基礎的総合的研究」の成果を踏まえ、イスラーム・ジェンダー学という新しい知的挑戦の枠組みを実践的応用的研究へと発展させることを目指すものである。
とくに現代世界の諸問題の根底をなす人々に「分断」をつくり出す構造を明らかにすることを目指して、「イスラーム」と「ジェンダー」の視座から、さまざまな「障壁」や「格差」や「摩擦」についての人文社会学的実証研究を行う。国内外研究者のみならず、市民組織・国際機関などとも連携し、問題解決となる方策を探り、具体的な提言やアドボカシーを含む、実践的応用的研究を遂行する。
本研究は、イスラーム・ジェンダー学という新しい知的挑戦の枠組みを通じて現代世界が直面する諸問題を考察し、解決方法を模索するものである。とくに諸問題の根底にある人々の「分断」に着目し、それをつくり出す構造を明らかにすることを目指している。具体的には、「イスラーム」と「ジェンダー」の視座から、さまざまな「障壁」や「格差」、「摩擦」についての人文社会学的研究を行ってきた。個別研究・班研究・全体集会等を通じ考察を深め、国際ワークショップ・国際学会への参加を通じて国際学術交流を図った。一般市民向けの公開セミナーやイスラーム・ジェンダー・シリーズの刊行を通じて成果の社会還元に努めた。
「イスラーム」と「ジェンダー」の視角から、現代世界において人々の「分断」を生みだしている諸問題の実態を分析し、その構造と背景を考察するとともに、公正な秩序にもとづく共生社会を実現するための諸課題を明らかにしようと試みた。これらの応用的実践的な諸課題に取り組むに当たっては、多様な専門分野の研究者の参加を得ることによって理論的な考察を深めるとともに、マイノリティと差別、難民や移民の問題など「分断」と「共生」をめぐる問題に関心のある市民との交流を通じて、人の営む暮らしや日常的な感覚に根差した問題解決の道を探った。 -
研究課題/研究課題番号:19K21799 2019年6月 - 2025年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
中島 千惠, 服部 美奈, 杉本 均, 石川 裕之, 澤野 由紀子
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:6370000円 ( 直接経費:4900000円 、 間接経費:1470000円 )
本研究は、教育を通した共通の基盤を形成していく制度設計にチャレンジし、公教育の新たな段階を模索しようとするものでもある。従来の公教育にはまらない人々の学習保障をどうするか、いずれすべての国で直面する課題であると思われる。しかし、単純な問題ではない。公教育の枠外の人達の現実を受け止め、多様なバックグランドのすべての人に学習機会を保障し、公教育の新しい段階を拓くには、価値観の転換、あるいは新たな価値観の創造が必要だ。アセアン共同体の動きも踏まえながら、日本に今までにない制度を外国の制度の輸入ではなく、日本の公教育の良さを保持したままでいかに創造していけるのか探求し、挑戦する。
1.背景をより深く:2023年度は海外調査に行ける者は積極的に実施したが、インターネットで豊富に情報が得られる地域もあり、両面から実態を探った。アメリカではホームスクーリング(以下HS)を選ぶ人達も理由も多様化しており、ほぼすべての人種、特に黒人が増加した。中島は黒人増加の背景にある複雑な社会の実態や葛藤を、また松本はカナダBC州の在宅義務教育実践についてフィールド調査結果を日本比較教育学会第59回大会で報告した。
2.グローバル化する学びの場:コロナ禍の影響もあり、グローバル化が進んでいるのが、初等・中等段階のHSである。多様な児童のニーズを受け、公認・非公認のHSが高等教育のグローバル戦略や保護者の生涯学習とも結びつきながら公教育にもジワリと影響を及ぼしつつある。日本教育学会第82回大会では、生涯学習や高等教育も視野にいれ、HSを通して学びの場のグローバル化や多様化による公教育への影響、意図せざる結果、国家の枠組みから離脱しても結果的に国家の教育枠組みに戻らざるを得ない現実などを日本教育学会のラウンドテーブルで発表した(澤野タイトル提案、インドネシア(服部)、東南アジア(杉本)、韓国(石川)、カナダ(松本)、アメリカ(中島)。
3.学びの場の保障:石川が『現代韓国の教育を知る:隣国から未来を学ぶ』(共編著)で「普通の学校」では満たされない子どもたちの学び」について韓国の状況を伝えた。研究協力者の宮口は、学校外で保障されるべき『最低限の義務教育』の構成について、J.ドワイヤーとE.バーソレのホームスクール制度構想にみる保障原理を吟味した『日本制度学会紀要特別号』。
4.情報提供:研究協力者の松本は、「ホームスクールえひめ」の皆さんを対象にカナダのホームスクーリングについて講演をし、研究成果を通して家庭を拠点として学習する日本の子どもたちや関係者を直接、支援することができた。
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(理由1)コロナウイルスの変種により海外調査に行けそうで行きずらい環境が続き、先方のアポイントも取りにくかった。
(理由2)一年研究期間の延長が可能になったことにより、内容の更なる充実を目指し、最終報告書の完成を2025年1月頃に延期した。
(理由3)2023年1月頃から2024年5月上旬にかけて研究代表者や研究分担者の異動があり、研究室の移動、諸々の書類作成提出など、物理的に研究に集中できない期間が3か月ほど続いたため。
各国におけるホームスクーリングの動向も含め、最終報告書を作成する予定であったが、もう一年、研究期間を延長することができたので、国際的な動向も含め、2024年度に内容の充実を図ることにした。国によって程度や具体的な施策は異なるが、ホームスクーラーも包摂しながら公教育がシフトしつつある様子、そしてその変化の中で学習権の保障がどのように展開しているかなど、まとめる予定である。公教育がシフトしつつある様子に関する国際比較については、2024年7月に国際学会での発表も予定している。
また、過年度(2023年度)に実施した日本教育学会のラウンドテーブルにおける発表も文章化したいと考えている。最終報告書の完成も目指す。 -
東南アジア島嶼部における男子・男性のワークライフキャリア形成
研究課題/研究課題番号:19K02525 2019年4月 - 2025年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
鴨川 明子, 服部 美奈, 金子 奈央, 中田 有紀
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:4420000円 ( 直接経費:3400000円 、 間接経費:1020000円 )
2030年に向けた持続可能な開発目標(SDGs)において、ジェンダーと教育の問題は解決されるべき目標に掲げられる。ジェンダーと教育の問題は、相対的に不利な立場に置かれた女子・女性の問題としてとらえられることが多い。そのため、彼女たちの教育機会が限定されている国や地域(サブサハラアフリカや南アジア)に注目が集まる傾向にある。
しかしながら、本研究は、高等教育段階において男女間の教育格差が縮小しているように見えるが、男子がより高い教育段階に進学しない点に特質が認められる東南アジア島嶼部3ケ国に対象を絞る。そして、これら3ケ国における男子・男性の「ワークライフキャリア形成」の独自性を解明する。
本研究は、高等教育段階において男女間の教育格差が縮小しているように見えるが、男性がより高い教育段階に進学しない点に特質が認められる島嶼部東南アジアの国々に対象を絞り、男性の「ワークライフキャリア」の意識と実態を明らかにすることを目的としている。
本年度は、男子・男性のワークライフキャリア形成の過程と全体像はどのようなものであり、各国にどのような類似点や相違点があるか、さらに、各国における実地調査の結果をもとに、研究メンバーの議論を通じてワークライフキャリア形成のモデルを提示し、国家間比較法により独自性を解明することが、当初の作業課題であった。
しかしながら、予定していた現地調査は新型コロナウィルスの影響を受けて延期する必要があったため、男性のワークライフキャリア形成の過程と全体像をとらえるアプローチについて研究分担者と議論を重ね再検討した。
その結果、対象国における女性の教育に関する状況が予想以上にドラスティックに変容しており看過できないと考えた。そのため、最新の女性政策やジェンダーと教育に関する政策動向について、先行研究や各国政府・研究機関等がインターネット上で公表している文書・資料を網羅的に収集するよう努めた。また、一定程度成果を公表する機会に恵まれ、研究への新たな示唆を得ることができたことは、昨年度に続き今年度の成果であると言える。
特に今年度は、研究者のみならず、広く一般への研究成果のアウトリーチ活動を行うことができたことが、大きな成果である。
新型コロナウィルスの影響を受けて、予定していた現地調査を見送ることとなり、現地における調整および情報収集は遅れた。しかしながら、ジェンダーの視点による多様なアプローチを採用し、国内外において、研究の成果を継続的に公表することができているため。特に今年度は、研究者のみならず、広く一般への研究成果のアウトリーチ活動を行うことができたため。
外務省の渡航情報によると、新型コロナウィルスの影響による対象国・対象地域への渡航の制限は緩和されたが、当該国の感染状況や医療体制の成熟度等に鑑み、現地調査を必須とはせず、文献や政策文書の分析により、研究の目的に迫るよう努める。
具体的には、ジェンダーの観点から、女性政策の動向と高等教育・職業教育の歴史と現状に焦点を当てて調べる。加えて、先行研究や各国の政府や研究機関等がインターネット上で公表している文書・資料を継続的に収集することによって、当該テーマに対する理解を深める。また、対象国・対象地域におけるワークライフキャリアに関して、国内の多様性をより深く理解するよう努める。
最終年度に当たるため、以上の成果を、日本比較教育学会ほか関連学会において公表する予定である。 -
アジアにおける市民性教育の標準化と多様化に関する国際比較研究
研究課題/研究課題番号:19H01639 2019年4月 - 2023年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
小川 佳万, 長濱 博文, 松本 麻人, 服部 美奈, 中田 有紀, 石田 憲一, 小野寺 香, 大和 洋子
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:15470000円 ( 直接経費:11900000円 、 間接経費:3570000円 )
社会のグローバル化が進む中で、アジア各国は20世紀型国民国家から21世紀型市民国家へと移行するため、主に初等・中等教育段階で「市民」形成が目指されてきた。ところが近年高等教育の拡大を受けて、それが高等教育段階の課題としても各国で認識され、それを鍵概念の一つとした教養教育改革が実施されてきている。本研究は、アジア諸国における市民性教育(Citizenship Education)を中等教育段階の学力観の転換及び高等教育段階の教養教育改革という視点から捉え、国際比較検討を行うことにより、グローバル社会における「市民」概念の解明と将来の市民性教育のあり方へ示唆を与える。
本研究は、アジア諸国における市民性教育を中等教育段階の学力観の転換及び高等教育段階の教養教育改革という視点から捉え、国際比較検討を行うことにより、グローバル社会における「アジア的市民」概念の解明を目指した。共同研究の結果、「アジア的市民」を「共属民」という語で表現できると結論づけた。この「共属民」とは、さまざまな共同体(例えば、家、地域、国、世界)に属し、それら共同体の人々との調和的な関係性を重視する人間を意味する。そして、こうした調和的関係を維持・強化するための教育に、研究対象とした国々は中等教育段階でも高等教育段階でも力を入れている。
本研究の学術的特色は、歴史や文化が異なり多様でありつつ、本格的なグローバル化への対応として市民性教育を共通して推し進めるアジアの「市民」概念を包括的に分析することである。従来「市民」形成は初等・中等教育の課題と捉えられてきたが、高等教育における教養教育という観点から捉え直すことで、新たな「市民」概念、特にアジア的な「市民」概念を析出する。アジアはヨーロッパとは異なり、共通性を見出すのが困難であったことを踏まえると、本研究はそこに新たな視座を提示することとなる。 -
ムスリム居住地域で進行する主体的なイスラーム教育改革に関する地域間比較研究
研究課題/研究課題番号:17H02682 2017年4月 - 2021年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
日下部 達哉, 河野 明日香, 服部 美奈, 中島 悠介, 見原 礼子, 清水 貴夫
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:17420000円 ( 直接経費:13400000円 、 間接経費:4020000円 )
本研究では、参画した各研究者によって「イスラーム教育がいかに主体的に改革を行っているか」、が明らかにされてきた。情報メディアが発達した現在、ムスリムたちにとって宗教教育の役割はきわめて重要になってきている。多くのムスリム居住地域では、西洋出自の情報がメディアを通じ子どもや若者に影響を与えているため、各地で展開するイスラーム教育は、その土地をカバーする教育制度や社会に合わせて常に改革・改変を繰り返す必要に迫られる。この研究では、そうしてできたアジア・アフリカのイスラーム教育の地域的多様性について明らかにしている。
本研究においてよく登場する言葉が「マドラサ」である。イスラーム教育を施す場所として最も知られている場所であり、また概念である。このマドラサをめぐる報道や言説をみた場合、必ずしも適切なイメージが形成されているとは言い難い。メディアに露出してきたマドラサのイメージは、「過激派の温床」といったようなネガティブなものであった。マドラサをめぐる言説は、以上のように不穏当なイメージから抜け出せてはいない。しかし本研究は、生活に根差したイスラーム教育を対象とすることにより、少しでもそうしたイメージを払拭することを目指した。 -
イスラーム思想のなかの「子ども」-ローカルな実践と思想にみる発達観の解明
研究課題/研究課題番号:16K13546 2016年4月 - 2020年3月
日本学術振興会 科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究
服部 美奈
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:3250000円 ( 直接経費:2500000円 、 間接経費:750000円 )
期間全体の研究成果は以下の4点である。第一に、イスラーム教義のなかのバリフ(アラビア語ではブルーフ)という概念が、子どもの発達段階、特に子どもと成人を隔てる概念として重要であることが再確認された。第二に、各地域で行われる通過儀礼は、実施される時期や意味づけにおいて異なっている。第三に、各地域に共通して、思春期(第二次性徴を迎えてから結婚に至るまでの時期)の子どもへの対応は、イスラームの教義と子どもが当該社会で置かれた社会状況との間にアンビバレントな状況が生まれている。第四に、思春期の扱いにより、教育や結婚、交際範囲、服装に異なる解釈が生まれ、教義とのズレもみられた。
イスラームは、独自の人間観を有する一つの思想体系であり、独自の発達観・教育観を有する。ここでいう発達観・教育観は固定的なものではなく、ローカルな文脈のなかで解釈・実践され、生成される動態的なものである。研究は、イスラーム思想のなかの「子ども」に焦点をあてることを通して、イスラームにおける発達観・教育観を明らかにした点に学術的意義があり、日本におけるイスラーム教育思想研究の不在に対し、新たな視点を提供するものである。同時に本研究は教育という観点からイスラーム理解に寄与する点で社会的意義を有する。 -
研究課題/研究課題番号:16H01899 2016年4月 - 2020年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
長澤 榮治, 村上 薫, 松永 典子, 後藤 絵美, 鳥山 純子, 森田 豊子, 黒木 英充, 岩崎 えり奈, 服部 美奈, 岡 真理, 臼杵 陽, 山岸 智子, 嶺崎 寛子, 鷹木 恵子, 小林 寧子, 竹村 和朗
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:39780000円 ( 直接経費:30600000円 、 間接経費:9180000円 )
本プロジェクトは、イスラームにとってジェンダー的な公正とは何か、という問題意識にもとづき、文化・政治・開発などにわたる諸問題を学際的に研究することを目的とした。また、これまで個別に行われてきた中東・イスラーム地域のジェンダー研究をまとめ上げ、かつ広範囲の研究領域にジェンダー視点を導入することにより「イスラーム・ジェンダー学」という新たな知的営為の基礎固めを行うことを目指した。個別研究・公募研究・全体集会等を通じ考察を深め、国際ワークショップ・国際学会への参加を通じて国際学術交流を図った。一般市民向けの公開セミナーやイスラーム・ジェンダー・シリーズの刊行を通じて成果の社会還元に努めた。
現代世界においては、難民や移民、マイノリティと差別の問題など人々を分断する動きが強まる一方、異文化共生社会の実現に向けての知的・社会的努力が積み重ねられている。こうした課題にとって重要な焦点となっているのが「イスラーム」と「ジェンダー」をめぐる問題領域である。本プロジェクトは、このような問題意識に立ちながら、多様な専門分野の研究者の参加によって新たな学術的知見を得るとともに、教育現場の関係者や障がい者、性的少数者など、分断や差別の問題に関心のある市民の参加も得て議論の社会的広がりも確保することができた。 -
研究課題/研究課題番号:15H03477 2015年4月 - 2020年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
サルカルアラニ モハメドレザ, 石井 英真, 坂本 將暢, 服部 美奈, 久野 弘幸, 坂本 篤史, 柴田 好章, 中島 繁雄
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:18070000円 ( 直接経費:13900000円 、 間接経費:4170000円 )
本研究の目的は、国際比較授業分析の方法を開発しながら、グローバルな現代社会におけるペダゴジーの文化的基底の様相とその機能を解明することであった。各国のペダゴジーにおけるローカル知・理論とグローバル知・理論の検討・比較の結果を基に、学習デザイン、授業観、教授法、教師観、教授技術などを基礎とした研究成果から、授業実践の背後にある心象、価値観、信念や習慣化された行動様式、およびそれらの相互関連の構造を明確にした上で、ペダゴジー・コレクトネスの構築を検討し、よりよい社会の顕在化のためのペダゴジーの働き・役割と文化的基底(cultural foundation of pedagogy)を解明した。
①宗教、言語、教育制度、学校文化の異なる様々な国を研究対象としたことで、トランスカルチャルな問題を明らかにできる。②実証的な検証を基礎にした比較開発研究、特に国際比較授業分析にある。③教えるということは「何であるか・何であるべきか」を国際的なディスコースと日本的なディスコースを結びつけることができる。
具体的に、国境を越えてトランスナショナル・ラーニングの解明に向かう基礎を築くところに、本研究の意義はある(ローカル知とグローバル知が結びつく)。例えば、アクティブ・ラーニングの学校文化の創造や知識の活用は、日本において焦眉な教育課題であるが、これは形を変えて他国にも存在している。 -
法整備支援重点支援対象国における法学教育
研究課題/研究課題番号:15H05176 2015年4月 - 2019年3月
日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究B
四本 健二
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:12870000円 ( 直接経費:9900000円 、 間接経費:2970000円 )
これまでの日本政府による法整備支援事業は、重要支援対象国の法曹や司法行政官の法学知識や司法事務の執行に必要なスキル、法学専門性を事前に調査し、現状を評価することなく続けられてきた。そこで、本研究は、重要支援対象諸国に加えて重要支援対象国からの留学生を数多く受け入れているインド及びタイの主要な大学法学部における法学教育に関する研究が、重要支援対象国における法と司法の質に内在する制約を「法と司法の担い手が受けた法学教育」という視点から浮き彫りにし、課題を明らかにすることができるという観点から、法整備支援重点支援対象国の主要大学法学部における法学教育全体の実態と課題を明らかにした。
本研究は、法学研究者と教育学研究者との協働によって学際的に進められた。また本研究は、さらには研究対象国の大学と法学教員、JICA派遣専門家との協力によってよりよい研究成果をあげた。これらの研究成果は、現地の法学教員にフィードバックし、法学教育の改善に役立てて貰うことができ、協力を得た関係機関にフィードバックすることで人材養成の案件形成に際して、カウンターパートの知識やスキルを把握するための基礎データとして活用することができる。また、指導教員にとって留学生が学部でどのような法学教育を受けてきたかを把握できる点で、研究対象国から法学系の留学生を受け入れている大学院にとっても有用である。