科研費 - 紺谷 浩
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充填スクッテルダイト化合物が示す特徴的物性の理論的解明
研究課題/研究課題番号:18027004 2006年 - 2007年
倉本 義夫
担当区分:研究分担者
理論班は,スクッテルダイト系における新奇現象理解への鍵となる概念形成を行い,全計画班の連携をサポートすることなどを主要な目標として活動した。その結果,以下を例とする多くの成果を得た。
1. Prスタッテルダイトでは,結晶場状態により,近藤効果の重要性が大きく異なることを微視的な計算によって示した。
2. PrFe4P12やPrRu4P12の秩序変数は,結晶の立方対称性を保つスカラー型であり,これが交替的に副格子を形成していることを提案し,温度に依存する結晶場状態など多くの実験を説明した。
3. SmRu4P12の奇妙な相図と物性について,磁気八極子が主要な秩序変数であることを確認し,CeB6との類似性から特徴的なNQRパターンなどを説明できることを指摘した。
4.多極子秩序による帯磁率,磁気異方性への反映を現象論を用いて明らかにした。これにより実験結果を多極子の描像によって合理的に解釈した。
5. PrFe4P12の複雑な核磁気共鳴スペクトルを対称性を考慮して解析し,スカラー型秩序変数の描像で説明できることを示した。
6.伝導電子のバンド構造が秩序構造に与える役割を明らかにした。特に結晶構造とリガンド電子の構造により強いネスティングが存在することが,多極子の反強的秩序形成に重要であることを示した。
7.スクッテルダイト特有の構造によるラトリングの役割に注目し,超音波物性に対する特有の効果を明らかにした。また磁場に鈍感な重い電子生成に導く可能性を指摘した。 -
スクッテルダイト化合物における重い電子状態と近藤絶縁体状態の理論
研究課題/研究課題番号:16037204 2004年 - 2005年
佐宗 哲郎
担当区分:研究分担者
1.Ce-スクッテルダイト化合物のうちの,CeRu_4Sb_<12>については,バンド計算では絶縁体だが,実験では金属で,矛盾していた。そこで,昨年度に構築したtight-binding模型を改良し,さらに本質的な部分のみを抽出した模型を新たに作った。これは,実験と合う半金属型の模型である。これを用いて,電気抵抗・熱起電力(Seebeck係数)・光学伝導度の計算を行い,半定量的に実験結果を説明することに成功した。(論文印刷中)
2.おなじく,CeOs_4Sb_<12>について,実験で,温度0.8Kでスピン密度波への転移が見つかっており,しかも,磁場をかけると転移温度が上昇するという特異な振る舞いを示した。我々は,1.と類似の模型を用い,分子場近似により,この現象を説明することに成功した。(論文発表済)
3.強相関電子系における光学伝導度およびホール伝導度の研究:通常金属における交流ホール係数は、R_H(ω)の虚部は殆ど0であり、これはボルツマン近似がよく成り立っていることを意味する。ところが高温超伝導体ではImR_H(ω)は有限のωで極めて大きな値をとり、その値は低温かつ低ドープ領域において非常に大きくなる。我々はR_H(ω)をFLEX近似に基づき、カレントに対するバーテックス補正をω依存性まで考慮して解析し、実験で観測される交流ホール係数の異常な振舞いを良く再現することが出来た。本研究により、高温超伝導体の交流及び直流輸送現象の振舞いが、フェルミ液体の立場からバーテックス補正を考慮することで「統一的に」理解できることが明らかになり、高温超伝導体の正常状態における電子状態の理解が進歩したといえる。(論文発表済)
4.Na_<0.35>CoO_2についても,理論的な解析を行った。(論文発表済) -
分子性導体の極限環境下における半導体から金属へのクロスオーバー
研究課題/研究課題番号:15073213 2003年 - 2007年
鈴村 順三
担当区分:研究分担者
本研究では。低次元電子系における、圧力下での絶縁体から金属までの伝導電子の状態変化に関して以下の研究を行った。1、擬一次元電子系において鎖間の異なる2つの電荷移動の競合が増加することによりモット絶縁体から金属へ移ることをN鎖繰り込み群を用いて明らかにし、この結果出現する金属状態はネスティングを反映しファルミ面に依存した準粒子であることを示した。2、1次元朝永-ラッチンジャー液体における境界効果を調べるために核磁気緩和率を計算した。境界から離れるとフェルミ波数に依存し振動しながら一定値に近づくこと、その振幅は相互作用により増加する一方、温度揺らぎにより減少するという両者の競合の振る舞いを明らかにした。3、擬2次元有機導体β"-(DODHT)_2PF_6は常圧では電荷秩序を示すが、圧力下では超伝導が出現する。これは圧力下で金属状態になりためで、この発現機構として電荷秩序が存在するか又は融解するかによりスピン揺らぎ又は電荷揺らぎの可能性を指摘した。4、1次元電子系(EDO-TTF)_2PF_4塩の特異な絶縁体を理解するため、斥力相互作用や格子歪との結合が存在する場合の電子系を調べ、最近接斥力が十分大きい場合に電子-格子相互作用の効果により特異なパイエルス状態が生じることを示した。さらに格子歪がゼロの近傍の準安定状態が光誘起伝導に寄与する可能性を指摘した。5、擬2次元有機導体α-(BEDT-TTF)_2I_3のゼロギャップ状態における密度波形成をしらべ、運動量空間の2つの縮退点を結ぶ波数を持つスピン密度波が、バンド間励起、相互作用及び3次元効果により出現する可能性を示した。
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高温超伝導体やその関連物質における静的及び動的輸送現象の理論的研究
研究課題/研究課題番号:15740198 2003年 - 2005年
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:3500000円 ( 直接経費:3500000円 )
●強相関電子系における光学伝導度およびホール伝導度の研究:
高温超伝導体における交流ホール係数は、ImR_H(ω)が有限のωで極めて大きな値をとり、更にその値は低温かつ低ドープ領域において非常に大きくなる。これはボルツマン近似の破綻を意味する。我々はR_H(ω)をFLEX近似に基づき、カレントに対するバーテックス補正をω依存性までまじめに考慮して解析した。この数値計算の手法は、本研究ではじめて開発されたものである。研究の結果、反強磁性近傍の金属では、バーテックス補正によりR_H(ω)の異常なωおよび温度依存性が良く再現されることが明らかになった。本研究により、高温超伝導体の交流及び直流輸送現象の振舞いが、フェルミ液体の立場からバーテックス補正を考慮することで「統一的に」理解できることが明らかになり、高温超伝導体おける電子状態および超伝導発現機構の理解が進んだといえる。
●三角格子Co酸化物超伝導体NaxCoO2・yH2Oの研究:
水をインターカレートした超伝導体RaxCoO2・yH2Oにおける電子状態および超伝導発現機構を研究した。この系のフェルミ面は、バンド計算による予想とARPESによる実験結果とで大きく異なり、問題になっていた。そこで我々はFLEX近似に基づきNaxCoO2の正常状態を詳細に解析して、実験において観測されている帯磁率や状態密度の弱い擬ギャップ的振る舞いが、ARPESのフェルミ面を仮定した場合に限って再現できることを示した。次に我々は、CoO2層の光学フォノン(シェアモード、ブリージングモード)によるs波超伝導の可能性を考えた。解析の結果、シェアモードフォノンによって、クーパー対がFermi面を形成するalg軌道と価電子バンドを形成するeg'軌道の間を遷移するため、超伝導転移温度学が劇的に上昇することを明らかにした。この機構を我々はValence-Band Suhl-Kond機構と命名した。この機構に基づき、ARPESで観測されている準粒子スペクトルにおけるキンク構造も同時に再現できた。 -
高温超伝導体・有機物超伝導体の各種輸送現象における非フェルミ液体的挙動の理論
研究課題/研究課題番号:13740202 2001年 - 2002年
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:2400000円 ( 直接経費:2400000円 )
1.高温超伝導体の擬ギャップ領域における輸送現象の理論:高温超伝導体の低ドープ領域では擬ギャップ温度T^*以下で各種物理量が擬ギャップ的振舞いを示し、そのメカニズムの解明は最近の高温超伝導体の研究における中心的課題である。最近Stanford大学のOng達により、高温超伝導体の常伝導相におけるネルンスト係数が詳細に計測され、擬ギャップ領域でネルンスト係数が著しく増大するという、通常の金属では考えられない特異な挙動を示すことが明らかになった。この実験結果から、Ong達は擬ギャップ領域で多数のボルテックス・反ボルテックス対が熱的に励起されていると考え、議論を呼んだ。一方、我々は擬ギャップ領域で強い超伝導揺らぎが発達しているという立場に立ち、フェルミ液体論の立場からネルンスト係数の計算を行った。その結果、カレントに対する多体効果であるバーテックス補正項を考慮することで、T^*以下におけるネルンスト係数及び磁気抵抗の急激な増大が再現されることがわかった。本研究により、高温超伝導における様々な輸送係数(ホール係数、磁気抵抗、熱起電力及びネルンスト係数)の複雑で特徴的な振舞いが、反強磁+超伝導揺らぎの理論に基づき統一的に理解できることが明らかになり、特に擬ギャップ領域において強力な超伝導揺らぎが発達していることが結論された。
2.強相関電子系における熱・電気的輸送係数の一般理論:強相関電子系における熱流と電流が絡んだ輸送現象の研究の為には、電子相関に関する詳細な考察が必要である。Littingerの線型応答理論('64)によると熱起電力は電流と熱流の相関関数より与えられるが、熱流のオペレーターは相互作用項に由来する2体項を含むため多体電子系では一般に複雑であり、バーテックス補正の理論的解析は過去不十分であった。我々は局所的エネルギー保存則から導かれるワード恒等式に着目して,熱起電力やネルンスト係数に対する厳密かつ簡便な一般的表式を導出した。これらの表式に含まれるバーテックス補正(前方散乱項)Γ^Iを,ワード恒等式Γ^I=δΣ/δGをみたすよう計算することで,各種輸送係数に対する保存則を満たす近似(Baym-Kadanoffのconserving approximation)がはじめて可能となった。 -
高温超伝導関連物質の輸送現象における非フェルミ液体的挙動:ホール効果、磁気抵抗
研究課題/研究課題番号:11740191 1999年
奨励研究(A)
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:1200000円 ( 直接経費:1200000円 )
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凝縮系物理における多体問題
研究課題/研究課題番号:07044066 1995年 - 1996年
国際学術研究
上田 和夫
担当区分:研究分担者
自然界の現象は、素粒子レベル、原子レベル、セミマクロなレベル、マクロなレベルと階層的構造を示すことが多い。この階層的構造は、エネルギースケールの問題ということも出来るし、また長さのスケールの問題ということも出来る。凝縮系物理における多体問題理解の方法というものもそれに関連している。種々のレベルの問題があり、それぞれのレベルでことなる方法が用いられるのが常であるが、時として違うレベルで発展した方法が有益な示唆を与えることがある。凝縮系物理の重要問題にこうした意義を持って取り組もうというのが我々の目指した所であった。
当研究課題の期間にスタートしたプラケットRVBのスピンギャップ相に関する国際共同研究は順調な展開を見せ、2次元ハイゼンベルグスピン系の量子相転移の臨界現象の研究へと発展した。その結果、ハイゼンベルグ系から非線形シグマモデルへの写像理論の予言する3次元O(3)古典スピン系の臨界指数と一致することが、ループアルゴリズムを用いた量子モンテカルロシミュレーションによって確立された。スピンギャップに関する研究は、3次元的に結合した梯子鎖の秩序無秩序転移、梯子鎖のホール係数などの輸送現象の議論へと発展した。これらの研究を通じて、スピンギャップ研究の意義が量子臨界点近傍の得意な物理現象の解明にあることが次第に明瞭に認識されるようになったが、この意味では反強磁性長距離秩序のある系でも臨界点近傍では面白い現象が期待される。実際CaV_3O_7では、ストライプ秩序と呼ばれるネ-ル秩序とはことなる磁性状態が観測されているが、この状態は古典的には安定でない状態であるにも関わらず量子揺らぎによって始めて安定化される特異な状態であることが明らかになった。
強相関電子系の金属絶縁体転移を量子モンテカルロ法、スケーリング理論などを用いて研究し、フィリング制御型の2次元系のモット転移でハイパースケーリング仮説が成立し、動的臨界指数が4であることを示した。この結果、モット転移近傍の金属相でコヒーレンスが異常に抑制される点を解析した。また、一粒子過程の抑制による二粒子過程の顕在化が反強磁性モット絶縁体からd波超伝導体への量子相転移を引き起こすことを示した。金属絶縁体転移を示すマンガン酸化物のスピン励起構造を二重交換模型を用いて研究した。スピン波近似と動的平均場を用いて集団励起と準粒子励起を計算し、実験結果との比較で良い一致を見た。
一次元は多体問題を近似に依存しない形で研究出来るテストグランドである。最近S.Whiteによって密度行列繰り込み群という精密な変分計算理論が開発されたが、これは次元では特に有効である。この研究課題期間中に我々は重い電子系の基礎モデルである近藤格子模型に対する密度行列繰り込み群計算手法を確立した。それを用いて、近藤絶縁体のスピンギャップ、チャージギャップの関数形を確立した。さらに、常磁性金属相におけるスピンとチャージのフリーデル振動を観測することによってフェルミ面が大きいことが示された。またその振動の減衰の様子から、近藤格子の常磁性金属相が相関臨界指数の非常に小さな特異な朝永-ラッティンジャー液体であることが明らかになった。
凝縮系多体問題に対する第一原理計算に関しては、圧力一定の第一原理分子動力学法プログラムを開発・整備し、大規模計算を目的として並列計算機用に最適化を行った。また構造転移や表面での原子拡散の活性障壁を求める効率的な計算アルゴリズムを開発した。このプログラムを使って、グラファイト、シリサイド、BC2N、グラファイト層間化合物の圧力誘起構造変化のシミュレーションを行った。これにより、高温でのグラファイト-立方晶ダイヤモンド転移と、低温で見られるグラファイト-六方晶ダイヤモンド転移の違いを明らかにした。またヘテロダイヤモンドBC2Nの安定構図尾と電子物性を予測し、高圧を用いた合成方法を提案した。さらにグラファイト層間化合物からアルカリイオンを内包した全く新しいダイヤモンド様物質が高圧合成できる可能性を指摘した。 -
半金属におけるデビルズ・ステアケース
研究課題/研究課題番号:07804020 1995年 - 1996年
上田 和夫
担当区分:研究分担者
現在までに知られている磁性体の中でもっとも複雑な相図を示すことで良く知られているのはCeSbである。磁場-温度平面での階段状の複雑な相図はデビルズ・ステアケース(悪魔の階段)と呼ばれている。CeSbに限らず一般のCeX(X=P,As,Bi,Sb)で程度の差はあれ、複雑な磁気相図が見られることは、この現象の背後に一般的なメカニズムが存在することを示唆している。CeXがその他のセリウム化合物とことなる特徴は、この系におけるキャリアーの数が大変少ないことで、CeXは小数キャリアー系と呼ばれている。CeXのキャリアーはΓ点のホールとX点の電子からなり立っている。このような、半金属ではそれぞれのキャリアーに対する近藤結合に加えて、電子からホールへ遷移する際にf電子とのスピン交換を伴うプロセスが可能になる。この非対角的交換相互作用にともなう運動量変化は反強磁性波数ベクトルに対応するから、この非対角相互作用は反強磁性的に働くことになる。対角(バンド内),非対角(バンド間)交換相互作用にもとづく二種類のRKKY相互作用の間のフラストレーションがCeXで見られるデビルズ・ステアケースを理解する鍵と考えられる。当研究課題での研究によりこの考えが正しいことが、簡単な一次元モデルを用いて検証された。
このRKKY相互作用は、局在スピンによって誘起される磁気的フリーデル振動がその起源である。その詳細を調べるため、近藤格子モデルに対する密度行列繰り込み群のプログラムを開発し、常磁性における電荷およびスピンのフリーデル振動を観測することが出来た。。その周期から、近藤格子の常磁性相では、フェルミ波数が伝導電子の密度に局在スピンの数を加えたもので決まっている、すなわちフェルミ面が大きいことが明らかになった。 -
準二次元電子系の輸送現象
研究課題/研究課題番号:07237208 1995年
上田 和夫
担当区分:研究分担者
高温超伝導の特徴は、2次元的なCuO_2面にキャリアーをドープして超伝導が実現している点にある。特にアンダード-ピングの領域では、NMRの緩和率などにスピン励起が抑制された擬ギャップ的な振舞いが観測されて、高温超伝導機構を理解する一つの鍵と考えられている。今年度始まった新たなテーマとして2次元モット絶縁体で、スピンギャップが観測されているCaV_4O_9に注目し、その機構について理論的考察を行なった。このシステムは2次元的で、スピン1/2ハイゼンベルグモデルが良い模型になっていると考えられるが、その特徴は、正方格子から1/5のスピンを規則的に抜いたことにある。この時4このスピンからなるプラケットが2次元的につながった構造を持っている。我々は、この構造がスピンギャップ形成に有理であることを指摘した。しかし、最近接相互作用のみの時にはまだ反強磁性秩序が残っていることを明らかにし、フラストレーションを引き起こす次近接相互作用の重要性を示した。
モット絶縁体をドープした時の準二次元的伝導を考察するには、いずれにしても三次元性を考慮する必要がある。伝導の問題と、一体グリーン関数の自己エネルギーは密接な関係にあり、我々は面内と面間のトランスファーが著しくことなる系を考え、その自己エネルギーをスピンの揺らぎについてone-loopの近似で計算することを計画している。今年度は、準備として完全な三次元の係を考え自己エネルギーの計算を完了し、さらにそれを用いて三次元における反強磁性スピン揺らぎの機構による超伝導を考察した。その結果、二次元より転移温度が低い傾向はあるものの、スピン揺らぎに対して適当なパラメータを仮定すれば、やはりd-波超伝導が可能となることが明らかになった。これは重い電子系の超伝導に関連して興味深い結果と考えられる。