科研費 - 紺谷 浩
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電子相関と幾何学構造が創発する新規量子相および非線形外場応答の理論
研究課題/研究課題番号:24K00568 2024年4月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
紺谷 浩, 森本 高裕, 田財 里奈
担当区分:研究代表者
配分額:18590000円 ( 直接経費:14300000円 、 間接経費:4290000円 )
カゴメ格子金属は、幾何学的フラストレーションと電子相関との協奏効果がもたらす新規量子相の宝庫であり、なかでも無散逸電流を伴う電流秩序が世界的な注目を集めている。しかしなぜ電流状態が小さな外場により著しく変化するのか、電流秩序と他の秩序(電荷秩序や超伝導)との共存がもたらす創発現象など、未解明問題が山積みである。そこで本研究では、スピン・電荷・ボンドなど複数の秩序変数をまたぐ量子干渉機構や各種くりこみ群などの場の理論、Ginzburg-Landau自由エネルギー理論に基づく現象論、強相関効果を取り込んだ強相関非線形輸送理論など、各種金属電子論を格段と発展させて、未解明問題の総合理解を目指す。
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研究課題/研究課題番号:19H05822 2019年6月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
芝内 孝禎, 戸川 欣彦, 和達 大樹, 小林 研介, 永崎 洋, 大串 研也, 花栗 哲郎, 求 幸年, 岡崎 浩三, 遠山 貴巳, SHANNON Nic, 木村 剛, 有田 亮太郎, 有馬 孝尚, 紺谷 浩
担当区分:研究分担者
本新学術領域研究では、現代の物性物理学の中核をなす磁性・金属絶縁体転移・超伝導のそれぞれの分野において独立に研究され始めている、液晶に類似した「スピン液晶」、「電荷液晶」、「電子対液晶」と言うべき新しい電子状態に着目し、これらを体系化した「量子液晶」の学理を構築する。相互関係の薄かった研究者間の有機的結合を促進するため、領域内外に開かれた共通設備を整備し、若手研究者の交換プログラム等を活用し、共同研究を企画する。若手育成および国際化には特に注力し、国際研究ネットワークを構築して「量子液晶」の概念を物質科学の学術領域として確立する。
本総括班では、研究活動支援、共通設備管理運営、若手育成支援、広報活動、国際活動支援の5つの部会を設け、領域の運営を行っている。2021年度は中間評価が実施され、73ページにわたる中間報告書をまとめた。また、9月には第2期公募研究の説明会をオンライン開催した。
研究活動支援として、9月に行われた日本物理学会2021年秋季大会にて、共催シンポジウム(領域8,領域6) 「鉄系超伝導研究の新展開 ーネマティシティと新規超伝導相ー」を開催した。オンライン開催の中300名近い聴衆を集め、活発な議論が行われた。また11月には物性科学に関連した新学術領域研究・学術変革領域研究(A)が合同で開催する第15回物性科学領域横断研究会(オンライン開催)にて、領域紹介や研究発表などを行った。さらに、2月17日から19日の日程で令和3年度領域研究会をオンライン開催し、領域内外の研究者180名の参加があった。
共通設備としては、大阪府立大学に微細加工システムが納入され、共用装置としての運用の準備を始めている。若手支援として、昨年度後期にスタートさせた若手コロキウムを計5回開催し、20名の若手研究者が講演し、活発な議論と情報交換が行われた。また、第3回QLC若手研究奨励賞を3名に授与した。広報活動としては、領域ホームページの充実化を図るとともに、2編のニュースレターを発行し、関係者に送付・公開した。さらに、領域の動画サイト「QLCチャンネル」では、研究成果の解説、実験室の紹介、公募説明会の内容など17本の動画を公開した。
国際活動として、5月11日から13日の3日間にわたりオンライン国際会議QLC2021を開催した。招待講演38件、ポスター発表91件の発表があり、日本からは246名、国外からは9か国28名の参加登録があり、盛況のうち終えることができた。
本新学術領域研究では、様々な固体物質において量子多体効果により発現する、液晶に類似した電子状態を対象とし、「量子液晶」という概念によって統一的に取り扱うことにより、その普遍性と多様性の基礎学理を探求することを目的としている。現在までに、様々な新規量子液晶状態が新たに見出され、実験と理論の連携により、その理解も着々と進んでいる。特に、量子液晶に関する統一的な理解に向けて、電子状態を対称性により4つのカテゴリーに分類できることを理論的に明らかにした。
また、今年度開催した日本物理学会の共催シンポジウムや国際会議「International Conference on Quantum Liquid Crystals 2021 (QLC2021)」では、予想を超える参加者があり、非常に活発な議論が行われた。
さらに、日本液晶学会誌2021年7月号において、我々の領域の活動を紹介する「量子液晶特集」が組まれ、古典液晶の研究者に対して量子液晶研究の浸透を図ることができた。また、日本物理学会誌12月号では、領域代表による解説として、現代物理のキーワード「固体におけるネマティックの物理(Keyword:ネマティック)」が掲載され、量子液晶の基礎となる考え方を説明した。
以上のような様々な取り組みと業績が評価され、中間評価では、A+(研究領域の設定目的に照らして、期待以上進展が認めれる)の評価結果を得るとともに、令和3年度の領域研究会においても、評価委員から非常に高い評価のコメントを頂いた。
このように、本新学術領域研究は当初の計画以上に進展していると判断する。
領域発足4年目にあたる2022年度では、第2期公募研究代表者を領域に加え、量子液晶の物性科学研究を加速する。特に、今までコロナ禍によりオンライン開催が主体となってきた研究会では、可能な限りハイブリッド化を進め、新しい連携を構築し、共同研究の活発化を進める。
研究活動支援においては、公募研究キックオフミーティング、物性科学領域横断研究会、領域研究会などを開催、QLCセミナーも充実化させる。また、好評を得ている論文投稿費に対する支援を継続し、領域メンバーの研究費の確保につなげる。
共通設備については、3年間で整備した4つの共通設備の運用を継続する。また、次世代放射光施設の共用開始が2024年度となったことを受け、量子液晶の時空間構造を調べるためのコヒーレント軟X線小角散乱の装置開発をフォトンファクトリーで進める予定である。
若手育成支援としては、徐々に回復しつつある国際会議へのオンサイト参加や若手国際スクールへの参加支援を行うとともに、若手研究者の研究成果を議論し合う場として有効な、QLC若手コロキウムを継続的に開催する予定である。
広報活動では、引き続きQLCチャンネルの充実化と年2回程度のニュースレターの発行を目指し、量子液晶の概念の浸透を目指す。
国際活動支援については、2023年に開催を予定している国際会議「International Conference on Quantum Liquid Crystals 2023 (QLC2023)」の準備を進める。また、量子液晶研究に関する英語のレビューの執筆を進め、国際誌での発表を目指し、国際的な浸透をさらに推し進める。 -
研究課題/研究課題番号:19H05825 2019年6月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
紺谷 浩, 求 幸年, 遠山 貴巳, SHANNON Nic, 有田 亮太郎, 池田 浩章, 佐藤 正寛
担当区分:研究代表者
配分額:163020000円 ( 直接経費:125400000円 、 間接経費:37620000円 )
近年、ナノからメゾスケールの自己組織化を伴う量子液晶状態が、様々な電子系で相次いで発見された。例えば鉄系および銅酸化物超伝導体では電荷液晶が、量子スピン系ではスピン液晶が実現する。そこで本研究では、各分野で独立に発展してきた理論手法を糾合して、多彩な量子液晶の根底にある普遍的な原理を解明する。量子液晶状態におけるマヨラナ粒子などの新種の素励起(固体中の新素粒子)や、エキゾティック超伝導など液晶揺らぎによる創発現象を研究する。また量子液晶に対する制御理論や非平衡現象の理論を発展させる。同時に第一原理的手法を駆使して、量子液晶状態を実現する物質設計の理論を構築する。
強相関電子系において普遍的に観測される、ナノからメゾスケールの自己組織化を伴う量子液晶状態に対する理論研究を推進し、以下の研究実績をあげた。
電荷液晶に関する研究実績では、鉄系超伝導体および銅酸化物超伝導体における、新種の電荷ネマティック秩序やスメクティック秩序を理論的に予言し、実験班による実験報告に対する理論的説明を与えた。遷移金属ダイカルコゲナイドにおける非整合電荷秩序の微視的起源を説明した。また、新規強相関超伝導体であるニッケル酸化物超伝導体の理論研究を実施し、この系の多体電子状態および超伝導発現機構を、第一原理的手法に基づき明らかにした。更に、動的密度行列繰り込み群法などの最先端の理論手法を駆使して、量子液晶の非平衡現象やダイナミクスの理論を構築した。
さらに第一原理的手法を駆使して、超高圧下の高温超伝導体LaH10の理論研究を推進した。その結果、この系の新奇な圧力誘起量子液体状態が明らかになり、この系の高温超伝導発現機構に関する重要な知見を得ることが出来た。
スピン液晶に関する研究実績では、モアレスピン超格子の概念を導入し、各種スピン液晶に対する包括的議論を行った。並行して、様々な大規模数値解析手法を糾合して各種スピン系を詳細に調べ、その基底状態や励起状態、創発的電磁現象を明らかにした。またキタエフスピン系など代表的な量子スピン系におけるスピン液体状態や励起状態、各種輸送現象の理論研究を行い、実験班との協力により重要な成果を上げた。
量子液晶現象が発現する代表的物質であり、世界的に研究が進展している鉄系超伝導体や銅酸化物高温超伝導体(電荷液晶)、フラストレート量子スピン系やキタエフスピン系(スピン液晶)の理論研究において、重要な研究の進展が得られた。例えば、鉄検超伝導体におけるスメクティック秩序の理論を新たに提唱し、実験班による実験報告の理解を可能にした。また量子スピン系における熱伝導など各種輸送現象について、実験班と協力して研究を推進し、著しい進展が得られた。
加えて、量子液晶状態の数値的計算手法に関して、重要な進歩があった。例えば、電荷液晶の秩序パラメーターを「構造因子」として一般化し、汎関数繰り込み群理論や密度波方程式理論に基づいて構造因子の最適化を行うことで、量子液晶秩序をバイアスなく決定する手法が開発された。また、モアレスピン超格子の概念を導入することで、スピン液晶の多様性や創発的電磁現象に関する包括的な研究が可能になった。更に、第一原理計算手法に基づく量子液晶物質の物質設計の理論においても、大きな進展があった。今回開発された理論計算手法を、様々な量子液晶物質に適用することにより、重要な研究成果が見込まれる。
上記の理由より、現在までの研究の進捗状況は、大変順調に進展していると判断される。
今後の研究の推進方策は以下の通りである。
〇電子液晶の研究: 本班で発展させてきた汎関数繰り込み群理論や密度波方程式、動的平均場理論といった最先端の量子多体理論に基づき、様々な強相関金属を網羅的に解析し、新しい電荷液晶秩序を予言する。また群論に基づく現象理論を発展させ、電子液晶における新種の電気磁気効果や非線形現象、非相反現象を解明する。
〇スピン液晶の研究: 本班で発展させてきたマヨラナ平均場近似法や量子モンテカルロ法などの理論的手法を活用し、キタエフスピン系をはじめとする様々な量子スピン液体系におけるスピン液晶秩序の研究を推進する。加えて多項式展開ランジュバン法などの計算手法を用いて、磁気スキルミオンなど磁気テクスチャや量子輸送現象の研究を行う。
〇量子液晶の非平衡現象: 動的密度行列繰り込み群法などの大規模数値計算を推進し、量子液晶における動的性質を研究する。また、スピン流揺らぎやレーザー駆動高次高調波の解析を推進する。
〇非従来型超伝導の発現機構の研究: 超高圧下の高温超伝導体LaH10やニッケル酸化物超伝導体、STO基板上のFeSeなどの非従来型の高温超伝導の発現機構を解明する。量子液晶の揺らぎが媒介する新規引力機構を考慮して、従来のMigdal-Eliashberg理論を超えた多体効果(バーテックス補正)を考慮した超伝導理論を構築する。
〇量子液晶の総合的研究: これまで本班で培ってきた、電荷液晶、スピン液晶、電子対液晶に関する理論的知見を糾合し、量子液晶の統一的理論の構築を目指した総合的研究を推進する。 -
電子相関が創出する電子液晶現象の理論:素励起、超伝導および量子臨界現象
研究課題/研究課題番号:18H01175 2018年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
紺谷 浩, 土射津 昌久
担当区分:研究代表者
配分額:17030000円 ( 直接経費:13100000円 、 間接経費:3930000円 )
鉄系超伝導体や銅酸化物超伝導体、重い電子系に対して多体電子状態の理論研究を実施し、以下の新規多体効果を新たに見出した。
鉄系超伝導体の研究: 過剰電子ドープ系において発見された新種の電子ネマティク秩序である「B2gネマティック秩序」に対する理論解明を行った。その秩序変数は鉄のd_{xy}軌道を舞台とするC4対称性の破れである「d波ボンド秩序」である。その微視的起源はスピン揺らぎ間の量子干渉効果であり、Aslamazov-Larkin型ダイヤグラムで記述される。また、鉄系超伝導体の超伝導状態(T<Tc)における動的スピン帯磁率を精度よく計算する手法を開発し、非弾性中性子散乱実験で観測される「レゾナンスピーク」がS++波状態に基づき定量的に説明可能であることを見出した。本理論では、従来の理論で無視されていた自己エネルギー補正が本質的役割を果たす。
銅酸化物超伝導体の研究: (1,1)エッジの表面においてアンドレーフ束縛状態に由来する強磁性臨界現象を見出した。特に、強磁性揺らぎが媒介する「エッジ誘起p波超伝導」の発現を理論的に見出した。
重い電子系の研究: f軌道の強いスピン軌道相互作用がもたらす「多極子自由度」に注目し、f電子系の多極子揺らぎ理論を構築した。Aslamazov-Larkinバーテックス補正を考慮することで、磁気多極子揺らぎ間の干渉効果によって電気多極子秩序が生じる新機構を明らかにした。この機構を用いて、「CeB6における四極子秩序」や「CeCu2Si2における十六極子揺らぎs波超伝導機構」を理論的に導出した。
鉄系超伝導体の研究においては、過剰電子ドープ系における「B2gネマティック秩序」に対する理論解明を、世界に先駆けて行うことが出来た。その微視的起源である「量子干渉効果」は、我々のグループが世界に先駆けて明らかにした電子相関機構であり、明確なオリジナリティーが認められる。また、非弾性中性子散乱実験における「レゾナンスピーク」をS++波状態に基づく定量的説明に成功し、これによりこの系の超伝導対称性に関する大変重要な知見を得ることが出来た。
銅酸化物超伝導体の研究では、アンドレーフ束縛状態に由来するエッジ強磁性臨界現象を初めて明らかにすることが出来た。
重い電子系の研究においては、Aslamazov-Larkinバーテックス補正を考慮した「f電子系の多極子揺らぎ理論」を、本研究により初めて構築することが出来た、その結果、磁気多極子揺らぎ間の干渉効果によって田財な電気多極子秩序が生じる新機構を明らかになった。本理論に基づき、「CeB6における四極子秩序」や「CeCu2Si2における十六極子揺らぎs波超伝導機構」などの、f電子系の重要未解明問題を説明することが出来た。
以上の研究業績を考慮し、現在までの進捗状況は十分順調に進展していると判断した。
鉄系超伝導体や銅酸化物超伝導体、重い電子系をはじめとする、様々な強相関金属を総合的に解析する。バーテックス補正を考慮した多体電子状態の理論研究を推進し、以下の理論研究を推進する。
新規強相関電子系の解析: 遷移金属ダイカルコゲナイドや捻り2層グラフェン、カゴメ格子系などの新しい強相関金属を研究する。特に、これらの電子系で発現する新奇な量子相転移(ネマティック秩序やスメクティック秩序など)について、Aslamazov-Larkin型バーテックス補正を考慮した理論解析を実行する。
新規超伝導体の超伝導発現機構の研究: 最近実験的に明らかにされた、鉄系超伝導体Fe(Se,Te)の状態相図によると、この系の超伝導機構は電子ネマティク揺らぎが担っている可能性が高い。この実験事実に着目して、電子ネマティク揺らぎが媒介するS波超伝導の理論を構築する。本理論をFe(Se,Te)をはじめとする様々な鉄系超伝導体や、各種新規超伝導体に適用し、未知の超伝導発現機構を研究する。
新規多体理論の構築: 平均場近似を超えた高次多体効果を計算する手法として、汎関数繰り込み群法(fRG)は大変有力である。最近我々は、fRGに基づき量子液晶秩序の秩序変数である「構造因子」をバイアスなく決定する手法を開発し、擬一次元電子系において「電流ループ秩序」が生じることを明らかにした。この理論をさらに発展させて、各種2次元電子系に適用し、電子相関による量子相転移現象をバイアスなく研究する。 -
電子相関が創出する電子液晶現象の理論:素励起、超伝導および量子臨界現象
2018年4月 - 2020年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
紺谷浩
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強相関超伝導体における電荷・軌道・スピン複合自由度の協奏現象の理論解明
2015年4月 - 2018年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
紺谷浩
担当区分:研究代表者
FeSe における磁性を伴わない液晶秩序を説明すべく、バーテックス補正の理論に立脚してFeSe の相図の包括的理解を行った。特に、(1)TS 以下の波数空間における符号反転を伴う軌道秩序、(2)圧力誘起磁性秩序およびTS の増大、(3)原子層FeSe における高温s++波超伝導の発現機構を研究した。また、銅酸化物超伝導体における電荷液晶を研究し、その正体が多体効果による有効hopping の対称性が破れたd波ボンド秩序であることを見出した。
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強相関超伝導体における電荷・軌道・スピン複合自由度の協奏現象の理論解明
研究課題/研究課題番号:15H03687 2015年4月 - 2018年3月
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:16900000円 ( 直接経費:13000000円 、 間接経費:3900000円 )
強相関電子系では、高次の多体効果である「バーテックス補正」の重要性に近年注目が集まっている。我々は、ダイヤグラムの理論と汎関数繰り込み群の理論を両輪に、鉄系超伝導体や銅酸化物超伝導体におけるバーテックス補正の包括的研究を遂行し、未解明問題の解決に取り組んだ。その結果、これらの系で広く観測される電子状態が自発的に回転対称性を破る「電子ネマティック秩序」の発現機構が、Aslamazov-Larkin型バーテックス補正であることを見出した。その物理的意味は「電荷・スピン・軌道の量子的縺れ合い」であり、強相関電子系において大変重要な役割を果たす。
鉄系超伝導体や銅酸化物超伝導体における「電子ネマティク秩序」は、従来の標準的理論(平均場近似など)では理解不可能であり、その理論的解明が急務であった。本研究で我々は、高次の多体効果である「バーテックス補正」の重要性にいち早く注目して理論を発展させ、電子ネマティク秩序の理論的再現に成功した。開発された理論手法は、重い電子系など他の強相関電子系にも適用可能であると期待される。また、電子ネマティク秩序の揺らぎは超伝導ペアリング機構を与えるため、鉄系超伝導体や銅酸化物超伝導体における高温超伝導発現機構の解明に向けての、重要な足掛かりを与える。 -
鉄系超伝導体の新規な多軌道物理現象と超伝導発現機構
研究課題/研究課題番号:24340081 2012年4月 - 2016年3月
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:19110000円 ( 直接経費:14700000円 、 間接経費:4410000円 )
鉄系超伝導体における未解明問題である(i)電子ネマティック秩序の起源、および(ii)超伝導発現機構の研究を行った。電子ネマティック秩序は平均場近似では説明できない難問であった。本研究では平均場近似を超えた多体効果(バーテックス補正)を考慮することで、電子相関によって軌道秩序が発生することを見出した。本研究により、電子ネマティック秩序の起源が軌道秩序であることが明らかになった。FeSeにおける非磁性軌道秩序相は、本理論により初めて説明された。さらに、軌道秩序相近傍で発達する軌道揺らぎが媒介する引力相互作用が、高温超伝導状態の起源となることを見出した。
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鉄系超伝導体の新規な多軌道物理現象と超伝導発現機構
2012年4月 - 2015年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
紺谷浩
鉄系超伝導体における軌道秩序の出現は、超伝導発現機構と密接に関係した重要な事実である。本研究では高次の電子相関効果である「バーテックス補正」を考慮した理論を構築し、多軌道ハバード模型に適用することで、平均場レベルの理論では説明できなかった鉄系超伝導体の相図の再現に世界で初めて成功した。さらに、スピン揺らぎと軌道揺らぎが共存する場合に期待される「s++波状態とs±波状態のクロスオーバー」に関する先駆的な理論計算を行い、ARPES 等の実験事実の説明に成功した。更に、バーテックス補正の理論を銅酸化物に適用し、平均場レベルの理論で説明ができなかったQ=(π/2,0)ストライプ電荷秩序の再現に、世界に先駆けて成功した。
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軌道自由度に由来する新規な輸送現象の研究
研究課題/研究課題番号:21540358 2009年 - 2011年
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:4290000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:990000円 )
軌道自由度を有する金属における多体電子状態を研究した。主に、(i)軌道自由度とスピン軌道相互作用に由来するベリー位相(軌道ベリー位相)によるスピンホール効果や異常ホール効果の研究、また(ii)多体効果によって発現する軌道揺らぎを媒介とする超伝導発現機構や、異常輸送現象に関する研究を遂行した。
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重い電子系の形成と秩序化
2008年4月 - 2013年3月
科学研究費補助金 新学術領域研究
上田和夫
担当区分:研究分担者
我々はf電子系における非フェルミ液体的輸送現象を、バーテックス補正を考慮した解析により説明を行った。さらに、f電子不純物によるスキュー散乱により、巨大スピンホール効果が発現することを世界に先駆けて見出した。一連の研究で発展させた多重極相互作用の理論的取り扱い手法を発展させて、強相関電子系における軌道揺らぎ理論の構築に成功した。
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フラストレート系における輸送現象、特にホール効果の理論研究
2008年4月 - 2010年3月
科学研究費補助金 特定領域研究
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
パイロクロア結晶構造を持つ遍歴強磁性金属Nd2Mo2O7における非従来型異常ホール効果について研究し、そのメカニズムを解明した。この物質では、低温でNdサイトの局在f電子がスピンアイス秩序と呼ばれる互いに傾いたスピン配置を示し、d-f交換相互作用の結果、金属伝導を担うMoの4d電子のスピンが角度θだけ傾いた「傾いた強磁性状態」が実現する。このとき出現する顕著な異常ホール効果は、巨視的磁化に比例する従来型の異常ホール効果では到底説明できず、「微視的スピン構造がもたらす非従来型里常ホール効果」として注目を集めてきた。その起源として、スピンカイラリティー機構が提唱されて注目を集めたが、実験の定量的説明には至らなかった。
その説明として、申請者は軌道Aharonov-Bohm効果の理論を提唱した[T.Tomizawa and H.Kontani. Phvs. Rev. B 80, 100401(R) (2009) ; Editor's suggestion]。軌道自由度を考慮すると、カゴメ格子上の三角形の経路を電子が一周する際に、各Moサイ下で原子軌道の位相差に由来する、θに比例するベリー位相因子を獲得することがわかる。このベリー位相は、経路中を貫ぬく有効磁場の働き昂するため、雷子は外部電場と垂直方向にドリフト運動する。その結果、θに線形め顕著な異常ホール効果が出現ずる。Nd2Mo2O7ではθ≪1であるごとから、スピンカイラリティー機構よりも軌道機構が重要である。このようにして、10年来の謎であったNd2Mo2O7における非従来型異常ホール効果は、申請者の提唱する軌道機構として定量的に理解できることが明らかになった。 -
f電子の多自由度性に創出する新奇な量子秩序と超伝導の理論
研究課題/研究課題番号:20102008 2008年 - 2012年
新学術領域研究(研究領域提案型)
堀田 貴嗣
担当区分:研究分担者
電子の見かけ上の質量が数百倍から千倍に増大する重い電子現象は希土類およびアクチノイド化合物で現れるが、これまで、電子の遍歴性と局在性の競合に基づいて理解されてきた。本研究では、電荷とスピンに加えて、軌道や格子の自由度も絡んだ電子の多自由度性を考慮した新型の重い電子形成機構を明らかにした。また、スピンと軌道が複合した多極子の秩序、価数揺らぎによる量子臨界現象、非調和格子振動による超伝導、軌道縮退系の軌道揺らぎ超伝導を明らかにした。
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重い電子系における巨大スピンホール効果の実証とスピントロニクスへの展開
研究課題/研究課題番号:20246004 2008年 - 2010年
寺嶋 孝仁
担当区分:研究分担者
電子スピンを活用する新しいエレクトロニクス(スピントロニクス)において大きな期待がかけられている細線に電流を流すことで、線に垂直な方向に磁化が生じる現象、スピンホール効果について新しい希土類系の物質の開拓を実験・理論の両面から行った。大きなスピンホール効果が期待される希土類を含む金属間化合物の薄膜やナノメートルサイズで制御された人工的な構造を持つ物質を実現することに成功した。
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フラストレート系における輸送現象、特にホール効果の理論研究
研究課題/研究課題番号:20046007 2008年 - 2009年
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:1700000円 ( 直接経費:1700000円 )
パイロクロア結晶構造を持つ遍歴強磁性金属Nd2Mo2O7における非従来型異常ホール効果について研究し、そのメカニズムを解明した。この物質では、低温でNdサイトの局在f電子がスピンアイス秩序と呼ばれる互いに傾いたスピン配置を示し、d-f交換相互作用の結果、金属伝導を担うMoの4d電子のスピンが角度θだけ傾いた「傾いた強磁性状態」が実現する。このとき出現する顕著な異常ホール効果は、巨視的磁化に比例する従来型の異常ホール効果では到底説明できず、「微視的スピン構造がもたらす非従来型里常ホール効果」として注目を集めてきた。その起源として、スピンカイラリティー機構が提唱されて注目を集めたが、実験の定量的説明には至らなかった。
その説明として、申請者は軌道Aharonov-Bohm効果の理論を提唱した[T.Tomizawa and H.Kontani. Phvs. Rev. B 80, 100401(R) (2009) ; Editor's suggestion]。軌道自由度を考慮すると、カゴメ格子上の三角形の経路を電子が一周する際に、各Moサイ下で原子軌道の位相差に由来する、θに比例するベリー位相因子を獲得することがわかる。このベリー位相は、経路中を貫ぬく有効磁場の働き昂するため、雷子は外部電場と垂直方向にドリフト運動する。その結果、θに線形め顕著な異常ホール効果が出現ずる。Nd2Mo2O7ではθ≪1であるごとから、スピンカイラリティー機構よりも軌道機構が重要である。このようにして、10年来の謎であったNd2Mo2O7における非従来型異常ホール効果は、申請者の提唱する軌道機構として定量的に理解できることが明らかになった。 -
相互作用の拮抗がもたらす超伝導現象、輸送現象および不純物効果の理論研究
2007年4月 - 2009年3月
科学研究費補助金 特定領域研究
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
鉄砒素系超伝導体における超伝導状態は、一般の異方的超伝導体と異なり、不純物や乱れに対してかなり強いことが実験で明らかにされた。この実験事実は、超伝導ギャップの符号変化が存在しないことを示唆し、RPA近似等が予言する符号反転s波状態(s±波状態)と一見矛盾する。そこで我々はs±波状態に対する不純物効果を明らかにする目的で、2バンドBCS模型を詳細に解析した。鉄砒素系のように各バンドの軌道成分が異なる時、バンド内不純物散乱ポテンシャルIとバンド間不純物散乱ポテンシャルI'は異なる(I'/I≠1)ことがわかる。我々の解析によると、I≫N(0)のユニタリー領域においては、I'/I=1という特殊な場合に限り顕著な対破壊効果が生じ、わずか1~2%の不純物によってTc(~50K)が消滅するが、一般には対破壊効果は非常に小さく、10%以上の不純物濃度でもTcが有限に残ることを明らかにした。その理由は、多重散乱をT行列で無限次まで足し上げる結果、I'/I≠1の場合にはバンド間散乱が繰り込まれて小さくなるためである。本研究により不純物効果の実験事実は、現実的5バンド模型に基づき理論的に予言されるs±波状態と矛盾しないことが明らかになった。
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ナノヘテロ構造におけるスピン注入とスピン蓄積の理論
研究課題/研究課題番号:19048022 2007年 - 2010年
井上 順一郎
担当区分:研究分担者
電子は電荷とスピンと呼ばれる角運動量を持っている。前者は半導体エレクトロニクスの基礎であり,後者は磁性の起源であり,磁石としての応用分野がある。通常の金属や半導体中ではスピン角運動量は平均としてゼロであるが,強磁性物質中ではスピン角運動量はゼロではなく,その中を流れる電流はスピンの流れ(スピン流)も持っている。本研究では,スピン流のもたらす新しい現象-スピンホール効果-が金属において非常に大きくなることを理論的に予言した。さらに,半導体・グラフェンと強磁性金属との接合において,電流注入により半導体(グラフェン)中にスピン流が存在すること,その結果,電流による磁場の効果が非常に大きくなることを見いだした。このことは,半導体・グラフェン/強磁性金属接合を新しいデバイスとして応用できる可能性を示すものである。
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相互作用の拮抗がもたらす超伝導現象、輸送現象および不純物効果の理論研究
研究課題/研究課題番号:19014008 2007年 - 2008年
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:1800000円 ( 直接経費:1800000円 )
鉄砒素系超伝導体における超伝導状態は、一般の異方的超伝導体と異なり、不純物や乱れに対してかなり強いことが実験で明らかにされた。この実験事実は、超伝導ギャップの符号変化が存在しないことを示唆し、RPA近似等が予言する符号反転s波状態(s±波状態)と一見矛盾する。そこで我々はs±波状態に対する不純物効果を明らかにする目的で、2バンドBCS模型を詳細に解析した。鉄砒素系のように各バンドの軌道成分が異なる時、バンド内不純物散乱ポテンシャルIとバンド間不純物散乱ポテンシャルI'は異なる(I'/I≠1)ことがわかる。我々の解析によると、I≫N(0)のユニタリー領域においては、I'/I=1という特殊な場合に限り顕著な対破壊効果が生じ、わずか1~2%の不純物によってTc(~50K)が消滅するが、一般には対破壊効果は非常に小さく、10%以上の不純物濃度でもTcが有限に残ることを明らかにした。その理由は、多重散乱をT行列で無限次まで足し上げる結果、I'/I≠1の場合にはバンド間散乱が繰り込まれて小さくなるためである。本研究により不純物効果の実験事実は、現実的5バンド模型に基づき理論的に予言されるs±波状態と矛盾しないことが明らかになった。
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非一様な強相関電子系における電子状態、特に輸送現象の理論的研究
2006年4月 - 2009年3月
科学研究費補助金 若手研究(B)
紺谷浩
反強磁性量子臨界点(AF-QCP)近傍の強相関電子系では、わずか1%の非磁性不純物が系全体の電子状態を劇的に変化させることが知られている。たとえば銅酸化物高温超伝導体では、1%のZn不純物により巨大な残留抵抗が生じたり、1μBに達する大きな局在モーメントが発生する。今回我々は、FLEX近似を拡張して空間的に非一様な状態に適用できる近似理論(GVI理論)を開発して、高温超伝導体における非磁性不純物問題を解析した。その結果、上記の実験事実を第一原理的に再現することに始めて成功した。その後、我々は鉄砒素系高温超伝導体における不純物効果を研究し、超伝導対称性に関する重要な知見を得た。さらに我々はAg金属中におけるYb不純物が、Ybの電子相関によって劇的に大きなスピンホール効果をもたらすことを理論的に予言した。
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非一様な強相関電子系における電子状態、特に輸送現象の理論的研究
研究課題/研究課題番号:18740197 2006年 - 2008年
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:3800000円 ( 直接経費:3500000円 、 間接経費:300000円 )
反強磁性量子臨界点(AF-QCP)近傍の強相関電子系では、わずか1%の非磁性不純物が系全体の電子状態を劇的に変化させることが知られている。たとえば銅酸化物高温超伝導体では、1%のZn不純物により巨大な残留抵抗が生じたり、1μBに達する大きな局在モーメントが発生する。今回我々は、FLEX近似を拡張して空間的に非一様な状態に適用できる近似理論(GVI理論)を開発して、高温超伝導体における非磁性不純物問題を解析した。その結果、上記の実験事実を第一原理的に再現することに始めて成功した。その後、我々は鉄砒素系高温超伝導体における不純物効果を研究し、超伝導対称性に関する重要な知見を得た。さらに我々はAg金属中におけるYb不純物が、Ybの電子相関によって劇的に大きなスピンホール効果をもたらすことを理論的に予言した。
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充填スクッテルダイト化合物が示す特徴的物性の理論的解明
研究課題/研究課題番号:18027004 2006年 - 2007年
倉本 義夫
担当区分:研究分担者
理論班は,スクッテルダイト系における新奇現象理解への鍵となる概念形成を行い,全計画班の連携をサポートすることなどを主要な目標として活動した。その結果,以下を例とする多くの成果を得た。
1. Prスタッテルダイトでは,結晶場状態により,近藤効果の重要性が大きく異なることを微視的な計算によって示した。
2. PrFe4P12やPrRu4P12の秩序変数は,結晶の立方対称性を保つスカラー型であり,これが交替的に副格子を形成していることを提案し,温度に依存する結晶場状態など多くの実験を説明した。
3. SmRu4P12の奇妙な相図と物性について,磁気八極子が主要な秩序変数であることを確認し,CeB6との類似性から特徴的なNQRパターンなどを説明できることを指摘した。
4.多極子秩序による帯磁率,磁気異方性への反映を現象論を用いて明らかにした。これにより実験結果を多極子の描像によって合理的に解釈した。
5. PrFe4P12の複雑な核磁気共鳴スペクトルを対称性を考慮して解析し,スカラー型秩序変数の描像で説明できることを示した。
6.伝導電子のバンド構造が秩序構造に与える役割を明らかにした。特に結晶構造とリガンド電子の構造により強いネスティングが存在することが,多極子の反強的秩序形成に重要であることを示した。
7.スクッテルダイト特有の構造によるラトリングの役割に注目し,超音波物性に対する特有の効果を明らかにした。また磁場に鈍感な重い電子生成に導く可能性を指摘した。 -
スクッテルダイト化合物における重い電子状態と近藤絶縁体状態の理論
研究課題/研究課題番号:16037204 2004年 - 2005年
佐宗 哲郎
担当区分:研究分担者
1.Ce-スクッテルダイト化合物のうちの,CeRu_4Sb_<12>については,バンド計算では絶縁体だが,実験では金属で,矛盾していた。そこで,昨年度に構築したtight-binding模型を改良し,さらに本質的な部分のみを抽出した模型を新たに作った。これは,実験と合う半金属型の模型である。これを用いて,電気抵抗・熱起電力(Seebeck係数)・光学伝導度の計算を行い,半定量的に実験結果を説明することに成功した。(論文印刷中)
2.おなじく,CeOs_4Sb_<12>について,実験で,温度0.8Kでスピン密度波への転移が見つかっており,しかも,磁場をかけると転移温度が上昇するという特異な振る舞いを示した。我々は,1.と類似の模型を用い,分子場近似により,この現象を説明することに成功した。(論文発表済)
3.強相関電子系における光学伝導度およびホール伝導度の研究:通常金属における交流ホール係数は、R_H(ω)の虚部は殆ど0であり、これはボルツマン近似がよく成り立っていることを意味する。ところが高温超伝導体ではImR_H(ω)は有限のωで極めて大きな値をとり、その値は低温かつ低ドープ領域において非常に大きくなる。我々はR_H(ω)をFLEX近似に基づき、カレントに対するバーテックス補正をω依存性まで考慮して解析し、実験で観測される交流ホール係数の異常な振舞いを良く再現することが出来た。本研究により、高温超伝導体の交流及び直流輸送現象の振舞いが、フェルミ液体の立場からバーテックス補正を考慮することで「統一的に」理解できることが明らかになり、高温超伝導体の正常状態における電子状態の理解が進歩したといえる。(論文発表済)
4.Na_<0.35>CoO_2についても,理論的な解析を行った。(論文発表済) -
分子性導体の極限環境下における半導体から金属へのクロスオーバー
研究課題/研究課題番号:15073213 2003年 - 2007年
鈴村 順三
担当区分:研究分担者
本研究では。低次元電子系における、圧力下での絶縁体から金属までの伝導電子の状態変化に関して以下の研究を行った。1、擬一次元電子系において鎖間の異なる2つの電荷移動の競合が増加することによりモット絶縁体から金属へ移ることをN鎖繰り込み群を用いて明らかにし、この結果出現する金属状態はネスティングを反映しファルミ面に依存した準粒子であることを示した。2、1次元朝永-ラッチンジャー液体における境界効果を調べるために核磁気緩和率を計算した。境界から離れるとフェルミ波数に依存し振動しながら一定値に近づくこと、その振幅は相互作用により増加する一方、温度揺らぎにより減少するという両者の競合の振る舞いを明らかにした。3、擬2次元有機導体β"-(DODHT)_2PF_6は常圧では電荷秩序を示すが、圧力下では超伝導が出現する。これは圧力下で金属状態になりためで、この発現機構として電荷秩序が存在するか又は融解するかによりスピン揺らぎ又は電荷揺らぎの可能性を指摘した。4、1次元電子系(EDO-TTF)_2PF_4塩の特異な絶縁体を理解するため、斥力相互作用や格子歪との結合が存在する場合の電子系を調べ、最近接斥力が十分大きい場合に電子-格子相互作用の効果により特異なパイエルス状態が生じることを示した。さらに格子歪がゼロの近傍の準安定状態が光誘起伝導に寄与する可能性を指摘した。5、擬2次元有機導体α-(BEDT-TTF)_2I_3のゼロギャップ状態における密度波形成をしらべ、運動量空間の2つの縮退点を結ぶ波数を持つスピン密度波が、バンド間励起、相互作用及び3次元効果により出現する可能性を示した。
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高温超伝導体やその関連物質における静的及び動的輸送現象の理論的研究
研究課題/研究課題番号:15740198 2003年 - 2005年
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:3500000円 ( 直接経費:3500000円 )
●強相関電子系における光学伝導度およびホール伝導度の研究:
高温超伝導体における交流ホール係数は、ImR_H(ω)が有限のωで極めて大きな値をとり、更にその値は低温かつ低ドープ領域において非常に大きくなる。これはボルツマン近似の破綻を意味する。我々はR_H(ω)をFLEX近似に基づき、カレントに対するバーテックス補正をω依存性までまじめに考慮して解析した。この数値計算の手法は、本研究ではじめて開発されたものである。研究の結果、反強磁性近傍の金属では、バーテックス補正によりR_H(ω)の異常なωおよび温度依存性が良く再現されることが明らかになった。本研究により、高温超伝導体の交流及び直流輸送現象の振舞いが、フェルミ液体の立場からバーテックス補正を考慮することで「統一的に」理解できることが明らかになり、高温超伝導体おける電子状態および超伝導発現機構の理解が進んだといえる。
●三角格子Co酸化物超伝導体NaxCoO2・yH2Oの研究:
水をインターカレートした超伝導体RaxCoO2・yH2Oにおける電子状態および超伝導発現機構を研究した。この系のフェルミ面は、バンド計算による予想とARPESによる実験結果とで大きく異なり、問題になっていた。そこで我々はFLEX近似に基づきNaxCoO2の正常状態を詳細に解析して、実験において観測されている帯磁率や状態密度の弱い擬ギャップ的振る舞いが、ARPESのフェルミ面を仮定した場合に限って再現できることを示した。次に我々は、CoO2層の光学フォノン(シェアモード、ブリージングモード)によるs波超伝導の可能性を考えた。解析の結果、シェアモードフォノンによって、クーパー対がFermi面を形成するalg軌道と価電子バンドを形成するeg'軌道の間を遷移するため、超伝導転移温度学が劇的に上昇することを明らかにした。この機構を我々はValence-Band Suhl-Kond機構と命名した。この機構に基づき、ARPESで観測されている準粒子スペクトルにおけるキンク構造も同時に再現できた。 -
高温超伝導体・有機物超伝導体の各種輸送現象における非フェルミ液体的挙動の理論
研究課題/研究課題番号:13740202 2001年 - 2002年
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:2400000円 ( 直接経費:2400000円 )
1.高温超伝導体の擬ギャップ領域における輸送現象の理論:高温超伝導体の低ドープ領域では擬ギャップ温度T^*以下で各種物理量が擬ギャップ的振舞いを示し、そのメカニズムの解明は最近の高温超伝導体の研究における中心的課題である。最近Stanford大学のOng達により、高温超伝導体の常伝導相におけるネルンスト係数が詳細に計測され、擬ギャップ領域でネルンスト係数が著しく増大するという、通常の金属では考えられない特異な挙動を示すことが明らかになった。この実験結果から、Ong達は擬ギャップ領域で多数のボルテックス・反ボルテックス対が熱的に励起されていると考え、議論を呼んだ。一方、我々は擬ギャップ領域で強い超伝導揺らぎが発達しているという立場に立ち、フェルミ液体論の立場からネルンスト係数の計算を行った。その結果、カレントに対する多体効果であるバーテックス補正項を考慮することで、T^*以下におけるネルンスト係数及び磁気抵抗の急激な増大が再現されることがわかった。本研究により、高温超伝導における様々な輸送係数(ホール係数、磁気抵抗、熱起電力及びネルンスト係数)の複雑で特徴的な振舞いが、反強磁+超伝導揺らぎの理論に基づき統一的に理解できることが明らかになり、特に擬ギャップ領域において強力な超伝導揺らぎが発達していることが結論された。
2.強相関電子系における熱・電気的輸送係数の一般理論:強相関電子系における熱流と電流が絡んだ輸送現象の研究の為には、電子相関に関する詳細な考察が必要である。Littingerの線型応答理論('64)によると熱起電力は電流と熱流の相関関数より与えられるが、熱流のオペレーターは相互作用項に由来する2体項を含むため多体電子系では一般に複雑であり、バーテックス補正の理論的解析は過去不十分であった。我々は局所的エネルギー保存則から導かれるワード恒等式に着目して,熱起電力やネルンスト係数に対する厳密かつ簡便な一般的表式を導出した。これらの表式に含まれるバーテックス補正(前方散乱項)Γ^Iを,ワード恒等式Γ^I=δΣ/δGをみたすよう計算することで,各種輸送係数に対する保存則を満たす近似(Baym-Kadanoffのconserving approximation)がはじめて可能となった。 -
高温超伝導関連物質の輸送現象における非フェルミ液体的挙動:ホール効果、磁気抵抗
研究課題/研究課題番号:11740191 1999年
奨励研究(A)
紺谷 浩
担当区分:研究代表者
配分額:1200000円 ( 直接経費:1200000円 )
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凝縮系物理における多体問題
研究課題/研究課題番号:07044066 1995年 - 1996年
国際学術研究
上田 和夫
担当区分:研究分担者
自然界の現象は、素粒子レベル、原子レベル、セミマクロなレベル、マクロなレベルと階層的構造を示すことが多い。この階層的構造は、エネルギースケールの問題ということも出来るし、また長さのスケールの問題ということも出来る。凝縮系物理における多体問題理解の方法というものもそれに関連している。種々のレベルの問題があり、それぞれのレベルでことなる方法が用いられるのが常であるが、時として違うレベルで発展した方法が有益な示唆を与えることがある。凝縮系物理の重要問題にこうした意義を持って取り組もうというのが我々の目指した所であった。
当研究課題の期間にスタートしたプラケットRVBのスピンギャップ相に関する国際共同研究は順調な展開を見せ、2次元ハイゼンベルグスピン系の量子相転移の臨界現象の研究へと発展した。その結果、ハイゼンベルグ系から非線形シグマモデルへの写像理論の予言する3次元O(3)古典スピン系の臨界指数と一致することが、ループアルゴリズムを用いた量子モンテカルロシミュレーションによって確立された。スピンギャップに関する研究は、3次元的に結合した梯子鎖の秩序無秩序転移、梯子鎖のホール係数などの輸送現象の議論へと発展した。これらの研究を通じて、スピンギャップ研究の意義が量子臨界点近傍の得意な物理現象の解明にあることが次第に明瞭に認識されるようになったが、この意味では反強磁性長距離秩序のある系でも臨界点近傍では面白い現象が期待される。実際CaV_3O_7では、ストライプ秩序と呼ばれるネ-ル秩序とはことなる磁性状態が観測されているが、この状態は古典的には安定でない状態であるにも関わらず量子揺らぎによって始めて安定化される特異な状態であることが明らかになった。
強相関電子系の金属絶縁体転移を量子モンテカルロ法、スケーリング理論などを用いて研究し、フィリング制御型の2次元系のモット転移でハイパースケーリング仮説が成立し、動的臨界指数が4であることを示した。この結果、モット転移近傍の金属相でコヒーレンスが異常に抑制される点を解析した。また、一粒子過程の抑制による二粒子過程の顕在化が反強磁性モット絶縁体からd波超伝導体への量子相転移を引き起こすことを示した。金属絶縁体転移を示すマンガン酸化物のスピン励起構造を二重交換模型を用いて研究した。スピン波近似と動的平均場を用いて集団励起と準粒子励起を計算し、実験結果との比較で良い一致を見た。
一次元は多体問題を近似に依存しない形で研究出来るテストグランドである。最近S.Whiteによって密度行列繰り込み群という精密な変分計算理論が開発されたが、これは次元では特に有効である。この研究課題期間中に我々は重い電子系の基礎モデルである近藤格子模型に対する密度行列繰り込み群計算手法を確立した。それを用いて、近藤絶縁体のスピンギャップ、チャージギャップの関数形を確立した。さらに、常磁性金属相におけるスピンとチャージのフリーデル振動を観測することによってフェルミ面が大きいことが示された。またその振動の減衰の様子から、近藤格子の常磁性金属相が相関臨界指数の非常に小さな特異な朝永-ラッティンジャー液体であることが明らかになった。
凝縮系多体問題に対する第一原理計算に関しては、圧力一定の第一原理分子動力学法プログラムを開発・整備し、大規模計算を目的として並列計算機用に最適化を行った。また構造転移や表面での原子拡散の活性障壁を求める効率的な計算アルゴリズムを開発した。このプログラムを使って、グラファイト、シリサイド、BC2N、グラファイト層間化合物の圧力誘起構造変化のシミュレーションを行った。これにより、高温でのグラファイト-立方晶ダイヤモンド転移と、低温で見られるグラファイト-六方晶ダイヤモンド転移の違いを明らかにした。またヘテロダイヤモンドBC2Nの安定構図尾と電子物性を予測し、高圧を用いた合成方法を提案した。さらにグラファイト層間化合物からアルカリイオンを内包した全く新しいダイヤモンド様物質が高圧合成できる可能性を指摘した。 -
半金属におけるデビルズ・ステアケース
研究課題/研究課題番号:07804020 1995年 - 1996年
上田 和夫
担当区分:研究分担者
現在までに知られている磁性体の中でもっとも複雑な相図を示すことで良く知られているのはCeSbである。磁場-温度平面での階段状の複雑な相図はデビルズ・ステアケース(悪魔の階段)と呼ばれている。CeSbに限らず一般のCeX(X=P,As,Bi,Sb)で程度の差はあれ、複雑な磁気相図が見られることは、この現象の背後に一般的なメカニズムが存在することを示唆している。CeXがその他のセリウム化合物とことなる特徴は、この系におけるキャリアーの数が大変少ないことで、CeXは小数キャリアー系と呼ばれている。CeXのキャリアーはΓ点のホールとX点の電子からなり立っている。このような、半金属ではそれぞれのキャリアーに対する近藤結合に加えて、電子からホールへ遷移する際にf電子とのスピン交換を伴うプロセスが可能になる。この非対角的交換相互作用にともなう運動量変化は反強磁性波数ベクトルに対応するから、この非対角相互作用は反強磁性的に働くことになる。対角(バンド内),非対角(バンド間)交換相互作用にもとづく二種類のRKKY相互作用の間のフラストレーションがCeXで見られるデビルズ・ステアケースを理解する鍵と考えられる。当研究課題での研究によりこの考えが正しいことが、簡単な一次元モデルを用いて検証された。
このRKKY相互作用は、局在スピンによって誘起される磁気的フリーデル振動がその起源である。その詳細を調べるため、近藤格子モデルに対する密度行列繰り込み群のプログラムを開発し、常磁性における電荷およびスピンのフリーデル振動を観測することが出来た。。その周期から、近藤格子の常磁性相では、フェルミ波数が伝導電子の密度に局在スピンの数を加えたもので決まっている、すなわちフェルミ面が大きいことが明らかになった。 -
準二次元電子系の輸送現象
研究課題/研究課題番号:07237208 1995年
上田 和夫
担当区分:研究分担者
高温超伝導の特徴は、2次元的なCuO_2面にキャリアーをドープして超伝導が実現している点にある。特にアンダード-ピングの領域では、NMRの緩和率などにスピン励起が抑制された擬ギャップ的な振舞いが観測されて、高温超伝導機構を理解する一つの鍵と考えられている。今年度始まった新たなテーマとして2次元モット絶縁体で、スピンギャップが観測されているCaV_4O_9に注目し、その機構について理論的考察を行なった。このシステムは2次元的で、スピン1/2ハイゼンベルグモデルが良い模型になっていると考えられるが、その特徴は、正方格子から1/5のスピンを規則的に抜いたことにある。この時4このスピンからなるプラケットが2次元的につながった構造を持っている。我々は、この構造がスピンギャップ形成に有理であることを指摘した。しかし、最近接相互作用のみの時にはまだ反強磁性秩序が残っていることを明らかにし、フラストレーションを引き起こす次近接相互作用の重要性を示した。
モット絶縁体をドープした時の準二次元的伝導を考察するには、いずれにしても三次元性を考慮する必要がある。伝導の問題と、一体グリーン関数の自己エネルギーは密接な関係にあり、我々は面内と面間のトランスファーが著しくことなる系を考え、その自己エネルギーをスピンの揺らぎについてone-loopの近似で計算することを計画している。今年度は、準備として完全な三次元の係を考え自己エネルギーの計算を完了し、さらにそれを用いて三次元における反強磁性スピン揺らぎの機構による超伝導を考察した。その結果、二次元より転移温度が低い傾向はあるものの、スピン揺らぎに対して適当なパラメータを仮定すれば、やはりd-波超伝導が可能となることが明らかになった。これは重い電子系の超伝導に関連して興味深い結果と考えられる。