科研費 - 橋川 和信
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研究課題/研究課題番号:24K21619 2024年6月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
橋川 和信, 野崎 貴裕
担当区分:研究代表者
配分額:6240000円 ( 直接経費:4800000円 、 間接経費:1440000円 )
細胞やその小器官から情報を得る手段として、単一細胞手術が近年注目されている。しかし、これまでに研究されてきた方法では、人の手で直接複雑な操作を施すことはできない。本研究は、触覚フィードバック付き単一細胞手術用ロボットの開発を目的とし、研究代表者らが培ってきた力触覚伝送技術(リアルハプティクス)による超微小手術用ロボット開発のノウハウをもとに、まずは基礎的知見を得ることを目指す。本研究の遂行により、複雑な細胞手術や新たな細胞手術法の開発への道が開ける。さらに、細胞研究を起点に生命科学全体の体系や方向性を大きく変革させること、およびロボット工学へ再応用することが期待できる。
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新規細胞接着選択性ペプチド付加人工神経を用いた神経再生に関する基礎的研究
研究課題/研究課題番号:23K09098 2023年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
蛯沢 克己, 亀井 譲, 橋川 和信
担当区分:研究分担者
末梢神経損傷・欠損に対して自家神経移植を行ってきた。ドナーの問題のため、現在人工神経を利用した神経再建が普及している。しかし、神経欠損が長い場合や運動神経再建には限度があり、新たな治療の開発が必要である。
神経再建にはシュワン細胞の欠損部への遊走と、神経縫合部の線維化による軸索伸長が阻害されないことが重要である点に注目した。
本研究では、シュワン細胞遊走促進かつ線維芽細胞遊走・接着阻害するペプチドをペプチドアレイを用い網羅的にスクリーニングし、その候補機能性ペプチドを人工神経へ修飾した上で、神経欠損モデルに利用して、低侵襲かつ効率的な神経再生を行い新たな治療法の創世を試みる。 -
神経線維腫症1型の特性から解明するScarless Wound Healing
研究課題/研究課題番号:21K09763 2021年4月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
大石 真由美, 新城 恵子, 高成 啓介, 橋川 和信, 蛯沢 克己, 神戸 未来, 樋口 慎一, 山本 周平, 亀井 譲
担当区分:研究分担者
本研究の目的は神経線維腫症1型(NF-1)の創傷治癒から瘢痕抑制のメカニズムを解明し、scarless wound healingを可能とする新規治療薬を開発することである。NF-1では手術後の瘢痕が目立ちにくく、肥厚性瘢痕やケロイドを生じにくいことが経験的に知られているが、NF-1の創傷治癒過程における過剰な瘢痕形成を抑制するメカニズムは明らかではない。現在行われている瘢痕治療の効果は限定的であり、手術や外傷後に傷あとが残ることは不可避であったが、NF-1に特有な創傷治癒メカニズムを再現することで、scarless wound healingの実現を試みる。
現在行われている瘢痕治療の効果は限定的であり、手術や外傷後に傷あとが残ることは不可避である。一方、神経線維腫症1型(NF-1)では手術後の瘢痕が目立ちにくく、肥厚性瘢痕やケロイドを生じにくいことが経験的に知られているが、NF-1の創傷治癒過程における過剰な瘢痕形成を抑制するメカニズムは明らかではない。本研究の目的は、NF-1の創傷治癒から瘢痕抑制のメカニズムを解明し、scarless wound healingを可能とする新規治療薬を開発することである。
本年度はヒト皮膚線維芽細胞を用いた実験系の確立に焦点を当てて研究を行った。まずNF-1患者・非患者をリクルートし、これらのドナーから皮膚組織を採取した。皮膚組織から線維芽細胞の単離培養を行ったところ、これらの培養線維芽細胞は安定的に継代することができ、核酸抽出が可能であった。次にin vitroで創傷環境を再現するための刺激実験を行った。NF-1非患者から単離培養した正常皮膚線維芽細胞の培養液中へTGFβ-1を24時間添加し、主要な創傷治癒関連遺伝子の発現量を定量した。その結果、筋線維芽細胞マーカーであるαSMAの発現量はTGFβ-1刺激後に上昇することが確認できたものの、一方で組織修復に必要な細胞外基質であるⅠ型コラーゲンを構成するCOL1A2の発現量はTGFβ-1刺激後も不変であった。次年度以降は、より生体内に近い創傷環境を培養線維芽細胞で再現するための刺激条件を引き続き検討することに加えて、網羅的遺伝子発現解析を行う予定である。
ドナーから採取した検体からの線維芽細胞単離およびRNA抽出に関しては予定通り進めることができたが、培養条件下で創傷環境を再現するための刺激条件の最適化が予想以上に困難であった。成長因子およびサイトカインを用いた刺激条件の検討が引き続き必要であるものの、本年度は研究代表者が産前産後休暇を取得したため進捗が遅れている。
今後の解析を進めるにあたって、より生体内に近い創傷環境を培養線維芽細胞で再現する必要がある。成長因子およびサイトカインを用いた刺激条件を引き続き検討する予定である。 -
特定波長光によるメラノーマ増殖・転移抑制メカニズムの解明ーGq変異を巡ってー
研究課題/研究課題番号:20H03849 2020年4月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
橋川 和信, 榊原 晶子, 野村 正, 高須 啓之, 榊原 俊介, 寺師 浩人
担当区分:研究代表者
配分額:17680000円 ( 直接経費:13600000円 、 間接経費:4080000円 )
悪性黒色腫は極めて難治な悪性腫瘍である。悪性黒色腫の発生には光線暴露との関係が古くから示されてきたが、われわれはこれまでの先行研究において光受容タンパク質の一つであるOPN4が悪性黒色腫にも発現していることを示してきた。一方、Gqは、近年、悪性腫瘍における転移のしやすさとの関連が示されてきた。このGqはOPN4のセカンドメッセンジャーであり、これらの事柄を併せると、悪性黒色腫でのGq変異株にOPN4の感受性波長を照射することで転移をきたしやすくなる可能性がある。これを逆に考えると、この波長を遮蔽することで転移を抑制できる可能性がある。本研究ではこれらの仮説を証明することを目的とする。
虹彩に発生する悪性黒色腫(以下Melanoma)のうち、遠隔転移を起こした群ではGタンパク質ファミリーのうちGqαサブユニット群(以下Gq)の遺伝子変異が高率に認められること、また動物実験により、Gq遺伝子変異株ではMAPキナーゼ系の活性化(細胞増殖の活性化)および有意に転移をきたしたことが報告された。その後、Melanomaのみならず消化器系や呼吸器系に発生した悪性腫瘍においても同様の知見が報告されつつある。本研究の目的は、光とMelanomaの関連においてこれまで示されてきた「光線暴露が発生の危険因子である」ことに加え、「光線暴露は増殖・転移の危険因子でもある」ことを細胞生物学的に示すことにある。われわれは2つのMelanoma細胞株(MEWO株およびG361株)を研究対象として選んだ。これらの細胞株をモデルとし、Gq変異を加えることで、Melanomaの転移活性への影響を検討するため、まず、それぞれの細胞株におけるGq(GnaqおよびGq11)の遺伝子変異について探索を行なった。それぞれの細胞株から抽出したmRNAを元に、cDNAライブラリーを作成し、これに対して全長のGqに対するPCRを行なった。これをクローニングすることで、これらの遺伝子配列を解析した。その結果、いずれの細胞株においてもDNAレベルでは変異が認められるもののアミノ酸配列には影響を持たなかった。次に、変異を導入するためにゲノム編集を行うこととした。まずはGnaqをターゲットに、R183Q変異の導入を計画した。これに沿って、CRISPR/CAS9を用いたベクターの配列を設計した。同時にssODNの配列(1塩基置換)を設計した。これに沿って、Cas9と同時発現ベクターを構築した。
現在までにゲノム編集によるGqへの変異導入を計画しており、概ね予定通りに進んでいる。
上記の述べた通り、現在までにゲノム編集用のCas9/CRISPRベクターの構築を行なった。これをクローニングにより増幅する。さらにssODNを合成(外注)し、これらをMEWO株およびG361株にco-transfectionする。ピューロマイシンによりスクリーニングを行なったのち、限界希釈法により培養を行い、細胞株を得る。その後、ゲノムを抽出し、PCRを行なったのち、制限酵素切断の有無によりスクリーニングを行う。 -
脈管奇形の悪化メカニズムを探る ~血管平滑筋を巡る分子制御機構の解明~
研究課題/研究課題番号:20K09864 2020年4月 - 2023年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
野村 正, 寺師 浩人, 榊原 俊介, 橋川 和信, 大崎 健夫, 大澤, 高須 啓之
担当区分:研究分担者
脈管奇形は先天性の脈管形成異常である。特に動静脈奇形や静脈奇形では軟部組織の醜状変形にとどまらず、筋・骨格系の変形、病変からの出血など組織破壊的となることもあり、日常生活に著しい制限を生じる。病変の多くは進行性であり、難治病変では進行を止める手段さえない場合がある。動静脈奇形や静脈奇形を含めた脈管奇形の病態生理および悪化の機序にはなお不明な点が多い。われわれは本研究を通じて、脈管奇形のうち特に静脈奇形における悪化機序について、主に「血管平滑筋細胞」に焦点を当てて分子生物学的側面より評価し、本疾患の分類・診断基準作成の補助ならびに疾患治療の確立へ結びつけることを目的とする。
脈管奇形は先天性の脈管形成異常である。特に動静脈奇形や静脈奇形では軟部組織の醜状変形にとどまらず、筋・骨格系の変形、病変からの出血など組織破壊的となることもあり、日常生活に著しい制限を生じる。病変の多くは進行性であり、難治病変では進行を止める手段さえない場合がある。動静脈奇形や静脈奇形を含めた脈管奇形の病態生理および悪化の機序にはなお不明な点が多い。われわれは本研究を通じて、脈管奇形のうち特に静脈奇形における悪化機序について、主に「血管平滑筋細胞」に焦点を当てて分子生物学的側面より評価し、本疾患の分類・診断基準作成の補助ならびに疾患治療の確立へ結びつけることを目的とした。本年度は静脈奇形において免疫組織学的手法を用いて、主に形態についての検討を行った。摘出した標本についてHE染色ならびにEVG染色を行い、画像処理技術を用いてBackground subtraction操作を行い、嚢胞部分を含めた病変全体の面積(total area)と、嚢胞部分を除いた断面の面積(non-cystic area)を測定した。加えて、EVG染色画像をもとに膠原線維、弾性繊維、筋繊維が主に染色された結果である赤、紫、黄色の3色でcolour deconvolutionを行い、各色で染色された組織の面積(red stained area, purple stained area, yellow stained area)を測定した。膠原繊維を反映する赤色部位は36.8%、弾性線維を反省する紫部分は23.7%、筋線維を反映する黄色部分は13.9%であった。加えて「血管平滑筋細胞」の細胞培養を中心に行い免疫組織学的検討ならびにMTTアッセイによる増殖能の確認を行い細胞培養法に関する手技の確立を行った。
2021年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、手術検体の減少、細胞培養メディウムの購入、共同実験室の使用制限、動物実験室の使用制限ならに実験補助員の雇用など本研究を遂行する上でのハード面ソフト面の両面で制約が生じ、実験が遅延した。
今年度は免疫組織学的な手法による静脈奇形の形態学的観察を行うとともに、動物実験を強化したい。すなわちTIE2-WTならびにTIE2-L914F遺伝子をHUVECに導入し、細胞株を確立したのち、回転培養によって無細胞化血管にこれらの細胞を播種し、ヌードラットの大動脈に移植する。移植後に無細胞血管を採取し、免疫組織学的に血管平滑筋細胞の遊走を対照群と比較する。この作業を4-5カ月程度を目安に行う。
ラットから回収した無細胞化血管を、洗浄、液体窒素でフリーズ後、ホモジュネートし、セルソーティングで血管平滑筋細胞を抽出し、ここからtotal RNAを抽出する。Poly-Tカラムを用いて、mRNAを分離抽出する。逆転写酵素を用いてcDNAライブラリーを作製する。Ang1に対して100% matchのPCRプライマーを用いて、real time PCRによる定量的発現解析を行う。この作業を6ヶ月を目安に行う。 -
乳児血管腫におけるstem cellの関与 ~増殖・分化制御機構の解明~
研究課題/研究課題番号:18K09481 2018年4月 - 2022年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
大澤, 野村 正, 大崎 健夫, 榊原 俊介, 寺師 浩人, 橋川 和信
担当区分:研究分担者
乳児の増殖期は,未分化な血管内皮細胞の高度な細胞増殖によって特徴付けられる。一方,退縮期に入ると,血管内皮細胞は徐々に減少して,比較的口径の大きな血管に変化し,それとともに周囲に脂肪組織が増えていく。このような,退縮期での脂肪組織への置換は極めてユニークな生物学的変化であり,このように振る舞う固形腫瘍は存在しない。このIHの主体をなす血管内皮細胞は分化能を有する未分化な細胞から構成されている。このような独自の特徴をもつIHの血管内皮細胞のうち,幹細胞マーカーであるCD133による分離によって得られる乳児血管腫由来幹細胞(hemangioma-derived stem cell;HemSCと略す)は脂肪,骨や神経に分化する多分化能を有することが既に証明されている。しかしHemSCがIHの増殖や退縮にどのように関わっているかは今なお不明である。われわれは,IHの増殖や退縮においてHemSCがまさに「司令塔」としての役割を果たしているとの仮説を立て,増殖期あるいは退縮期において,「どのような制御下であるいは生化学的刺激によって,HemSCが乳児血管腫の増殖や退縮に関わっているのか?」という命題を立てた.増殖期の乳児血管腫よりサンプルを採取し,Fluoresceinisothiocyanate(FITC)ラベルのCD133抗体を用いたflow cytometryでは細胞を単離することができず,explant法で細胞培養を行った.Explant法では乳児血管腫よりHemSCが得られ,複数のサンプルをストックすることができた.またMTTアッセイで増殖能を確認した。固定標本に対してはGlut1免疫染色で染色を確認した。
2020年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、組織化学的な検討に遅延が生じたことに加え、検体採取に必要な手術件数が減少したため、計画より遅延している。
代表ならびに分担研究者はこれまで脈管奇形に対するexplant法での初代培養の経験が豊富であり,方針を変更して、本法での初代培養を適用した。Explant法では乳児血管腫よりHemSCが得られ,複数のサンプルをストックすることができた。本年も新型コロナウイルスの影響が予想されることから新規手術検体を得ることは困難なため、現有のサンプルを用いて実験を継続する予定である。具体的には、細胞遊走アッセイシステムを用い、多孔性のチャンバー膜の上面に細胞浮遊液を滴下し,膜の下にはHemSCを培
養した上清を添加したmediumを入れ、24、48時間の培養の後、内皮細胞を細胞数を計測する。対照群 と比較してHemSCに対する走化性を確認する。Flt-1の発現
についてreal-time PCRを用いて定量的に検討することを計画している。 -
2018年4月 - 2021年3月
科学研究費補助金/基盤研究(B)
寺師 浩人
資金種別:競争的資金
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乳児血管腫におけるstem cellの関与 ~増殖・分化制御機構の解明~
2018年4月 - 2021年3月
学術研究助成基金助成金/基盤研究(C)
櫻井 沙由理
資金種別:競争的資金
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光による皮膚概日リズム形成の意義を探る
研究課題/研究課題番号:18H02961 2018年4月 - 2021年3月
寺師 浩人
担当区分:研究分担者
本研究では、ヒト皮膚における光受容とその意義を探ることを目的とする。これまでにわれわれはヒト皮膚にOPN4が発現しており、このタンパク質を介して皮膚を構成する細胞(特に線維芽細胞)が外界の光を受容し、これを細胞内シグナルへと変換することを明らかとした。またこれは時計遺伝子の発現調節にも影響することを示した。本研究課題では、中枢性に作られたヒト皮膚の末梢性時計が光によりリセットされるのか、あるいはその逆はあり得るのかを探ることを目的として設定した。
昨年度につづき、Bmal 1の発現をルシフェラーゼアッセイにより検証した。Bmal1プロモーターにルシフェリン遺伝子を結合させたプラスミドベクターを培養細胞に導入し、これをリアルタイムルミノメーターにセットしたのち、経時的にルシフェラーゼ発現量を解析した。昨年に得られた結果と同様、約22時間周期でのリズム形成は認められた。この振幅は1週間程度経過しても認められたが、その時点での細胞は形態が変化していた。細胞密度や培地を交換しないことへの反応と考えられるが、ルシフェラーゼによる発光量はその間、高値に推移する傾向にありながらも振幅幅は小さくなる傾向にあった。これはルシフェラーゼが細胞外に分泌されたのちに崩壊せずに機能し続けるためと考えられる。そこで、short lifeのルシフェラーゼに組み替えることとした。Bmal1プロモーターに対してPCRを行い、short lifeルシフェラーゼを含むベクターへの組み替えを試みたが、プロモーター領域内にGC比率が高く増幅が困難であり、現在、さらに条件を変化させながら研究を進めている。
上記のようにPCRによるプロモーター増幅が困難であり、現在、条件設定を重ねている。ただし、増幅が得られれば速やかに計画に戻れると考える。
まず、PCRによりBmal1プロモーターの増幅を行い、本領域をshort life luciferaseにbinding させる。次にこのプラスミドベクターを培養細胞に導入し、よりクリアカットな振幅を得る。同様にshort life lucieraseは発光色を変化させることができるため、Per2プロモーターも同様に導入し、doubleでの検討を行う。
これらプラスミドベクターを用いて、皮膚細胞におけるサーカディアンリズムのフェーズシフトの解析を行う。デキサメタゾンで刺激を行い、リズムを形成させたのち、480nm光を照射、リズム変化が生じるのかを検討する。次に480nm光で形成されたサーカディアンリズムに対してデキサメタゾンを添加し、これによりリズム変化が生じるのかを検討する。いずれも暗室下で振動刺激を避けながら行う必要があり、このため、厳密なネガティブコントロールをセッティングする必要がある。 -
皮膚の光シグナル変換機序の解明とその機能の探索
研究課題/研究課題番号:16K11366 2016年4月 - 2019年3月
榊原 俊介
担当区分:研究分担者
ヒトの皮膚は他の哺乳類と異なり、大半が無毛であるため体の組織の中で最も外界の光を受容する。われわれはヒトの皮膚が光を受容した場合、その光シグナルが細胞内シグナルへと変換され、利用されるのかを探った。これまでにわれわれはOPN4という光受容タンパク質が皮膚に発現していることを明らかとしたが、本研究ではこのOPN4を介して受容した光シグナルが細胞内シグナルへと変換された結果、1) 細胞内カルシウム濃度の上昇、2) ERK1/2のリン酸化の光量依存的亢進、3) サーカディアンリズムの形成 を行うことを明らかとした。
これまでヒトの体内で光シグナルを細胞内シグナルに変換する器官は網膜のみとされてきた。一方で皮膚は体表を覆い最大の組織である。この皮膚において光受容機序を明らかとした。変換されたシグナルの表現形の一つはサーカディアンリズムであるが、われわれは現在、これはいくつかの表現形のうちの一つであると考えている。ERKのリン酸化の亢進は細胞増殖シグナルとリンクしており、光照射により細胞増殖を制御できる可能性も示した。これまで創傷治癒に対して様々な波長の光線を照射することが提案されてきたが、われわれの研究成果は根拠を持って波長選択的に光照射を行うことの意義を示唆するものである。今後の医療への応用が期待される。 -
動静脈奇形における新生血管の分子制御機構 ~病的血管はいかに新生するか?~
研究課題/研究課題番号:16K11365 2016年4月 - 2019年3月
野村 正
担当区分:研究分担者
手術検体で得られた動静脈奇形標本から培養細胞を得た.これらから抽出したRNAをマイクロアレイで網羅的に検討し,さらに免疫組織学的検討を行ったところ,selectin-P(SELP)においてヒト正常動脈由来血管内皮細胞ならびにヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞よりも高い発現を認めた.還流培養においては培養液の流動方向には広がらずむしろ逆行する様式で培養細胞が増殖する結果となった.SELPは体表のAVMの異常血管増殖に関与している可能性が高いと考えられた.培養液の流れに逆らって細胞が増殖したことから,流動が細胞増殖に何らかの影響を与えていることが判明した.
動静脈奇形は臨床上治療困難とされる脈管奇形の一つであり,今回の結果でその増殖因子の一つが解明でき,薬物療法を含めた治療法の開発に寄与できる可能性がある.また流動刺激に逆行して細胞が増殖していたことから,血流をコントロールすることで増殖を抑制できる可能性が示唆される結果となり,これについても治療に応用できる可能性が示された. -
定量的タンパク質発現解析を利用したミクロ解剖学アトラスの開発
研究課題/研究課題番号:25670750 2013年4月 - 2016年3月
橋川 和信
担当区分:研究代表者
配分額:3770000円 ( 直接経費:2900000円 、 間接経費:870000円 )
ラット脳よりmRNAを抽出し、PCR法によりラット(Wistar系)Hn-1遺伝子の一部を増幅した。塩基配列解析を行い、これが既知のHn-1遺伝子と相同であることを確認したのち、本PCR断片をプラスミドベクターに挿入、これを鋳型としてcRNAプローブを作成した。このcRNAプローブを用いて片側の顔面神経損傷後のラット脳切片に対してin situ hybridizationをおこなった。損傷側の顔面神経核領域および三叉神経核(手術操作による損傷と考えられる)におけるHn-1mRNAの発現が示唆された。
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血管奇形悪化機序の解明 ~成長ホルモン受容体を巡って~
研究課題/研究課題番号:25462790 2013年4月 - 2016年3月
野村 正
担当区分:研究分担者
動静脈奇形の増殖機序に関して,成長ホルモン受容体(GHR)が高率に発現していることが報告されているが,免疫組織学的,生化学的手法を用いた本研究の検討からは,GHRの関与は否定的であった。一方,動静脈奇形由来の血管内皮細胞(AVMVEC)の増殖能はヒト臍帯由来血管内皮細胞と同程度と極めて高く,AVMVECの増殖には何らかの内因性もしくは外因性因子の関与が示唆される結果となった。
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ワイヤーミオグラフシステムによる血管抗攣縮薬の薬理学的作用と力価の決定
研究課題/研究課題番号:24659784 2012年4月 - 2014年3月
榊原 俊介
担当区分:研究分担者
マイクロサージャリーをもちいた遊離組織移植術では、術中の血管閉塞(攣縮)を防ぐためにリドカインの撒布が広く行われてきた。一方で、その至適濃度について、薬理学的な実験的事実に基づいた知見はなかった。われわれはワイヤーミオグラフシステムを用いることで血管の弛緩・収縮を数値化させ、リドカインの至適濃度の検討を行った。また、リドカイン単剤では十分な抗攣縮作用が得られない場合があるため、他の薬剤での検討も行った。その結果、塩酸パパベリン、フェントラミンメシル酸塩、オルプリン塩酸塩、ニトログリセリンにおいて抗攣縮作用を濃度依存的に認めた。以上より、これらの薬剤も抗攣縮薬として使用されうる。
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顔面神経-舌下神経クロスリンク型神経移植術における神経回路再構築の機序を探る
研究課題/研究課題番号:22591993 2010年 - 2012年
橋川 和信
担当区分:研究代表者
配分額:4420000円 ( 直接経費:3400000円 、 間接経費:1020000円 )
顔面神経麻痺への外科的治療の一つとして、クロスリンク手術が挙げられる。われわれは本手術での軸索挙動を解析する為に体細胞が GFP 標識された実験動物を利用し、拒絶反応を起こさせずに非標識のグラフトを移植するモデルの作成を目標に置いた。このため、神経グラフトの脱細胞化の評価、比較を行った。ラットより採取された坐骨神経を高張塩溶液法、界面活性剤法、凍結融解法によりそれぞれ脱細胞化を行った。これらを組織学的に評価した所、モデル動物において口径 1mm 程度の神経グラフトを要するクロスリンク手術では、高張塩溶液法による脱細胞化神経は免疫学的および強度的に適していると考えられた
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リンパ管内皮細胞の分子生物学的解析~プロスタノイドレセプターを巡って~
研究課題/研究課題番号:22591992 2010年 - 2012年
野村 正
担当区分:研究分担者
リンパ管-静脈吻合術中に切除されたリンパ管断端を対象とした。通常、血管の収縮・拡張機能に関与しているとされるプロスタノイドレセプター5種類(TP,IP,EP2,EP4,DP1)に対する抗体を用いてこれらの発現を組織学的に検討した。いずれのプロスタノイドレセプターもリンパ管における発現が認められた。発現様式は動脈と相同であった。プロスタノイドレセプターはこれまでに9種類が同定されており、そのうち今回検討を行った5種類は正常血管の収縮・拡張に関与しているとされている。リンパ管でも同様にこれらの発現が認められた。また動脈と同様の発現形態をしめした事より、プロスタノイドはリンパ管運動に影響する可能性が示唆された。
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PVAハイドロジェルを基材とした新しい小口径人工血管の開発
研究課題/研究課題番号:22659322 2010年 - 2011年
田原 真也
担当区分:研究分担者
PVAにより作成された口径3mmの人工血管を用いてラットの腹部大動脈に移植した。術直後、内腔は開存しており、血圧に同期した血管の拍動を認めたが数日の後、移植血管は全て閉塞した。本研究結果を踏まえ、また文献を併せた考察により、やはり血管内皮細胞の定着が必須であると考え、内皮細胞の定着の有無を検討するためにPVAチューブと血管内皮細胞とを回転培養させた結果、定着しない事が明らかとなった。そこでPVAによるマテリアルの作成過程においてコラーゲンのフラグメントを埋入したものと血管内皮細胞を回転培養したところ、内皮細胞の定着が認められた。加えて血管平滑筋細胞も同様に回転培養を行った結果、平滑筋細胞の定着も認められた。
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リンパ管内皮細胞の分子生物学的解析~プロスタノイドレセプターを巡って~
2010年
科学研究費補助金/基盤研究(C)
野村 正
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
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2010年
科学研究費補助金/萌芽研究
田原 真也
資金種別:競争的資金
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顔面神経―舌下神経クロスリンク型神経移植術における神経回路再構築の機序を探る
2010年
科学研究費補助金/基盤研究(C)
橋川 和信
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
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銀イオンが創傷治癒に及ぼす影響の分子生物学的解析.創傷治癒を促進させるか
研究課題/研究課題番号:21592286 2009年 - 2011年
皐月 玲子
担当区分:研究分担者
銀粒子や銀イオンは細菌の増殖を抑制する、または殺菌効果がある事は古くから知られていた。近年では銀イオンを添加した外用薬や創傷被覆材が開発され、注目を集めているが、銀イオンが持つ細胞毒性により創傷治癒の阻害を示唆する報告もある。一方で本邦では細胞増殖因子(bFGF)を有効成分とする製剤も開発された。bFGF製剤と銀イオン製剤とを組み合わせた場合のこれらの相互作用についての知見は皆無である。われわれは塩化銀溶液およびbFGFを単独または併せて添加し、ヒト線維芽細胞を培養した。その結果、(1)低濃度での銀イオンは細胞増殖に影響を及ぼさないが、高濃度では細胞毒性を有する。(2) bFGFの付加は銀イオンによる細胞毒性を緩和する可能性がある。(3)銀イオンはbFGFになんらかの作用をするが、これらの相乗効果により細胞毒性は高められる。ことが示唆された。
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がん研究「がん外科治療における形成再建外科標準術式の確立に関する研究」
2009年
橋川 和信
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
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銀イオンが創傷治癒機転に及ぼす影響の分子生物学的解析-創傷治癒を促進させるか-
2009年
科学研究費補助金/基盤研究(C)
皐月 玲子
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
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脱細胞化神経をバイオスキャフォールドとする新しいハイブリッド型人工神経の開発
研究課題/研究課題番号:20390456 2008年 - 2010年
寺師 浩人
担当区分:研究分担者
我々は高張電解質溶液を用いた新しい脱細胞化方法を確立した。本方法を用いて神経を脱細胞化したものを組織学的に評価したところ、高い効率で脱細胞化が見られたが、細胞外マトリクスの破壊は軽度であった。これを実験動物に移植したのちに2ヶ月後に採取し、組織学的検討を行ったところ、シュワン細胞の浸潤をみとめ、また軸索の再生を認めた。再生軸索は有髄線維であった。本方法により確立された脱細胞化神経は有用な神経再生の足場となること明らかとなった。
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脱細胞化神経をバイオスキャフォールドとする新しいハイブリッド型人工神経の開発
2008年
科学研究費補助金/基盤研究(B)
寺師 浩人
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
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顔面神経麻痺への顔面神経-舌下神経クロスリンク型神経移植術における神経科学的研究
研究課題/研究課題番号:19592075 2007年 - 2010年
橋川 和信
担当区分:研究代表者
配分額:3640000円 ( 直接経費:2800000円 、 間接経費:840000円 )
顔面神経麻痺に対する神経学的手術治療として、cross-link手術(顔面神経-舌下神経間を移植神経でバイパスする)が開発された。本手術法は臨床面で一定の効果をみるが、その神経学的メカニズムは解明されていない。われわれはラットcross-link型神経移植モデルを作成し、順行性および逆行性トレーサー法を用いて神経回路解析を行った。順行性トレーサー法にて舌下神経線維が顔面神経束へ誘導されることを示した。逆行性トレーサー法では顔面神経核より発した軸索が舌下神経束へ誘導されていることを示した。以上よりcross-link型神経移植を行うことで顔面神経・舌下神経の神経回路交叉が行われることを示した。
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脱細胞血管をスキャフォールドとした小口径人工血管モデルの作製
研究課題/研究課題番号:19659465 2007年 - 2008年
萌芽研究
田原 真也
担当区分:研究分担者
本研究は、脱細胞化した同種血管をスキャホールドとして用いる小口径人工血管モデルの作製を目的としている。これまで界面活性剤法や凍結融解法により脱細胞化した小口径血管や化学合成物による小口径血管の開発が試みられてきたが、得られたマテリアルの抗原性や脆弱性、血栓形成性の壁に阻まれて実用化には至っていない。われわれは既存の方法を用いず新たな方法により血管の脱細胞化に成功した(特許申請中)。
ラットより採取した腹部大動脈を新規の方法にて脱細胞化し、これを他の個体に顕微鏡下で腹部大動脈に吻合・移植した。1週間後および1ヵ月後に移植片を採取し、組織学的検討を行ったところ、以下の結果が得られた。(1)HE染色により、確かに脱細胞化が行われていることが確認された。(2)移植後1週目および1ヶ月目において血管の開存が認められた。(3)内皮細胞マーカーである抗vWF抗体および血管平滑筋細胞マーカーである抗α-SMA抗体による免疫染色の結果、約1週目にはvWF陽性および非陽性細胞が人工血管壁に浸潤している様子が観察された。(4)約1ヵ月後には血管内皮細胞と血管平滑筋細胞の層構築が正常血管を模して形成されていることが確認された。
以上より、われわれが開発した新しい脱細胞化血管は物性的にも十分な強度が得られ、生物互換性も高く、有用な代替血管となることが示唆された。 -
ラット遊離筋弁移植モデルを用いた運動・知覚神経交差再生による筋萎縮予防効果の解明
研究課題/研究課題番号:19390453 2007年 - 2008年
田原 真也
担当区分:研究分担者
遊離筋皮弁などによる再建を行うにあたり、筋を支配する運動神経を切断したことに続発する筋の萎縮は思わぬ変形・機能喪失を来たす場合がある。臨床ではこの様な場合において如何に筋の萎縮を抑えることができるか、は重要な課題となる。本研究では動物実験モデルを利用して、いくつかの切断後の神経の修復方法とそれぞれの間での筋体萎縮予防効果に関して検討を行った。知覚神経あるいは端側神経縫合を介した他の運動神経による交叉支配により、脱神経後の筋体量を維持できることが示された。自家遊離移植後の筋体萎縮予防は臨床上、大きな課題となるが、手術手技の単純な工夫によって予防できる可能性が強く示唆された。
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ラット遊離筋弁移植モデルを用いた運動・知覚神経交差再生による筋萎縮予防効果の解明
2007年
科学研究費補助金/基盤研究(B)
田原 真也
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
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顔面神経麻痺への顔面神経―舌下神経クロスリンク型神経移植術における神経科学的研究
2007年
科学研究費補助金/基盤研究(C)
橋川 和信
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
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脱細胞血管をスキャフォールドとした小口径人工血管モデルの作製
2007年
科学研究費補助金/萌芽研究
田原 真也
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金