科研費 - 石井 敬子
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生命・物質・文化を統合するマテリアマインド進化モデルの構築(遺伝子と文化班)
研究課題/研究課題番号:24H02200 2024年4月 - 2029年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)
山本 真也, 入來 篤史, 岡 瑞起, 石井 敬子, 大坪 庸介, 上川内 あづさ
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
ヒト特有の文明創出について、生物学的基盤を理論と実証研究を通して解明する。これまでの文明研究は歴史学的視点からの分析が中心だったが、本研究では進化論的視点を新たに導入する。文明創出メカニズムの解明に向け、新しい進化理論の提案・ヒトの心の働きについての進化心理学的理解・非ヒト動物との比較を通したヒト特性の生物学的解明という3つの方法論を融合させてアプローチする。身体を介した心と環境の相互作用およびそこで誕生する文化・文明の意義を明らかにすることで新しい人間観を提示しようとする本領域において、本研究は、新しい理論的枠組みを提供するとともに、進化という長期的視点から「ヒトらしさ」の解明に貢献する。
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ネオリベラリズムと感情様式:精神健康への影響と社会生態学的基盤
研究課題/研究課題番号:24K00477 2024年4月 - 2028年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
宮本 百合, 石井 敬子, 伊藤 篤希, 尾野 嘉邦
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
ネオリベラリズムが世界中に広がる中で、その影響は経済や政治などの制度だけでなく、個人の心理や行動にまで及ぶことが指摘されている。個人の自由と自立を重視するネオリベラリズムの信念が支配的な環境においては、人は自らの感情に対して責任を持つという感情帰属がなされ、ポジティブな感情経験を増やし、ネガティブな感情経験を低減しようとする感情制御が促進されると考えられる。本研究では、ネオリベラリズムが感情様式に与える影響のみならず、その精神健康への示唆と、その社会生態学的基盤について、調査・実験、多国間比較調査、歴史的変遷の分析といった複数の手法とアプローチを用いて多角的に検証する。
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研究課題/研究課題番号:23H01033 2023年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
松永 昌宏, 石井 敬子, 大坪 庸介, 山末 英典, 野口 泰基
担当区分:研究分担者
本研究では、近年社会問題として深刻化している「孤独」に焦点を当て、人が孤独に陥るリスクの可視化や、孤独を予防する社会的仕組みの開発を検討する。具体的には、①磁気共鳴画像装置(MRI)による脳画像解析と経験サンプリング法を組み合わせ、人が孤独に陥るリスクの客観的評価方法を検討する。②日本と北米において国際比較研究を実施し、人の遺伝的特性や行動特性、社会的・文化的環境が孤独感に及ぼす影響を検討する。③地域住民が集まることができる運動教室などで、孤独に陥るリスクの客観的指標に基づいた介入研究(孤独にならない環境の整備および脳機能の活性化)を実施する。
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日本人における主観的幸福感に関連した未知の遺伝子多型の特定とその評価
研究課題/研究課題番号:22H01074 2022年4月 - 2025年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
石井 敬子, 松永 昌宏, 大坪 庸介, 山末 英典, 野口 泰基
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:17420000円 ( 直接経費:13400000円 、 間接経費:4020000円 )
本研究は、日本人を対象としたビッグデータをもとにさまざまな心理的な特性、特に主観的幸福感とそれに関連した特性(例えばBig5や孤独感)に関わる未知の遺伝子多型をゲノムワイド関連解析 (GWAS) によって見い出し、1) それが欧米人を対象としたビッグデータを用いたGWASによる知見と整合するものであるか、2) 幼少時の養育環境や社会経済的地位に代表されるような個人の環境要因を考慮した際、その環境要因と相互作用するような未知の遺伝子多型が検出されるのか、3) 未知の遺伝子多型が見い出されたとき、それに対応する心理特性は自己報告に基づいたものならず、その脳内指標とも関連するのかについて検討する。
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少数派排斥の心理的メカニズムを解明し多文化共生の方策を考案するための国際共同研究
研究課題/研究課題番号:19KK0063 2019年10月 - 2024年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)) 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
唐沢 穣, 石井 敬子, 後藤 伸彦, 石井 敬子, 後藤 伸彦, 塚本早織
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:2000000円 ( 直接経費:2000000円 )
グローバル化の進展や多様性の重要さに関する認識の高まりと逆行するかのように、社会的少数派に対する偏見や排除の傾向が、世界各地に広がっている。この動向を受けて本研究は、偏見・排斥の原因となる心理的過程を明らかにし、解消策を追求することを目的とする。当該分野で最高水準の研究成果をあげている海外の研究者たちとの共同研究体制を構築し、若手を中心とする人材の活発な交流を促す。特に、偏見・排斥の原因が素朴な正義観の暴発にある可能性の実証的検証を重点的に行う。さらに本研究で明らかにされる心理過程の、通文化性と文化固有性の双方について検証し、日本社会の特質に応じた問題解消の方策を追求する。
新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、海外渡航が全く不可能となったため、当初予定していた、海外拠点に赴いて共同研究を進めるという計画は、全て次年度以降に延期となった。一方、日本国内において実行可能な研究活動については、一定程度の進捗が見られた。ただしここでも、感染拡大の影響は当然ながら大きく、特にオンラインのみでしか調査・実験を行えないことの制約が大きな足かせとなり、参加者の募集においても著しい困難に直面した。
まずオーストラリア拠点との共同においては、引き続きメルボルン大学との共同研究として、少数者集団を非人間化する過程を調べるための指標の開発に進展があった。非人間化の2つの次元に関連する特性語プールの日本語版を作成し、その信頼性および妥当性の検証を終えた。日本語圏における非人間化過程を研究する上で欠かすことのできない指標を開発することができた。ラトローブ大学との共同研究では、少数者支援行動の障壁となる心理的要因を調べた比較調査データの分析を続行した。さらに本年度、クイーンズ大学との共同研究を新規に開始した。経済的富裕層と貧困層の間に生じる相互の印象評価を通じて、数的少数者という意味では同様である両階層間の地位格差がもたらす影響について予備的データの収集および分析を行った。
北米拠点では、新たにコロンビア大学との共同プロジェクトを開始し、アニミズム傾向、物質主義傾向、コントロール感と溜め込み行動との関係に関する分析を通して、コロナ禍のもとでの価値意識と、それに基づく社会的分断の萌芽について論考し、論文を公刊した。この他、カリフォルニア大学およびゴンザガ大学との共同についても研究交流を継続している。
中国拠点では、香港大学との共同研究の成果を論文化し、掲載受理された。次年度早々に公刊される予定である。
リモート環境における国際共同研究、および日本国内において実施できる研究事項については進捗があったが、海外拠点に赴いて訪問先研究室の先端研究に参画するという目的は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大による渡航禁止のために、一切行われていない。次年度以降、感染状況の変化やワクチン接種の状況を注意深く見極めながら、共同作業のいっそうの進捗を目指す必要がある。
共同研究作業が比較的順調に進んでいるオーストラリア拠点、および北米拠点との研究強化は引き続き重点的に行っていく。中国については、香港が主要な共同の拠点であるため、感染の状況に加えて当地の政治状況にも注意が必要である。2021年7月にアジア社会心理学会大会がオンラインながら開催される機を活かして、香港以外の地域に共同パートナーを求める可能性も検討する。欧州拠点については、イタリアへの渡航が特に難しいため、当面はリモートでの情報交換を中心に行い、感染収束の可能性を考慮しながら共同を進める。 -
研究課題/研究課題番号:19H05737 2019年6月 - 2024年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型) 新学術領域研究(研究領域提案型)
瀬口 典子, 松永 昌宏, 石井 敬子, 勝村 啓史, 水野 文月, 五十嵐 由里子, 山本 太郎, 松永 昌宏, 石井 敬子, 勝村 啓史, 水野 文月, 五十嵐 由里子, 山本 太郎
担当区分:研究分担者
配分額:5967000円 ( 直接経費:4590000円 、 間接経費:1377000円 )
本研究は、フロンティアに進出した集団が獲得した遺伝的多様性、自然ならびに文化的環境への適応について、その変遷を時間軸に沿って解明する。骨形態と古代ゲノム解析から、新天地への拡散の歴史、人口構造・人口動態、環境への適応進化を解明する。また、ミイラや糞石に残された寄生虫感染症や細菌・ウイルス感染症のメタゲノム解析から、感染症の実相を明らかにする。人類集団モデル動物(メダカ)を用いたゲノム研究によって、好奇心(新奇性追求)遺伝子多型の検出とその進化的解析を行い、メダカとヒトの遺伝子多型の関連性を検証し、新天地への拡散と移動を可能にした人類の心理・行動に関係する適応候補遺伝子の推定および解析をする。
本プロジェクトの研究目的は、集団のフロンティアへの拡散と移動、「文明」形成に伴う遺伝的多様性と身体形質の変化とその適応過程、そして自然環境、文化環境への適応について、その変遷を時間軸に沿って解明することである。そのために(A)形質人類学チーム、遺伝子チーム、人間生物学チームによる統合研究と、(B)モデル動物研究、心理学、遺伝学の融合研究を進めている。
2019年度は、形質人類学チームは、縄文時代、弥生時代の人口構造・人口動態を明らかにするため、縄文時代集団と弥生時代集団の腸骨形態からの出生率と寿命の復元を行った。また、南北アメリカ大陸の頭蓋骨形態の多様性からの共通祖先検証と新大陸への拡散の歴史を考察し、体肢骨形態の多様性と気候への適応を検証した。遺伝子チームは、ミトコンドリアDNAと全塩基配列を用いた日本人集団の有効集団サイズを検証した。また、ミトコンドリアDNAを用いて列島日本人集団とアメリカ大陸人類集団の人口動態を分析し、出ユーラシアを果たしたこの二つの集団の人口動態の違いを明らかにし、その違いを引き起こした要因について探求している。人間生物学チームは、出ユーラシア前にチベット高原で人が獲得してきた高地適応の状態とその破綻が健康に及ぼす影響を調査し、自然環境および文化環境に適応する人類の多様性を模索している。
人類集団モデル動物(メダカ)を用いたゲノム研究では,好奇心(新奇性追求)遺伝子多型の検出とその進化的解析を行い、メダカの遺伝子多型の関連性の検証を実施している。また、心理学と遺伝学の融合アプローチにより、新天地への拡散と移動を可能にした人類の心理・行動に関係する適応候補遺伝子の推定および解析を目指し、日本人行動特性と日本人ハプログループD遺伝子との関連研究が心理学と遺伝学の融合で進められた。
形質人類学チームは、日本列島の先史時代における人口構造(年齢構成と出生率)を,古人骨を用いて推定した。今後の集団の拡散・移住の歴史と身体的変化分析のために古人骨3次元データ収集を行うため、購入した3次元スキャナー、3次元メッシュデータ作成プログラムのトレーニングを受け、3次元古人骨データの収集を始めた。遺伝子チームは出ユーラシアを果たした現代型ホモ・サピエンスがそれぞれの最終到達地域でどのような適応進化を遂げてきたのかを探るにあたって、出ユーラシアを果たした集団として「列島日本人集団とアメリカ大陸人類集団」の人口動態、そしてユーラシアに留まったレファレンス集団として「中国大陸・漢民族集団」の人口動態を比較分析した。その差異から両集団のそれぞれの遺伝的特性の存在が期待される。
人間生物学チームはフィールド調査と医療人類学的研究を担当し、チベット高原にて、ヒトと環境の相互関係が病気の発症に与える影響の調査を実施し、多血症の発症に性差、低酸素適応に潜むトレードオフ:糖尿病の発症促進、低酸素適応に潜む第二のトレードオフ:関節炎の状況を確認した。
モデル動物ゲノムチームはメダカの行動実験の結果を用いたゲノムワイド関連解析を実施し、好奇心の強さと関連するゲノム領域の同定を目指し、トランスクリプトーム解析を実施した。心理学・遺伝子チームは遺伝子多型の網羅的な検討、ヒトを対象とした実験室研究 (リスク下における意思決定)という多面的な方法を用い、出ユーラシア関連の心理・行動に関係する適応候補遺伝子の推定および解析を実施、新奇性追求に代表される「冒険心」にかかわる遺伝子探索を進めた。
全メンバーは、新学術領域・出ユーラシア主催の国内全体会議での発表、学会発表、原著論文の出版、アウトリーチ活動を活発に行った。また、新学術・出ユーラシア主催のメキシコでの国際会議にも出席発表を行った。
形質人類学チームは国内、海外での調査を実施する予定であり、人間生物学チームも海外調査を予定しているが、COVID-19感染拡大のため、一連の国内、海外調査が可能になるかどうか、はなはだ不透明な状況にあるため代価案も提示する。
形質人類学チームは今後も、研究施設に保管してある古人骨の調査を行い、地域集団の人口構造の復元を行う。次に人為的な頭蓋骨変形の3次元データを収集し、変形した頭蓋形態の独特なパターンを分析し、その文化的意義を検証する。また、集団の健康状態の経時的変化の復元のためのデータを収集し、生物考古学的分析を始める。COVID-19感染拡大のために国内外の調査が困難な場合は、これまで収集したデータ分析、文献資料調査を拡充する方向で対応する。
遺伝子チームは、出ユーラシア後の人口動態が「日本列島に進出した出ユーラシア集団」と「アメリカ大陸に進出した出ユーラシア集団」で異なることを、現代人集団の母系遺伝情報であるミトコンドリアゲノムを用いて明らかにしてきたが、本年度はそれぞれの地域から出土した古人骨を用い、父系・母系の両者からの遺伝情報である核ゲノム情報を用いた解析を実施する。
人間生物学チームは、ネパール、ペルーにおいて、高地適応とその破綻、破綻がもたらす疾病の関係について研究予定であるが、COVID-19感染拡大のために海外出張ができなかった場合は、その時間を遺伝子データの解析、メタゲノム解析に当てる。
心理学・遺伝子チームは文献調査や実験室実験を通じて出ユーラシア関連の心理・行動を特定し、それに関係する適応候補遺伝子の推定および解析を実施する。モデル動物ゲノムチームは新奇性追求行動実験装置を再導入し、その再現性の確認を行い、すでに候補として検出した15遺伝子について遺伝子破壊メダカ変異体を作成するとともに、新規QTL解析を実施するためのF2個体群の作成を行う。 -
勤勉に関する日本的倫理観とその心理的基礎:認知的・動機的・文化的諸過程の解明
研究課題/研究課題番号:19K21812 2019年6月 - 2022年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽) 挑戦的研究(萌芽)
唐沢 穣, 石井 敬子, 奥田 太郎, 石井 敬子, 奥田 太郎, 塚本早織
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:600000円 ( 直接経費:600000円 )
近年の道徳心理学研究研究によって明らかになった「道徳基盤」に加えて、「勤勉」もまた道徳判断の重要な根拠となる可能性と、それが日本社会において顕著である可能性を検証するため、社会心理学的・文化心理学的方法を用いた実証的研究を行う。特に、勤勉に関わる倫理的価値意識の基礎をなす、認知過程と動機過程、そして文化的特質の解明に焦点を当てる。
併せて、これらの心理的諸過程の相互関係を理解するための理論的枠組みの構築を目指す。
さらに、本研究の知見をもとに、勤労をめぐる現実的な社会問題の解決策に関する論考を行う。以上を達成するために、応用倫理学の観点と心理学研究の方法を総合した学際的な試みを行う。
【理論的作業】勤勉を社会規範や社会的慣習とは異なる道徳の問題として認識する過程について、その理論的枠組みを確立する作業を行なった。西欧的文化圏における理論的モデルの中から、Janoff-Bulman & Carnes (2013) による Model of Moral Motives (MMM) を取り上げ、日本をはじめとする他の文化における勤勉観との共通点や相違について論考した。
【実証的作業】MMMが想定する2つの動機次元についての測定を目的とした「道徳動機尺度」(MM尺度)の日本語版を作成し、その信頼性および妥当性を検討した。その結果、北米地域において行われてきた実証研究との比較対象を行うに足る日本語版尺度の作成に成功した。
また、勤勉に関わる道徳判断の基礎に、人物評価に基づく道徳判断(person-based moral judgment) の過程があることを検証するために、社会的成功(および失敗)の原因帰属過程と人物評価の関係を調べた。北米における先行研究では、努力よりも才能を重視されることを示す結果と、才能を重視することを示すものとが混在している。これを日本において検証するため、刺激人物の社会的成功が当人の才能・努力のいずれによるかの情報を操作した実験を行なった。結果は、全般に才能型よりも努力型の人物の方が、職場の同僚として選好され、能力が高く評価されることを示した。また努力型人物に対して男性性がより強く知覚され、agenticity に関する評価が関与している可能性が示唆された。ただし上記はいずれも専門職における成功において顕著で、一般職における努力は比較的低い能力や女性性の知覚と関連していた。
ここでもMM尺度の信頼性および妥当性が示されたほか、政治的イデオロギーや勤労倫理意識などの変数との関連から、勤勉に対する評価がもつ道徳的性質が示唆された。
新型コロナ・ウィルスの感染拡大という状況のもとで、実施が可能な実験はオンライン実験に限られ、実験室での対面実施が必要なプライミング実験などは、全く行うことができなかった。また、外部講師を招いた研究会も見送りを強いられた。
感染状況しだいでは2021年度も対面実験に困難が予測される。その場合は、オンラインでの実験・調査によって明らかにできる事項に分析対象を移行する準備を行う。研究代表者および分担者は、近隣の大学に勤務するどうしであるため、研究会の開催は比較的容易であるが、外部講師を招いてのミーティングについてはオンライン開催の対応を迫られると予測される。実験研究の進捗状況によっては、次年度への延長を申請する可能性も念頭に置きながら、実施可能な課題を達成していくことを目指す。一方、研究成果の公表については、論文執筆を中心に促進を図る。 -
研究課題/研究課題番号:18H01078 2018年4月 - 2022年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
唐沢 穣, 石井 敬子, 稲増 一憲, 笹原 和俊, 北村 英哉, 石井 敬子, 稲増 一憲, 上野 泰治, 笹原 和俊, 北村 英哉, 塚本早織
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
配分額:1200000円 ( 直接経費:1200000円 )
欧米の社会的分断で典型的に見られる「左・右」のイデオロギーと類似の対立軸および日本社会独自の対立軸を特定し、それぞれに影響する感情過程、認知過程、価値・信念体を明らかにするため、以下の諸研究を行なった。
・個人内過程に関する実験研究では、具体的題材としてまず、外国人・移民に対する分断意識について検証した。結果は日本人アイデンティティーのイデオロギー性、清浄を求めケガレを忌避する心情、嫌悪その他の感情の影響等を明らかにした。また、食をめぐる消費志向性の分析では、異なる食志向集団間の道徳性に関する相互認知の効果を明らかにするとともに、時間割引指標を用いた分析により、長・短期的利得の影響も明らかにした。さらに障害の有無や性的志向性など多様な分野での分断について、分析を実施するための実験題材を開発したほか、分断に伴う非人間化過程の分析に用いる指標の開発にも進展があった。
・対人間コミュニケーションに関する実験では、自己と類似した意見の持ち主に対する選択的接触の現象が、信念の斉合性維持動機、対人葛藤回避の動機、そして共有的現実感構築の動機などに媒介されることが示された。さらにマス・レベルでの分析として、社会調査研究の結果から、右寄り vs.左寄りおよび与党 vs. 野党支持者の陣営間で、双方がマスメディアの影響の受けやすさを過大に認識していたことが示され、分断が進展する基礎過程が明らかとなった。
・ソーシャルメディア分析では、まず2020年の米大統領選におけるトランプ派とバイデン派の社会的分断を観測した上で、トランプ派のクラスターに悪質なボットが多数存在したことを確認した。次に、新型コロナに関する誤情報の拡散と消費者心理を分析し、不確かな情報がフリマサイトでの転売行動に与える影響や、感情的・道徳的反応を特定することに成功した。
・以上を包括的に議論するための研究会を実施し、成果を上げた。
新型コロナウィルスの影響により研究活動が著しく制約を受けたにも関わらず、年度当初の計画を、ほぼ実行に移すことができた。特に、実験室での対面による実験は全く実行不可能であったが、クラウドソーシングによる参加者募集を活用したオンライン実験を多数実施することができ、それぞれに多くの発見を伴うデータの蓄積と分析を行うことができた。
これらの分析から共通して浮上したのは、研究着想当初から予測していた感情の役割に加え、道徳的確信(moral conviction)が分断を促進する過程の役割である。最終年度となる次年度は、この点についての実証的検証にさらに力点を置いて、各研究班相互の知見の交換と討論を行う予定である。また、コンジョイント分析を用いた実験研究や、エージェントベースト・モデリングなど、新たに採用した研究手法の適用にも進捗が認められる。
個別の研究成果については、論文の刊行や学会発表などにおいて高い生産性を認めることができ、この点についてもおおむね順調と判断する。
各研究班の活動にさらなる進捗を得る時間は残されていると判断しており、この点での注力を続ける。一方、最終年度の取りまとめのために包括的な議論も行なっていく。学会発表や論文刊行などの成果公表活動も、これまでのところ順調に推移しており、この点でも知見の統合とまとめを目的とした公表活動を目指す。 -
文化的価値の伝達:個人の選好および文化化による影響
2016年 - 2018年
科学研究費補助金
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社会心理学・神経科学・内分泌学の連携による文化差の遺伝的基盤の解明
2014年10月 - 2021年3月
日本学術振興会 課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業 領域開拓プログラム
担当区分:研究代表者
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文化的価値の伝達:個人の選好および文化化による影響
2014年 - 2016年
科学研究費補助金 基盤研究(C)
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意思決定の言語・文化的影響:時間割引に関する検討
2014年 - 2015年
科学研究費補助金 新学術領域研究
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文化的価値の維持と個人の選好
2011年 - 2013年
科学研究費補助金 若手研究(B)
文化心理学において、意味体系や信念、価値は、当該の文化におけるさまざまな慣習の実践や文化的産物への接触を通じ、認知、思考、感情、動機づけなどのさまざまな心の性質へと反映されると考えられている。しかしそれらがどのように維持、継承されているのかについての理論的考察は進んでいない。本研究の目的は、この未解明な部分を補うべく、1)文化的な価値観の維持に個人がどのように関わっているか、2)当該の文化的な価値の維持に関連する個人の選好は発達の段階でどう形成されるのか、3)さらにはそのような選好に対する脳内基盤は存在するのかを探索していくことにある。本研究では、文化的産物として塗り絵に注目する。本年度は、日本および北米(アメリカ・カナダ)の大学生および5~6歳の未就学児を対象として塗り絵を収集した。そしてそれらを別の日本・カナダの大学生に呈示してそれらに対する選好を尋ねた。さらに文化的価値に関連した次元(独創性、調和)を用いて、その塗り絵を評定させた。もしもそれぞれの文化で産出された塗り絵にその文化で優勢な価値が内包されているのであれば、北米産の塗り絵は独創的かつ逸脱していると判断されやすく、一方、日本の塗り絵は調和がとれかつ凡庸だと判断されやすいだろう。加えて、カナダ人は北米産の塗り絵を選好しやすいのに対し、日本人は日本産の塗り絵を選好しやすいだろう。本年度行った実験の結果は、その予測に...
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心の性質の文化依存性:事象関連脳電位によるアプローチ
2009年 - 2010年
科学研究費補助金 若手研究(B)
これまでの文化心理学の研究は、内省指標や行動指標を用い、心の性質の文化依存性を示唆してきた。一方、本研究では、ERP(事象関連脳電位)を指標として用い、脳内基盤への文化による影響を検討する。本年度は、P300(300ms程度の潜時で発生する陽性電位のことであり、刺激出現に対する注意の程度を反映)を用いた自己概念に関する実験を日本で行った。まずこの実験にあたって、Anderson(1968)による555語の性格特性語のリストを用い、その語の意味の肯定・否定の調査を日本人参加者に対して行った。そしてその結果に基づき、アメリカ人参加者を対象としたAnderson(1968)の評定値と今回の日本での評定値の間に差がないよう、肯定的な意味の単語を50個、否定的な意味の単語を50個選定した。その上で、oddball paradigmを用い、12名の日本人参加者に対し、中性的な意味の単語(本研究では植物名)を高頻度に、肯定的もしくは否定的な意味の単語を低頻度にランダムに呈示し、出てきた単語が肯定的であれば左ボタンを、否定的であれば右ボタンを押すよう教示した。そして参加者は最後に、ローゼンバーグの自尊心尺度や日常の感情経験に関する質問紙に回答した。結果は、低頻度に呈示される肯定的・否定的な単語に対してのほうが、高頻度に呈示される植物名の単語よりもP300は大きかった。さらに、自尊心尺度の評定...
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文化とフロンティア精神:相互独立的エートスの起源に関する実験研究
2007年 - 2008年
科学研究費補助金 若手研究(B)
これまでの一連の研究は、独立的自己観の起源が「経済的に動機づけられた自発的移住」という歴史的事実にあるという仮説に一致し、協調的自己観が優勢な日本文化にあっても、そのような歴史的事実が認められる北海道においては、北米と同様に、独立的自己観が見いだされることを示している。ただし、その独立性の特徴は、アメリカと北海道においては異なることも指摘されている。具体的には、北海道においては、アメリカ同様、個人の独立性を重んじる社会規範があり、この点において日本の本州とは異なる。しかしアメリカ人とは異なり、北海道人は独立性を内発的には希求しない、むしろ、他者との協調性を希求しているという点において本州の日本人と同様であることが示唆されている。本年度は、社会規範が関与していると考えられる選択課題を北海道、京都、アメリカで実施するための研究打ち合わせを行い、マテリアルを作成した。それに加えて本年度は、北海道大学およびミシガン大学の学生128名に対し質問紙調査を行い、独立性の社会規範を測定するための尺度を開発した。特にこの尺度では、独立性をなす要素のうち、自分自身および他者の行為にどの程度影響を与えたいかに注目した。そして、その程度に対する自分自身の信念と人一般が持っていると考えられる信念を測定した。その結果、自分自身が影響を与えたいかの程度は、アメリカ人のほうが北海道人よりも高かったが、しかし...
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信頼社会形成のための心理・社会的基盤の研究
2002年 - 2005年
科学研究費補助金 基盤研究(A)
実験室に設定された「実験社会」を用いて、関係の固定化による「安心」の提供が不可能な状況を作り出し、関係の固定化を媒介しない形での自発的な社会秩序の形成を可能とする原理を明らかにすることをめざした。そしてこの最終目的を達成するために、一連の実験研究を通して、まず第1に、機会主義的関係の信頼関係への変換に際してリスクテイキングが不可欠の役割を果たすこと、そして更に、この変換のために必要とされる社会関係的および社会制度的な条件を明らかにすることを明らかにした。具体的には、以下の諸点を明らかにした。◆信頼関係の形成に際してはリスクテイキングが重要な役割を果たす。◆信頼関係形成においては、信頼行動と協力行動とを切り離し、信頼に伴うリスクを最小限に抑えつつ協力行動をとる戦略が極めて有効である。◆情報非対称性が生み出すエージェンシー問題の解決に際して評判が果たす役割は、社会ないし市場の開放性・閉鎖性に応じて異なってくる。閉鎖的社会ではネガティブ評判が、開放的社会ではポジティブ評判が有効である。◆相互協力を達成するための集団内での非協力者に対する罰行動と、他集団の成員に対する罰行動は、異なる心理メカニズムに基づいている。◆1回限りの囚人のジレンマにおける協力行動の説明原理としての効用変換モデルの限界を克服するためには、ヒューリスティック・モデルが有効である。◆内集団成員に対する協力行動は、集...