科研費 - 西田 佐知子
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雑種化・単為生殖化-“見えない”多様性喪失への繁殖干渉関与の解明
研究課題/研究課題番号:20K06783 2020年4月 - 2025年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
西田 佐知子, 高野 温子
担当区分:研究代表者
配分額:4160000円 ( 直接経費:3200000円 、 間接経費:960000円 )
繁殖干渉は、別種の生物が間違って交配に加わることで子孫がうまく作れなくなる現象であり、近年、近縁種同士の共存を妨げる要因として注目を集めている。一方、一見繁殖干渉もなく共存しているように見える近縁植物の中に、実際は雑種化が進んで健全な子孫を作れなかったり、有性生殖を行えない事例が見つかっている。そこで、表面上は負の相互作用はないのに実際は雑種化している植物や、花をつけながら実際は閉鎖花(開かないまま自分の花粉で種子を作る花)で繁殖する植物について、近縁種が隣接する・しない個体群で形態・遺伝的多様性・繁殖生態等を比較し、繁殖干渉が健全な子孫の減少や多様性の低下をもたらしている可能性を検証する。
生物の分布・生態においては、表面的には生育・共存しているように見えても、雑種化や子孫減少などが水面下で進み、多様性が減っていく状況があり得る。本研究の目的は、そのような状況が、最近注目され始めた繁殖干渉という種間相互作用によって起こっている可能性を明らかにすることである。繁殖干渉とは、近縁な生物同士が間違って交配に関わる結果、子孫が減ってしまう現象を指す。本研究では、近縁種同士なのに共存している植物で、実際は繁殖干渉が起こっている可能性、そして、その繁殖干渉によって雑種化などが起き、多様性が喪失している可能性の可視化を試みる。
研究当初は、近縁種が共存する個体群と共存しない個体群のある植物を選定し研究を行う予定であった。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大状況が続いた影響で、植物選定という最初の部分の実施ができず、研究の大幅変更を強いられた。そこで、新規の植物選定は断念しつつも本来のテーマに叶う研究を目指した結果、2020-2022年度は、これまで研究してきた植物や他者の研究論文から研究対象を再発掘し、雑種化を起こしている植物について現地での生態調査と遺伝子解析を実行したほか、繁殖干渉がありそうなのに共存している植物の現状調査などを行った。
それらの成果を踏まえて2023年度は、複数種の繁殖干渉の実態調査、雌しべ-花粉間における繁殖干渉のメカニズムの調査などを行った。また、成果の一部を論文として発表した。具体的には、クワガタソウ属植物について論文を発表した(掲載済)。また、タムラソウ属植物についても論文を執筆した(現在査読中)。さらにクワガタソウ属、ツリフネソウ属、イセハナビ属植物について、栽培および野外での人工授粉実験を行った(研究継続中)。
やっと新型コロナウィルスの感染状況が落ち着き、本格的に野外調査などが行えるようになった。そこで、最初の計画とは若干異なるものの、繁殖干渉が疑われる植物や繁殖干渉が報告されている植物について、共存しているようにみえても雑種化という形で繁殖干渉が起こっている可能性や、他種の花粉がつきにくいことで野外では繁殖干渉の悪影響とは違う要因が共存に作用している可能性を探り、かつその調査の成果を論文につなげることができた。
タムラソウ属植物では、雑種を伴う形で繁殖干渉を起こしている状況について、次世代シーケンス解析などを含めた調査結果をまとめ、論文を執筆した(現在査読中)。クワガタソウ属植物では、人工授粉で明らかになった繁殖干渉の存在が野外ではっきりと感知できない現状について、早春の不安定な送粉状況が関与している可能性を考察した論文を発表した(掲載済み)。ツリフネソウ属植物については野外で、クワガタソウ属とイセハナビ属については栽培植物を用いて人工授粉実験を行い、花粉管観察を行うことで繁殖干渉のメカニズムを検証した(研究継続中)。
今年度は最終年度に当たるため、研究成果の論文化を進めること、国内外の学会で発表をして研究成果をアピールし、かつ、他大学や他国の研究者との議論を深めることを目指す。具体的には、現在投稿中の論文について引き続き査読者らと議論を深め、よりよい論文としての公表を目指す。また、今年夏にスペインで行われる国際植物学会で研究の一部を発表するほか、スペインの野外での植物観察会に多国籍の研究者とともに参加し、現地の植物でも繁殖干渉という現象が普遍的に起こっている可能性を探るとともに、繁殖干渉の重要性について他の研究者へのアピールを目指す。
一方、昨年度までにまだ完結していない調査、とくにクワガタソウ属・ツリフネソウ属・イセハナビ属植物などでの繁殖干渉のメカニズムについて、主に雌しべ-花粉間の相互作用に注目して調査・実験を続ける。さらに、タムラソウ属については、すでに得られた次世代シーケンスのデータを元に、遺伝的多様性の解析を行えないか検討する予定である。 -
研究課題/研究課題番号:20K06833 2020年4月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
柿嶋 聡, 西田 佐知子
担当区分:研究分担者
植物には、タケのように、集団が1年を越える一定の周期で一斉開花・枯死する生活史をもつ植物(周期植物)がある。周期植物の多くは数十年というきわめて長い周期を持つため、その進化要因や進化過程はほとんど未解明である。本研究では、沖縄島で6年周期で一斉開花し枯れるキツネノマゴ科のコダチスズムシソウに注目した。これまでに一斉開花・結実の進化要因として知られてきた捕食者飽和説、受粉効率説に加え、新たに本研究で提唱する繁殖干渉仮説といった生物間相互作用について検証を行い、コダチスズムシソウにおいて6年周期一斉開花の進化が生じた要因を解明する。
一斉開花する植物の中には、タケのように、集団内のほとんどの個体が2年を越える一定の周期で一斉開花・結実し、枯死する生活史をもつ植物(周期植物)がある。本研究では、周期植物コダチスズムシソウの6年周期一斉開花・枯死の進化要因を検証した。人工授粉実験を行い、新たに提唱した繁殖干渉仮説について検証したところ、相互に弱い繁殖干渉の存在が確認され、特にコダチからオキナワへの負の影響が大きいことが示唆された。また、送粉者がコダチの繁殖に大きく貢献していることが明らかとなり、受粉効率説が改めて支持された。これらの成果から、生物間相互作用が6年周期一斉開花の進化へ与える影響が明らかとなった。
周期植物の多くは、数十年というきわめて長い周期を持つため、その進化要因や進化過程は未解明な点が多い。本研究により、近縁種との繁殖干渉や送粉者による受粉効率の上昇といった生物間相互作用が6年周期一斉開花の進化要因の一つになっていることが明らかとなったことは、周期植物の進化を考える上で、学術的に大きな意義がある。植物の生活史の進化や維持に生物間相互作用が大きな影響を与えているという結果は、生物の保全を考える際に、特定の種のみを保全対象にするのではなく、環境全体を保全する必要があるということを示唆しており、社会的な意義がある。 -
外来タンポポによる在来種駆逐を引き起こす、繁殖干渉メカニズムの解明
研究課題/研究課題番号:26440211 2014年4月 - 2019年3月
西田 佐知子
担当区分:研究代表者
配分額:4940000円 ( 直接経費:3800000円 、 間接経費:1140000円 )
繁殖過程で他種から受ける悪影響は繁殖干渉と呼ばれ、生物の分布を決める要因として近年注目を集めている。申請者は、日本の在来タンポポが外来タンポポからの繁殖干渉によって分布地から駆逐されているという仮説に着目し、複数のタンポポ個体群の分布や生態、外来種からの繁殖干渉の受け方を比較することで仮説の検証を試みた。
その結果、在来タンポポには繁殖干渉を受け易い個体群と受け難い個体群があり、その違いは外来タンポポによる駆逐の有無と相関がある可能性を見出した。また、この繁殖干渉は訪花昆虫の奪い合いや頻繁な雑種化ではなく、外来の花粉を間違って受け入れることで結実に失敗した結果起こる可能性が高いことを示した。
外来種が在来種を駆逐するという現象はよく知られているが、どんな仕組みで起こるのかは今まで不明だった。そのため、在来種を守る適切な方法も未だ定まっていなかった。
本研究は身近な植物であるタンポポを用いて、繁殖干渉という、近縁種が間違って繁殖しようとすることから起こる悪影響を明らかにした。特に、外来タンポポの花粉が在来のめしべに付くことでタネが減るという現象が、在来タンポポの駆逐につながっている可能性を明らかにした。
この結果は、生物地理学に繁殖干渉という新しい視点を提供することに繋がる。また、外来種の花の駆除が在来生物の繁殖保持に有効である可能性を示唆し、在来生物保全への応用が期待できる。 -
フウロソウ属植物の不可解な分布様式を解明する、繁殖干渉理論の実証的研究
2010年4月 - 2013年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
西田佐知子
担当区分:研究代表者
植物には、気温や地質条件などでは説明できない不可解な分布様式を示すものがある。このような分布は、今まで個別の歴史的事情として解釈され、統一的な説明は試みられなかった。しかし、最近提唱されはじめた繁殖干渉という近縁種間の相互作用から、説明できる可能性がでてきた。そこでフウロソウ属をもちいて繁殖干渉の観察・実験を行い、分子系統地理解析と組み合わせることで、今まで誰も試みたことのない、野生植物の分布様式解明への検証研究を行いたい。
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ガマズミ属植物における共生器官ダニ室の多様性とその適応的意義の解明
2006年4月 - 2009年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
西田佐知子
担当区分:研究代表者
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渓流沿い水生被子植物カワゴケソウ科の跳躍的進化機構の解明
2004年4月 - 2007年3月
科学研究費補助金 基盤研究(A)
今市涼子
担当区分:研究分担者
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クスノキ科植物を用いた、未知の葉上器官「ダニ室」の形態進化・多様化の要因解明
2001年4月 - 2003年3月
科学研究費補助金 若手研究(B)
西田佐知子
担当区分:研究代表者
植物と動物の相互作用のために進化したと思われる植物の器官の中でも、その詳細や多様性が解明されていない「ダニ室」という葉の器官について、クスノキ科植物を用いて比較研究を行なう。
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クスノキ科オコテア属のデータベースによる検索システムの確立
1996年4月 - 1998年3月
科学研究費補助金
西田佐知子
新熱帯のクスノキ科植物の種の形態を、生態・地理的特徴とあわせて比較検討することによって、植物における種の違いに関して考察を加えるとともに、その多様性を集合を用いた方法で同定可能にする新しい検索システムを構築する。