科研費 - 林 良敬
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グルカゴンによるニコチンアミド代謝制御の生体における意義の解明 研究課題
2018年4月 - 2023年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
林 良敬
担当区分:研究代表者
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糖代謝とアミノ酸代謝のクロストークにおけるグルカゴンの役割の解明
2015年4月 - 2018年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
担当区分:研究代表者
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肝臓に由来する膵島α細胞増殖制御因子の同定
2015年4月 - 2017年3月
科学研究費補助金 挑戦的方が研究
担当区分:研究代表者
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膵島の発生・新生における血管神経ワイヤリング形成とリモデリングの機構の解析
2013年4月 - 2015年3月
科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)
担当区分:研究代表者
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褐色脂肪機能制御における内分泌系とサーチュインのクロストーク
2012年4月 - 2015年3月
科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究
担当区分:研究代表者
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膵島の発生・新生における血管神経ワイヤリング形成とリモデリングの機構の解析
2011年4月 - 2013年3月
科学研究費補助金 新学術領域研究、課題番号:23122507
担当区分:研究代表者
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腸管上皮・内分泌細胞をターゲットとした新規治療戦略の創出
2009年4月 - 2012年3月
科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究
担当区分:研究代表者
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脳・神経系における甲状腺ホルモン作用の解析ー海馬などにおける新規標的遺伝子の探索
2006年4月 - 2008年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
林 良敬
担当区分:研究代表者
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アミノ酸代謝の恒常性維持機構の解明-グルカゴン作用と肝臓のzone特性を踏まえて
研究課題/研究課題番号:22H03508 2022年4月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
林 良敬, 堀 美香
担当区分:研究代表者
配分額:17160000円 ( 直接経費:13200000円 、 間接経費:3960000円 )
生体の主要構成要素である蛋白質を構成するアミノ酸の代謝制御機構は、生体の主要なエネルギー源である糖代謝制御機構と比べて未解明の部分が多い。細胞レベルではオートファジーによるタンパク質分解・アミノ酸再利用の制御機構などについて解明が進んでいるものの、器官・臓器・個体レベルの知見は非常に少ない。本研究ではアミノ酸の血中濃度や代謝産物の呼気への排出速度の測定などをはじめとする多角的・包括的な解析を展開して個体レベル・臓器レベルでの代謝制御機構の解明を目指す。
アミノ酸は生体の主要構成成分であるタンパク質の構成要素であり、その血中濃度は通常の栄養摂取条件のもとでは一定範囲に保たれている。しかしながら、臓器・個体レベルにおけるアミノ酸代謝の制御機構・恒常性維持機構の解明はほとんど進んでいない。タンパク質を構成要素となる一方で、アミノ酸からアミノ基が除去された代謝産物(例:セリンが脱アミノ化されればピルビン酸が生じる)は、主に肝臓においてブドウ糖へと変換され、肝静脈を経て全身へ放出される。我々は糖新生・特にアミノ酸の糖新生基質への転換において膵臓ランゲルハンス島α細胞から分泌されるグルカゴンが極めて重要な役割を果たすことを明らかとしてきた。
2022年度までにグルカゴン遺伝子欠損動物と対照群に対して高蛋白質食を負荷し血中アミノ酸濃度や肝臓の遺伝子発現解析を行い、その結果を論文・学会等で報告してきた。グルカゴン遺伝子欠損動物はもとより高アミノ酸血症を呈するが、高蛋白質食を負荷するとグルタミン、アラニンの血中濃度はそれぞれ4mM、7mM程度と著しく上昇する(対象群においては通常食・高蛋白質食群のいずれにおいても0.4mM、0.6mM程度)。この結果から、グルカゴンが血中アミノ酸濃度の恒常性維持において必要不可欠の役割を果たすことが明確となった。一方でロイシン・イソロイシン・バリンといった分枝鎖アミノ酸はグルカゴン遺伝子欠損動物に比較すると上昇の度合いは少ないが対象群においても上昇が認められ、分枝鎖アミノ酸の代謝においてグルカゴンに応答しない臓器である筋肉が相対的に重要な役割を果たしていることを反映していることを示す結果と考えられる。
グルカゴン遺伝子欠損動物と対照群に対して高蛋白質食を負荷し血中アミノ酸濃度や肝臓の遺伝子発現解析を行い、グルカゴンが血中アミノ酸濃度の恒常性維持において必要不可欠の役割を果たすことを明確にすることができた。また、グルカゴンに応答しない臓器であるとされている筋肉についても、グルカゴン遺伝子欠損動物と対照群の差の解析が進んでいる。これに合わせて、今後の研究の推進方策に記載したように、次段階への準備もある程度整いつつあることから、概ね順調に進展していると総合的に判断した。
通常食・高蛋白質食負荷が肝臓の遺伝子発現に与える影響を解析するとともに、領域特異的マーカーの候補となる蛋白質に対する抗体を用いた免疫組織化学解析を進める。これと並行して13C化合物を動物に投与して13CO2の排出を解析する呼気試験により、投与物質の代謝をモニタリングすることができるか検証を進める。 -
アミノ酸代謝の恒常性維持機構の解明-グルカゴン作用と肝臓のzone特性を踏まえて
研究課題/研究課題番号:23K24765 2022年4月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
林 良敬, 堀 美香
担当区分:研究代表者
配分額:17160000円 ( 直接経費:13200000円 、 間接経費:3960000円 )
生体の主要構成要素である蛋白質を構成するアミノ酸の代謝制御機構は、生体の主要なエネルギー源である糖代謝制御機構と比べて未解明の部分が多い。細胞レベルではオートファジーによるタンパク質分解・アミノ酸再利用の制御機構などについて解明が進んでいるものの、器官・臓器・個体レベルの知見は非常に少ない。本研究ではアミノ酸の血中濃度や代謝産物の呼気への排出速度の測定などをはじめとする多角的・包括的な解析を展開して個体レベルにおけるアミノ酸代謝制御機構ならびに同機構における膵島-肝臓間連関を始めとした臓器連関の実態解明への道を切り開きたい。
アミノ酸は生体の主要構成成分であるタンパク質の構成要素であり、その血中濃度は通常の栄養摂取条件のもとでは一定範囲に保たれている。しかしながら、臓器・個体レベルにおけるアミノ酸代謝の制御機構・恒常性維持機構の解明はほとんど進んでいない。タンパク質を構成要素となる一方で、アミノ酸からアミノ基が除去された代謝産物(例:セリンが脱アミノ化されればピルビン酸が生じる)は、主に肝臓においてブドウ糖へと変換され、肝静脈を経て全身へ放出される。我々は糖新生・特にアミノ酸の糖新生基質への転換において膵臓ランゲルハンス島α細胞から分泌されるグルカゴンが極めて重要な役割を果たすことを明らかとしてきた。
2022年度までにグルカゴン遺伝子欠損動物と対照群に対して高蛋白質食を負荷し血中アミノ酸濃度や肝臓の遺伝子発現解析を行い、その結果を論文・学会等で報告してきた。グルカゴン遺伝子欠損動物はもとより高アミノ酸血症を呈するが、高蛋白質食を負荷するとグルタミン、アラニンの血中濃度はそれぞれ4mM、7mM程度と著しく上昇する(対象群においては通常食・高蛋白質食群のいずれにおいても0.4mM、0.6mM程度)。この結果から、グルカゴンが血中アミノ酸濃度の恒常性維持において必要不可欠の役割を果たすことが明確となった。一方でロイシン・イソロイシン・バリンといった分枝鎖アミノ酸はグルカゴン遺伝子欠損動物に比較すると上昇の度合いは少ないが対象群においても上昇が認められ、分枝鎖アミノ酸の代謝においてグルカゴンに応答しない臓器である筋肉が相対的に重要な役割を果たしていることを反映していることを示す結果と考えられる。
グルカゴン遺伝子欠損動物と対照群に対して高蛋白質食を負荷し血中アミノ酸濃度や肝臓の遺伝子発現解析を行い、グルカゴンが血中アミノ酸濃度の恒常性維持において必要不可欠の役割を果たすことを明確にすることができた。また、グルカゴンに応答しない臓器であるとされている筋肉についても、グルカゴン遺伝子欠損動物と対照群の差の解析が進んでいる。これに合わせて、今後の研究の推進方策に記載したように、次段階への準備もある程度整いつつあることから、概ね順調に進展していると総合的に判断した。
通常食・高蛋白質食負荷が肝臓の遺伝子発現に与える影響を解析するとともに、領域特異的マーカーの候補となる蛋白質に対する抗体を用いた免疫組織化学解析を進める。これと並行して13C化合物を動物に投与して13CO2の排出を解析する呼気試験により、投与物質の代謝をモニタリングすることができるか検証を進める。 -
研究課題/研究課題番号:20H03731 2020年4月 - 2023年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
稲垣 暢也, 原田 範雄, 林 良敬, 山根 俊介
担当区分:研究分担者
1) K細胞・L細胞・I細胞の腸管内局在および重複の検討
2) K細胞・L細胞・I細胞の発現プロファイル比較と高発現遺伝子・タンパクの機能解析
3) 胆汁によるGIP, GLP-1の分泌制御についての検討
申請者らは脂肪摂取時GIP分泌に腸管内の胆汁が必須であることを報告しており、この機序の詳細に関して検討する。
4) GPR120-CCK-GIP経路が全身の代謝状態におよぼす影響
腸管内のGPR120シグナルの減弱はCCK分泌の低下を介してGIPの過分泌を抑制し、高脂肪食摂取による肥満・インスリン抵抗性を緩和できる可能性があり、腸管上皮特異的GPR120欠損マウスを作製し、表現型を評価する。
マウスのCckプロモーターを活性化して赤色蛍光タンパク質tdTomato(Tomato)を産生するCCKレポーターマウスを作製した。フローサイトメーターによる解析では小腸上部、小腸下部、大腸の上皮細胞におけるTomato陽性細胞の比率は、それぞれ0.95、0.54、0.06%であった。脂肪酸受容体Gpr120、Gpr40、Gpr43、オレオイルエタノールアミド受容体Gpr119は、小腸から単離したTomato陽性細胞で高い発現を示したが、大腸のTomato陽性細胞では発現が見られなかった。グルコースおよびフルクトースの輸送体であるSglt1, Glut2, Glut5は、Tomato陽性細胞と陰性細胞の両方で発現していたが、これらの輸送体のTomato陽性細胞における発現量は、小腸上部から大腸にかけて減少する傾向が見られた。ペプチド輸送体Pept1とペプチド受容体Gpr93はTomato陽性細胞と陰性細胞の両方に発現していたが、カルシウム感知受容体(Casr)は小腸のTomato陽性細胞にのみ発現していた。このような結果からI細胞の数やI細胞での遺伝子発現が、消化管の部位によって異なることが明らかになった(Kato T, et al.J Mol Endocrinol. 2021 )。
GLP-1産生L細胞で高い発現を認める炭酸脱水酵素8 (carbonic anhydrase 8: Car8) に関して、腸管内分泌細胞株STC-1 を用いて、Car8 の発現抑制により長鎖脂肪酸刺激によるGLP-1 分泌が増強、過剰発現により減弱すること、さらにCar8 欠損マウスのコーン油負荷後GLP-1分泌は野生型マウスに比べて有意に高値であることも見出し報告した(Fujiwara et al.Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol.2021)。
CCK産生I細胞可視化マウス(CCK-tdTomatoマウス)を確立し、このマウスを用いてI細胞の腸管内局在に関して得られた知見を既に論文として報告した。またL細胞可視化マウス(Gcg-GFPノックインマウス) の小腸から単離したL細胞の解析により、炭酸脱水酵素8(Car8)がL細胞で発現していることを見出し、Car8が細胞内カルシウム動態の制御を介してGLP-1分泌調節に関与することも報告した。K細胞可視化マウス(GIP-GFPノックインマウス) とL細胞可視化マウスおよび今回新たに作製したI細胞可視化マウスを用いて、それぞれの分泌細胞の位置的関係や重複についての解析に着手している。令和2年度に予定していた計画としてはおおむね順調に進捗しているものと判断している。
計画に従って、K細胞、L細胞、I細胞、GIP/CCK共陽性細胞(K/I細胞)およびGLP1/CCK共陽性細胞(L/I細胞) ぞれぞれに特異的に発現する遺伝子を同定し、遺伝子欠損マウスを用いた解析などにより、GIP、GLP-1、CCK分泌機序への関与を明らかにする。また胆汁酸による腸管内分泌ホルモン分泌への影響の検討にも着手する。さらには腸管におけるGPR120シグナルの生理的意義を検討するため、腸管上皮特異的GPR120欠損マウスを作製し、表現型を評価する。各研究者は計画の遂行にあたり必要な技術に熟達しており、研究代表者の統括のもと、相互の連携により組織的に研究を実施する。 -
グルカゴン依存性交感神経制御機構の解明と心血管病での役割ー心事故予防を目指して
研究課題/研究課題番号:19H03651 2019年4月 - 2022年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
暮石泰子, 林 良敬, 清野 祐介, 室原 豊明
担当区分:研究分担者
代表者らは、グルカゴン欠損マウス(Gcg-null)の心臓を解析し、高血圧と心肥大を伴う収縮機能不全性心不全を呈することを発見した(投稿準備中)。その機序には、Gcg欠損により、副腎アドレナリン分泌を制御する責任分子の生理的抑制制御の逸脱が起こり、Adrの過剰分泌を引き起こすことを解明し現在その責任分子X関連シグナリングの探索と、このGcgによる新たな神経―内分泌制御系の病態意義に関して研究を継続している。本研究は糖尿病専門医との連携により代表者らが発見したGcg依存性交感神経制御機構の解析結果を発展応用させ、交感神経活性評価の血液サンプルによる簡便なサロゲート診断法や治療法の開発を目指す。
循環器領域での内因性・生理学的グルカゴン(Gcg)の心血管系制御機構については現時点までの約50年間不明のままであった。ところが、最近の糖尿病治療薬に関する大規模臨床試験の結果、インクレチン始め糖代謝制御薬の中には心血管制御作用があることが明らかとなったことを契機に、その分子病態メカニズムの一つとして内因性Gcgの心臓血管系への直接作用に注目が集まってきた。
本年度、研究代表者らは、グルカゴン欠損マウス(Gcg-null)の心臓を解析し、高血圧と心肥大を伴う収縮機能不全性心不全を呈することを発見し、その成果を論文化した(Cell reportsに投稿・Peer review中)。その機序には、Gcg欠損により、副腎アドレナリン分泌を制御する責任分子の生理的抑制制御の逸脱が起こり、アドレナリンの過剰分泌を引き起こすことを解明した。またこのグルカゴンーアドレナリン連関は、重症低血糖時の致死的イベント抑制にも重要で、グルカゴン欠乏は、重症低血糖時の生存率をアドレナリン依存性に大きく低下させることが明らかとなった。現在その責任分子および関連シグナリングの探索と、このGcgによる新たな神経―内分泌制御系の病態意義に関して、グルカゴンの副腎髄質細胞への直接効果に関する解析を進め、副腎髄質細胞におけるグルカゴン受容体の同定、グルカゴン直接作用としての神経細胞分化促進効果を発見し、さらなる機序について解析を継続しているが、その一つに、mRNAdecapping enzymeのうち、EDC4によるmRNA decay調節が重要であることが明らかになっている。
現時点で本年度目標としていたhigh impact journalへの投稿とpeer review採択まで順調に経過した。次年度、査読結果で指摘された内容に対する追加実験が必要となり、それを最優先で実施する。その一方、懸案事項としている次項に述べる3つの項目についても予備実験や試料準備を開始している。
次年度の実施方策として、以下の3つを柱に進めていく予定である。
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1)交感神経の病的活性化に基づく病態モデル(心不全、運動負荷、身体拘束)モデルを、インクレチン欠損モデル動物と対照群において検証する。各種ストレスのGcg-交感神経活性変化への影響及び心臓血管リモデリングへの影響について検証する。
2)SGLT2阻害薬による心不全改善作用におけるグルカゴン依存性心臓ー副腎連関機構の解明
現在心不全治療薬へのドラッグリポジショニングが期待できる糖尿病治療薬SGLT2阻害剤は、グルカゴンを上昇されることが明らかにされている。我々の発見したグルカゴン欠損による交感神経活性化は、このSGLT2阻害剤による心不全改善作用にも関連している可能性が考慮される。よって、心不全モデルに対するSGLT2阻害剤投与の影響を、グルカゴンー交感神経系への点から解析する。
3)Gcgによる副腎髄質細胞分化における責任メッセンジャーRNA (mRNA) decapping 共因子の同定を開始する。具体的には、mRNA decappingを制御する責任マイクロRNA (miRNA)の網羅的解析を行う。更に同定した候補について、次年度に向けて相補的miRNAを作出し機能解析を行う準備をする。心房組織を採取し、RNA-seqによる網羅的比較解析を行い、DPP4依存性・非依存性神経内分泌責任分子及び責任miRNAファミリーの同定を網羅的解析により試みる。 -
グルカゴンによるニコチンアミド代謝制御の生体における意義の解明
研究課題/研究課題番号:18H03176 2018年4月 - 2023年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
林 良敬
担当区分:研究代表者
配分額:17160000円 ( 直接経費:13200000円 、 間接経費:3960000円 )
我々はグルカゴン遺伝子欠損動物を作成・解析し、グルカゴンの生理作用として血糖値制御以上にアミノ酸の代謝制御に重要な役割を果たすことを明らかとしてきた。さらに我々は、エネルギー代謝において重要な役割を果たすNADの構成要素であるニコチンアミドをメチル化することにより異化するニコチンアミドNメチルトランスフェラーゼ(NNMT)の発現が、グルカゴン遺伝子欠損動物モデルにおいて低下していることに着想を得て、本研究ではNNMTを肝臓特異的または全身で欠損するマウス(NNMT-LKO [liver knock out]・NNMTKO)の表現型、さらにグルカゴン遺伝子・NNMT遺伝子二重欠損動物(GCG/NNMT DKO)の作成・解析を進めてきた。しかしながら、NNMTKOでは糖・アミノ酸代謝の明らかな異常は認めず、またGCG/NNMT DKOとGCGKOの間においてもアミノ酸代謝関連遺伝子の発現の差が認められなかった。このように、ともにグルカゴンにより制御を受けるアミノ酸代謝とニコチンアミド代謝の間に相互作用を示唆するデータは現時点まで得られていない。 一方、グルカゴンによるアミノ酸代謝制御の詳細な機構の解明は進んでいないため、2020年度は従来と同様の肝臓内の細胞内シグナル伝達解析を行うとともに、新たにRNAseqによりGCGKO vs Control, GCGKO vs GCGKO+glucagon等の遺伝子発現比較データを取得した。また個体レベルでの代謝を詳細に解析するために呼気ガス(13CO2の解析が可能であるため13C-グルコースなどを投与した上で、その代謝-呼気への排出-を解析することができる)・運動量・摂餌量・飲水量測定システムによる解析を進めている。
2020年度までにNNMT遺伝子欠損マウスおよびグルカゴン遺伝子・NNMT二重欠損マウスの表現型解析について、研究実績の概要に記載したように期待とは異なる方向ながら一定の結果を得ている点、さらにグルカゴンによるアミノ酸代謝制御機構の解析のために新たな解析手法の導入ができている点などに基づいて概ね順調と判断した。
グルカゴンがアミノ酸代謝・ニコチンアミド代謝の制御において果たす役割を、個体レベル、臓器レベル、組織レベル、細胞レベル、分子レベルで解析する。組織-臓器レベルでは、グルカゴン欠損において肝臓の小葉構造における門脈-中心静脈領域特異性(zonation)が変化していることを示す結果がRNAseq解析から得られている。これまでのアミノ酸代謝酵素・ニコチンアミド代謝酵素の発現データに、肝臓のZonationがどのように関与しているか、免疫組織化学解析および必要に応じてin situ hybridization解析を導入して検討する。個体レベルでのグルカゴン代謝制御では安定同位体13Cを含む二酸化炭素炭素13CO2と通常の12CO2の比を測定できるARCOシステムが使用可能となったため活用する。すなわち、13C-グルコースをはじめとする13C化合物を投与して、代謝の結果としての呼気への13CO2排出を測定することによって、個体レベルでの代謝をリアルタイムで検討する。細胞-分子レベルでは、グルカゴンの作用において肝臓の小葉構造の関与が示唆されていることから、肝細胞由来細胞株や初代培養を用いた解析が有効か否か検証することと並行して、幹細胞から分化誘導した細胞や初代細胞を用いた組織様構造体(オルガノイド、organoid)を用いた解析を導入したい -
インクレチン分泌機構の統合的理解:GIPならびにGLP-1分泌の共通点と相違点
研究課題/研究課題番号:16H05326 2016年4月 - 2019年3月
稲垣 暢也
担当区分:研究分担者
電子顕微鏡・共焦点顕微鏡を用いた検討で、脂肪摂取によるFABP5のK細胞核内から核外への局在変化が示唆された。FABP5欠損マウスK細胞ではRegulator of G protein signaling 4(RGS4)の発現が上昇していることが明らかとなった。GPR120とGPR40は双方とも油脂摂取時のGIP分泌に関与しているが、GPR120はCCK分泌を介して間接的にGIP分泌を制御していることが明らかとなった。またL細胞で高い発現を示す炭酸脱水酵素8 (Carbonic anhydrase 8;Car8)が脂肪酸刺激に対するGLP-1分泌を負に制御することを示唆する結果を得た。
肥満・2型糖尿病患者の数は増加の一途をたどっており、全世界的に重要な健康問題であるが、有効かつ安全性の高い治療法は未だ確立されていないのが現状である。本研究で注目しているインクレチンはその治療標的として大変有望であり、GIP制御に関わる重要な分子としてFABP5に、GLP-1分泌制御に関与するものとしてCar8に着目し、作用機構の解明に着手している。本研究の結果、薬剤によるFABP5、Car8の制御を介してインクレチン分泌制御が可能となれば、糖尿病・肥満症の新たな治療法の開発、創薬につながることが期待され研究の意義は大きい。 -
糖代謝とアミノ酸代謝のクロストークにおけるグルカゴンの役割の解明
研究課題/研究課題番号:15H04681 2015年4月 - 2019年3月
林 良敬
担当区分:研究代表者
配分額:14950000円 ( 直接経費:11500000円 、 間接経費:3450000円 )
インスリン発見にノーベル医学・生理学賞が授与された1923年に、グルカゴンは膵臓に含まれる血糖上昇物質として報告された。このような発見の経緯から血糖上昇がグルカゴンの主要な生理作用として広く受け入れられてきた。しかしながら、我々が作成したグルカゴン遺伝子を欠損するマウスの血糖値は正常である一方、血中アミノ酸濃度の上昇を示した。本研究においてグルカゴンによるアミノ酸代謝制御のメカニズムを明らかとしようとした結果、アミノ酸異化、あるいはアミノ酸を糖新生に利用可能な基質へ転換することこそが、グルカゴンの真に特異的な生理作用であることが明らかとなった。
グルカゴンは血糖値を上げるホルモンであると広く認知され、糖尿病においては血糖値を上昇させることにより病態を悪化させる「悪役」とも考えられてきた。しかしながら、我々が独自に作成したグルカゴンを欠損する動物モデルを詳細に解析した結果、グルカゴンは蛋白質の構成要素であるアミノ酸の血中濃度の維持に必要不可欠な役割を持つことが明らかとなった。生体におけるアミノ酸代謝の制御のしくみは未解明の部分が多く、我々の成果をさらに展開することにより、糖尿病学・栄養学のみならず生命科学全般に広く影響を及ぼす新しい知見がもたらされることが期待できる。 -
肝臓に由来する膵島α細胞増殖制御因子の同定
研究課題/研究課題番号:15K15356 2015年4月 - 2018年3月
林 良敬
担当区分:研究代表者
配分額:3640000円 ( 直接経費:2800000円 、 間接経費:840000円 )
我々が作成したグルカゴン遺伝子-GFPノックインマウスのホモ接合体(グルカゴン遺伝子欠損モデル)は正常血糖値のもと、膵臓ランゲルハンス島α細胞(GFPを発現する)の増殖亢進を示す。このα細胞の増殖制御機構を解明するために腎被膜下移植実験を行い検証した結果、α細胞の増殖は肝臓に起因する液性因子により制御されていることを明らかとした。この増殖制御因子の探索を行ったところ、特異的な液性因子の同定には至らなかった一方で、グルカゴン遺伝子欠損下における血中アミノ酸濃度の上昇が増殖促進に関与する可能性が示唆された。
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グルカゴン遺伝子ノックアウトマウスを用いた膵内分泌腫瘍に対する治療・予防法の開発
研究課題/研究課題番号:15K10049 2015年4月 - 2018年3月
菊森 豊根
担当区分:連携研究者
膵腫瘍を自然発生するグルカゴン遺伝子ノックアウトマウスを用いて、発生した腫瘍を病理学的、分子生物学的に検討することにより生物学的性質を明らかにし、治療・予防法の開発を試みた。このマウスに生じた膵腫瘍がヒト膵内分泌腫瘍(pNET)に組織学的、生物学的態度が酷似することを論文報告した。悪性化の過程の各段階の膵島細胞における、細胞増殖因子、血管新生因子(AKT、mTOR、 VEGFなど)、の発現を摘出組織標本の免疫染色により検討した。pNETに臨床適応を持つmTOR阻害剤であるエベロリムスを生後まもなくよりこのマウスに投与して膵腫瘍発生が抑制されたことを認めた。