科研費 - 中野 秀雄
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医学応用を指向した網羅的抗体レパートリ―・エピトープ相関解析のためのシステム開発
研究課題/研究課題番号:24K01269 2024年4月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
中野 秀雄, ダムナニョヴィッチ ヤスミナ, 兒島 孝明, 加藤 晃代, 正谷 達謄, 山下 公大
担当区分:研究代表者
配分額:18460000円 ( 直接経費:14200000円 、 間接経費:4260000円 )
本研究では、ヒト体内に存在する個々の抗体配列、抗原、さらには抗原の中に存在する抗体の結合領域(エピトープ)をハイスループットに解析することを可能にする革新的な手法を開発する。さらにこれらの手法を用いて、狂犬病ウイルスにたいするヒト抗体の解析や、大腸がん中に浸潤しているB細胞が発現している抗体の解析を行う。本研究は、がん組織中の機能未知抗体解析、創薬のリード抗体の創出、感染症ワクチン開発や新規診断・治療薬開発等の加速に貢献しうるものである。
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研究課題/研究課題番号:23K18316 2023年6月 - 2025年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
掛地 吉弘, 中野 秀雄, 大野 真佐輔, 藤田 貢, 船越 洋平, 山下 公大
担当区分:研究分担者
本研究は以下の流れで進められる。深層学習アルゴリズムを基盤としたイメージングサイトメトリーを用いて、抗体取得に適切なB細胞の同定、Ecobody法による抗体取得、胃癌細胞/正常細胞を用いたスクリーニング、CAR-T細胞を作成し、ヒト細胞株腫瘍細胞移植マウスに対する治療効果の評価、及び取得抗体の抗原決定を行う。
CARは抗腫瘍抗体をベースに設計されるため、CAR-T細胞には組織適合抗原(MHC/HLA)拘束性がないという利点がある。一方、従来のCAR設計には既知の抗体情報が用いられてきたため、CARレパートリーは極めて限定されてきた。そのため、CAR-T細胞療法によるがん克服には多くの抗腫瘍抗体の確保が最重要課題である。
本研究では、(1)AIを基盤としたイメージングサイトメトリーによる抗体取得に適切なB細胞の同定、(2)Ecobody法による抗体取得、(3)胃癌細胞/正常細胞を用いたスクリーニング、(4)CAR-T細胞の作成とヒト細胞株腫瘍細胞移植マウスに対する治療効果の評価、(5)取得抗体の抗原決定を行う。(1)については、独自開発したCu-Cytoを用いて多重染色による組織標本をデジタル画像として取り込み、本研究に関連する大学院生や研究員らのチーム(総勢8名)が、これを教師あり画像としてアノテーション作業によるチューニングを実施中である。定期的なレビュー作業により精度を上げており、AI-イメージサイトメトリーは実用レベルに達している。この技術では細胞認識から識別、位置情報の処理と通常の病理組織診断を超えた情報が取得可能である。
B細胞の取得源をTLSに絞り込むことで、精度の高い技術がより効率化される。また、抗原決定までの過程が従来より迅速化されている。抗体取得後、相補性決定領域(CDR)、抗原特異性、抗原とエピトープに関する情報を、ハイスループットかつ網羅的に解析可能となる統合解析システムが施行可能となっている。
本研究の挑戦的な意義は、独自開発のCu-Cytoを用いた多重染色による組織標本のデジタル画像解析、B細胞の取得源をTLSに絞り込むこと、抗体取得後の統合解析システムにより、精度と効率の高い技術が実現可能である点にある。また、過去の実績から安定したCAR-T細胞の開発が可能であり、胃癌に対する新たな治療法の開発につながることが期待される。
本研究では、胃癌病理組織切片の多重免疫組織化学染色の条件設定が完了し、深層学習アルゴリズムに基づくイメージサイトメトリーであるCu-Cytoのアノテーション作業をほぼ終了している。Cu-Cytoは、細胞認識から識別、位置情報の処理と通常の病理組織診断を超えた情報が取得可能な技術である。本研究に関連する大学院生や研究員らのチーム(総勢8名)が、教師あり画像としてアノテーション作業によるチューニングを実施し、定期的なレビュー作業により精度を上げている。現在、Cu-Cytoは実用レベルに達しており、病理医による顕微鏡での評価所見に大きく矛盾しない結果が得られている。
本研究では、三次リンパ構造(TLS)に着目している。TLSは、がん組織内に形成されるリンパ節様構造であり、抗腫瘍免疫応答に重要な役割を果たすと考えられている。現時点では、TLSの遺伝学的定義は行っていないが、形態学的にB細胞の集簇が確認できれば、概ね問題ないような結果が得られている。Cu-Cytoでの解析所見から、一定の精度でTLSの識別が可能であることが示唆されている。今後は、標本選択を行い、改めて抗体情報を取得する計画を進める予定である。
一方、現在はすでに取得済の抗体について、機能解析を勧めている。免疫染色と組織ELISAを行い、抗体の結合性を確認した。胃癌細胞の表面に発現するタイプのタイピングを行い、その特徴を明らかにする予定である。また、同抗体よりキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)の作成を開始した。抗体情報に基づき、キメラ受容体のデザインを行っている。
現在、全体の進捗状況としてはやや遅れている状態であるが、着実に研究を進めている。今後は、TLSの遺伝学的定義を行い、より精度の高いTLSの識別を目指す。また、取得した抗体の特徴を明らかにし、CAR-T細胞の作成を進める。本研究の成果が、胃癌患者に対する新たな治療法の開発につながることを期待したい。
本研究の今後の推進方策として、以下の点に注力する必要がある。まず、TLSの遺伝学的定義の確立を迅速に完遂することである。TLSの識別精度を向上させるためには、TLSを構成する細胞の遺伝子発現プロファイルを解析し、TLS特異的な遺伝子シグネチャーを同定する必要がある。これにより、Cu-Cytoを用いたTLSの識別の精度を向上させることができる。次に、取得抗体の機能解析の推進である。抗体の結合特異性や親和性、エピトープの同定などを行い、抗体の抗腫瘍効果を in vitro および in vivo で評価する必要がある。これらの解析により、CAR-T細胞の作成に最適な抗体を選択することができる。さらに、CAR-T細胞の作成と評価の推進を行う。CARの設計を最適化し、T細胞への遺伝子導入効率を向上させる必要がある。作成したCAR-T細胞については、in vitro での細胞障害活性や特異性を評価し、最適な細胞株を選択する。また、PDXモデルを用いて、CAR-T細胞の体内動態や抗腫瘍効果を評価する必要がある。加えて、研究体制の強化を行う必要がある。研究人材の確保や育成、共同研究体制の構築、研究設備の整備などを進め、研究費の確保に努め、研究の継続性を担保することが重要である。
以上の方策を着実に実行することにより、本研究の目的である胃癌に対する新たな治療法の開発に向けた基盤を確立することができると期待される。研究の進捗状況に応じて、方策の優先順位や内容を柔軟に見直し、研究の過程で得られた知見を積極的に公表し、研究コミュニティとの情報共有を図ることも重要である。 -
革新的機能的ヒト抗体配列ーエピトープのハイスループット解析技術開発
研究課題/研究課題番号:22K18919 2022年6月 - 2025年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
中野 秀雄, ダムナニョヴィッチ ヤスミナ, 兒島 孝明
担当区分:研究代表者
配分額:6500000円 ( 直接経費:5000000円 、 間接経費:1500000円 )
ヒト体内に存在するB細胞が産生する抗体分子は、感染防除や予防、がん細胞除去な どを担う一方、自己免疫疾患やがん細胞増殖にも関わるなど、多面的な機能を有することが知られている。抗体の標的分子は可変領域の配列で決まっているのであるが、その配列と標的であるエピトープを網羅的に解析する手法は存在せず、それらの関係性は不明のままである。本研究では、エマルジョン中での極微細反応場や無細胞タンパク質合成系、さらには次世代シーケンスやバイオインフォマティクスを駆使することで、抗体配列とエピトープを迅速安価に解析する新たな方法論を開発する。
標的分子に結合するモノクローナル抗体を網羅的に取得することと、取得抗体のエピトープを決定することは、免疫系を理解し、それらを医療だけでなく様々に産業利用していくためには大変重要な技術課題である。ともに一つの抗体に対して作業を行う場合でも数ヶ月単位の時間が要する作業であり、相当のコストがかかる。したがって生体内に存在する10の16から18乗にものぼるレパートリーのうち、ある特定の抗原に対するほんの少しもの抗体とそのエピトープを「網羅的」に解析することは全く不可能であった。本研究では、抗体配列とそのエピトープ、網羅的に解析することを可能にする技術課題に取り組んでいる。昨年度に引き続き、本年度は、1)リボソームディスプレイを用いたウサギおよびヒトFab抗体のライブラリー構築技術の開発とモデルスクリーニングの実施、2)リボソームディスプレイ、次世代シーケンスとバイオインフォマティクスによるエピトープ推定技術の開発に取り組んだ。1)については、ヒト・ウサギの抗体を短鎖Fabとして網羅的にリボソーム上に提示して、各種抗原に対するスクリーニングを行った。腸内細菌を抗原としてそれに結合できるヒト抗体配列を、リボソームディスプレイにより濃縮し、大腸菌にクローニングして塩基配列を解析し、無細胞タンパク質合成系によりFabとして解析を行なった。またウサギに関しても標的産物に結合する抗体配列の濃縮に成功した。2)については、ランダムペプチドライブラリーをリボソーム上に提示し、モデルとした無細胞蛋白質合成系により合成したFabに結合するペプチド配列を濃縮し、次世代シーケンス解析と独自に作成したPythonプログラムを用い、標的分子中からエピトープを推定する手法を検討した。
2022年度末の時点では、
1)リボソームディスプレイ法により抗原に対する抗体セレクションのプロセスを確立する。2)無細胞タンパク質合成系により合成したFab抗体に対してリボソームディスプレイによりエピトープマッピングを行う際の条件検討;3)上記のFab抗体を多サンプル(96種類程度)同時解析行うための、条件検討を行う。;4) エマルジョン中での抗体L鎖H鎖mRNA結合反応の条件を検討する。としていたが、1)の条件検討の際に、副産物のDNA断片の増幅が顕著になったため、その対策に時間をとられてしまい、検討予定の3)と4)の実験を行うことができなかった。
これまでの研究成果をもとに、
1)無細胞タンパク質合成系により合成したFab抗体を多サンプル(96種類程度)同時解析行うための、条件検討を行う。
2)エマルジョン中での抗体L鎖H鎖mRNA結合反応の条件を検討する。
3) 2)の条件で増幅した天然ペアの抗体L鎖H鎖を有する短鎖Fab抗体のリボソームディスプレイ法を確立する。
4)3)でスクリーニングした抗体のエピトープをハイスループットに合成する方法論を確立する。 -
腫瘍微小環境内 B 細胞を用いた転移性脳腫瘍に対する CAR-T 細胞療法の開発
研究課題/研究課題番号:22K09223 2022年4月 - 2025年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
大野 真佐輔, 中野 秀雄, 藤田 貢, 山下 公大, 松下 博和
担当区分:研究分担者
本研究計画は大きく①転移性脳腫瘍内のTLSおよびTABの検出②新鮮腫瘍組織からのTABのソーティングと抗体情報の抽出③CARの構築と抗腫瘍効果の検証の3つの段階に分かれる。大量の転移性脳腫瘍検体を用いての検索を必要とするため深層学習アルゴリズムを用いたハイスループット画像解析手法を用いてTLSの検出を行い、かつ抗体抽出に最適なTABの選定のための抗体コンビネーションを選定する。続いてEcobody法を用いた新鮮腫瘍組織からのTABの抽出と抗体情報の取得を行う。最後に入手した抗体の情報をもとにCARを構築し、in vitro、動物脳腫瘍モデルを用いた新規CARレパートリーの有効性を検証する
消化器癌の転移性脳腫瘍パラフィン埋包検体を13例収集し、HE染色および各種免疫染色を行った。がん免疫の活性化に関与し、良好な予後や免疫チェックポイント阻害薬の有効性を予測するとして近年注目されている三次リンパ構造は、他の臓器では多くの報告があるが、転移性脳腫瘍に関しては皆無である。HE染色を用いて転移性脳腫瘍組織の観察を行い、腫瘍辺縁や腫瘍辺縁の脳血管腔にこの三次リンパ構造を推定させるリンパ球の集簇を発見した。CD4、CD8、CD20、BCL6、CD103などによる免疫染色を進め、三次リンパ構造に特徴的なCD20陽性B細胞が腫瘍辺縁や腫瘍辺縁の脳血管周囲に集簇していることが観察された。しかし、成熟した三次リンパ構造のマーカーとして使用されるBCL6を発現しているB細胞は認められず、転移性脳腫瘍における三次リンパ構造は未熟な形態として存在していることが明らかになった。
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さらに、CD103陽性CD8陽性T細胞(tissue-resident memory T cells: TRMs)は腫瘍間質のみならず、腫瘍上皮にも深く浸潤していることが明らかとなった。腫瘍組織内のB細胞およびTRMsを含む免疫細胞のすべてを画像解析ソフトを用いてカウントし、これらの結果を臨床データと照らし合わせ、統計解析を行った。13例の患者を高値群、低値群の2群に分け解析を進めた結果、高B細胞群および高TRMs群において、転移性脳腫瘍発生からの生存期間が有意に長いことが分かった。以上より、転移性脳腫瘍におけるB細胞およびTRMsの存在は転移性脳腫瘍発症後の良好な予後に関連することが分かった。
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現在これらの結果をまとめ上げ、論文を作成し投稿中である。
3年にわたる新型コロナの蔓延により当院においても臨床業務に支障が生じた。特に病理部門が所属する臨床検査科においては多くのスタッフとその家族が新型コロナに感染し就業困難となった。患者の治療に関連する業務の遂行が最優先され、研究に関する業務は後回しになる。結果、当研究に必要な病理組織検体スライドの作成が大幅に遅れることとなった。
転移性脳腫瘍における三次リンパ構造の存在およびB細胞・TRMsの腫瘍内分布とその予後との関連について現在投稿中の論文にてまとめた。今後は、手術摘出で得られた生検体を用いてB細胞を抽出していく。腫瘍内に存在するB細胞においても高度に腫瘍免疫活性を認めるものから、免疫活性に乏しいものまであるため、腫瘍免疫活性の高いB細胞の抽出のためのマーカーを決定していく。
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また、本研究ではTRMsが腫瘍上皮に深く浸潤し、予後と相関していることが明らかとなった。TRMsはケモカインの分泌を介してB細胞を腫瘍へとリクルートすることが報告されているため、TRMsとB細胞の相互作用についても検討を行う。
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本研究の知見は、転移性脳腫瘍に対する新規免疫療法の開発に寄与すると考えられる。有望なB細胞の抽出が完了すれば、このB細胞の抗体情報を用いてCARの構築を行っていく。さらに、TRMsを標的とした免疫療法の可能性についても探索したい。 -
固相培養条件下の麹菌における遺伝子の動的発現制御機構の解明とその応用
研究課題/研究課題番号:22K05405 2022年4月 - 2025年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
兒島 孝明, 丸山 潤一, 中野 秀雄
担当区分:研究分担者
生命機能の発現・制御機構を解明する上で、染色体の動的な構造変化を考慮することは非常に重要である。本研究では、産業微生物Aspergillus oryzaeの固体培養における遺伝子発現動態に着目し、固体培養条件におけるA. oryzaeのゲノム構造情報ならびに全遺伝子発現情報を包括的に取得し、その経時的動態をデータベース化する。さらに、このデータベースを活用し、ゲノム構造の動態を考慮した難分解性多糖の代謝パスウェイの最適化を試み、新奇高機能性A. oryzaeの創生技術を確立する。これらのアプローチを通して、生命機能の発現・制御のメカニズムの包括的理解のための汎用的な技術基盤の構築を目指す。
本研究では、A. oryzaeの固体培養における遺伝子発現動態の包括的理解とその技術基盤構築を目的として研究期間2年目に以下のアプローチを実施した。
・スクロースおよびキシランを唯一炭素源としたSC条件下のA. oryzaeにおけるmRNAレベルでの動的転写制御機構の解析
A. oryzaeをスクロースおよびキシランを唯一炭素源とした寒天プレート上で培養し、植菌後の一定期間、1日おきに菌体を回収した。これらの菌体よりRNAを抽出し、高速DNAシーケンサーによって条件ごとのA. oryzae全遺伝子の時系列発現データを取得し、可視化した上で、炭素源と培養時間によって区分された条件における発現動態を網羅的に比較した。今後、本解析結果の再現性や生物学的意義を詳細に検証の上、研究論文としてまとめる予定である。
・A. oryzaeのクロマチン立体構造情報の取得法の検討
ナノポアシーケンサーを用いたクロマチン立体構造情報の取得法、Pore-Cを、固相培養由来のA. oryzaeのクロマチン立体構造解析に適用するため、ゲノム抽出条件や近接するゲノム領域の架橋反応条件などの詳細な検討を行った。
研究代表者が本研究期間開始時期の2022年4月にこれまで所属していた研究機関とは別の機関へ異動したため、研究実施環境の再構築に想定以上の時間を要したことが主な要因として挙げられるが、DNAシーケンサー、解析用の高スペックのPCなど、本課題の遂行に必要とされる研究環境の整備はほぼ完了した。このため、本研究アプローチの今後の進展はおおいに期待できると言える。
2022年度および2023年度に得られた研究成果をもとに、下記のアプローチを実施する。
・種々のC源を唯一炭素源とした固相培養条件下におけるA. oryzaeの全遺伝子の発現動態のデータベース化
・上記アプローチの成果を基にした研究論文の作成と公開
・A. oryzaeにおけるPore-Cの確立と、固相培養条件下におけるクロマチン構造の解明
・天然SC条件である米粒上で培養したA. oryzaeにおける全遺伝子発現量とクロマチン構造の時系列データと取得と関連付け
これらのアプローチを通して、新奇の高機能性A. oryzaeの創生技術基盤を確立する。 -
研究課題/研究課題番号:21K08778 2021年4月 - 2024年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
松田 武, 掛地 吉弘, 山下 公大, 竹内 俊文, 谷野 裕一, 犬伏 祥子, 向山 順子, 中野 秀雄, 藤田 貢
担当区分:研究分担者
本研究は、Liquid biopsy による原発性大腸癌術後症例の早期再発検出法の開発を目的とし、患者検体の採取および解析手段として涙液由来エクソソーム検出法 (TearExo 法) を用いる。本手法は ①症例検体集積が簡便であり、迅速な前向き研究が実施可能、②エクソソームを確保するための抗体は変更可能で、病態・患者特異的に最適化したエクソソーム解析が可能、等の利点がある。転移臓器別抗体および患者個別抗体によるエクソソームを検出することで、個別検出を目指した次世代型精密医療の基盤構築を試みる。
本研究では、大腸がん患者の血清や涙からエクソソームを分離し、miRNAの発現解析を行うプラットフォームを構築した。また、切除不能な転移性大腸がん患者におけるCDX2の発現低下と予後との関連を明らかにした。今後は症例数を増やし、エクソソーム中のmiRNAやタンパク質の解析を進めることで、再発や転移に関連するバイオマーカーの同定を目指す。さらに、マウスモデルを用いて転移ニッチの解析やエクソソームの役割、転移メカニズムの解明に取り組む。CDX2の発現低下に関連するエクソソームの探索も進め、新たな治療標的の発見につなげていく。
本研究の成果は、大腸がんの予後予測や治療戦略の改善に寄与することが期待される。エクソソームを用いたリキッドバイオプシーによるバイオマーカーの開発は、患者負担の少ない検査法の確立につながる可能性がある。また、転移ニッチの解明や、CDX2の発現低下に関連するエクソソームの同定は、転移の予防や治療法の開発、予後不良患者に対する個別化治療の実現に貢献すると考えられる。本研究で得られた知見は、他のがん種にも応用可能であり、がん研究全体の発展および臨床応用を目指したトランスレーショナルリサーチの推進に寄与することが期待される。 -
胃癌腫瘍免疫微小環境における3次リンパ構造の成熟機構の解明と抗体取得
研究課題/研究課題番号:20H03752 2020年4月 - 2023年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
掛地 吉弘, 中野 秀雄, 青井 貴之, 藤田 貢, 岡田 誠治, 向山 順子, 山下 公大, 高村 史記
担当区分:研究分担者
胃癌での免疫チェックポイント阻害剤(CPi)の治療効果は十分とは言えず、CAR-T細胞療法等の次世代型新規療法の導入が望まれる。腫瘍特異的抗体の特定およびその配列情報が必須となる。近年、腫瘍近傍に出現する三次リンパ構造 (TLS)中に腫瘍特異的抗体を産生する腫瘍関連B細胞 (TAB)が多く存在することが明らかとなった。本研究では、進行胃癌のTLS 成熟度を迅速に評価すること、TABの抽出および機能解析を行うこと、胃癌特異的抗体同定プロセスを最適化することで、胃癌特異的な次世代型新規抗体医薬製品の開発につながる抗体取得を行い、進行胃癌の腫瘍微小環境を制御し、治療成績の向上を目指す。
TLSの構造・成熟度の解析を行い、一定の成果を得ている。TLSの構造解析に関しては、胚中心B細胞などが成熟度とその存在が関連し、CD27+B細胞が候補として同定された。
次に、腫瘍由来B細胞からの抗体取得に関しては、抗体情報を取得する新技術Ecobody 法を用いた。TAB 表現型情報を用いて、手術時に胃癌切除組織を選別し、セルソーティング法を用いて TLS-TABを単離抽出し、Ecobody 法にて抗体情報を取得する。取得された抗体は胃癌細胞株への結合能をELISA法で測定し、スクリーニングを行った。胃癌組織内 TAB から抽出した抗体の胃癌反応性モノクローナル抗体の取得に成功した。
胃癌に関しては包括的解析データを用いてびまん浸潤性胃癌の特定抗原を標的とした抗体を取得し、さらにトランスクリプトーム解析で再評価することで腫瘍に対する増殖抑制効果を持つ抗体の同定に成功した報告がある。一方、我々はTAB網羅的解析データを基盤にTLS解析に伴う戦略を立てた。これまでTLSは予後予測因子として注目されたが、免疫チェックポイント阻害剤のTLSがバイオマーカーであることが示された。形態学的な解析を含めたTLSの成熟とB細胞の関連を詳細に行っている研究は少なく、この手法でのB細胞取得での類を見ない点、抗体取得の成功例として意義がある。 -
迅速探索と機械学習を利用した単一B細胞からの機能抗体分子創生技術開発
研究課題/研究課題番号:19H02523 2019年4月 - 2023年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
中野 秀雄, ダムナニョヴィッチ ヤスミナ, 兒島 孝明
担当区分:研究代表者
配分額:17680000円 ( 直接経費:13600000円 、 間接経費:4080000円 )
請者らが開発した、無細胞タンパク質合成系を用いてB細胞1個から迅速にモノクローナル抗体(Mab)を合成・選別できるEcobody技術を用い、ハイブリドーマ法等の既存の方法では取得が困難な膜タンパク質の立体構造を認識するMabをスクリーニング技術を開発する。さらに得られた多数の配列と抗原との親和性および細胞傷害活性とのデータを利用して、インフォマティクス解析と立体構造解析を行い、優れた抗体分子の創生スキームを構築する。
申請者らが独自に開発・社会実装した、無細胞タンパク質合成系を用いてB細胞1個から迅速にモノクローナル抗体(Mab)を合成・選別できるEcobody技術と、DNA免疫などの技術を用い、ハイブリドーマ法等の既存の方法では取得が困難な膜タンパク質を認識するウサギモノクローナル抗体に成功した。またブタインフルエンザウイルス検出システムの構築、COVID-19患者血液から抗ウィルスヒトモノクローナル抗体取得の取得に成功し、その部分的な性質決定を行った。さらにバイオインフォマティクスを利用して、得られた多数の配列と抗原との親和性および生物活性との解析や、抗体エピトープを迅速安価に決定する手法を開発した。
我々を病原菌やウイルスから守り、がんや自己免疫疾患とも関係している抗体分子は、医薬や検査薬としても大変有用な分子である。またそのターゲット分子の中でGPCR受容体分子は、生命現象の理解や創薬において重要な分子群である。本研究において、このGPCR受容体に対する抗体分子の画期的な取得方法やそのエピトープ解析方法の開発等に成功しており、バイオテクノロジーだけでなく医学領域研究分野への応用を通じ、人々の健康的生活向上に貢献できる。 -
人工リン脂質を利用した直交型リポソーム融合法の開発とその応用
研究課題/研究課題番号:19K05160 2019年4月 - 2022年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
岩崎 雄吾, 中野 秀雄
担当区分:研究分担者
脂質小胞の膜融合はリポソーム工学において重要な要素技術であるが、従来法には直交性がなく、目的とする異種小胞間での融合を選択的に達成することが困難であった。
本課題では、極性頭部を修飾した各種人工リン脂質を合成して膜小胞に埋め込み、それらの相互作用を利用して直交型異種間膜融合系を開発する。さらに、鋳型DNA封入リポソームと無細胞タンパク合成試薬封入リポソームを試験管内で直交融合させてタンパク合成を行う。本法によりリポソームへの選択的な物資供給が可能になり、膜タンパク質のリポソーム内分子進化工学などへの応用が期待できる。
異種間リポソーム融合法の確立を目指し、以下の成果を得た。
(1) 極性頭部にアジド基、アルキン基を導入した人工リン脂質を合成し、クリック反応が進行することを確認した。この脂質を含有するリポソームを用いてクリック反応を行ったが、リポソーム融合を確認することはできなかった。(2) リポソーム表面へのタンパク質結合のため、極性部にチオエステル基を結合させた人工リン脂質を合成し、N末端Cys型GFPを反応させることで、リポソーム表面に共有結合させることに成功した。(3) リン脂質変換であるPLDを改変し、自己触媒的にリン脂質を共有結合する改変体候補を取得した。
本課題の最終目的である直交型リポソーム融合は達成できなかったが、種々の人工リン脂質の簡便合成法やチオエステル型リン脂質によるリポソーム表面へのタンパク質結合法を確立したことは学術的に意義がある。さらに、タンパク工学改変により自己触媒的にリン脂質に結合する改変型PLDの候補を取得できた。この改変酵素をさらに改良すれば、リポソームのみならず生細胞の表面に任意のタンパクを結合させることも可能になり、細胞工学において有用なツールとなる。 -
多種抗膜タンパク質抗体の高効率な一括取得法とその分子標的治療薬評価法の一体的開発
研究課題/研究課題番号:17H03468 2017年4月 - 2021年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
冨田 昌弘, 中野 秀雄, 安川 智之, 湊元 幹太
担当区分:研究分担者
(1)立体構造特異的ターゲティング (SST) 法を用いて、膜タンパク質に対する立体構造認識モノクローナル抗体の作製に成功した。(2)単一B細胞から、直接モノクローナル抗体(mAb)を取得するEcobody法を用いて、EGFR認識ウサギmAbおよび、Swine Influenza Virus に対するウサギmAbを取得し、そのウイルス検出系を構築した。(3)マイクロ電極を組み込んだ三次元誘電泳動デバイスを開発し、細胞のアレイ化、異種細胞ペアの形成および細胞融合を達成した。(4)マイクロビーズ担持人工脂質膜へGPCR(β2AR)等を提示する手法を組換えバキュロウイルスとの膜融合技術で実現した。
(1) 生体内で独自の高次構造を保持している抗原を特異的に認識できる抗体は従来法では実現できないため、次世代の抗体医薬の開発に大きく貢献できる。(2) 従来法とは異なる単一B細胞からウサギモノクローナル抗体を取得する手法を確立し、それを膜タンパク質などに応用可能であることを示すことができた。(3) 確実な細胞ペア形成と電気パルス細胞融合により有用な抗体を産生するハイブリドーマを取得できる点に大きな意義がある。(4) 組換え産物から直接膜抗原提示する技術であり担持場の工夫により力学的安定性も得られアッセイ操作が容易であることを実演した。 -
近赤外光を用いた新規迅速免疫測定法の開発
2014年4月 - 2016年3月
科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究、課題番号:26630425
中野 秀雄
担当区分:研究代表者
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無細胞系ナノ構造化生物機能システムの開発
2014年4月 - 2016年3月
科学研究費補助金 特定領域研究
中野 秀雄
担当区分:研究代表者
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無細胞系ギガスクリーニング法の開発と応用
2011年4月 - 2015年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
中野 秀雄
担当区分:研究代表者
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汎用的シグナルペプチド配列最適化法の開発
2011年4月 - 2013年3月
科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究、課題番号:23656522
中野 秀雄
担当区分:研究代表者
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免疫細胞ネットワークのデジタル解析
2007年4月 - 2010年3月
科学研究費補助金 特定領域研究(公募,A03),課題番号:19021020
中野 秀雄
担当区分:研究代表者
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無細胞系分子ディスプレイシステムの構築と応用
2007年3月 - 2011年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)(一般),課題番号:19360373
中野 秀雄
担当区分:研究代表者
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ヒトモノクローナル抗体のハイスループット取得法の開発
2007年3月 - 2009年3月
科学研究費補助金 萌芽研究,課題番号:19656218
中野 秀雄
担当区分:研究代表者
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酵素の光学選択性に関与する基質認識部位の網羅的解析
2004年7月 - 2007年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B),課題番号:16360411
中野秀雄
担当区分:研究代表者
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細胞1個の遺伝情報とリンクしたプロテインアレイシステムの構築
2004年7月 - 2005年3月
科学研究費補助金 萌芽研究,課題番号:16656256
中野秀雄
担当区分:研究代表者
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マイクロリアクタアレイによる超高密度タンパク質・ペプチド分子ライブラリの構築
2000年7月 - 2002年1月
科学研究費補助金 基盤研究(B)(1)(一般)
担当区分:研究代表者
科研費
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ハイスループットモノクローナル抗体取得法に関する研究
2000年7月 - 2001年1月
科学研究費補助金 萌芽的研究
担当区分:研究代表者
科研費
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バイオ研究支援機器としての無細胞遺伝子翻訳装置の開発
1998年7月 - 2002年1月
科学研究費補助金 基盤研究(B)(2)(展開)
担当区分:研究分担者
科研費
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無細胞分子進化システムの構築
1997年7月 - 1999年1月
科学研究費補助金 基盤研究(C)(2)(一般)
担当区分:研究代表者
科研費
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無細胞蛋白質合成系の効率化に関する研究
1995年1月 - 1997年12月
科学研究費補助金 一般研究(B)
担当区分:研究分担者
科研費