科研費 - 榎本 篤
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新規肺線維化防御性細胞集団の起源と細胞運命および抗線維化機序の解明
研究課題/研究課題番号:24K02457 2024年4月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
阪本 考司, 榎本 篤, 石井 誠, 橋本 直純
担当区分:研究分担者
原因不明の難病である肺線維症や重症新型コロナウイルス肺炎の後遺症に共通する肺の状態である「線維化」は、死亡や永続的な呼吸障害の原因となっているため、病態の早期解明が必要です。近年、肺線維化の主な悪役と考えられて来た線維芽細胞の中にも多彩な機能を持つ亜集団が含まれることが明らかになりつつあります。その一つ、ユニークな線維化防御機能をもつ“メフリン陽性細胞”の生態は未解明である。この研究では、線維化肺に出現する“メフリン陽性細胞”が何処から来て、どのような運命をたどるのか、またどのような仕組みで肺を線維化から防御するのかの解明に挑戦します。
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Atypical kinaseが修飾する心臓の拡張調節機序とHFpEF病態の解明
研究課題/研究課題番号:23H02903 2023年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
竹藤 幹人, 大内 乗有, 榎本 篤, 奥村 貴裕, 室原 豊明
担当区分:研究分担者
加齢による全身組織の弾性力低下は生理機能を障害し、循環器分野では血管の弾性力が低下し、高血圧や動脈硬化が生じる。心臓の拡張能低下と疾患との関連は不明であったが、近年、心室の拡張不全に伴う心不全(HFpEF)が新たな心不全として注目されている。HFpEFのは高齢者に多く、難治性であることから、その病態解明が求められている。長年、アクチンとミオシンの滑り機構による心筋の収縮機序の解明は基礎研究により進められてきたが、心筋細胞の拡張メカニズムについては不明な点が多い。本研究では、心筋細胞の拡張メカニズムに関わる因子を同定し、心臓の拡張不全病態の理解を深め、HFpEF治療の新たな創薬シーズを探索する。
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脳腫瘍における治療抵抗性がん細胞の多様性の解析とその克服戦略の勘案
研究課題/研究課題番号:23K06660 2023年4月 - 2026年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
渡辺 崇, 榎本 篤, 柳 久乃, 武藤 淳
担当区分:研究分担者
悪性腫瘍に含まれる治療抵抗性を有する細胞は、再発や転移の大元となる。最近、遺伝的
要因のみならず、シグナル伝達の変容などの非遺伝的要因により治療抵抗性がん細胞にも多 様性が生じることが明らかになってきた。膠芽腫は高頻度で治療後に再発が認められる、最 も予後の悪い成人悪性腫瘍の一つである。しかしながら、膠芽腫の治療抵抗性細胞の多様性 がどのように制御されているかは解明されておらず、膠芽腫の治療方法は極めて限られてい る。本研究ではリン酸化シグナルに焦点を絞り、膠芽腫の治療抵抗性がん細胞の多様性を制 御する分子機構を明らかにし、多様性の克服戦略を勘案することを目指す。
本研究ではリン酸化シグナルに焦点を絞り、膠芽腫の治療抵抗性がん細胞の多様性を制御する分子機構を明らかにし、多様性の克服戦略を勘案することを目指している。
本年度は、遺伝的背景が同一で表現型が異なる2種類の人工治療抵抗性膠芽腫がん細胞(ATS, BTS)を用いて、リン酸化プロテオミクス解析により各細胞に特徴的なリン酸化タンパク質の同定を試みた。具体的には、それぞれの細胞からリン酸化セリン・スレオニンに特異的に結合する14-3-3-を用いてプルダウンを行うことでリン酸化タンパク質を濃縮し、質量分析計を用いて網羅的に同定した。その結果、ATSあるいはBTSに特徴的なリン酸化タンパク質が明らかになった。それらタンパク質に関しては、ウェスタンブロットにより各細胞でリン酸化レベルが異なるか確認した。それら候補タンパク質のうち、脳腫瘍の悪性度や脳腫瘍がん幹細胞の維持に関与すると報告されていたGiridnに絞り、その後の解析を進めた。
GirdinはBTSに特徴的なリン酸化タンパク質として同定されたため、BTS中でリン酸化が亢進していると考えられる。Girdin中のリン酸化サイトを同定するために、COS7細胞にGridinの様々なフラグメントを発現させ、14-3-3でプルダウンを行いリン酸化部位の同定を試みた。その結果、GirdinのC末端側1490番目のセリン(ヒトの場合)が14-3-3の結合に必須のアミノ酸であり、このセリン残基のリン酸化がBTS中で亢進していることが示唆され、Girdinのリン酸化レベルが膠芽腫の治療抵抗性がん細胞の多様性を制御する可能性が明らかになった。
本研究はリン酸化シグナルに焦点を絞り、膠芽腫の治療抵抗性がん細胞の多様性を制御する分子機構を明らかにすることを目標としている。本年度は、遺伝的背景が同一で表現型が異なる2種類の人工治療抵抗性膠芽腫がん細胞(ATS, BTS)を用いて、多様性を制御するリン酸化タンパク質の同定に成功していた。さらに、研究対象としてGirdinに焦点を絞り、in vitroでの14-3-3を用いたプルダウンによってBTS中でリン酸化が亢進されていると考えられるGirdin中のセリン残基(ヒトの1490番目)を同定することに成功している。これらの結果を鑑み、本研究課題は現在までは概ね順調に進展していると考えている。
今後はGirdinに絞った解析を進め、阻害剤やin vitroのキナーゼアッセイにて、Girdinのリン酸化を担うキナーゼの同定を進める。また、本年度に同定したATS/BTSに特徴的なリン酸化タンパク質群を元に、バイオインフォマティクス的な手法を用いて、各細胞に特徴的なリン酸化シグナルの同定を試みる。さらに、CRISPR/Cas9技術を用いてGirdinをノックアウトした膠芽腫の治療抵抗性がん細胞の作製、Girdinの治療抵抗性がん細胞における機能解析を進めていく。 -
腹腔内エコシステムに基軸をおいた難治性卵巣癌に対する新規癌間質標的治療戦略の創生
研究課題/研究課題番号:23H03041 2023年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
梶山 広明, 吉原 雅人, 榎本 篤, 富田 弘之, 北見 和久
担当区分:研究分担者
腹膜中皮細胞や腹腔内脂肪細胞が卵巣癌関連中皮細胞や大網由来脱分化脂肪細胞へと脱分化する過程と機序を詳細に解明する。さらに本研究課題の核心となる、『卵巣癌の腹膜播種の形成・進展や薬剤耐性化において、AM80(ビタミンA誘導体)が卵巣癌関連中皮細胞や大網由来脱分化脂肪細胞への脱分化を阻害 → 癌間質を負に制御 → 腹膜環境を改善 → 予後を改善することが可能か?』という学術的「問い」に迫る。
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腹腔内エコシステムに基軸をおいた難治性卵巣癌に対する新規癌間質標的治療戦略の創生
研究課題/研究課題番号:23K27732 2023年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
梶山 広明, 吉原 雅人, 榎本 篤, 富田 弘之, 北見 和久
担当区分:研究分担者
よい植物が育つにはよい“種”とよい“土壌”が必要である。逆説的ではあるが、よい“種”とは悪性度の高い卵巣癌細胞であり、よい“土壌”とは“腫瘍の手先”にさせられた本来生体防御的である中皮細胞(癌関連中皮細胞:CAMs)と脂肪細胞(脂肪細胞由来線維芽細胞:ADFs)である。本課題では、腹腔内全体を一つの包括的生態系(エコシステム)と見なし、卵巣癌―腹腔内宿主細胞群の相互作用に着目し、未だ明らかにされていない卵巣癌の腹膜進展や休眠維持機構の解明を目指す。また分化誘導薬剤であるAM80を用いて、CAMsおよびADFsへの脱分化を阻害し、難治性卵巣癌に対する新規間質標的治療戦略の創成を目指す。
卵巣癌は婦人科がんの中で最も予後不良な癌種であり、多くは進行した状態で腹膜播種を伴って発見される。初期治療としては、手術でのがん除去が最も重要であるが、手術では取り除き切れない微小ながん細胞に対しては化学療法が用いられる。しかし化学療法による初回治療の成功率は50から70%と高いものの、再発率が非常に高く、再発した場合の生存率は極めて低い。そして再発の主な原因は、初回治療後に残る微小残存病変(MRD)が、ある期間休眠した後に活性化し、腹膜炎を引き起こすプロセスである。
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治療面での新たなアプローチとして、がん細胞を支える「土壌」となる癌間質の重要性が指摘されている。癌関連線維芽細胞(CAFs)はがん細胞からのサイトカインによって活性化し、組織の硬化や臓器機能低下を引き起こす。これに対し、申請者らは癌間質を治療のターゲットとして注目し、特に卵巣癌の腹膜播種に対しては、腹膜中皮細胞と腹腔内脂肪細胞が重要な役割を果たすことを発見した。これらの細胞は、腹膜の大部分を構成し、がん細胞が腹膜に播種する主な場所となっている。
<BR>
本研究では、これらの細胞ががん関連腹膜中皮細胞(CAMs)や脂肪細胞由来線維芽細胞(ADFs)に脱分化する過程を明らかにし、卵巣癌の腹膜進展において重要な役割を果たすことを明らかとする。そしてAM80がCAMsやADFsの脱分化を阻害し、癌間質を正常化して腹膜環境を改善する可能性があるかを探求し、新しい治療戦略の開発を目指す。本年度はAM80の標的となるmeflin陽性のCAFsの存在と臨床的意義を検証し、meflin陽性のCAFsの卵巣癌進展における意義について検討した。
本年度の研究により、以下の内容に関する検討を行った。
<BR>
これまでの申請者らの研究成果より、meflin陽性CAFsは膵癌において、組織の分化と線維化に関与し、腫瘍の抑制に寄与することが示されている。本年度は、卵巣癌腹膜播種組織でのmeflin発現と生存率に関して検討した。その結果、組織in situ hybridizationによって標識されたmeflin陽性CAFsを多く有する患者では、meflin陰性の患者に比べて3年生存率が有意に高い結果が得られた。これはmeflinが進行卵巣癌の予後に関して重要な指標である可能性を示唆している。さらに、meflin遺伝子を欠損したマウスモデルを用いた実験では、meflinの消失が腹膜播種腫瘍の増大や腹水の形成を促進することが確認された。
上記結果をもとに、卵巣癌腹膜播種モデルにおいてmeflin陽性CAFsの割合を増加させる作用を有するAM80の腫瘍縮小効果を確認する。単独投与に加えて、CBDCAなどの殺細胞性抗がん剤との併用効果を検証し、治療応用への可能性を探る。一方でマウスモデルにおけるmeflin陽性CAFsの腫瘍形成への役割を詳細に検討するために、網羅的解析などの手法を用いた実験を予定する。 -
Atypical kinaseが修飾する心臓の拡張調節機序とHFpEF病態の解明
研究課題/研究課題番号:23K27594 2023年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
竹藤 幹人, 大内 乗有, 榎本 篤, 奥村 貴裕, 室原 豊明
担当区分:研究分担者
真核細胞に発現するアクチンは細胞の収縮や分裂などに関与し、心筋細胞では収縮の中心的な役割を果たしている。アクチンとともに働くミオシンはATPと結合しアクチンに沿って移動し、ミオシンがアクチンと結合・解離・再結合を繰り返すことにより、心臓の収縮と拡張の周期が調整される。心臓の拡張は「収縮が完了するとミオシンはアクチンとの結合を解いて筋肉は弛緩する」とされているが、ミオシンとアクチンの結合が解かれるメカニズムは不明な点が多く、心臓拡張のメカニズムを解明し、HFpEFの病態解明を進める。
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研究課題/研究課題番号:22KK0110 2022年10月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
田守 洋一郎, 榎本 篤, 石原 すみれ
担当区分:研究分担者
悪性腫瘍組織に多倍体化細胞が観察されることは、以前から数多く報告されている。この多倍体化巨細胞は強いストレス耐性を持つことから、腫瘍悪性化のプロセスに重要な役割を持っていると考えられているが詳細は分かっていない。本研究では、複数の実験モデル(ショウジョウバエ遺伝学、哺乳類培養細胞、ヒト病理検体)による多角的な解析、そして国際共同研究拠点での新しい解析技術(連続腫瘍移植モデル、タイムラプス一細胞ゲノミクス)を組み合わせることにより、多倍体化巨細胞の分裂がどのようにして始まるのか、その分裂により生じる様々な核型を持つ細胞群からどのような細胞が悪性形質の発現に至るのかを明らかにする。
これまでの研究から、ショウジョウバエの翅原基上皮組織に誘導したがん原性変異細胞(極性形成に関わるlglもしくはscribbleの変異とがん原遺伝子Rasの活性化の二重変異)からなる腫瘍が、基底膜を破って間質側に侵入すると、非常に高い確率で巨核を持った細胞が数多く出現することを観察していた。一方、FACSによるDNA量解析や、共焦点顕微鏡によるイメージングベースの倍数性解析によって徹底的な検証を行ったところ、これら大部分の浸潤性腫瘍細胞は2倍体を維持しており、ごく少数の細胞だけが多倍体化していることが分かってきた。この観察結果は当初の仮説とは異なるものであるが、実際の浸潤性のがん組織内に存在する多倍体化細胞も少数であるため、多倍体がん細胞のモデルとしては、より実際の状況の再現性が高いモデルということができる。
この腫瘍モデルに対してさらに行なった解析において、間質側へ侵入した腫瘍では、大部分の細胞でクロマチンの状態に大きな変化が起こっていることが分かってきた。具体的には、DAPIを用いたDNA染色で、浸潤性腫瘍内の大部分の細胞で核自体のサイズは大きくなっているものの、多くの細胞でヘテロクロマチン領域と考えられる部分は増加しており、その他の領域が核内で分散している様子が確認された。これらの浸潤性腫瘍細胞モデルにおけるクロマチン状態と倍数性の変化の基本的な観察結果について、代表者自ら遺伝研研究会として企画および主宰を行なった「倍数性研究会」を含め、国内外の複数の学会で発表した。さらに、これらの基礎データを含めた英文総説を発表した。
また、浸潤性腫瘍の大部分の細胞でクロマチン状態が変化していることから、これに関係する因子を探るために、今年度は一細胞レベルでのエピゲノム解析(scATAC-seq)を実施した。
令和5年度は8月に約3週間、研究代表者が本国際共同研究の海外拠点(Tulane University)へ赴き、ショウジョウバエでの腫瘍組織の長期間に渡るタイムラプスデータを取得するための腫瘍連続移植実験の予備実験を実施することができた。日本の研究室でも同実験を実施できるように、実験のプロトコルを習得し、必要機材などの情報を日本へ持ち帰るという、今回の訪問の目的を達成することができた。さらに、この海外拠点での予備実験では、当研究室で開発した翅原基上皮組織の領域特異的な強制発現用ドライバー(K42-Gal4)を用いてがん原性変異のRasV12の発現を誘導する翅原基腫瘍を、成虫の腹腔内に移植する移植実験を試行した。Tulane Universityの共同研究先がこれまでの研究で開発した腫瘍移植モデルは、唾液腺原基に誘導した腫瘍であったが、今回の予備実験により、我々の翅原基の腫瘍でも可能であることを確認することができた。
また、ショウジョウバエ翅原基上皮組織の腫瘍モデルにおいて、計画していたタイムラプスでの一細胞トランスクリプトーム解析(scRNA-seq)を実施した。これはモザイククローン誘導3日後、4日後、5日後の腫瘍における遺伝子発現の違い、不均一性の変遷を一細胞レベルで解析するためのものであり、現在データ解析を実施中である。
ここまで、特にショウジョウバエを用いた浸潤性腫瘍モデルを用いた実験は順調に進んでおり、今後は計画通りさらに様々な実験モデルを用いた解析を進める予定である。
また令和5年度に、本国際共同研究の海外拠点(Tulane University)に赴いて、ショウジョウバエの腫瘍組織の長期間に渡るタイムラプスデータを取得するための腫瘍連続移植実験の予備実験を実施し、実験のプロトコルや必要機材などの情報を収集することができた。今後これをもとに、同実験を日本の研究室でも実施できるように研究代表者の研究室に設備を整えていく。また、今年度もTulane Universityの共同研究先に赴いて、当研究室で開発した翅原基上皮組織の腫瘍モデルと、共同研究先が持つ唾液腺原基の腫瘍モデルの両方を用いて、実際の連続移植実験を行う予定である。
また、ショウジョウバエの浸潤性腫瘍モデルにおいて、浸潤性腫瘍の大部分の細胞でクロマチン状態が変化していることが分かったことにより、当初描いていた研究計画にさらに新しい方向性が出てきた。この新しい方向性をさらに展開していくために、同浸潤性腫瘍モデルにおいて今後さらに様々なヒストン修飾状態の追跡を行う予定である。また、クロマチン状態変化の詳細な解析を行うために実施した一細胞レベルでのエピゲノム解析(scATAC-seq)のデータを、これまでに得ている同サンプルの一細胞トランスクリプトーム(scRNA-seq)のデータと統合解析を実施することにより、浸潤性腫瘍細胞の核内で生じている現象と浸潤性についての関係性をさらに追跡していく予定である。 -
間葉系幹細胞/血管周囲線維芽細胞の未分化性誘導法の開発と線維化疾患への応用
研究課題/研究課題番号:22K18390 2022年6月 - 2025年3月
科学研究費助成事業 挑戦的研究(開拓)
榎本 篤
担当区分:研究代表者
配分額:25740000円 ( 直接経費:19800000円 、 間接経費:5940000円 )
線維化は心不全、肺線維症、肝硬変、腎不全など多くの疾患、加齢に伴う臓器硬化および機能低下の原因である。線維化の原因は線維芽細胞の増生と永続的な活性化である。申請者らは線維芽細胞の起源細胞の一つとしてMeflin陽性間葉系幹細胞あるいは血管周囲線維芽細胞(PVF)を同定し、活性化した線維芽細胞ではMeflinが陰性化することを見出した。本研究の目的は、これまでの知見を生かして、活性化した線維芽細胞を非活性化する新規手法の開発をすすめ、線維化疾患モデルマウスを用いてその意義と分子メカニズムを検証することである。
研究代表者はこれまでに、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell: MSC)あるいはMSCとほぼ同等の分化能を有するとされる血管周囲線維芽細胞(perivascular fibroblast: PVF)の特異的なマーカーとしてMeflin分子を同定した。本研究の目的は、MSC/PVFの未分化性を誘導する新規手法の開発をすすめ(目的1)、線維化疾患モデルマウスを用いてその意義と分子メカニズムを検証すること(目的2)である。本年度は下記の実験を行い、下記の結果を得た。
1)昨年度までに実施した複数の化合物ライブラリースクリーニングで同定した6種類の化合物について、初代培養MSCを用いた確認検証実験を行った。その結果、これらの化合物は内因性のMeflinのmRNAの発現には大きな影響を及ぼさないことが判明した。本年度は、上記ライブラリースクリーニング以外の実験系で同定した3種類の化合物について、Meflinの発現の影響に与える影響を定量的PCRを用いて検証した。これらはAm80との同時投与で効率よくMeflinの発現を上昇させることを見出した。
2) 昨年度から開始したデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性腸炎モデルを安定して作成することに成功した。昨年度までに作成したMeflinおよびIL-10の二重欠損マウスを上記DSS誘導性腸炎モデルに供し、大腸の組織病理学的な検証を開始した。またAbcb4欠損マウスを共同研究者より入手、これを肝線維化モデルにするためのバッククロス作業をほぼ完了した。また心臓の線維化モデル(HFpEF)モデルを安定して作成することにも成功し、心臓の機能低下(E/e’値の異常)がみられることも確認した。
昨年度までの化合物ライブラリースクリーニングで同定した化合物群が内因性のMeflinのmRNAの発現に影響を及ぼさないことが判明し、本プロジェクトは中止を余儀なくされたが、別の手法で同定した化合物群がMeflinの発現を上昇させることを見出したため、当初の目的遂行に向かって順調に進みつつあると考えている。また多くの線維化疾患マウスモデルの作成についても順調に進んでいる。
化合物ライブラリースクリーニングで同定した化合物については予想される結果が得られなかったため、プロジェクトの方向性を変更する。それ以外の検証項目については、当初の研究計画書の予定通りに実施する予定である。線維化疾患の各種モデルマウスの作成も順調に進んでおり、今後は上記化合物を上記マウスモデルに投与してその効果を検証する予定である。 -
研究課題/研究課題番号:22K07000 2022年4月 - 2026年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
三井 伸二, 榎本 篤
担当区分:研究分担者
正常な肺の間質成分はごく少量であるが,肺癌では間質成分が増加し,同部への浸潤が生じる.しかし,その詳細なメカニズムは不明である.
我々が作製したCD109ノックアウトマウスに肺腺癌を発症させたところ,野生型マウスに発症した腺癌に比べ,間質への浸潤が有意に抑制されることが明らかとなった.加えて,ヒト肺腺癌では,癌・間質境界領域の癌細胞にはCD109が,間質側の線維芽細胞には我々が同定したMeflinがそれぞれ高発現しており,かつ両者が機能的に関連することが見出された.
以上のことから,本研究では,癌・間質境界領域におけるCD109/Meflinの相互作用が間質浸潤を制御する可能性について検証する.
扁平上皮癌・脳腫瘍・肺腺癌・骨肉腫などの多くのヒト腫瘍組織で発現が増強するCD109タンパク質は,これらの腫瘍の発症ないし進展を助長する分子であることが近年明らかとなりつつある.我々は,このCD109を欠損させたCD109ノックアウトマウスを作出し,個体レベルでの解析を行ってきた.このCD109ノックアウトマウス(CD109-/-マウス)と肺腺癌自然発症モデルを交配させ,肺腺癌を発症させたところ,CD109野生型マウス(CD109+/+マウス)に発症した腺癌に比べ,間質浸潤が有意に抑制されることが明らかとなった.加えて,ヒト肺腺癌の間質浸潤部では,癌・間質境界領域の癌細胞にはCD109が,間質側の線維芽細胞にはやはり我々が同定したMeflinがそれぞれ高発現しており,かつ両者が機能的に関連する可能性が見出された.
これまでに,ヒト肺腺癌においてCD109高発現群が低発現群に比べて有意に生命予後不良であることを明らかにするとともに,上述のCD109とMeflinを強制発現させた培養細胞を用いた免疫沈降により,両者が共沈するとの予備的結果が得られている.
さらに,より生理的な条件で両者の相互作用を検討するため,CD109およびMeflinの両者を内因性に発現する細胞株を二種同定することに成功した.現在,本細胞株を用いた免疫沈降法による詳細な解析を継続している.
また,癌・間質境界領域におけるCD109/Meflinの相互作用を組織学的に検討するため,ヒト組織切片を用いた免疫組織化学的解析を行う上での適切な条件設定が完了しており,実際のヒト肺癌症例を用いた解析を実施中である.
研究計画に沿って,ヒト肺癌組織におけるCD109およびMeflinの発現パターンを免疫組織化学的に解析した.また,CD109およびMeflinを内因性に発現する細胞株を同定することができた.
CD109およびMeflinを内因性に発現する細胞株二種を用いて,引き続きCD109およびMeflinの相互作用を検討するとともに,ヒト肺癌組織を用いた免疫組織化学的解析を継続する.
また,研究計画に沿って,マウス組織を用いた解析を行う予定である. -
線維芽細胞の形質維持不全と老化が個体の生理機能と病態に与える影響の解明
研究課題/研究課題番号:22H02848 2022年4月 - 2025年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
榎本 篤
担当区分:研究代表者
配分額:17550000円 ( 直接経費:13500000円 、 間接経費:4050000円 )
線維芽細胞はがんや線維化疾患では増殖することが知られている。その機能の本質は組織の修復であるが、同細胞が永続的に活性化すると、線維化・硬化につながり、がんや線維化疾患を悪化させる。本研究では線維芽細胞の形質維持に必要なレチノイン酸取り込み能を欠失させた場合、あるいは線維芽細胞に老化を誘導した際に個体に現れる病理学的変化を検証し、正常線維芽細胞の生理的意義を明確に示すことを目標とする。
研究代表者はこれまでに、Meflin陽性正常線維芽細胞は加齢とともに減少すること、また同細胞が疾患抑制性の形質を維持するためにビタミンAの取り込みとその核内受容体の活性が重要であることを明らかにしてきた。本研究の目的は線維芽細胞特異的にビタミンA取り込み能を欠失させた際(目的1)、あるいは老化を誘導した際(目的2)に個体に現れる病理学的変化を検証し、正常線維芽細胞の生理的意義と病態における意義を明確に示すことである。本年度は下記の実験を行い、下記の結果を得た。
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1) ビタミンA輸送体Stra6遺伝子のexon 12をはさむintron領域にLoxP配列を挿入したマウスをゲノム編集の技術で作成し、これとActin-CreあるいはMeflin-CreERT2マウスと掛け合わせ、ジェノタイピングにより計画どおり上記exon12が欠失していることを確認した。膵がん細胞を移植したMeflin-CreERT2; Stra6 floxマウスにタモキシフェンを投与すると、Meflin陽性細胞でStra6が欠損することをin situ hybridization(ISH)で確認した。
2)ヒト膵がんの手術病理検体(パラフィン包埋標本)を用いた免疫組織化学によりStra6タンパク質の検出を試みた。複数の抗体を購入し、様々な条件で染色を実施したが特異的なシグナルを得られなかった。一方、RNAscopeを用いたISH法ではStra6の発現の検出が可能であり、以降の研究ではISH法を用いることに決定した。
3)Meflin-Creマウスと共同研究者から供与を受けたSOD2 floxマウスの掛け合わせを終えた。
遺伝子改変マウス(Stra6 floxマウス)の作出と現有するCre発現マウス(Actin-CreマウスおよびMeflin-CreERT2マウス)の掛け合わせは概ね順調に実施されている。これらを膵がんモデルに供する実験も開始されている。ヒト病理検体において免疫染色を用いた研究対象分子の検出条件の最適化に難渋し、これを断念したが、ISH法を用いることで解決した。
当初の研究目的と計画に沿って実施する予定である。膵がんモデルを用いた検証の結果を得てから、線維化疾患モデルの実験に移行する。 -
線維芽細胞の形質維持不全と老化が個体の生理機能と病態に与える影響の解明
研究課題/研究課題番号:23K24110 2022年4月 - 2025年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
榎本 篤
担当区分:研究代表者
配分額:17550000円 ( 直接経費:13500000円 、 間接経費:4050000円 )
申請者は最近、各正常組織に常在する線維芽細胞に特異的なマーカーとしてMeflinを同定し、Meflin陽性線維芽細胞の機能は組織修復および線維化やがんの進行の抑制であり、一般に悪玉とイメージされている線維芽細胞の機能とは異なることを示した。さらに、Meflin陽性線維芽細胞は疾患の進行とともにMeflin陰性あるいは弱陽性のSMA陽性線維芽細胞、すなわち疾患促進性の線維芽細胞に形質転換することを見出した。本研究の目的は線維芽細胞特異的にレチノイン酸取り込み能を欠失させた際、あるいは老化を誘導した際に個体に現れる病理学的変化を検証し、正常線維芽細胞の生理的意義を明確に示すことである。
研究代表者はこれまでに、Meflin陽性正常線維芽細胞は加齢とともに減少すること、また同細胞が疾患抑制性の形質を維持するためにビタミンAの取り込みとその核内受容体の活性が重要であることを明らかにしてきた。本研究の目的は線維芽細胞特異的にビタミンA取り込み能を欠失させた際(目的1)、あるいは老化を誘導した際(目的2)に個体に現れる病理学的変化を検証し、正常線維芽細胞の生理的意義と病態における意義を明確に示すことである。本年度は下記の実験を行い、下記の結果を得た。
1) 昨年度までに作成したStra6 floxマウスとActin-Creマウスを掛け合わせることで、Stra6欠損マウスを作成した。同マウスに膵がん細胞を移植した。コントロールとStra6欠損マウスで腫瘍のサイズに大きな差はみられなかったが、抗がん剤(ゲムシタビン)への感受性が低下していることを見出した。
2)昨年度までに市販の抗体を用いた免疫組織化学ではStra6タンパク質の特異的検出はできないことを見出した。本年度は独自にStra6抗体の作成に着手した。
3)昨年度までに作成したMeflin-Cre; SOD2 floxマウスの全身組織の病理学的検索を行い、褐色脂肪組織の形態および白色化に異常があることを見出した。
Stra6 floxマウスの作成、Actin-Creマウスとの掛け合わせ、Meflin-CreERT2マウスとの掛け合わせのいずれも順調にすすんでいる。Stra6の抗体は市販の抗体のすべてを検証したが、免疫染色が可能なものがなく、独自に作成する方針とした。SOD2欠損マウスの表現型解析も順調にすすんでいる。
当初の研究計画書の方針にしたがって検証をすすめる予定である。現時点で大きな変更は予定していない。 -
線維芽細胞の多様性理解に基づく肺線維症合併肺癌の病態の解明と治療戦略の探索
研究課題/研究課題番号:22K08997 2022年4月 - 2024年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
仲西 慶太, 芳川 豊史, 榎本 篤
担当区分:研究分担者
肺の不可逆的な線維化を伴う肺線維症を背景に発症する肺癌は極めて予後不良であり、その病態の解明および新規治療薬の開発は急務である。これまでに癌間質で増生する線維芽細胞には癌抑制性の細胞と癌促進性の細胞の2種類があり、両者を区別するマーカーとしてMeflinを同定した(前者で陽性、後者で陰性)。また肺線維症ではMeflin陽性線維芽細胞は線維化の抑制に、同陰性線維芽細胞は線維化の促進に働いていることを示した。本研究では肺線維症合併肺癌患者における腫瘍微小環境、特に転移巣における線維芽細胞の多様性の解明とともに、癌間質をターゲットとした新規治療戦略の開発を目的とする。
2023年度は野生型マウスおよびMeflin KOマウスにLewis肺癌細胞株を尾静脈投与し肺転移を誘導する実験系を用いて、Meflin KOマウスにおける肺転移の頻度を野生型と比較し、線維芽細胞の多様性が転移性ニッチを形成している可能性について検証した。結果、両群において肺転移巣の個数に差は認められず、またIVISを用いた 評価でも同様の結果であった。本モデルでは尾静脈投与し直接肺転移を誘導することで、前回Meflin KOマウスと野生型マウスで差が出てしまった原発巣の影響を無くすため、今回のモデルではLewis肺癌細胞株を尾静脈投与し肺転移を誘導したが、結果は本モデルにおいても両群に有意差は認めなかった。
また2022年度に集積したヒトIPF合併肺癌手術症例121例のブロックから薄切標本を作製し、HE染色およびMeflinの免疫組織化学染色を行った。現在、免疫組織化学染色によるMeflinの発現を評価している最中である。今後は、免疫組織化学染色で線維芽細胞におけるMeflinの発現を評価し、臨床病理学的特徴および長期予後との相関を解析する予定である。
なお研究代表者が2023年7月よりウィーン医科大学に肺移植医療を学ぶため1年間海外留学するため、一旦本研究は中断の方針とした。再度帰国後に本研究は、Meflin KOマウスにブレオマイシンを用いて肺線維症を誘導した肺に肺転移を誘導するマウスモデルを使い、線維芽細胞の多様性が転移性ニッチを形成している可能性について更に検討していく予定である。 -
間葉系幹細胞の微小環境での炎症制御機構に着眼した次世代型免疫・炎症制御法の創成
研究課題/研究課題番号:21H04824 2021年4月 - 2024年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
丸山 彰一, 石本 卓嗣, 平山 明由, 榎本 篤, 秋山 真一, 田中 章仁, 杉浦 悠毅, 古橋 和拡
担当区分:研究分担者
既存の免疫抑制薬は過剰免疫抑制による感染症などの副作用が問題となっている。間葉系幹細胞(MSC)は、障害部位の炎症強度に応じた自律的かつ局所での炎症制御が可能なことから、次世代の免疫制御療法として期待されている。しかし、その作用機序は十分解明されておらず、その実用化に際しては課題が多い。新概念として『障害部位に到達したMSC由来細胞外小胞が炎症細胞から放出される炎症性物質と微小空間で会合した時にのみ免疫抑制物質が生成されて局所での抗炎症作用が出現する』という着想に至った。本研究では、この新概念を検証して、効果的で安全な次世代型免疫・炎症制御療法の開発に取り組む。
既存の免疫抑制薬は過剰免疫抑制による感染症などの副作用が問題となっている。間葉系幹細胞(MSC)は、障害部位の炎症強度に応じた自律的かつ局所での炎症制御が可能なことから、次世代の免疫制御療法として期待されている。我々は、MSCの免疫・炎症制御機序に関して、『障害部位に到達したMSC由来細胞外小胞(EVs)が炎症細胞から放出される炎症性物質と微小空間で会合した時にのみ免疫抑制物質が生成されて局所での抗炎症作用が出現する』という仮説をたて研究を行った。この課題にて、標的分子が炎症を瞬時に抗炎症物質に変換することで、炎症制御を行っていることを発見した。
今回我々は、炎症物質を瞬時に抗炎症物質へ変換することができる間葉系幹細胞の成分が、腎炎の炎症状態を抗炎症・臓器再生状態へ変換することで、腎障害の進行を抑制することを見出した。
本課題での間葉系幹細胞による生体内炎症制御機構の解明により、免疫抑制を炎症が存在する局所のみで行うことが可能となり、既存の免疫抑制薬の過剰免疫抑制の問題点を解決することができる。本課題で解明した時間・空間的炎症制御機構を治療へ結びつけるため、本分子の効果的な炎症部位への輸送システムの開発へ発展させる。 -
がんの線維化におけるMeflinの機能解析と新規治療法の開発研究
研究課題/研究課題番号:20H03467 2020年4月 - 2023年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
高橋 雅英, 榎本 篤, 浅井 直也
担当区分:研究分担者
がん組織の線維化はがんの悪性度および治療効果に大きな影響を与える。本研究では膵がん、肺がんを主に、我々の研究グループが最近発見したメフリン陽性がん線維芽細胞の機能解析を通じて、がんの線維化のメカニズムを解明し、新たながん治療法の開発に資する。具体的には1.がん関連線維芽細胞(CAF)におけるメフリン発現レベルと患者予後との関連を明らかにし、メフリン陽性がん関連線維芽細胞のがん間質における機能の解析を行う。2.メフリン結合タンパクを同定し、機能解析により、がん細胞の増殖、浸潤能などの生物的特性への関与を明らかにする。3.がん治療を目指したメフリンの発現を増強する低分子化合物の探索を行う。
本研究において、膵がん、大腸がん、非小細胞肺がん、泌尿器がんの間質に存在するがん関連線維芽細胞(CAF)におけるMeflin 発現とがんの予後、治療効果との関連について解析した。その結果、いずれのがん腫においてもMeflinの陽性率の高い群では予後が有意に高く、膵がんでは化学療法の奏効率、非小細胞肺がん、泌尿器がんではIC阻害剤の奏効率が高まることが判明した。また、合成非天然型レチノイドであるAm80が、CAFにおけるMeflinの発現を効果的に誘導することができる試薬であることを明らかにし、Am80と化学療法あるいはIC阻害剤の組み合わせが、新たながん治療法の開発につながることを示した。
本研究では、がん線維化に関わる線維芽細胞の分化と機能におけるMeflinの関与について研究を進め、どのような機序でがんの悪性化を制御しているかを解析した。膵がん、大腸がん、肺がん、泌尿器がんにおける腫瘍内線維芽細胞におけるMeflinの発現と予後との関連、免疫関連細胞の浸潤、化学療法および免疫チェックポイント(IC)阻害剤の効果との関連の解析を行い、Meflin高発現群では患者の予後が有意に良く、治療効果も高いことが判明した。さらに、線維芽細胞におけるMeflinの発現を増強する低分子化合物Am80を同定し、化学療法あるいはIC阻害剤との併用による新たながん治療法開発に資する結果を得た。 -
特異的な間葉系幹細胞マーカーMeflinを介した腎線維化の機序解明と治療法の開発
研究課題/研究課題番号:20K08589 2020年4月 - 2023年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
齋藤 尚二, 丸山 彰一, 古橋 和拡, 榎本 篤
担当区分:研究分担者
1)Meflinの正常腎ならびに疾患モデルマウスにおける発現を正常マウスならびにMeflinノックアウトマウスを用いて解析する
2)Meflin陽性細胞の腎線維化に関する役割をMeflin-CreERT2;Rosa26-LSL-tdtomatoマウスを用いて経時的・空間的に系譜追跡し解明する
3)Meflin-ZsGreen-DTR-Creマウスを用いてMeflin陽性細胞を消去し、その役割を解明する
4)Meflinの発現を誘導することにより、腎線維化進展や臓器不全の予防につながる治療法を開発する
正常マウスならびにMeflinノックアウトマウス、Meflin-CreERT2;Rosa26-LSL-tdtomatoマウスを用いて、解析した。またMeflin-ZsGreen-DTR-Creマウスを用いてMeflin陽性細胞を消去し、その役割を解明した。
これらの手法を用いる事により、Meflinは抗線維化作用を持つ分子であり、腎臓におけるPMCの新規サブグループのマーカーになりうること、また腎障害時にはMeflin陽性細胞が増殖・分化し腎臓の線維化、組織修復に寄与することが示唆された。
腎線維化に関する研究は熾烈を極めており、様々な視点に基づいたアプローチが成されている。腎線維化には主に腎間質の間葉系細胞が関与するが、近年の研究ではPericyteを含む血管周囲間葉系細胞(Perivascular mesenchymal cell: PMC)がMyofibroblastに分化し、線維化の中心的な役割を担っていることが報告されている。
今回我々は、Meflinは抗線維化作用を持つ分子であり、腎臓におけるPMCの新規サブグループのマーカーになりうること、また腎障害時にはMeflin陽性細胞が増殖・分化し腎臓の線維化、組織修復に寄与する可能性を見出した。 -
心臓の硬化を制御するG蛋白質共役受容体の機能解明と心不全治療薬シーズの探索
研究課題/研究課題番号:20H03674 2020年4月 - 2023年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
竹藤 幹人, 榎本 篤, 室原 豊明, 天野 睦紀
担当区分:研究分担者
近年、心臓が硬くなり拡がりにくいために症状を呈する「収縮機能が保たれた心不全(HFpEF)」が注目されている。従来の心収縮機能低下を標的とする治療法ではHFpEFの治療効果は乏しく、HFpEFに対する新たな治療法の開発が求められている。adhesion-GPCRファミリーは物理的刺激により活性化されるGPCRとして新たに分類され、メカノストレスに対する生体反応を制御する分子として注目されている。adhesion-GPCR X がHFpEFに関わっていることを明らかにし、その下流で活性化するリン酸化シグナルを解析する。本研究では、HFpEF治療薬の開発シーズを得ることを目指す。
本研究では、加齢および心不全により発現が増加する機能未知のGタンパク質共役受容体(GPCR)を網羅的に解析し、心不全発症に関与するGPCRを同定する。GPCRは主な創薬ターゲットであるが、800種以上あるGPCRの中で循環器分野の治療標的となっているのは、β遮断薬とアンギオテンシン受容体拮抗薬と限られており、これらの薬剤は高齢者心不全への治療効果は乏しい。数多くあるGPCRの中に新たな心不全標的分子があると考え、また、創薬法が蓄積されたGPCRは新たな治療法開発の実現性が高く、GPCRスクリーニングを行い、従来の心不全療法では治療困難な心不全の新たな治療薬の開発シーズを探索した。
心疾患は、本邦における死因の1位である悪性腫瘍に続く2位であり、世界で3000万人以上の患者がいる。心疾患は予後不良であることに加え、後遺症により日常生活をおくる上で大きな障害になることから、特に高齢者の心不全に対する新たな治療法の必要性が高まっている。受容体を標的とするβ遮断薬やアンギオテンシン受容体阻害薬は心不全治療薬として広く使用されているが、高齢者心不全に対する有効性は乏しい。創薬の主な標的分子である受容体は数多くヒトに発現しており、心不全の新たな治療標的が埋もれている可能性が高く、本研究の成果は心不全の新たな治療標的を示し、新規治療法の開発に繋がることが期待される。 -
がん関連線維芽細胞の多様性による免疫チェックポイント阻害薬の効果予測の機序解明
研究課題/研究課題番号:20H03528 2020年4月 - 2023年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
安藤 雄一, 榎本 篤
担当区分:研究分担者
近年,さまざまな悪性腫瘍に対して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が使用されているが,その大きな問題点として奏効する患者の予測が依然として困難であることがあげられる.研究代表者らは最近,非小細胞肺がんの間質組織に存在するがん関連線維芽細胞(CAF)のマーカーとしてMeflinを同定し,Meflin陽性CAFの存在量がICIによる奏効率と高い相関を示すことを見出した.本研究は,(1)肺がん以外の悪性腫瘍においてICI奏効率とMeflin陽性CAFの関連を明らかにする,(2)Meflin陽性CAFがICI奏効率を制御する分子メカニズムを,マウス実験系とヒト病理検体を用いて明らかにする研究である.
Meflinは、がん関連線維芽細胞(CAF)の新規マーカーである。本研究では、Meflin陽性CAFの存在量が免疫チェックポイント阻害薬の良好な治療効果に相関することを、淡明細胞型腎細胞癌と尿路上皮癌の臨床検体を用いて明らかにした。さらに、このMeflin陽性CAFによる腫瘍免疫制御メカニズムは、補体C3とその分解産物iC3bを介したCD11b陽性細胞の腫瘍内浸潤の抑制であることを明らかにした。
がん関連線維芽細胞(CAF)の新規マーカーとしてMeflinを同定し、Meflin陽性CAFの存在量が免疫チェックポイント阻害薬の良好な治療効果に相関することを明らかにした。この分子メカニズムは、補体C3とその分解産物iC3bを介したCD11b陽性細胞の腫瘍内浸潤の抑制であることを明らかにした。局所間質産生補体C3は神経科学や発生学などで注目されているが、腫瘍微小環境におけるCAF由来補体C3に着目した研究は、我々の知る限り、本研究が最初である。 -
膵臓がんのがん間質ダイナミクスを制御する機能性RNAの同定と標的化
研究課題/研究課題番号:19KK0209 2019年10月 - 2025年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
新城 恵子, 近藤 豊, 榎本 篤
担当区分:研究分担者
がん細胞に対する分子標的薬の開発が目覚ましく進む中、膵臓がんにはいまだに有効な治療法がない。その原因の一つとしてがん細胞の周囲に存在するがん関連線維芽細胞(CAF)の存在が指摘されている。CAFはがん細胞の増殖および進展に促進的に働くことや、がん組織内の細胞へ薬物送達を妨げているなど、様々な機能を果たしていることが考えられる。CAFの性格を決める分子として長鎖非翻訳RNA (long non-coding RNA, lncRNA) に注目し、国際共同研究を推進する。膵臓がんマウスモデルを用いて、実際の生体内で膵臓がんの進展に関わるCAFを同定し、その機能を解析する。
がん細胞に対する分子標的治療薬の開発が目覚ましく進む中、膵臓がんにはいまだ有効な治療法がない。その原因の一つとしてがん細胞の周囲に存在するがん関連線維芽細胞(CAF)とがん細胞の相互作用があげられる。CAFにはがんの悪性化に促進的に働くCAFのみならず、抑制的に働くCAFが存在することが明らかになってきている。
本研究ではCAFの可塑性にかかわり、一方でCAFの個性を規定する分子として長鎖非翻訳RNA (long non-coding RNA, lncRNA) に注目し、トロント大学のDanielSchramek 博士と国際共同研究を推進する。膵がん自然発症モデルおよび膵臓がん細胞皮下移植モデルを用いてCRISPRiによるlncRNAのin vivo網羅的解析システムを構築し、膵臓がんの進展にかかわるCAF関連lncRNAの同定を試みる。さらに同定した膵臓がんの悪性化にかかわるlncRNAを標的とした核酸医薬の開発を試みる。CRISPRスクリーニングのため、ヒトとマウスで保存されているlncRNA を約190種選択した。それぞれのlncRNAに対するsgRNAの設計はSchramek 博士が行い、合成も完了した。CAFの樹立を試み、複数のCAFを自立できたが、in vitroでの実験は非常に難しく、腫瘍を中心とした実験系から腫瘍環境を解析することとした。膵臓がんモデルマウスKPCマウス由来のmT5細胞にdCas9を導入し、スクリーニングの系を樹立したlncRNAに対するsgRNAを組み込んだレンチウイルスを作成を完了した。
CAFの実験が非常に難しく、腫瘍細胞を中心とした実験系に変更を余儀なくされた。マウス膵臓組織を用いたscRNA-seqおよびscATAC-seqによりCAFに関わる
lncRNAを同定することにした。膵臓がんマウスモデルの膵臓を用いてscRNA-seq, scATAC-seqを行い、候補となるlncRNAを同定した。同定したlncRNAの一つについては、RNA-FISHを行い局在などを確認した。
同定したlncRNAの発現や機能解析を進める。
また、CRISPRライブラリを用いた実験もすすめ、同じようなlncRNAが同定できるかを確認する。 -
がん細胞の増殖・遊走のdichotomy(二者選択)を制御する分子機構の解明
研究課題/研究課題番号:18H02638 2018年4月 - 2021年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
榎本 篤
担当区分:研究代表者
配分額:17030000円 ( 直接経費:13100000円 、 間接経費:3930000円 )
アクチン結合分子Girdinは神経芽細胞やがん細胞の遊走を促進する分子である。本研究ではGirdinがアミノ酸輸送体CD98の局在を制御して、代謝・増殖の制御因子であるmTORC1の活性を抑制すること、紫外線照射に対する感受性を上昇させる機能を有することを示した。すなわち、Girdinの機能はがん細胞の(1)遊走、(2)代謝抑制、(3)紫外線照射(放射線療法)に対する感受性等の多様な現象に関わっている可能性がある。
Girdin分子は以前の研究により増殖・遊走ダイコトミーの制御因子の一つであるとされていたが、今回の研究により同分子の機能多様性が明らかとなった。生体内のがん細胞も浸潤期には分裂しないことが提唱されており(stop or go hypothesis)、抗がん剤に対する抵抗性の原因とされている。今後、Girdinの多様な制御をコントロールできる手法が解明されれば、新規治療法の開発の端緒となる可能性がある。 -
間葉系幹細胞に着目した腎間質線維化の機序解明と新規治療法の開発
研究課題/研究課題番号:17K09696 2017年4月 - 2020年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
齋藤 尚二, 丸山 彰一, 榎本 篤, 坪井 直毅
担当区分:研究分担者
腎線維化に深く関与する細胞の一つとして間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell; 以下MSC)があるが、私達は最近MSC特異的マーカーMeflinを同定した。本研究ではMeflinと腎線維化の関係に着目し、①腎線維化におけるMeflinの発現部位の確認、②腎線維化におけるMeflinの細胞系譜解析を検証した。
正常腎や腎炎をおこした病気腎におけるMeflinの発現量と局在を検討した。正常腎でもMeflinの発現は間質に見られるが、炎症をおこした後には間質の線維化部位にもMeflinの発現が上昇していることを確認した。更に間質線維化におけるMeflin陽性細胞の挙動を観察した。
MSCは近年、細胞治療や再生医療の分野で注目される細胞である。MSCは炎症集積性を有する細胞であり、さらには筋線維芽細胞のソースであることから、線維化疾患の理解においてMSCの理解は必須である。Meflinは私達が知る限り未分化MSCの最も特異的なマーカーであり、MSCの研究において今後非常に有用なマーカーとなると推察される。
Meflinの機能解析を基軸にして、腎線維化の機序解明をする研究である。線維化は慢性腎臓病のみならず、心不全、肝硬変、肺線維症、癌と多様な疾患の病態理解に必須であることから、その医学への貢献は高く評価されるものと期待している。 -
間葉系幹細胞特異的マーカーを利用した糸球体腎炎の病態解明と新規細胞治療法の開発
研究課題/研究課題番号:17H04186 2017年4月 - 2020年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
丸山 彰一, 榎本 篤, 秋山 真一, 坪井 直毅, 勝野 敬之
担当区分:研究分担者
私たちはMesenchymal stem cell;MSCを未分化な状態に保つ働きがある分子Meflinに着目し、MeflinがMSCに特異的に発現することを見出した。本課題ではMeflinに着目し糸球体腎炎発症時のMSCの病態を解明し新規治療開発につなげることを目的とした。
正常腎や腎炎をおこした病気腎におけるMeflinの発現量と局在を検討した。正常腎でもMeflinの発現は間質や糸球体門部に見られるが、炎症をおこした後は糸球体周囲にもMeflinの発現が上昇していることを確認した。
またMeflinレポーターマウスを用いて糸球体腎炎の発症過程におけるMeflin陽性細胞の挙動を観察した。
本研究は特異的マーカー分子を用いてMSCの体内動態を解明する点に学術的な意義があると考える。また、未分化状態を保つはたらきがある分子Meflinに着目して検討を進める点に独創性もある。本研究では糸球体腎炎における各種MSCの動態および作用について検討するが、将来的には他の臓器障害にも一般化できる可能性が高い。
本研究で得られたMeflinの糸球体腎炎発症時の挙動は非常にユニークであり、今後の腎炎発症メカニズムの解明のみならず、腎炎治療ひいては炎症性疾患全般における治療戦略の足掛かりとなる可能性がある。 -
カドヘリン特異的エンドサイトーシスによる癌細胞の集団的移動の制御機構と意義の解明
研究課題/研究課題番号:15H04719 2015年4月 - 2018年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
榎本 篤
担当区分:研究代表者
配分額:17420000円 ( 直接経費:13400000円 、 間接経費:4020000円 )
個体発生や癌の浸潤において多くの細胞は集団を形成して移動することが知られており、「細胞の集団的移動」と呼ばれている。本研究では、神経芽細胞の集団的移動に必須であるアクチン結合分子Girdinが癌細胞の集団的移動にも重要な分子である可能性について検証した。Girdinの新規結合分子としてβ-cateninを同定し、本分子複合体が癌細胞の集団的浸潤に重要であることを複数の実験モデルを用いて証明した。また皮膚癌の病理組織標本を用いた検証では、Girdinの発現はβ-cateninや細胞間接着分子E-cadherinの発現レベルと相関を示し、Girdin複合体の生物学的意義を示唆する結果であった。
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カドヘリン特異的エンドサイトーシスによる癌細胞の集団的移動の制御機構と意義の解明
2015年4月 - 2018年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
担当区分:研究代表者
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Girdinファミリー分子の機能と精神神経疾患・がんの病態形成における役割
研究課題/研究課題番号:26221304 2014年5月 - 2019年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(S)
高橋 雅英, 榎本 篤, 浅井 直也
担当区分:研究分担者
Aktキナーゼの新規基質タンパク質であるGirdinとそのファミリー分子Dapleの機能解析を進め、精神神経疾患、がんの進展における役割ついて解明を行った。Girdinは海馬神経細胞のシナプス形成と長期記憶に関与すること、がんにおいてはアクチン細胞骨格の再構成を通じて、がん細胞の集団移動に重要な役割を果たすことを示した。
Dapleノックアウト(KO)マウスの解析により、Dapleは脳室上衣細胞の繊毛の極性に重要であり、KOマウスでは繊毛の運動能の異常により水頭症が発症した。さらに、DapleはWntシグナルの活性化に関わり、胃がんの浸潤・転移を促進することを明らかにした。
細胞運動は発生過程における形態形成、生後の組織修復、免疫反応、血管新生、がんの浸潤・転移といった様々な生理的、病理的現象に重要な役割を果たしている。本研究においてわれわれが細胞運動に重要な機能を有する分子として発見したGirdinおよびDapleの精神神経疾患、がんの進展における役割とその分子機構を明らかにした。今後これらの知見をもとに疾患の新規治療法の開発に貢献する。 -
エンドサイトーシスの特異的制御機構とがん・精神疾患の分子病態
2012年4月 - 2015年3月
科学研究費補助金 若手研究(A)
担当区分:研究代表者
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細胞の集団的移動と接触阻害の分子メカニズムの解明
2011年4月 - 2013年3月
科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)
担当区分:研究代表者
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新生仔期及び成体における神経新生のメカニズムと精神機能の分子病態
2009年4月 - 2012年3月
科学研究費補助金 若手研究(A)
担当区分:研究代表者
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新規Akt基質Girdinとそのファミリー分子の腫瘍浸潤および発生における役割
2006年4月 - 2009年3月
科学研究費補助金 若手研究(A)
担当区分:研究代表者
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腎臓と神経の発生及び再生に関与する遺伝子の探索及びその機能の解明
2003年4月 - 2006年3月
科学研究費補助金
担当区分:研究代表者