科研費 - 今井 國治
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心動態を考慮した小児心臓CT検査の最適化に関する研究
研究課題/研究課題番号:19K12779 2019年4月 - 2022年3月
川浦 稚代
担当区分:研究分担者
本研究では、近年のCT装置の技術進歩に伴い、その検査件数が急増したことで被ばくリスクの増加が懸念されている小児の心臓CT検査において、独自に開発した小児用心臓動態ファントムと小児用臓器線量計測システム、ならびに、微弱光測定システムを利用した線量分布計測システムを用いて、小児心臓CT検査時の画質と線量の関係解明を試みる。また、造影剤の物理特性が被ばく線量と画質に及ぼす影響を調査し、得られた成果を総合的に評価することで、小児心臓CT検査の最適化について検討を行う。
本研究の目的は、先天性心疾患を模擬した小児型心臓動態ファントムを独自に作製すること、それを用いて小児心臓CT検査時の画質と被ばく線量の関係を解明することで、小児心臓CT検査の最適化を検討することである。2019年度は、小児患者の心臓および血管形状データを基に、小児型心臓動態ファントムの作製を行った。心臓CT検査の場合、診断画像の画質に大きく影響を及ぼすのは、モーションアーチファクトである。最新のCT装置には、冠動脈の複雑な動きを予測し、モーションアーチファクトの少ない静止画像を自動で得ることが可能な心臓動態解析アルゴリズムが搭載されているものがある。このような心臓CT特有の再構成アルゴリズムでは、ファントムにおいて心臓の形態はもちろんのこと、血管の動きが本物の心臓とかけ離れていると、画像が再構成されない。そこで本研究では、まず、ラバー製の心臓ファントム体部に造影剤を注入したシリコンチューブ製の模擬血管を装着した試作品の心臓動態ファントムを使って、模擬冠動脈の形状や動きがCT装置によって認識され画像が得られるかどうか試した。結果、試作の心臓動態ファントムでは画像を得ることができなかった。そこで、模擬冠動脈の形状や配置、心臓全体の形状などファントム形状を様々に変化させ試作を繰り返した。結果、最終的な心臓動態ファントムの構造を決定した。作製した小児型心臓動態ファントムは、直径20cmのアクリル水槽中心位置に、シリコンラバー製の心臓体部、冠動脈、心臓ファントム体部に造影剤を出し入れし、心臓を拡張収縮させるための脈動ポンプからなる。次に、当初の実験計画通り、作製した心臓動態ファントムを病院に持ち込み、臨床条件にて撮像を行おうとしていたが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、病院での撮像実験ができなくなり、現在研究が中断している状態である。
本研究では、心臓CT検査における画質と被ばくの関係を解明することが第一の目的であるが、様々な撮影条件で心臓CT画像を取得するには、人体の形状や生理的体動を模擬したファントムが必要不可欠である。特に小児は成人に比べ体が小さいため、心臓や血管の造作に細かい作業が必要であることから、ファントム材料の加工性、CT値などの物理特性、動きに対する伸展性や収縮性、強度の検討などに多大な時間がかかった。血管の形状も病態に合わせて変更できるように、心臓体部と冠動脈は別々に作製し、心臓体部の上から冠動脈をかぶせる構造で試作品を作製したが、CT装置の心臓動態解析アルゴリズムには心臓として認識されなかった。再度、冠動脈の形状、材質、動きなどを検討し、何十回と試作を繰り返した。その結果、心臓体部と冠動脈の密着度の改善が必要であること、冠動脈を脂肪組織様構造物で覆う必要性があること、大動脈と冠動脈の分岐部の構造の改善が必要であることなどが明らかになった。また、心臓体部の構造が独特であるため、型から心臓部分を外す工程がうまくいかずにラバーが破れてしまい、何度も型の設計をやり直すことになった。最終的には使い捨ての型を作製することにした。これらの製造工程を改良しつつ、最終的な心臓動態ファントムを完成させたが、当初の予定よりもファントムの作製に大いに時間と労力を費やした。それでもようやく完成した心臓動態ファントムを病院の臨床機で撮影してもらう予定で協力関係にある病院と打ち合わせを行っていたが、2020年に入ってからは、新型コロナウイルスに対する感染防止対策のため、病院への部外者の出入りが禁じられ、心臓CT検査時の画像収集実験が行えなくなった。2019年度の計画の一つである、心臓動態ファントムの作製は完了したが、様々な撮影条件で撮影したファントム画像の画質評価は実施できなかった。
2020年度に実施する予定の心臓CT検査時の被ばく線量評価もまた、実際に臨床で使用されているCT装置を使って、臨床で日常的に使用されている撮影条件に即して実施する必要があるが、新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため、病院内での線量測定実験は今年度中には実施できない可能性が推測される。そこでまず、2020年度は、2019年度に実施できなかった、画質評価を優先的に行うこととし、臨床機ではなく実験用のCT装置で画像収集を行うこととする。実験機には最新の心臓動態解析アルゴリズムは搭載されていないが、一般的なマニュアルでの心臓CT検査の再現は可能である。撮影条件は小児の心臓CT検査に関する文献を参照とする。一方で、川崎病の診断に必要な冠動脈病変を再現するため、冠動脈ファントムに模擬動脈瘤を付与した動脈瘤付き血管ファントムの開発と、血管狭窄を模擬した狭窄付き血管ファントムの開発を行う。これら血管ファントムを装着した心臓動態ファントムの画像収集を行い、我々が考案したGauss法により画像ノイズおよびContrast-to-noise ratio(CNR)を評価し、Gumbel法によりアーチファクトの評価、また、血管形状のあいまい度と情報利得を指標に動脈瘤あるいは狭窄部位の検出率の評価を行う。最終的な心臓CT検査の最適化の判断には、我々が考案したBenefit-to-risk ratio (BRR)=情報利得/臓器線量を各撮影条件で求める必要があるが、臓器線量の測定は実施できるかどうかが不明であるため、もし、実測による臓器線量評価が不可能であった場合は、モンテカルロシミュレーション法により患者線量を計算で求める方法に切り替える予定である。上記の手法を用いて、心臓CT検査時の画質と線量の関係解明を試みる。 -
ヨード系造影剤の薬剤物性解析と造影画像の画質との関係-定説は正しいか?
研究課題/研究課題番号:18K12129 2018年4月 - 2021年3月
今井 國治
担当区分:研究代表者
配分額:4290000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:990000円 )
本申請研究では、脳血管DSA検査を対象に、被ばく線量増幅効果を含む造影剤の副作用、造影剤の効能である造影能、DSA画像の画質の3要因ついて詳細な検討をことである。そこで本年度は、ヨード造影剤の副作用発症軽減機構について量子化学的に考察し、さらにヨード造影剤の生理学的薬剤特性をもとに、造影剤間の交叉反応について数理解析的に検討した。
本検討で対象とした造影剤は市販の非イオン性ヨード製剤であり、ここで行った解析は、シュレーディンガーの波動方程式に基づく数理解析とクラスター解析による数理解析で、比較のためイオン性ヨード製剤も含めて解析を行った。
非イオン性製剤はイオン性製剤よりも副作用の発現が低いと言われており、その主な要因として、造影剤分子の親水性側鎖が疎水基をシールドするためだと考えられている。しかし、これが実際に起こっているのかは定かではない。そこで、造影剤分子の状況を量子化学的に解析したところ、親水性側鎖が疎水基を直接シールドするといった安定配座は一切認められず、親水性側鎖を起点とする水クラスターが疎水基をシールドしていると言う特筆すべき結果を得た。また、この水クラスター数と副作用発症率との関係を求めたところ、両者には非常に良い相関があり、疎水基付近に存在する水クラスターが造影剤の副作用発症軽減に深く関与していることが示唆された。
ヨード造影剤の交叉反応は、副作用の既往歴のある患者を対象に造影検査を実施する際に留意すべき重要な事項である。しかし、どのような造影剤の組み合わせで、交叉反応が起こるかについてはあまり検討されていない。そこで、ヨード造影剤の生理学的薬剤特性をもとにクラスター解析を行い、造影剤間の類似度を定量的に明らかにした上で、交叉反応との関連性について検討した。その結果、ヨード造影剤の生理学的薬剤特性の類似性と交叉反応発症との間には密接な関連があることが示唆された。
申請時の予定では、採択初年度、DSA検査専用脳血管ファントムを作成し、それを用いて、被ばく線量及び画質の評価を実施する予定であったが、昨年度の報告書で述べたように、ファントム作成に遅れが生じたため、これらの検討は一年遅れとなった。さらに、今年度、画質解析を担当する共同研究者の一人が定年退職ということもあって、計画通りなら、被ばく線量評価から検討する予定であったが、急遽、予定を変更して、画質評価から行うことにした。ノイズ及びストリークアーチファクトについては、申請代表者が以前の科研研究で考案した定量評価法を用いて検討できるが、DSA画像のようなディジタル画像の鮮鋭度や回転断層画像で問題視されるビームハードニング効果に関しては、現在のところ、その定量評価法は存在しない。そこで、確率過程論や金融工学等で用いられている理論を駆使し、鮮鋭度に関しては、空間周波数特性をもとにROC解析的手法による定量評価法を考案し、ビームハードニング効果については、確率微分方程式による評価法を考案した。これらの方法の妥当性については、視覚評価との対応で、適切に評価できることを確認し、現在、これらの方法を含めて、DSA画像の画質評価を実施している。その進捗状況は順調に進んでいる。
次に、副作用に関してであるが、「研究業績の概要」で述べたように、これまでにない知見を本研究で見出すことができた。さらに、副作用に関する研究が、予定以上に進んだため、申請当初には計画していなかった造影剤による血圧低下の検討を開始した。その内容は造影剤分子とタンパク質との相互作用をもとに、どのような機序で血圧低下が起こるかと言うもので、現段階の解析結果によれば、アンギオテンシン変換酵素との関連性を示唆するものとなっており、この結果は動物実験による報告を支持する内容となっている。
以上のことから、本申請研究は順調に進展していると言える。
次年度の研究計画は以下の通りである。
(1)脳血管ファントムを用いた被ばく線量測定、(2)ヨード造影剤の副作用に関する分子動力学的解析
まず、(1)の項目についてであるが、「現在までの進捗状況」で述べたように、DSA画像の画質評価を先回しにした関係、被ばく線量の実測は行っていない。それ故、次年度では、被ばく線量評価を行うが、その具体的な測定方法については、昨年の報告書通りに行う予定で、市販の非イオン性ヨード製剤をファントム内の模擬血管に注入し、その下で、造影剤量と被ばく線量との関係を測定する。さらに、その結果とシミュレーションとの比較を行い、造影剤による被ばく線量増幅効果について詳細に検討する。
次に、(2)の項目についてであるが、本年度は、副作用発症頻度とシールド効果との関係や造影剤間の交叉反応と言った検討を行い、これまでにない知見や臨床的に有益な情報を提供することができた。次年度は、「現在までの進捗状況」で述べたように、重篤な副作用である血圧低下に関する検討を継続して行う予定である。さらに、副作用の中でも頻度の高い嘔吐についても、分子動力学的に検討を行う予定で、これに関しては、抗がん剤の一つであるシスプラチンの薬剤特性と比較して行う。その理由として、シスプラチンもヨード造影剤と同様、かなりの頻度で嘔吐を引き起こすこと、さらに、その原因が、ある程度解明されていることが挙げられる。つまり、この原因がヨード造影剤における嘔吐発現と何らかの類似性があるのではないかと考えている。そこで、申請者らは、既にシスプラチンの薬剤特性に関する解析を始めており、これまでに報告されているシスプラチンの薬剤特性を量子化学的に再現できることを確認している。今後は、これをもとに、シスプラチンと嘔吐を引き起こす化学受容体との相互作用を分子力学的に解析し、その後、ヨード造影剤に関する検討へと進める予定である。 -
ヨード系造影剤の薬剤物性解析と造影画像の画質との関係-定説は正しいか?
2018年4月 - 2020年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
今井國治
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X線CT画像における雑音分散に関する検討
研究課題/研究課題番号:18K07748 2018年4月 - 2020年3月
池田 充
担当区分:研究分担者
雑音を量子雑音に限定した場合におけるX線CT画像上の関心領域(ROI)内の「空間領域」の雑音分散の「ensemble領域」での期待値について、今年度は、使用する2種類のX線検出器モデルの差がシミュレーションに与える影響について検討した。その結果、X線検出器にquantum counterモデルを採用した同雑音分散の期待値を解析的に計算する方法は、X線検出器がenergy integrating detectorモデルの場合でも有用であることが確認された。これまでの検討を通じて、現在使用されているX線CT装置に対して、上記の解析的な計算方法の精度は高いものと言える結果を得た。
また、U-Netを利用したニューラルネットワークを使用して、ROIの画像データから、X線CT画像上の任意の場所におけるROI内の「空間平均」の雑音標準偏差(SD)の「ensemble領域」での期待値の推定の可否について検討した。市販の胸部ファントムを、マルチスライスX線CT装置のnon helical scanモードで、各種の再構成関数と電流値で25枚の同じ画像を撮影したものを解析対象画像とした。ROI内の雑音SDの「ensemble領域」での期待値は、同一のスライス位置と撮影条件で撮影した再構成画像から得られる300種類の差分画像からの平均により推定した。今回の検討の範囲内では、再構成関数による差は認められるが、ニューラルネットワークによってROIの画像データから雑音SDを高精度で予測が可能であると言える結果となった。さらに、各画素を中心とするROI内の画像データから、X線CT画像上の任意の場所における被ばく線量の推定の可能性についての検討した結果、今回の検討の範囲内では、ROI内の画像データから同ROIにおける雑音SDを予測することに比較すると劣るものではあるが、ある程度は予測できると言える結果となった。 -
人体ファントム内線量計測に基づく日本の乳幼児CT被ばくの実態解明
研究課題/研究課題番号:16K09014 2016年4月 - 2019年3月
川浦 稚代
担当区分:研究分担者
本研究では、日本人0.5歳児の体型を模擬した頭-胸部ファントムを作製し、その内部に蛍光ガラス線量計を多数設置した人体ファントム臓器線量計測システムを構築し、それを用いて乳児頭部CT検査時の被ばくの現状を実測に基づいて調査した。また、乳幼児頭部の診断画像の画像ノイズを評価し、ノイズと患者年齢、検査目的、頭部形状、線量との関係から検査の最適化について検討を行った。一方で、放射線照射による高分子材料の発光現象を利用した被写体内線量分布測定システムを考案し、その精度検証を行った。本システムは、従来よりも安価で簡便に線量分布を測定でき、検査の最適化やリスク評価において有益な線量情報をもたらすであろう。
わが国では、X線CT検査による子供の被ばくリスクが大きな社会問題となっているが、CT検査の最適化や、被ばくリスクの推定精度の検証に必要な臓器線量データは皆無であった。本研究ではこの問題を解決すべく、日本人体型を模擬した人体ファントムによる線量評価により、乳幼児において実施頻度が最も高い頭部CT検査の臓器線量レベルを明らかにした。同時に、診断画像を基に、画質と線量との関係を年齢、検査目的、頭部形状別に調べることで、年齢別に最適検査条件を提案した。本研究で得られた線量や画質データは、検査の最適化だけでなく、より効果的な放射線防護法の開発や、リスク推定の精度向上に大いに役立つであろう。 -
確率共鳴を利用した脳梗塞部の検出と被ばく線量軽減-ノイズは本当に有害因子なのか
2014年4月 - 2017年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
今井國治
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脳卒中CT画像に及ぼす線量効果
2011年4月 - 2014年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
今井國治
担当区分:研究代表者
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頭部CT画像における画質とそれに及ぼす線量効果
2008年4月 - 2011年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C),課題番号:20591474
今井 國治
担当区分:研究代表者
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CADのための医用画像の画質評価と被曝線量評価、文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「多次元画像の知的診断支援」
2005年4月 - 2007年3月
科学研究費補助金 文部科学省科学研究費補助金特定領域研究
担当区分:研究分担者
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デジタル画像処理によるがん画像の特徴検出、厚生労働省ガン研究助成金「デジタル画像を利用した診断支援システムの開発と利用に関する研究」
2004年4月
科学研究費補助金 厚生労働省ガン研究助成金
担当区分:研究分担者