科研費 - 花房 洋
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メンブレントラフィックによるEGFRシグナルの時空間制御
研究課題/研究課題番号:19H04958 2019年4月 - 2021年3月
新学術領域研究(研究領域提案型)
花房 洋
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:10530000円 ( 直接経費:8100000円 、 間接経費:2430000円 )
本研究では以下の3点に焦点を絞り、メンブレントラフィックによるEGFRシグナルの時空間制御機構を明らかにしたい。
(1)メンブレントラフィックを介したEGFRシグナル制御の数理モデル構築
(2)ERK活性振動性に対するエンドソームの役割の解明
(3)小胞体(ER)-エンドソームコンタクトサイトにおけるEGFRシグナル制御機構の解明
上皮成長因子受容体(EGFR)シグナルは細胞の増殖・分化・遊走に重要であるとともに、その破綻は細胞のガン化に直結する。最近の研究から細胞膜上で活性化したEGFRは、細胞内に取り込まれた後も、エンドソーム膜上からシグナルを発信し続けることが明らかとなってきた。また細胞が晒されるEGF量に応じて、活性化したEGFRの細胞内トラフィックが変化(低濃度のEGF:リサイクル経路、高濃度のEGF:リソソーム分解経路)し、細胞を過剰な刺激から守りつつ、生理的に重要な刺激に対してシグナルを十分に増幅させていることが明らかとなってきた。このようにEGFR細胞内トラフィックは、EGFRシグナルの時空間的制御に重要な役割を果たしている。我々はこれまでROCOファミリーキナーゼLRRK1が、EGFRの細胞内トラフィックを制御することで、EGFRシグナルのダウンレギュレーションに重要なことを明らかにしてきた。そこでLRRK1によるEGFR細胞内トラフィック制御に焦点を絞り、メンブレントラフィックによるEGFRシグナル制御の数理モデルを構築する。昨年度の研究から、細胞が高濃度のEGFに晒された際、リサイクル経路ではなくリソソーム分解経路に選別されるのにLRRK1が重要なことを見出した。EGFRのユビキチン化は、ESCRT複合体によるエンドソーム内腔への取り込みおよびリソソームへの移動に重要なことが知られている。高濃度のEGF刺激で、EGFRは効率よくユビキチン化されるが、このユビキチン化されたEGFRとLRRK1が相互作用し、ESCRT複合体による選別に機能する可能性が明らかとなった。さらにEGFRのエンドソーム内腔への取り込みと、リソソームへの輸送が協調して行われるステップにLRRK1が重要な働きをしていることを明らかにした。
メンブレントラフィックがEGFRシグナルをどのように制御しているのか、LRRK1による制御機構を中心に解析を進めた。その結果、LRRK1が低分子量Gタンパク質Rab7をリン酸化することで、EGFRを含むエンドソームの微小管上の輸送を促進することを明らかにした。同時にLRRK1は、ユビキチン化されたEGFRとESCRT複合体との結合促進や、フォスファターゼPTP1BによるEGFRの脱リン酸化を促進し、EGFRをリサイクル経路からリソソーム分解経路へと選別するのに機能していることを明らかにした。このようにEGFRシグナルの時空間制御における分子基盤の解明は、期待以上に進んでいる。一方で、これらのデータを基にした数理モデルの構築については、LRRK1抗体が内在性LRRK1の細胞内挙動や発現量を検出するのに十分な感度でないことなどから、パラメーター取得のための情報が十分でなく、思うように進んでいない。これらの状況を踏まえ、総合的にみて概ね順調に進んでいると思われる。
今後はメンブレントラフィックによるEGFRシグナル制御機構のさらなる解明と、数理モデルへの適応を目指す。具体的には、LRRK1によるEGFRリソソーム分解経路選別について、小胞体上のPTP1Bが、コンタクトサイトを介してエンドソーム上のEGFRを脱リン酸化する機能を明らかにする。これまでPTP1BによるEGFRの脱リン酸化、シグナルダウンレギュレーション及びエンドソーム内腔への取り込みは、明らかとなってきたが、興味深いことにPTP1Bは、LRRK1自体も脱リン酸化していることを見出した。PTP1BによるLRRK1の脱リン酸化は、LRRK1のキナーゼ活性上昇とリンクしており、この制御機構の解明も進める。さらにエンドソーム上のマイクロドメインに、EGFRを集積するステップについても解析する。数理モデルに関しては、引き続き、LRRK1などの内在性タンパク量の測定や、EGF刺激後どのようなタイムコースでエンドソーム局在が変化していくのか計測し、モデル作成に必要なパラメーターの取得を目指す。 -
ROCOファミリーキナーゼLRRK1/2によるメンブレントラフィック制御の解明
研究課題/研究課題番号:18H02612 2018年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
花房 洋
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:17420000円 ( 直接経費:13400000円 、 間接経費:4020000円 )
メンブレントラフィックは細胞内で物流網を形成し、環境に応じた適切な細胞応答を可能にしている。我々はこれまでROCOファミリーキナーゼLRRK1が、上皮成 長因子(EGF)受容体を含むエンドソームの輸送・成熟を制御することを明らかにしてきた。一方ファミリー分子LRRK2は、家族性パーキンソン病原因遺伝子とし て同定され、その後の解析からメンブレントラフィックやオートファジーに機能していることが報告されてきた。しかしその作用機構は未だよくわかっていな い。最近我々は、LRRK1の基質としてRab7を同定した。またLRRK2も、Rab8、10、12などRabファミリーを基質とすることが報告されえた。興味深いことにLRRK1/2はRabファミリー間で保存されたセリン・スレオニンをリン酸化し、Rabとエフェクター分子との結合を制御していることが明らかとなってきた。
そこで本研究課題では、Rabを介したエンドソームとオートファゴソームの成熟機構に注目し、LRRK1/2によるメンブレントラフィック制御を明らかにすべく研究を行った。 昨年度までの研究から、LRRK1がEGFR細胞内輸送においてRab7をリン酸化し、EGFRを含むエンドソームのリソソームへの輸送を促進していることを明らかにした。さらにParkin依存的なマイトファジーにおいて、LRRK1がRab7をリン酸化し、損傷ミトコンドリアの除去に重要なことも明らかにした。
昨年度に引き続き、LRRK1にフォーカスを当て研究を遂行した。その結果、LRRK1がRab7をリン酸化し、そのエフェクター分子RILPとの結合を促進し、Dynein依存的な輸送を促進することを明らかにした。またLRRK1が、Parkin依存的なマイトファジー(損傷ミトコンドリアを除去する選択的オー トファジー)時に、Rab7をリン酸化し、損傷ミトコンドリアの除去に必須であることを見出した。LRRK1は、オートファジー開始キナーゼULK1の下流で活性化し、Rab7のリン酸化を介してマイトファゴソーム形成に機能していることを明らかにした。最近、LRRK2がRab10をリン酸化することで、マイトファジーを負に制御していることが報告された。LRRK1とLRRK2は、Parkin依存的なマイトファジーの進行において、それぞれ反対の役割(LRRK1がpositive regulatorでLRRK2がnegative regulator)を果たしている可能性が明らかとなってきた。以上の結果を踏まえ、本研究課題は概ね順調に進展していると考えている。
今後は以下の点に関し研究を行っていく。
(1)LRRK1によるメンブレントラフィック制御:我々はLRRK1が、EGFRのエンドソーム内腔への取り込みにも機能し、EGFRシグナルをダウンレギュレーションしていることを明らかにしている。そこでメンブレントラフィックとシグナル伝達との協調機構について、LRRK1と相互作用する分子を中心に解析を進める。これまでLRRK1と結合する分子として、チロシンフォスファターゼを同定しており、今後は、このフォスファターゼとの関係について解析を行う。また、SplitGFPを用いた解析から、小胞体―エンドソームコンタクトサイトにおけるLRRK1の機能を明らかにする。
(2)LRRK1/2によるマイトファジー制御:LRRK1によるParkin依存的なマイトファジー制御機構について、その分子機構を明らかにする。これまでLRRK1のキナーゼ活性がマイトファジーに重要なことを明らかにしているが、マイトファジー時に、LRRK1がどのように活性化するのか検討する。特に、ULK1複合体との関係にフォーカスし解析を行う。 -
エンドソームを起点とするシグナル発信機構の解明
研究課題/研究課題番号:17H06001 2017年4月 - 2019年3月
新学術領域研究(研究領域提案型)
花房 洋
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:11700000円 ( 直接経費:9000000円 、 間接経費:2700000円 )
刺激により細胞膜上で活性化した受容体チロシンキナーゼ(RTK)は、エンドサイトーシスによってエンドソームに集積し、リソソームへと運ばれ分解される。この時、受容体の一部は細胞膜にリサイクルされ、リソソームによる分解を免れる。最近の研究から、同じ活性化した受容体が細胞膜とエンドソームからとで異なるシグナルを発信し、異なった細胞応答を引き起こすことが明らかとなってきた。我々は、RTKの1つ上皮成長因子受容体(EGFR)に注目し、エンドソームを起点とするEGFRシグナルの制御機構の解明を目指している。昨年度までの解析から、ROCOファミリーキナーゼLRRK1が、小胞体(ER)-エンドソームコンタクトサイト上で、EGFRの脱リン酸化・不活性化に重要なことを明らかにした。SplitGFPを用いてコンタクトサイトを可視化し、LRRK1がコンタクトサイト形成に重要か検討したところ、LRRK1はコンタクトサイト形成自体には必要ないことが明らかとなった。一方LRRK1は、コンタクトサイト上でEGFRの脱リン酸化を促進し、EGFRのエンドソーム内腔への取り込みを促進することを明らかにした。LRRK1によるEGFR脱リン酸化およびエンドソーム内腔への取り込みは、エンドソーム膜上から発信されるEGFRシグナルを負に制御していることを明らかにした。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。 -
LRRK1-Dynein複合体による逆行輸送制御機構
研究課題/研究課題番号:15H04697 2015年4月 - 2018年3月
花房 洋
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:17420000円 ( 直接経費:13400000円 、 間接経費:4020000円 )
本研究から、(1)LRRK1が微小管プラス端結合因子CLIP-170をリン酸化し、p150Gluedとの結合を促進することで、EGFRを含むエンドソームの微小管上の輸送開始に機能することが明らかとなった。さらに(2)LRRK1はRab7のSwitchII領域に存在するSer-72をリン酸化し、Rab7とRILPとの結合を選択的に促進することを明らかにした。また(3)LRRK1はM期中心体で活性化し、中心体構成因子CDK5RAP2をリン酸化し、g-tubulin依存的な微小管nucleationを促進することで紡錘体配向制御に機能することを明らかにした。
ある種の癌細胞では、EGFRシグナルが過剰になっている。我々はLRRK1が、EGFRの細胞内トラフィックを制御することで、EGFRシグナルを負に制御することを明らかにした。このことは、過剰なEGFRシグナルが引き起こす細胞癌化に対し、それを防ぐ手立てを開発するのに役立つ可能性がある。さらにLRRK1のファミリー分子LRRK2は、家族性パーキンソン病原因遺伝子(Park8)であるが、その作用機序や生理的役割・パーキンソン病発症機構は依然として不明なままである。LRRK1とLRRK2は一部共通の機構で機能しており、LRRK1の機能解析はLRRK2の作用機構解明に繋がる可能性がある。 -
セパレースセンサーを用いた中心子複製ライセンシング機構の解明
研究課題/研究課題番号:15K14508 2015年4月 - 2018年3月
花房 洋
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:3900000円 ( 直接経費:3000000円 、 間接経費:900000円 )
中心体は一対の母娘中心小体からなり、細胞周期ごとに一度だけ複製される。この時、母娘中心小体の解離が、中心小体複製のライセンシングシグナルとして働くことが明らかとなっている。母娘中心小体の解離は、プロテアーゼであるセパレースがコヒーシンを分解することで生じる。コヒーシン切断配列の両側に発色団を持つセパレースセンサーを用いると、セパレースの活性を蛍光の変化で観察できる。本研究ではこの系を用いて、ライセンシングシグナルに重要な遺伝子の同定と、その分子機構の解析を行った。その結果、ROCOファミリーキナーゼLRRK1が、キナーゼ活性依存的に母娘中心小体の解離を制御していることを明らかにした。
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LRRK1による中心体複製及びシリアdisassembly制御機構の解析
研究課題/研究課題番号:15H01208 2015年4月 - 2017年3月
新学術領域研究(研究領域提案型)
花房 洋
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:6500000円 ( 直接経費:5000000円 、 間接経費:1500000円 )
ROCOファミリーキナーゼLRRK1はRas様GTPaseドメインとMAPKKK様キナーゼドメインを持つユニークな分子である。近年LRRK1のファミリー分 子LRRK2が、家族性パーキンソン病原因遺伝子(Park8)であることが明らかとなり、臨床的にも注目を集めている。しかしLRRK1及びLRRK2の生 理的機能に関してはほとんど明らかになっていなかった。申請者らはLRRK1が活性化したEGFRと複合体を形成し、キナーゼ活性依存的 にEGFR細胞内トラフィックを制御することを明らかにした。さらに最近、LRRK1が中心体においてPLK1-CDK1によってリン酸化・活性化され、 中心体機能に重要な役割を果たしていることを明らかにした。細胞周期間期の中心体は、一次繊毛(Primary cilia)の形成に重要なことが知られている。我々はLRRK1が、キナーゼ活性依存的にシリア形成を制御することを見出した。そこでLRRK1がどのように、シリアの形成・退縮を制御しているのか検討を行った。これまでの研究から、(1)LRRK1は間期の母中心小体で活性化し、ダイニン結合分子NDEL1をリン酸化すること、(2)LRRK1をノックダウンしたRPE1細胞ではシリアの退縮が阻害されることを明らかにした。また質量分析を用いた解析から、LRRK1によるNDEL1のリン酸化候補部位を複数同定することに成 功した。最近NDEL1がシリア退縮に重要であるとの報告がなされた。実際我々はLRRK1がNDEL1のリン酸化を介して、シリアの退縮を制御していることを明らかにした。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
28年度が最終年度であるため、記入しない。 -
LRRK1による中心体複製サイクル/シリア伸長制御機構の解析
研究課題/研究課題番号:25113512 2013年4月 - 2015年3月
新学術領域研究(研究領域提案型)
花房 洋
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:7020000円 ( 直接経費:5400000円 、 間接経費:1620000円 )
ROCOファミリーキナーゼLRRK1はRas様GTPaseドメインとMAPKKK様キナーゼドメインを持つ分子量240kDaの巨大な分子である。近年ファミリー分子LRRK2がパーキンソン病原因遺伝子(Park8)であることが明らかとなり、臨床的にも注目を集めている。しかしLRRK1及びLRRK2の生理的機能に関してはあまりよくわかっていない。
申請者らはLRRK1が活性化したEGFRと複合体を形成し、キナーゼ活性依存的にEGFR細胞内トラフィック(早期エンドソームから後期エンドソームへの移行)を制御することを明らかにした(Nat. Commun. 2011, MBC 2012, JCS 2015)。また最近、LRRK1は中心体に局在し、M期中心体で活性化し、中心体の微小管形成活性に重要なことを見出した。M期中心体はスピンドル微小管の極として染色体分離などに機能している事が知られている。一方、間期中心体はG1/G0期シリア形成に重要である。そこで、シリア形成におけるLRRK1の機能を解析したところ、RPE1細胞でLRRK1をノックダウンするとシリアがectopicに形成されることを明らかにした。シリアは細胞がG0期からS期に再進行する際、退縮(disassembly)する必要がある。我々はLRRK1をノックダウンした細胞では、シリアのdisassemblyが阻害され、G0期からS期への再進行がおこらずG0アレストすることを明らかにした。このようにLRRK1は、細胞周期においてM期及びG1/G0期中心体で重要な機能を果たしている事を明らかにした。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
26年度が最終年度であるため、記入しない。 -
人為的に極性化した細胞を用いた非対称分裂制御機構の解析
研究課題/研究課題番号:24657088 2012年4月 - 2014年3月
花房 洋
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:4160000円 ( 直接経費:3200000円 、 間接経費:960000円 )
非対称分裂は、幹細胞の増殖・分化を制御する重要な機構である。本研究では、本来極性のないHeLa細胞に細胞間接着分子Echinoidと極性分子とのキメラを発現させることで、人為的に極性を誘導し、非対称分裂に重要な因子の作用機構の解明を目指した。その結果、ROCOファミリーキナーゼLRRK1がM期スピンドル配向を制御することで、細胞の分裂軸決定に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
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LRRK1によるEGFRシグナルの時空間的制御機構の解析
研究課題/研究課題番号:23687030 2011年11月 - 2014年3月
花房 洋
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:11180000円 ( 直接経費:8600000円 、 間接経費:2580000円 )
過剰なEGFRシグナルは細胞の癌化につながる。我々はLRRK1が、EGFRの細胞内トラフィックを制御することで、EGFRシグナルを時空間的に制御していることを明らかにした。LRRK1は、(1)EGFRの早期エンドソームから後期エンドソームへの移行を制御すること、(2)ESCRT-0構成因子STAM1と結合し、EGFRのエンドソーム内腔への取り込みを制御すること、を明らかにした。またLRRK1は、CLIP-170をリン酸化することで、EGFRの輸送開始に重要なことも明らかにした。
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LRRK1によるEGFRリソソーム分解経路選別機構の解析
研究課題/研究課題番号:23113713 2011年4月 - 2013年3月
新学術領域研究(研究領域提案型)
花房 洋
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:6500000円 ( 直接経費:5000000円 、 間接経費:1500000円 )
ROCOファミリーキナーゼLRRK1はRasに似たGTPaseドメインとMAPKKKに似たキナーゼドメインを持つユニークな分子である。これまで我々は、LRRK1がキナーゼ活性依存的に、EGFRの細胞内トラフィックを制御することを明らかにしてきた。LRRK1はEGF刺激依存的にEGFRと複合体を形成し、EGFRの早期エンドソームから後期エンドソームへの移行を制御する。生細胞を用いたタイムラプス観察から、LRRK1によるEGFRの輸送制御は微小管上をDyneinモータータンパク質依存的に行われることを明らかにした。この輸送制御にはLRRK1のキナーゼ活性が重要な働きをしており、恒常的に活性化させたLRRK1を発現させると、EGFRの輸送が過剰に促進されることを見いだした。その結果、EGFRを含むエンドソームでは早期エンドソームから後期エンドソームへの成熟が異常となり、核付近に肥大化した未成熟でミックスされた小胞を形成する。さらに我々はLRRK1の基質として、微小管プラス端結合因子CLIP-170を同定した。質量分析によりLRRK1がリン酸化する部位を同定したところ、LRRK1はCLIP170のC末のアミノ酸を複数リン酸化し、CLIP-170とp150Gluedとの結合を制御していることが明らかとなった。LRRK1によるCLIP-170のリン酸化は、EGFRを含む早期エンドソームの微小管上輸送の開始に重要である可能性が考えられ、今後その分子メカニズムを解析していく予定である。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
24年度が最終年度であるため、記入しない。 -
ROCOファミリー分子LRRK1によるEGFR細胞内トラフィック制御機構の解析
研究課題/研究課題番号:21113509 2009年 - 2010年
新学術領域研究(研究領域提案型)
花房 洋
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:6240000円 ( 直接経費:4800000円 、 間接経費:1440000円 )
これまでROCOファミリーキナーゼLRRK1がEGFRの細胞内トラフィックを制御することを明らかにしてきた。LRRK1はEGF刺激依存的にEGFRと複合体を形成し、早期エンドソームに共局在する。ここでLRRK1はキナーゼ活性依存的にEGFRの早期エンドソームから後期エンドソームヘの移行を制御する。昨年度の研究から、LRRK1によるEGFRの輸送制御は微小管上をDyneinモータータンパク質依存的に行われることが明らかとなった。LRRK1はDynein結合分子NudCと結合し、NudCを介してDyneinと相互作用する。NudCをノックダウンした細胞ではLRRK1とDyneinとの結合が減少し、EGFRの微小管上の輸送も顕著に阻害される。さらにLRRK1によるEGFR細胞内トラフィック制御機構を検討したところ、LRRK1はEGFRのリソソーム分解経路選別に重要な複合体、ESCRT複合体と相互作用し、EGFRのエンドソーム内腔への陥入を制御していることを明らかにした。LRRK1はESCRT-0複合体構成因子の一つSTAM1と結合し、STAM1のポリユビキチン化を抑制することでEGFRとSTAM1との結合を促進していた。LRRK1はSTAM1のGATドメインと呼ばれる領域に結合し、STAM1のポリユビキチン化レベルを抑制することでSTAM1を活性型に構造変化させ、その結果、STAM1とEGFRとの結合を促進していた。われわれの研究から、(1)LRRK1がDyneinモータータンパク質を介したEGFRの輸送に機能していること、(2)LRRK1がEGFRとESCRT複合体をつなぐスキャホールドタンパク質として機能し、EGFRのリソソーム分解経路選別を制御していること、が明らかとなった。
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ERK活性化時間をモニターする細胞内分子メカニズムの解明
研究課題/研究課題番号:19770167 2007年 - 2008年
花房 洋
担当区分:研究代表者
配分額:3880000円 ( 直接経費:3400000円 、 間接経費:480000円 )
細胞は外部からのシグナルによって増殖/分化する。成長因子など細胞外からのシグナルは、細胞膜上の受容体によって認識され、細胞内シグナル伝達経路を介して核に伝達される。その結果、様々な遺伝子の発現を生じ、細胞は適切な応答を引き起こすことができる。主要なシグナル伝達経路のひとつにERK MAPキナーゼ経路が存在し、細胞応答に重要な役割を果たしていることが知られている。また、我々を含め最近の研究から、ERKの活性化のON/OFF のみならず活性化時間が細胞の応答に重要であることがわかってきた。我々はほ乳類培養細胞やアフリカツメガエル初期胚を用い、細胞がどのようにERK の活性化時間をモニターしているのか解析を行った。その結果、ネガティブフィードバック因子SproutyがERKの活性化時間をコントロールし、アフリカツメガエル初期胚中胚葉形成時、背腹軸形成に重要な役割を果たしていることを明らかにした。また初期胚において、転写因子XFosが自身の安定性をもとにERK の活性化時間をモニターしていることを明らかにした。XFosはERKによってリン酸化されると安定に存在し、アフリカツメガエル初期胚背側領域においてオーガナイザー遺伝子Chordinの発現に寄与していた。
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転写因子XGrhl3によるWntシグナル阻害メカニズムの解析と外胚葉分化
研究課題/研究課題番号:18055011 2006年 - 2007年
花房 洋
担当区分:研究代表者
配分額:7500000円 ( 直接経費:7500000円 )
Xenopus初期胚外胚葉において表皮組織は、神経組織と拮抗的に形成されることがしられている。われわれは外胚葉の分化を制御する因子としてXenopus Grainyhead like 3(XGrh13)を同定した。XGrh13はXenopus初期胚予定表皮領域に特異的に発現し、神経胚期には神経板の前方に発現がみられる。外胚葉が表皮と神経に分化する際、BMPシグナルは表皮組織誘導因子として働く。これに対し神経組織が誘導される領域では、ChordinなどBMPアンタゴニストが発現しBMPシグナルを阻害している。このように神経誘導にはBMPシグナルの阻害が必須であることが知られている。これまでの解析から、XGrh13はBMPシグナルの下流で機能し、表皮形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。さらに興味深いことに、XGrh13がWntシグナルを阻害する活性を持つことを見いだした。本研究課題において我々はXGrh13がどのようにWntシグナルを阻害するのか、その分子メカニズムの解明を試みた。その結果、XGrh13は転写活性化因子としてWntシグナルを阻害因子の発現を誘導し、Wntシグナル細胞内伝達因子beta-cateninのレベルでWntシグナル阻害することを明らかにした。さらにXGrh13によって誘導される阻害因子の同定を、cDNAマイクロアレイを用いておこなったところ、mRNA decayに関与する因子XTTPの同定に成功した。XTTPはmRNA結合能依存的にWntシグナルを阻害することがわかった。これらの結果から、XGrh13はWntシグナルをmRNAのレベルで抑制している可能性が考えられ、現在その解析を進めている。
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ERK活性化時間をモニターする細胞内分子メカニズムの解明
研究課題/研究課題番号:17770142 2005年 - 2006年
花房 洋
担当区分:研究代表者
配分額:3600000円 ( 直接経費:3600000円 )
アフリカツメガエル初期発生におけるRas/ERK MAPキナーセ経路とSproutyの重要性について検討した。その結果、Sproutyはアフリカツメガエル初期胚においてもERKの活性化時間を制御し、転写因子Fosの安定性を制御することで、中胚葉背腹軸形成に重要な役割をになっていることが明らかとなった。Xenopus Sprouty1及び2はアフリカツメガエル原腸胚期、中胚葉が形成される帯域に発現がみられる。またこの時期ERKの活性化はオーガナイザーが形成される帯域の背側領域(背側中胚葉)のみで強くみられる。我々は優性不能型Sproutyを用いた実験から、Sproutyが腹側中胚葉でERKの活性化を抑制し、背腹軸形成に寄与していることを明らかにした。さらにERKの活性化状態は、早期誘導因子Fosによってモニターされていることも明らかにした。FosはERKによってリン酸化されると安定化・活性化し、下流遺伝子の発現を誘導することが知られている。われわれはFos蛋白質の安定性が、中胚葉の背側と腹側で異なり、Fosの安定化依存的にChordinの発現が上昇することを明らかにした。つまり中胚葉形成時、Sproutyは腹側でERKの活性化を抑制し、Fos蛋白質は分解・不活性な状態におかれる。一方背側ではSbroutyは不活性な状態にあり、ERKの強く持続的な活性化が生じる。その結果Fosがリン酸化され安定化・活性化し、下流遺伝子Chordinの発現を誘導する。このようにERKの活性化時間とそれをモニターするFosが、細胞分化に重要な役割を果たすことを初めて個体レベルの系で明らかにした。
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上皮形成を司る転写因子XGRHによるWntシグナル阻害メカニズムの解明
研究課題/研究課題番号:17054016 2005年
花房 洋
担当区分:研究代表者
配分額:4600000円 ( 直接経費:4600000円 )
Xenopus初期胚において表皮組織は、神経組織と拮抗的に形成されることがしられている。われわれは外胚葉の分化を制御する因子としてXenopus Grainyhead like 3(XGrhl3)を同定した。XGrhl3はXenopus初期胚予定表皮領域に特異的に発現し、神経胚期には神経板の前方に発現がみられる。外胚葉が表皮と神経に分化する際、BMPシグナルは表皮組織誘導因子として働く。これに対し神経組織が誘導される領域では、ChordinなどBMPアンタゴニストが発現しBMPシグナルを阻害している。このように神経誘導にはBMPシグナルの阻害が必須であることが知られている。Xenopus初期胚における優勢不能型XGrhl3やXGrhl3-MOを用いた解析から、XGrhl3はBMPシグナルの下流で機能し、表皮形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。さらに興味深いことに、XGrhl3がWntシグナルを阻害する活性を持つことを見いだした。XGrhl3はWntシグナルによる二次軸形成を阻害する一方、内在性XGrhl3をKnockdownした胚では異所的なChordinの発現上昇が見られた。外胚葉予定神経領域におけるChordinの発現はWntシグナルに依存しており、XGrhl3はWntシグナルを阻害することでChordinの発現が予定表皮領域に広がることを防いでいると考えられる。Xenopus初期胚外胚葉は、表皮と神経という二つの組織に分化する。この過程にはBMPシグナルやWntシグナル、FGFシグナルなどいくつかのシグナルがクロストークしながら働いていると考えられる。表皮形成に重要なXGrhl3と、スクリーニングで同定された神経形成に関与する遺伝子群とを有機的に関運付けながら解析することで、神経形成過程のシグナルネットワークが明らかになることを期待している。
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周辺制御因子によるRas/MAPキナーゼ経路の時空間的活性化機構の解析
研究課題/研究課題番号:17014041 2005年
花房 洋
担当区分:研究代表者
配分額:5300000円 ( 直接経費:5300000円 )
Ras/MAPキナーゼ経路は活性化のon/offだけでなく、活性化される場所(細胞内局在)、活性化時間(一過的または持続的)もさまざまな因子によって制御されている。これらの制御が破綻すると、細胞は適切な応答能(増殖あるいは分化)を失いガン化する。われわれはネガティブフィードバック因子SproutyがERK MAPキナーゼの活性化時間を制御していることを明らかにしてきた。本研究ではさらにERKの活性化を制御する因子Rassf6(Ras association domain family 6)を同定し、その解析を進めた。Rassf6のファミリー分子Rassf1やRassf2がガン抑制遺伝子と考えられていることから、Rassf6もガン化メカニズムに関与する可能性が考えられた。培養細胞を用いた解析から、Rassf6はRas結合ドメインをもち、実際に活性型(GTP結合型)のH-Rasと結合することがわかった。Rassf6はFGF刺激によるERKの活性化を正に制御することが示され、Rasとの結合をとおしてこの経路の制御に重要な役割をはたすことが示唆された。またRassf6と相互作用する因子を酵母Two-hybrid法スクリーニングにより探索した結果、STE-20様キナーゼMST1が同定された。MST1はCaspaseによって活性化されアポトーシスに関与することが知られている。またこれまでの研究からRassf1がMST1と結合しアポトーシスを促進していることも報告されている。現在我々はRassf6がMST1とRasをリンクさせることで細胞ガン化、アポトーシスに重要な働きをしていないか検討しているところである。
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Xenopus初期胚におけるERK経路の活性化時間に応じた細胞運命決定機構の解析
研究課題/研究課題番号:16027222 2004年 - 2005年
花房 洋
担当区分:研究代表者
配分額:6000000円 ( 直接経費:6000000円 )
我々はアフリカツメガエルをモデル系に、中胚葉形成、神経組織形成におけるERK経路とそのネガティブフィードバックインヒビターSproutyの機能解析を行っている。アニマルキャップを用いた解析から、xSprouty2は、FGFによるERKの活性化を一過的にするのに対し、優勢不能型xSprouty2はERKの活性化をより持続的にした。原腸胚期にERKは背側領域で強く活性化していることが知られている。そこでSproutyが腹側領城でERKの活性化を抑制しているのではないかと考え、実験を行った。抗リン酸化ERK抗体を用いてウエスタンブロッティングしたところ、優勢不能型xSprouty2により、腹側でも背側同様強く持続的なERKの活性化が見られるようになった。このことは、原腸胚期Sproutyが腹側領域でERKの活性化を抑制していることを示唆している。またアニマルキャップをアクチビン(Nodalシグナルと同様の効果を持つ)で刺激すると、FGFの誘導を介したERKの活性化がみられる。この時、低濃度のアクチビンではERKの活性化は一過的なのに対し、高濃度のアクチビンではERKの活性化が持続的になることがわかった。さらに優勢不能型xSprouty2存在下で、低濃度のアクチビン刺激を行うと、ERKの活性化は持続的になることも明らかとなった。これらの結果は、Nodalシグナルの下流でSproutyが機能し、ERKの活性化状態の違いを作り出している可能性を示唆している。またXnr1 mRNAによる部分的な二次軸を、優勢不能型MEKが阻害するのに対し、野生型xSprouty2は阻害できなかったことや、ハイレベルなNodalシグナルによる腹側中胚葉の背側化を、野生型xSprouty2は抑制できなかったことから、SproutyはハイレベルなNodalシグナルの下流では阻害活性を持たないと考えている。今後は翻訳後修飾を中心に、背側(ハイレベルなNodalシグナル存在下)でSproutyが不活性な状態にあるのか検討していく予定である。
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アフリカツメガエルをモデル系とした体軸形成に重要な遺伝子群の網羅的解析
研究課題/研究課題番号:16011225 2004年
花房 洋
担当区分:研究代表者
配分額:5300000円 ( 直接経費:5300000円 )
アフリカツメガエル初期胚は背側決定因子beta-cateninの局在から体軸の形成が始まる。我々はbeta-cateninが直接誘導する遺伝子群を同定することで、体軸形成に重要な遺伝子の網羅的なスクリーニングを試みた。具体的には、8〜16細胞期のアフリカツメガエル初期胚の腹側帯域(ventral marginal zone)に野生型beta-catenin mRNA及び機能喪失型beta-catenin mRNAをそれぞれマイクロインジェクションし、zygoticな転写が始まってすぐのステージ(stage 8.5)までインキュベーションする。Stage 8.5胚に達した後、インジェクションした領域を切り出しtotal RNAを回収した。その後total RNAからcDNAプールを作製、プローブ化した後、サブトラクティブスクリーニングを行なった。予備段階の実験からbeta-cateninによって誘導される事が知られている既知の遺伝子Siamois、Chordinなどが単離され、スクリーニングがうまく機能していることが明かとなった。6000クローンのcDNAライブラリーをスクリーニングした結果、オーガナイザー形成に重要である事が知られている遺伝子がいくつか同定され、それとともに機能の明らかで無い遺伝子もいくつか同定できた。それらの中にはショウジョウバエの初期発生に重要であると考えられている転写因子なども含まれており、現在アフリカツメガエル初期胚を用いて機能を解析中である。これまでXenopusではゲノム解読が遅れていたせいもあり、網羅的にスクリーニングする手段(cDNAマイクロアレイなど)に制約があった。しかし最近cDNAマイクロアレイの利用が可能となり、アフィメトリクス社製GeneChipを用いた解析から約14400転写産物に対し網羅的にスクリーニングを行なった。その結果サブトラクティブスクリーニングで取りこぼしていた遺伝子が多数単離できた。現在これらの遺伝子に関しモルフォリノアンチセンスオリゴをもちいたknockdownアッセイを行なっている。
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Xenopusをモデル動物としたSproutyによるネガティブフィードバック機構
研究課題/研究課題番号:15770109 2003年 - 2004年
花房 洋
担当区分:研究代表者
配分額:3600000円 ( 直接経費:3600000円 )
我々はアフリカツメガエルXenopusをモデル動物に初期発生におけるシグナル伝達機構の解析を行なっている。これまで哺乳類培養細胞の系を用いた研究から、Ras/ERK経路のネガティブフィードバック制御因子SproutyがERKの活性化時間をコントロールしていることを明らかにしてきた。SproutyはRas/ERK経路を活性化する成長因子(FGFなど)によってチロシンリン酸化され活性化する。リン酸化したSproutyはGrb2と結合することでRas/ERK経路を負に制御していると考えられる。培養細胞で得られた知見(SproutyによるERKの活性化時間のコントロール)が、個体レベルでも存在するのかどうか、アフリカツメガエル初期胚を用いて検討した。まず初めにアフリカツメガエル初期胚においてSproutyがどのような領域で発現しているのか検討した。その結果Sproutyは原腸胚において中胚葉が形成される領域にERKの活性化領域と重複するように発現がみられた。このことはアフリカツメガエル初期胚においてもSproutyがERKの活性化を制御している可能性を示唆していた。次にアニマルキャップアッセイを用い、中胚葉遺伝子の発現に対するSproutyの効果を調べたところ、野生型Sproutyを発現させるとFGF刺激によるERKの活性化を一過的に抑制し、FGF刺激による背側中胚葉遺伝子Chordinの発現を抑制した。これに対し、優勢不能型Sproutyを発現させるとERKの活性化を持続的にし、Chordinの誘導を促進した。実際に初期胚においては、ERKの持続的な活性化はChordinの発現する背側中胚葉でのみ観察され、恐らくSproutyは腹側中胚葉でERKの活性化を負に制御していることが考えられる。さらにERK経路の重要性を検討する為、ERK2に対するmorpholino antisense oligoを作製し内在性のERK2をknockdownさせた。するとこれまで考えられてこなかった頭部構造の欠失という表現型が得られた。現在SproutyによるERKの活性化時問の制御と細胞の運命決定のメカニズムについてより詳細に検討している。
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Ras/MAPキナーゼ経路の阻害因子Sproutyの活性制御機構の解析
研究課題/研究課題番号:15024232 2003年
花房 洋
担当区分:研究代表者
配分額:4200000円 ( 直接経費:4200000円 )
Ras/MAPキナーゼ経路は細胞の分化/増殖に重要な役割を果たしており、この経路の過剰な活性化は細胞の癌化へとつながる。ネガティブフィードバック機構は、いったん活性化したRas/MAPキナーゼ経路をすみやかに不活性化し、細胞がホメオスタシスを維持するのに重要な役割を果たしている。我々はRas/MAPキナーゼ経路のネガティブフィードバックインヒビターSproutyが、ERK/MAキナーゼを不活性化する分子メカニズムを研究してきた。その過程でSprouty自身がチロシンリン酸化され阻害活性を持つ事を明らかにし、またこのリン酸化は時間依存的におこる事を見い出した。このことは、Sproutyを脱リン酸化するフォスファターゼが存在することを示唆する。Ras/MAPキナーゼ経路を制御するフォスファターゼを解析する過程で、SH2ドメインを持つチロシンフォスファターゼShp2が、Sproutyを直接脱リン酸化することを見い出した。さらにShp2はSproutyを脱リン酸化し、SproutyをGrb2/Sos複合体から解離させることでSproutyの阻害活性を負に制御していることも明かとなった。Shp2はこれまでの研究からフォスファターゼであるにも関わらず、Ras/MAPキナーゼ経路にポジティブに機能することが知られていた。今回我々の研究から、Shp2はSproutyの阻害活性に重要なチロシンリン酸化を脱リン酸化し、Sproutyによる負の制御を解除することでRas/MAPキナーゼ経路にたいしポジティブに働く事が示唆された。
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アフリカツメガエルをモデル系とした体軸形成に重要な遺伝子群の網羅的解析
研究課題/研究課題番号:15011221 2003年
花房 洋
担当区分:研究代表者
配分額:4600000円 ( 直接経費:4600000円 )
アフリカツメガエル初期胚は背側決定因子beta-cateninの局在から体軸の形成が始まる。我々はbeta-cateninが直接誘導する遺伝子群を同定することで、体軸形成に重要な遺伝子の網羅的なスクリーニングを試みた。具体的には、8〜16細胞期のアフリカツメガエル初期胚の腹側帯域(ventral marginal-zone)に野生型beta-catenin mRNA及び機能喪失型beta-catenin mRNAをそれぞれマイクロインジェクションし、zygoticな転写が始まってすぐのステージ(stage 8.5)までインキュベーションする。Stage8.5胚に達した後、インジェクションした領域を切り出しtotal RNAを回収した。その後total RNAからcDNAプールを作製、プローブ化した後、サブトラクティブスクリーニングを行なった。予備段階の実験からbeta-cateninによって誘導される事が知られている既知の遺伝子Siamois、Chordinなどが単離され、スクリーニングがうまく機能していることが明かとなった。6000クローンのcDNAライブラリーをスクリーニングした結果、オーガナイザー形成に重要である事が知られている遺伝子がいくつか同定され、それとともに機能の明らかで無い遺伝子もいくつか同定できた。それらの中にはショウジョウバエの初期発生に重要であると考えられている転写因子なども含まれており、現在アフリカツメガエル初期胚を用いて機能を解析中である。これまでXenopusではゲノム解読が遅れていたせいもあり、網羅的にスクリーニングする手段(cDNAマイクロアレイなど)に制約があった。しかし最近cDNAマイクロアレイに強い実績を持つアフィメトリクス社が一万以上のcDNAが搭載されたXenopus Gene Chipを商品化し、ようやく他の種同様網羅的な解析が簡便にできるようになった。現在、cDNAマイクロアレイを利用したより広範なスクリーニグを行なっているところである。