科研費 - 小林 義明
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研究課題/研究課題番号:19H01837 2019年4月 - 2023年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
伊藤 正行, 小林 義明, 清水 康弘, 松下 琢
担当区分:研究分担者
強い電子間相互作用を持つ強相関電子系などの量子物質は、新奇物性が現れる宝庫である。中でも、多軌道電子系を持つ遷移金属酸化物や化合物およびそれらの関連物質では、スピン軌道相互作用、軌道間相互作用および電子ホール相互作用が重要な役割を果たす新奇物性が見つかってきている。本研究では、私たちが開発を進めて来た先進的な核磁気共鳴法を駆使して、そのような量子物質の新奇物性の発現機構を解明することを目指した研究を行う。
本研究では、多軌道強相関電子系を持つ量子物質を主たる対象として、電子間相互作用、スピン軌道相互作用、電子ホール相互作用などが重要な役割を果たす量子物性について、その発現機構の解明を目指した研究を行っている。また、多軌道強相関電子系のみならず、関連する量子物性を発現する物質も積極的に取りあげている。本年度は、主に、以下の研究成果を得た。(1)励起子絶縁体候補物質Ta2NiSe5の不純物効果を調べた。励起子絶縁体の不純物効果の研究は、励起子凝縮を理解する上で有益な情報を与えることが期待できる。Ta2NiSe5にCoとVをドープした系のSe核の核磁気共鳴(NMR)実験を行った。NMRスペクトルと核スピン格子緩和率の測定から、励起子凝縮相のスピンギャップ温度に対する不純物効果などを調べた。Coは、励起子凝縮に対して、磁性不純物として働き、Vは非磁性不純物として働く可能性が大きいことが分かった。(2)ワイル半金属WTe2の局所磁化率を調べるために、Te核のNMR実験を行った。核スピン格子緩和率は、ワイルフェルミオンに特徴的な温度変化を示すこと、また、弱相関金属で現れる修正コリンハ則に従うことなどを見出した。(3)キタエフスピン液体の有力な候補物質として、α-RuCl3が知られており、その関連物質であるRuBr3とRuI3についても興味がもたれる。核四重極共鳴実験から、RuBr3は34Kで反強磁性秩序を起こし、RuI3はパウリ常磁性を示す結果を得た。(4)金属有機構造体の一つであるCu-CAT-1は、Cuイオンがカゴメ格子を形成する量子スピン系である。この系の磁気的な基底状態を解明するために、H核のNMR、磁化率、比熱の測定を超低温度域まで行った。磁場温度相図を決定し、量子スピン液体相と量子臨界相が存在することを見出した。
本年度の当初計画にあげた不純物をドープした励起子絶縁体や金属有機構造体で形成されたハニカム格子量子スピン系などの量子物質の研究はおおむね順調に進んだ。また、関連する量子物質の研究も行われ、本研究課題で目指している新奇物性の発現機構の理解が進んだ。得られた研究結果を日本物理学会や原著論文などで発表した。このように、研究はおおむね順調に進展している。
本研究課題を実施する上で、研究代表者と研究分担者の役割分担は上手く機能している。また、研究課題の選択についても、広範囲の物質をターゲットに新奇な量子物性を探索して成果を出している。現状の推進方策は有効であり、今後もこの方策を維持しながら本研究課題を遂行する予定である。しかし、本年度は、研究代表者が定年退職した一年目であり、研究分担者との連携が若干疎になる傾向があった。今後、連携体制を一層密にしながら、本研究を推進する。 -
多軌道電子系における遍歴と局在の狭間に現れる新奇量子相の探究
研究課題/研究課題番号:16H04012 2016年4月 - 2019年3月
伊藤 正行
担当区分:研究分担者
遍歴と局在の狭間の多軌道強相関d電子系は、多軌道効果によって新奇な量子物性を発現する。本研究では、私たちが開発を進めて来た軌道分解核磁気共鳴(NMR)法などのNMR法を駆使して、遍歴と局在の狭間で現れる多軌道電子系の新奇量子相の物性発現機構の解明を目的とする研究を行った。その結果、新規超伝導体の電子相図、一次元導体導体の電荷秩序、スピン・クロスオーバー物質の電子状態、鉄系超伝導体の軌道ネマティック揺らぎと秩序、スピン軌道相互作用が重要な軌道縮退系における隠れた秩序、キタエフ・スピン液体候補物質の磁気励起、励起子絶縁体候補物質の高圧物性などについて重要な知見が得られた。
固体物理学の分野では、物性開拓と物質探索が分野の発展を牽引してきた。その中で、新奇物性の発現機構を解明することが、新たな発展には重要である。本研究では、新奇物性が数多く現れる物質群である多軌道強相関電子系を対象にし、従来理解されていなかった物性発現機構に対して光をあてることができた。本研究で得られた成果は、この分野の進展に寄与するとともに、将来、応用分野の基礎研究としても生かさられる可能性を持っている。 -
鉄系超伝導体における局所軌道状態の観測と電子物性への役割の解明
研究課題/研究課題番号:15K05167 2015年4月 - 2018年3月
小林 義明
担当区分:研究代表者
配分額:4810000円 ( 直接経費:3700000円 、 間接経費:1110000円 )
鉄系超伝導体Ba(Fe1-xCox)2As2、NaFeAs、LiFeAsに対して、75As核の核磁気共鳴NMRより、ネマチックゆらぎを調べた。As核の電場勾配のFe面内異方性etaの温度変化やx依存性から、ラマン散乱から得られる電気ネマチックゆらぎをモニターできることがわかった。キュリーワイス的温度変化を示すetaのワイス温度T_etaは、ゼロでないネマチック秩序をもつx<0.05の時、おおよそ~Ts-50 (K)の値を取る。T_etaは、ラマン散乱の結果と同様にCo濃度x ~0.055で、x>0.055では、Tetaは負を取り、反強的な軌道ゆらぎや秩序が存在すること示すことがわかった。
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複合自由度が競合・協調した多軌道強相関電子系における新奇な軌道物性の探究
研究課題/研究課題番号:24340080 2012年4月 - 2015年3月
伊藤 正行
担当区分:研究分担者
電子間に強いクーロン相互作用が働く強相関3d電子系では、3d電子が持つ軌道の自由度とスピン、電荷、格子の自由度が競合あるいは協調して新奇な軌道物性が現れる。本研究では、遍歴と局在の狭間の3d金属絶縁体転移近傍に位置する多軌道系で発現するそのような物性の発現機構の解明を目指した。具体的には、遷移金属酸化物・化合物を対象に、重い電子系、軌道秩序、フラストレーション、鉄系超伝導などの物理を明らかにした。
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励起子絶縁体の検証と探索
研究課題/研究課題番号:16K13835 2016年4月 - 2018年3月
伊藤 正行
担当区分:研究分担者
励起子絶縁体とは、励起子凝縮による新奇な絶縁体である。本研究では、励起子絶縁体転移に伴う励起子凝縮を検証することを目的に、核磁気共鳴法を用いた実験的研究を行った。その結果、有力な励起子絶縁体候補物質であるTa2NiSe5に対して、励起子凝縮に起因すると考えられる特徴的なSe核の核スピン格子緩和率と局所帯磁率の温度変化を観測した。この結果は、核磁気共鳴法が、励起子凝縮を研究する上で有効なプローブであることを示している。
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コバルト酸化物の超伝導相を分断する非超伝導相の起源
研究課題/研究課題番号:20540354 2008年 - 2010年
小林 義明
担当区分:研究代表者
配分額:4550000円 ( 直接経費:3500000円 、 間接経費:1050000円 )
層状コバルト酸化物の超伝導はc軸長や、コバルトサイトの核電気四重極共鳴周波数v_Qをパラメーターとした相図上に現れ、特定のv_Q(c軸長)の狭い領域に存在する非超伝導相により、その超伝導相は2つに分断される。測定した様々な物理量全ての振舞いは、この非超伝導相が磁気秩序相でなく電荷不均一相であることで矛盾なく説明できる。c軸長(v_Q値)が増大するにつれて、超伝導相、非超伝導相、超伝導相が次々を現れる様を、これまで観測されているa_<1g>バンド以外に、e_g'バンドもフェルミ面を構成するとして、説明しようという理論が提出されたが、フェルミ面の変化に敏感である電子比熱、NMRナイトシフトや中性子散乱実験の結果から、これが起こっていないことがわかった。この系の超伝導は電子フォノン相互作用を主たる機構した電子対形成で理解できること、電荷不均一相への転移でフェルミエネルギーレベルの状態密度が減少し、これにより超伝導が強く抑制されることが明瞭となった。
さらにこの系との比較研究としてCo以外の遷移金属をベースとした超伝導体である、鉄とヒ素化合物の研究を行った。これはコバルト酸化物と比べ、T_cが1桁高く、様々な物理量の相違点からコバルト酸化物の超伝導の特徴がより明瞭となると考えられる。鉄系でのT_cへの不純物効果は、コバルト酸化物と同様に、とても弱く、どちらも磁気ゆらぎによる超伝導形成とは考えづらい。よって、鉄ヒ素系がコバルト酸化物の超伝導と比較すべき格好の系であることがわかった。 -
スピン1/2パイロクロア格子化合物の磁気フラストレーション
研究課題/研究課題番号:18540346 2006年 - 2007年
安井 幸夫
担当区分:研究分担者
磁気的にフラストレートした3次元量子スピン系の基底状態がどのようなものか、また、低温での磁気的振舞いがどのようなものかは、理論・実験のどの面からも未だ手が届いていない基本的な問題である。申請者らが取り上げたHg_2Cu_2F_6SはCu^<2+>の量子スピン(1/2スピン)が頂点共有した正四面体の3次元ネットワーク(パイロクロア格子)を形成し、また、そのスピン間に反強磁性的な相互作用(磁化率から見積もったワイス温度θw〜150K)が働いていることから、この問題に対する初のモデル物質と考えられた。磁化率と比熱の測定や粉末中性子回折実験を行った結果、2Kまでは磁気相転移が見られないことがわかり、低温まで磁気フラストレーションが残っていると考えられる。磁気的挙動を詳しく知るために19F-NMR測定を行った。ナイトシフトは十分高温から100K付近まではキュリーワイス的な振舞を示すが、80K付近でブロードなピークをもち、それより低温では降温とともに急激に減少する振舞を示した。ただし、30K以下の温度域ではスペクトル幅に急激な増大が見られ、絶対零度に向かってナイトシフト(スピン磁化率)がゼロに向かっているのかどうかの判断はつかなかった。核スピン-格子緩和率1/T1の温度依存性の測定結果とCanalsらの理論的提案を考えあわせて磁気相関長を見積もったところ、降温とともに磁気相関長は少しずつ成長していくものの、十分低温においてもCuの原子間距離程度しか磁気相関長が成長しないことがわかった。これらの結果は磁気フラストレートレーションを持つスピン系の特徴と考えられ非常に興味深い。低温域で見られるNMRスペクトル幅の増大は格子欠陥等による乱れの影響と考えられ、低温でのintrinsicな磁気的挙動を知るには、さらなる純良試料の作成が重要である。ただし、わずかな乱れによりスピン系が大きく影響を受けてしまうのは磁気フラストレーション系の特徴であるとも考えられ、この影響を取り除くのは容易ではないと思われる。
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二次元コバルト酸化物の超伝導相近傍にある金属-絶縁体転移
研究課題/研究課題番号:17540323 2005年 - 2006年
小林 義明
担当区分:研究代表者
配分額:3300000円 ( 直接経費:3300000円 )
1.(1)水和コバルト酸化物Na_xCoO_2・yH_2Oの超伝導状態におけるスピン磁化率の異方性に関して確固たるデータを提供した。(2)Na_xCoO_2・yH_2Oにおいて温度Tとコバルト核電気四重極共鳴周波数v_Qによる相図を完成させ、相図中の超伝導相に隣接する非超伝導相の性質を明らかにした。2.超伝導体の母物質Na_xCoO_2(x=0.3〜0.7)においてその磁気特性を明らかにした。これらはコバルト酸化物の超伝導電子対形成の議論に関わる極めて重要なデータとなっている。
1.Na_xCoO_2・yH_2Oの単結晶試料を用いて、超伝導状態におけるCo核NMRナイトシフトの測定を行った。CoO_2面に対して磁場を平行、垂直の両方向において曖昧さのないデータを得て、超伝導電子対がスピンシングレット状態にあることを明らかにした。また超伝導体の超伝導転移温度T_cはCo核電気四重極共鳴周波数v_Qに対して系統的な依存性を示し、T-v_Q相図上で超伝導相はv_Q=4.02から4.32MHzの広い範囲にあり、これを二つに分けるように4.20MHz近傍で非超伝導相が存在することがわかった。この非超伝導相が電荷秩序相であることを実験的に明らかにし、この電荷秩序相近傍のv_Q領域でT_cは高くなることから、超伝導が磁気秩序相近くで発生している可能性を否定した。
2.Na_xCoO_2でx=0.5は87K(T_<cl>)と53K(T_<c2>)で相転移を示す。Co-NMR、中性子散乱実験からT_<cl>より低温の反強磁性相の特異な磁気構造を決定した。金属-絶縁体転移であるT_<cl>でCo核磁気緩和率1/T_1がピークを形成することから、T_<cl>で磁気秩序状態に変化があると考えられる。そこで磁気モーメントに大きな変化が見えないことを結論付けた。また、様々なxをもつNa_xCoO_2に対するCo核1/T_<cl>や磁化率の温度変化からx<0.6領域の磁性は炉0.5と同様であることがわかった。 -
コバルト酸化物の電子状態制御と新規超伝導研究
研究課題/研究課題番号:16204025 2004年 - 2007年
佐藤 正俊
担当区分:研究分担者
強相関電子系の開拓的研究を、銅酸化物超伝導体研究で累積された知識をガイドラインにして、物質の作成・評価から、巨視的物性量の測定、さらには中性子散乱や核磁気共鳴(NMR)等の微視的手法を適用して進めた。数多くの物質の開発を旨としたが、微視的研究に至ったものの多くについては単結晶試料を作成し手実験に用い、信頼性の高いデータを発表することが出来た。成果が得られた主な課題は、(1)高温超伝導体に残っていた問題のほか、(2)Na_xCoO_2yH_2O(y〜1.3)の超伝導機構、(3)nontrivialな磁気構造を持つ系の特異な異常ホール効果、(4)パイロクロア型化合物Hg_2Cu_2F_6Sが有する量子スピン系のスピン液体状態、(5)Co酸化物のスピン状態制御、(6)擬ハニカム格子系のスピンギャップ現象や新型相転移、(7)一次元量子スピン系で初めてのmultiferroic物質(磁気転移と強誘電転移が同時に生じる物質)LiVCuO_4の発見と類似系の研究、等々があるが、多くの場合、物質開拓と新規物性現象の発見が表裏一体となっている。さらに具体的に例示すれば、(2)に関して、Coの三角格子が示す超伝導が、singlet Cooper対を持つことを示し多くの主張をくつがえしたこと、転移温度T_c-ν_Qの相図(ν_Q:NMR四重極周波数)を完成したこと、中性子磁気非弾性散乱によって磁気特性を理解するキー情報を得たこと、(3)に関して、長い間未解決の問題であった異常ホール効果の発現機構にスピンカイラリティがどう関与しているか、Nd_2Mo_2O_7やスピングラス系を用いて精密で本質的情報を提供したこと、(7)スピンs=1/2multiferroic系LiVCuO_4の発見をもとにした一連の研究で、その微視的研究の一方の糸口を開いたこと、などである。
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ペロブスカイト型コバルト酸化物の圧力誘起金属・絶緑体転移
研究課題/研究課題番号:15540336 2003年 - 2004年
小林 義明
担当区分:研究代表者
配分額:3700000円 ( 直接経費:3700000円 )
CoO_6八面体で構成された様々なコバルト酸化物では強磁性、反強磁性、超伝導が現れる。それらの電子状態の研究を通してCoの電子状態の制御の手法を探ることが大きなテーマである。(1)ペロブスカイト型コバルト酸化物Pr_<1-x>Ca_xCoO_3における圧力誘起金属-絶縁体転移のメカニズムを調べる研究を行った。(2)CoとO(酸素)の2次元三角格子を持つ超伝導体Na_xCoO_<2-y>H_2Oの超伝導電子対の対称性に関する研究を行った。
(1)(Pr_<1-y>R_y)_<1-x>Ca_xCoO_3(R=希土類元素,Y)に対して常圧、圧力下両方で構造解析と磁気輸送特性を調べ、金属-絶縁体転移の主な原因がCoO_6八面体の傾き角の増大によるCo間transfer energyの減少であることを明らかにした。R=Smの系ではyを1に(あるいはxを0)近づけると、金属-絶縁体の相転移がクロスオーバー的になり、これはスピンS=1状態にあるCoイオンの数の減少と関連付けられることを示した。
(2)Co核のナイトシフトKは超伝導転移温度T_cを挟んで降温時にT_c以下で減少するが、その温度変化から超伝導電子対がsinglet状態(s, d, g, i等の対称性をもつ状態)にあることがわかった。T_cへの不純物効果はs波の等方的超伝導の可能性を示唆するが、Co核磁気緩和率の温度変化にT_c直下でコヒーレンスピークが見られないことは非s波の異方的超伝導の可能性を示し、2つが矛盾しているように見える。しかし超伝導状態で準粒子の寿命を考慮すると、等方的超伝導体としてCo核磁気緩和率の温度変化も説明されることがわかり、この系の超伝導対称性がs波である可能性が強い。また、超伝導体の母物質、Na_xCoO_2の研究からxが0.6より小さい領域ではCo間に2次元反強磁性的磁気相関をもつことがわかった。これは水和物の超伝導状態がsinglet対であることを支持する。 -
フラストレーションとスピンカイラリティがもたらす強相関電子系の異常物性
研究課題/研究課題番号:14340103 2002年 - 2003年
佐藤 正俊
担当区分:研究分担者
幾何学的にフラストレートした系の物性を研究した。第一には、磁気構造がnon-trivialな強磁性体でしばしば見られるホール抵抗pHの特異な振舞いと、スピンカイラリティX(3個のスピンS_1,S_2,S_3を用いてX≡S_1・(S_2×S_3)と定義される)の秩序との関連、パイロクロア型酸化物等が持つフラストレートしたスピン系の基底状態の問題、等である。第二は、2次元三角格子のCoO_2面を持つ新超伝導体Na_xCoO_2・yH_2Oの超伝導対称性に関する核磁気共鳴(NMR)を中心にした研究である。第一の問題については、Nd_2Mo_2O_7ついて、そのpHの振舞いがカイラリティのモデルでは説明されえないことを明瞭にし、さらに、スピネル系のホール抵抗の振舞いを理解するための中性子散乱実験を進めた。また、スピングラス相や、温度の下降とともに強磁性相から移行するリエントラントスピングラス相において、MとXとの結合で誘起される一様カイラリティのpHの寄与の存在を示した。パイロクロア系の基底状態については、スピン系のanisotropyと基底状態の関係があきらかになった。
第二の問題では、Coの持つ磁気フラストレーションが超伝導の発現に対して、銅酸化物の場合と同様、重要な意味を持つのか、Coのスピン状態変化(軌道励起)が寄与するか等、特異な超伝導の可能性を確かめるため、NMRナイトシフト、核磁気縦緩和率、超伝導転移温度へのCoサイト不純物ドーピング効果を調べた。その結果、この超伝導がsingletのクーパー対を持つこと、さらには、核磁気縦緩和率のいわゆるコヒーレンスピークがないか、もしくは極めて小さい事、等がわかった。これは、偶パリティの特異な(異方的)超伝導の可能性を示唆するが、転移温度T_cへの不純物効果は依然s-波の等方的超伝導の可能性をも示唆している。