科研費 - 増渕 雄一
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研究課題/研究課題番号:23K25839 2024年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
畝山 多加志, 増渕 雄一, 石田 崇人
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
高分子材料の物性の研究は数多く行われているものの、その多くは成形性や発現する物性を制御しより良い材料を作ることを目的としている。 しかし、作成した高分子材料は長い時間をかけて少しずつ変形していく。本研究では高分子材料がどのように変形していくのか、それはどのような物理に支配されているのかを明らかにすることを目的とする。 高分子の収縮挙動の測定等の各種実験手法と分子シミュレーション計算を組み合わせて高分子材料の収縮の物理的機構を調べ、扱いやすく物理的意味のとらえやすい粗視化理論モデルを構築する。
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研究課題/研究課題番号:23K17940 2023年6月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
増渕 雄一, 畝山 多加志, 土肥 侑也, 石田 崇人
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:6240000円 ( 直接経費:4800000円 、 間接経費:1440000円 )
「大きな具材を含む流体のレオロジー」と題する本研究の目的は,直径数ミリ以上の固体を含む液体の流動物性(レオロジー)を簡易に定量評価する手法を開発し,この分野の科学を新たに開拓することにある.我々の生活には,カレーやシチューのような食品,洗濯物が入った水,下水や土石流のように大きな固体を含有して流れる液体が多く存在する.ところが既存の測定法では定量的な流動評価が困難である.我々は画像解析とAIを組み合わせて,このような流体を定量評価する手法の開発を目論んでいる.
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研究課題/研究課題番号:22H01189 2022年4月 - 2025年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
増渕 雄一, 畝山 多加志, 土肥 侑也
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:17290000円 ( 直接経費:13300000円 、 間接経費:3990000円 )
本研究「からみあい高分子系の汎用高速計算法」は多様なからみあい高分子系の動力学を高効率に予測解析するための手法開発を目的とする.高分子材料の高機能/高性能化と有効利用には,成形加工下の流動変形と熱運動による分子形態変化で生じる非平衡状態の予測が必要である.既存の手法は,分子動力学法のように計算コストが高い,または計算対象が極めて限定されているかである.本研究では,申請者らが独自に開発した多体スリップスプリング(MCSS)モデルに基づく,新規の計算法を提案する.従来法では対応が困難なブレンド/共重合/長鎖分岐系を計算できるようにする.
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研究課題/研究課題番号:23H01142 2023年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
畝山 多加志, 土肥 侑也, 増渕 雄一, 石田 崇人
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
高分子材料の物性の研究は数多く行われているものの、その多くは成形性や発現する物性を制御しより良い材料を作ることを目的としている。しかし、作成した高分子材料は長い時間をかけて少しずつ変形していく。本研究では高分子材料がどのように変形していくのか、それはどのような物理に支配されているのかを明らかにすることを目的とする。
高分子の収縮挙動の測定等の各種実験手法と分子シミュレーション計算を組み合わせて高分子材料の収縮の物理的機構を調べ、扱いやすく物理的意味のとらえやすい粗視化理論モデルを構築する。 -
ガラス転移温度以下の温度における高分子ガラスの緩和挙動
研究課題/研究課題番号:19H01861 2019年4月 - 2024年3月
畝山 多加志
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
ポリスチレンのような非晶性高分子は高温では流動性を示すが、冷却固化されると流動性を持たない状態(ガラス状態)になる。本研究では、このようなガラス状態中における高分子のダイナミクスをさまざまな手法を組み合わせて調べ、ガラス状態で高分子がどのように運動しているのか、どのように記述すればよいのかを明らかとする。実験的に粘弾性測定、誘電緩和測定、赤外分光測定等の複数の異なる手法を組み合わせることで分子レベルのダイナミクスを調べる。また、得られた実験結果を分子シミュレーションや理論モデル等と比較することでダイナミクスを詳細に調べる。
今年度は理論的にガラス状態の運動を記述するためのモデルの開発と分子シミュレーションによる過冷却状態のモデル系の運動の解析を中心に研究を行なった。過冷却やガラス状態においては分子運動が不均一になる、いわゆる動的不均一性の効果が強く発現することが各種研究において報告されている。動的不均一性は過冷却やガラス状態において重要なものであり、ガラス状態の緩和現象やレオロジーの理解のためには動的不均一性のモデル化は有用である。我々はこれまで現象論的に提唱されていた過渡ポテンシャルを持つ Langevin 方程式 (LETP) に対して、ミクロな運動方程式からのモデル導出を行なった。この研究結果により、動的不均一性を LETP を用いて簡易的に記述することが可能となった。
また、理論やシミュレーションと合わせて、モデル高分子ガラスであるポリスチレンの実験的な測定を行い、いくらか予備的なデータを得た。ガラス転移温度より低温の状態を含む温度範囲にて、同一のポリスチレン試料の線形粘弾性と赤外吸収スペクトルを測定して比較した。線形粘弾性から分子の協同的な運動がどのような温度依存性を示すか、赤外吸収から分子の局所的な官能基の運動がどのような温度依存性を示すかを調べた。当初の予想通り両者は一致しなかった。赤外分光では複数の官能基の運動の情報を得ることができるが、温度依存性は官能基や運動モードによってそれぞれ異なっていることがわかった。今後詳細な測定と解析を行なうことで高分子ガラスの運動について有用な知見が得られそうであることがわかった。
理論モデリング、シミュレーションについては当初の想定よりも順調に進行していると言える。特に、過渡ポテンシャルの理論 (LETP) を定式化できたことは今後の研究だけでなく関連する周辺分野の研究にも波及効果を与えるものと期待できる。一方、実験については赤外分光測定や線形粘弾性測定である程度のデータを得ることに成功しているものの、まだ測定データの品質に問題がある。また、誘電緩和測定については測定の途中である。実験装置やサンプルの調整を行い、今後高品質なデータを定常的に取得できるようにする必要がある。
理論やシミュレーションについては今後より高度・発展的なモデリングを行なうとともに、実際の実験系と比較可能なモデル高分子ガラス系のシミュレーション等を行なっていく予定である。過渡ポテンシャルの理論はある程度の成功を収めているものの、まだ改良の余地や発展の余地が見られる。過冷却・ガラス系以外への適用も視野に入れつつ研究を進めていく。
実験については今年度は現有する高精度なレオメータに固体状態の試料を測定するためのオプションを設置する等して、高精度な測定が行なえるようにすることを予定している。合わせて、昨年度導入した赤外分光や誘電緩和測定装置の整備、サンプルの調整方法の改善等を試みる。 -
研究課題/研究課題番号:18H04483 2018年4月 - 2020年3月
科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
増渕 雄一
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:23140000円 ( 直接経費:17800000円 、 間接経費:5340000円 )
本研究では,高分子のからみあい現象を階層的に解析し,ミクロな数理を理解することを目的とした.高分子の「からみあい」と,分子間の幾何的相互作用の関係は,元来全く別の概念である.高分子のからみあい現象はレオロジーなどマクロな物性から定義され,その記述には半現象論的な分子モデルが用いられてきた.しかし,ミクロな幾何的相互作用との関係は不明である.一方,分子シミュレーション技術の発展により,ミクロな幾何的相互作用に関する研究も行われているが,マクロな物性との関係は不明である.
本研究では,応募者独自の数理モデル群を用いて,粘弾性実験により実材料との整合性を担保しつつ,ミクロな分子間の幾何的構造/相互作用とマクロな高分子のからみあい現象との間を階層的に接続することを目論んだ.これによりマクロなからみあい現象のミクロな本質を明らかにすることを目指した.
本年度は,昨年度に確立された多体モデル間の普遍性に基づき,計画通りにポリイソプレンへの適用を試行し,適用可能であることを確認した.理論面では,本研究で検討している多体モデルの一つであるMCSSモデルにおいて,モデル自体がもつ多階層性をシミュレーションで確認した.いずれも本研究で構築している理論の自己整合性を補強する結果である.
からみあいの本質を解析する方向性においても,領域内の数学研究者からのコメントを得て,いくつかのトライを行った.例えばパーシステントホモロジーによる解析を試みたところ,複数の異なるモデルが似通ったパーシステントダイヤグラムを示すことがわかった.しかし従来からわかっていた分子形状の統計分布解析以上の結果は得られず,この方向では十分な進展が得られなかった.
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。 -
研究課題/研究課題番号:17H01152 2017年4月 - 2020年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(A)
増渕 雄一, 畝山 多加志, 山本 哲也, 天本 義史
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:45630000円 ( 直接経費:35100000円 、 間接経費:10530000円 )
高分子と固体粒子を混合したコンポジット材料は利用が進んでいるが,成形加工等で重要なダイナミクスに関する理解は進んでおらず,従来の分子シミュレーションでも扱いが困難である.
本研究では高分子に固体粒子を含む系の長時間ダイナミクスを扱える新たな分子シミュレーション法および分子理論の開発を目指した.申請者が独自に開発している高分子液体のモデルである多体スリップスプリングモデルを拡張し,従来のいわゆる粗視化分子動力学法に対して数百倍の高速計算ができる手法を開発した.シミュレーションで得られる知見を利用して管模型を拡張した分子理論も構築を目論んだ. 検証のためのレオロジー計測実験も行った.
高分子に微細な固体粒子を含む,高分子ナノコンポジットのダイナミクスを計算するシミュレーション手法が開発できた.この手法により同系の粘度などのマクロな流動物性の解析が可能であり,また流動中に起きる構造変化も観察できる.このような計算は従来の手法では実用的に困難である,本手法が工学的な材料開発に応用されれば,様々な機能性材料の開発や加工条件の検討に役立つものと考えられる. -
自由界面のトリガー効果に基づく高分子膜の増幅的変換プロセスの創出
研究課題/研究課題番号:16H06355 2016年5月 - 2021年3月
関 隆広
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
加熱あるいは光照射により、そこを起点として大きな物質移動が誘起されることを3年前に見出し、その現象の理解を進める努力を進めてきた。この物質移動現象は膜の軟化によって誘発されるマランゴニ流であると解釈している。従って、光に応答しない液晶高分子膜であっても高分子膜の表面だけに光活性層を設ければ、光誘起物質移動が誘起されるものと考え、その方向のアプローチを進めた。光不活性な液晶高分子膜の表面にLangmuir-Schaefer法または加熱表面偏析によって分子レベルの薄膜を設け、光のパターン露光を行った。その結果、効率的な物質移動が誘起されることがわかった。一方、光応答液晶高分子膜の最表面に長鎖アルキルの高分子膜の分子レベルの薄膜を設けると光物質移動は著しく阻害された。このことから、最表面のみの表面張力勾配設ければ物質移動の実現が可能であることが分かり、マランゴニ効果が少なくとも液晶系材料の光物質移動メカニズムの主たる駆動となっていることが分かった。当グループでは20年に渡り効率的なアゾベンゼン液晶高分子膜のパターン露光による物質移動の研究を進めてきたが、ここで新解釈を行うに至った。自由界面の重要性が証明され、これをまとめた論文を既に投稿した。また、この物質の動きを説明するための適切な物質移動の物理モデルの創出に努めている。
側鎖型液晶高分子がアモルファス子分子膜の自由界面上で高密度ブラシを形成する現象を見出しているが、今年度はその挙動を脱濡れ現象と関連付けて観測することを試みた。液晶高分子の相転移温度の重要性が示唆された。また、平面の膜状態だけでなく種々の賦形高分子材料膜への展開も図った。
インクジェット描画を通じて、光照射でマランゴニ効果で表面加工を行う新たな手法を提出したが、この現象の発見により、光に応答しない高分子膜の表面だけに数ナノメータ―厚の光反応層を自由界面に設けるだけで、パターン露光により効率的な光物質移動が誘起されることを新たに見出した。これは、表面張力が物質移動現象に極めて重要な役割を果たしていることを示している。光誘起物質移動現象は、25年もの間世界中で活発に研究されているものの、マランゴニ効果が極めて重要である証明となる。この成果は、当初の計画にはないものであるが、当該分野において極めてインパクトの高い成果である。
液晶高分子膜における自由界面の役割はこれまで、あまり着目されてこなかった。しかしながら本研究を通じて、本研究組織以外からもその重要性を意識した研究が多く報告されるようになってきた。あらたな学術の形成に向けて、影響力のある仕事を発信してきたと考えている。
最終年度は、現在進めている、高分子膜の表面層だけによる光物質移動の研究と、分子混合による高次スメクチック層の発現も総括する。一方、当初の計画にあった液晶物質のフロンティア重合については、化合物の設計上の障壁があって研究が進みにくかったが、使用する物質を変えるなどして改善を図っており、その実現に注力する。 -
研究課題/研究課題番号:26288059 2014年4月 - 2017年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
増渕 雄一, 山本 哲也, 松宮 由実, 渡辺 宏
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:16640000円 ( 直接経費:12800000円 、 間接経費:3840000円 )
高分子液体は工学的な利用条件下では高速な流動下にあり,そこでの挙動を分子論的に理解することが重要である.本研究は高速流動状態で現れる,配向/伸長状態における高分子の分子摩擦を調べることを目的とした.従来の分子理論では,流動下でも高分子の摩擦は平衡状態と同じと考えられてきたが,種々の高分子に対する流動実験や分子動力学計算によって高分子の摩擦の性質を調べたところ,分子の配向と伸長の程度によって分子摩擦が変化することがわかった.結果に基づいて汎用の粗視化モデルを構築し,高速流動下での高分子のダイナミクスとレオロジーを予測することに成功した.
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高分子ブレンド中の鎖ダイナミクスと相成長の非線形フィードバック
研究課題/研究課題番号:24245045 2012年4月 - 2015年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(A)
渡辺 宏, 増渕 雄一, 松宮 由実
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
高分子ブレンド中の相構造成長過程と成分高分子の絡み合いダイナミクスのカップリング効果の基礎的理解のために,均質絡み合い系中の緩和過程を詳細に検討した。その結果,周囲の鎖の運動で誘起される管膨張緩和過程においては,鎖骨格と直角・平行の2方向の特徴的長さが,それぞれ,応力緩和のレベルと緩和時間を決定することなどを見出した。また,局所緩和の解析も行い,遅い成分が速い成分の局所 Rouse 緩和をトポロジカルに遅延することなどを見出した。これらの新規な知見に基づいて,高分子ブレンド系の絡み合いダイナミクスと相構造成長の間の非線形カップリング効果の記述を試みた。
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研究課題/研究課題番号:23350113 2011年4月 - 2014年3月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
増渕 雄一, 渡辺 宏, 松宮 由実, 畝山 多加志
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:20020000円 ( 直接経費:15400000円 、 間接経費:4620000円 )
本研究は流動下での高分子の緩和を明らかにすることを目的とした.ポリイソプレンに対する流動下での粘弾性緩和/誘電緩和実験では,均一なせん断流動場の元で誘電緩和が加速されないことを示した.この結果を説明するため異方性で流動速度に依存して低下する摩擦を考えた.この摩擦の低下は伸長流動後の応力緩和から確認され,また摩擦を考慮した分子モデルは高速流動下での粘弾性をよく説明した.
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ブロック共重合体ダイナミクスに対する熱力学的拘束と空間的拘束の効果
研究課題/研究課題番号:21350063 2009年 - 2011年
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
渡辺 宏, 増渕 雄一, 松宮 由実, 畝山 多加志
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
ポリイソプレン(I)とポリスチレン(S)より成るブロック共重合体ドメイン系について、A型双極子を持つIの運動を反映する誘電緩和を検討した。SISトリブロック系中のゲストI鎖の緩和挙動から、ドメイン内の鎖運動は密度揺らぎを抑える熱力学的拘束に支配されて自己相似的となること、双極子反転型SIISトリブロック系とSIジブロック系の挙動から、トリブロック系の球状/シリンダー状ドメイン中でIブロックは末端間距離に応じてループ型、擬ブリッジ型のいずれの運動も示すことなどが見出された。
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分岐高分子の新規分子モデル
研究課題/研究課題番号:20340111 2008年 - 2010年
増渕 雄一
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:19760000円 ( 直接経費:15200000円 、 間接経費:4560000円 )
分岐高分子のダイナミクスは高分子科学の基礎的な興味の対象であるだけでなく,高分子材料の成形加工性を支配する工学的にも重要な課題である.本研究では我々独自の高速粗視化分子シミュレーションを分岐高分子に対して適用し,モデルの妥当性の検証と,分岐点のダイナミクスの検討を行った.その結果我々のシミュレーションは実験で得られる粘弾性を定量的に予測することが示された.また分岐点近傍における動的管膨張の重要性を示した
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研究課題/研究課題番号:18350058 2006年 - 2007年
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
尾池 秀章, 下村 武史, 増渕 雄一
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
単環および多環高分子は末端をもたない閉じた高分子ループを有するため,線状あるいは分岐高分子とは高分子鎖同士の絡み合い挙動などにおいて大きな違いが生じると容易に想像され,その基本的高分子特性を明らかにすることは,新しい高分子材料開発に重要な戦略的意義を持つものと考えられる。そこで本研究課題においては,様々なモデル系もあり汎用高分子のひとつであるポリスチレンの環化反応を中心に研究を進めた。さらに環状高分子だけでなく,2つの環が1点で連結した8の字型高分子の合成も同時に検討した。リビングアニオン重合による末端二重結合型線状および4本鎖星型ポリスチレンの合成では,予想以上に末端基の導入率の向上が見られず,最終的に90%以上の導入率は達成できたものの,厳密な反応装置,条件が必要であった。最終的な物性評価まで考慮すると,更なる末端導入率が望ましい結果であった。Grubbs触媒によるオレフィンメタセシスによる高分子環化反応では80%ほどの効率で環状ポリスチレンが形成されることがわかった。得られた環状ポリスチレンは,各種分光分析やクロマトグラフィ分析により同定された。また4本鎖星型高分子からは8の字型高分子の形成が示唆された。これらの結果から,オレフィンメタセシスによる鎖状高分子の環化反応が環状ポリスチレンの合成に適用できることが示された。特に,炭素-炭素結合での連結であるため,連結点の化学構造が主鎖セグメントに対して大きな特異性をもたないことは物性評価ならびに材料特性を考える上で利点であると期待される。また,4本鎖星型高分子からの8の字型高分子の生成は,合成例の少ない多環高分子の合成に対し有用な知見を与えたものと考えられる。しかしながら環化効率自体は,他法に比べて特別高いものではなく,実用スケールでの環状高分子提供に向けて効率のよい環状高分子合成法の開発は引き続き検討される必要がある。
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ブロック共重合高分子系のからみあい分子ダイナミクスシミュレーション
研究課題/研究課題番号:17750200 2005年 - 2006年
科学研究費助成事業 若手研究(B)
増渕 雄一
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:3700000円 ( 直接経費:3700000円 )
共重合高分子のダイナミクスはミクロ相分離構造形成に重要であるが,十分理解されていない.そこで本研究では,申請者独自の,からみあいに基づく高分子モデルを共重合高分子に拡張し,シミュレーションで分子ダイナミクスが相分離ダイナミクスに及ぼす効果を検討する.
モデルとしては申請者が独自に開発しているからみあいに基づく高分子モデル,Primitive Chain Networkモデルを共重合高分子へ拡張することを試みた.本モデルは,高分子の運動を,からみあい点の運動と,からみあい点間のモノマーの輸送で記述する.共重合高分子の場合,考えるべきは以下の点である.A)化学ポテンシャル場で表す分子間相互作用,B)異種成分間のからみあい形成機構,C)異種モノマーが混在するセグメントの張力,である.
A)の相互作用場としてはブレンドと同じものを用いた.B)については,当初ホモポリマー系と同じようにランダムに形成していたが,それでは相図の鎖長に対するユニバーサリティが失われる事がわかったため,新たにχパラメーターに依存したモンテカルロ手法を導入した.C)についてはコネクティビティーを無視してモノマー比のみによる単純な仮定を用いた.
本年度は昨年度に引き続きシミュレーションによるモデルの検証を行った.ダイナミクスについて,系のサイズが不十分で有効な結果を得る事ができておらず,今後の検討が必要である.また分岐ブロックやそれらのブレンドへの拡張も行ったが,定量的な検証には至らなかった. -
からみあい高分子ブレンドにおける高分子ダイナミクス新規高速計算手法の検討
研究課題/研究課題番号:15607010 2003年 - 2004年
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
増渕 雄一
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:3500000円 ( 直接経費:3500000円 )
種々の材料の高性能化・高機能化にとって,異種材料とのブレンドは広く用いられる必須の技術となってきている.しかしブレンド界面でのダイナミクスは,材料が発現する機能と密接な関係にあるにもかかわらずよく解っていない.特に分子量の大きな高分子の場合には,からみあいという特有の問題があるために,従来の理論的・実験的枠組みでは解析しきれない問題が多数存在する.
本研究は,からみあいのある高分子系をきわめて高速に計算できるまったく新しい手法,Primitive chain Network(PCN)モデルのブレンド系への拡張に関する基礎理論の検討およびシミュレーターの基となる計算スキームの研究を行った.支配方程式については,ブレンド系の自由エネルギーから導出される化学ポテンシャル揚を考慮した拡張を行った.その結果定性的には実験を再現する結果を得ることができることを確認した.モデルパラメーターについては,からみあい点間分子量が,広く用いられているFloryの表式にたいして,1/2の係数をかけたものになっていることがわかった.これはGothらの,結合点にゆらぎがあるゴムに対する理論と同じ結果になっているが,本研究で対象としている,ゆらぎがあるからみあい点に対する値はこれまでわかっておらず,重要な発見といえる.
その他,1)平衡状態における相図の検証,2)ブレンド物のレオロジーの検証,3)からみあい点間分子量の検討,4)自由エネルギー項がダイナミクスと平衡状態に及ぼす影響を詳細に検討,5)ブロック共重合体への拡張理論の検討,6)巨大分子への自己多段計算法の開発,7)ミクロスケール計算へのマッピングの検討,を行った. -
双対スリップリンク模型による高分子レオロジー予測システムの構築
研究課題/研究課題番号:13450390 2001年 - 2003年
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
土井 正男, 川勝 年洋, 増渕 雄一, 滝本 淳一, 谷口 貴志
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
分子量分布のある高分子溶融体のレオロジーを予測する新しいモデルを提案し、計算機シミュレーションプログラムの形で実装し、一般に公開した。基礎となっているモデルを双対スリップリンク模型と名づけた。双対スリップリンク模型は、古典的なレプテーション理論におけるスリップリンク模型の発展形である。この模型では、絡み合いを二つの鎖間の局在した相互作用とみなし、二つの鎖を束縛するスリップリンクで表す。古典的なレプテーション理論と異なるのはスリップリンクが二つの鎖を束縛していると考える点である。このように考えることによって、古典論で問題になっていたスリップリンクの運動についてのあいまいさを排除することができる。双対スリップリンク模型には二つのヴァージョンがある。第二のヴァージョンでは双対スリップリンクの位置は物質に固定されているとし、スリップリンクの生成と消滅の過程にだけ鎖の相互作用を考えるものである。このモデルは、古典的なレプテーション理論の一般化になっているが、分子量分布のある系の線形・非線形の粘弾性や分子の自己拡散定数をパラメータなしでよく再現することができる。このモデルに基づくプログラムPASTAを作り、http://octa.jpより一般に公開した。もうひとつのヴァージョンでは、スリップリンクの位置も、鎖の相互作用によって決めるものである。鎖の間の相互作用は、スリップリンクの生成・消滅の過程と位置の変化を通して考慮されている。このモデルでは、絡み合いの3次元的な構造も考慮したものであり、多様な展開が期待される。このモデルも上記のモデルと同様の精度の予測を行うことができることを確認した。このモデルに基づくプログラムNaplesを作成し、その試用版を上記URLより公開した。また、レプテーション理論と平均場理論を組み合やせる新しいモデルを孝案し、高分子ブラシのずり変形における構造変化と粘弾性を予測した。
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研究課題/研究課題番号:12450379 2000年 - 2001年
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
滝本 淳一, 増渕 雄一, 小山 清人
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
[1]流動下での結晶成長の可視化(滝本)
流動下で結晶化を顕微鏡観察出来る装置を開発し、等温結晶化が調べられるようにした。さらに画像解析により、流動下での核生成速度と結晶成長速度を定量的に求めることが出来るよりになった。その結果、流動により核生成は加速されるが、結晶成長はほとんど変化しないことが明らかになった。さらに分子量の影響について調べ、流動の影響は応力で整理出来ることがわかった(即ち、分子量が小さい試料では、粘度が低い分だけ高いせん断速度を与えると、高分子量の試料とほぼ同様の結果を得る。)低応力化では通常の球晶成長が観察されるが、核生成速度はせん断速度の指数関数的に増加する。高応力化では、小さな球晶が多数列状に並んだ構造をとる。
[2]結晶化発熱と粘弾性の同時測定(小山)
レオメータに熱電対を組み込み、結晶化発熱と粘弾性の変化を同時測定出来るようにした。この装置を用いて、レオロジー測定中に得られた結晶化発熱量の積分から結晶化度を求めた。その結果、せん断粘度ηと結晶化度Xcの関係はη(Xc)=η(0)exp(αXc)でよく表せることを見出した。ここでαはせん断速度に依存するので、同じ結晶化度でも、せん断速度により内部構造が異なることを示唆する。
[3]せん断下でのPV測定(小山)
既存のPVT測定装置のピストンを回転出来るようにし、圧力とせん断を同時に与えながら、結晶化による体積減少を測定できる装置を開発した。そして高圧・せん断流動下での結晶化の速度を定量的に解析した。この結果より、(1)圧力Pが結晶化の速度に与える影響は、平衡融点T_m^0の圧力による上昇による過冷却度ΔT=T_m^0(P)-Tcの増加で整理することが出来た。(2)せん断速度が結晶化の速度に与える影響は、結晶化温度Tc圧力Pによらない結晶化誘起ひずみで表すことが出来た.(3)結晶化の速度は、無せん断時の速度と流動誘起結晶化による速度の和で表せることが分かった.
[4]流動下での結晶化の分子動力学シミュレーシ算ン(増渕)
ポリエチレンオリゴマー(パラフィン)をモデルとし、流動下での結晶化をシミュレーション出来るプログラムを作成した。短時間流動を与えて停止し、その後等温結晶化させるシミュレーンヨンで、流動配向による結晶化誘導時間の短縮が観測出来た。
以上の結果は、成形過程における結晶化をCAEにより予測するのに極めて有用な知見になり得る。より広い範囲の試料、温度、圧力、ひずみ速度及び変形様式(一軸伸長など)での検証が望まれる。 -
プラスチック成形加工におけるレオロジーエキスパートシステムの開発
研究課題/研究課題番号:10555328 1998年 - 2001年
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
小山 清人, 高橋 辰宏, 増渕 雄一, 滝本 淳一
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
我々が目指した研究テーマは、1)高分子溶融体のレオロジーデータの蓄積、2)材料のレオロジー的性質と材料の構造との相関の解明、3)成形加工シミュレーションのソフトウエアの開発の3つである。以下に、それぞれの具体的な成果を記す。
1)高分子溶融体のレオロジーデータの蓄積と、2)材料のレオロジー的性質と材料の構造との相関の解明
以下の材料について、成形加工過程に伴うすべての変形(せん断、一軸、二軸、平面伸長流動)における流動挙動を得た。これまで測定が困難であり、データベース化が進まない材料に対してのデータ蓄積に成功した。これにより、"レオロジーエキスパートイステム"の基礎を得た。さらに、材料の高次構造と粘弾性特性との相関を得ることに成功した。
・汎用樹脂(ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンなど)
・相構造を有する材料や非相溶系ポリマーブレンド
・相溶系ポリマーブレンド
・構造中にイオン結合を有する材料(アイオノマー樹脂)
・無機粒子分散系ポリマー
3)成形加工シミュレーションのソフトウェアの開発
上記のレオロジーデータを用いて成形加工性を高精度に予測可能なシミュレーションソフトを開発した。ソフトの心臓部である構成方程式は、K-BKZ型を用いた。本シミュレーションソフトは、せん断や一軸伸長粘度などの、比較的簡便に行える測定結果があれば、高度に成形加工性をシミュレーションできることに特徴がある。これは、当初の目標通り、まさに、経験の浅い現場技術者でも容易に活用できるものであり、工業的価値も高いレベルに仕上がっている。 -
研究課題/研究課題番号:10650401 1998年 - 1999年
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
小山 清人, 田村 安孝, 増渕 雄一, 滝本 淳一, 村田 頼信
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
本研究では、高精度のAD/DA変換技術である△Σ変調を2次元に拡張し、1ビット信号群のみでアレイトランスデューサを駆動する事を提案した。シミュレーション及び実際に高分子アレイトランスデューサを作製し実測を行い、本駆動方式の評価を行った。
シミュレーションにより、本方式による収束音場の発生及び、ビームスキャニングを試みた。この結果、提案した駆動方式でピームフォーミング可能なことを確認した。また、アレイトランスデューサを実装する上で設計の指針とした。
1、従来の駆動方法では困難であったビームフォーミングに関しての検討を行った。(1)送信超音波のレベル制御、(2)アポダイゼーションによる低サイドローブ化、(3)送信波の帯域制限において新規性のある良好な結果を得た。以上の結果より、本研究において提案した駆動方式によるアレイトランスデューサの高性能化を実証した。実用化には、素子ピッチを0.15mm程度、変換効率の高い圧電材料を用いることで十分可能であると考えられる。
2、高分子圧電材料P(VDF-TrFE)を用いて、32素子、素子ピッチ0.5mm、1素子寸法10×0.3mmのリニアアレイトランスデューサを作製し、設備備品費より購入したディジタルビットパターンジェネレイター(TIME98)を実験システムに組み込んだ。実験は水中で行い、ハイドロフォンで受信し、ディジタルオシロスコープで波形の観測を行った。このハイドロフォンをWYステージを用いて、1mmずつシフトさせ、各点における受信波形のpp値を取り指向特性を評価した。実験はシミュレーション同様、収束波の発生、及びその収束ビームのスキャニングを行った。使用した圧電材料の低変換効率のため出力パワーが弱かったが、波形、指向性共に良好な結果を得ることが出来た。 -
超微量成分コントロールによるひずみ硬化性制御
1997年4月 - 1999年3月
科学研究費助成事業 奨励研究(A)
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
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研究課題/研究課題番号:09750981 1997年 - 1998年
科学研究費助成事業 奨励研究(A)
増渕 雄一
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:2200000円 ( 直接経費:2200000円 )
本年度は実験と計算機による分子シミュレーションの二つの手法を用いて、短鎖マトリクス中の超高分子量成分の非線形レオロジーへの影響を調べた。実験では高分子量/超高分子量成分ブレンドの伸長粘度測定を超高分子量成分の分子量一定の基で混合比率を変えて行った。この結果、高分子量成分同士のからみあいが始まると考えられる濃度で、急激なひずみ硬化特性の高まりが見られた。一方、線形領域での弾性率の増加分は濃度に対して線形であり、超高分子量成分どうしのからみあいが非線形レオロジーにのみ特異的に作用することがわかった。一方、分子シミュレーションではマトリックス分子の分子量もモデル化して扱い、広いパラメーター領域でのスキャンを行った。その結果、実験を再現する結果を得、さらにひずみ硬化性の高まりはマトリックス分子の緩和時間が超高分子のラウス緩和時間に達すれば超高分子量成分の濃度に無関係に発生することを新たにあきらかにした。