科研費 - 森川 高行
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研究課題/研究課題番号:20H00262 2020年4月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(A)
森川 高行, 佐藤 仁美, 姜 美蘭, 三輪 富生, 山本 俊行
担当区分:研究代表者
配分額:44590000円 ( 直接経費:34300000円 、 間接経費:10290000円 )
ICTを活用したヴァーチャル活動が増加する中、本研究では、移動の価値を再考することを目的とし、以下の研究を実施する。移動の肉体的・精神的タスクが健康に与える影響の定量化、移動を伴わないヴァーチャル参加と、移動を伴うリアル参加でのコミュニケーションの効率性や活動の満足度などの計測、さらに、ICTの活用と移動量との関係性などを調査・分析する。これらの研究成果により、まちづくり、地域コミュニティ維持、交通インフラ整備、交通手段開発などの方向性や必要性を科学的に示すことが可能となる。
本研究では,人が実空間を「移動」してリアルな体験を行うことの価値に関して,「交通」と「活動」の観点から科学的に評価・計測することが目的である.
今年度は,「理想のテレワーク実施率に関する分析」,「テレワークに関するパネルデータ分析」,「仕事の質とテレワークの関係分析」を実施した.
まず,理想のテレワーク実施率に関する分析では,2021年3月に実施した調査データを用いて,移動手段別の移動時間による影響やテレワークの評価による影響を分析した.その結果,移動手段と時間時間によってテレワーク率への影響は異なること,テレワークの効率性を高く評価している人はテレワークを好むことなどが明らかとなった.
次に,テレワークに関するパネルデータ分析では,2020年3月と2021年3月に実施したパネル調査データを用いて,リスク認知の変化やテレワーク率の変化について分析を行った.その結果,2021年にはテレワーク評価が下がっていることや2020年にはテレワークリスク認知が高いほどテレワークを避ける傾向があったが,2021年には逆の傾向となっていることなどが明らかとなった.
最後に,仕事の質とテレワークの関係分析では,2022年3月に実施したアンケート調査を用いて,オフィスワークと自宅でのテレワーク,サテライトオフィスワークの時間配分モデルを構築した.その結果,仕事環境や仕事の質は会社や自宅など働く場所の選択に有意に影響を及ぼすことが明らかとなった.
3回のパネル調査にすべて回答したサンプルは1000人程度おり,分析に充分なサンプルが得られている.また,研究成果の学会等での発表も計画通りに行えていることから,おおむね順調に進展していると判断した.
最終年度なる次年度は,2023年に収集したアンケート調査データを分析することで,理想と実際の差とテレワークや通勤の評価と仕事環境の質などとの関係などや,3か年のアンケート調査データを用いて,コロナ禍における通勤とテレワークの経年変化について分析を行う.
また,外部発表があまりできていなかったため,これまでの成果を整理し,学会発表やジャーナルへの論文投稿など行い,外部発表を積極的に実施する予定である. -
多様化する都市活動・交通評価のためのシミュレーションプラットフォームの構築
研究課題/研究課題番号:19H02260 2019年4月 - 2023年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
三輪 富生, 森川 高行, 山本 俊行
担当区分:研究分担者
在宅勤務やテレワークなどの柔軟な働き方,女性や高齢者の社会進出,自動運転車サービスによる子供の自動車移動など,日々の活動や交通行動は多様化していく.本研究では,そのような多様化した都市活動を表現し,将来の都市交通政策を評価できる,新しい都市活動・交通シミュレーションプラットフォームの構築を目指す.
そのために,居住地選択のような長期的意思決定,交通手段選択のような短期的意思決定に加え,1週間程度の期間内の多様な活動内容を決定する中期的意思決定モデルを構築する.さらに,都市活動・交通シミュレータを構築し,都市のコンパクト化と持続可能な中山間地域のための都市交通政策を検討する.
テレワークや自動運転車の普及などによって多様化が進む日々の活動や交通行動を予測・分析するための様々な分析手法の構築を行った.この結果,テレワークが進むと,曜日ごとの通勤交通量が異なることや買い物や外食が減少する一方で仕事や家族団らんの時間が増加することが示された.また,自動運転車は普及開始から20年ほどで,8割の自家用車が自動運転車となること,自動運転タクシーより自家用自動運転車としての普及が大きいことが示された.その他,自動運転車の普及により,車両間の協調的な走行によって交差点における交通流を制御でき,信号による制御よりも効率が高まること等が示された.
多様化が進む社会活動や実用化が進む新たなモビリティ―を背景に,交通量の発生から配分までを単純なモデルで評価し,平日と休日の行動の違いに焦点を当てた従来の交通計画手法は見直しが必要である.本研究では,そのような社会における,社会活動,居住地,交通需要,交通行動を予測する数理モデルを構築した.また,自動運転車の普及予測や交通流を評価するシミュレータを開発し,様々な分析を行った.これらの研究から,多くの学術的意義の高い研究成果が得られた.また,これからの交通計画における交通需要予測法やモビリティの運用方法を提案できたことは社会的意義が高い. -
運転ストレスに基づく車両の個別調停および交通社会全体最適化手法の提案
研究課題/研究課題番号:17K18900 2017年6月 - 2020年3月
挑戦的研究(萌芽)
田代 むつみ
担当区分:研究分担者
本研究では経路探索や他車との協調において,個々のドライバーが運転ストレスを感じることなく,かつ交通社会全体の交通流を最適化させる,新しい交通マネジメント手法の提案を行った.運転中にドライバーに発生する「運転ストレス」を心拍数の変化により定義し,道路構造や交通状況などの運転ストレス要因から予測するモデルを構築した.そして,レーンレベル運転ストレス最小化経路探索アルゴリズムを提案した.続いて,個々の車両情報がリアルタイムに共有される条件下において,信号の無い交差点において車両同士が協調して合流時のコンフリクトを回避するための制御方法を提案し,交通ミクロシミュレーションにより効果を検討した.
個人毎の異なる価値観に基づいた心理的指標である「運転ストレス」を,交通マネジメントに直接活用するシステムは,他に類をみない新しい試みである.また本システムは,ドライバーのみならず,車を利用する全ての人のストレス検討にも応用可能であり,自動運転社会への移行段階における最適な交通マネジメントの検討にもつながる点で,研究の発展性は高い.交通情報の集約や共有化に関する取組みも近年国内外で急速に進められており,本研究が提案する協調制御アルゴリズムは,信号に代わる新たな交通マネジメント手法として実現可能性が高いと考える. -
道路上の異モード間コミュニケーションの生起と社会的受容
研究課題/研究課題番号:17K18947 2017年6月 - 2020年3月
挑戦的研究(萌芽)
谷口 綾子
担当区分:研究分担者
自動運転システム(AVs)の技術発展はめざましく,近い将来,社会に実装されるであろうことが現実味を帯びてきた.今後は技術的課題のみならず,法律や社会的受容など社会的課題に取り組む必要がある.本研究では,国や自治体が実施するAVs実証実験のモニターや一般市民を対象としたインタビュー調査やアンケート調査により,人々のAVsの社会的受容を定量的に把握し,その規定因としてリスク認知や技術・行政への信頼等が存在することを示した.また,過去に「新交通モード」であった自動車の社会的受容に着目し,新聞やテレビ番組の定性的分析を通じて,今日につながる課題を抽出した.
本研究の学術的意義として,自動運転システム(AVs)の社会的受容を定義づけ,購入意図や利用意図よりも「AVsが実現した社会に賛成するか?」という賛否意識で計測することの妥当性を検証したことが挙げられる.また,賛否意識の規定因として性別,交通行動,リスク認知などさまざまな要因を特定することができた.さらに,かつての新モードである自動車の社会的受容の経緯を定性的に分析することで,今後,AVsの導入時に起こり得るいくつかの課題を抽出したことは,社会的意義を有意している. -
アグレッシブ・ドライブがもたらす運転ストレスと交通効率性に関する研究
研究課題/研究課題番号:17H03324 2017年4月 - 2020年3月
森川 高行
担当区分:研究代表者
配分額:17420000円 ( 直接経費:13400000円 、 間接経費:4020000円 )
本研究課題では、運転ストレスと運転行動、交通事故経験などの関係分析、そして、日本、中国、ベトナムにおける運転行動と交通事故などの関係分析の2つの研究を実施した。その結果、運転ストレスと道路構造との関係を明らかにし、運転ストレスが少ない道路インフラの提案をした。また、運転ストレスが違反行動を促し、違反行為が交通事故の発生に関与している構造を確認できた。さらに、運転傾向と人格特性、交通事故との関係については、交通事故経験者で協調性が低い人は、いずれの国でも、アグレッシブな運転傾向があること、日本とベトナムの女性ドライバーで勤勉性が高い人は、交通規則違反を犯す可能性が低いことなどを明らかにした。
心拍変動を運転ストレスの計測尺度として用いて、道路構造の評価を実施したり、運転ストレスと交通事故との関係を明らかにした研究はなく、学術的意義は大きい。心拍計測機は小型化し安価に手に入るようになっており、道路インフラの改善、交通事故の防止策の検討に利用できる可能性を示した点でも、本研究の社会的意義は大きいと考えられる。 -
研究課題/研究課題番号:16H02367 2016年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(A)
山本 俊行, 森川 高行, 三輪 富生
担当区分:研究分担者
本研究では,我が国での自動運転車による電気自動車共同利用システムの導入に向けて,利用意向調査に基づく需要予測と,システム運用戦略に基づくシステム挙動の分析等を行った.分析結果より,将来の完全自動運転車保有意向や共同利用システムへの提供意向に及ぼす影響要因を特定するとともに,車両数や充電,相乗り等が共同利用システムの挙動に及ぼす影響を明らかにした.さらに,走行パターンによる電気自動車の電費への影響や自動運転車と一般車が混在する場合の交通流への影響等を定量化した.
本研究では,個々の世帯が保有するマイカーを世帯が使用しない時間帯において共同利用システムに提供するという形の自動車共同利用システムの可能性を検討しており,新たな将来像の提案として学術的新規性が高い.また,このようなシステムは,各世帯が自家用車を保有しつつ,自家用車の利用効率を格段に向上させることが可能となるため,車両や空間等の限られた資源の効率的な活用という観点から社会的意義も高く,本研究成果を基に自動運転車の普及に向けて,自動車利用のあり方に関するより良い議論が可能となる. -
社会基盤計画の遂行におけるレジリエンス能力の解明
研究課題/研究課題番号:16H04431 2016年4月 - 2019年3月
岩倉 成志
担当区分:研究分担者
わが国は財政制約から新規のインフラ投資が困難な状況の中で,従来に増して複雑で対応が難しい社会基盤計画の時代を迎えている.プロジェクトの減少や長期化が起きており,若手技術者のプロジェクト実現経験の減少は,大きな負のスパイラルを描いて,技術力を低下させていく可能性が高い.困難な状況に上手に適応し,それを遂行するレジリエンス能力を備えた若手人材を多く輩出することが重要かつ必須と考える.本稿では困難なプロジェクトを乗り越えてきた7名の先人を題材に,幼少期からのオーラルヒストリーを得て,土木技術者に必要なレジリエンス能力と能力形成過程を考察した.
困難なプロジェクトを成し遂げた土木技術者のオーラルヒストリー研究を行うきっかけは,この数年のいくつかのプロジェクトが急速に足踏みし始めたことだった.財源的な問題や整備制度の不適合,費用便益分析結果が思わしくないという問題など,右肩下がりの時代で,建設費が高額なプロジェクトに世論や株主に対峙しなければならない土木技術者が委縮する気持ちも想像できるが,国際都市間競争が苛烈になり,地球温暖化問題を抱え,大規模な自然災害が頻発する現代だからこそ,イノベーティブで,レジリエントな人材が希求される.型にはまらない発想で,スピード感をもって行動し,失敗して前進する土木技術者を数多く育てるための研究である. -
中山間地域交通におけるシェアリングエコノミー
研究課題/研究課題番号:16K12825 2016年4月 - 2018年3月
三輪 富生
担当区分:研究分担者
本研究では,中山間地域でのシェアリングモビリティに対する市民意識や存在価値(オプション価値)について調査を行った.対象とした交通手段は,バスやタクシーなど既存交通手段,そして地域住民が運転する車に同乗するライドシェアシステムや自動運転車によるタクシーシステムとした.
既往研究調査によってモビリティのオプション価値の推定方法を整理した上で,利用頻度が非常に少ない交通手段の価値を推定する方法を検討した.さらに,アンケート調査を実施し,分析データを収集した.分析結果より,交通手段のオプション価値はサービスレベルの影響を強く受けることや,高齢者ほど高い価値を示すことが明らかとなった. -
外国人の現場ツイートと意見構造分析による日本の交通システムの国際評価手法
研究課題/研究課題番号:16K14318 2016年4月 - 2018年3月
森川 高行
担当区分:研究代表者
配分額:3770000円 ( 直接経費:2900000円 、 間接経費:870000円 )
本研究では,外国人の視点を観光や交通政策,交通まちづくりへ反映するために,SNS(Social Networking Service)上の発言に着目し,その質と量から政策に活用できるかを検証することが目的である.分析に用いたデータは,2017年2月の1ヶ月間の日本国内でSNSに投稿された6万7千件のデータから居住者と考えられるユーザーを削除してたものである.その結果,交通や移動に関する投稿は少ないこと,写真での投稿や場所のみの投稿等が意外に多いこと,写真との関係も考慮しないとコメントだけの分析では判断が難しい場合があること,位置情報から周遊行動の把握の可能性があることが明らかとなった.
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スマートフォン行動データとコンテクストデータを活用した活動・交通ログ自動生成 手法
2013年4月 - 2014年3月
科学研究費補助金
担当区分:研究代表者
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次世代自動車の普及に伴う新しい道路課金制度の提案とその定量的評価
2012年4月 - 2016年3月
科学研究費補助金 基盤研究(A)
森川高行
担当区分:研究代表者
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準天頂衛星を活用した超高精度交通移動体マネジメント
2011年4月 - 現在
科学研究費補助金
森川高行
担当区分:研究代表者
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プローブカーデータが基盤的交通情報源となるための課題解決
2006年5月 - 2008年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
森川 高行
担当区分:研究代表者
情報通信技術の発達に伴い,道路を走行する車から交通情報を収集するプローブカーシステムが注目を集めている.特に,プロープカーシステムは,プローブカーが走行する全ての道路から交通情報を収集できることや,加速度や走行経路など様々な情報が取得できることが利点として挙げられる.しかしながら,プローブカーシステムによって大規模な交通情報収集を行うためには,交通情報としての有用性の提示,利用方法の確立,効率的な情報収集,提供方法のあり方など,多くの課題を解決する必要がある.本研究では,これらの課題を解決するための技術開発やシステム検討を行った.
まず,プローブカーデータの有用性を提示するため,プローブカーデータを用いた経路案内システムを構築し,市販のカーナビゲーションシステムと性能比較を行った.この結果,プローブカーデータを活用した経路案内システムの方が統計的にも有意に性能が高いことが示された.さらに,通勤時の経路案内実験によって,構築したシステムの経路誘導効果を確認した.次いで,有効活用方法を開発することを目的とし,経路選択データとして利用することで極めて詳細な経路選択行動分析が可能となること,信号の制御効果の検証や交通事故分析に活用可能なこと,動的OD交通量の推定に利用可能なこと等を示した.さらに,データ収集の効率化および大規模システムの実現に向けた検討を行った.ここでは,プローブ情報の収集頻度が大規模システムの実現に大きな影響を与えることを明らかにしたうえで,低頻度データの特性や利用技術を開発し,大規模システムを実現するためのコスト分析やプローブカーの最適配置手法の開発を行った.本研究の実施により,大規模なプローブカーシステムの実現に向けた多くの課題について解決された,もしくは解決ための重要な検討がなされたといえる. -
プローブカーデータを利用した動的経路誘導システム構築のための基礎的研究開発
2004年6月 - 2005年3月
科学研究費補助金
森川 高行
担当区分:研究代表者
昨年度開発した動的経路誘導システム『PRONAVI』をベースに,要素技術に関する基礎的研究を行った.
プローブ情報は,広範囲の道路交通情報を収集可能であるが,プローブカーが走行した道路区間,時刻のみの情報が利用可能である.そこで,リアルタイムの交通状態変化をより正確に把握することが可能なVICSデータとの融合方法を開発した.具体的には,VICS情報から混雑や渋滞が発生したリンクを特定し,これを旅行時間情報に変換した上で蓄積されたプローブ情報と比較する.これにより,非日常的に発生した混雑や渋滞を旅行時間予測に効率的に利用することが可能となった.また,旅行時間予測精度の向上を図るため,交差点右左折時の遅れ時間を分析し,その結果を反映した最適経路案内システムを構築した.そして,それらの要素技術をPRONAVIに実装し,昨年度のシステムと比較して旅行時間予測精度が大きく向上することを実証した.
次に,より環境負荷の少ない公共交通への転換機会を創出するため,名古屋都市圏を網羅する鉄道ネットワークや時刻表データベースを構築し,そこにパークアンドライド駐車場の情報をも組み込んだマルチモード経路案内システムを構築した.また,それをPRONAVIに実装した上でインターネットを介した情報提供実験を行い,モニターの高い受容性を確認した.
ここで,より広範囲でプローブ情報の収集・提供を行うためには,データ通信コストの大幅な削減が必要となる.そこで,プローブカーの通信頻度について検討を行い,旅行時間予測を行うために必要なデータ通信頻度を明らかにし,既存の車両管理システム等の低頻度データを用いても旅行時間予測が可能となることを示した.
さらには,動的交通シミュレータの開発,ならびにそれを用いたプローブ旅行時間情報に基づく動的OD交通量推定アルゴリズムを開発し,交通需要の変動を精緻に再現できることを確認した. -
様々なデータを融合することによる新規交通サービスに対する需要予測分析に関する研究
2003年4月 - 2005年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
森川 高行
担当区分:研究代表者
本研究では,新規交通サービスに対する需要予測手法に関して,柔軟なフレームワークを持ち,かつ操作性の高い非集計離散選択モデルによる需要予測に着目して研究を行った.
まず,都市圏レベルでの新規交通サービスや政策に対する需要予測において一般的に用いられるパーソントリップ(PT)データに基づく予測手法について事後評価を行い,次いで,モデルの時間移転性やゾーニングが予測に及ぼす影響を詳細に分析し,その改良手法を提案した.
次に,利用データの側面から需要予測精度を改善する方法論として,過去の行動データに加え,新規サービスへの利用意向を尋ねたSPデータ,交通需要の総量に関する情報を含む集計データなどを融合利用した統合型需要予測モデルを構築し,事例研究においてその有効性を検討した.また,操作性の高いSPデータは特に有効であると考え,個人レベルでの選好や行動変化を把握するために必要な調査設計法やそれに対応する数理モデルの開発を行った.
加えて,交通行動を観測する手法としてここ数年注目を浴びているプローブ調査データに着目し,交通行動分析において特に研究が立ち遅れているドライバーの経路選択行動を対象として分析を行い,プローブデータが経路選択の動的側面を把握・モデル化するのに有効であることを確認した.
さらには,需要分析においてデータと両輪をなす行動モデルについて,ITSやTDM施策の効果予測においては,より現実の意思決定を反映した限定合理性の概念に基づく交通行動モデルが有効であると考え,そのモデル化について検討を行った.具体的には,現実世界で最もよく観測される修正辞書編纂型の意思決定ルールに着目し,その操作性や推定特性の把握,ならびに効用最大化モデルとの現況再現性や予測精度の差について分析を行った.また,観測データからモデルを同定する方法論として,データマイニング手法の援用可能性についても検討を行った. -
発展途上国における持続可能な都市交通システム構築における交通需要管理政策の評価法に関する研究
2001年4月 - 2004年3月
科学研究費補助金
担当区分:研究代表者
発展途上国において持続可能な都市交通システムを構築するには,公共交通機関の整備や土地利用の改変などの長期的対策と料金施策などの短期的対策を同時に推し進め,交通需要を的確にコントロールしてゆく必要がある.そのためには,急激に進展するモータリゼーションの動向を的確に予測することが特に重要となる.
そこで,今年度は,これまでのアプローチを踏襲し,各世帯における自動車保有台数を記述・予測するモデルを構築し分析を行った.構築したモデルは,二輪車・自動車保有台数同時決定モデルであり,これにより,途上国における二輪車と自動車保有の代替・補完関係や,モータリゼーションの進展に伴うその構造変化を捉えることが可能となる.また,別途構築した交通手段選択モデルなどから計算されるアクセシビリティ指標を説明変数として用いることにより,交通インフラの整備水準やその空間的配置が及ぼす影響を行動論的に解釈することが可能となっている.
モデルの推定には,バンコク,クアラルンプール,マニラで収集された行動日誌データに加え,急激なモータリゼーションを経た名古屋において1970年代から収集された4時点の行動日誌データを用い,主にモータリゼーションの動的推移や地域格差に着目して分析を行った.
その結果,1)自動車・二輪車の保有は途上国においては代替関係にあるが,名古屋ではモータリゼーションの初期段階においても両者の関連性は低く,文化的背景などが大きく影響していると思われる,2)公共交通機関へのアクセシビリティが低い場合や,全ての交通機関と公共交通機関単独によるアクセシビリティの差が大きい場合に自動車・二輪車保有が助長される,3)モータリゼーションの動的推移については,世帯レベルでは地域間での画一的が低いため,モデルの地域移転に際しては,経済状況や地域格差に応じた補正が不可欠である,等の知見が得られた. -
情報探索・処理過程を考慮した交通行動モデルの開発と情報提供効果の分析
2001年4月 - 2003年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
担当区分:研究代表者
本研究では,運転者の情報探索・処理過程を明示的に考慮した交通行動モデルを構築し,ITSによる情報提供が交通状況に及ぼす影響を把握することを目的とした分析を行った.具体的には,情報提供下における意思決定過程のモデリングに関する分析,不完全情報を仮定した交通量配分分析,ドライバーの経路選択行動を詳細に把握するための調査・分析手法に関する分析を実施した.
情報提供下における意思決定過程のモデリングに関する分析では,潜在クラスアプローチによりドライバーが取得・評価する属性やその処理方法の違いを表現する行動モデルを構築した.その結果,既存のモデルと比較して現況再現性が向上すると共に,サービス水準の変化に対しても,現実世界と整合的な挙動が示された.一方で,モデルの自由度が高いために,推定に際しては,意思決定に関して尋ねた付加的な情報が不可欠であることが確認された.
不完全情報を仮定した交通量配分分析では,運転者を所要時間及び道路ネットワークの認知状況に応じて異なるセグメントに分割し,セグメント毎に異なる配分原則を適用した均衡配分モデルを構築した.構築したモデルを用いて名古屋都市圏の道路ネットワークに適用した結果,全体の約20%のドライバーが不完全情報下で経路選択を行なっているとした場合に最も現況再現性が高く,また,所要時間情報の提供がもたらす便益は非常に大きいことが示された.
ドライバーの経路選択行動を詳細に把握するための調査・分析手法に関する分析では,プローブ情報の収集方法に関する実験を実施し,その効率的な収集方法と経路選択行動の基礎的分析を行った.その結果,従来の調査手法と比較してドライバーの経路選択行動を非常に詳細に把握することが可能であることを確認すると共に,等時間原則のような均衡状態は成立せず,ドライバーは目前の交通状態を参考に逐次的に経路選択を行っていることが確認された. -
高度交通情報提供による交通行動変化の定量的分析と交通計画へのインプリケーション
1999年4月 - 2002年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
担当区分:研究代表者
交通情報提供の効果を,個人レベルでの交通行動の変化,ならびに都市圏レベルでの道路交通需要の変化,の双方の視点から分析を行なった.個人レベルでの交通行動の変化に関する研究では,交通行動の変更には,情報提供前後における交通サービスの認知レベルに相当する効用差以外に変更抵抗がかかるものと考え,プレトリップ所要時間情報の提供に伴う交通手段選択行動を対象として,提供される情報の種類および変更前後の交通手段ごとに変更抵抗を算出した.また,相対的に重要度の低い属性に関する情報や情報提供前後の認知レベルの差が小さい場合には,行動変更は極めて生じにくいとの認識から,非補償型行動原理及び行動変更の閾値効果を考慮した離散選択モデルを構築し,オンルート情報提供下でのパークアンドライド行動を対象として,行動変更メカニズムについての分析を行った.
次に,都市圏レベルでの道路交通需要に及ぼす影響の分析を,中京都市圏道路ネットワークを対象として均衡配分手法を用いて行なった.まず,現実の道路網においては等時間原則は成立しておらず,むしろ道路ネットワークの認知等を含めた効用レベルで均衡しているとの認識のもと,リンクパフォーマンス関数にそれら要因の影響を反映できるような形に修正する方法論を展開した.その結果,特にオフピーク時において現況再現性が向上するなど,その有効性が確認された.同様に,ドライバーの情報の不完全性を考慮するために,ドライバーを所要時間及び道路ネットワークの認知状況に応じて異なるセグメントに分割した上で,各セグメントに対して異なる配分原則を適用し,その構成比率を変化させて配分を行なった.その結果,全体の約20%のドライバーが不完全情報下で経路選択を行なっているとした場合に最も現況再現性が高く,また,通常時及び事故・災害時における経路所要時間情報の提供は共にかなりの便益をもたらすことが示された. -
個人間相互作用を考慮した交通行動モデルに関する研究
1995年4月 - 1996年3月
科学研究費補助金 若手研究(B)
担当区分:研究代表者
近年の交通計画の分野では,環境・エネルギ-政策のための自動車コントロ-ルのように,自己の効用を多少犠牲にしても公共の利益を優先するような行動規範を消費者が求められている。このような場合,「自分だけが強力的行動をして損をし,他人がフリ-ライダ-になって徳をするのではないか」という意識が強く働き,個人の効用最大化だけに基づく行動記述モデルでは,様々な政策に対する人々の行動予測が難しい。本研究は,交通需要者間の相互作用を明示的に考慮した行動モデルを構築し,近年の交通政策やその他の環境政策を支援する有効な分析手法を提供することを目的とした。
本研究では,ゲ-ム論的な「他者の行動を考慮した最適戦略」という考え方を,ランダム効用理論に基づく離散型選択モデルに応用した,個人の選択行動により焦点を当てたモデルの開発を行った。ここでは,自分の満足度は自分からみる他人(準拠集団)の満足度から影響を受けると考え,選択行動の基礎となる効用値を自分の尺度で計測した他者の効用値との相対的な値によって表すことにした。また,準拠集団と自分を比較する際に上方比較及び下方比較があると考えられ,それぞれの場合に対応する準拠集団の代表効用指標をシェア型ログサム変数として表した。また,個人の行動は社会的規範に大きく影響を受けると思われ,アンケ-トに現れる社会的規範に関する主観的な回答値をLISRELモデルを用いて個人の持つ潜在変数として表現した。そして,これらの準拠集団の効用値と社会的規範に関する潜在変数を用いた選択行動モデルを作成した。さらに,自動車利用抑制政策に関するアンケ-ト調査を行い,開発したモデルをこの回答結果に適用し,提案した方法論の有効性を確認した。 -
個人の繰り返しデ-タを用いた動的な交通行動モデルの開発
1994年4月 - 1995年3月
科学研究費補助金 若手研究(B)
担当区分:研究代表者