科研費 - 増永 浩彦
-
研究課題/研究課題番号:19H05704 2019年6月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
見延 庄士郎, 増永 浩彦, 山本 絢子, 杉本 周作, 佐々木 克徳, 時長 宏樹, 釜江 陽一
担当区分:研究分担者
日本の南岸に沿って流れる黒潮は,膨大な熱を熱帯から運びそれを日本付近で大気に放出する.この熱放出があることによって,中緯度大気が様々な影響を受けることが,最近十年間の高解像度観測データ解析および数値モデル実験で報告されてきた.しかし,この中緯度海洋が大気に及ぼす影響が異なる数値モデルでも同じように再現されるのか,またこの作用が将来の温暖化においてどのような役割を果たすのかは不明であった.そこで本研究では,これらの問題を解決することを目的として,多数の気候モデル,特に高解像度モデルデータの収集と解析を行う.
EUのHighResMIPプロジェクトであるPRIMAVERAのデータを、同プロジェクトと本新学術領域の連携を活かして解析し、爆弾低気圧の個数が高解像度モデルほど増加することを明らかにした論文を出版した。対流放射平衡大気の数値実験でしばしば見られる対流自己凝集化を、衛星観測により検証した。現実大気でも対流自己凝集化に対応する現象が確認されたが、理想化実験に比べ時間スケールが顕著に短いなど注目すべき違いも認められた。大気再解析データより、北米大陸気候へのベーリング海海氷の影響を明らかにし、CMIP6データから同海氷の将来変化について提示した。2017年夏から発生した黒潮大蛇行期間での黒潮続流・大気大循環場の特徴を大気再解析データの統計解析から記述した。20世紀の東シナ海の温暖化を調べるために領域海洋モデルを用いた解析を行った。その結果、温暖化は黒潮流軸と大陸棚上で大きく、そのメカニズムは海洋循環の変化であることが判明した。CMIP6/HighResMIP 高解像度大気海洋結合モデル出力データを解析し、太平洋十年規模振動に伴う大気海洋相互作用の再現性を検証した。その結果、海面熱フラックス偏差の南北ダイポール構造が黒潮続流前線に沿って形成され、アリューシャン低気圧との双方向相互作用を通して、太平洋十年規模振動のライフサイクルに重要な役割を果たしている可能性を突き止めた。高解像度モデル出力を用いた極端現象とそれをもたらす総観規模擾乱の変動に関する研究に取り組んだ。低気圧追跡手法を用いることで、日本上空を通過する二つ玉低気圧とそれに伴う大気の川の流入による降雨や降雪の傾向を明らかにした。
本計画研究では、CMIP6/HighResMIPの解析を国際協力の下で進めることを重要視している。この解析を新型コロナウイルス問題が継続する中で効果的に進めるために、EUのHighResMIPプロジェクトであるPRIMAVERAとHotspot2とで連携することを2020年4月のPRIMAVERA全体会合で提案し了承を得、これによって本新学術領域研究の研究者がPRIMAVERAデータを格納している英国のJASMINサーバー上で直接解析することが可能となった。また、2020年10月に海外経験も豊富な特任助教を雇用することができ、気象現象の中でも社会的に重要な台風についてのHighResMIPデータ解析研究を開始した。ハワイ大学との共同研究で日本気候への黒潮大蛇行の影響を定量化するために数値実験を実施した結果、水蒸気変化を通じて関東周辺の夏の猛暑に影響することを明らかにした。海洋観測資料解析により日本南東沖冬季混合層深度が過去60年間で約6%浅化していることを明らかにした。東シナ海の温暖化への大気応答を調べるためにHighResMIPのデータの解析を開始した。20世紀の東シナ海の温暖化の研究結果は国際誌に投稿し受理された。CMIP6/HighResMIP 高解像度大気海洋結合モデル出力データの整備と解析作業を進めている。得られた成果は2021年6月に開催される国際ワークショップにて発表する予定である。高解像度モデル出力を用いた極端現象とそれをもたらす総観規模擾乱の変動に関する研究成果を、オンライン国際会議や国内現地学会で幅広く発表している。
英国のJASMINサーバー上のデータを解析するだけでは、保持可能なファイル容量の制約などから十分な解析ができない場合もある。そこで、研究補助者を雇用してHighResMIPデータの取得も(ダウンロード)進めて行く予定である。またHighResMIPデータなどの高解像度データを効果的に解析するために、大学院生の研究協力者も使用しやすい低気圧トラッキング・プログラムを開発する。日本南東沖冬季混合層深度変化の不確実性を検討するためにCMIP6マルチモデル解析を実施し、その解析から今世紀末までの海洋混合層変化の将来変化を解明する。日本夏季気候のさらなる理解に向け、CMIP6を用いることで、南シナ海、大西洋からの遠隔強制の影響、およびその将来変化について明らかにする。領域大気モデルや、HighResMIPのデータを持ちいて東シナ海の温暖化への大気応答について解析を行う。特に梅雨前線に注目した解析を行う。本年度はCMIP6/HighResMIPモデルのマルチモデルアンサンブル平均に対する解析を中心に行った。次年度以降はモデルによる不確実性を評価するため、各モデルにおける熱帯太平洋から北太平洋への遠隔影響や、黒潮親潮続流域の前線構造に着目し、それらとPDOの再現性との関連性を調べる計画である。CMIP6、d4PDFのデータを用いて、日本を襲う極端降水や極端降雪が地球温暖化でどのように変化するかの解析を進める。大気の川に伴う極端現象が地球温暖化で変化する様子を明らかにし、研究成果をまとめる。 -
熱帯亜熱帯「境界」の大気熱力学:水蒸気場の動態から迫る熱帯気候の新描像
研究課題/研究課題番号:19H01966 2019年4月 - 2022年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
増永 浩彦, 鈴木 健太郎
担当区分:研究代表者
配分額:17030000円 ( 直接経費:13100000円 、 間接経費:3930000円 )
スコールに代表される多雨地域の熱帯に比べ、グアムやハワイが位置する亜熱帯は比較的穏やかな気候に恵まれる。その背後には熱帯と亜熱帯をつなぐ壮大な大気循環(ハドレー循環)が知られる。本研究課題では、従来考えられてきたような地理的に固定された循環場の描像に代わり、日々の気象場に応じ動的にゆらぐ熱帯と亜熱帯の境界の動態に着目し、衛星観測や数値シミュレーション解析を通じてそのメカニズム理解に迫る。
赤道付近では活発な積雲を伴う湿潤な大規模上昇流が卓越する一方、上層で極側に吹き出した気流が下降に転じる緯度帯では乾燥した沈降流が対流活動を抑制する。このよく知られたハドレー循環の描像は、多雨で湿潤な熱帯と晴天で乾燥した亜熱帯という低緯度固有の気候場を、大気力学の立場から一通り矛盾なく説明する。一方、熱帯と亜熱帯を隔てる「境界」の動態が近年の研究で注目されてきた。本研究では、衛星観測データおよび再解析データを用いたエネルギー収支解析を実施し、水蒸気量と雲対流活動が支配する熱帯・亜熱帯境界の仕組みに物理的な説明を与えることに成功した。同時に、雲対流の自己凝集化や熱帯収束帯など関連現象を精査した。
熱帯における気象の成り立ちは地球水循環・エネルギー循環の要をなし、その動態を深く理解することは地球温暖化を含む気候変化やエルニーニョ現象などの年々変動の理解にも関連する幅広い影響力がある。本研究課題の成果は、気候モデルや気象予報数値モデルなどの性能評価に有用な観測的知見を与えるものであり、中長期的に気候予測・気象予報の精度向上に資するデータの礎を築く意味で重要である。 -
衛星データシミュレータを用いた雲解像モデル検証手法の開拓(国際共同研究強化)
2016年4月 - 2019年3月
科学研究費補助金 国際共同研究加速基金
担当区分:研究代表者
-
全球大気酸化能の実態・変動の徹底解明
研究課題/研究課題番号:16H02937 2016年4月 - 2019年3月
須藤 健悟
担当区分:研究分担者
本研究では、大気中の様々な物質の酸化・除去を担うOHラジカル(ヒドロキシルラジカル)の全球分布について、高精度な推定を行い、大気酸化能の変動の実態とそのメカニズムを定量的に解明した。化学気候モデルによる全球大気化学シミュレーションを主なアプローチとし、モデル中の雲・エアロゾル・成層圏オゾンの計算を各種衛星観測データにより検証・正確化することで、OH濃度場推定の高精度化を行い、雲・水蒸気・オゾン等に加え、自然・人間由来の窒素酸化物(NOx)・一酸化炭素(CO)・揮発性有機化合物(VOCs)の大気への排出量など、OH変動要因の寄与を定量的に整理した。
本研究は、メタンをはじめ大気中の様々な物質の除去を担うOHラジカルの全球分布の推定を高精度化し、OH変動要因の定量的検討も行った。このような成果は、気候変動や大気環境変動の正確な予測・評価に大きく寄与し、今後の温室効果気体等の排出量削減シナリオの策定にも貢献が大である。また、次期IPCC報告書に向けたモデル間相互比較プロジェクトであるCMIP6、CCMI、およびAeroChem-MIPにも、本科研費課題の化学気候モデルを用いて参加しており、大気汚染が与える気候影響の理解の高精度化に寄与し、気候政策の策定にも大きく貢献する予定である。 -
衛星データシミュレータを用いた雲解像モデル検証手法の開拓(国際共同研究強化)
研究課題/研究課題番号:15KK0157 2016年 - 2018年
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)
増永 浩彦
担当区分:研究代表者
配分額:13390000円 ( 直接経費:10300000円 、 間接経費:3090000円 )
地球大気の成り立ちにおいて放射と対流の相互作用が重要な役割を果たすことは知られているが、個々の対流雲システムの発達過程に根差したメカニズム解明には至っていない。本研究では、衛星データ解析をもとに熱帯対流のライフサイクルに伴う放射対流相互作用の実態に迫る。解析の結果、湿潤な大気環境下では深い対流の活発化に1-2日も先行して巻雲の雲量が増大し始め、大幅な長波(熱赤外)放射の抑制をもたらしていた。この結果を熱力学収支に基づく簡単な概念モデルを検討したところ、先行発生する巻雲による放射効果が対流圏下層の上昇流と協働することで、観測された通り2日程度の時間スケールで対流活発化が促されることを見出した。
熱帯は世界有数の多雨地域であるが、熱帯降水雲の発生発達メカニズムには未解明の点も多い。本研究は、熱帯における雨雲強化メカニズムのひとつとして、巻雲がもたらす温室効果が大気下層の湿潤化を促し激しい降水に至る可能性を衛星データ解析と簡単な理論的考察から示した。雲の温室効果と雲対流の相互作用は以前から研究されていたが、上記のプロセスが1-2日程度の短い時間で進行することを指摘した研究は他に類を見ず、新規性の高い発見である。地球温暖化予測などに使われる気候モデルでこのような短時間の放射・対流相互作用が再現されるのか、ひいては将来気候予測の信頼性にどの程度影響がを及ぼすのか、今後の解明が待たれる。 -
衛星データシミュレータを用いた雲解像モデル検証手法の開拓
研究課題/研究課題番号:26287113 2014年4月 - 2018年3月
増永 浩彦
担当区分:研究代表者
配分額:16640000円 ( 直接経費:12800000円 、 間接経費:3840000円 )
本研究課題では、衛星データシミュレータに代表される数値気象モデル性能評価の方法論として、プロセス指向の衛星データ解析手法を新規開発することを目的とする。CloudSat・Aqua・TRMM衛星など先進的な地球観測衛星を横断的に活用することにより、降水効率や積雲質量フラックスなど従来衛星観測から推定することが困難とされてきた気象学パラメータを推定することに成功した。本成果は、気候モデル積雲パラメタリゼーションの評価などに新たな可能性を拓く観測資料を与えるものである。
-
多衛星データ複合解析に基づく熱帯大気循環場の全球観測:「見えない風」を見る
2014年4月 - 2017年3月
科学研究費補助金
担当区分:研究代表者
-
衛星データシミュレータを用いた雲解像モデル検証手法の開拓
2014年4月 - 2017年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
担当区分:研究代表者
-
熱帯大気と積雲対流の相互作用:衛星複合利用による全球観測研究の新展開
2011年4月 - 2014年3月
科学研究費補助金 若手研究(B)
担当区分:研究代表者
-
さまざまな大規模赤道波に伴う対流雲発達過程の観測研究:統一的理解に向けて
2008年6月 - 2011年3月
科学研究費補助金 若手研究(B),課題番号:20740269
増永 浩彦
担当区分:研究代表者
-
熱帯降水時空間変動の衛星データベース作成と熱帯季節内振動の観測的研究
2007年10月 - 2009年3月
科学研究費補助金 若手研究(スタートアップ)
担当区分:研究代表者
熱帯域の対流活動は大規模大気循環において中心的な役割を果たし、また熱帯季節内振動の物理機構のさらなる理解においても熱帯降水システムの広域観測は本質的に重要である。本研究では、熱帯降雨観測衛星(TRMM)赤外輝度温度とレーダ降雨頂高度を用いて熱帯降水システム時空間変動の気候学的理解を深めることを目的とする。 とくに、熱帯気象学の代表的な研究課題として、本研究では熱帯季節内振動の駆動・伝搬特性に着目する。熱帯季節内振動の主要なモードとして知られるマデン・ジュリアン振動(MJO)は、熱帯気象のみならず熱帯低気圧発生への影響という観点から台風の予測にも間接的なかかわりを持つが、その振動・伝播機構は未だ解明されていない点も多い。本研究では、研究代表者のこれまでの研究成果をさらに発展させ、ケルビン波や赤道ロスビー波といった他の赤道波モード間の相互作用によりMJOの物理機構を説明する可能性を追求する。また、作成したTRMM衛星データセットを研究コミュニティに公開し、関連分野の研究者との幅広い連携を図ることも目的とする。