科研費 - 吉野 正人
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高強度中性子環境における電気絶縁被覆機能材料の反跳原子による特性変化
研究課題/研究課題番号:22H01209 2022年4月 - 2026年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
田中 照也, 近田 拓未, 吉野 正人, 佐藤 文信, 八木 重郎, 菱沼 良光
担当区分:研究分担者
冷却材として液体金属を用いる先進核融合発電炉では、強磁場によるMHD圧力損失 (電磁ブレーキ効果) を抑制するために、金属配管の内壁に厚み1μm程度のセラミック電気絶縁被覆が施される計画であるが、高エネルギー中性子が大量に照射される炉内では、隣接する金属壁や冷却材中の金属原子が中性子によりはじき飛ばされて被覆層に入射し続けることになる。このはじき飛ばされた反跳金属原子は被覆材料中で0.3~6μmの深さまで到達し、濃度も5年間の運転中に原子数比で数%のオーダーに達する。本計画では、反跳金属原子がセラミック電気絶縁被覆の絶縁性能に及ぼす影響とそのメカニズムを調べるための実験研究を展開する。
反跳金属原子の入射を模擬したセラミック電気絶縁被覆を金属基板上に成膜するために、核融合研において3連るつぼを備えた電子ビーム蒸着装置を新たに構築し、セラミック材料と反跳金属原子を模擬した金属粒子の交互蒸着による成膜を可能とした。また、Y2O3被覆試料の成膜を開始し、X線光電子分光(XPS)により適切な組成比が得られることを確認するとともに、蒸着速度の評価等を実施した。引き続きセラミック材料と金属材料を同時に蒸着するための抵抗加熱蒸着源の追設を進めている。
被覆試料の微視的電流経路を観察する目的で、名古屋大学の原子間力顕微鏡(AFM)にConductive-AFMアタッチメントを設置した。前述のY2O3被覆を含む複数の電気絶縁被覆試料表面の観察を行い、表面微細構造の観察と同時に、被覆に生じた小孔等での漏れ電流経路の分布が明確に取得できることを確認した。今後、反跳金属原子の入射を模擬した電気絶縁被覆の漏れ電流経路の直接的な評価に威力を発揮することが期待できる。
中性子照射効果を模擬するためのイオンビーム照射実験立ち上げでは、異なる照射装置に共通して取り付けが可能な、照射下電気伝導測定用のフランジ付き試料ホルダーと測定系の構築を行った。また、核融合研のタンデム加速器に高温照射実験用ビームラインとチェンバーを新たに設置して、チェンバー中心までのビーム輸送を確認し、照射実験準備を完了した。静岡大学では、Y2O3、ZrO2被覆へLiイオンビームを入射させ、約0.1~1原子%のLi原子を含有する試料の製作が行われた。中性子照射損傷効果を模擬した1dpa(displacement per atom)のイオンビーム照射も行われ、現在、電気伝導度の変化について詳細評価が進められている。
反跳金属原子の入射を模擬したセラミック電気絶縁被覆を金属基板上に成膜するための電子ビーム蒸着装置の構築に若干遅れが生じた。そのため、実施計画に記載していた、“反跳金属原子入射を模擬して製作した絶縁被覆試料を高温状態で長時間保持した際の電気絶縁特性の変化を調べる実験“の開始が遅れることとなった。
この評価実験の実施については、電子ビーム蒸着装置の基本部分の構築は完了しており、セラミック材料と金属原子を交互に蒸着させる反跳金属入射模擬試料は成膜可能となっていること、また、高温での電気伝導特性評価はこれまでも本グループにおいて頻繁に実施してきていることから、次年度の早い段階で着手することが可能である。
本年度に構築した電子ビーム蒸着装置を用い、先進核融合炉用電気絶縁被覆の候補材料であるEr2O3、Y2O3、MgO、ZrO2等の被覆試料を金属基板上に成膜する。その際に、炉内で入射が想定される反跳金属原子(Li, Fe, Cr等)も併せて蒸着することで、金属原子含有被覆試料を製作する。様々なセラミック材料と含有金属原子の組み合わせの被覆試料に対し、核融合炉で想定される700℃までの高温、及び、最大数V/μmの電界を印加して電気伝導度の変化を調べる。電気伝導度が増加した被覆試料について、本年度原子間力顕微鏡(AFM)に取り付けたConductive-AFMアタッチメントを使用し、微視的電流経路の直接観察を試みる。さらに、中性子照射損傷効果により材料原子が絶えず位置を変える複雑な核融合炉環境を模擬するために、被覆試料に核融合研のタンデム加速器、大阪大学オクタビアン施設等を用いてイオンビームを照射し、電気伝導度の変化を調べる。
被覆試料の初期材料状態、及び、上述の融合炉模擬環境下における材料状態の変化は走査型電子顕微鏡(SEM)、X線回折装置(XRD)、X線光電子分光分析装置(XPS)、軟X線分光分析装置(SXES)等を用いて分析し、電気伝導度変化との相関を調べる。また、イオンビーム照射中の発光スペクトルや電子ビーム及びレーザー誘起発光(カソードルミネッセンス、フォトルミネッセンス)スペクトルの測定は、セラミック材料の組成や結晶構造、結晶度の情報を与えることから、本研究に有効な分析手法として導入する。
以上の被覆試料製作、核融合炉模擬環境下にでの電気伝導度の評価、材料状態の分析に加え、高エネルギー粒子が入射した際の材料原子の挙動計算等を実施することで、過酷な核融合炉環境における金属原子含有電気絶縁被覆の絶縁特性変化のメカニズムを明らかにし、より長寿命化が望める材料の選択につなげる。 -
波長分解中性子イメージングが拓くTlBr放射線検出器内キャリア輸送機構の新機軸
研究課題/研究課題番号:22H02008 2022年4月 - 2025年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
渡辺 賢一, 吉野 正人, 野上 光博, 人見 啓太朗
担当区分:研究分担者
波長分解中性子イメージング法のひとつで、中性子回折によりバルクサンプル中の結晶情報の可視化が可能な中性子ブラッグディップ( BD)イメージングを活用し、さらに電子回折法である電子後方散乱回折法(EBSD)、偏光歪みイメージング法を併用することで、歪み制御された部位を選択的に抽出して検出器製作・キャリア輸送特性の評価を行い、中性子回折の結果を元に行った第一原理計算の結果と比較することで、歪み・バンド構造とキャリア輸送特性の関係を明らかにする。
当該年度の研究実績の概要は以下の通りである。
1)中性子BDイメージング法、EBSDおよび偏光イメージングによる歪み評価:同一サンプルに対し、中性子BDイメージング、EBSDおよび偏光イメージングによる測定を行った。表面のみの情報であるEBSDで得られた結晶方位分布は、バルク結晶内部の情報を反映する中性子BDイメージングと良く整合するという結果が得られた。この結果は、結晶育成方向には、ある程度の領域で結晶方位が揃っていることを意味し、結晶育成方向に垂直に切り出したウェハサンプルに関しては、結晶方位分布の評価法として、EBSDがスクリーニング法として有用であることが示された。偏光イメージングで得られた歪み分布とEBSDで得られた方位分布の比較では、必ずしも一致しておらず、光学的に観測できる歪みと結晶方位・歪みの関係については更なる検討が必要であることがわかった。
2)歪み制御された部位の選択および検出器の製作 :EBSDにより結晶方位分布を評価したサンプルを用いて、検出器を製作し、その評価を行った。
3)キャリア輸送特性の評価:検出器の性能指数である比抵抗、μτ積および移動度を評価するシステムを構築した。また、いくつかのサンプルについて、これらの性能パラメータを評価し、それらの結果を予備的にまとめた。
4)第一原理計算によるバンド構造評価:TlBrに関する第一原理計算に基づくバンド構造計算をする環境を整備した。
上述の実施項目に関して、1)中性子BDイメージング法、EBSDおよび偏光イメージングによる歪み評価については、各手法の結果の関連性も明らかになりつつあり、順調に進展している。また、2)歪み制御された部位の選択および検出器の製作 、3)キャリア輸送特性の評価、4)第一原理計算によるバンド構造評価についても、各種環境整備が進んでおり、初年度としては想定通りの進展状況である。
今後の推進方策は以下の通りである。
1)中性子BDイメージング法、EBSDおよび偏光イメージングによる歪み評価:EBSDの結果が中性子BDイメージングの結果と良く整合することから、EBSDと偏光イメージングあるいは実際の歪みとの関連性について検討を進めて行く。
2)歪み制御された部位の選択および検出器の製作:EBSDで評価されたサンプルで検出器を製作し、その性能評価を進め、各々の関連性について検討する。
3)キャリア輸送特性の評価:製作した検出器のキャリア輸送特性を評価し、歪み等との関連性を調べる。
4)第一原理計算によるバンド構造評価:いくつかの条件で、第一原理計算を行い、得られた結果を検討し、実サンプルとの関連性についても検討を始める。 -
チタンと鉄の中の合金元素近傍の局所格子歪解析とマルテンサイト変態への格子歪の影響
研究課題/研究課題番号:19K04991 2019年4月 - 2022年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
森永 正彦, 吉野 正人, 湯川 宏
担当区分:研究分担者
金属中に原子サイズの違う合金元素が入ると、合金元素近傍の母金属格子に局所歪が導入される。この格子歪エネルギーの大きさは、熱エネルギーに匹敵する。従って、局所格子歪は、温度とともに変化する多くの合金の性質(例:強度、相安定性)に影響を及ぼす。それ故、局所格子歪の大きさを求めて、合金の性質との関係を調べることは重要である。
本研究では、チタン合金と鉄合金中の局所格子歪の大きさを、最新の計算方法を用いて初めて決定する。格子歪の成り立ちについて基本的な考え方を創出するとともに、両合金に現れるマルテンサイト変態の開始温度と局所格子歪の関係を調べ、合金設計の新しい指針を導出する。
金属中に原子サイズの違う合金元素(M)が入ると、合金元素近傍の母金属格子に局所歪が導入されることは昔からよく知られている。本研究は、2元系のチタン合金と鉄合金の中のM近傍の局所格子歪の大きさを、擬ポテンシャル法を用いて初めて計算している。
計算された局所格子歪の大きさは、Mや結晶構造とともに大きく変化する。チタン合金と鉄合金のマルテンサイト開始温度(Ms)は、Mの周りに生じる局所格子歪と相関があり、局所格子歪は、これら両合金のマルテンサイト変態の進行を抑えるように働いている。
合金中の種々の合金元素近傍の局所格子歪の大きさを系統的に決定した最初の学術研究である。また、マルテンサイト変態は金属材料学の中核をなす変態であり、本研究成果は、実用上も重要な鉄合金やチタン合金の設計と開発を行う上で重要な知見を与える。 -
水素含有希土類添加酸化物の発光特性の物理と新規シンチレータ材料応用への展開
研究課題/研究課題番号:18K04747 2018年4月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
吉野 正人
担当区分:研究代表者
配分額:4420000円 ( 直接経費:3400000円 、 間接経費:1020000円 )
前年度までに得られた研究成果に基づいて、添加元素や水素、酸素空孔の影響が見られた系について系統的な実験および計算の結果を整理し、その傾向を明らかにしてメカニズムのモデル化を行うための評価、考察を行った。
Y3Ga5O12(YGG)において、Zn添加により4f-5d吸収ピークが短波長側にシフトしていることからわかるPr3+の5d準位が高エネルギー側へシフトしている傾向と、ホストの吸収スペクトルの変化からわかるZn添加によりバンドギャップが小さくなる傾向から、励起された5d準位にあった電子が伝導帯へ移動するような熱活性のプロセスが増加した可能性を示し、これが4f-4f発光が減少した原因と考えた。また、同様にY3Al2Ga3O12(YAGG)においてもZn添加によりPr3+の5d準位が高エネルギー側へシフトしている傾向がみられたが、バンドギャップが大きく5d-4f発光を示すYAGGにおいてはYGGのような影響よりも活性化エネルギーの増加から5dから4fへの非輻射遷移が減少し、5d-4f発光は増加し、4f-4f発光は減少する傾向となったと考えた。
欠陥準位の働きについて温度依存性にも注目したため、ホストによる遷移スペクトルの温度依存性の違いなどを調べるために、これまでに水素含有試料で測定して水素、酸素欠陥の効果を調べてきたペロブスカイト型酸化物、またパイロクロア型酸化物を例にとってホスト組成、ホストと希土類イオンの組み合わせによる遷移スペクトルの温度依存性の違いについて調べた。特にパイロクロア型酸化物のうち一部の系において添加した希土類イオンが元のイオンよりも小さい場合に存在位置に広がりをもつことが予測でき、これが希土類イオンの遷移スペクトルをブロードにする可能性があると考えた。またこれを実測スペクトルにて確認した。
昨年度の進捗状況に加えて、Zn添加Y3Ga5O12、Zn添加Y3Al2Ga3O12におけるPr3+の4f-5d吸収やホスト吸収による発光へのZnの添加効果について、実験結果に基づいてモデルを提案しているため、目標とした進捗の一部は達成したが、水素の影響についてモデルの提案まで達していないため。また、遷移スペクトルの温度依存性についても調べることとしたが、他の系と異なる傾向を示す酸化物系をみいだし、結果が得られている。
これまでの進め方に引き続き、Zn添加Y3Ga5O12、Zn添加Y3Al2Ga3O12におけるPr3+の発光・励起スペクトル測定結果および第一原理計算による欠陥準位の結果から水素、酸素空孔の影響についてその過程のモデルの構築について検討する。特に水素の影響についてモデルの構築を目指す。また、遷移スペクトルの温度依存性についてもパイロクロア型構造において特徴的な傾向が得られているため、引き続き関連の構造や組成を含めて傾向を調べることで、構造や組成とスペクトルの温度依存性の関係を整理する。 -
核融合炉中性子環境における温度・ひずみセンサーの特性変化、使用限界予測技術の確立
研究課題/研究課題番号:16K06945 2016年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
田中 照也, 菱沼 良光, 吉野 正人, 坂上 裕之, 佐藤 文信
担当区分:研究分担者
熱電対等の金属センサー材料を核融合炉内の中性子照射環境下で使用した際に想定される核変換に伴う組成変化の影響を調べるための技術として、組成を変化させた溶解インゴット試料の製作が有効であることを確かめ、また、炉内で長期使用した際に想定されるK及びN熱電対の温度測定精度の低下割合を評価した。はじき出し照射損傷効果の影響を調べる技術としては、スパッタリング成膜によるイオンビーム照射用薄膜試料の製作が、高温・重照射条件においても適用できる有効な技術であることを確かめた。
研究対象とした2つの中性子環境下材料状態変化の模擬手法は、核融合発電炉以外の中性子発生システムも含めて様々なセンサー材料の特性変化を評価するための技術として適用できる。また、核融合炉を対象にこれら手法を用いて今後蓄積される特性変化のデータについても、核変換量やはじき出し損傷量を共通パラメーターとして、エネルギーや強度の異なる中性子発生環境における特性変化予測につなげることができる。 -
希土類化合物の化学結合のエネルギー表現と水素貯蔵材料設計への応用
研究課題/研究課題番号:16K06711 2016年4月 - 2019年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
森永正彦
担当区分:研究分担者
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核融合炉水素化物遮蔽ブロックの水素保持特性評価および特性向上・長寿命化の研究
2013年4月 - 2016年3月
科学研究費補助金 基盤研究(B)
田中照也
担当区分:研究分担者
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金属化合物の化学結合のエネルギー表現と水素貯蔵化合物の量子設計への応用
2013年4月 - 2016年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
森永正彦
担当区分:研究分担者
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三原色蛍光体の発光メカニズムの理論的解釈と透光性多結晶体シンチレータ材料への応用
2012年4月 - 2015年3月
科学研究費補助金 若手研究(B)
担当区分:研究代表者
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化学結合のエネルギー表現に基づく鉄鋼の水素脆化機構の解明と量子合金設計への展開
2010年4月 - 2013年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
担当区分:研究分担者
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金属酸化物の化学結合のエネルギースケールでの新しい表現と量子材料設計への展開
2008年4月 - 2010年3月
科学研究費補助金
森永正彦
担当区分:研究分担者
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焼結合成による新規赤外光増幅器用材料の創製と第一原理計算による電子状態の解析
2006年4月 - 2008年3月
科学研究費補助金 若手研究(B)
担当区分:研究代表者
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アルミニウムとエルビウムを共添加した二酸化チタンからの異常発光現象
2006年4月 - 2008年3月
科学研究費補助金
森永 正彦
担当区分:研究分担者
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電子論によるペロブスカイト型酸化物の構造相転移とプロトン伝導の予測
2000年4月 - 2003年3月
科学研究費補助金 DC1
吉野 正人
担当区分:研究代表者