科研費 - 戸田 祐嗣
-
中小洪水時の礫河川のリーチスケール土砂動態の時系列変化の実測
研究課題/研究課題番号:21H01432 2021年4月 - 2025年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
椿 涼太, 戸田 祐嗣, 尾花 まき子, 赤堀 良介, 山口里実, 吉村 英人, 周 月霞
担当区分:研究分担者
礫河川は,握りこぶし大や人頭大の大礫とそれより小さな砂礫で河床が覆われている.礫河川では,毎年から数年に一度という頻度で起きる中小洪水時に,大礫は移動しないが,その間を縫うように,指先サイズからそれよりも小さな砂礫が流されていく.洪水中にいつ,どこで,どれくらいの大きさの砂礫が,どれくらいの量流れていくかは,現象が複雑であるため,よく把握できていない.本研究では,河底に設置する圧力変動を記録する独自の現地計測手法を使いこなして,礫河川で中小洪水時に砂礫がどのように流されていくかを解明し,その河床形状が今後どのように変遷していくかを予測するために役立てる.
北海道を流れる十勝川水系札内川をフィールドとし,6月に実施されたダムからのフラッシュ放流にあわせて,ハイドロフォンと圧力変動計測装置・Spheraの二つの計測装置を一セットとして河道内の三箇所に配置して,フラッシュ放流中の土砂移動と河床近傍での圧力変動のデータを取得した.このフィールドでは,粗粒化は進行しておらずフラッシュ放流を含めた中小出水でも,一定の土砂移動がおきている.河川管理者が工区設定を行って継続的に河川環境調査を実施しており,人為的攪乱として水路掘削が行われた工区を中心とした調査を行った.
現地計測では,地点毎に,ハイドロフォンで取得される2チャンネル (Ch), 96 kHzの圧力変動データ,圧力変動計測装置・Spheraにより得られる3 Ch, 50 Hzの圧力変動データを取得した.2019年から2022年まで4年分のフラッシュ放流に合わせて実施した現地計測結果をもとに,また河川管理者により実施された測量結果も参照しつつ,掘削水路の河床変動と土砂移動状況の分析をおこなった.その結果,水路掘削の直後は河床形状が安定しておらず,局所的な堆積や洗掘が生じていたが,近年は掘削水路の内部はフラッシュ放流中には動的平衡に近い状態であり,大きな河床変動が生じていないことは確認された.一方で,主流部との接合部では河床変動が継続しており,掘削水路でおきる今後の河床変動を検討する上での留意点となっていることが示唆された.
現地計測で得られた圧力変動データから,底面せん断応力以外の情報を抽出するための基礎検討を行うために,数値計算結果と水理実験を用いて,Spheraを含む粗面流れを再現し,Spheraで計測する底面圧力と乱流の関連の検討を進めた.
水理実験では,実河川の礫河床を水路内で再現して通水し,Particle Image Velocimetry (PIV)により,流速分布を取得しつつ,現地調査でも使用するSpheraにより圧力データを取得した.数値計算では水理実験を,大規模な乱流を直接解像するLarge Eddy Simulationを用いて再現した.
流速分布について水理実験のPIVで得た平均流速分布と,LESによる平均流速分布を比較して,LESにより十分実験の流速分布が再現できることを確認した.続いて,数値計算で再現したSpheraで計測される底面圧力と,内部の圧力や流速の相互相関の空間分布を把握して,底面圧力から流況を把握できる空間的な範囲を明らかにした.一方,実験結果からSpheraによる圧力とPIVによる流速の相関関係について,はっきりとした関係は確認することはできなかった.これは,水理実験ではPIVの流速とSpheraによる底面圧力の計測の同期が不十分であったことが要因と考えられるため,水理実験でのPIVとSpheraの時刻の同期方法について改善が必要と考える.
底面圧力が大きいとき・平均的なとき,小さいときという三つの条件毎にLESで得られた流速分布を整理して,圧力の大小に応じたセンサ周りの流況を把握することができた.
これまでの現地調査により,ハイドロフォンの機器浸水が2割程度発生して,データ欠測が生じていた.ハイドロフォンの耐久性の向上をはかり,現地計測での欠測防止を図る.また,Spheraのセンサ周りを金属ワッシャーとコンクリートで覆っていたが,フラッシュ放流による土砂移動で著しい摩耗が生じ,センサ周りの変形により取得データが不安定となっていた.コンクリートの素材変更等により耐摩耗性能を向上し,機器の耐久性とデータ取得の安定性の向上をはかる.
数値計算結果と水理実験を用いて,Spheraで計測する底面圧力と乱流の関連の基礎的検討をさらに進める.さらに,その検討結果をもとに現地計測データの分析を進めて現地河川でおきている流れ・土砂移動・河床変動の相互作用の分析に展開する.すなわち,現地計測結果から,地点毎の土砂移動形態の類型化と,河道網にそったリーチスケール土砂動態の時系列変化として整理する.ここで時系列とはフラッシュ放流の水位上昇期~ピーク期~水位降下期という意味合いだけでなく,経年的な変化も追跡する.
これらの過去に現地で起きた現象の検討結果を踏まえつつ,フラッシュ放流の放流水量を削減しつつ攪乱効果の発揮を狙う方策を提案することを狙う. -
気候変動への段階的適応のための河道地形・植生の中長期動態予測
研究課題/研究課題番号:20H02257 2020年4月 - 2025年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
戸田 祐嗣, 尾花 まき子, 椿 涼太, 周 月霞
担当区分:研究代表者
配分額:17550000円 ( 直接経費:13500000円 、 間接経費:4050000円 )
河川工学分野における気候変動への段階的な適用策を構築するため,本研究では気候変動影響を考慮したうえで河道地形と植生繁茂動態を数十年(10~30年程度)の時間スケールで予測できる技術を開発することを研究目的とする。この目的を達するため,(1)過去から現在に至る河道地形・植生動態の中長期実態分析,(2)既に気候変動の影響が現れつつある近年の大規模出水後の地形・植生動態変化の実態把握,(3)数十年スケールでの河道地形・植生動態予測モデルの開発,および(4)開発されたモデルを用いて将来気候条件へ遷移していく中での段階的な河道地形・植生繁茂を予測する。
河川工学分野における気候変動への段階的な適用策を構築するため,本研究では気候変動影響を考慮したうえで河道地形と植生繁茂動態を数十年(10~30年程度)の時間スケールで予測できる技術を開発することを研究目的とする。この目的を達するため,(1)過去から現在に至る河道地形・植生動態の中長期実態分析,(2)既に気候変動の影響が現れつつある近年の大規模出水後の地形・植生動態変化の実態把握,(3)数十年スケールでの河道地形・植生動態予測モデルの開発,および(4)開発されたモデルを用いて将来気候条件へ遷移していく中での段階的な河道地形・植生繁茂を予測する。
2022年度は,過去から現在に至る河道地形および植生動態の中長期実態分析として,植生繁茂とそれに伴う河道地形の変化が生じている長良川において,1960年代から2010年代までの水位・流量データ,航空写真,河川横断測量,レーザープロファイラデータを収集し,河道地形,草本,木本別の植生繁茂状況変化等を分析し,長期的な河道地形,植生繁茂状況の変化を実証的に明らかにした。
また,長良川の実態分析に基づいて,河道地形,植生動態を予測する平面2次元浅水流・河床変動解析に植生動態モデルを統合した数値シミュレーションモデルの開発を行った。特に2022年度は,植生動態モデルの汎用化に取り組み,植生の初期侵入,洪水による破壊モデルを平面二次元流れ・河床変動モデルに組み込んだ。また,平面二次元流況解析と河床変動解析により,対象河川の冠水頻度,河床材料移動頻度解析を実施し,植生立地基盤の物理環境特性を類型化した。
サブテーマ(1)に関連して,長良川を対象とした過去から現在にいたる河道地形・植生動態の実証的把握を実施し,大規模な洪水前後の植生の流出特性が把握できている.人為的な植生伐採,河道掘削に関するデータも入手し,自然営力以外での植生変化に関しても実態把握が進んできている.また,数値解析のための入力地形・入力植生を整理し,解析の初期条件として活用している.
サブテーマ(2)に関して,気候変動の影響が表れつつある近年の洪水前後の河床地形,植生動態の変化については,ALB測量による面的なデータを収集し,植生流出特性の詳細把握が進んできている.
サブテーマ(3)の数値解析モデル開発について,植生動態モデルの開発もおおむね概成し,モデル検証のための数値計算も実施済みである.
サブテーマ(4)については,将来の気象変動条件下での洪水外力の取り扱い方について,分析を開始している状況である.
以上のように,当初の予定に沿った成果が上がっており,順調に進展している.
2023年度も,サブテーマ1~3の過去から現在に至る植生動態の中長期把握,近年の洪水による植生動態調査,数値モデル開発を実施する.特に本研究においては,近年の洪水前後での実測データが,植生動態の把握,モデルの検証・開発の両面で重要であることから,引き続き,サブテーマ(1),(2)の現地調査を実施し,実証データの充実をはかる.
サブテーマ(3)について,近年の洪水災害の激甚化の影響により,大規模・広範囲の植生伐採や河道掘削が実施されていることから,人的な植生・河道地形管理の効果をモデルで適切に再現できているかを検証し,モデルの汎用化と実用化をはかる.
2023年度以降はサブテーマ(4)の将来気候での洪水流量変化を考慮した数値解析の実施に徐々に重点を移していくため,将来の気候変動時での洪水外力シナリオについて,現況流量に変化倍率を乗じる手法と,d4PDFの将来気象データから典型的な将来洪水波形として適切なものを選択し使用する手法の両面で数値解析を実施し,気候変動による将来の河道地形・植生動態の変化傾向を明らかにしていく予定である。 -
治水安全と生態系保全の相互影響関係を考慮した樹林化河道の最適管理戦略
研究課題/研究課題番号:20H02261 2020年4月 - 2023年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
宮本 仁志, 戸田 祐嗣
担当区分:研究分担者
日本の多くの河川で経年進行する樹林化に対して、本研究では、近年頻発する豪雨災害に鑑み、「早急に対処しなければならない樹林化」と「残しておいても大丈夫な樹林化」を合理的に判別する新しい河川技術の開発を行う。まず、現地観測によって樹林化河道の消長過程を実証的に調査し、樹林化現象が顕在化する空間スケールとその経時変化特性を検討する。次に、観測事実から得られた樹林化特性を用いて解析モデルによる分析を行い、対象河道の治水安全性と樹林化傾向の相互影響関係を確率的に評価する。そして、その結果から河川水系各所の河道に優先順位をつけ、治水安全の観点から戦略的に河川を管理するために最適となる工学的手法を提案する。
本研究では、樹林化した河川の管理手法に関して、現地観測データの分析手法と解析モデルの開発を検討した。観測データ分析では、ドローンによって樹林化河川の経年変化調査を行い、深層学習による精緻な河川地被状態の自動判別モデルを開発し、洪水後の礫河原維持・樹林化再生の素過程を定量評価した。解析モデルでは、決定論的モデルを用いて洪水流による河道地形・植生変化や人為的な伐採後の植生回復状況を再現し、確率論的モデルを用いて洪水規模の違いによる樹林化傾向と治水安全評価の分析を行なった。
日本の多くの河川では1970年代までは10%であった樹木面積が2000年には20%に増加し、全国的に河川の樹林化傾向が顕著である。この河道樹林化は、洪水の流下能力を低下させ、下流で流木被害を引き起こし、平常時の砂州生態系を変質させるなど、河川環境管理上で様々な課題を呈している。本研究の成果はこの課題に対し、最新のドローンとAIによる河川モニタリング手法を開発し、数値解析モデルによる河川生態系・治水安全度の経年変化に対する分析技術を開発したものであり、最近毎年のように頻発する豪雨水害の現状を鑑みると、地球温暖化に適応的な安全・安心の社会発展に資する学術的・社会的意義がある。 -
裸地砂州への植生初期侵入・再萌芽の実態把握と機構解明
研究課題/研究課題番号:17K06575 2017年4月 - 2020年3月
戸田 祐嗣
担当区分:研究代表者
配分額:4680000円 ( 直接経費:3600000円 、 間接経費:1080000円 )
国内外の河川で問題となっている河川樹林化現象に関して,樹林繁茂のきっかけとなる裸地砂州への植生の初期侵入・再萌芽機構に関する定量的・継続的な現地調査を実施した.調査の結果,裸地砂州への植生の種子供給について,河川水際線付近の帯状の領域と裸地砂州上の砂堆背後で大きくなり,前者は水散布が支配的で後者は風散布による種子の集積が支配的であることが示された.水際付近での帯状の侵入域の内側境界と外側境界は,種子散布時期の冠水頻度等により決定されることが明らかになった.これらの観測結果に基づいて,植生の初期侵入箇所を予測する数値モデルを開発し,モデルの精度,妥当性が確認された.
裸地砂州への植生の初期侵入・再萌芽について,これまでは現地観測の困難さから実測データが不足していたが,本研究の成果により実河川での定量的・実証的データが得られ,その知見に基づいて植生初期侵入の予測モデルが開発されており,データ,モデルともに新規性の高い学術的成果が得られた.河川の樹林化現象は国内外の河川で報告され,河川管理上の課題となっており,それに対して,樹林繁茂のきっかけとなる初期侵入機構を明らかにする本研究の成果は,今後の河川植生管理の効率化・高度化への発展が期待される有用性・発展性の高い成果と考えられる. -
礫河川の土砂移動・河床近傍流れ・水温の通年・多地点モニタリング技術開発と現地計測
研究課題/研究課題番号:17K06574 2017年4月 - 2020年3月
椿 涼太
担当区分:研究分担者
河川環境調査に利用するための新たな圧力変動計測システムが開発された.その圧力変動計測システムと,既往研究で開発された土砂移動計測システムを用いて,フラッシュ放流に合わせた河道掘削・土砂還元について現地調査を行った.現地調査結果で確認された圧力変動データのノイズについて,室内実験を行って,土砂移動にともなって生じた可能性が高く,低周波通過フィルターの使用により,ノイズを除去できることを確認した.河床近傍流れ・水温を通年・多地点でモニタリングできる技術が確立できた.
礫河川が抱える河床環境上の課題がある河川において,地点毎に異なる土砂移動や河床近傍の乱流を,素過程から定量的かつ緻密に把握できれば,その課題の要因を分析することができる.要因が解明できれば,具合的かつ効率的な対応策を検討・確率することに役立つ.このことにより,より自然環境が豊かで,洪水氾濫の危険性の少ない河川管理を行う上で,有益な情報を取得・提供できる手段となる. -
洪水インパクトからの樹林化河道再生過程の実証把握と機構解明
研究課題/研究課題番号:16H04422 2016年4月 - 2020年3月
宮本 仁志
担当区分:研究分担者
河川の水害防御と環境管理に大きく関わる樹林化問題に対して、洪水後の植生再生過程に焦点を絞り、現象の実態把握と再生機構を検討した。利根川水系鬼怒川での現地調査では、植生繁茂の履歴に加えて、河床の掃流力・比高差など水理・地形条件が植生侵入に影響していた。鈴鹿川での調査では、砂州水際・砂堆背後で埋土種子量が大きいが、実際の発芽は好適な物理条件が満たされる場所にのみ生じる傾向があった。数理生態モデルの解析では、植生の侵入・成長が活発で樹林化傾向が顕著な河川がある一方で、洪水規模や河床低下が大きく裸地化傾向となる河川があり、植生の初期再生過程には流量・地形・植生の相互作用が大きく影響することがわかった。
日本を含めた世界各地の河川流域において経年進行する河川の樹林化は、河川を管理するうえで様々な問題を引き起こす。これは、近年の地球温暖化で頻発している洪水の流下能力低下に加えて、河川下流域での流木被害、さらには、礫川原・砂州生態系の生物多様性の喪失にも繋がっている。本研究は、特に樹林化される河川において洪水後の初期再生過程の解明に焦点を絞ったものであり、河川本来の、砂州・礫河原が洪水により自律的に保全・維持されるための基礎過程の一部を実証的に明らかにしている。本研究の成果は、治水と環境のバランスを的確に考慮した、これからの新しい河川管理技術の確立のために重要な基礎的知見を与えるものとなっている。 -
河川植物の群落間競争モデル開発に基づく単独植生群落の異常繁茂抑制技術の構築
2012年4月 - 2015年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
担当区分:研究代表者
-
水・物質輸送-生物動態連成系としての河川生態系の物質循環機構に関する研究
2007年 - 2010年
科学研究費補助金 基盤研究(B)
辻本哲郎
担当区分:研究分担者
-
流量・流砂量に着目した河床付着藻類一次生産制御手法の開発
2007年 - 2008年
科学研究費補助金 若手研究(B),課題番号:19760336
戸田 祐嗣
担当区分:研究代表者
-
砂州植生の成長解析に基づく植生砂州・裸地砂州の形成条件に関する研究
2005年4月
科学研究費補助金 若手研究(B),課題番号:17760405
戸田 祐嗣
担当区分:研究代表者
-
河川における新しい数理生態モデルの展開
2004年4月
科学研究費補助金 萌芽研究
担当区分:研究分担者
-
高水敷植生の成長・破壊を考慮した礫床河川の河道地形・栄養塩環境の形成機構
2003年4月 - 2005年3月
科学研究費補助金 若手研究(B),課題番号:15760376
戸田 祐嗣
担当区分:研究代表者
-
流れ・物質輸送・一次生産に着目した礫床河川の生態系基盤形成機構に関する研究
2002年4月
科学研究費補助金 基盤研究(A)(2)
担当区分:研究分担者
-
流域負荷を考慮したマングローブ林の物質循環機構に関する研究
2001年4月
科学研究費補助金 萌芽研究
担当区分:研究分担者
-
洪水規模に着目した河川高水敷土壌環境の形成機構に関する研究
2001年4月
科学研究費補助金 若手研究(B)
担当区分:研究代表者
-
瀬と淵の水理構造と生物一次生産に関する研究
1999年4月
科学研究費補助金 基盤研究(A)(2)
担当区分:研究分担者
-
洪水流による低水路・高水敷間の土砂・栄養塩・有機物の交換に関する研究
1999年4月
科学研究費補助金 奨励研究(A)
担当区分:研究代表者
-
生態システムの要素としての河畔林の物質交換機能に関する調査研究
1999年4月
科学研究費補助金 萌芽研究
担当区分:研究分担者