科研費 - 宮地 朝子
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有標的な名詞述語文の諸類型―意味論・言語対照・通時言語学の観点から―
研究課題/研究課題番号:22K00505 2022年4月 - 2027年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
大島 義和, 宮地 朝子, 佐野 真一郎
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
名詞述語文は,一般に「aとbは同一である」または「aはAに包摂される」という関係をあらわす(例:「平塚らいてうは {『青鞜』の創刊者 / 作家} だ」)が,その一方で,「ユミはウナギだ (= ユミはウナギを注文した,ユミはウナギの専門家だ,等)」「ヒロシはスーツだった (= ヒロシはスーツを着ていた)」「ナオミは東京に行く予定だ (= ナオミには東京に行く予定がある)」といった,非典型的な意味を持つ有標的な名詞述語文も存在する。本研究では,このような有標的名詞述語文の分類と,形式意味論,歴史言語学,対照言語学,語彙論といった諸観点からの分析に取り組む。
本研究では、以下の3つの課題がたてられている。(1) 日本語および英語に見られる有標的名詞述語構文を意味論・文法論的観点から仔細に検討し、既存研究における分類・分析を発展させる。(2) 種々の有標的名詞述語構文に述語名詞として参与しうる名詞群を、用例収集や容認度調査を通じて同定し、現代日本語の語彙体系のより精密な記述に貢献する。(3) 有標的名詞述語構文の使用様態の歴史的変遷を、構文レベル・語彙レベルで調査し、文法化の観点からの知見を得る。
初年度となる2022年度には、課題 (1) に関して一定の進展があった。具体的には、英語および日本語における「属性指定型名詞述語構文 (『その車はめずらしい色だった』の類)」「関係記述型名詞述語構文(いわゆる「人魚構文」の一種)」「オープンエンド関係型名詞述語構文(いわゆる「ウナギ文」)」について、これらの意味的・文法論的特徴の記述に取り組んだ。日英語において「属性指定型名詞述語構文」に参与しうる名詞の意味クラスの分類や「関係記述型名詞述語構文」の下位種の性質の同定、「オープンエンド関係型名詞述語構文」が自然に使用できる語用論的条件について知見を深め、形式意味論的な分析を構築することができた。これらの成果をまとめて論文を執筆し、学術雑誌に投稿するに至った。また、「オープンエンド関係型名詞述語構文」に関する学会発表を行うことができた。
一方、課題(2)・(3)については進展が乏しく、今後分担者間で連携しながら、データ収集の方法・方針を確立させる必要がある。
理論的な観点から研究課題に関する知見を深め、学術論文としてまとめることができた。この論文において提案された定式化・分析を核として、今後、体系的な語彙論的調査、歴史言語学および類型論的な発展につなげていくことができると期待できる。
以下の方向で研究を発展させることを企図している。(1) コーパスデータ等を利用して、種々の有標的名詞述語構文に参与しうる名詞の同定・分類を行う。(2) いくつかの語彙項目に着目して、もともと無標的な用法しかなかった名詞が「属性指定型名詞述語構文」「関係記述型名詞述語構文」の主名詞として用いられるようになる過程についての知見を深める。(3) 朝鮮韓国語、中国語、英語以外のヨーロッパ諸語における有標的名詞述語構文の使用様態について調査し、類型論的な観点からの考察を行う。 -
ジャンル・テキストの中の文法:テキストとその要素としての構文の相互作用
研究課題/研究課題番号:21K18359 2021年7月 - 2024年3月
科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
志波 彩子, 矢島 正浩, 宮地 朝子, 井本 亮, 前田 直子, 勝川 裕子, 大島 義和, 永澤 済, 田村 加代子, 齋藤 文俊
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
コーパスから収集したデータをもとに,収集した例文を構文タイプごとに分類し,前後にどのような構文が現れるか,またジャンルごとにどのような特徴的な構文間の結びつきがあるのかを考察する。こうした構文間の関係は必ずしも隣接する前後関係とは限らず,テキスト内の離れた位置に存在する構文同士が連関し合っている,ということも考えられる。また,歴史的観点からは,特に書き言葉ジャンルにおける構文とテキストとの関係を見ていく。これまで分析が手薄であった古代や中世,近世,近代における変体漢文や漢文訓読体を含めた書き言葉テキストと構文との関係を探っていく。
本年度も昨年度同様2回の研究会を開催し,進捗状況を報告した。
10月に行った第3回研究会では,大島デイヴィッド義和が「謙譲語II」と「丁重語」の使用に関わる要因―語用論・文体論的考察―」を発表し,謙譲語と丁寧語の関係を文体的観点から考察した。次に田村加代子が「否定詞の作用―『論衡』「逢遭篇」を例に」を発表し,古典中国語の異なるジャンルの中で,否定構文がどのように効果的にジャンルの特性に関わっているかを論じた。テキストの構成に明確なパターンがあり,ジャンルと構文の関係が分かりやすく議論されていた。続いて,齋藤文俊が既刊論文の紹介として「〈論文紹介〉明治後期における翻訳聖書の文体」を発表した。翻訳聖書の文体にどのような構文タイプが見られるのかを示し,当該の文体が生まれる背景について議論した。
3月に行った第4回研究会では,まず志波彩子が「古代日本語のラレ構文とジャンルー『源氏物語』と『今昔物語集』を例に―」を発表し,ラレ構文の受身,可能,自発,尊敬などの下位構文タイプが,王朝物語の源氏と説話集である今昔という異なるジャンルでどのように用いられているかを,各構文の割合や動詞の割合などを示しながら議論した。次に前田直子が「希望表現「~たい」の使用実態」を発表し,留学生の作文に見られる「~たいです。」の使用について,なぜこれが不自然なのかを,母語話者の使用と比較しながら考察し,議論した。最後に勝川裕子が「中国語の物語構築にける注視点の移動と構文選択」を発表し,日本人中国語学習者と中国語母語話者が,同じ4コマ漫画のストーリーを構築するのにどのような構文を用いるのかを比較しながら検討し,そうした構文選択が起きる背景を考察した。
志波は,学会誌『日本語文法』に,ジャンルと構文との相互関係について述べた論文を投稿中である。
以上
本研究はテキスト・ジャンルが構文で構成され,ジャンルの中には特有のテキストのパターンがあるという発想のもと,研究を進めている。このような発想でテキストや構文を研究した研究は,これまでにほとんどないため,方法論などは手探りの状態である。さらに,テキストの構造というのは,文の構造に比べて何倍も複雑であり,そのパターンを捉えることは容易ではない。一方で,テキストを構成する構文のパターンが少しずつ明らかになりつつある。
それぞれの構成員が研究する構文の1つ1つが実はジャンルの中のテキストと深い関係を持っていることも明らかになりつつある。
研究会はオンラインと対面のハイフレックス式で行っており,毎回の研究会はほぼ全員が参加し,活発に議論が交わされている。
また,日本語文法学会の第23回年次大会において,宮地と志波がシンポジウム「ジャンルと文法;文法を揺るがす・形づくる・とどめる」を企画し,3人の講師を招いてジャンルと文法の関係を議論し,大きな反響を得た。
以上
今年度は最終年度であるため,何かしらの成果を発表したいと思っている。
昨年の日本語文法学会で企画したシンポジウムに登壇いただいた大江元貴氏を招いて,6月に特別研究会を開催する予定である。その後,志波は8月にベルギーで行われるヨーロッパ日本学研究学会の大会で,古代日本語のジャンルと構文の関係について発表する予定である。
また,9月と3月にも研究会を開催し,構成員らの研究成果をまとめることができればと考えている。具体的には,それぞれが扱っているテキストの特徴を,以下の項目を参考に特徴づけ,こうした特徴と構文との関係について何か統一的な議論ができればと考えている。
◆ジャンルの指標◆ 1.媒体:文字(書籍,新聞,SNS,広告など),音声 2.目的・役割 3.内容 a. 日常(私的),公的 b. 主張,説得,評価など(「こうあるべき」という議論か否かなど) c. 体験,知識 4.聞き手の特徴:一般,専門家,子供など 5.話し手の特徴:権威者,専門家,一般など 6.方向性:一方向,双方向 7.話し手の顔を見せたいか否か(主観,客観) 8.求められる文体(簡易さ,親しみやすさ,威厳など) -
研究課題/研究課題番号:20K00628 2020年4月 - 2025年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
宮地 朝子
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:4030000円 ( 直接経費:3100000円 、 間接経費:930000円 )
日本語史には文法変化の事例が豊富である。本研究では、機能語の変化を支える日本語の基盤的特質として、「体言性」に着目する。副助詞類の歴史的出自は主に名詞と考えられてきたが、出自不明(サエ・シカ)や、機能語の複合構成体から一語化した類(ナンテ・ナンカ・ナラデハ等)も多い。名詞出自という観点を離れてこれらの史的変化を精密に記述し、日本語において「体言性」が機能語の確立や変化に与える影響の内実を描き出す。
本研究は、不変化・無活用という形態的特質「体言性」が、日本語の文法変化にいかに関与しているかについて考察するものである。「体言」は、従来「名詞」と重ね合わせて議論されてきたが、本研究では両者を分離し、「体言性」を文法変化の一要因と位置づける。多様な出自から副助詞化しまた副助詞から文法変化して自由形態と拘束形態の間を往還する形式群を観察対象として、副助詞類の文法史研究の精密化、さらには日本語の文法変化を捉える観点の整理を目的とする。
2022年度は計画3年目である。主として、①「ならでは」の動態に関する考察の継続、②副詞・副助詞類および「ならでは」の類例の用例調査を中心に行った。また継続して、③ノ連体用法の形態統語的な位置づけと、形式ごとの可否・広狭に関与する要因の考察に取り組んでいる。ただし、仮説の検証、論証の指標についての検討と試行錯誤に時間を要し、成果物の公表には至らなかった。
①については、国立国語研究所のコーパスデータの整備充実を受け、機能変化の画期となる近代期の様相を精査している。②については、副助詞類のほか、副詞「ちょうど」「ただ」、さらに第3形容詞類「特有」「独自」等に着目して用例の収集および考察を行っている。③について、ノ連体用法は、名詞と体言を独立の概念とする本研究にとって重要な指標であり、多角的な考察を試みている。名詞を除けば広く副用語(副詞・接続詞・感動詞・形容動詞語幹および副詞性の付属的機能語)に共通する一方、例えばノ連体用法の可否には語種も関与することが知られる。漢語の場合、品詞を問わずノ連体用法に傾き、後に品詞性に応じてナ(ル)連体へ移行する趨勢もある。しかし「ならでは」の場合、和語の機能語複合体に発しながら近代期にノ連体用法を獲得し現代語で偏在する様相を示す。この動態に説明を与えるにはノ連体用法の要件や特徴に関する考察をさらに深める必要がある。
用例収集の作業と、ノ連体用法の可否や広狭といった動態を支える要件についての多角的な考察が作業の中心となり、指標の検討と試行錯誤に時間を要している。結果、口頭発表も含め、成果の公表には至らなかった。なお、2021年度までに入稿済みの論文1件については、印刷中である。
考察の方向性は適確なものと判断している。ひきつづき計画に即して、現在の作業を継続し、個々の言語形式の共時的・通時的・地理的動態について、記述の精査を旨とし、機能変化の制約と動態のパターンを見いだす考察を深める。
副助詞としてのあり方と体言性を同時に保持する条件についてはノ連体用法の要件が鍵となると考えるが、併せて、理論言語学、特に統語論、意味論の先端的知見も積極的に参照援用する。内容語化と接辞化といった一見矛盾する方向の文法変化を同時に示す類例については、類型論の知見も参照したい。
研究期間も後半期に入ることから、口頭発表、論文執筆を含め、成果の公開に努めていく。 -
研究課題/研究課題番号:16H03411 2016年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
Narrog Heiko, 楊 凱栄, 宮地 朝子, 大堀 壽夫, 上原 聡, 柴崎 礼士郎, LI Jialiang, ジスク マシュー・ヨセフ, 下地 理則, 小野寺 典子, 青木 博史, 真田 治子, 北崎 勇帆, 小野 尚之
担当区分:研究分担者 資金種別:競争的資金
まず、5年の研究期間の間、東北大学で計4回「日本語と近隣言語における文法化ワークショップ」を開き、海外や研究分担者でない者を含め、多くの発表者・参加者で本課題に関する研究会を開き、日本国内外で本課題に対する意識を高め、研究を誘発することができた。同様に、最初の4年間、ドイツ・ケルン大学でB.ハイネ教授と共同研究を進めることができた。5年目からは対面の集合を前提とする活動ができなくなったが、発表のほかに代表者と分担者は本課題について多くの著書と学術論文を公刊することができた。なお、代表者と分担者の本課題に関する研究活動を最も直接に表す論文集の刊行は今準備中である。
本研究は、一般言語学の中で文法化という重要な言語現象及び理論的枠組みの最先端に立って、それを東洋の言語学、とりわけ日本言語学の立場から推進し、言語学一般、そして日本の言語学においても重要な意義を持った。当該分野においては、東洋、とりわけ日本語からのアプローチに特色があり、研究代表者が最先端でその分野に携わり養ってきたユニークな観点によるものであり、また、研究課題の遂行と具体的な研究テーマの解明に最も適した国内外の第一線の研究者とチームで取り組むものであった。さらに、定期的な研究会などを通して当分野で日本の言語学を推進・振興させることにもつながり、日本言語学に大きく貢献することができた。 -
研究課題/研究課題番号:15K02563 2015年4月 - 2021年3月
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
宮地 朝子
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:4290000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:990000円 )
この研究では、日本語の「名詞性」について、副助詞が示す名詞的な振る舞いと、その歴史的変化に着目して考察した。その結果、次のことが明らかになった。(1)副助詞類は、その出自が名詞か否かに関わらず、通時的に幅広く名詞としての分布を示す。(2)副助詞の示す名詞性は、副助詞が本質的に持つ意味的な特質(量性)や、形態的な特質(無活用)に矛盾しない。(3)名詞の諸性質の中でも、無活用という形態論的特質が、副助詞の名詞性を支える基盤である。(4)この形態論的特質は名詞の文法変化、さらには副助詞のような機能語の文法変化も支える特質であると考えられる。
まず、副助詞の史的様相の観察から名詞性を追究するという独自の問題設定に学術的意義が認められる。名詞という一般性の高い枠組みを通じ、副助詞研究における離散的な関心を統合するのみならず、名詞研究に新たな視点を提供し、その進捗を促すことができる。名詞の文法変化という観点は、日本語文法史における名詞の機能語への体系的参与という一大課題の解明にも示唆を与えうる。近年、内外の言語学研究において言語の動態を追究する文法化研究が大きな潮流をなしている。日本語で豊富に観察される名詞の文法化について、名詞本来の性質と日本語の動態の関わりをあぶり出し、言語研究に有意な事例を提供する点で大きな意義を持つ。 -
日本語における体言性と機能変化の相互関係
2020年4月 - 現在
科学研究費補助金 基盤研究(C)
宮地 朝子
担当区分:研究代表者
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日本語副助詞の史的変化に見る名詞性の研究
2015年4月 - 現在
科学研究費補助金 基盤研究(C)
宮地 朝子
担当区分:研究代表者
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名詞の形式化・文法化にみる日本語の構文構造史
2010年4月 - 2015年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
宮地 朝子
担当区分:研究代表者
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言語の普遍性と言語間変異の理論的研究:「日本語のとりたて」現象から
2010年4月 - 2012年3月
科学研究費補助金 基盤研究(C)
片岡喜代子
担当区分:研究分担者
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形式名詞の文法化に関わる日本語の構文構造史的研究
2007年4月 - 2010年3月
科学研究費補助金 若手研究(B)
宮地 朝子
担当区分:研究代表者
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『日本語助詞シカに関わる構文構造史的研究』(成果公開)
2006年4月 - 2007年3月
科学研究費補助金 研究成果公開促進費・学術図書
宮地朝子
担当区分:研究代表者
研究成果公開『日本語助詞シカに関わる構文構造史的研究』 ひつじ書房より2007年2月刊行
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比較・程度・限定を表す日本語助詞の其他否定用法獲得に関する研究
2004年4月 - 2007年3月
科学研究費補助金 若手研究(B)
宮地 朝子
担当区分:研究代表者
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日本語の限定に関わる助詞の成立と歴史的変化・地理的変容 に基づく文法史的研究
2002年4月 - 2004年3月
科学研究費補助金 若手研究(B)
宮地朝子
担当区分:研究代表者